説明

リポ酸の多糖誘導体、その調製、皮膚用化粧品および医療用デバイスとしての使用

リポ酸、またはリポ酸およびギ酸の混合物と共に、ヒドロキシル上のエステルまたはアミン官能基上のアミドが存在することを特徴とする反復単位内にグルコサミンまたはガラクトサミン残基を含有する多糖が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の概要
本発明は、反復単位内にグルコサミンまたはガラクトサミン残基を含有する新規な多糖誘導体であって、リポ酸による、またはリポ酸およびギ酸の混合物による、ヒドロキシル上のエステルまたはアミン官能基上のアミドの存在を特徴とする多糖誘導体と、存在する場合、ギ酸エステルがホルムアミドから生ずるオリジナルな合成方法によるそれらの調製と、それらの精製および皮膚保護物質としての使用とを開示する。
【背景技術】
【0002】
現況技術
リポ酸(またはチオクト酸)は、クレブス回路でのピルビン酸からアセチル−CoAへの変換を含めた多くの酵素反応で必須補因子として働く、哺乳類の肝臓から単離された天然の分子である。リポ酸は、ビタミンCおよびビタミンEの欠乏症状を予防する強力な抗酸化剤であり、反応性種、即ちヒドロペルオキシド、スーパーオキシド、ペルオキシナイトライトなどのフリーラジカルの、強力なスカベンジャーでもある。
【0003】
いくつかの多糖のエステル、即ち、リポ酸によるセルロース;合成重合体(PEG)によるリポ酸エステル;小分子によるリポ酸エステルまたはアミド、およびリポ酸またはその誘導体とヒアルロン酸(HA)(およびその誘導体)またはコンドロイチン硫酸(CS)との物理的混合物をベースにした製剤などが知られている。
【0004】
60℃の温度で、カルボニルジイミダゾール(CDI)を含むジメチルアセトアミド(DMAc)/LiCl中、均質条件下でエステル化によりリポ酸で誘導体化された微結晶性セルロースをベースにした材料が記載されている(Polymer Bulletin、57、2006、857〜863頁)。得られた生成物は、金原子をキレート化する傾向があり、したがって、金箔をコーティングして生体内鉱質形成用、結晶成長用、および酵素の固定化用の担体(supports)を生成するのに適切である。最大置換度(DS)1.45を有し、かつDS0.50から一般的な溶媒に不溶である、リポ酸によるセルロースエステルが報告されている。
【0005】
80℃の温度で、CDIを含むDMSO中、均質条件下でのエステル化(ワンポット反応)によりリポ酸で誘導体化されたデキストランおよびβ−シクロデキストリンが記載されている(Polymer Bulletin、59、2007、65〜71頁)。共に一般的な溶媒には不溶である、0.44の最大DSを有する、リポ酸によるデキストランエステル、および1.99の最大DSを有する、リポ酸によるβ−シクロデキストリンエステルが報告されている。前記材料は、生体または有機分子と相互に作用することができる系に表面コーティングをもたらすように設計されている。
【0006】
40℃の温度で、ジシクロヘキシル−カルボジイミド(DCC)およびジメチルアミノ−ピリジン(DMAP)を含むDMAc/LiCl中、均質条件下でのエステル化によりリポ酸で誘導体化された微結晶性セルロースが記載されている(Macromolecular Bioscience、7、2007、DOI:10.1002/mabi.200700110)。得られた生成物は、血液透析プロセス(化学的および生物医学的産業)で使用される血液適合性膜の製造における、潜在的使用の抗酸化剤活性を実証し、最大DS 0.58を有する。前記重合体生成物は、代謝安定性の増大と、この生成物に結合した抗酸化分子の崩壊速度の低下を示す。前記重合体は、血液脳関門を確実に通過しないようにかつ細胞膜に確実に損傷を与えないように十分高い分子量を有することが必要である。
【0007】
WO2007/105854は、抗酸化剤、漂白剤、およびアンチエージング生成物として外部局所施用で使用される、リポ酸とポリエチレングリコール(様々な分子量を有するPEG)との水溶性エステルの合成について開示しており、この文献は、EDCI(1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボイミド)およびDMAPによるリポ酸の誘導体化方法について記載している。
【0008】
WO02/076935は、リポ酸とアミノ酸とのアミド結合を用いて得られたリポ酸の新規な誘導体について記載している。前記生成物は、生物活性を示す。
【0009】
US6,365,623は、リポ酸とそのエステルおよびアミド誘導体をベースにした、にきびを治療するための局所製剤について開示している。HAは、この製剤中の別の添加剤として言及されている。
