説明

リラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を有する物質

【課題】ヒトの大脳から生じるα脳波を増強させ、これによりリラックス作用、集中力増強作用ならびに抗ストレス作用を呈する物質を得る。
【解決手段】イソチオシアネート類を含有し、ヒトの大脳から生じるα脳波を増強させ、これによりリラックス作用、集中力増強作用ならび抗ストレス作用を呈することを特徴とするリラックス作用、集中力増強作用ならびに抗ストレス作用のある物質。好ましいイソチオシアネートとして、特に6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大脳のα波増強作用を有し、リラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用をもたらす物質に係り、さらに、このリラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈する物質を有効成分として含有する香料、食品、飲料、化粧品、医薬品または日用品雑貨類に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、様々な原因により物理的、心理的、社会的なストレスが増加しており、それによる各種疾患が問題となっている。例えば、生活習慣病や肥満、認知症やうつ病などが挙げられる。また社会的、経済的にも労働者のうつ病患者や自殺者の増加、医療費の増加などが問題となっている。
【0003】
このことから、日常生活において誰でも手軽にストレスによるダメージを緩和し、リラックスできるような食品や日用品などの開発が求められている。
【0004】
心身がリラックスしているかどうかを客観的に測定し、評価する方法としては脳波を測定する方法が有効とされ、一般的に用いられている。脳波は、ヒトの脳から生じる電気活動を頭皮上などに置いた電極で記録し観察する方法である。脳から出る微弱な電流を記録した脳波は、周波数範囲によってδ波、θ波、α波、β波に分けられる。その中でもα波は心が落ち着きゆったりとした気分の時に現れるため、リラックスの指標として挙げられる。また、ストレス状況下においては、α波は出現しないため、α波はストレスの程度の指標ともなる。
【0005】
リラックスや集中力の増強、抗ストレス作用をもたらす成分としては、テアニン(特開平09−012454)、カフェインおよびユリ科植物ナルコユリ由来の黄精抽出物(特開2008−063281)、パラチノース(特開2004−002383)、マクラジャ果汁(特開平07−126179)等がある。しかし、現在知られているリラックスや集中力の増強、抗ストレス作用をもたらす成分は頻繁にかつ相当量摂取しないと効果が得られない場合が多く、日常生活において活用し難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−012454
【特許文献2】特開2008−063281
【特許文献3】特開2004−002383
【特許文献2】特開平07−126179
【0007】
イソチオシアネート類は主にアブラナ科の植物などに含まれている成分であり、抗菌、抗カビ作用があることなどから、食品としてはもちろん、それ以外にも抗菌剤などの日用品としても使用されている。
【0008】
しかしながら、これまでにイソチオシアネート類に関して、α波増強作用は報告されておらず、リラックス作用、集中力増強作用または抗ストレス作用の報告もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、リラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈する物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の物質によれば、イソチオシアネート類を含有し、大脳から生じるα波の増強作用を有し、それによりリラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈することを特徴とする。
【0011】
さらに上述の課題を解決するために、本発明の香料、食品、飲料、化粧品、医薬品または日用品雑貨類によれば、イソチオシアネート類を含有し、大脳から生じるα波の増強作用を有し、リラックス作用、集中力増強作用、抗ストレス作用を呈することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明はイソチオシアネート類を含有し、大脳から生じるα波増強作用を呈するようにしたことにより、リラックス作用、集中力増強作用ならびに抗ストレス作用を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験品と対照品を嗅いだ時のα波の平均値を、吸入させる前の値を100とした場合の相対値で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に詳述する。
【0015】
本発明の物質は、イソチオシアネート類を含有することを特徴としており、イソチオシアネート類を単独で、あるいは任意に希釈して使用する。
【0016】
本発明に用いられるイソチオシアネート類は、4−メチルスルフィニルブチルイソチオシアネート、5−メチルスルフィニルベンチルイソチオシアネート、6−メチルスルフィニルへキシルイソチオシアネート、7−メチルスルフィニルヘプチルイソチオシアネート、8−メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、第2級ブチルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソチオシアネート、5−ヘキセニルイソチオシアネート、5−メチルチオベンチルイソチオシアネート、6−メチルチオヘキシルイソチオシアネート、7−メチルチオヘプチルイソチオシアネート、8−メチルチオオクチルイソチオシアネート、8−フェネチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルイソチオシアネート、フェネチルイソチオシアネート等が挙げられ、これらを単独で、あるいは複数種を組み合わせて使用される。なお、本発明で使用できるイソチオシアネート類は、上記の化合物に限定されるもではなく、イソチオシアネート類全てが原料として使用できる。
【0017】
上述のイソチオシアネート類は、化学的に合成されたものにおいても有効であり、その合成法、起源物質により効果に違いは無く、本発明には全く影響を及ぼすものではない。
【0018】
化学合成法の一例を示せば、以下のとおりである。
不活性溶媒中、好ましくは、塩基の存在下、式


