説明

リモコン二輪車のロール角制御装置

操縦者の操縦操作を容易にすることができ、広い速度域でリモコン二輪車の姿勢を安定させることができる、リモコン二輪車のロール角制御装置を提供するために、ロール角制御装置21を設けた。ロール角制御装置21は、車体本体のロール角を検出するロール角検出手段35と、操舵軸又はフロントフォークに左右方向の回転トルクを付加する操舵用アクチュエータ13と、ロール角検出値とリモコン受信機からのロール角目標値とに基づき操舵用アクチュエータに対する操作量を出力してロール角検出値をロール角目標値に近付けるように制御する制御手段29と、少なくとも中立点を境にして舵角が左右の何れに切れているかを検出する舵角検出手段50とを備え、前記制御手段29によって、舵角検出手段にて検出した舵角が右切れ方向の場合には右回転トルクを付加し、舵角検出手段にて検出した舵角が左切れ方向の場合には左回転トルクを付加するような信号を、操舵用アクチュエータに対する操作量に付加するように制御するキャスタ効果制御手段51を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、リモコン二輪車に用いられるロール角制御装置に関するものである。なお、リモコン二輪車とはラジコン二輪車を含む呼称である。
【背景技術】
主にホビー用として普及しているラジコン(ラジオコントロールの略、すなわち無線操縦のこと:以下同意である)模型には、四輪車や二輪車のように陸上を走行するもの、飛行機やヘリコプタのように空中を飛行するもの、及び船舶のように水上を航行するもの等がある。これらのラジコン模型においては、模型本体(四輪車や二輪車では車体、飛行機やヘリコプタでは機体、船舶では船体)にラジコン受信機と、操舵用アクチュエータを有する操舵部とが搭載されており、操縦者がラジコン送信機の操作スティックを操作すると、その操作に応じて動く操舵用アクチュエータにより操舵部が駆動され、走行(飛行,航行)している模型本体が旋回等をするようになっている。
ところで、例えば二輪車の操舵部は通常、車体(フレーム)の前部に所定のキャスタ角で後傾して支持された操舵軸と、この操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、このフロントフォークの下端部に回転自在に支持された前輪等から構成されている。そして、例えば直進走行状態から左へ旋回する場合には、ハンドルを介し操舵軸を右へ回して前輪を僅かに右に向けると、慣性力により車体が左に傾く(ロールする)ので、この状態から前輪を左に向けて適宜なロール角を保つようにすれば、二輪車は前記ロール角と車速とによって決まる旋回半径で左に旋回しながら走行することになる。このように二輪車では、操舵部の動作に応じ車体がロールして旋回するようになっている。
また、操舵軸が回動自在に構成されている場合には、操舵軸に加えていたトルクを無くすと、前輪まわりのアライメント(キャスタ角,トレール量等)による復原力がはたらき、車体は略直立状態(ロール角がほぼ0°の状態)まで起き上がって、直進走行に移行する。そして、一定以上の車速で直進走行しているときに、車体を傾けようとする風等の外乱が入った場合には、前記アライメント及び前輪が有するジャイロ効果により、その外乱に抗して車体を直立させようとする力がはたらき、自転車で所謂「手離し運転」をしているときと同様に、車体は自律的に安定して直進走行状態を保持する。このような性質を「自律安定性」という。模型二輪車であっても、前輪まわりのアライメントが適切で、車体(模型本体)の左右の重量バランスも取れている場合には、実車を縮小したような寸法及び形状で、大まかな自律安定性が得られるが、実車に比べ車輪の慣性モーメントが小さいので動的安定性にかかわる前輪のジャイロ効果が十分でなく、また、寸法精度がばらつくことや路面状況の影響を受けやすいことから静的安定性(直進性能)にかかわるキャスタ効果も十分ではなかった。
また、このような機械的な自律安定性を確保するために操舵軸を回転自由に支持すると、前輪舵角に直接影響を与えるような外乱、例えば走行面の小石のような小突起によって前輪がぶれる場合等には安定した走行状態が困難になるという問題があった。
以上のように、模型二輪車をリモコン装置で遠隔操作しようとする場合、前述したような二輪車特有の安定性について機械的に対策を講じることには限界があった。
他方、例えば実用新案登録第2577593号公報にはラジコン模型二輪車の姿勢制御に係る技術が開示されている。この従来技術においては、二輪車の車体のロール軸回りの回転角速度(倒れ角速度)を検出する角速度センサを設けるとともに、前輪の舵角(方向角度)を変化させるアクチュエータ(具体的にはサーボモータ)を設け、ラジコン受信機で受信した前輪の舵角(目標値)と実際の前輪の舵角とを一致させるように、車体の倒れ角速度を制御する制御信号をアクチュエータに対して出力している。
しかしながら、前記従来技術では、前輪の舵角をラジコン送信機から直接指令しているため、車体の旋回半径を操縦者の思い通りに決められる反面、その旋回半径と車速及びロール角とをバランスさせる制御が困難で、走行状態が不安定になりやすい。
例えば、ロール中に外乱等によって車速が変化すると所定のロール角を保持するためには、舵角と連動する旋回半径を変えるだけでよいが、旋回半径(舵角と連動)を保持するためにはロール角を変える必要がある。しかし、ロール角を変えるためには質量の大きい車体を動かす必要があるので反応が遅くなり制御が困難である。
特に、高速走行状態において舵角が小さい状態(旋回半径は大きい状態)では、舵角のふれに対して旋回半径が大きく変化し、これに連動してロール角も大きく変えるような制御が働くので、車体の状態が不安定になるのである。
本発明者は、以上のような従来技術の問題点を解決するために、リモコン二輪車の制御装置について種々研究を重ねた結果、上述した自律安定性を電気的制御で補助、あるいは置き換えた上で、操舵部の舵角ではなく模型本体のロール角を制御量とすることにより安定した姿勢制御が行なえることを知得して、本発明を完成させるに至ったものである。
すなわち、本発明の目的は、操縦者の操縦操作を容易にすることができ、しかも低速から高速までの広い速度域で模型本体等のリモコン二輪車の姿勢を安定させることができる、ラジコン模型等のリモコン走行体のロール角制御装置を提供することにある。
【発明の開示】
前記目的を達成するため、本発明に係るリモコン二輪車のロール角制御装置は、
車体本体と、この車体本体の前部に所定のキャスタ角で支持された操舵軸と、前輪を支持するとともに前記操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、前記車体本体の後部側に設けられ原動機により回転駆動される後輪と、前記車体本体に搭載されたリモコン受信機とを備えたリモコン二輪車におけるロール角制御装置であって、
前記車体本体のロール角を検出するロール角検出手段と、
前記操作軸又は前記フロントフォークに左右何れの方向の回転トルクをも付加し得る操舵用アクチュエータと、
