説明

リンゴ由来成分の薬理用途

【課題】 リンゴの果実の芯の部分に由来する成分の薬理用途を提供すること。
【解決手段】 本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とすることを特徴とする。その作用は腫瘍細胞に特異的なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ由来成分の薬理用途に関する。より詳細には、リンゴの果実の芯の部分に由来する成分の薬理用途に関する。
【背景技術】
【0002】
「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」と言われるように、リンゴは健康によい果物であり、その果実には、動脈硬化、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の予防に効果がある食物繊維やカリウムが多く含まれている。しかしながら、リンゴの果実の食される部分は果肉や果皮であって、上記の成分もこれらの部分に含まれており、芯の部分は用途のない不要な部分としてリンゴ加工工場などにおいても廃棄されている。従って、この部分に由来する成分の薬理用途に関する報告は、特許文献1において、リンゴの種子から水溶性溶媒を用いて調製される抽出エキスがコラゲナーゼ阻害作用を有することが報告されている程度に過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−71294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、リンゴの果実の芯の部分に由来する成分の薬理用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、リンゴの種子のタンパク質画分が腫瘍細胞増殖抑制作用を有することを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、請求項1記載の通り、リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リンゴの果実の芯の部分に由来する成分の薬理用途として、リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例において得たリンゴの種子のタンパク質画分をSDS−PAGEにかけた結果である。
【図2】同、リンゴの種子のタンパク質画分のヒト線維芽肉腫細胞に対する増殖抑制作用を示すグラフである。
【図3】同、リンゴの種子のタンパク質画分のヒト大腸癌細胞に対する増殖抑制作用を示すグラフである(A:COLO201に対する作用、B:COLO320に対する作用、■:Mili−Q水、○:1μg/ml、▲:10μg/ml、いずれも450nmの吸光度により評価)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とすることを特徴とするものである。本発明において、リンゴはバラ科リンゴ属に属する学名がMalus pumilaのものを意味し、品種は問わない。
【0010】
リンゴの種子のタンパク質画分は、例えば、リンゴの果実から取り出した種子から種皮を除去し、胚乳部分を粉砕してから2−メルカプトエタノールを含む希薄塩溶液で抽出することによって得ることができる。得られたタンパク質画分は、凍結乾燥を行って粉末化した後、医薬部外品、医薬品、飲食品などの形態で人体に対して経口的に投与することができる。これらの形態における製剤組成は特段限定されるものではなく、自体公知の一般的なものを採用することができる。その投与量は、適用対象者の年齢や性別などに基づいて適宜決定することができ、適切な投与量を投与することにより、その腫瘍細胞増殖抑制作用に基づいて、例えば、癌の予防効果をもたらすことができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0012】
(1)リンゴの種子のタンパク質画分の調製
リンゴの果実から取り出した種子から種皮を除去し、胚乳部分を凍結した後、市販のオートミルを用いて1200rpm/分で4分間粉砕処理を行った。得られた粉砕物を0.5%の2−メルカプトエタノールを含む希薄塩溶液(10mMのTris−HCl、10mMのEDTA、0.3mg/mlのPMSFを含有)に添加してよく攪拌した後、4℃における12000rpmでの10分間の遠心処理を行い、得られた上清を透析し(カットオフ分子量:1000)、凍結乾燥することで、分子量が1000以上の画分をタンパク質画分として淡褐色粉末の形態で得た(種皮を除去した60粒の種子(約2.5gの胚乳)からの収量はその約6%に相当する約150mg)。こうして得たリンゴの種子のタンパク質画分をSDS−PAGE(10%アクリルアミド)にかけた結果を図1に示す。図1から明らかなように、約20〜45kDaに複数のタンパク質の存在を示す3つの主要なスポットが品種(紅玉、むつ、ふじ、王林)を問わず認められた。なお、このようなスポットは果実と果皮からは認められなかった。
【0013】
(2)リンゴの種子のタンパク質画分の腫瘍細胞増殖抑制活性(その1)
37℃、5%COのインキュベータで培養したヒト線維芽肉腫細胞であるHT−1080(6×10cell/6cmφデッシュ)に、(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分を最終濃度が10μg/mlおよび100μg/mlになるように添加し(溶媒:Mili−Q水)、添加当日(1day)、その2日後(3day)、その5日後(6day)にそれぞれ細胞数を測定することで、細胞増殖に対する作用を調べた。なお、実験は全て3連で行い、t検定を試行した。コントロールとしてはMili−Q水を用いた。結果を図2に示す。図2から明らかなように、(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分は、濃度と時間に依存的にヒト線維芽肉腫細胞の増殖を抑制した(*:P<0.05、**:P<0.01)。なお、ヒト線維芽細胞(HDF)の増殖に対する(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分の作用を同様にして調べたところ、細胞増殖を抑制しなかった。以上の結果から、(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分の細胞増殖抑制作用は、腫瘍細胞に特異的なものであることがわかった。
【0014】
(3)リンゴの種子のタンパク質画分の腫瘍細胞増殖抑制活性(その2)
ヒト大腸癌細胞であるCOLO201とCOLO320の増殖に対する(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分の作用を(2)と同様の方法で調べた結果を図3に示す(A:COLO201に対する作用、B:COLO320に対する作用、■:Mili−Q水、○:1μg/ml、▲:10μg/ml、いずれも450nmの吸光度により評価)。図3から明らかなように、(1)で得たリンゴの種子のタンパク質画分は、濃度と時間に依存的にヒト大腸癌細胞の増殖を抑制した(**:P<0.01)。
【0015】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなる腫瘍細胞増殖抑制のための錠剤を自体公知の方法で製造した。
リンゴの種子のタンパク質画分の凍結乾燥粉末 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19 (単位:重量%)
【0016】
製剤例2:ビスケット
以下の成分組成からなる腫瘍細胞増殖抑制のためのビスケットを自体公知の方法で製造した。
リンゴの種子のタンパク質画分の凍結乾燥粉末 1
薄力粉 32
全卵 16
バター 16
砂糖 24
水 10
ベーキングパウダー 1 (単位:重量%)
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、リンゴの果実の芯の部分に由来する成分の薬理用途として、リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴの種子のタンパク質画分を有効成分とすることを特徴とする腫瘍細胞増殖抑制剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178740(P2011−178740A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46199(P2010−46199)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】