C=CH−Y−X


(式中、RおよびRは各々独立して水素原子または低級アルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Yは幹部分の炭素数が2〜10である直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基を示す。)で表されるアルケニルハライドをチオシアン酸塩と反応させ、得られたチオシアン酸アルケニルを極性非プロトン溶媒中で異性化し、


C=CH−Y−NCS


(式中、R、RおよびYは、前述したものと同一意義を有する。)
で表されるイソチオシアネートを得る。(特開平02−221255参照)
【0019】
本発明において、イソチオシアネート類はアブラナ科植物を主成分とした天然資源より得ることができる。また、その方法としては粉砕またはすりおろし処理、溶媒による抽出処理、乾燥処理を単独または組み合わせ処理が挙げられるが、本発明に関して、その方法は一切限定されるものではない。
【0020】
上述のイソチオシアネート類を含む原料としては以下のようなものが挙げられる。例えば、バティス科(Bataceae)、アブラナ科(Brassicaceae)、ブレッシュネイデラ科、(Bretschneideraceae)、フウチョウソウ科(Capparaceae)、パパイア科(Caricaceae)、トウダイグサ科(Bupharbiaceae)、ギロステモン科(Gyrastemonaceae)、リムナンテス科(Limnanthaceae)、ワサビノキ科(Moringaceae)、ペンタディプランドラ科(Pentadiplandraceae)、ヤマゴボウ科(Phytolaccaceae)、トベラ科(Pittosporaceae)、モクセイソウ科(Resedaceae)、サルウァドラ科(Salvadoraceae)、トウァリア科(Tovariaceae)、ノウゼンハレン科(Tropaeolaceae)の植物、例えば、Batia maritime(和名不詳)、本わさび(Wasabia japonica)、西洋わさび(Armoracia rusticana)、からし(Brassica juncea)、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ナズナ(Capsella bursa-pastoris)、クレソン(Nasturtium officinale)、Bretschneidera sinensis(和名不詳)、ケッパー(Capparis spinosa)、パパイア(Carica papaya)、Drypetea roxburghii(別名;Putranjiva roxburghii、和名不詳)、Tersonia bravipes(和名不詳)、Limnanthes douglasii(和名不詳)、ワサビノキ (Moringa oleifera)、Pentadiplandra brazzeana(和名不詳)、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)、Bursaria spinosa varincana(和名不詳)、シノブモクセイソウ(Reseda alba)、Salvadora persica(和名不詳)Tbvaria pendula(和名不詳)、キンレンカ(Tropaeolum majus)等が使用できる。ただし、本発明で使用できるイソチオシアネート類は、上記の植物種から得られるものに限定されるものではなく、イソチオシアネート類を含有する全ての天然資源が原料として使用できる。
【0021】
本発明におけるリラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈する物質の利用方法としては、経口摂取、揮発した成分の臭いを嗅ぐ、あるいは曝露するといった方法が挙げられる。
【0022】
上述の本発明に係るリラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈する物質は、単独で利用することも可能であるが、香料、食品、飲料、化粧品、医薬品、日用品または雑貨類に添加して使用することもできる。具体的には、食品用香料製剤、化粧品用香料製剤、医薬品香料製剤等の香料、菓子、米飯類、パン類、麺類、惣菜、調味料等の食品、清涼飲料水、コーヒー、茶飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、野菜飲料、栄養ドリンク剤、スポーツドリンク、アルコール飲料等の飲料、化粧水、乳液、石鹸、香水等の化粧品、粉末状、顆粒状、カプセル状、液体状、錠剤等の医薬品に添加することができる。
【0023】
本発明のリラックス作用、集中力増強作用および抗ストレス作用を呈する物質は、一般的な香料と併せて用いることができる。
【0024】
本発明に用いることができる香料はインドール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、脂肪酸類、脂肪族高級アルコール類、脂肪族高級アルデヒド類、脂肪族高級炭化水素、チオエーテル類、チオエーテル類、テルペン系炭化水素類、フェノールエーテル類、フェノール類、フルフラール類、芳香族アルコール類、芳香族アルデヒド類、ラクトン類、フラン類、天然香料から選択されるひとつ、あるいは複数種の混合物である。
【0025】
本発明の物質は日用品雑貨類に添加して使用することもできる。具体的には、トイレタリー製品、固形または液体またはスプレー状の芳香剤、マスク、包帯、おむつ、鼻栓等の衛生用品、洗剤、柔軟剤、文具、壁紙等に添加することができる。
【0026】
本発明において、商品の正味の重量に対して、上述のイソチオシアネート類を100重量%から0.001重量%の含有量で添加し、混合して使用する。特に有効性と官能の観点から、飲食品の場合は1重量%から0.01重量%が望ましく、香粧品の場合は10重量%から0.05重量%が望ましく、芳香剤の場合は100重量%から0.1重量%が望ましい。
【0027】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【実施例1】
【0028】
6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートが脳波に及ぼす影響を計測し、リラックス作用を検討した。
9ml容量のフタ付きガラス瓶に脱脂綿(1cm四方)を入れ、ガラス瓶の中の脱脂綿に15mgの6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートに染み込ませた物を試験品とした。また、9ml容量のフタ付きガラス瓶に脱脂綿(1cm四方)を入れ、ガラス瓶の中の脱脂綿に何も染み込ませなかった物を対照品とした。試験は、2名の被験者において、非盲検、同日において交互試験とした。空腹時の午前中、室温25℃、照度40ルックスの室内にて行った。被験者は背もたれのある椅子に座り、測定用の電極を装着し、座位の状態で脳波を記録した(脳波計;Neurofax, 日本光電社製、脳波解析装置;ATAMAP II,キセイコムテック社製)。測定開始より10分後に、測定者が対照品を被験者の鼻に近づけ、1分間自由に吸入させた後、20分間脳波測定を行った。その後、連続して10分間脳波を測定し、試験品を1分間自由に吸入させた。その後、20分間脳波を測定した。
【0029】
図1に、試験品と対照品を嗅いだ時のα波の平均値を、吸入させる前の値を100とした場合の相対値で示した。被験者1、被験者2ともに対照品を嗅いだ時と比べ、α波の出現が増加し、リラックスした状態であることが分かった。この結果は、日常のストレスをも解消し得ることを示している。
【実施例2】
【0030】
6−メチルチオヘキシルイソチオシアネート配合食品が計算力に及ぼす影響を計測し、集中力増強作用を検討した。
6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートを配合したグミを製造した。配合は表1に示すとおりである。グミの摂取量は、6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートが1日に1mg摂取できる量とした。このグミを11名の被験者に摂取させ、摂取前、14日後28日後100マス計算(2桁+2桁)を行い、成績を記録した。
【0031】
【表1】