前記ロール角検出手段によるロール角検出値と前記リモコン受信機からのロール角目標値とに基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段と、
少なくとも中立点を境にして舵角が左右の何れに切れているかを検出する舵角検出手段とを備えるとともに、
前記制御手段は、舵角検出手段にて検出した舵角が右切れ方向の場合には、前記操舵用アクチュエータを介して前記操作軸又は前記フロントフォークに右回転トルクを付加し、舵角検出手段にて検出した舵角が左切れ方向の場合には、前記操舵用アクチュエータを介して前記操作軸又は前記フロントフォークに左回転トルクを付加するような信号を、操舵用アクチュエータに対する操作量に付加するように構成したことを特徴とするものである。
また、本発明は、ロール角検出手段が、車体本体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記車体本体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、さらに、リモコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、
この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段と
を備えていることを特徴とするものである。
なお、本明細書において、
「リモコン二輪車」とは模型の二輪車に限定されるものではなく、ロール角や舵角を電気的に制御可能に構成されているものであれば人間が実際に乗車可能な二輪車をも含むものである。
また、「ロール角」とは、図4に符号θで示す、重力方向の鉛直線と模型本体(車体2)の縦方向の中心線とがなす角度のことをいう。また、「ロール軸回りの回転角速度」とは、模型本体(車体2)のロール方向への倒れ角速度のことをいう。
また、「舵角」とは、模型本体(車体2)が直進状態のときの前輪の向きを0°として、平面視時計回り方向を正の舵角(右切れ方向)として、反時計回り方向を負の舵角(左切れ方向)とする。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態に係るロール角制御装置を備えたラジコン模型二輪車の側面図である。
図2は、主に前輪操舵部を示すラジコン模型二輪車の要部拡大概略平面図である。
図3は、ボールリンクの構造を示す要部斜視図である。
図4は、旋回走行状態を示すラジコン模型二輪車の正面図である。
図5は、ラジコン模型二輪車の走行制御に係るハードウェアの概略構成図である。
図6は、ロール角制御装置による制御動作の概略を説明するブロック線図である。
図7は、ロール角制御装置の動作を示すフローチャート図である。
図8は、ロール角制御装置の別の実施形態を説明するブロック線図である。
図9は、2値センサの構成例の平面図である。
図10は、舵角センサの特性図である。
図11は、2値センサの特性図である。
図12は、別の実施形態の制御動作を説明するブロック線図である。
図13は、ダンパ付き前輪操舵部の一例の側面断面図である。
図14は、一対の磁石の反発力を利用して車体の直進性を補助するように構成した例の説明である。
図15は、弾性体の付勢力を利用して車体の直進性を補助するように構成した例の説明である。
【発明を実施するための最良の形態】
ラジコン模型二輪車の全体側面図
以下、本発明の実施形態に係るラジコン模型のロール角制御装置を、この制御装置を備えたラジコン模型二輪車とともに説明する。
図1における符号1は、この実施形態に係るラジコン模型二輪車を全体的に示している。ラジコン模型二輪車1は、走行体としての車体2(模型本体)と、この車体2に搭載されたラジコン受信機3と、車体2の前部に所定のキャスタ角で後傾して回動自在に支持された操舵軸4と、この操舵軸4の下方に連設され操舵軸4を中心として左右に回動するフロントフォーク5と、このフロントフォーク5の下端部に回転自在に支持された前輪6と、車体2の後部にリヤアーム7を介して回転自在に支持された後輪8と、この後輪8をギヤボックス(不図示),駆動側スプロケット9,駆動チェーン10,及び被駆動側スプロケット11を介して回転駆動する走行用モータ12(原動機)とを備えている。
また、符号13は車体2に搭載された操舵用モータ(操舵用アクチュエータ)を示している。操舵用モータ13のモータ軸にはピニオンギヤ14が固設されるとともに、このピニオンギヤ14と噛み合う扇形の減速ギヤ15が、支持軸16を介して水平軸心回りに回動自在に車体2に枢支されている。減速ギヤ15にはアーム部17が一体形成される一方、操舵軸4の上端部には板状のハンドルアーム18が固着され、このハンドルアーム18と前記アーム部17とがボールリンク19を介して連結されている。図3からわかるように、ボールリンク19は、内側が球面状のすべり面となった球受け部19aを両端に有する棒状のリンク本体19bと、このリンク本体19bの両端にそれぞれ配置され、球受け部19aと嵌合して球関節を構成する球状体19cによりリンク本体19bに角変位自在に連結された一対の固定部19dとで構成されている。そして、一端側の固定部19dが前記アーム部17に、他端側の固定部19dが前記ハンドルアーム18に、それぞれ固定されている。
以上のような各部材により、操舵用モータ13が正逆方向に回転すると、アーム部17が図1に矢印イで示す方向に揺動し、これに伴いハンドルアーム18の先端部が図2に矢印ロで示す方向に揺動して、操舵軸4,フロントフォーク5,及び前輪6を操舵軸4の軸心回りに左右に回動させる前輪操舵部20(操舵部)が構成されている。
なお、操舵用モータ13としては、モータに流れる電流値と発生する回転トルクとがほぼ比例する直流モータが採用されている。
また、モータ軸のピニオンギヤ14と減速ギヤ15とのギヤ比は、操舵軸4を回動するのに必要なトルクが得られるようなギヤ比に設定されている。
これにより、操舵用モータ13から前記減速ギヤ15,ボールリンク19,ハンドルアーム18等を介して操舵軸4に正逆方向の回転トルクを印加可能な構成となっている。
図1の符号21は、車体2のロール角を制御するロール角制御装置を示している。このロール角制御装置21は、車体2のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサ22(この実施形態では振動ジャイロが用いられている)と、後述する直流アンプ,マイクロコンピュータ,及び操舵用アンプ等(図1では図示省略)とを備えている。また、図1の符号23は操縦者が操作するラジコン送信機(不図示)からの操縦信号を受信するためにラジコン受信機3に付設された受信アンテナを、24はラジコン受信機3からの信号に基づき走行用モータ12へ駆動電流を出力する走行用アンプを、25は電源として車体2に搭載された電池を、それぞれ示している。さらに、図4の符号Gはラジコン模型二輪車1が走行する地面(路面)を示している。なお、この実施形態ではラジコン送信機として、速度調節用とロール角調節用との、2つの操作スティックを備えた2チャンネルの送信機が用いられる。
