説明

リンパ球の保存及び輸送方法

【課題】本発明の課題は、保存及び/又は輸送中にリンパ球の生細胞率やIFN−γ産生細胞率が高く維持できる技術を提供することである。
【解決手段】リンパ球を0〜6℃で保存することにより、ハーベスト後、10時間以上、とりわけ24時間以上経過しても、生細胞率及びIFN−γ産生細胞率を高く維持することが可能となる。上記温度を保つには、通常の恒温機器で維持すれば良く、また、輸送する場合は、前記恒温機器に入れた状態で輸送すれば良い。簡単な方法としては、断熱性の優れた通常使用される保冷箱に本発明の温度を維持するための保冷剤を入れて輸送すれば良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンパ球の保存方法に関する。また、リンパ球の輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の最も多い死亡原因として悪性新生物(以下、癌という)が挙げられる。癌の治療法としては、三大療法と言われる外科療法、化学療法、放射線療法があるが、夫々治療の困難性や副作用等といった問題がある。
【0003】
近年、上記三大療法の他に癌の新しい治療法として免疫細胞療法が行われており、この免疫細胞療法は、上記の三大療法のような治療の困難性や副作用といった問題が少ないため注目されている。また、免疫細胞療法は、感染症、とりわけ、ウイルス感染症に対する新たな治療法としても注目されている。
ここで、免疫細胞療法とは、患者から血液を採取し、その血液中に含まれるリンパ球を分離して培養し、そのリンパ球を活性化及び/又は増殖させ、その活性化及び/又は増殖させたリンパ球(ここでいう活性化及び/又は増殖させたリンパ球にはLymphokine Activated Killer細胞(以下、LAK細胞という)を含む)を患者の体内に戻す療法のことをいう。
【0004】
この免疫細胞療法を行うためには、リンパ球を培養する細胞培養施設を備えている必要があるが、全国各地の医療機関(以下、病院等という)がその施設を備えているわけではない。そこで、細胞培養施設を備えていない病院等でも免疫細胞療法を容易に行うためには、病院等から細胞培養施設までリンパ球培養用血液を輸送し、リンパ球培養を行った後点滴剤として調製し細胞培養施設から病院等へ輸送する必要がある。
また、輸送を伴わない場合でも、患者の体内へ戻すスケジュール等によっては、予め、患者から採取したリンパ球や活性化及び/又は増殖させたリンパ球を一定時間保存しておくことが必要となる場合がある。
その場合、リンパ球の細胞機能を表す指標の一つである生細胞率やインターフェロンγ(以下、IFN−γという)産生細胞率等を維持しなければならないという問題があった。
【0005】
しかしながら、一般に、血液の保存及び/又は輸送については、輸血に用いられる全血、赤血球又は血小板の保存温度が知られているのみである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、保存や輸送中にリンパ球の生細胞率やIFN−γ産生細胞率を維持するための技術を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば、リンパ球を注射剤(例えば点滴剤等)として調製した後0〜6℃で保存することにより、10時間以上、とりわけ24時間以上経過しても、生細胞率及びIFN−γ産生細胞率を高く維持することが可能となる。上記温度を保つには、通常の恒温機器で維持すれば良く、また、輸送する場合は、前記恒温機器に入れた状態で輸送すれば良い。簡単な方法としては、断熱性の優れた通常使用されている保冷箱に本発明の温度を維持するための保冷剤を入れて保存及び/又は輸送すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】リンパ球(LAK細胞)を生理食塩水に懸濁し、0、6、14、25℃で保存した場合の生細胞率の経時的変化を示したグラフである。
【図2】リンパ球(LAK細胞)を生理食塩水に懸濁し、0、6、14、25℃で保存した場合のIFN−γ産生細胞率の経時的変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
まず、癌及び/又は感染症等の患者血液からリンパ球を採取分離する。
ここで、採取した血液は16〜22℃で保存及び/又は輸送することが好ましい。16〜22℃で保存及び/又は輸送することにより、採取した血液からの末梢血単核球の分離性が良く、かつ増殖性が高い状態で維持することができるためである。
また、採取後末梢血単核球分離を行っても良い。末梢血単核球分離を行う方法としては一般的に有核細胞を赤血球から分離するいかなる方法を用いることもできる。例えばフィコールパック(Ficoll−Paque)密度勾配を利用する方法等が一般的に使用される。