【0010】
WO2006/128618は、損傷を受けた皮膚を再生し、皮膚の老化を予防し、慢性潰瘍を修復するというその効果に起因して、医薬品および化粧品の分野で使用される、リポ酸およびHAまたはその誘導体をベースにした新規な製剤について開示している。前記製剤は、局所的にまたは全身に(経口的に、注射によってなど)投与することができる。
【0011】
WO2005/041999は、関節機能を改善し、炎症を低減し、軟骨を修復するように設計された、ダイエットサプリメント(diet supplements)用の新規な製剤について記載している。言及される様々な可能性ある成分には、コンドロイチン硫酸およびリポ酸が含まれる。
【0012】
しかし、エステルまたはアミド結合を介してグリコサミノグリカンまたはキトサンに共有結合したリポ酸の例は、文献に報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2007/105854
【特許文献2】WO02/076935
【特許文献3】US6,365,623
【特許文献4】WO2006/128618
【特許文献5】WO2005/041999
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Polymer Bulletin、57、2006、857〜863頁
【非特許文献2】Polymer Bulletin、59、2007、65〜71頁
【非特許文献3】Macromolecular Bioscience、7、2007、DOI:10.1002/mabi.200700110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の説明
本発明は、リポ酸によって、またはリポ酸およびギ酸によって同時に部分的にエステル化またはアミド化した反復単位で、グルコサミンまたはガラクトサミンの残基を含有する新規な多糖誘導体について開示する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エステルの加水分解の前後のヒアルロン酸リポ酸エステルの1H NMRスペクトルを示す。
【図2】加えられた応力の変動対して粘度を測定する流動曲線を比較される3つのサンプルに関して記録した図である。
【図3】3つの異なる系の機械的スペクトルを示す。
【0017】
各多糖モノマーのヒドロキシル上でのリポ酸エステルの置換度(DS)は、エステルの場合0.01から0.5×Nの間に及び、アミドの場合0.01から1の間に及び、式中、Nは、反復単位中に存在する遊離アルコール基の数であり、一方、存在する場合、重合体ヒドロキシル基上でのギ酸のエステル化度は、0.01から0.2の間(即ち、1%から20%の間)である。本発明による誘導体化される多糖は、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびケラタン硫酸)およびキトサンであり、後者の場合、重合体とリポ酸との間の結合はアミド結合であり、グルコサミン残基の2位にアミン基を含む。
【0018】
多糖誘導体のカルボキシル官能基は、アルカリ金属によって、特にナトリウムによって塩化されていてもよい。
【0019】
多糖の分子量は、103から107ダルトンの間の区間内に包含され、ヒアルロン酸誘導体の場合は104から106ダルトンの間の区間内に包含される。後者は、好ましくは、0.01から0.8の間に及ぶ、重合体のヒドロキシル基でのリポ酸のエステル化度を有することになり、一方、重合体のヒドロキシル基でのギ酸のエステル化度は、0から0.20の間であり、2つの異なるヒアルロン酸鎖の間のエステル基に関しては、架橋度は0.001から0.1の間である。
【0020】
エステル化度またはアミド化度は、出発時の多糖の特徴と、多糖基質と活性化リポ酸との間の化学量論比、使用される触媒塩基のタイプおよび量、および反応温度などの使用される反応条件とに従って、調節することができる。例えば、ヒアルロン酸リポ誘導体の場合、合成条件を変えることによって、リポ酸エステルの他に、1つの鎖のヒドロキシル基および異なる鎖に属するグルクロン酸単位のカルボキシル基の間のエステルを含有する、可溶性直鎖重合体または架橋ヒドロゲルを得ることが可能になる。この後者の結合は、架橋ブリッジ(crosslinking bridge)を構成する。ヒドロゲルは、流体力学的見地から研究されておりかつ以下に記載される、著しい粘弾特性を獲得する。
【0021】