符号50は舵角センサであり、例えば回転型のポテンショメータで構成されており、その回転軸は、前記操舵軸4もしくは減速ギア15に対して、同軸もしくはギア等の回転量伝達機構を介して取り付けられている。
制御関係のハードウエアの説明
次いで、図5を参照しつつ、ラジコン模型二輪車1の走行制御(速度制御及びロール角制御)に係るハードウェア構成を説明する。
ラジコン受信機3は、図外のラジコン送信機からの操縦信号を受信し、この受信した信号に応じ、速度目標値を走行用アンプ24へ、ロール角目標値をロール角制御装置21へ、それぞれPWM(パルス幅変調)信号26,27として出力するように構成されている。
そして、走行用アンプ24は、ラジコン受信機3からの速度目標値に応じた電流を走行用モータ12へ出力し、この出力に応じて走行用モータ12が後輪8を回転駆動し、車体2を速度目標値に応じた速度で走行させるようになっている。この速度制御には開ループ制御が採用されている。
一方、ロール角制御装置21は、前記舵角センサ50と、前記角速度センサ22と、この角速度センサ22の出力信号を増幅する直流アンプ28と、前記舵角センサ50と前記直流アンプ28及びラジコン受信機3からの入力信号に基づき所定の演算処理を行なうマイクロコンピュータ29と、このマイクロコンピュータ29の出力信号に応じて操舵用モータ13へ電流を出力する操舵用アンプ30とを備えている。
角速度センサ22の出力は電圧(アナログ値)であり、これが直流アンプ28で増幅された後、AD変換器等を含んだマイクロコンピュータ29へ入力される。
前記舵角センサ50を構成するポテンショメータの入力端子には所定の安定した定電圧が印加され、ポテンショメータの出力端子から前記回転軸の回転量に応じた電圧が、舵角に対応した電圧信号として得られるように構成されている。このようにして得られる電圧信号(アナログ値)は、AD変換器等を含んだ前記マイクロコンピュータ29へ入力される。
マイクロコンピュータ29は、CPU以外に、ROMやRAM等のメモリ、入出力ポート、タイマ、AD(アナログ−デジタル)変換器、DA変換器の一種であるPWM出力部等を1つのチップ上に集積したワンチップ・マイコンで構成されており、前記ROMには後述する図7のフローチャートに示される処理手順(アルゴリズム)を当該マイクロコンピュータ29で実行するためのプログラムが予め記憶されている。そして、前記舵角センサ50の出力と、直流アンプ28を経て入力される角速度センサ22の出力と、ラジコン受信機3からPWM信号27として入力されるロール角目標値とに基づいて生成した制御信号を前記PWM出力部から操舵用アンプ30へ出力するようになっている。
ブロック線図の説明
図6は、ロール角制御装置21によるラジコン模型二輪車1のロール角制御動作の概略を説明するブロック線図であって、図中、符号31,32,52は加え合せ点を、33,54は引出し点を、A,A,Aは比例定数を、それぞれ示している。また、符号34は角速度センサ22の出力から得られた角速度ω(検出値)を積分して車体2のロール角θを算出する積分手段を示している。積分手段34の積分動作はマイクロコンピュータ29で所定のプログラムを実行することにより実現され、この積分手段34及び角速度センサ22により本発明にいうロール角検出手段35が構成されている。
51はキャスタ効果制御手段であり、舵角センサ50にて検出した舵角が右切れ方向の場合には右回転トルクを付加し、舵角が左切れ方向の場合には左回転トルクを付加するようなキャスタ効果加算量d2を加え合わせ点32に出力する。
なお、外乱▲1▼は、小石や縦溝などのように前輪の動きに直接害を及ぼす要素である。なお、前輪のジャイロ効果やキャスタ効果による自律安定性は有益な外乱といえる。外乱▲2▼は、風などのように、制御量(ロール角)を直接乱す要素である。
また、車体→角速度センサ→積分手段→加え合わせ点31〜車体からなる制御ループ▲1▼を角度制御ループとし、車体→角速度センサ→加え合わせ点32〜車体からなる制御ループ▲2▼を角速度制御ループとし、引き出し点54→舵角センサ→微分手段→加え合わせ点52〜引き出し点54からなる制御ループ▲3▼を舵角速度制御ループとし、引き出し点54→舵角センサ→キャスタ効果制御手段→加え合わせ点32〜引き出し点54からなる制御ループ▲4▼を舵角制御ループとする。
この図6に基づいてロール角制御動作の概略を説明すると以下のようになる。なお、以下の説明では、前記舵角速度制御ループ▲3▼と前記舵角制御ループ▲4▼とをはずした基本構成の説明である。
先ず、ラジコン受信機3により入力されたロール角目標値から前記ロール角検出手段35で検出されたロール角θを減算することにより、ロール角θ(検出値)と前記ロール角目標値との角度偏差37を得る。次いで、この角度偏差37に比例定数Aを乗じて得られた角速度目標値38から角速度ω(検出値)を減算して角速度偏差39を得る。そして、この角速度偏差39に比例定数A×Aを乗じて得られた操作量40に基づいた電流を操舵用モータ13に出力する。これにより前輪操舵部20を介して前輪6が操舵され、それに応じて車体2がロールする。この際の車体2のロール軸回りの回転角速度を角速度センサ22で検出し、角速度ω(検出値)を加え合せ点32へフィードバックするとともに、角速度ωを積分して得たロール角θ(検出値)を加え合せ点31へフィードバックする。
このように、ロール角制御は、前記角度制御ループ▲1▼と前記角速度制御ループ▲2▼との、2つの閉ループを有するフィードバック制御だけでも原理的には可能である。
なお、「ロール角目標値」→定数→操舵用モータ→前輪へ至る伝達経路では、例えば「右へ30°傾け」というロール角目標値が与えられたときには、操舵用モータ→前輪へ至る経路は必ず「左」を向くように、配線・ギア・リンクが構成されている。このような構成の結果、右方向へあたかも「足をすくわれる」かのような挙動を開始するのである。このようにして、二輪車固有の「逆切り」構成となっている。
さらに、図6において、
舵角速度制御ループ▲3▼は、舵角センサ50を流用して微分手段53を通じて舵角速度を検出し、これが舵角速度目標値と一致するように操作量を調節するためのマイナーループである。
これは、外乱▲1▼に対して抵抗力を持たせ(自律安定性の影響も減る)、また、操作量に対して早く操舵部(アクチュエータ→前輪)がまわり始め、その回転速度が操作量にできるだけ比例するように回転速度を制御するためのものである。これにより外側の制御ループ▲1▼、▲2▼も改善されてロール角の制御が早く正確になり、運動性能が向上するのである。
このマイナーループ(舵角速度制御ループ▲3▼)により、操舵部の反応が改善されることと、小石等で足を取られることが減るという利点が得られる。
前記舵角速度制御ループ▲3▼の働きによってフロントフォークの自由な回動、すなわち自律安定性をも妨げる場合があるが、後述するキャスタ効果制御手段51が代わりに同様の機能を果たすので、フロントフォークの回動は少々妨げてもかまわなくなった。このため、舵角速度制御ループ▲3▼を付加できるようになって以上のような間接的な利点が得られるのである。
