説明

リンパ年齢推定システム、リンパ年齢推定方法、及びリンパ年齢推定プログラム

【課題】リンパ圧を用いて人のリンパ年齢を簡易に推定すること。
【解決手段】一実施形態に係るリンパ年齢推定システムは、被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付手段と、人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、受付手段により受け付けられた測定値を代入することで、被験者の推定リンパ年齢を算出する算出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一形態は、リンパ年齢推定システム、リンパ年齢推定方法、及びリンパ年齢推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ管は血管とともに身体のあらゆる組織、臓器に張り巡らされており、外敵に対する防御、免疫、老廃物の排出、及び静脈への水分やタンパク質の還流を司っている。リンパ管内を流れるリンパは、集合リンパ管においてはリンパ管の自律収縮能(ポンプ機能)により押し出され、四肢末梢から体幹、そして胸管を経て静脈内へと流入する。
【0003】
リンパ管内を流れるリンパの圧力(リンパ圧)を測定する手法として、下記特許文献1に記載のリンパ圧測定システムがある。このシステムは、リンパ管に注入された蛍光色素から発せられた蛍光の画像を表示しつつマンシェットの圧力を徐々に減じて、そのマンシェットにより遮断されたリンパ流が再開した時点の圧力をリンパ圧として測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/137358号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定されたリンパ圧を用いてその人のリンパ機能の加齢状態を把握できれば、健康上あるいは医学上の見地から大きな利点がある。つまり、リンパ圧を用いて人のリンパ年齢を簡易に推定することができれば、平均値に対する個々人のリンパの若さや老化の程度などを推定することができ、生活習慣の改善や医療上の有効な手立てとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムは、被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付手段と、人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、受付手段により受け付けられた測定値を代入することで、被験者の推定リンパ年齢を算出する算出手段とを備える。
【0007】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定方法は、コンピュータにより実行されるリンパ年齢推定方法であって、被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付ステップと、人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、受付ステップにおいて受け付けられた測定値を代入することで、被験者の推定リンパ年齢を算出する算出ステップとを含む。
【0008】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定プログラムは、コンピュータに、被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付手段と、人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、受付手段により受け付けられた測定値を代入することで、被験者の推定リンパ年齢を算出する算出手段とを実行させる。
【0009】
このような形態によれば、リンパ圧の測定値が、予め用意された人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に代入されることで被験者の推定リンパ年齢が算出される。これにより、人の年齢を簡易に推定することができる。
【0010】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、関数が、年齢を独立変数x、リンパ圧を従属変数yとして、y=f(x)で示され、想定される該独立変数xの範囲において減少関数であってもよい。
【0011】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、関数がn次関数であってもよい。
