説明

リマプロストを含有してなる癌化学療法に起因する末梢神経障害予防、治療および/または症状軽減剤

【課題】 有効かつ安全であり、しかも経口投与可能な、癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤を提供する。
【解決手段】 リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgのリマプロスト類を2週乃至52週間経口投与することで、癌化学療法によって誘発される四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、または四肢の麻痺等が改善される。したがって、リマプロスト類は安全かつ有効な癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤となりうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌化学療法は、手術や放射線療法と並ぶ有効な癌治療方法の1つであるが、癌化学療法で用いられる抗癌剤の中で、例えば、パクリタキセル等のタキサン系薬剤、ビンクリスチン等のビンカアルカロイド系薬剤、シスプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤等は、副作用として末梢神経障害を惹き起こすことが知られている(非特許文献1参照)。この癌化学療法に起因する末梢神経障害としては、軽度のものでは四肢のしびれや四肢の痛み等、重度なものでは手指の巧緻機能障害、歩行障害、四肢の麻痺等、多様な症状が報告されている。現状では、このような癌化学療法に起因する末梢神経障害に対処するため、末梢神経障害の原因となる抗癌剤の減量や癌化学療法そのものの中断が余儀なくされている。したがって、患者の生活の質を向上させるのみならず、癌治療の継続という意味合いからも、癌化学療法に起因する末梢神経障害の問題を解決することは癌治療における急務の課題である。
【0003】
現状、癌化学療法に起因する末梢神経障害に対しては、有効性の確立された治療薬はない。
副作用として末梢神経障害を惹き起こす抗癌剤のうち、ビンカアルカロイド系薬剤は、微小管の形成を抑止し細胞分裂を妨害することによって、抗癌作用を示す薬剤である。一方、白金製剤は、DNAに結合し、DNAの複製を阻害することによって抗癌作用を示す。同じ末梢神経障害を誘発する抗癌剤であっても、その作用機序が異なることから、当然末梢神経障害を誘発する機序、末梢神経障害の症状、末梢神経障害を発症する頻度も異なってくる。したがって、末梢神経障害の治療方法も、使用する抗癌剤に適したものにする必要がある。
【0004】
さらに昨今は、数種類の注射剤を組み合わせた癌化学療法が主流となっている。複数の抗癌剤を投与する上、さらに末梢神経障害治療薬を静注または点滴静注することは、患者の負担となり、投与タイミングを設計する上でも難しい。加えて、最近では在宅で癌化学療法を受ける患者も多く、末梢神経障害を軽減する薬剤は、自宅で簡単に服用できる経口投与可能な薬剤が望ましい。
このような状況を鑑み、有効かつ安全であり、経口投与可能な、癌化学療法に起因する末梢神経障害治療薬が望まれている。
【0005】
これまでに、PGEの点滴静注によって、ビンカアルカロイド系薬剤であるビンクリスチンまたはビンデシンを投与された患者の四肢末端のしびれ感が改善されたことが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この報告は、PGEが全ての抗癌剤による様々な症状の末梢神経障害を改善することを示唆するものではない。
【0006】
一方、リマプロスト アルファデクス錠は、末梢循環改善作用を有する経口PGE製剤として既に臨床現場で用いられており、閉塞性血栓血管炎や腰部脊柱管狭窄症等の症状を改善するために大変有用かつ安全な医薬品として知られている。また、リマプロスト アルファデクス錠の有効成分であるリマプロストは血管拡張作用、血小板凝集抑制作用等を有し、末梢循環を改善することや、糖尿病性神経障害や帯状疱疹後神経痛に対して有効であることが報告されている(非特許文献3および非特許文献4参照)。しかしながら、これまでに、リマプロストが癌化学療法に起因する末梢神経障害を改善するということは報告も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル オブ ニューロロジー(Journal of Neurology)、249巻、9−17頁、2002年
【非特許文献2】野村将春等、現代医療、第26巻(増II)、1767頁、1994年
【非特許文献3】クリニシャン(CLINICIAN)、248巻、33−38頁、1994年
【非特許文献4】薬理と治療、第18巻、12号、4985−4989頁、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有効かつ安全であり、しかも経口投与可能な、癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、リマプロストが、経口投与において、癌化学療法に起因する末梢神経障害を改善することを見出した。さらに、リマプロストは、ビンカアルカロイド系薬剤による末梢神経障害のみならず、白金製剤による末梢神経障害も改善することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1. リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が2週乃至52週間経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有する癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤、
2. 癌化学療法が、タキサン系薬剤および白金製剤からなる群より選択される1種以上の抗癌剤を用いる療法である前記1記載の剤、
3. 白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンおよびネダプラチンからなる群より選択される1種以上である前記2記載の剤、
4. 白金製剤が、オキサリプラチンである前記3記載の剤、
5. 癌化学療法がFOLFOX療法および/またはFORFIRI療法である前記1記載の剤、
6. 癌化学療法が、フルオロウラシル、レボホリナートおよびイリノテカンからなる群より選択される1種以上の抗癌剤を用いる療法である前記1記載の剤、
7. タキサン系薬剤が、パクリタキセルおよびドセタキセルからなる群より選択される1種以上である前記2記載の剤、
8. 卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頚部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿管腫瘍、前立腺癌、子宮頚癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、および大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されることを特徴とする前記1記載の剤、
