説明

リンク式ペダル後退抑制機構

【課題】トリガと車体側部材との間隔を組付時には広くして組付性の向上を図り、組付後は間隔を狭くして作動の確実性を高めることができるリンク式ペダル後退抑制機構を提供すること。
【解決手段】ペダルブラケット8にペダル軸3によって回動可能に軸支されたペダルアーム2の回動運動をマスタシリンダ9のプッシュロッド9aに伝えるリンク機構16と、前記ペダルブラケット8に取り付けられたトリガ15を含んで構成される機構であって、前記トリガ15がこれの車両後方に配されたコラムブラケット(車体側部材)50と当接することによって該トリガ15が前記リンク機構16の第2リンク19を押圧して該第2リンク19の前記ペダル軸3との係合を解除し、前記ペダルアーム2の後退を抑制するリンク式ペダル後退抑制機構において、前記トリガ15に、コラムブラケット50に向かって延長可能な可動の延長部15Bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方からの衝撃荷重を受けてダッシュパネルが車両後方に移動する動作に連動してペダルアームを車両前方へ回動させるリンク式ぺダル後退抑制機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキペダル装置やクラッチペダル装置は、ダッシュパネルに取り付けられたペダルブラケットに上端部が回動可能に軸支されたペダルアームをそれぞれ備えており、各ペダルアームのペダルを踏み込むことによって、その変位量をブレーキマスタシリンダ或いはクラッチマスタリンダに伝達することによって所要の制動或いは変速操作を行うものである。
【0003】
ところで、マスタシリンダはダッシュパネルに直接取り付けられているため、車両前方からの大きな衝撃荷重によってダッシュパネルが車両後方へ移動すると、該ダッシュパネルに取り付けられているマスタシリンダも車両後方へ移動し、そのプッシュロッドがペダルアームを車両後方へと回動させるという問題がある。
【0004】
そこで、車両前方からの衝撃荷重を受けてダッシュパネルが車両後方に移動する動作に連動してペダルアームを車両前方へ回動させるリンク式ぺダル後退抑制機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、リンク式ぺダル後退抑制機構の一例を図10及び図11に基づいて以下に説明する。
【0005】
即ち、図10は従来のリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の破断側面図、図11は同ブレーキペダル装置の正面図であり、図示のブレーキペダル装置101のペダルアーム102は、その上端がペダル軸103によってペダルブラケット108に車両前後方向に回動可能に軸支されている。ここで、ペダルブラケット108はダッシュパネル107に取り付けられており、該ペダルブラケット108の後方にはステアリングコラム151を車体に取り付けるためのコラムブラケット150が位置している。
【0006】
而して、リンク式ぺダル後退抑制機構は、ペダル軸103とペダルアーム102とを連結するリンク機構116とペダルブラケット108に取り付けられたトリガ115を含んで構成されている。ここで、リンク機構116は、ピン117によって互いに連結された第1リンク118と第2リンク119とで構成されており、第1リンク118の中間部はペダルアーム102の中間部に軸120によって回動可能に連結されている。又、第2リンク119の上端には半円状に切り欠かれたフック状の係合部119aが形成され、この係合部119aは通常時(車両前方から大きな衝撃荷重が加わらない場合)には図示のようにペダル軸103の外周に車両前方から係合している。
【0007】
ところで、ダッシュパネル107にはブレーキマスタシリンダ109が取り付けられており、このブレーキマスタシリンダ109から車両後方に向かって延びるプッシュロッド109aの端部は前記第1リンク118の下端部にピン127によって連結されている。又、前記ペダル軸103の外周にはリターンスプリング129が巻装されており、該リターンスプリング129の一端はペダルブラケット108に係止され、他端は第1リンク118に係止され、リンク機構116のガタはリターンスプリング129による第1リンク118の付勢によって吸収されるよう構成されている。
【0008】