電気的直進性補助システム
構成の説明
次に、車体の中立状態における直進性を改善するために設けた舵角センサ50とキャスタ効果制御手段51を用いた舵角制御ループ▲4▼による直進性補助機能を説明する。
キャスタ効果制御手段51は舵角センサ50にて得られた舵角に基づいたキャスタ効果加算量d2を算出して加え合わせ点32へ出力する。
符号53は微分手段であり、前記舵角の微分値である舵角速度d1を加え合わせ点52へ出力する。
以下に、舵角センサの詳細例を説明する。
図10の(a)、(b)は、前記舵角センサ50を用いた直進性補助機能の制御特性例を示したものであり、横軸に「舵角」をとり、縦軸に「右回転方向に回転トルクが働く加算操作量(加算電流)」をとったものである。なお、図10の(a)、(b)に示した制御特性は、舵角センサ50からキャスタ効果制御手段51までを通じた入出力特性であり、図10の(a)は、舵角センサ50が比例的な出力特性であって、さらにキャスタ効果制御手段51が比例要素である場合の制御特性を示している。
即ち、舵角が正(右切れ)の場合には右回転トルクが働く加算操作量が出力され、舵角が負(左切れ)の場合には右回転トルクが働く加算操作量が出力されるように制御されるのである。
舵角センサとしてポテンショメータを用いると、キャスタ効果制御手段51が比例要素である場合には、図10の(a)のように舵角の変化と加算操作量とが直線的に相関するが、キャスタ効果制御手段51を非比例要素として、図10の(b)において実線や破線で示したように非直線的な相関関係が得られる制御特性としてもよい。キャスタ効果制御手段を直進中だけ働かせる場合は中立状態の近傍のみが関係し、それ以外の舵角が大きい部分は無関係となるので、図10の(b)に示したような制御特性でも構わないのである。
図10の(a)、(b)に示したような制御特性に限らず種々の制御特性を、テーブルを参照したり種々の関数を用ることによって実現し、付加的な効果を得ることもできる。例えば、キャスタ効果制御手段51に積分要素を加えることによって定常偏差を無くせるという効果も得られる。
また、前記舵角センサ50は、中立状態から左右へのずれを検出できる構成であればよい。例えば、支持軸16を減速ギア15の回動と連動するように構成するとともに、前記支持軸16に舵角センサ50を構成するポテンショメータの回転軸を連設する構成や、舵角センサ50の回転軸を、前記操舵軸4の上端等に直接もしくはギア等の回転量伝達機構を介して取り付ける構成や、操舵用モータ13のモータ軸に連設する構成や、ハンドルアーム18の変位を検出する構成等のように種々の構成が可能である。
また、前記舵角センサとしては、回転型の電気抵抗式ポテンショメータに代えて、ホール素子等の磁気センサと磁石片とを組み合わせた構成や、フォトトランジスタ等の光学センサと光学的スリットとを組み合わせた構成等のように種々の構成が可能であることは言うまでもない。また、取り付け方法によっては、回転型に代えて直線型の変位センサを使用することも可能である。
作用の説明
外乱等によって操舵軸4が舵角0°の中立状態から左右何れかの方へ若干ずれると、操舵軸4の舵角を舵角センサ50によって検出し、舵角に応じた信号をキャスタ効果制御手段51へ出力する。キャスタ効果制御手段51は、前記舵角に応じたキャスタ効果加算量d2を算出して加え合わせ点32へ出力する。
そして、舵角に基づいたキャスタ効果加算量d2と加算して得られた操作量40が、操舵用モータ13へ出力される。
このようにして、操舵用モータ13は、操舵軸4を、前記ずれた方へさらに操舵することになる。このような操舵によって、舵角のずれを大きくして、充分なキャスタ効果が得られるので、車体は傾いた状態から立ち上がり操舵軸4は中立状態に復元するのである。
即ち、車体が、外乱等により例えば右に傾くと、ジャイロ効果と角速度制御ループ▲2▼の作用により、角速度ωを抑えるように前輪が右に切れ、ある程度傾いた状態でロール角θは収まって旋回運動に入る。このとき、舵角は、一旦ロール角θ(慣性に起因する水平方向の加速度と、重力加速度とに基づいた角度)と車速に見合った角度で定常旋回状態になるが、キャスタ効果と、上述したキャスタ効果制御手段51を含んだ舵角制御ループ▲4▼の作用により右トルクが付加されて更に右へ切れる。
これによって、定常旋回状態が崩れて、車体は傾いた状態から立ち上がり中立状態に復元するのである。
このようにして、特に誤差補正動作を行っているときに、角度制御ループ▲1▼が実質的に停止しても、角速度制御ループ▲2▼と舵角制御ループ▲4▼とが協調して車体の直進状態を安定させる。
この状態では、舵角は平均的には中立であって直進しているから、水平方向の加速度は発生せず、重力加速度のみが作用した状態となっており、前後の車輪の2点だけで接地している二輪車においては、この重力加速度と平衡を保つために車体が直立していると判断できる。この状態を利用して、後述するような角速度センサ22から得られる角速度ωとロール角θの誤差補正動作を実行することができるのである。
なお、前記舵角速度制御ループ▲3▼は、直接アクチュエータを働かせるものだから常に作動させる。前記角度制御ループ▲1▼は、直進中に0点調整するときは、積分手段34から出力されるロール角をリセットもしくは徐々にリセットするので、直進状態の保持にはあまり寄与できない。そこで舵角制御ループ▲4▼が直立・直進状態の保持に寄与する。ただし、そのためには、角速度制御ループ▲2▼も作動して動的安定性を保持しておく必要があるが、角速度の0点調整はゆっくり行われるので支障はない。
舵角制御ループ▲4▼はロール中は不要で、むしろ制御誤差を発生するので、例えば目標値判定手段で判断して直進中以外は働かなくしてもよい。
前述したロール角制御動作によって、本来、ロール角が0°の場合には直進することが保証されるべきものであるが、舵角センサを用いた制御によって、操舵軸4におけるキャスタ効果を電気的に制御できるので、車体の直進性を電気的な制御で補助することが可能になったのである。
このようにして、従来の技術では簡単には実現できなかった直進中、ロール中にそれぞれ適したセンサ・制御システムを使い分けることが可能になったので、相互の欠点を補うことができるようになり以下の種々の利点が派生した。
(1)舵角制御ループ▲4▼を直進中だけに働かせるときには、キャスタ効果制御手段の利得を上げたり、積分要素を加えたりして強力・正確に直進性を向上させることができる。
(2)逆に車体側の前輪まわりのアライメントはロール中に最適となるように設計することが許されるので、前輪回りの設計の自由度が増すという利点が得られる。
従来であれば、直進性の優れたアメリカンタイプのバイクは、運動性が劣り、運動性が優れたバイクは、直進性が劣るというように、直進性と運動性を機械的対応だけで両立させることが難しかったが、本発明によれば、それらの両立が高いレベルで可能となる。
(3)車体固有の自律安定性を多少犠牲にしても良いので、舵角速度を操作量に比例させるしくみも付加でき、小石等のように操舵部に直接働く外乱に対して強くなるとともに、車速・路面抵抗の変化により機械的キャスタ効果の強さが変ることによる影響もおさえられる。