【0012】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、nが3以上であってもよい。
【0013】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、関数が指数関数であってもよい。
【0014】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、関数が複数の関数の和で示されてもよい。
【0015】
本発明の一形態に係るリンパ年齢推定システムでは、関数が、男性の推定リンパ年齢を算出するための第1の関数と、女性の推定リンパ年齢を算出するための第2の関数とを含み、算出手段が、第1及び第2の関数のうち、被験者の性別を示すデータに対応する関数を選択し、選択した関数に測定値を代入することで該被験者の推定リンパ年齢を算出してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面によれば、リンパ圧を用いて人のリンパ年齢を簡易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係るリンパ年齢推定システムの機能構成の例を示す図である。
【図2】図1に示すマンシェットの例を示す模式図である。
【図3】(a)〜(e)は、蛍光色素がリンパ管を伝って移動する様子を示す模式図である。
【図4】図1に示すリンパ年齢推定システムのハードウェア構成の例を示す図である。
【図5】リンパ圧の測定値の統計(男女混合)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図6】リンパ圧の測定値の統計(男性のみ)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図7】リンパ圧の測定値の統計(女性のみ)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図8】リンパ圧の測定値の統計(男女混合)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図9】リンパ圧の測定値の統計(男性のみ)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図10】リンパ圧の測定値の統計(女性のみ)の例と、その結果に基づく関数の例とを示すグラフである。
【図11】図1に示すリンパ年齢推定システムの動作を示すフローチャートである。
【図12】実施形態に係るリンパ年齢推定プログラムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1〜10を用いて、実施形態に係るリンパ年齢推定システム2の機能及び構成を説明する。リンパ年齢推定システム2は、リンパ圧測定システム1で測定された被験者のリンパ圧の入力を受け付け、そのリンパ圧から被験者のリンパ年齢を推定するコンピュータシステムである。リンパ年齢推定システム2とリンパ圧測定システム1とは有線又は無線の通信回線により接続されている。ここで、リンパ年齢とは、人のリンパの機能を年齢にたとえて示した指標であり、これにより、例えばリンパの若さや老化の程度などを把握することができる。
【0020】
リンパ圧を測定してリンパ年齢を推定するために、被験者の皮膚あるいは皮下組織には蛍光色素が予め投与される。投与された蛍光色素は、その後リンパ管内に入る。蛍光色素の例としてインドシアニングリーンや蛍光デキストランが挙げられる。
【0021】
まず、リンパ年齢推定システム2にデータを供給するリンパ圧測定システム1の機能及び構成を説明する。このリンパ圧測定システム1については、上記特許文献1においても記載されている。
【0022】
リンパ圧測定システム1は、人間の四肢のリンパ圧を測定するために用いられる装置群である。リンパ圧測定システム1は機能的構成要素としてマンシェット10、蛍光強度計20、及び圧測定装置30を備えている。
【0023】
マンシェット10は、人間の腕又は脚の一部の周囲を覆うように取り付けられる。以下ではマンシェットの装着部分及びその近傍を生体観察部という。マンシェット10は空気袋(図示せず)を備えており、圧測定装置30によりその空気袋に空気が送り込まれることで、覆った部分(生体観察部)を加圧する。図2に示すように、マンシェット10は帯状であり、腕又は脚の挿通方向(同図における矢印A)に沿って延びる両縁部に設けられた一対の面ファスナー11により腕又は脚に固定される。なお、マンシェット10は、腕又は脚を通すことが可能な円筒状を成していてもよい。
【0024】