9. 癌患者が大腸癌患者である前記8記載の剤、
10. 末梢神経障害が、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏および運動機能障害からなる群より選択される1種以上である前記1記載の剤、
11. 末梢神経障害が、運動機能障害である前記10記載の剤、
12. 運動機能障害が、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上である前記11記載の剤、
13. 投与期間が2週乃至12週間である前記1記載の剤、
14. リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が、1日3回、2週乃至12週間経口投与されることを特徴とする前記13記載の剤、
15. リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、12週間経口投与されることを特徴とする前記14記載の剤、
16. リマプロストに換算して1回あたり5μgの量が、1日3回、2週間経口投与されたのち、リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、10週間経口投与されることを特徴とする前記14記載の剤、
17. 白金製剤投与によって運動機能障害が認められた癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有する運動機能障害の治療および/または症状軽減剤、
18. 白金製剤がオキサリプラチンである前記17記載の剤、
19. 癌患者が大腸癌患者である前記17記載の剤、
20. 運動機能障害が、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上である前記17記載の剤、
21. 運動機能障害が、屈曲障害である前記20記載の剤、
22. リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、12週間毎日経口投与されることを特徴とする前記17記載の剤、
23. リマプロストに換算して1回あたり5μgの量が、1日3回、2週間毎日経口投与されたのち、リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、10週間毎日経口投与されることを特徴とする前記17記載の剤、
24. オキサリプラチン投与によって手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上の症状が認められた大腸癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有するオキサリプラチンに起因する上記症状の軽減剤、
【0011】
25. リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が2週乃至52週間経口投与されることを特徴とするリマプロスト類を有効成分として含有するオキサリプラチンの副作用軽減剤、
26. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とするリマプロスト類を有効成分として含有する運動機能障害改善剤、
27. DEB-NTC評価において、Gradeを3から2に下げる前記26記載の剤、
28. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とするリマプロスト類を有効成分として含有する日常生活動作障害改善剤、
29. 癌治療に有用な組み合わせ物であって、抗腫瘍効果を発現する量のオキサリプラチンと、当該オキサリプラチンの副作用である末梢神経障害を抑制する量のリマプロスト類とを含有し、副作用を発現することなく継続的な癌治療を可能とする組み合わせ物、
【0012】
30. 白金製剤投与によって運動機能障害が認められた癌患者に対して、リマプロスト類を、1回あたりリマプロストに換算して5μgまたは10μg、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与することを特徴とする運動機能障害の治療および/または症状軽減方法、
31. オキサリプラチン投与によって手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上の症状が認められた大腸癌患者に対して、リマプロスト類を、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μg、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与することを特徴とするオキサリプラチンに起因する上記症状の軽減方法、
32. リマプロスト類を、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することを特徴とする癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減方法、
33. リマプロスト類を、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することを特徴とするオキサリプラチンの副作用軽減方法、
34. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に対して、リマプロスト類を、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μg、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与することを特徴とする運動機能障害改善方法、
35. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に対して、リマプロスト類を、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μg、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与することを特徴とする日常生活動作障害改善方法、
36. 抗腫瘍効果を発現する量の白金製剤を投与中の癌患者に、リマプロスト類を、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することを特徴とする癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減方法、
【0013】