また、操舵部の操作量に対する反応が良くなるので運動性が向上する。
なお、中立点の調節は、センサ位置やソフトウエア上で簡単に行える。
フローチャートの説明
次いで、図7のフローチャートに沿って、ロール角制御装置21の動作を詳細に説明する。
ラジコン送信機(不図示)及びラジコン受信機3に電源を投入する(又は電源リセットを行なう)と、先ずステップS1でデータ等の初期化が行なわれる。
ステップS2では、ラジコン送信機(この時点では各操作スティックが中立位置にある)から送信される信号を受信したラジコン受信機3が、ロール角0°を指示するロール角目標値をPWM信号27として出力するとともに、マイクロコンピュータ29が、前記出力されたPWM信号27のパルス幅(ロール角目標値が0°である場合のパルス幅:以下「中立パルス幅」という)を当該マイクロコンピュータ29内のタイマで読み取り、メモリに記憶する。
中立パルス幅がメモリに記憶された後、操縦者はラジコン送信機の各操作スティックを操作して、ラジコン模型二輪車1の操縦を開始する。同時に、角速度センサ22の出力が直流アンプ28を経由してマイクロコンピュータ29に入力され始める。マイクロコンピュータ29では、直流アンプ28からのアナログ入力を例えば1/500秒といった一定周期ごとにAD変換する。同様に、舵角センサ50の出力もAD変換する。
ステップS3では、直流アンプ28を経て入力された角速度センサ22の出力、および舵角センサ50の出力がAD変換済みであるか否かを判定する。そして、まだAD変換が済んでいなければステップS3に留まり、AD変換済みであればステップS4へ進む。
ステップS4では、車体2のロール軸回りの回転角速度ωを算出する。具体的には、直流アンプ28を経て入力された角速度センサ22出力のAD変換値から補正値(マイクロコンピュータ29内のメモリに記憶されている)を減じて得た値を角速度ω(検出値)とする。なお、ここでAD変換値から補正値を減算するのは、実際に車体2の角速度がゼロである場合でも、角速度センサ22の出力電圧はゼロではなくて、常にある程度の出力(オフセット)を有しており、このオフセット相当分を取り除く必要があるからである。
また、舵角センサ50出力のAD変換値を微分処理して舵角速度を求める。
さらに、算出(検出)された角速度ωを積分して、車体2のロール角θを算出する(積分動作)。また、このステップS5で得られたロール角θ(積分手段34の積分値)を、マイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。
続くステップS5では、その時点でラジコン受信機3から出力されているロール角目標値に係るPWM信号27のパルス幅を読み取り、これが前記ステップS2で記憶した中立パルス幅と等しいか否か(すなわち、ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°であるか否か)を判定する(目標値判定動作)。
そして、パルス幅が中立パルス幅と相違していると判定された場合はステップS6へ進み、中立パルス幅と等しいと判定された場合はステップS7へ進む。
なお、本明細書において、パルス幅が中立パルス幅と等しいとは、パルス幅が、中立パルス幅より僅かに狭い所定のパルス幅以上であって、中立パルス幅より僅かに広い所定のパルス幅以下の所定の範囲に含まれていることを示し、パルス幅が中立パルス幅と等しくない、もしくは相違しているとは、パルス幅が前記所定の範囲に含まれていないことを示している。同様に、ロール角目標値が0°であるとは、ロール角目標値が0°を含む所定の範囲に含まれていることを示している。
ロール操作でステップS6へ分岐すると、キャスタ効果加算量d2を0にして(キャスタ効果制御手段の働きを止めて)ステップS9へ進む。
ステップS9では、前記ステップS4で得たロール角θとラジコン受信機3からのロール角目標値との偏差に基づき操舵用モータ13に対する操作量を算出する。
続くステップS10では、前記ステップS9で算出された操作量に対応した信号を操舵用アンプ30へ出力して、ステップS3へ戻る。
誤差補正の説明
ところで、角速度センサ22が、その出力にドリフト誤差を生じず、オフセットが常に一定であるという理想的な出力特性を有するものであれば、角速度センサ22の出力に基づいて検出(算出)されるロール角θは実際の車体2のロール角θ(図4参照)とほぼ等しくなるので、ロール角θ(検出値)を実際のロール角θと見なした閉ループ制御が問題なく行なえる。しかしながら、一般に角速度センサは温度変化等に伴うドリフト誤差を有しており、特に、この実施形態で角速度センサ22として用いている振動ジャイロではドリフトによってオフセットが大きく変化するので、前記ステップS4における補正値が一定であると、同ステップで得られる角速度ω(検出値)が次第に誤差を含むようになる。また、その角速度ωを積分するステップS5で得られるロール角θ(検出値)は、角速度ωに含まれている誤差が積算される結果、より大きな誤差を含むものとなる。こうしてロール角θが実際のロール角θから次第に離れてゆき、やがて操縦不能に陥るおそれがある。
そのため、この制御では、ラジコン模型二輪車1が直進走行中にステップS8に示す誤差補正動作を実行することにより、前記ドリフト誤差に起因する弊害が生じることを防止している。すなわち、ステップS5で、ラジコン受信機3からのPWM信号27のパルス幅が中立パルス幅と等しい(ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°である)と判定される状態では、キャスタ効果制御手段51を含んだ舵角制御ループ▲4▼の働きと、前輪6から得られる自律安定性により、車体2は原則としてロール角θがほぼ0°の直立状態を保ったまま直進走行しているものと考えられる。
したがって、この状態からステップS7を経由してステップS8へ進んで、角速度センサ22の出力から得られる角速度ω(検出値)をゼロに近付けるとともに、ロール角θ(積分手段34の積分値)を0°に近付ける、以下のような誤差補正動作が実行される。
先ず、ステップS7でキャスタ効果加算量d2を算出し、続くステップS8では、角速度ωに関しては、ドリフトによる角速度センサ22出力のオフセットの変化に応じてオフセットを取り除くための補正値を変化させる、「ゼロ点調整」を行なう。具体的には、前回のステップS4で用いられた補正値に、予め設定されている所定値αを加減算する。ここで、所定値αを加算するか減算するかは、ステップS4で得られた角速度ωの絶対値|ω|を減少させる方向に基づいて決められる。すなわち、所定値αを加算すれば絶対値|ω|が減少する場合には、元の補正値に所定値αを加算し、反対に所定値αを加算すれば絶対値|ω|が増加する場合には、元の補正値から所定値αを減算する。そして、こうした加減算により得られた値を新たな補正値としてマイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。このようにして、次回のステップS4で算出される角速度ωが減少する方向へゼロ点をずらすのである。