図2に示すように、マンシェット10は第1検知部12及び第2検知部13を備えている。本明細書では便宜的に、マンシェット10が生体観察部に装着されたときに蛍光色素の注入点に近い方の検知部(末梢側の検知部)を第1検知部12とし、当該注入点から遠い方に位置する検知部(中枢側の検知部)を第2検知部13とする。第1検知部12は第1のラインLED12a及び第1のラインセンサ12bを備え、第2検知部13は第2のラインLED13a及び第2のラインセンサ13bを備えている。ラインLED12a,13aは、リンパ管に注入された蛍光色素に励起光を当てるための照明手段であり、測定時には点灯している。一方、ラインセンサ12b,13bは、励起光を受けた蛍光色素から発せられた蛍光を検知し、検知した蛍光の強度を示す信号を蛍光強度計20に出力する受光手段である。
【0025】
第1のラインLED12a及び第1のラインセンサ12bは、マンシェット10の幅方向に沿って延びる一方の縁部において、互いに隣接しながらその縁部全体に沿って線状に(連続的に)設けられている。第2のラインLED13a及び第2のラインセンサ13bは、マンシェット10の幅方向に沿って延びる他方の縁部において、互いに隣接しながらその縁部全体に沿って線状に(連続的に)設けられている。したがって、マンシェット10を腕又は脚に巻き付けると、第1検知部12及び第2検知部13はその腕又は脚の周囲を囲むことになる。なお、マンシェット10の幅方向は腕又は脚の挿通方向と直交する方向であるともいえる。
【0026】
ラインLED12a,13aから発せられる励起光の波長と、その励起光を受けた蛍光色素から発せられラインセンサ12b,13bにより検知される蛍光の波長とは異なる。例えば、インドシアニングリーンに当てる励起光の波長を805nmとしたならば、インドシアニングリーンからの蛍光の波長は845nmとなる。当然ながら、ラインLED12a,13aが発する励起光の波長、及びラインセンサ12b,13bが検知する蛍光の波長は上記に限定されず、蛍光色素の種類等に応じて任意に設定してよい。
【0027】
蛍光強度計20は、マンシェット10の二つのラインセンサ12b,13bと電気的に接続されており、各ラインセンサ12b,13bから入力された信号に基づいて、マンシェット10の幅方向に沿って延びる二つの縁部における蛍光の強度を表示する装置である。これにより、リンパ圧測定システム1のユーザは、ラインセンサ12b,13bで囲まれた2ヵ所の部位について、蛍光色素が通過したか否かを視覚的に知ることができる。
【0028】
また蛍光強度計20は、ラインセンサ12b,13bで囲まれた2ヵ所の部位を蛍光色素が通過したか否かを入力信号に基づいて判定し、その2ヵ所のそれぞれについて、蛍光色素がその部位を最初に通過した時に当該通過を示す通過信号を圧測定装置30に出力する。したがって、1回の測定において蛍光強度計20から通過信号が2回出力されることになる。最初の通過信号は、蛍光色素の注入点に近い方(末梢側)に位置する第1のラインセンサ12bの下を蛍光色素が通過したことを意味する。これに対して2回目の通過信号は、蛍光色素がマンシェット10で覆われている部位を通り、上記注入点から遠い方(人体の中枢側)に位置する第2のラインセンサ13bの下を通過したことを意味する。
【0029】
なお、蛍光強度計20は、蛍光強度の変化の大きさに基づいて蛍光色素の通過を判定してもよいし、検知された強度が予め内部に保持している閾値以上になった場合に蛍光色素が通過したと判定してもよい。もちろん、具体的な判定方法はこれらに限定されない。
【0030】
圧測定装置30は、マンシェット10の圧力を測定する装置である。圧測定装置30は、マンシェット10に対して送気又は吸気するための管を介して当該マンシェット10と接続されると共に、蛍光強度計20と電気的に接続されている。この圧測定装置30は機能的構成要素として圧調整部31及び測定部32を備えている。
【0031】
なお、圧測定装置30としてリンパ圧計を用いてもよいし、血圧計を用いてもよい。また、リンパ圧測定及び血圧測定の双方に対応可能な計測装置を圧測定装置30として用いてもよい。
【0032】
圧調整部31は、マンシェット10の圧力を調節する手段である。圧調整部31は、蛍光強度計20から最初の通過信号が入力されたことを契機にマンシェット10内の空気袋に空気を送り込み始め、生体観察部のリンパ流を遮断する程度(例えば60mmHg)にマンシェット10を加圧する。続いて圧調整部31は、2回目の通過信号が入力されるまで、所定のタイミングで所定量ずつ(例えば、1mmHgずつ,5mmHgずつ,10mmHgずつなど)マンシェット10を減圧していく。
【0033】
測定部32は、マンシェット10の圧力を測定する手段である。測定部32は、蛍光強度計20から最初の通過信号が入力されたことを契機に圧力測定を開始する。その後2回目の通過信号が入力されると、測定部32はその時点でのマンシェット10の圧力をリンパ圧として記録し、そのリンパ圧のデータをリンパ年齢推定システム2に出力する。