37. 白金製剤投与によって運動機能障害が認められた癌患者に対して、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与される、運動機能障害の治療および/または症状軽減のための、リマプロスト類、
38. オキサリプラチン投与によって手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上の症状が認められた大腸癌患者に対して、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与される、オキサリプラチンに起因する上記症状の軽減のための、リマプロスト類、
39. リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が、2週乃至52週間経口投与される、癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減のための、リマプロスト類、
40. リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が、2週乃至52週間経口投与される、オキサリプラチンの副作用軽減のための、リマプロスト類、
41. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に対して、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与される、運動機能障害改善のための、リマプロスト類、
42. オキサリプラチン投与によって、DEB-NTC評価においてGrade 3の運動機能障害を発現し、日常生活に支障を来した大腸癌患者に対して、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が、1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与される、日常生活動作障害改善のための、リマプロスト類、および
43. 抗腫瘍効果を発現する量の白金製剤を投与中の癌患者に対して、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が、2週乃至52週間経口投与される、癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減のための、リマプロスト類。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、経口投与可能な癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤を提供することができる。
すなわち、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgとなる量のリマプロスト類を2週乃至52週間経口投与することで、癌化学療法によって誘発される四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、または四肢の麻痺等が改善される。これまで末梢神経障害に対処するため、抗癌剤の減量や癌化学療法の中断を余儀なくされていたが、本発明の剤を用いれば適切な癌治療を継続することが可能となり、癌からの早期回復に繋がる。また、本発明により自宅で簡便に服用できる経口投与可能な末梢神経障害治療薬を提供することは、在宅で癌治療を受ける患者にとって大変有用である。さらに、癌化学療法による末梢神経障害が改善されることによって患者の生活の質も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、癌化学療法によって末梢神経障害を患った患者に、リマプロスト、その塩およびリマプロストを含む包接化合物からなる群より選択される1種以上のリマプロスト類を、リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することで癌化学療法に起因する末梢神経障害が改善されることを開示し、経口投与可能で優れた利便性を有する、安全な癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤、すなわち「リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が2週乃至52週間経口投与されることを特徴とするリマプロスト類を有効成分として含有する癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤」(以下、本発明の剤と略することもある。)を提供するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明において、「治療」とは、病態を完全に治癒させることの他、完全に治癒しなくても症状の進展・悪化を抑制し、病態の進行をとどめること、または病態の一部または全部を改善して治癒の方向へ導くことを、「予防」とは病態の発症を防ぐこと、抑制することまたは遅延させることを、「症状軽減」とは症状を緩解することをそれぞれ意味するものとする。
リマプロスト類
本明細書において、「リマプロスト類」とは、リマプロスト、その塩、及びリマプロストを含む包接化合物からなる群より選択される1種以上を意味する。
【0017】
本発明の剤は、有効成分としてリマプロスト、その塩およびリマプロストを含む包接化合物からなる群より選択される1種以上を含有し、有効成分であるリマプロスト類を、癌化学療法によって末梢神経障害を患った患者にリマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量、2週乃至52週間経口投与するための剤であれば特に限定されず、例えば、有効成分であるリマプロスト類としてリマプロストがそのままの形で、またはその塩若しくはそのシクロデキストリン包接化合物等の包接化合物の形で含まれていればよい。本発明の剤には、リマプロスト、その塩およびリマプロストを含む包接化合物のうち1種または2種以上が含まれていればよい。
【0018】
本明細書において、リマプロストとは、下記式(I)
【0019】
【化1】

【0020】
で示される化合物であり、化学名は(E)−7−[(1R,2R,3R)−3−ヒドロキシ−2−[(3S,5S)−(E)−3−ヒドロキシ−5−メチル−1−ノネニル]−5−オキソシクロペンチル]−2−ヘプテン酸(Registry No.74397−12−9)である。
【0021】
また、リマプロストのシクロデキストリン包接化合物としては、例えばリマプロストのα−シクロデキストリン包接化合物、β−シクロデキストリン包接化合物、及びγ−シクロデキストリン包接化合物などが挙げられるが、なかでも下記式(II)
【0022】
【化2】

【0023】
で示される、リマプロストをα−シクロデキストリンで包接した化合物が好ましい。この化合物の化学名は、(E)−7−[(1R,2R,3R)−3−ヒドロキシ−2−[(3S,5S)−(E)−3−ヒドロキシ−5−メチル−1−ノネニル]−5−オキソシクロペンチル]−2−ヘプテン酸 α−シクロデキストリン包接化合物であり、一般に、リマプロスト アルファデクスとして知られている。これは第十五改正日本薬局方に収載されている「リマプロスト アルファデクス」と同義である。