【0032】
100マス計算の正解数の平均値は、摂取前が148.9、14日後が172.1、28日後が188.1であり、摂取日数を経るごとに成績が向上した。また、摂取前と28日後では統計的に有意に改善が見られた。このことから、6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートを配合したグミを摂取することにより、集中力が高められ、計算力が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のリラックス作用、集中増強作用および抗ストレス作用を呈する物質は、イソチオシアネート類を含有するものであり、リラックス作用、集中増強作用および、抗ストレス作用をもたらすものである。イソチオシアネート類はアブラナ科などの植物に含まれている成分であり、古来より食品などとして利用されてきた実績があることから、本物質も副作用の少ない安全なものとして利用できる。あらゆる側面からのストレスが増加している現代社会において、本物質は人間のリラクゼーション、集中力向上、抗ストレスのために、簡便かつ安心して利用できるものである。






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチオシアネート類を含有し、ヒトの大脳から生じるα波を増強させ、リラックス作用、集中力増強作用ならび抗ストレス作用を呈することを特徴とするリラックス作用、集中力増強作用ならびに抗ストレス作用のある物質。
【請求項2】
請求項1において、イソチオシアネート類が6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートである請求項1の物質。
【請求項3】
請求項1において、イソチオシアネート類が4−メチルスルフィニルブチルイソチオシアネート、5−メチルスルフィニルペンチルイソチオシアネート、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート、7−メチルスルフィニルヘプチルイソチオシアネート、8−メチルスルフィニルオクチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、第2級ブチルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソチオシアネート、5−ヘキセニルイソチオシアネート、5−メチルチオペンチルイソチオシアネート、7−メチルチオヘプチルイソチオシアネート、8−メチルチオオクチルイソチオシアネート、β−フェネチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、フェニルイソチオシアネート、フェネチルイソチオシアネートの中から選択される一種または複数種である請求項1の物質。
【請求項4】
請求項1において、イソチオシアネート類はアブラナ科植物を主成分とした天然資源より得られる請求項1の物質。
【請求項5】
請求項1において、イソチオシアネート類は化学的に合成される請求項1の物質。
【請求項6】
請求項1において、香りを嗅ぐか、または香りの曝露によりヒトの大脳から生じるα波を増強させ、リラックス作用、集中力増強作用ならび抗ストレス作用を呈す請求項1の物質。
【請求項7】
請求項1において、リラックス作用、集中力増強作用ならび抗ストレス作用を呈する物質は香料、食品、飲料、化粧品、医薬品、日用品または雑貨類に添加して使用される請求項1の物質。


【図1】
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【公開番号】特開2010−280573(P2010−280573A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132890(P2009−132890)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(591011007)金印株式会社 (20)
【Fターム(参考)】