本発明による直鎖(非架橋)誘導体は、保湿剤、エラスティサイジングエージェント(elasticising agent)、トーニングエージェント(toning agent)、アンチエージング剤、または抗にきび剤と共に、局所組成物中で使用することができ、または炎症、潰瘍、創傷、皮膚炎、およびラジエーション(radiation)によって引き起こされた皮膚高熱(skin hyperthermia)などの皮膚病変を治療するためのアジュバント(adjuvant)として使用することができる。多糖濃度は、組成物の0.05重量%から5重量%の間であってもよい。適切な製剤の例には、クリーム、軟膏、ゲル、親水性液体、水性もしくは水−アルコールローション、油/水もしくは水/油エマルジョンが含まれる。
【0022】
ヒドロゲル形態の架橋誘導体は、滅菌注射器内に導入することができ、粘性補給剤(viscosupplementation agents)として関節内使用のための医療用デバイスとして、および美容外科用の皮膚充填剤として使用することができる。本発明による医療用デバイスは、滅菌生理食塩液中で膨潤したヒアルロン酸リポエートのヒドロゲルを、0.5%から3重量/体積%の間の重合体濃度で含有することになる。
【0023】
分子量が104から106ダルトンに及ぶ、本発明により誘導体化したヒアルロン酸を含有する医療用デバイスは、種々の病因を有する結膜炎および角膜炎の形態を治療する点眼剤としても有利に使用することができる。
【0024】
本発明は、
a.アルカリ金属(通常、ナトリウム)塩の形またはキトサンの場合には塩素化形態にある、選択された多糖を、有機溶媒に、特にホルムアミド(FA)に溶解するステップと、
b.ジメチルアセトアミド(DMA)、FA、DMF、DMSOなどの有機溶媒、特にDMAに可溶化したカルボニルジイミダゾーを介してリポ酸を活性化し、それによってリポイル−イミダゾリドを得るステップと、
c.重合体溶液に、塩基性触媒、好ましくはジメチルアミノピリジン(DMAP)またはトリエチルアミン、およびリポイル−イミダゾリドを含有する溶液を、選択された量で添加するステップであって、自己架橋ヒアルロン酸リポエートの合成では、塩基性触媒を避け、過剰なカルボニルジイミダゾールを使用する、ステップと、
d.制御された温度(通常は、室温)で、定められた時間反応させ、その後、反応混合物を、生理的pHに緩衝化されている溶液で希釈するステップと、
e.沈殿、透析、またはタンジェンシャルフィルトレーション(tangential filtration)によって最終生成物を精製するステップと、
f.濾過、凍結乾燥、または噴霧乾燥によって生成物を回収するステップと
を含む、上記誘導体の調製方法にも関する。
【0025】
塩基は、3置換窒素、好ましくはジメチルアミノピリジン、4−ピロリジンピリジン、またはトリエチルアミンの1個の原子を含む芳香族または脂肪族有機塩基である。ホルムアミド中の多糖の可溶化温度は、典型的には60℃から120℃の間であり、好ましくは95℃である。
【0026】
架橋ヒアルロン酸の場合、上記方法は、下記のステップ、即ち、
a)ナトリウムまたはその他のアルカリ金属で塩化したヒアルロン酸を、加熱することによってホルムアミドに溶解するステップと、
b)得られた溶液に、室温で、カルボニルジイミダゾールで事前に活性化したリポ酸を添加するステップと、
c)反応混合物を、室温で4から24時間の間反応させるステップと、
d)反応混合物を、緩衝水溶液で希釈し、pH6〜7.5に中和するステップと、
e)希釈反応混合物を、透析によって精製するステップと、
f)精製された水性多糖溶液を凍結し、凍結乾燥によって生成物を回収するステップと
を含む。
【0027】
存在する場合、ギ酸エステルは、使用される実験条件下でのホルムアミドの加水分解によって、本発明による方法で生じる。
【0028】
以下の例は、本発明によるリポ酸のいくつかの多糖誘導体の合成について詳述する。

1H NMR試験を、D2OまたはDMSO−d6において、5mm多核プローブを備えたBruker Avance 400分光計を用い、z勾配で、300°Kで実施する。この試験は、拡散配向分光法(DOSY)を含み、これら後者の実験は、重合体とリポ酸との間に共有結合が存在することを実証する。エステル化リポ酸残基の定量(置換度、DS)は、NMR管内で直接、NaODによる徹底的な加水分解の後に行う。加水分解物の1Hスペクトルは、リポ酸に起因するシグナルおよび多糖に起因するシグナルを積分することが可能であり、それらの比がDSを提供する。同様に、DSは、存在する場合にはギ酸エステルにおいて評価する。
例1.ヒアルロン酸リポ酸エステルの合成