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように記号
【0024】
【化3】

【0025】
は紙面の向こう側(すなわちα−配置)に結合していることを表わし、
【0026】
【化4】

【0027】
は紙面の手前側(すなわちβ−配置)に結合していることを表わす。
また、リマプロストの塩は、非毒性の塩、特に薬学的に許容される塩であり、このような塩としてナトリウム塩又はカリウム塩が挙げられる。
本発明においては、リマプロストを、上記式(II)で表わされるリマプロストのα−シクロデキストリン包接化合物、すなわちリマプロスト アルファデクスの形で用いるのが好ましい。
【0028】
癌化学療法
本発明において、癌化学療法とは抗癌剤を用いて癌を治療する方法を意味する。癌化学療法に用いられる抗癌剤のうち、末梢神経障害を誘発する抗癌剤としては、タキサン系薬剤、ビンカアルカロイド系薬剤、白金製剤、フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、カペシタビン等が挙げられる。タキサン系薬剤としては、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル等;ビンカアルカロイド系薬剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;白金製剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン等が挙げられる。
【0029】
本発明の剤は、上記の抗癌剤に起因する末梢神経障害に有効であるが、中でも白金製剤に起因する末梢神経障害に奏効する。白金製剤の中でも、特にオキサリプラチンは末梢神経障害を誘発する可能性が高く、重篤な末梢神経障害を惹き起こすことが知られている。本発明の剤は、このオキサリプラチンに起因する重篤な末梢神経障害に対しても著効を示し、オキサリプラチンに起因する末梢神経障害の予防、治療および/またはその症状軽減に特に有効である。
【0030】
また、上記の抗癌剤と他の薬剤を組み合わせた癌化学療法も末梢神経障害を誘発する。上記の抗癌剤と他の薬剤を組み合わせた癌化学療法としては、例えば、FOLFOX療法、XELOX療法および/またはFORFIRI療法等が挙げられる。
FOLFOX療法は、大腸癌に対する癌化学療法の一つであり、オキサリプラチン、フルオロウラシルおよびレボホリナートを組み合わせて行う化学療法である。FOLFOX療法は、投与方法によって、例えば、FOLFOX2、FOLFOX3、FOLFOX4、FOLFOX6、mFOLFOX6、FOLFOX7、mFOLFOX7等に分類される。
【0031】
FOLFOX4では、例えば、1日目にオキサリプラチン85mg/m、およびレボホリナート100mg/mを約2時間静注した後、フルオロウラシル400mg/mを15分以内で急速静注し、さらにフルオロウラシル600mg/mを約22時間かけて持続静注する。そして、2日目に、レボホリナート100mg/mを約2時間静注した後、フルオロウラシルを400mg/mを15分以内で急速静注し、さらにフルオロウラシル600mg/mを約22時間かけて持続静注する。これを2週間ごとに行い、1コースとする。
【0032】
また、mFOLFOX6では、例えば、オキサリプラチン85mg/m、およびレボホリナート200mg/mを約2時間静注した後、フルオロウラシル400mg/mを15分以内で急速静注し、さらにフルオロウラシル2400mg/mを約46時間かけて持続静注する。これを2週間ごとに行い、1コースとする。
【0033】
また、XELOXは、例えば、 1コース3週間として、オキサリプラチン130mg/mを約2時間静注し、カペシタビン1000mg/mを1日2回2週間経口投与する。
上記抗癌剤の投与量は体表面積あたりの薬物量で表わされる。
FORFIRI療法は、イリノテカン、フルオロウラシルおよびレボホリナートを組み合わせて行う癌化学療法である。
【0034】
癌化学療法に起因する末梢神経障害
本発明において、癌化学療法に起因する末梢神経障害とは、癌化学療法に用いられる抗癌剤によって惹き起こされる末梢神経障害のことを意味する。癌化学療法に起因する末梢神経障害としては、例えば、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏等の末梢神経症状;例えば手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、四肢の麻痺等の運動機能障害が挙げられる。中でも、本発明の剤は、運動機能障害に有効であり、特に屈曲障害に著効を示す。
【0035】
末梢神経障害の評価方法は、一般に知られている方法であればどのような方法でもよいが、例えば、DEB-NTC(Debiopharm-Neurotoxicity Criteria:Debiopharm社の神経症状感覚性毒性基準)、有害事象共通用語規準 v3.0(Common Terminology Criteria for Adverse Events v3.0(CTCAE v3.0))等を用いて評価することができる。
【0036】
DEB-NTCでは、以下のGrade 0からGrade 3の4段階によって末梢神経障害が評価される。
Grade 0:異常なし。
Grade 1:末梢神経症状の発現;ただし、7日未満で消失。
Grade 2:7日以上持続する末梢神経症状。ただし、運動機能障害はない。
Grade 3:痛みを伴う異常錯感覚・末梢神経症状、または日常生活に支障を来す運動機能障害。
(Int J Clin Oncol、第12巻、218−223頁、2007年参照)
【0037】
CTCAE v3.0(神経障害:感覚性)では、以下のGrade 1からGrade 4の4段階によって末梢神経障害が評価される。
Grade 1:症状がない;深部腱反射消失または知覚異常(疼きを含む)があるが運動機能障害はない。
Grade 2:知覚変化または知覚異常(疼きを含む)による運動機能障害はあるが、日常生活には支障がない。
Grade 3:日常生活に支障がある知覚変化または知覚異常。
Grade 4:活動不能。
【0038】
本発明の剤は、DEB-NTC評価において、Grade 3の末梢神経障害を発症している患者にとりわけ奏効し、例えば、Grade 3の末梢神経障害を、日常生活に支障のないGrade 2に軽減することが可能である。また、本発明の剤は、CTCAE v3.0評価において、Grade 3の末梢神経障害を発症している患者にとりわけ奏効し、例えば、Grade 3の末梢神経障害を、日常生活に支障のないGrade 2に軽減することが可能である。すなわち、本発明の剤は、癌化学療法に起因する日常生活動作障害を改善する作用を有する。
【0039】
投与量および投与方法