【0034】
図3を用いて、リンパ圧測定システム1によるリンパ圧測定の手順を説明する。まず、リンパ圧を測定しようとする箇所(生体観察部)にマンシェット10を装着し、蛍光色素を検知するために二つのラインLED12a,13aを点灯させる。次に、図3(a)に示すように、被測定者のリンパ管に蛍光色素Fを注入する。この例では、皮下注射により足の甲の付近に蛍光色素Fを注入している。その後、この蛍光色素Fは、図3(b)に示すように注入地点からリンパ管を伝って人体中枢へと移動し始める。
【0035】
その後、図3(c)に示すように蛍光色素Fがマンシェット10の一端(蛍光色素の注入点に近い方の縁部)に達すると、蛍光色素Fは第1のラインLED12aからの励起光を受けて蛍光を発し、その蛍光を第1のラインセンサ12bが検知する。そして、この検知に応じて、圧測定装置30内の圧調整部31がマンシェット10を加圧し、生体観察部のリンパ流を遮断する。したがって、図3(c)に示す状態が維持される。また、この時に測定部32が圧力の測定を開始する。
【0036】
その後、圧調整部31はマンシェット10を徐々に減圧する。この減圧処理によりリンパ管の自律収縮圧がマンシェット10の圧力を上回ると、蛍光色素Fが中枢に向かって移動し始め(リンパ流の再開)、その少なくとも一部が図3(d)に示すようにマンシェット10の他端(蛍光色素の注入点から遠い方の縁部)に達する。この時、その他端に達した蛍光色素Fは第2のラインLED13aからの励起光を受けて蛍光を発し、その蛍光を第2のラインセンサ13bが検知する。この検知に応じて、圧測定装置30の測定部32がその時点でのマンシェット10の圧力をリンパ圧として測定する。そして、測定部32は測定したリンパ圧をリンパ年齢推定システム2に出力する。これでリンパ圧の測定が終了する。なお、蛍光色素Fはその後、図3(e)に示すように人体の中枢部に向かって更に進んでいく。
【0037】
次に、リンパ年齢推定システム2の機能及び構成について説明する。
【0038】
リンパ年齢推定システム2は、例えば図4に示すようなハードウェア構成を有する。すなわち、リンパ年齢推定システム2は、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムなどを実行するCPU201と、ROM及びRAMで構成される主記憶部202と、フラッシュメモリやハードディスクなどで構成される補助記憶部203と、データ通信を行う通信制御部204と、モニタやプリンタなどの出力装置205と、キーボードやマウスなどの入力装置206とで構成される。
【0039】
後述する機能的構成要素は、CPU201及び主記憶部202の上に所定のソフトウェアを読み込ませ、CPU201の制御の下で通信制御部204や出力装置205、入力装置206を動作させたり、主記憶部202や補助記憶部203に対してデータを読み書きしたりすることで実現される。処理に必要なデータやデータベースは、主記憶部202や補助記憶部203に格納されている。
【0040】
図1に示すように、リンパ年齢推定システム2は機能的構成要素として受付部(受付手段)41、算出部(算出手段)42、及び表示部43を備えている。
【0041】
受付部41は、リンパ圧測定システム1から入力された被験者のリンパ圧のデータを受け付ける手段である。受付部41はそのデータを算出部42に出力する。
【0042】
算出部42は、受付部41から入力されたリンパ圧のデータから被験者の推定リンパ年齢を算出する手段である。算出部42は人の実際の年齢とリンパ圧との関係を示す関数を予め内部に保持しており、この関数を用いて推定リンパ年齢を求める。
【0043】
算出部42により用いられる関数は、人の実際の年齢を独立変数x、リンパ圧を従属変数yとして、y=f(x)で示される。この関数f(x)のグラフは「年齢−リンパ圧カーブ」ということができる。関数f(x)は、幅広い年齢層における一定数以上の健常者の四肢のリンパ圧の測定値に基づいて導き出される。具体的には、測定結果に基づいて所定の年齢層毎にリンパ圧の平均値及び標準偏差を算出し、所定のプログラム(例えば表計算アプリケーションプログラム)を用いて各年齢層の平均値及び標準偏差から関数f(x)を得ることができる。関数f(x)は、リンパ年齢推定プログラムのコード内に定義されていてもよいし、プログラムコードとは独立に用意された外部ファイル内に定義されていてもよい。いずれにしても、算出部42はこの関数f(x)を読み出し、入力されたリンパ圧をこの関数に代入することで推定リンパ年齢を求める。
【0044】