前記トリガ115は板金のプレス成形によって側面視コの字状に形成された偏平な部材であって、図11に示すように、ペダルブラケット108の左右の側壁108A,108Bの間に配され、その先端部に横方向に突設された当接片115aは、通常時には、第2リンク119の後方に、該第2リンク119との間に所定の隙間を設けた状態で位置している。
【0009】
以上のように構成されたリンク式ペダル後退抑制機構を備えたブレーキペダル装置101において、通常時に運転者がペダルアーム102の下端に取り付けられたペダル105を踏み込むと、ペダルアーム102はペダル軸103を中心として車両前方へと回動し、このペダルアーム102の回動はリンク機構116を介してプッシュロッド109aに伝達され、ブレーキマスタシリンダ109が駆動されて所要の制動がなされる。
【0010】
ところで、車両が前方から大きな衝撃荷重を受けた場合には、ダッシュパネル107がこれに取り付けられたペダルブラケット108及びブレーキマスタシリンダ109と共に車両後方へと移動するため、ペダルブラケット108に取り付けられたトリガ115も一体に車両後方へと移動し、該トリガ115の後部が車体側のコラムブラケット150に当接する。すると、トリガ115は、その一部が変形し、下端に突設された当接片115aがリンク機構116の第2リンク119の中間部を車両前方へと押圧し、これによって第2リンク119の上端の係合部119aがペダル軸103から外れてフリーとなる。
【0011】
上述のように第2リンク119の係合部119aがペダル軸103から外れてフリーとなると、第1リンク181はリターンスプリング129の付勢力によって図10の反時計方向に回動するため、ペダルアーム102はペダル軸103を中心として車両前方へと回動して退避し、該ペダルアーム102の後退が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4006676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図10及び図11に示したブレーキペダル装置101においては、組付性の点からトリガ115とコラムブラケット150との間には通常30〜40mmの間隔δ(図10参照)が必要である。そして、更に組付性を向上させるためには、より広い間隔が必要となっていた。しかし、組付性のみを考慮してトリガ115とコラムブラケット150との間の間隔を広くすると、車両前方からの大きな衝撃荷重によってダッシュパネルが車両後方へ移動するときの車体変形の誤差等によってトリガ115とコラムブラケット150が確実に当接せず、トリガ115によって第2リンク119のペダル軸103との係合が外れない可能性があるという問題があった。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、トリガと車体側部材との間隔を組付時には広くして組付性の向上を図り、組付後は間隔を狭くして作動の確実性を高めることができるリンク式ペダル後退抑制機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ペダルブラケットにペダル軸によって回動可能に軸支されたペダルアームの回動運動をマスタシリンダのプッシュロッドに伝えるリンク機構と、前記ペダルブラケットに取り付けられたトリガを含んで構成される機構であって、前記トリガがこれの車両後方に配された車体側部材と当接することによって該トリガが前記リンク機構のリンクを押圧して該リンクの前記ペダル軸との係合を解除し、前記ペダルアームの後退を抑制するリンク式ペダル後退抑制機構において、
前記トリガ又は前記車体側部材の一方から他方に向かって延長可能な可動の延長部を設けたことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記延長部をこれが延長した状態で前記トリガ又は前記車体側部材との間に所定の間隔が確保されるよう配置するとともに、該延長部の延長状態を維持するストッパ機構を設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記トリガを前記ぺダルブラケットに取り付けられた本体部とこの本体部に相対回転可能に軸支された前記延長部とで構成するとともに、これらの本体部と延長部の各周縁部に形成された係合溝と両係合溝に係合するストッパ軸及び該ストッパ軸を係合方向に付勢する付勢手段とで前記ストッパ機構を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、組付時には延長部をトリガ又は車体側部材に収納して両者の間隔を広くして組立性を高めることができる。