本発明に用いられるリマプロスト類の投与量としては、癌化学療法に起因する末梢神経障害の改善に有効性を示す量であればよく、特に限定されないが、好ましくは、大人1日あたり、上記式(I)で表わされる化合物(リマプロスト)に換算した量として15μgまたは30μgを投与することが好ましい。また、リマプロスト類の1回あたりの投与量は、リマプロストに換算して5μgまたは10μgが好ましい。リマプロストを、リマプロストのシクロデキストリン包接化合物(例えば、リマプロスト アルファデクス)として投与する場合は、リマプロストのシクロデキストリン包接化合物中に含まれるリマプロストが1日あたり5μgから50μg、好ましくは15μgから30μg、より好ましくは15μgまたは30μg投与されるような量に換算して投与すればよい。投与方法としては、1日1回乃至3回投与することが好ましく、特に1日3回、朝、昼、晩、好ましくは毎食後に投与することが好適である。また、投与期間は、有効性を示す期間であればどのような期間でもよく、また症状の種類および重症度によっても異なるが、例えば、2週乃至52週間が好ましく、2週乃至26週間がより好ましい。さらに好ましくは2週乃至12週間であり、特に好ましくは2週乃至8週間である。また、癌化学療法において抗癌剤を投与している期間中、本発明の剤を投与することも好ましい。投与期間中、上記量のリマプロスト類を、毎日投与してもよく、間歇投与してもよいが、毎日投与することが好ましい。本発明においては、リマプロスト類を、例えば、リマプロストに換算して1回あたり10μgとなる量、1日3回、12週間毎日経口投与することが好ましい。また、例えば、リマプロストに換算して1回あたり5μgとなる量、1日3回、2週間毎日経口投与したのち、リマプロストに換算して1回あたり10μgとなる量、1日3回、10週間毎日経口投与することも好ましい。
【0040】
本発明においては、リマプロスト類を、末梢神経障害を誘発する抗癌剤によって末梢神経障害を発症する前から予防目的で投与しても、末梢神経障害を発症した後に治療目的、または末梢神経障害の症状を軽減する目的で投与してもよい。
【0041】
本発明においてリマプロスト類は、末梢神経障害を誘発する抗癌剤の投薬開始と同時、抗癌剤の投薬を開始する前または抗癌剤の投薬を開始した後のいずれに投与を開始してもよい。好ましくは、抗癌剤の投薬を開始した後である。例えば、癌化学療法において抗癌剤等と本発明の剤とを併用することも可能であり、この場合、抗癌剤等の投与量は、癌化学療法に通常使用される治療に有効な量とすればよい。抗癌剤の投薬によって末梢神経障害を発症した患者に対し、抗癌剤の投薬を一時中断し、リマプロスト類を投与してもよい。
【0042】
本発明において、リマプロスト類の投与経路は経口投与であり、経口投与する場合の剤型としては、固形製剤(例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等)であることが好ましい。該固形製剤において、リマプロストは、リマプロスト アルファデクスとして含有されていてもよい。さらに好ましくは錠剤(例えば、素錠、有核錠、コーティング錠、三層錠等)である。また錠剤は口腔内速崩錠等の徐放性製剤であってもよい。リマプロストを含有する錠剤としては、例えば、オパルモン錠(商品名)、プロレナール錠(商品名)、オパプロスモン錠(商品名)、オプチラン錠(商品名)、ゼフロプト錠(商品名)、リマルモン錠(商品名)、リマプロストアルファデクス錠5μg「F」(商品名)、オルファルミン錠(商品名)、ファデルモン錠(商品名)等の、リマプロストをリマプロスト アルファデクスとして含有するリマプロスト アルファデクス錠が挙げられる。さらに、リマプロストを含有する錠剤としては、リマプロストを含有する錠剤であれば前記の錠剤以外でもよい。また、特開2005−272458号、特開2005−314413号、特開2006−045218号または特許第3646310に記載された錠剤を用いてもよい。該錠剤中のリマプロスト類の量は、1錠中、リマプロストに換算して5μgまたは10μgが好ましい。該錠剤において、リマプロストを、リマプロストのシクロデキストリン包接化合物(例えば、リマプロスト アルファデクス)として含有する場合、リマプロストのシクロデキストリン包接化合物中に含まれるリマプロストが、1錠中、5μgまたは10μgになるよう換算して含まれるものが好ましい。
【0043】
本発明において、リマプロスト類の投与は、前記の好ましい投与量、投与方法、投与期間、投与経路、剤型等を組み合わせて行う。具体的には、リマプロストに換算して1日あたり5μgから50μgのリマプロスト類を2週乃至52週間経口投与することが、癌化学療法に起因する末梢神経障害を予防、治療および/または症状軽減するには特に有効であり、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgのリマプロスト類を、1日3回、2週乃至52週間、好ましくは2週乃至12週間経口投与することが好ましい。また、リマプロスト類を含有する錠剤としては、リマプロストをリマプロスト アルファデクスとして含有するリマプロスト アルファデクス錠が好ましい。
【0044】
本発明に用いられる化合物の製造方法
本発明に用いられるリマプロストまたはリマプロスト アルファデクスは、公知の方法、例えば特開昭55−100360号公報に記載された方法等によって製造することができる。リマプロストの塩及び包接化合物は、リマプロストから周知の方法で得ることができる。また前述したように、リマプロストのα−シクロデキストリン包接化合物(リマプロスト アルファデクス)を含有する薬剤は市販されている。
【0045】
毒性
本発明に用いられるリマプロスト類、特にリマプロストおよびそのシクロデキストリン包接化合物(リマプロスト アルファデクス等)の毒性は非常に低いものであり、医薬として使用するために十分安全である。
【0046】
医薬品への適用
本発明に用いられるリマプロスト類は、癌化学療法に起因する末梢神経障害(例えば、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏等の末梢神経症状;例えば手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、または四肢の麻痺等の運動機能障害等)の予防、治療および/または症状軽減剤として有用である。具体的には、リマプロスト類をリマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することで、癌化学療法に起因する末梢神経障害に効果がある。さらに、リマプロスト類をリマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μg、2週乃至52週間経口投与することによって、癌化学療法に起因する軽度な末梢神経障害、例えば、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下等の末梢神経症状のみならず、重度な末梢神経障害、例えば、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害、四肢の麻痺等の運動機能障害も改善される。