関数f(x)は男女共通に用いられるものであってもよいし、性別毎に規定されていてもよい。本実施形態では、男女共通に用いられる関数を特にf(x)といい、男性用の関数をf(x)といい、女性用の関数をf(x)という。性別に応じて関数を使い分ける場合には、算出部42は、リンパ圧の測定値に加えて、被験者の性別を示すデータも用いる。なお、性別のデータを取得する態様は限定されず、例えば、算出部42は入力装置206を介して入力された値を用いてもよいし、所定の記憶装置から読み出した値を用いてもよい。
【0045】
関数f(x)の一例を以下に示す。以下に示すいくつかの関数は、20〜91歳の健常ボランティア約300人の同意を得て彼等の両脚のリンパ圧を測定した結果に基づいている。男女別の合計サンプル数はそれぞれ380であった。そして、測定結果から七つの年齢層(20代、30代、…、70代、及び80代以上)の平均値及び標準偏差を求めた。表1及び図5の棒グラフは男女混合の統計であり、表2及び図6の棒グラフは男性に関する統計であり、表3及び図7の棒グラフは女性に関する統計である。各グラフの縦軸及び横軸はそれぞれ、リンパ圧及び年齢(実年齢)である。
【0046】
【表1】


【表2】


【表3】

【0047】
上記表1〜3で示される各統計から下記の4次関数f(x),f(x),f(x)が得られた。これらの4次関数のグラフは図5〜7において実線で示されている。なお、「E−07」は10−7を示し、「E−06」は10−6を示す。相関係数の2乗値(R−2乗値)は、f(x)について0.1205、f(x)について0.1096、f(x)について0.1492であった。
【0048】
y=f(x)
=5E−07x−0.0003x+0.0478x
−2.746x+82.347
y=f(x)
=1E−06x−0.0005x+0.0676x
−3.5248x+91.412
y=f(x)
=5E−06x−0.0013x+0.1192x
−4.9462x+106.37
【0049】
サンプルとして収集したリンパ圧に個人差はあるものの、上記各表から、年齢と共にリンパ圧が低下すること、すなわちリンパを駆出するリンパ管のポンプ圧が年齢と共に衰えることがわかる。このような傾向を反映して、関数f(x)は、想定される人の年齢(独立変数x)の範囲において基本的に減少関数となる。上記関数f(x)では図6のグラフ中において変曲点が存在するが、これは測定値のばらつき等に伴う誤差の範囲といえる。もっとも、想定されるxの範囲において、関数f(x)の変曲点が存在してもよい。すなわち、変数xの一部の区間において値yが増大してもよい。
【0050】
関数f(x)は4次関数でなくてもよく、算出部42はn次関数(n≧1)として定義されたf(x)を用いてもよい。例えば、上記表1〜3の各統計から関数f(x),f(x),f(x)を1次関数、2次関数、又は3次関数で示すこともできる。もちろん、関数f(x)は5次以上の多項式により定義されてもよい。
【0051】
1次関数で定義すると、関数f(x),f(x),f(x)は以下のように示される。これらの1次関数のグラフは図5〜7において一点鎖線で示されている。この場合、R−2乗値は、f(x)について0.1058、f(x)について0.0916、f(x)について0.1406であった。
y=f(x)=−0.2812x+44.466
y=f(x)=−0.2279x+43.099
y=f(x)=−0.3873x+48.456
【0052】
2次関数で定義すると、関数f(x),f(x),f(x)は以下のように示される。これらの2次関数のグラフは図5〜7において破線で示されている。この場合、R−2乗値は、f(x)について0.1058、f(x)について0.1003、f(x)について0.141であった。
y=f(x)=0.0048x−0.7682x+54.842
y=f(x)=0.0047x−0.7091x+52.998
y=f(x)=0.0011x−0.4993x+50.866
【0053】
3次関数で定義すると、関数f(x),f(x),f(x)は以下のように示される。これらの3次関数のグラフは上記4次関数のグラフとほとんど重なるので、3次関数のグラフについては図5〜7における実線を参照されたい。この場合、R−2乗値は、f(x)について0.1205、f(x)について0.1096、f(x)について0.1486であり、これらの値は4次関数の場合と同じか略同じである。
y=f(x)
=−0.0002x+0.0396x−2.4855x+79.521
y=f(x)
=−0.0003x+0.0493x−2.9426x+85.096
y=f(x)
=−0.0003x+0.0445x−2.6096x+81.218
【0054】