なお、所定値αは、想定される角速度センサ22のドリフトに起因する角速度ωの誤差を補正するのに十分間に合う速さであって、且つ必要以上に速くしないような値に設定する。これにより、ステップS8及びステップS4を何回か通過するうちに、角速度ωが徐々にゼロに近付いてゆく。
一方、ロール角θに関しては、ステップS4で算出されたロール角θ(積分値)に、予め設定されている所定値βを加減算する。ここで、所定値βを加算するか減算するかは、ステップS4で得られたロール角θの絶対値|θ|を減少させる方向に基づいて決められる。すなわち、所定値βを加算すれば絶対値|θ|が減少する場合には、元のロール角θに所定値βを加算し、反対に所定値βを加算すれば絶対値|θ|が増加する場合には、元のロール角θから所定値βを減算する。そして、こうした加減算により得られた値を新たなロール角θとしてマイクロコンピュータ29内のメモリに記憶する。
なお、所定値βは、その時点において角速度センサ22のドリフトに起因して積分手段34に蓄積されつつある角速度ωの検出値と、当該誤差補正動作に入る以前から既に積分手段34に蓄積されている誤差とを、徐々に排除できるような値に設定される。これにより、ステップS8を何回か通過するうちに、ロール角θが徐々に0°に近付いてゆく。
このように、角速度ωを徐々にゼロに近付けるとともに、ロール角θを徐々に0°に近付ける構成としているのは、徐々に補正することにより、角速度ωに関しては角速度制御ループ▲2▼の機能を維持し、ロール角θiに関しては角速度制御ループ▲2▼に対する積分補償の効果を残すためである。
なお、角速度センサ22のドリフトが大きいときは、所定値βを比較的大きくして、ステップS8を通過することによってロール角θが速やかに0°にリセットされるように構成することにより、角度制御ループ▲1▼が効かないようにしてもよい。これは、ロール角を、角速度ωを積分して求めているために、誤差補正動作を行っていない状態のときに蓄積される誤差の割合が、角速度ωより大きく、また、誤差補正動作を行っているときの角速度ωの誤差による影響が積分効果で拡大されるのを防ぐためである。
以上のように、ロール角θを強制的に0°にすると角度偏差も常に0°となり、実質的に角度制御ループ▲1▼は機能しなくなるが、角速度制御ループ▲2▼も協調したキャスタ効果制御手段51含んだ舵角制御ループ▲4▼の働きと、車体固有の自律安定性(特にキャスタ効果)によって直進走行が保持される。
さらに、図7では図示を省略したが、ステップS8でソフトウェア上での誤差補正動作が行なわれるのと同時に、図5に符号43で示した、マイクロコンピュータ29から直流アンプ28へのドリフト・オフセット補正出力が、ハードウェア上で行なわれる。この動作は、マイクロコンピュータ29が有するアナログ出力機能と、直流アンプ28が有するゼロ点補正機能とにより実現されるもので、直流アンプ28の出力に含まれるバイアス成分を低減して、マイクロコンピュータ29側の入力飽和を防ぐ目的で行なわれる、精度の粗い補正動作である。
ステップS8で、前記のようにして補正値及びロール角θを変更した後は、ステップS9に進み、前記ステップS5からステップS6を経由してステップS9へ進んだ場合と同様に操作量の算出を行ない、さらにステップS10を経てステップS3へ戻る。
この実施形態のラジコン模型二輪車1に搭載されたロール角制御装置21は、以上のように、前輪6の舵角ではなく車体2のロール角を制御量とし、これを目標値に近付ける制御を行なうものであるため、前記した比例定数A,A,Aに適切な値が設定されてさえいれば、ラジコン模型二輪車1を安定的に制御することが可能である。
すなわち、例えば直進走行状態にあるラジコン模型二輪車1を左旋回させる場合には、操縦者がラジコン送信機のロール角調節用の操作スティックを所望の角度だけ左に倒せば、操舵用モータ13から操舵軸4に、先ず前輪6を右へ向けて車体2を左へ倒す向きのトルクが印加され、また、車体2がロール角目標値を超えて左へ倒れようとしたときには前輪6を左へ向けて車体2が倒れる動きを止める向きのトルクが印加され、最終的には車体2のロール角θがロール角目標値と一致した角度に収束するように制御される。これにより、車体2は図4に示したようにロール角θ(≒θ)で左(正面側から見れば右)にロールし、このロール角θと車速とから自動的に決まる旋回半径で左に旋回走行することになる。
一方、例えば前記した左旋回状態からラジコン送信機のロール角調節用の操作スティックを中立位置に戻した場合には、ロール角目標値が0°となって車体2のロール角θとの間に角度偏差が生じる。このため、操舵用モータ13から操舵軸4に、先ず前輪6を左へ向けて車体2を起こす向きのトルクが印加され、また、車体2が直立状態を超えて右へ倒れようとしたときには前輪6を右へ向けて車体2が倒れる動きを止める向きのトルクが印加され、最終的には車体2のロール角がほぼ0°の直進走行状態に収束するように制御される。
また、この実施形態のロール角制御装置21は角度制御ループ▲1▼に加えて角速度制御ループ▲2▼も備えており、この角速度制御ループ▲2▼によりフィードバックされた角速度ω(検出値)を用いて算出した角速度偏差に応じた操作量を操舵用モータ13へ出力するので、角度偏差の大きさに応じて車体2のロール角速度ωを適切に増減させる動的安定性が得られる。そして、この作用と、前輪6が有するジャイロ効果とにより、車体2のロール軸回りの発振(ハンチング)が防止される。
因みに、この実施形態ではラジコン模型二輪車1の旋回半径(前輪6の舵角)それ自体は直接には制御しておらず、且つ、ロール角制御動作にラジコン模型二輪車1の車速を反映させることもしていない。しかしながら、前輪のジャイロ効果が外乱として舵角速度に作用しうる設定である場合、前輪6のジャイロ効果が車速に比例して大きくなるため、操舵用モータ13へ出力される電流(すなわち操舵軸4に印加される回転トルク)に対する前輪6の舵角の変化量(利得)が車速に反比例して小さくなるのに対し、前輪6の舵角変化に対する車体2のロール軸回りの角速度の変化量(利得)は車速に比例して大きくなり、これら2つの利得の車速による変化が相殺し合うことになるため、実際に車速を検知・勘案しなくても、広い車速域で安定した姿勢制御が行なえる。
なお、前輪のジャイロ効果が外乱として舵角速度に作用しない設定である場合には、実際に車速を検知・勘案して姿勢制御してもよい。
さらに、ロール角目標値が0°の状態では、車体2は舵角制御ループ▲4▼の働きにより原則としてロール角θがほぼ0°の直立状態を保とうとするので、これを利用して前記図7のステップS8で説明した誤差補正動作が自動的に実行される。これにより、ラジコン模型二輪車1を停止させることなく、走行させながら角速度センサ22のドリフト誤差に起因する弊害を防止できる。そのため、ラジコン模型二輪車1を長時間連続して走行させることが可能になる。