【0047】
投与対象
リマプロスト類を上記目的で用いるために、癌化学療法によって末梢神経障害を発症したか、または発症する可能性のある癌患者に対してリマプロスト類を経口投与する。
【0048】
癌化学療法によって末梢神経障害を発症したか、または発症する可能性のある癌患者としては、例えば、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンカアルカロイド系薬剤(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン)、白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン)等を投与中または投与予定の癌患者が挙げられる。このような癌患者としては、例えば、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頚部癌、食道癌、白血病(急性白血病、慢性白血病)、悪性リンパ腫(細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病)、小児腫瘍(神経芽腫、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、睾丸胎児性癌、血管肉腫、肝芽腫およびその他の肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、網膜芽腫、中枢神経系胚細胞腫瘍、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、腎芽腫等)、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患(絨毛癌、破壊胞状奇胎、胞状奇胎)、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿管腫瘍、前立腺癌、子宮頚癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、大腸癌(結腸癌、直腸癌)等の1種または2種以上の癌を患った患者が挙げられる。リマプロスト類は、白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン)投与によって末梢神経障害を発症したか、または発症する可能性のある睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頚部癌、非小細胞肺癌、子宮頚癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、子宮体癌、悪性リンパ腫、小児腫瘍、大腸癌および/または食道癌患者において著効を示す。特に、リマプロスト類は、オキサリプラチン投与によって末梢神経障害を発症したか、または発症する可能性のある大腸癌患者において有効である。オキサリプラチン等の白金製剤投与中に本願発明におけるリマプロスト類を投与する場合、白金製剤の投与量は、癌化学療法において通常使用される治療に有効な量とすればよい。
また、癌化学療法によって末梢神経障害を惹き起こしやすい患者、例えば、糖尿病や飲酒、遺伝的神経障害等の素因を有する癌患者に、末梢神経障害を誘発する抗癌剤を投与する際には、本発明の剤を投与することによって、末梢神経障害の発症を抑制したり、末梢神経障害の症状を軽減することが可能である。
【0049】
製剤
本発明において、リマプロスト類を含有する固形製剤は、リマプロスト類に、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤または配合製剤として汎用されている技術を用いて製造することができる。製剤化する際、リマプロストをリマプロスト アルファデクスとして用いてもよい。
【0050】
リマプロスト類を含有する固形製剤を製造する場合、リマプロスト類の他に、さらに添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、固形製剤を製造する際に一般的に使用されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、香料、着色剤、抗酸化剤、隠蔽剤、静電気防止剤、流動化剤、湿潤剤等を1種または2種以上適宜配合して用いることができる。
【0051】
賦形剤としては、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、還元乳糖、ショ糖、D−マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、パラチノース、トレハロース、ソルビトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、結晶セルロース、タルク、無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、デキストラン(例えば、デキストラン、デキストラン40、デキストラン70等)、プルラン、デキストリン、アルファー化デンプン等が挙げられる。結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末、ゼラチン、デキストリン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜配合して用いてもよい。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、トウモロコシデンプン等が挙げられる。矯味剤としては、例えば白糖、D−ソルビトール、キシリトール、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。矯臭剤としては、例えばトレハロース、リンゴ酸、マルトース、グルコン酸カリウム、アニス精油、バニラ精油、カルダモン精油等が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリソルベート(ポリソルベート80など)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。香料としては、例えばレモン油、オレンジ油、メントール、はっか油等が挙げられる。着色剤としては、例えば酸化チタン、食用黄色5号、食用青色2号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸ナトリウム、L−システイン、亜硫酸ナトリウム、ビタミンE等が挙げられる。隠蔽剤としては、例えば酸化チタン等が挙げられる。静電気防止剤としては、例えばタルク、酸化チタン等が挙げられる。流動化剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。湿潤剤としては、例えばポリソルベート80、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、マクロゴール、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等が挙げられる。これらの添加剤は、一般的に経口投与製剤に通常用いられる割合で配合される。また、上記以外にも、公知の文献、例えば、薬事日報社2000年刊「医薬品添加物辞典」(日本医薬品添加剤協会編集)等に記載されているような添加剤を用いてもよい。