HAナトリウム塩1.50gを、ホルムアミド(5.0%w/v)30mlに、95℃で2時間可溶化し、次いで温度を25℃に下げ、DMAP 911mgを溶液に添加する。リポ酸770mgを、別にDMA 2.0mlに可溶化し、CDI 604mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、HA、DMAP、およびホルムアミドの溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間、機械的に撹拌しながら進行させる。次いでリン酸緩衝液(KH2PO4/K2HPO4)、0.25M、pH6を含有する水300mlを添加し、透析による精製を行う。次いで水溶液を凍結し、凍結乾燥する。凍結乾燥物1.48gを回収する。
【0029】
サンプル10mgをD2O 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。
【0030】
図1は、NaODを添加することによるエステルの加水分解の前(下図)および後(上図)の、ヒアルロン酸リポ酸エステルの1H NMRスペクトルを示す。
【0031】
下図のスペクトルは、重合体に共有結合する化学基に起因したシグナルのみ保持する、DOSYシーケンスを適用することによって得られる。
【0032】
0.50のDS値は、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ(図1)、ギ酸のDSは、0.02になる。
例2.触媒を使用しないヒアルロン酸リポ酸エステルの合成
HAナトリウム塩125mgを、ホルムアミド(2.5%w/v)5mlに95℃で2時間可溶化し、次いで温度を25℃に下げる。リポ酸192mgを別にDMA 1mlに可溶化し、CDI 151mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、HAおよびホルムアミド溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間、撹拌しながら進行させる。サンプルを、アセトン中で沈殿させることによって回収する。アセトンで2回洗浄し、真空乾燥した後に、サンプル112mgを回収する。
【0033】
サンプル10mgを、温かいうちにTFAで酸性化したDMSO−d6 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。DS値0.25が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られる。
例3.限外濾過によって精製されたヒアルロン酸リポ酸エステルの合成
HAナトリウム塩250mgを、ホルムアミド(5.0%w/v)5mlに95℃で2時間可溶化し、次いで温度を25℃に下げ、DMAP 152mgを溶液に添加する。リポ酸128mgを、別にDMA 0.6mlに可溶化し、CDI 101mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、HA、DMAP、およびホルムアミド溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間、撹拌しながら進行させる。サンプルを限外濾過により回収する。サンプル225mgを凍結し、凍結乾燥することによって回収する。
【0034】
サンプル10mgをD2O 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。DS値0.47が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ;ギ酸残基のDSは0.04になる。
例4.高置換度の直鎖ヒアルロン酸リポ酸エステルの合成
HAナトリウム塩250mgを、ホルムアミド(5.0%w/v)5mlに95℃で2時間可溶化し、次いで温度を25℃に下げ、DMAP 228mgを溶液に添加する。リポ酸385mgを別にDMA 1.5mlに可溶化し、CDI 302mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、HA、DMAP、およびホルムアミド溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間撹拌しながら進行させる。サンプルを、アセトンに沈殿させることによって回収する。アセトンで2回洗浄し、真空乾燥した後、サンプル220mgを回収する。
【0035】
サンプル10mgを、TFAで温かいうちに酸性化されたDMSO−d6 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。DS値1.8が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ;ギ酸残基のDSは0.07になる。