そして、組立後は延長部を延長して該延長部とトリガ又は車体側部材との間隔を狭くすれば、車両前方からの大きな衝撃荷重によってダッシュパネルが車両後方へ移動するときの車体変形の誤差等によらずトリガとステアリングコラムとを確実に当接させてリンクのペダル軸との係合をトリガによって解除することができ、当該リンク式ぺダル後退抑制機構を安定的に作動させてペダルの後退を確実に抑制することができる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、ストッパ機構によって延長部の延長状態が維持され、この延長状態で延長部とトリガ又は車体側部材との間に組立時よりも狭い間隔が確保されるため、車両前方からの大きな衝撃荷重によってダッシュパネルが車両後方へ移動するときにトリガと車体側部材(ステアリングコラム等)とを確実に当接させてリンクのペダル軸との係合を解除することができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、トリガの本体部と延長部の各周縁部に形成された係合溝と両係合溝に係合するストッパ軸及び該ストッパ軸を係合方向に付勢する付勢手段とでストッパ機構を簡単に構成することができ、このストッパ機構によって延長部を延長状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の分解斜視図である。
【図2】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の組立時の状態を示す破断側面図である。
【図3】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の組立時の状態を示す正面図である。
【図4】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の組立後の状態を示す破断側面図である。
【図5】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の車両前方から衝撃荷重が加わったときの状態を示す破断側面図である。
【図6】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構のトリガの分解斜視図である。
【図7】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構のトリガの組立時の状態を示す側面図である。
【図8】図7の矢視A方向の図である。
【図9】本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構のトリガの組立後の状態(延長状態)を示す側面図である。
【図10】従来のリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の破断側面図である。
【図11】従来のリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明に係るリンク式ペダル後退抑制機構を備えるブレーキペダル装置の分解斜視図、図2は同ブレーキペダル装置の組立時の状態を示す破断側面図、図3は同ブレーキペダル装置の組立時の状態を示す正面図、図4は同ブレーキペダル装置の組立後の状態を示す破断側面図、図5は同ブレーキペダル装置の車両前方から衝撃荷重が加わったときの状態を示す破断側面図、図6はトリガの分解斜視図、図7は同トリガの組立時の状態を示す側面図、図8は図7の矢視A方向の図、図9は同トリガの組立後の状態(延長状態)を示す側面図である。
【0024】
本実施の形態に係るブレーキペダル装置1は、ペダルアーム2を備えており、このペダルアーム2は、パイプ材によって構成され、その上端部には図1に示すように円筒状のペダル軸3が横方向に挿通固着されている。そして、ペダルアーム2の中間部には不図示の円孔が横方向に貫設され、この円孔の左右の開口部にはブッシュ4が嵌着されている。又、ペダルアー2の下端部には運転者が足で踏み込むためのペダル5が取り付けられており、ペダルアーム2の前記ペダル軸3よりも下方の右側には、該ペダルアーム2の動作を伝えて不図示のブレーキランプスイッチを押圧操作するための板金製の押圧部材6が取り付けられている。尚、ペダル5は、図1に示すように、ペダルアーム2の下端に結着された略矩形の金属プレート5a上にゴム製のペダルパッド5bを接着して構成されている。