【0052】
リマプロスト類を含有する固形製剤は公知の方法で製造することができ、例えば、転動造粒機、撹拌造粒機、流動造粒機、遠心転動造粒機、乾式造粒機等を用いて、造粒することにより顆粒を製造することができる。
【0053】
該固形製剤は、例えば上記方法で得られる顆粒をそのまま顆粒剤として用いることができる。また、固形製剤には、上記顆粒を含有するカプセル剤も含まれる。カプセル剤は公知の方法で製造することができ、例えば前記顆粒、さらに必要に応じて添加剤を添加したものを硬カプセル(例えば、ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル、プルランカプセル、ポリビニルアルコール(PVA)カプセル等)にカプセル充填機を用いて充填することにより、行なうことができる。また、固形製剤には、上記顆粒を含有する錠剤も含まれる。錠剤は公知の方法で製造することができる。例えば上記顆粒および必要に応じて添加剤を均等に混合し、回転式打錠機等によって圧縮成型して素錠を得、該素錠をそのまま錠剤にして使用してもよく、必要に応じてさらにコーティング基剤を用いて被覆してもよい。また、造粒を行わずに薬物等を含有する混合末を調製し、それを回転式打錠機等によって錠剤化することもできる。さらに、上記顆粒の代わりに、リマプロストおよび賦形剤を溶媒(例えば水、有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン等)、またはそれらの混合溶媒等)に溶解し、常法に従って凍結乾燥した凍結乾燥品を用いて錠剤を製造してもよい。すなわち、リマプロストを含有する凍結乾燥品を粉砕した後、必要に応じて添加剤を添加して混合し、打錠することによって錠剤にしてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
実施例1 癌化学療法に起因する末梢神経障害に対するリマプロストの作用
<症例1>
(1)癌化学療法実施
67歳女性の大腸癌患者に、mFOLFOX6療法を9コース実施したところ、末梢神経障害として、四肢(手足先と下腿)のしびれおよび痛みが発現した。引き続き、FOLFIRI療法を1年間実施したが、末梢神経障害は減弱することなく遷延した。
(2)リマプロスト投与
患者に、1錠中にリマプロストを5μg含むリマプロスト アルファデクス錠を投与した。具体的には、このリマプロスト アルファデクス錠を、1回1錠、1日3回、2週間毎日投与したのち、1回2錠、1日3回、10週間毎日投与した。なお、末梢神経障害に対する薬剤は、リマプロスト アルファデクス錠以外使用していない。
(3)末梢神経障害の評価
末梢神経障害の程度は、患者の自覚症状およびDEB-NTC(Debiopharm社:神経症状−感覚性毒性基準)にて評価した。DEB-NTCの評価基準を以下に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
DEB-NTC評価において、リマプロスト投与前の末梢神経障害の程度はGrade 3であったが、リマプロスト投与開始2週間後にはGrade 2に改善され、その後もGrade 2が維持された。
【0058】
自覚症状については、四肢(手足先と下腿)のしびれおよび痛みが発現し、正座不能、および歩行困難であった患者が、リマプロスト投与開始2週間後には、しびれおよび痛みが消失し、正座および歩行が可能となった。この効果は、リマプロスト投与開始12週間後まで持続した。
【0059】
<症例2>
(1)癌化学療法実施
58歳女性の大腸癌患者に、mFOLFOX6療法を12コース実施したところ、末梢神経障害として、下肢のしびれおよび手指の巧緻機能障害(ボタンがとめられない等)が発現した。引き続き、FOLFIRI療法を8ヶ月実施したが、末梢神経障害は減弱することなく遷延した。
(2)リマプロスト投与
患者に、1錠中にリマプロストを5μg含むリマプロスト アルファデクス錠を投与した。具体的には、このリマプロスト アルファデクス錠を、1回2錠、1日3回、12週間毎日投与した。なお、末梢神経障害に対する薬剤は、リマプロスト アルファデクス錠以外使用していない。
(3)末梢神経障害の評価
DEB-NTC評価において、リマプロスト投与前の末梢神経障害の程度はGrade 3であったが、リマプロスト投与開始2週間後にはGrade 2に改善され、その後もGrade 2が維持された。
自覚症状については、下肢のしびれおよび手指の巧緻機能障害(ボタンがとめられない等)がみられた患者が、リマプロスト投与開始2週間後には、下肢のしびれが軽減し、ボタンをとめることが可能となった。この効果は、リマプロスト投与開始12週間後まで持続した。
【0060】
<症例3>
(1)癌化学療法実施
79歳男性の再発大腸癌患者に、mFOLFOX6療法を9コース実施したところ、末梢神経障害として、足のしびれおよび歩行障害が発現した。引き続き、FOLFIRI療法を1ヶ月実施したが、末梢神経障害は減弱することなく遷延した。
(2)リマプロスト投与
患者に、1錠中にリマプロストを5μg含むリマプロスト アルファデクス錠を投与した。具体的には、このリマプロスト アルファデクス錠を、1回2錠、1日3回、12週間毎日投与した。なお、末梢神経障害に対する薬剤は、リマプロスト アルファデクス錠以外使用していない。
(3)末梢神経障害の評価
DEB-NTC評価において、リマプロスト投与前の末梢神経障害の程度はGrade 3であったが、リマプロスト投与開始4週間後にはGrade 2に改善され、その後もGrade 2が維持された。
自覚症状については、足のしびれおよび歩行障害がみられた患者が、リマプロスト投与開始4週間後には、歩行障害が軽減された。さらに、リマプロスト投与開始12週間後には足のしびれも緩解した。
【0061】
[製剤例]
本発明に用いられる代表的な製剤例を以下に示す。
製剤例1
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解させた。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解させた後、常法に従い凍結乾燥した。得られた粉末4gにデキストリンを26g、乳糖を252.9g、トウモロコシデンプンを15g、軽質無水ケイ酸を0.6g、およびステアリン酸を1.5g混合し、ロータリー式打錠機を用いて、打錠圧800kg/cmで打錠および60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥することにより1錠(100mg、6.5mmφ)当り上記式(I)で示される化合物を5μg含有する錠剤2000錠を得た。
