説明

リンパ球の製造方法

【課題】養子免疫療法に適用可能なリンパ球を効率よく製造する手段を提供すること。
【解決手段】リンパ球又はリンパ球の前駆細胞をVLA−6に結合しうる物質の存在下で培養する工程を包含するリンパ球の製造方法を提供する。前記方法には、VLA−6に結合しうる物質としてラミニンのフラグメントを使用することができる。また、前記方法により製造されるリンパ球を含有する細胞集団は癌や感染性疾患の治療に有用である。さらに、新規なラミニンのフラグメントとその用途も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において有用なリンパ球を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は主として免疫応答により異物から守られており、免疫システムはさまざまな細胞とそれが作り出す可溶性の因子によって成り立っている。なかでも中心的な役割を果たしているのが白血球、特にリンパ球である。このリンパ球はBリンパ球(以下、B細胞と記載することがある)とTリンパ球(以下、T細胞と記載することがある)という2種類の主要なタイプに分けられ、いずれも抗原を特異的に認識し、これに作用して生体を防御する。
【0003】
T細胞は、CD(Cluster of Differentiation)4マーカーを有し、主に抗体産生の補助や種々の免疫応答の誘導に関与するヘルパーT細胞、CD8マーカーを有し、主に細胞傷害活性を示す細胞傷害性T細胞〔細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte)、キラーT細胞とも呼ばれる。以下、CTLと記載することがある〕に亜分類される。腫瘍細胞やウイルス感染細胞等を認識して破壊、除去するのに最も重要な役割を果たしているCTLは、B細胞のように抗原に対して特異的に反応する抗体を産生するのではなく、標的細胞膜表面上に存在する主要組織適合複合体〔MHC:ヒトにおいてはヒト白血球抗原(HLA)と称することもある〕クラスI分子に会合した標的細胞由来の抗原(抗原ペプチド)を直接認識して作用する。この時、CTL膜表面のT細胞レセプター(以下、TCRと称す)が前述した抗原ペプチド及びMHCクラスI分子を特異的に認識して、抗原ペプチドが自己由来のものなのか、あるいは、非自己由来のものなのかを判断する。そして、非自己由来と判断された標的細胞はCTLによって特異的に破壊、除去される。
【0004】
近年、薬剤治療法や放射線治療法のように患者に重い肉体的負担がある治療法が見直され、患者の肉体的負担が軽い免疫治療法への関心が高まっている。特にヒト由来のリンパ球から目的とする抗原に対して特異的に反応するCTLを生体外(ex vivo)で誘導した後、もしくは誘導を行わず、リンパ球を拡大培養し、患者へ移入する養子免疫療法の有効性が注目されている。例えば、動物モデルにおいて養子免疫療法がウイルス感染及び腫瘍に対して有効な治療法であることが示唆されている。この治療法ではCTLの抗原特異的細胞傷害活性を維持もしくは増強させた状態でその細胞数を維持あるいは増加させることが重要である。
【0005】
上記のような養子免疫療法において、治療効果を得るためには一定量以上の細胞数の細胞傷害性リンパ球を投与する必要がある。すなわち、ex vivoでこれらの細胞数を短時間に得ることが最大の課題であるといえる。一方、CTLの抗原特異的傷害活性を維持及び増強するためには、CTLについて抗原に特異的な応答を誘導する際に、目的とする抗原を用いた刺激を繰り返す方法が一般的である。しかし、通常、この方法では最終的に得られるCTL数が減少し、十分な細胞数が得られない。
【0006】
抗原特異的なCTLの調製に関しては、自己CMV感染線維芽細胞とIL−2(例えば、非特許文献1)、あるいは抗CD3抗体とインターロイキン−2(IL−2)を用いて、それぞれCMV特異的CTLクローンを単離並びに大量培養する方法(例えば、非特許文献2)が報告されている。
【0007】
さらに、特許文献1にはREM法(rapid expansion method)が開示されている。このREM法は、抗原特異的CTL及びヘルパーT細胞を含むT細胞の初期集団を短期間で増殖(Expand)させる方法である。つまり、個々のT細胞クローンを増殖させて大量のT細胞を提供可能であり、抗CD3抗体、IL−2、並びに放射線照射により増殖性をなくした末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)とエプスタイン−バールウイルス(Epstein−Barr virus;EBV)感染細胞とを用いて抗原特異的CTL数を増加させることが特徴である。
【0008】
また、特許文献2には改変REM法が開示されており、当該方法はPBMCとは区別されるT細胞刺激成分を発現する分裂していない哺乳動物細胞株をフィーダ細胞として使用し、PBMCの使用量を低減させる方法である。