例5.架橋ヒアルロン酸リポ酸エステルの合成
HAナトリウム塩500mgをホルムアミド(5.0%w/v)10mlに95℃で2時間可溶化し、次いで温度を25℃に下げる。リポ酸180mgを別にDMA 1mlに可溶化し、CDI 202mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、ホルムアミドに溶かしたHA溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間機械的に撹拌しながら進行させる。次いで水30mlを添加し、pHを、固体KH2PO4で6.5に調節し、透析による精製を行う。次いで水溶液を凍結し、凍結乾燥する。図2および3に示される流体力学的研究によって実証されるように、架橋凍結乾燥物490mgを回収する。
【0036】
サンプル10mgを0.7mlのD2O、pH11に可溶化し、NMR管に移す。DS値0.10が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ、ギ酸残基のDSは0.02になる。
例6.コンドロイチン硫酸リポ酸エステルの合成
CSナトリウム塩1.0gを、ホルムアミド(20%w/v)5mlに80℃で20分間可溶化し、次いで温度を25℃に下げ、DMAP 488mgを溶液に添加する。リポ酸412mgを別にDMA 1.0mlに可溶化し、CDI 324mgと30分間、25℃で反応させる。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、CS、DMAP、およびホルムアミド溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間機械的に撹拌しながら進行させる。次いで水20mlを添加し、pHを固体0.5M HClで7に調節し、限外濾過による精製を行う。次いで水溶液を凍結し、凍結乾燥する。凍結乾燥物850mgを回収する。
【0037】
サンプル10mgをD2O 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。DS値0.70が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ;ギ酸残基のDSは0.02になる。
例7.リポ酸キトサンアミドの合成
凍結乾燥キトサン塩酸塩(キトサンフレークを、pH3の塩酸で酸性化した水に可溶化し、次いで溶液を凍結乾燥することによって得られる)200mgを、ホルムアミド(5.0%w/v)4mlに95℃で10分間可溶化した。リポ酸104mgを別にDMA 0.5mlに可溶化し、CDI 82mgと30分間、25℃で反応させた。リポイルイミダゾリドを含有する、得られた溶液を、キトサンおよびホルムアミド溶液に滴下し、反応を、25℃で20時間機械的に撹拌しながら進行させる。次いで水20mlを添加し、pHを0.5M HClで7に調節し、精製を、透析によって行う。次いで水溶液を凍結し、凍結乾燥する。凍結乾燥物171mgを回収する。
【0038】
サンプル10mgを、トリフルオロ酢酸で酸性化したD2O 0.7mlに可溶化し、NMR管に移す。DS値0.23が、リポ酸に伴うメチレンシグナルの積分から得られ;ギ酸残基のDSは0.03になる。
例8.O/Wエラスティサイジングクリームの調製
本発明によるリポ酸エステルの1種を含有するクリーム製剤の調製を示す、本発明の非限定的な例について、以下に述べる。
【0039】
O/Wクリーム製剤は、機能性薬剤として例1に記載の化合物を0.1%の濃度で含有し、適切には、乳化剤、増粘剤、油、保湿剤、ゲル化剤、保存剤などのスキン化粧品で使用される一般的な添加物と混合される。
【0040】
簡単に言うと、この方法は下記の通りである:
脱塩水約600ml(全製剤の約60重量%に相当)を、ターボ乳化器に投入し、事前に融解した脂肪相を、約70℃で撹拌しながら添加する。混合物を乳化し、35〜40℃の温度にゆっくり冷却する。熱不安定性および揮発性の成分をこの温度で添加し、その後、水に適切な量で溶解した例1に記載のHAナトリウム塩リポ酸エステルを添加する。混合物を、25〜30℃の温度に達するまでゆっくりと撹拌したままにし、次いで最終生成物を適切な容器に排出する。
【0041】
結果は、以下の組成(%W/W)を有するクリームである:
ナトリウムHAリポ酸エステル(例1) 0.1
油(パルミチン酸/カプリル酸グリセリド−トリグリセリド) 12
非イオン性乳化剤 6
セチルアルコール 2
ジメチコン 4
ケイ酸MgAl 2
グリセリン 3
キシリトール 2
パラベン 0.7
2O 100になるまでの適量