関数f(x),f(x),f(x)は指数関数で示されてもよい。例えば、上記表1〜3から下記の関数f(x),f(x),f(x)を得ることができる。これらの指数関数のグラフを図8〜10に示す。
y=f(x)=49.265e−0.022x
y=f(x)=42.656e−0.016x
y=f(x)=72.878e−0.032x
【0055】
関数f(x),f(x),f(x)は、フィッティングの手法により複数の任意の関数の和で示されてもよい。例えば、関数f(x),f(x),f(x)が複数の指数関数の和で示されてもよいし、複数のn次関数の和で示されてもよいし、指数関数とn次関数との和で示されてもよい。
【0056】
算出部42は、リンパ圧の測定値が入力されると、性別データの入力も考慮して関数y=f(x)を選択する。具体的には、算出部42は、性別データが入力されなかった場合には関数f(x)を選択し、性別データが入力された場合にはそのデータに応じて関数f(x)又は関数f(x)を選択する。そして、算出部42は選択された関数の変数yにその測定値を代入して年齢xを求める。そして、算出部42は求めた年齢xを推定リンパ年齢として表示部43に出力する。
【0057】
表示部43は、算出部42から入力された推定リンパ年齢を出力装置205(モニタ)に表示する手段である。推定リンパ年齢の表示方法は限定されない。例えば、表示部43は推定リンパ年齢をそのまま表示してもよいし、30代や50代などのような年齢層として表示してもよい。また、表示部43は図5〜7に示すようなグラフ上に推定結果を任意の記号や図形で描画することでより視覚的に推定リンパ年齢を示してもよい。
【0058】
なお、推定リンパ年齢の出力方法は上記に限定されない。例えば、推定リンパ年齢はプリンタに出力されてもよいし、他の情報処理装置に送信されてもよいし、所定の記憶装置に格納されてもよい。
【0059】
次に、図11を用いて、リンパ年齢推定システム2の動作を説明するとともに本実施形態に係るリンパ年齢推定方法について説明する。
【0060】
まず、受付部41がリンパ圧測定システム1から入力されたリンパ圧の測定値を受け付ける(ステップS11、受付ステップ)。続いて、算出部42が、計算に用いる関数y=f(x)を選択する(ステップS12)。例えば、算出部42は上記f(x),f(x),f(x)の中から一つを選択する。続いて、算出部42は選択した関数y=f(x)にリンパ圧の測定値を代入することで被験者の推定リンパ年齢を求める(ステップS13、算出ステップ)。最後に、表示部43がその推定リンパ年齢を表示する(ステップS14)。これにより、被験者は自己の推定結果を知ることができる。
【0061】
次に、図12を用いて、コンピュータをリンパ年齢推定システム2として機能させるためのリンパ年齢推定プログラムP1を説明する。
【0062】
リンパ年齢推定プログラムP1は、メインモジュールP10、受付モジュールP11、算出モジュールP12、及び表示モジュールP13を備えている。
【0063】
メインモジュールP10は、リンパ年齢推定機能を統括的に制御する部分である。受付モジュールP11、算出モジュールP12、及び表示モジュールP13を実行することにより実現される機能はそれぞれ、上記の受付部41、算出部42、及び表示部43の機能と同様である。
【0064】
リンパ年齢推定プログラムP1は、例えば、CD−ROMやDVD−ROM、半導体メモリ等の有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供される。また、リンパ年齢推定プログラムP1は、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、人の実際の年齢とリンパ圧との関係を示す関数y=f(x)が予め用意されており、リンパ圧の測定値がこの関数に代入されることで被験者の推定リンパ年齢が算出される。これにより、人のリンパ年齢を簡易に推定することができる。さらに、実際の年齢と被験者の推定リンパ年齢とが乖離していた場合には、被験者のリンパの若さや老化の程度などを、その年齢の集団の平均値と比較して判断できる。
【0066】
また、本実施形態によれば、年齢とリンパ圧との関係を男女別に定義することで、性別の違いを考慮して被験者のリンパ年齢を推定することができる。
【0067】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0068】
リンパ年齢推定システムに入力されるリンパ圧の測定方法は限定されない。例えば、上述した蛍光色素ではなくラジオアイソトープを用いるリンパ管シンチグラムを用いてリンパ圧を測定してもよい。また、リンパ圧の測定値の取得方法も限定されない。例えば、リンパ年齢推定システムは、測定データをリンパ圧測定システムから直接取得するのではなく、所定のデータベースに一旦格納されたリンパ圧の測定データを読み出し、読み出したデータを関数に代入することで推定リンパ年齢を求めてもよい。