【0025】
又、図2に示すように、車両のエンジンルームS1と車室S2とを区画するダッシュパネル7には、ペダルブラケット8とブレーキマスタシリンダ9(車室S2内の部分のみ図示)が取り付けられている。ここで、ペダルブラケット8は、板金製部材であって、車幅方向に配された左右の側壁8A,8Bのフランジ8a,8bが不図示のボルトによって締結されることによってダッシュパネル7の車室S2側の面に取り付けられている。
【0026】
そして、図1に示すように、ペダルブラケット8の左右の側壁8A,8Bの相対向する位置にはボルト挿通孔8c(図1には一方のみ図示)がそれぞれ形成されている。尚、右側の側壁8Bにはブラケット10が形成されており、このブラケット10に形成された円孔状の係合孔10aには前記押圧部材6によってペダルアーム2の動きを感知して車両の不図示のブレーキランプを点灯させるブレーキランプスイッチが嵌め込まれて固定されている。
【0027】
ここで、ペダルアーム2の上端部は次の取付構造によってペダルブラケット8に車両前後方向に回動可能に支持されている。
【0028】
即ち、図1に示すように、ペダルアーム2の上端部に横方向に挿通固着された前記ペダル軸3の内部には円筒状のカラー11が挿通され、該カラー11の軸方向両端部の外周には摺動抵抗軽減用及び位置決め用のブッシュ12がそれぞれ嵌め込まれる。そして、この状態を保ったまま、ペダルアーム2の上端部をペダルブラケット8の左右の側壁8A,8Bの間に嵌め込み、ペダルブラケット8の右側の側壁8Bに形成された前記ボルト挿通孔8cに右側方から挿通するボルト13をカラー11の内部に通し、該ボルト13のペダルブラケット8の左側の側壁8Aに形成された前記ボルト挿通孔8cから左側方へと突出するボルト13のネジ部に螺合するナット14を締め付けることによって、ペダルアーム2の上端部がペダルブラケット8にボルト13を中心として車両前後方向に回動可能に取り付けられる。
【0029】
而して、本実施の形態に係るブレーキペダル装置1には、車両が前方から大きな衝撃を受けた場合にペダルアーム2を車両前方へと回動させてその後方への移動を抑制するためのリンク式ペダル後退抑制機構が設けられており、このリンク式ペダル後退抑制機構は、ペダルブラケット8に取り付けられたトリガ15と、ペダルアーム2とペダル軸3及び前記ブレーキマスタシリンダ9とを連結するリンク機構16を含んで構成されている。
【0030】
上記リンク機構16は、ペダルアーム2の左側部に配置されており、ピン17によって互いに連結された第1リンク18と第2リンク19とで構成されている。そして、第2リンク19の上端には半円状に切り欠かれたフック状の係合部19a(図1参照)が形成され、この係合部19aは図4に示す通常時(車両前方からの大きな衝撃を受けないとき)にはペダル軸3の外周に車両の前方側から係合している。又、第1リンク18の中間部は、これに横方向に突設された軸20を左右のブッシュ4及びペダルアーム2に形成された不図示の円孔に通し、その端部にスナップリング21を係止することによってペダルアーム2に回動可能に連結されている。
【0031】
前記トリガ15は、その後方に配置される車体側部材である前記コラムブラケット50に接近する方向に延長可能であり、図6〜図9に示すように、本体部15Aとこの本体部15Aに回動可能に軸支された延長部15Bとで構成されている。ここで、本体部15Aは、板金によって側面視コの字状の枠体として形成されており、その左右の側壁15aの上端部の相対向する箇所には円孔15bが形成され、両側壁15aの下部コーナー部には切欠き状の係合溝15cがそれぞれ形成されている。
【0032】