末梢血単核球を分離しておくことにより、先に述べた保存温度範囲が5〜22℃に広がる。分離した末梢血単核球は細胞と等張である担体であればいずれの担体に懸濁しても良いが、自己血漿に懸濁することが好ましい。
【0011】
次いで、保冷箱に16〜22℃が担保できるよう保冷剤と共に血液の入った採血管を入れ、保存及び/又は輸送する。
その後、血液を分離し(予め、末梢血単核球を分離している場合は、この操作は不要)リンパ球を培養する。
また、本発明におけるリンパ球とは、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞又はNKT細胞をいう。
【0012】
培養方法は特に限定されないが、通常当該分野で汎用されている培養方法であればよく、活性化自己リンパ球療法に用いる場合、とりわけ、抗CD3抗体及びIL−2を用いた方法が好ましい。
【0013】
抗CD3抗体は培地中に添加しても、培養容器に固相化してもよいが、抗CD3抗体を固相化したフラスコ等の培養容器にリンパ球を播種することが好ましい。IL−2の濃度は培地中に100〜2000IU/mLの濃度となるように添加することが好ましい。
培養は、34〜38℃、好ましくは37℃で、2〜10%、好ましくは5%のCO条件下で行い、培養期間は1日〜20日、特に1〜2週間程度が好ましい。
【0014】
使用できる培地は特に限定されないが、AIM−V培地(インビトロジェン)、RPMI−1640培地(インビトロジェン)、ダルベッコ改変イーグル培地(インビトロジェン)、イスコフ培地(インビトロジェン)、KBM培地(コージンバイオ)、ALyS培地(細胞科学研究所)等細胞培養に使用されている市販の培地を使用することができる。また、必要に応じて5〜20%の牛血清、牛胎児血清、ヒト血清、ヒト血漿等を添加することができる。
【0015】
培養容器は特に限定されるものではなく、通常当該分野で使用される培養用プレート、シャーレ、フラスコ、バッグ等を利用することができる。各々の細胞群を播種する濃度は実施する状況に応じて自由に設定することができる。
【0016】
このように採取した血液から分離・培養後ハーベストされたリンパ球を、通常使用される担体を用いて、注射剤として調製する。用いられる担体としては特に限定されないが、例えば、点滴剤として調製する場合、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の等張化液が挙げられる。なお、等張化液に血清成分例えばアルブミン等を添加してもよい。
【0017】
次いで、保冷箱に0〜6℃が担保できるよう保冷剤と共に点滴剤等の注射剤を入れ、保存及び/又は輸送する。
この状態で保存したリンパ球は高い生細胞率及びIFN−γ産生細胞率を維持しており、免疫細胞療法に用いる注射剤として有用である。とりわけ、癌及び/又は感染症に対する免疫細胞療法に用いる注射剤として有用である。
本発明では、上記した通り、採取した血液を16〜22℃で保存及び/又は輸送することにより、採取した血液からの末梢血単核球の分離性が良く、かつ増殖性が高い状態で維持することができる。一方、採取した血液から予め末梢血単核球を分離すると、増殖性が高い状態で維持しながら保存温度範囲が5〜22℃に広がる。
【0018】
このような増殖性が高い状態で維持される末梢血単核球を用い、培養して得られたリンパ球を0〜6℃で保存及び/又は輸送する。これによって、増殖性が高い状態で維持されたまま、高い生細胞率及びIFN−γ産生細胞率を維持するリンパ球を得ることができる。従って、リンパ球培養において、培養前の試料血液と培養後に得られるリンパ球に異なる取扱いを課すことによって優れた効果があり、更に、これらの取扱いの組み合わせによってより優れた効果をあげることができる。
【0019】
なお、ここで用いられる培養方法は、上記した条件のみならず、リンパ球培養で通常知られた条件が適用可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明がこれに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0021】
ヒト末梢血単核球を抗CD3抗体(オルソクローン:ヤンセンファーマ)固相化フラスコ(住友ベークライト)に播種し、培地(KBM400:コージンバイオ)にIL−2を280IU/mLとなるように添加し培養(37℃、CO:5%)を行った。
14日間培養後、遠心分離によりリンパ球(LAK細胞)を回収し、洗浄した。
培養されたリンパ球を5×10cells/mLの密度で生理食塩水(0.2%ヒト血清アルブミン)にて保存した。
フローサイトメーター(Cytomics FC500:ベックマンコールター)を用いて、各保存時間後の生細胞率をPI(Propidium Iodide)法により、またIFN−γ産生細胞率をPMA(Phorbol 12−Myristate 13−Acetate)、イオノマイシン(Ionomycin)刺激による細胞内サイトカイン測定法により測定した。