【0069】
リンパ年齢推定システムの具体的な構成も限定されない。例えば、上記実施形態におけるリンパ圧測定システム1とリンパ年齢推定システム2とを1台の装置に一体化してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…リンパ圧測定システム、2…リンパ年齢推定システム、10…マンシェット、12…第1検知部、13…第2検知部、20…蛍光強度計、30…圧測定装置、31…圧調整部、32…測定部、41…受付部(受付手段)、42…算出部(算出手段)、43…表示部、P1…リンパ年齢推定プログラム、P10…メインモジュール、P11…受付モジュール、P12…算出モジュール、P13…表示モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付手段と、
人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、前記受付手段により受け付けられた測定値を代入することで、前記被験者の推定リンパ年齢を算出する算出手段と
を備えるリンパ年齢推定システム。
【請求項2】
前記関数が、前記年齢を独立変数x、前記リンパ圧を従属変数yとして、y=f(x)で示され、想定される該独立変数xの範囲において減少関数である、
請求項1に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項3】
前記関数がn次関数である、
請求項1又は2に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項4】
nが3以上である、
請求項3に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項5】
前記関数が指数関数である、
請求項1又は2に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項6】
前記関数が複数の関数の和で示される、
請求項1又は2に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項7】
前記関数が、男性の推定リンパ年齢を算出するための第1の関数と、女性の推定リンパ年齢を算出するための第2の関数とを含み、
前記算出手段が、前記第1及び第2の関数のうち、前記被験者の性別を示すデータに対応する関数を選択し、選択した関数に前記測定値を代入することで該被験者の推定リンパ年齢を算出する、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリンパ年齢推定システム。
【請求項8】
コンピュータにより実行されるリンパ年齢推定方法であって、
被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付ステップと、
人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、前記受付ステップにおいて受け付けられた測定値を代入することで、前記被験者の推定リンパ年齢を算出する算出ステップと
を含むリンパ年齢推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
被験者のリンパ圧の測定値を受け付ける受付手段と、
人の年齢とリンパ圧との関係を示す関数に、前記受付手段により受け付けられた測定値を代入することで、前記被験者の推定リンパ年齢を算出する算出手段と
を実行させるリンパ年齢推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−249802(P2012−249802A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124289(P2011−124289)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月25日にリンパ学第34巻サプリメント号第52ページにて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業(委託費)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(591051852)株式会社エヌエステイー (13)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(511112308)株式会社ゾディアック (1)
【Fターム(参考)】