【0009】
CTL以外の疾病の治療に有効なリンパ球としては、例えば、リンフォカイン活性化細胞(例えば、非特許文献3、4)、高濃度のIL−2を用いて誘導した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(例えば、非特許文献5)が知られている。
【0010】
リンフォカイン活性化細胞は、リンパ球を含む末梢血液(末梢血白血球)や臍帯血、組織液等にIL−2を加えて、数日間試験管内で培養することにより得られる細胞傷害活性を持つ機能的細胞集団である。リンフォカイン活性化細胞の培養工程において、抗CD3抗体を加えることにより、さらにリンフォカイン活性化細胞の増殖は加速する。このようにして得られたリンフォカイン活性化細胞は非特異的にさまざまながん細胞やその他のターゲットに対して傷害活性を有する。
【0011】
リンフォカイン活性化細胞や細胞傷害性リンパ球の製造において、フィブロネクチンやそのフラグメントを使用することで、細胞増殖率の向上作用、細胞傷害活性の維持作用することについては、既に本発明者らにより検討されてきた(例えば、特許文献3、4及び5)。
【0012】
ラミニンは細胞接着、器官形成、組織再生など、さまざまな生命現象に深くかかわる多機能分子である。ラミニンはα、β、γの3つのサブユニットで構成される、分子量50万〜90万のヘテロ3量体であり、さらに、各サブユニットに複数の分子種が存在することから、サブユニット構成の異なる15種ものアイソフォームが存在している。ラミニンはα3β1インテグリン(VLA−3)、α6β1インテグリン(VLA−6)と結合することが知られている。また、ラミニンは休止状態のCD4陽性細胞の増殖促進作用を有すると言われている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/06929号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/32970号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/016511号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/080817号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/019450号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Immunol.(ジャーナル オブ イムノロジー)、1991年、第146巻、第2795〜2804頁
【非特許文献2】J. Immunol. Methods(ジャーナル オブ イムノロジカル メソッヅ)、1990年、第128巻、第189〜201頁
【非特許文献3】Blood(ブラッド)、1993年、第81巻、第2093〜2101頁
【非特許文献4】N. Engl. J. Med.(ニューイングランド ジャーナル オブ メディシン)、1987年、第316巻、第889〜897頁
【非特許文献5】N. Engl. J. Med.、1988年、第319幹、第1676〜1680頁
【非特許文献6】J. Immunol.、1990年、第145巻、第59〜67頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
リンフォカイン活性化細胞や細胞傷害性リンパ球の製造において、フィブロネクチンやそのフラグメントを使用することで、細胞増殖率の向上作用、細胞傷害活性の維持作用することについては、既に本発明者らにより検討されてきた(例えば、特許文献3、4及び5)。しかしながら、養子免疫療法が多様化しているという現状を考えた場合、上記文献の方法以外の、さらなる細胞増殖方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明を概説すれば、本発明は、
[1]リンパ球又はリンパ球の前駆細胞をVLA−6に結合しうる物質の存在下で培養する工程を包含するリンパ球の製造方法、
[2]VLA−6に結合しうる物質がラミニンのフラグメントである[1]のリンパ球の製造方法、
[3]ラミニンのフラグメントが、ラミニンα鎖の球状ドメイン領域由来のポリペプチドである[2]のリンパ球の製造方法、
[4]ラミニンのフラグメントが配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドである[3]のリンパ球の製造方法、
[5][1]〜[4]いずれか記載のリンパ球の製造方法により得られるリンパ球を含有する細胞集団、
[6][5]の細胞集団を有効成分として含有する細胞医薬、