又、トリガ15の延長部15Bは、板金によって扇状に成形された左右一対の側壁部材15dの各上端部をスリーブ22によって連結して枠状に形成されており、左右の側壁部材15dの外周はスリーブ22の軸心(延長部15Bの回動中心)を中心とする2段の円弧(大径の円弧と小径の円弧)として形成されている。そして、大径の円弧と小径の円弧の切り替えは、左右の側壁部材15dの外周の相対向する箇所に配置され、この切替箇所は段状のストッパ15eとしてそれぞれ形成されており、後述するストッパ軸25と当接して延長部15Bが本体部15A内に入り込み過ぎることを阻止している。更に、各小径側の外周のストッパ15eと反対側となる端部の相対向する位置には切欠状の係合溝15fがそれぞれ形成されている。尚、左右の側壁部材15dの上端部には、前記スリーブ22の内部に連通する円孔15gがそれぞれ形成されている(図6参照)。又、延長部15Bの一方(図6及び図7の手前側)の側壁部材15dの外周側端部には矩形の操作用孔15hが形成されている。
【0033】
而して、トリガ15の延長部15Bは、図8に示すように本体部15Aの内側に嵌め込まれ、その左右の側壁部材15dの上端部に形成された円孔15gと本体部15Aの上端部に形成された円孔15bとが合わせられ、円孔15b,15gとスリーブ22にボルト23が横方向から通され、該ボルト23の本体部15Aから突出する端部に螺合するナット24を締め付けることによって、延長部15Bが本体部15Aに対してボルト23を中心として回動可能に軸支される。
【0034】
ところで、後述のように組立時においては、図7に示すようにトリガ15の延長部15Bは本体部15Aに収納された状態が維持され、組立後は延長部15Bがボルト23を中心として回動して図9に示すように該延長部15Bが本体部15Aから引き出される延長状態が維持されるが、この延長部15Bの収納状態と延長状態はストッパ機構によって維持される。尚、トリガ15の延長部15Bの一方の側壁部材15dに形成された操作用孔15hには棒等の不図示の操作部材が引っ掛けられ、この操作部材を操作して延長部15Bを回すことによって図7に示すように該延長部15Bが本体部15Aから引き出され、延長部15Bが引き出された後に操作用孔15hから操作部材は取り外される。
【0035】
ここで、ストッパ機構は、トリガ15の本体部15Aと延長部15Bにそれぞれ形成された係合溝15c,15fと、延長部15Bに形成されたストッパ15eと、係合溝15c内に配置され該ストッパ15eと係合溝15fに選択的に係合するストッパ軸25及び該ストッパ軸25をボルト23の方向(係合溝15c,15fと係合させる方向)に付勢する付勢手段としてのスプリング26によって構成されており、スプリング26はスリーブ22とストッパ軸25との間に張架されている。
【0036】
而して、トリガ15の延長部15Bが図7に示すように本体部15Aに収納された収納状態にあるときには、ストッパ軸25は本体部25Aの係合溝15c内に配置され、側壁部材15dの外周(小径の円弧部)と延長部15Bのストッパ15eに当接して延長部15Bを収納状態に維持している。この収納状態では、延長部15Bが本体部15Aから引き出し方向にのみ相対移動可能となっている。又、延長部15Bが図9に示すように本体部15Aから引き出されて延長状態にあるときには、ストッパ軸25は本体部25Aの係合溝15cと延長部15Bの係合溝15fに係合して延長部15Bを延長状態に維持しており、この延長状態においては本体部15Aと延長部15Bは一体化され相対的な移動が阻止されている。
【0037】
以上のように構成されたトリガ15は、図3に示すように、ペダルブラケット8の左右の側壁8A,8Bの間に配され、その本体部15Aの左右の側壁がペダルブラケット8の左右の側壁8A,8Bに取り付けられている。尚、このトリガ15は、ぺダルブラケット8に取り付けられているが、衝撃荷重の入力によって容易に変形又は回動するように構成されている。
【0038】
上述ようにトリガ15がペダルブラケット8に取り付けられた状態において、組立時にはトリガ15の延長部15Bは図2に示すように収納状態(図7参照)にあって、該延長部15Bは本体部15Aに収納されている。従って、トリガ15の延長部15Bと車体側部材であるコラムブラケット50との間には図示のように広い間隔δ1が確保され、作業者はこの広い間隔δ1を利用して部品の干渉を回避でき、組み立てを作業性良く行うことができる。
【0039】
そして、組み立て(ブレーキペダル装置1の取り付け)が終了すると、トリガ15の延長部15Bをボルト23を中心として本体部15Aに対して回動させて図4に示すように該延長部15Bをコラムブラケット50に向けて引き出し、該延長部15Bを延長状態(図9参照)としてコラムブラケット50との間隔を図2に示す広い間隔δ1から狭めて図4に示す間隔δ2(<δ1)へと小さくする。