例9.例5に記載の通りに得られた架橋HAリポエート2%w/wを含有するヒドロゲル1.5mlが入っている注射器の形をした医療用デバイスの調製
例5に記載のように得られた凍結乾燥物形態の自己架橋エステル化重合体30mgを、滅菌2.0ml注射器に計量し、注射器に、0.9%NaCl(w/V)の水溶液1.47gを充填する。全ての実験手順は、エンドトキシンを含まない材料を使用して層流フード下で実施し、上述の生理食塩液も注射使用のために水で調製する。重合体を、室温で24時間膨潤させる。次いで注射器を、オートクレーブ内で、121℃で16分間の標準サイクルで水蒸気滅菌する。
リポ酸でエステル化しかつ自己架橋したヒアルロン酸の流体力学的研究
比較流体力学的研究を、異なる実験条件下で得られたヒアルロン酸リポ酸エステルの2つのサンプルで実施し、第1のサンプルは、例1に記載されたものであり、水に可溶化して粘性溶液にし、一方、第2のサンプルは、例5に記載されたものであり、ミクロゲル分散液にした。2つの合成に用いられる、分子量がMw=300kDaである市販のヒアルロン酸溶液を、基準として使用した。3つの系の全ては、同じ重量濃度の重合体(2%)を含有しており、同じ生理食塩液(0.3%w/w NaCl、酢酸緩衝液20mM pH=5.5)で調製した。
【0042】
流体力学測定は、サンプルに正弦および線形応力の両方をもたらすことができるRheostress Haake RS150制御応力回転式レオメータで実施し、サンプル変形速度を同時に測定した。レオメータは、平らで滑らかなまたは刻み目の付いたプレートを備えていた。測定は、25℃で温度調節した。
【0043】
加えられた応力の変動対して粘度を測定する流動曲線を、比較される3つのサンプルに関して記録した(図2)。
【0044】
低応力の3つの系の粘度は、その大きさが数桁異なっており、流動曲線は、粘性液体(市販のHA)の典型的なプロファイルから弾性固体(HAリポエートおよび架橋HA)のプロファイルへと劇的に変化する。
【0045】
図3は、3つの異なる系の機械的スペクトルを示す。溶液の典型的な挙動では、低周波数で粘性係数(G”)が弾性係数(G’)を超え、一方、振動数が増加するにつれ、2つの係数は交差する傾向にある。この挙動は、直鎖エステルリポエート溶液(例1)で観察される。ゲルの典型的なプロファイルでは、振動数範囲全体を通して弾性係数が粘性係数に優り、事実上一定である。この傾向は、例5により調製されたミクロゲル分散液で観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反復単位内にグルコサミンまたはガラクトサミン残基を含有する多糖であって、リポ酸による、またはリポ酸およびギ酸の混合物による、ヒドロキシル上のエステルまたはアミン官能基上のアミドの存在を特徴とする多糖。
【請求項2】
多糖がグリコサミノグリカンである、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項3】
グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびケラタン硫酸から選択される、請求項2に記載の酸性多糖。
【請求項4】
カルボキシル官能基が、酸形態で、またはアルカリ金属、特にナトリウムと塩化して存在する、請求項1から3に記載の酸性多糖。
【請求項5】
多糖がキトサンである、請求項1に記載の多糖。
【請求項6】
多糖の分子量が103から107ダルトンの間である、請求項1に記載の多糖。
【請求項7】
多糖が、104から106ダルトンの間に含まれる分子量を有するヒアルロン酸の誘導体である、請求項1に記載の多糖。
【請求項8】
重合体のヒドロキシル上のリポ酸のエステル化度が0.01から0.5×Nの間であり、式中、Nは反復単位内に存在する遊離アルコール基の数であり、一方、ポリマー重合体のヒドロキシル上のギ酸のエステル化度は0から0.20の間であることを特徴とする、請求項2に記載の多糖。
【請求項9】
キトサンアミン基上のリポ酸のアミド化度は0.01から1の間であり、一方、キトサンのヒドロキシル上のギ酸のエステル化度は0から0.20の間であることを特徴とする、請求項5に記載の多糖。
【請求項10】
酸性多糖がヒアルロン酸であり、重合体のヒドロキシル上のリポ酸のエステル化度は0.01から0.8の間であり、一方、重合体のヒドロキシル上のギ酸のエステル化度は0から0.20の間である、請求項8に記載の多糖。
【請求項11】
酸性多糖がヒアルロン酸であり、重合体のヒドロキシル上のリポ酸のエステル化度が0.01から0.8の間であり、重合体のヒドロキシル上のギ酸のエステル化度が0から0.20の間であり、2つの異なるヒアルロン酸鎖の間のエステル基に関して架橋度が0.001から0.1の間である、請求項1に記載の多糖。