ところで、以上の実施形態では、ラジコン受信機3が受信しているロール角目標値が0°であるときのみ誤差補正動作に入るようにしたが、例えば図6において、角速度センサ22の出力側にハイパスフィルタを介装するとともに、積分手段34の積分値から常時所定値を減算して不完全積分とするように構成した場合でも、角速度センサ22のドリフトに起因する制御上の弊害を防止することが可能であり、こうした構成はアナログ回路でも実現できる利点がある。ただし、この場合はゆっくりとした角速度を検出することができないので、旋回している車体が自律安定性およびその他の外乱により徐々にロール角がずれるという傾向が生じる。
2値センサの場合
また、舵角センサとしては、舵角に応じたリニアな信号を出力する必要はなく、少なくとも中立点を境にして舵角が左右の何れに切れているかを検出できるものであれば直進性の補助が可能となる。この場合には種々の光学センサや磁気スイッチ等の2値センサを使用することが可能である。
例えば、図9に示したように、操舵軸と連動して回動する回動板60を設け、この回動板60の周縁に光を透過する透明部分61と透過しない不透明部分62とを設け、直進時における両部分の境界部分にフォトインタラプタ63を配置した構成を使用することができる。
このとき、キャスタ効果制御手段51が比例要素の場合には、図11に示したように、舵角が右切れの場合には所定の右回転トルクが付与され、左切れの場合には所定の左回転トルクが付与される。この場合も、キャスタ効果制御手段51に積分要素を加える場合もある。
このような2値センサの場合には、図6における微分手段の採用が適さないので、図12のようなブロック線図とする。
図12のブロック線図は、図6の舵角速度制御ループ▲3▼を備えていない点以外は実質的に図6と同じであるため、その説明は省略する。
次に、前記ダンパ付き前輪操舵部20Aの詳細例を図13を参照して説明する。
このダンパ付き前輪操舵部20Aは、車体2のフレームに固定された操舵用モータ13と、この操舵用モータ13で駆動されるギア15と、このギア15と連動して回動するように設けられた回動板60とを備え、この回動板60の周縁に図9と同様に形成された透明部分と不透明部分とを検出するために、舵角センサとしてのフォトインタラプタ63が車体2に固定されている。そして、前記ギア15と車体2のフレームの間には粘性材料70が充填されて、ギア15の急激な回動を制動するダンパ機能が与えられている。また、操舵軸は前記ギア15と連動するようにリンク等で連結されている。
ここで、ギア15の回動は粘性材料70によって制動されているので、ギア15は操舵用モータの回転トルクにほぼ比例した角速度で回動する。従って、操舵用モータが操作量にほぼ比例した回転トルクを発生する特性の場合、操作量にほぼ比例した回転トルクで操舵用モータは回動し、この回転トルクにほぼ比例した角速度でギア15と操舵軸が回動することになり、フォトインタラプタのような2値センサを用いた場合でも操舵軸の舵角速度を操作量にほぼ比例させて制御できるのである。
なお、この場合における中立点の調節は、前記フォトインタラプタ63の位置を移動させることによって簡単に行える。
別の態様の例示
角度センサと角速度センサとを別個に設けた場合
また、前記ではロール角検出手段35を角速度センサ22と、この角速度センサ22の出力から得られる角速度ωを積分する積分手段34とから構成したが、例えば図8(舵角速度制御ループ▲3▼、舵角制御ループ▲4▼は図示せず。)に示すように、ロール角検出手段として、車体2のロール角を直接検出する角度センサ45を角速度センサ22とは別個に設け、この角度センサ45が検出したロール角θを加え合せ点31へフィードバックする角度制御ループ▲4▼を構成しても、広い車速域で安定した姿勢制御が行なえるという効果は得られる。
なお、角速度センサ22としては、前記した振動ジャイロ以外に、例えば光ファイバジャイロ、機械式ジャイロ、ガスレートジャイロ等を用いることも考えられる。
ロール角を微分して角速度を得る場合の説明
さらに、例えば、角速度センサ22に代えて角度センサ45が検出したロール角θを微分する微分手段(図示せず。)を設け、この微分手段で算出された角速度ωを加え合せ点へフィードバックする角速度制御ループ▲4▼を構成しても、前記図8の場合とほぼ同様の効果が得られる。
舵角速度を積分して舵角を得る場合の説明
図6に示した舵角センサに変えて、ダイナモ等のように舵角速度を検出し得る検出手段を設け、検出した舵角速度を加え合わせ点52にて加算し、検出した舵角速度を積分して得た舵角をキャスタ効果制御手段51に入力するように構成することもできる。
その他の態様
また、前記では操舵用アクチュエータとして操舵用モータ13を用いたが、モータ以外の操舵用アクチュエータを採用しても、もちろん構わない。
さらに、操舵用アクチュエータの力を操舵軸4又はフロントフォーク5に伝達する機構も前記したものに限られず、フロントフォーク5の回動を妨げないという条件さえ満たしていれば、どのような機構を採用しても構わない。
また、リモコン操作を行う手段としては、電波を用いたラジコン操作に限るものではない。
なお、本発明のロール角制御装置は、模型の二輪車に限らず実際に乗車可能な二輪車にも採用することができる。この場合、ロール角制御装置へ入力される信号を、ラジコン受信機を介することなく直接入力するように構成する。このような構成によって、ロール角を精度よく認識できない人間の代わりに、ロール角制御装置に二輪車を制御させることができるので、操縦性と安全性が向上する。
また、ロール角制御装置へ入力される信号は、PWM信号だけに限られるものではなく、PCM信号等の種々のデジタル信号や、アナログ電圧信号等のアナログ信号を採用することも可能である。
磁石・弾性体による直進性補助
以上においては、舵角センサを用いて直進性補助機能を電気的に実現した例を示したが、図14、15に示したように、一対の磁石の反発力や弾性体の付勢力を利用して、走行中の車体の直進性をある程度補助することが可能である。
図14において、ハンドルアーム18に直交させて連設した腕18aの先端には永久磁石片18bが配設され、車体側には永久磁石片18cが配設されている。そして、中立状態において前記2つの永久磁石片18b、18cの磁力線が真正面から対向するとともに、前記2つの永久磁石片18b、18cの両極を結ぶ線が操舵軸4を通るように配設されている。
以上のように位置決めして配設されていることによって、中立状態から左右の何れかに僅かにでもずれると、両永久磁石片による反発力の向きは操舵軸4に向かう方向からずれるために、操舵軸4に対する回転トルクが発生して安定状態は崩れる。従って、中立状態からの僅かなずれが発生した場合であっても、磁石の反発力によってそのずれを大きくして、充分なキャスタ効果が得られるので、操舵軸4は中立状態に復元し、車体の直進性が補助されるのである。
次に、図15においては、引っ張りバネの収縮力を利用して、中立状態における車体の直進性を補助する機能を実現した例の要部の平面図を示している。
図15において、ハンドルアーム18に直交させて連設した腕18eの先端18fには弾性体としての引っ張りバネ18gの一端が連結されている。前記引っ張りバネ18gの他端は、車体側の一点18hに連結されている。そして、中立状態において前記腕18eの先端18fと車体側の一点18hとを結ぶ直線が、操舵軸4を通るように位置決めして配設されている。