【0040】
ところで、図2に示すように、ダッシュパネル7に取り付けられた前記ブレーキマスタシリンダ9からはプッシュロッド9aが車両後方に向かって延びており、このプッシュロッド9aの先端は前記第1リンク18の下端部にピン27によって連結されている。ここで、図2に示すように、リンク機構16を構成する第1リンク18の第2リンク19とのピン17による連結点は上下方向において該第1リンク18の中間部の軸20とペダル軸3の間に位置している。
【0041】
又、ペダル軸3の外周にはコイルバネである2つのスプリング28,29(図1参照)が巻装されており、図2及び図3に示すように、一方のスプリング28の一端はペダルアーム2に係止され、他端は第2リンク19に係止されており、このスプリング28によって第2リンク19の係合部19aがペダル軸3と係合する方向に付勢されるとともに、ピン17の位置をより車両の後方側に位置させるように付勢することによってリンク機構16のガタが吸収される。そして、他方のスプリング29の一端は第1リンク18の軸20よりも下方の位置に係止され、他端はペダルブラケット8の左側の側壁8Aに係止されており、このスプリング29によってペダルアーム2がペダル軸3(ボルト13)を中心として図2の反時計方向に付勢されている。尚、スプリング29の付勢力やプッシュロッド9aから受ける反力による図2における反時計方向の回転に対して、ペダル軸3に係合する第2リンク19がその動きを規制している。
【0042】
更に、図2に示すように、車室S2内にはステアリングコラム51が前方に向かって斜め下方に傾斜する状態で車体側部材である前記コラムブラケット50に取り付けられて配置されており、該ステアリングコラム51の内部には回転可能なステアリングシャフト52が挿通支持されている。尚、図示しないが、ステアリングシャフト523の上端(後端)にはステアリングホイールが結着され、下端(前端)にはユニバーサルジョイントを介して中間軸の上端が連結されている。
【0043】
而して、ペダルアーム2が図4に示す通常時(車両が前方から大きな衝撃荷重を受けないとき)には、トリガ15は、第2リンク19の後方に、該第2リンク19との間に所定の隙間を設けた状態で位置しており、トリガ15の延長部15Bは、車体側部材であるコラムブラケット50の前方に、該コラムブラケット50との間に所定の隙間δ2を設けた状態で位置している。
【0044】
次に、以上のように構成されたリンク式ペダル後退抑制機構を備えたブレーキペダル装置1の作用について説明する。
【0045】
図4に示す通常時においては、図示のように第2リンク19の係合部19aはペダル軸3に係合しているため、該第2リンク19と第1リンク18の回動が阻止され、運転者がペダルアーム2の下端に取り付けられたペダル5を足で踏み込むと、該ペダルアーム2はペダル軸3(ボルト13)を中心として車両前方へと回動し、このペダルアーム2の回動はリンク機構16によってプッシュロッド9aに伝えられて該プッシュロッド9aが押し込まれるため、ブレーキマスタシリンダ9が駆動されて車両に所要の制動力が発生し、車両が停止或いは減速される。
【0046】
ところで、車両が前方から大きな衝撃荷重を受けた場合には、ダッシュパネル7がこれに取り付けられたペダルブラケット8及びブレーキマスタシリンダ9と共に車両後方へと移動するため、ペダルブラケット8に取り付けられたトリガ15も一体に車両後方へと移動し、図5に示すように、該トリガ15の延長部15Bが車体側のコラムブラケット50に当接する。すると、トリガ15は、ペダルブラケット8に対して図5の矢印方向(時計方向)に回動し、その前端下部がリンク機構16の第1リンク19の中間部に当接してこれを車両前方へと押圧し、これによって第2リンク19の上端の係合部19aがペダル軸3から外れてフリーとなる。
【0047】
上述のように第2リンク19の係合部19aがペダル軸3から外れてフリーとなると、第1リンク18がスプリング29の付勢力によって軸20を中心として図5の矢印方向(時計方向)に回動するため、ペダルアーム2がペダル軸3(ボルト13)を中心として図5に鎖線にて示す位置から実線にて示す位置へと車両前方へと回動して退避し、ペダルアーム2の後退が確実に抑制される。
【0048】