[7]配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加して生じるアミノ酸配列を含有し、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチド、
[8][7]のポリペプチドをコードする核酸、
[9][8]の核酸に相補的な配列の核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能で、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチドをコードする核酸、
[10][7]のポリペプチドを有効成分として含有するリンパ球増殖促進剤、及び
[11][7]のポリペプチドを有効成分として含有するリンパ球培養用培地、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリンパ球の製造方法は、CTLやリンフォカイン活性化細胞のような、養子免疫療法に利用可能な細胞、細胞集団を効率よく製造可能な方法であり、特に医療分野で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、医療への使用に適した、効率的なリンパ球の製造方法に関する。
【0019】
本発明は、VLA−6に対して結合活性を有する物質の存在下で培養を実施することにより、その非存在下にリンパ球を培養した場合には、その非存在下での培養に比較して拡大培養率が向上することを見出し、完成するに至ったものである。
【0020】
本発明により、リンパ球の製造方法が提供される。当該方法は細胞増殖率が高く、例えば、養子免疫療法への利用に好適である。従って、本発明の方法は、医療分野への多大な貢献が期待される。また、本発明により、新規なラミニンフラグメントが提供される。
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0022】
(1)VLA−6に結合しうる物質
本発明は、リンパ球又はその前駆細胞をVLA−6に結合しうる物質の存在下に培養する工程を包含することを特徴とする。
【0023】
VLA−6に結合しうる物質には特に限定はなく、生体内でVLA−6のリガンドとして機能している物質、その断片、そのホモローグ又は誘導体、及びVLA−6を認識する抗体又はその断片が例示される。
【0024】
ラミニンはVLA−6のリガンドとして知られており、本発明に使用することができる。しかしながら、
ラミニンは分子量50万を超える巨大分子であることから、天然の材料から高純度のラミニンを精製することは困難である。さらにヒトや動物から得られたラミニンにはその材料に由来するウイルス等の混入の恐れがあり、治療等への使用を意図したリンパ球の製造に使用することは好ましくない。本発明には、遺伝子工学的に製造された組換えラミニンの使用が好ましく、その製造、取扱いの容易さの観点から、ラミニンのフラグメント、特に組換えフラグメントが好適である。
【0025】
本発明に使用されるラミニンのフラグメントは、VLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有している範囲において、そのサイズに特に限定はない。製造や取扱いの容易さの観点からは、3000〜15万、好ましくは4000〜10万、さらに好ましくは5000〜8万、特に好ましくは6000〜2万の分子量のラミニンフラグメントが使用される。本発明の一つの態様として、ラミニンα鎖の球状ドメイン領域に由来するアミノ酸配列を有するフラグメントが例示される。当該フラグメントとしては、本発明を特に限定するものではないが、例えばG1ドメイン又はG2ドメイン由来のアミノ酸配列を含有するラミニンフラグメント、特に好適には配列表の配列番号1又は11に示されるラミニンα1鎖由来のアミノ酸配列を含有するラミニンフラグメント(ポリペプチド)が例示される。配列番号1、11のアミノ酸配列を含有するポリペプチドは、それぞれ下記実施例にAG1−5−4、AG2−10−7として記載されている。
【0026】
さらに、配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列に1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加して生じるアミノ酸配列を含有し、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチドも本発明に使用することができる。前記のポリペプチドとしては、配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列との間に80%以上、好ましくは90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドが例示される。
【0027】