【0062】
<錠剤(100mg)1錠中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
(式(I)で示される化合物として5μg)
デキストラン40 1.167 mg
デキストリン 8.67 mg
乳糖 84.3 mg
トウモロコシデンプン 5.0 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
【産業上の利用可能性】
【0063】
リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgのリマプロスト類を2週乃至52週間経口投与することで、癌化学療法によって誘発される四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、または四肢の麻痺等が改善された。したがって、リマプロスト類は安全かつ有効な癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤となりうる。これまで末梢神経障害に対処するため、抗癌剤の減量や癌化学療法の中断を余儀なくされていたが、本発明の剤を用いれば適切な癌治療を継続することが可能となり、癌からの早期回復に繋がる。また、本発明により自宅で簡便に服用できる経口投与可能な末梢神経障害治療薬を提供することは、在宅で癌治療を受ける患者にとって大変有用である。さらに、癌化学療法による末梢神経障害が改善されることによって患者の生活の質も向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リマプロストに換算して1日あたり15μgまたは30μgの量が2週乃至52週間経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有する癌化学療法に起因する末梢神経障害の予防、治療および/または症状軽減剤。
【請求項2】
癌化学療法が、タキサン系薬剤および白金製剤からなる群より選択される1種以上の抗癌剤を用いる療法である請求項1記載の剤。
【請求項3】
白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンおよびネダプラチンからなる群より選択される1種以上である請求項2記載の剤。
【請求項4】
白金製剤が、オキサリプラチンである請求項3記載の剤。
【請求項5】
癌化学療法がFOLFOX療法および/またはFORFIRI療法である請求項1記載の剤。
【請求項6】
癌化学療法が、フルオロウラシル、レボホリナートおよびイリノテカンからなる群より選択される1種以上の抗癌剤を用いる療法である請求項1記載の剤。
【請求項7】
タキサン系薬剤が、パクリタキセルおよびドセタキセルからなる群より選択される1種以上である請求項2記載の剤。
【請求項8】
卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頚部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿管腫瘍、前立腺癌、子宮頚癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、および大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されることを特徴とする請求項1記載の剤。
【請求項9】
癌患者が大腸癌患者である請求項8記載の剤。
【請求項10】
末梢神経障害が、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏および運動機能障害からなる群より選択される1種以上である請求項1記載の剤。
【請求項11】
末梢神経障害が、運動機能障害である請求項10記載の剤。
【請求項12】
運動機能障害が、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上である請求項11記載の剤。
【請求項13】
投与期間が2週乃至12週間である請求項1記載の剤。
【請求項14】
リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が、1日3回、2週乃至12週間経口投与されることを特徴とする請求項13記載の剤。
【請求項15】
リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、12週間経口投与されることを特徴とする請求項14記載の剤。
【請求項16】
リマプロストに換算して1回あたり5μgの量が、1日3回、2週間経口投与されたのち、リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、10週間経口投与されることを特徴とする請求項14記載の剤。
【請求項17】
白金製剤投与によって運動機能障害が認められた癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有する運動機能障害の治療および/または症状軽減剤。
【請求項18】
白金製剤がオキサリプラチンである請求項17記載の剤。
【請求項19】
癌患者が大腸癌患者である請求項17記載の剤。
【請求項20】
運動機能障害が、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上である請求項17記載の剤。
【請求項21】
運動機能障害が、屈曲障害である請求項20記載の剤。
【請求項22】
リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、12週間毎日経口投与されることを特徴とする請求項17記載の剤。
【請求項23】
リマプロストに換算して1回あたり5μgの量が、1日3回、2週間毎日経口投与されたのち、リマプロストに換算して1回あたり10μgの量が、1日3回、10週間毎日経口投与されることを特徴とする請求項17記載の剤。
【請求項24】
オキサリプラチン投与によって手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害および四肢の麻痺からなる群より選択される1種以上の症状が認められた大腸癌患者に、リマプロストに換算して1回あたり5μgまたは10μgの量が1日3回、2週乃至12週間毎日経口投与されることを特徴とする、リマプロスト類を有効成分として含有するオキサリプラチンに起因する上記症状の軽減剤。

【公開番号】特開2010−106019(P2010−106019A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229186(P2009−229186)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】