以上において、本実施の形態では、組付時には図2に示すようにトリガ15の延長部15Bを本体部15Aに収納して該延長部15Bとコラムブラケット30との間隔δ1を広くすることができ、この広い間隔δ1を利用して組み立てを作業性良く行うことができるため、組立性が高められる。そして、組立後はトリガ15の延長部15Bを引き出してトリガ15をコラムブラケット50に向けて延長して図4に示すように該延長部15Bとコラムブラケット50との間隔δ2を狭くすれば、少しの移動で早期にトリガ15とコラムブラケット50が当接し車両衝突時の車体変形の誤差等によらずトリガ15とコラムブラケット50とを確実に当接させて第2リンク19のペダル軸3との係合をトリガ15によって外すことができ、リンク式ぺダル後退抑制機構を安定的に作動させてペダル5の後退を確実に抑制することができる。
【0049】
又、本実施の形態によれば、トリガ15の本体部15Aと延長部15Bの各周縁部に形成された係合溝15c,15fと両係合溝15c,15fに係合するストッパ軸25及び該ストッパ軸25を係合方向に付勢するスプリング26とでストッパ機構を簡単に構成することができ、このストッパ機構によってトリガ15の延長部15Bを延長状態に容易に維持することができるという効果も得られる。
【0050】
尚、以上の実施の形態では、トリガ15の延長部15Bを回動によって延長させる構成を採用したが、スライドによって延長部15Bを延長状態とする構成を採用しても良い。又、以上の実施の形態では、延長部15Bをトリガ15に設けたが、車体側部材であるコラムブラケット50に延長部を設けても良い。
【0051】
更に、以上は本発明をブレーキペダル装置1に対して適用した形態について説明したが、本発明は、クラッチペダル装置に対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 ブレーキペダル装置(ペダル装置)
2 ペダルアーム
3 ペダル軸
5 ペダル
7 ダッシュパネル
8 ペダルブラケット
9 ブレーキマスタシリンダ
9a ブレーキマスタシリンダのプッシュロッド
15 トリガ
15A トリガの本体部
15B トリガの延長部
15c 本体部の係合溝
15e 延長部のストッパ
15f 延長部の係合溝
16 リンク機構
18 第1リンク
19 第2リンク
19a 第2リンクの係合部
25 ストッパ軸
26 スプリング(付勢手段)
50 コラムブラケット(車体側部材)
δ1 組立時のトリガとコラムブラケットとの間隔
δ2 組立後のトリガとコラムブラケットとの間隔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルブラケットにペダル軸によって回動可能に軸支されたペダルアームの回動運動をマスタシリンダのプッシュロッドに伝えるリンク機構と、前記ペダルブラケットに取り付けられたトリガを含んで構成される機構であって、
前記トリガがこれの車両後方に配された車体側部材と当接することによって該トリガが前記リンク機構のリンクを押圧して該リンクの前記ペダル軸との係合を解除し、前記ペダルアームの後退を抑制するリンク式ペダル後退抑制機構において、
前記トリガ又は前記車体側部材の一方から他方に向かって延長可能な可動の延長部を設けたことを特徴とするリンク式ペダル後退抑制機構。
【請求項2】
前記延長部をこれが延長した状態で前記トリガ又は前記車体側部材との間に所定の間隔が確保されるよう配置するとともに、該延長部の延長状態を維持するストッパ機構を設けたことを特徴とする請求項1記載のリンク式ペダル後退抑制機構。
【請求項3】
前記トリガを前記ぺダルブラケットに取り付けられた本体部とこの本体部に相対回転可能に軸支された前記延長部とで構成するとともに、これらの本体部と延長部の各周縁部に形成された係合溝と両係合溝に係合するストッパ軸及び該ストッパ軸を係合方向に付勢する付勢手段とで前記ストッパ機構を構成したことを特徴とする請求項2記載のリンク式ペダル後退抑制機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−112248(P2013−112248A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261525(P2011−261525)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】