【請求項12】
下記のステップ、即ち、
a)塩化形態にあり、好ましくは塩酸塩であるキトサン、またはナトリウムもしくはその他のアルカリ金属で塩化した酸性多糖を、加熱によって、ホルムアミドに溶解するステップと、
b)得られた溶液に、室温で、有機塩基の存在下にてカルボニルジイミダゾールで事前に活性化したリポ酸を添加するステップと、
c)反応混合物を、室温で1から24時間の間反応させるステップと、
d)反応混合物を、緩衝水溶液で希釈し、これをpH6〜7.5に中和するステップと、
e)希釈反応混合物を、適切な溶媒による沈殿、透析、またはタンジェンシャルフィルトレーションによって精製するステップと、
f)濾過または噴霧乾燥によって生成物を回収する、または精製された水性多糖溶液を凍結し、凍結乾燥によって生成物を回収するステップ
を含む、請求項1から10に記載の多糖の調製方法。
【請求項13】
塩基が、3置換窒素、好ましくはジメチルアミノピリジン、4−ピロリジン−ピリジン、またはトリエチルアミンの1個の原子を含む芳香族または脂肪族有機塩基である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
下記のステップ、即ち、
a)ナトリウムまたはその他のアルカリ金属で塩化したヒアルロン酸を、加熱によってホルムアミドに溶解するステップと、
b)得られた溶液に、室温で、カルボニルジイミダゾールで事前に活性化したリポ酸を添加するステップと、
c)反応混合物を、室温で4から24時間の間反応させるステップと、
d)反応混合物を、緩衝水溶液で希釈し、pH6〜7.5に中和するステップと、
e)希釈反応混合物を、透析によって精製するステップと、
f)精製された水性多糖溶液を凍結し、凍結乾燥によって生成物を回収するステップと
を含む、請求項11に記載の架橋ヒアルロン酸の調製方法。
【請求項15】
ホルムアミド中の多糖の可溶化温度が60℃から120℃の間、好ましくは95℃である、請求項12または14に記載の方法。
【請求項16】
存在する場合、ギ酸エステルの存在が、請求項12および14に記載の実験条件下でのホルムアミドの加水分解から生じる、請求項1に記載の多糖の調製方法。
【請求項17】
請求項1から11に記載の多糖誘導体と、不活性な皮膚科学的に許容される添加物とを含む局所組成物。
【請求項18】
組成物の0.05重量%から5重量%の間のパーセンテージで多糖を含有する、請求項17に記載の局所組成物。
【請求項19】
クリーム、軟膏、ゲル、親水性液体、水性もしくは水−アルコールローション、油/水もしくは水/油エマルジョンの形をとる、請求項17に記載の局所組成物。
【請求項20】
局所保湿剤、エラスティサイジングエージェント、トーニングエージェント、抗酸化剤、抗ラジカル剤、アンチエージング剤、および抗にきび剤としての、請求項1から11に記載の多糖。
【請求項21】
皮膚病変を、アジュバントとして治療するための、請求項1から11に記載の多糖。
【請求項22】
炎症、慢性潰瘍、創傷、アトピー性もしくは接触性皮膚炎、およびラジエーション誘発性皮膚高熱によって引き起こされた皮膚病変を治療するための、請求項1から11に記載の多糖。
【請求項23】
0.3%から3重量/体積%の間の重合体濃度で、滅菌生理食塩液中で膨潤する、請求項11に記載のように調製された架橋ヒアルロン酸リポエートのヒドロゲルが入っている注射器の形をとる医療用デバイス。
【請求項24】
関節内施用のための粘性補給剤としての、請求項23に記載の医療用デバイス。
【請求項25】
美容外科施用のための皮膚充填剤としての、請求項23に記載の医療用デバイス。
【請求項26】
種々の病因の結膜炎および角膜炎の形態を治療するための点眼剤として、請求項7に記載のヒアルロン酸誘導体を含有する医療用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506701(P2011−506701A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538420(P2010−538420)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010534
【国際公開番号】WO2009/080220
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510146034)シジェア ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (2)
【氏名又は名称原語表記】SIGEA S.R.L.
【Fターム(参考)】