以上のように位置決めして配設されていることによって、中立状態から左右の何れかに僅かにでもずれると、引っ張りバネ18gによる収縮力によって、操舵軸4に対する回転トルクが発生して安定状態が崩れる。従って、操舵軸4の中立状態からのずれをさらに大きくして、充分なキャスタ効果が得られるので、操舵軸4は中立状態に復元し、車体の直進性が補助されるのである。
特徴
次に、本発明によるロール角制御装置の特徴をまとめる。
そもそも、リモコン二輪車の制御のためには、まず、直進中の二輪車の姿勢制御のために、また、ロールするときのロール角の基準を決めるために傾斜計(重力センサ)のように重力加速度の方向を認識する機能が求められるが、重錘や加速度計を利用した傾斜計では、水平方向の加速度が働くと誤差を生じるし、これを排除しようといろいろ対策すると応答性(周波数特性)が悪くなるので、走行中の二輪車のような動的な制御には適さない。そこで、動的に使用可能な周波数特性の良い傾斜認識手段が必要となっている。
一方、ロール中の二輪車の姿勢制御のためには、車体の姿勢の変化を高速で認識するために、各種ジャイロセンサのような反応が速い(「周波数特性が良い」。)角度・角速度検出機能が求められるが、ジャイロは温度変化によるドリフト誤差や地球の自転等による誤差等を免れないので、誤差を補正する必要があり、誤差を補正するためには、基準となる状態、例えば車体が直立している状態を提供する手段が必要となる。
そこで、本発明では、簡単な舵角検出手段とジャイロを用いたロール角制御手段を用いて、「直進」の操作をしたときにはロール角制御装置がこれを自動的に認識し、車体の直進性を電気的に補助する制御モードへ移行して、直進中には車体が直立している状態を従来より高い精度で維持することを可能にしたのである。
本発明のロール角制御手段によって維持される直進状態では、舵角は平均的には中立であって直進しているから、水平方向の加速度は発生せず、重力加速度のみが作用した状態となっており、前後の車輪の2点だけで接地している二輪車においては、この重力加速度と平衡を保つために車体が直立している状態を維持していると判断できる。
即ち、センサ単体によらず、精度の高い姿勢制御によって間接的ながらも直進中の車体の直立状態を認識でき、また、ロール中は周波数特性の良いジャイロで直立状態からの姿勢変化を認識できるということは、実質的に、動的に使用可能な周波数特性のよい傾斜認識手段が実現できたことにほかならない。本発明では、二輪車固有の特性を利用しつつ、また、2種類のセンサで特徴づけられる二重の制御システムを合理的に協調動作させることにより、この実質的に周波数特性のよい傾斜認識手段によってロール角制御を行っていることが特徴になっている。
また、直進中の制御モードとロール中の制御モードにおいて、角速度制御ループ等の部分的な制御ループ等を共用しているので、相互に完全に独立した制御システムと異なり、全体的な構成にムダが無く合理的であるとともに、操縦者が意識しない程スムーズに相互のモードへ移行できるようになって、極めて優れた操縦性が得られるのである。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明に係るロール角制御装置によれば、リモコン二輪車のロール角を検出し、このロール角の検出値をロール角目標値に近付ける制御が行なわれるので、リモコン操縦者の操縦操作を容易にすることができ、しかも低速から高速までの広い速度域でリモコン二輪車の姿勢を安定させることが可能となる。
また、少なくとも中立点を境にして舵角が左右の何れに切れているかを検出して、舵角が右切れ方向の場合には右回転トルクを付加し、左切れ方向の場合には左回転トルクを付加するように電気的なキャスタ効果制御手段を構成したので、リモコン二輪車の直進性を電気的に補助することができ、安定した走行が可能となる。
また、本発明によれば、ロール角目標値が0°であると判定されたときに、直進性を保持したままで誤差補正動作が実行されるので、リモコン二輪車を停止させることなく角速度センサのドリフト誤差に起因する制御上の弊害を防止することが可能となる。また、リモコン二輪車の直立状態を検出するためにリングレーザジャイロのような高価なセンサを必要しないという利点も得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体本体と、この車体本体の前部に所定のキャスタ角で支持された操舵軸と、前輪を支持するとともに前記操舵軸を中心として左右に回動するフロントフォークと、前記車体本体の後部側に設けられ原動機により回転駆動される後輪と、前記車体本体に搭載されたリモコン受信機とを備えたリモコン二輪車におけるロール角制御装置であって、
前記車体本体のロール角を検出するロール角検出手段と、
前記操作軸又は前記フロントフォークに左右何れの方向の回転トルクをも付加し得る操舵用アクチュエータと、
前記ロール角検出手段によるロール角検出値と前記リモコン受信機からのロール角目標値とに基づき前記操舵用アクチュエータに対する操作量を出力して前記ロール角検出値を前記ロール角目標値に近付けるように制御する制御手段と、
少なくとも中立点を境にして舵角が左右の何れに切れているかを検出する舵角検出手段とを備えるとともに、
前記制御手段は、舵角検出手段にて検出した舵角が右切れ方向の場合には、前記操舵用アクチュエータを介して前記操作軸又は前記フロントフォークに右回転トルクを付加し、舵角検出手段にて検出した舵角が左切れ方向の揚合には、前記操舵用アクチュエータを介して前記操作軸又は前記フロントフォークに左回転トルクを付加するような信号を、操舵用アクチュエータに対する操作量に付加するように構成したことを特徴とするリモコン二輪車のロール角制御装置。
【請求項2】
ロール角検出手段が、車体本体のロール軸回りの回転角速度を検出するための角速度センサと、この角速度センサから得られる角速度検出値を積分して前記車体本体のロール角を算出する積分手段とから構成されており、
さらに、リモコン受信機が受信したロール角目標値が0°であるか否かを判定する目標値判定手段と、
この目標値判定手段がロール角目標値は0°であると判定しているときに前記角速度センサから得られる角速度検出値が減少するようにゼロ点調整し、同時に前記積分手段の積分値を減少させる補正を行なう誤差補正手段と
を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のリモコン二輪車のロール角制御装置。

【国際公開番号】WO2004/054678
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【発行日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560593(P2004−560593)
【国際出願番号】PCT/JP2003/007644
【国際出願日】平成15年6月16日(2003.6.16)
【出願人】(501485009)
【Fターム(参考)】