【0022】
1)生細胞率への保存温度の影響
図1に各保存温度での、ハーベスト後6、30、36、50時間後の生細胞率の変化を示した。
保存時間30時間の生細胞率は保存温度14℃以下であればほとんど低下はみられなかった。
【0023】
2)IFN−γ産生細胞率
図2に各保存温度での、ハーベスト後6、24、30、36、50時間後のIFN−γ産生細胞率の変化を示した。
保存時間24時間でのIFN−γ産生細胞率は保存温度6℃以下であれば低下を最も抑えることができた。
【0024】
以上のことから細胞機能を維持した状態を保つには、保存及び/又は輸送の温度は0〜6℃が適していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明方法はリンパ球の生細胞率やIFN−γ産生細胞率を高く維持したまま保存及び/又は輸送するための方法を提供するものであり、免疫細胞療法におけるリンパ球を含む注射剤の保存及び/又は輸送方法として優れた効果を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球を0〜6℃に保つことを特徴とするリンパ球の保存方法。
【請求項2】
前記リンパ球が、16〜22℃で保存及び/又は輸送されたリンパ球培養用血液から分離された末梢血単核球であるか、若しくはリンパ球培養用血液から末梢血単核球を分離した後、5〜22℃で保存及び/又は輸送された末梢血単核球を用いて培養されたリンパ球であることを特徴とする請求項1記載のリンパ球の保存方法。
【請求項3】
前記リンパ球が、16〜22℃で保存及び/又は輸送されたリンパ球培養用血液から分離された末梢血単核球、又はリンパ球培養用血液から末梢血単核球を分離した後5〜22℃で保存及び/又は輸送された末梢血単核球を、抗CD3抗体及び100〜2000IU/mLのIL−2存在下に、34〜38℃で2〜10%のCO条件下で1〜20日培養することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリンパ球の保存方法。
【請求項4】
前記リンパ球がLAK細胞であることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項記載のリンパ球の保存方法。
【請求項5】
前記リンパ球が癌及び/又は感染症患者由来のリンパ球であることを特徴とする請求項1〜4いずれかの項記載のリンパ球の保存方法。
【請求項6】
前記リンパ球が点滴剤に調製されていることを特徴とする請求項1〜5いずれかの項記載のリンパ球の保存方法。
【請求項7】
リンパ球を0〜6℃で輸送することを特徴とするリンパ球の輸送方法。
【請求項8】
前記リンパ球が、16〜22℃で保存及び/又は輸送されたリンパ球培養用血液から分離された末梢血単核球であるか、若しくはリンパ球培養用血液から末梢血単核球を分離した後、5〜22℃で保存及び/又は輸送された末梢血単核球を用いて培養されたリンパ球であることを特徴とする請求項7記載のリンパ球の輸送方法。
【請求項9】
前記リンパ球が、16〜22℃で保存及び/又は輸送されたリンパ球培養用血液から分離された末梢血単核球、又はリンパ球培養用血液から末梢血単核球を分離した後5〜22℃で保存及び/又は輸送された末梢血単核球を、抗CD3抗体及び100〜2000IU/mLのIL−2存在下に、34〜38℃で2〜10%のCO2条件下で1〜20日培養することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のリンパ球の輸送方法。
【請求項10】
前記リンパ球がLAK細胞であることを特徴とする請求項7〜9いずれかの項記載のリンパ球の輸送方法。
【請求項11】
前記リンパ球が癌及び/又は感染症患者由来のリンパ球であることを特徴とする請求項7〜10いずれかの項記載のリンパ球の輸送方法。
【請求項12】
前記リンパ球が点滴剤に調製されていることを特徴とする請求項7〜11いずれかの項記載のリンパ球の輸送方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−139711(P2011−139711A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82603(P2011−82603)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【分割の表示】特願2006−527902(P2006−527902)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(598086844)株式会社メディネット (10)
【Fターム(参考)】