以上に説明したラミニンフラグメントや、当該フラグメントと配列同一性を有しかつ同等の機能を保持するポリペプチドは本発明に包含されるものである。前記のラミニンフラグメントやポリペプチドは、VLA−6との結合を介してリンパ球にシグナルを伝達し、リンパ球の増殖を促進する。すなわち、本発明により、VLA−6との結合を介してリンパ球にシグナルを与えることを特徴とするリンパ球の増殖方法が提供される。
【0028】
前記のラミニンフラグメントやポリペプチドを組換えポリペプチドとして製造するにあたっては、その精製を容易にする目的で公知のペプチドを付加することができる。前記ペプチドに特異的に結合するリガンドを使用して、所望のフラグメントやポリペプチドを簡便な操作で精製することができる。前記のペプチドとしては、ヒスチジン−タグ、マルトース結合タンパク質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)等が例示される。これらのペプチドが付加された前記のラミニンフラグメントやポリペプチドも本発明に包含される。
【0029】
さらに、前記のラミニンフラグメントやポリペプチドをコードする核酸は、前記のペプチドが付加されたものをコードするものを含め、本発明に包含される。ヒトラミニンα1鎖遺伝子中の、配列番号1記載のアミノ酸配列のラミニンフラグメントをコードする領域の塩基配列を配列番号2に示す。また、配列番号11記載のアミノ酸配列のラミニンフラグメントをコードする領域の塩基配列を配列番号12に示す。配列番号2又は12の塩基配列を含有し、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチドをコードする核酸は本発明の核酸の一例である。また、配列番号2の塩基配列に相補的な配列の核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能で、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチドをコードする核酸も本発明に包含される。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば0.5% SDS、5×デンハルツ溶液、0.01% 変性サケ精子DNAを含む6×SSC中、65℃にて12〜20時間インキュベートする条件が挙げられる。このハイブリダイゼーションには配列番号2の塩基配列に相補的な配列の核酸又はその断片がプローブとして使用される。プローブにハイブリダイズした核酸は、例えば0.5% SDSを含む0.1×SSC中、37℃で洗浄して非特異的に結合したプローブを除去した後に検出することができる。
【0030】
(2)本発明のリンパ球の製造方法
本発明のリンパ球の製造方法は、VLA−6に結合しうる物質の存在下で培養する工程(以下、本発明の培養工程と称することがある)を包含することを特徴とする。
【0031】
本発明のリンパ球の製造方法は、リンパ球又はその前駆細胞を生体外で培養する工程を包含する。この培養工程の全期間、もしくは任意の一部の期間において、本発明の培養工程が実施される。すなわち、リンパ球の製造工程の一部がVLA−6に結合しうる物質の存在下で実施されるものであれば本発明に包含される。リンパ球の製造工程の一部に本発明の培養工程を含む場合、好適には培養初期に本発明の培養工程を含むことが好ましく、より好適には培養開始時に本発明の培養工程を含むことが好ましい。
【0032】
本発明において使用されるリンパ球又はその前駆細胞には特に限定はない。リンパ球としては、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、ナイーブ細胞、メモリー細胞等が例示される。リンパ球の前駆細胞としては、リンパ球に分化しうる能力を有する細胞もしくは当該細胞を含有する細胞集団を本発明に使用することができ、末梢血単核球(PBMC)、臍帯血単核球、骨髄細胞、造血幹細胞等が例示される。培養に使用される細胞は製造するリンパ球の種類に応じて適宜設定できるが、当該細胞は生体から採取されたものをそのままもしくは凍結保存したもののいずれも使用することができる。
【0033】
本発明の製造方法により得られるリンパ球としては、特に限定するものではないが、例えば細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ヘルパーT細胞、リンフォカイン活性化細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、NK細胞、ナイーブ細胞、メモリー細胞、γδT細胞、NKT細胞、これらのうちの少なくとも1種の細胞を含む細胞集団等が挙げられる。さらに、前記の細胞集団より分離された特定の細胞亜集団(cellular subpopulation)、例えばCD8陽性細胞集団やCD4陽性細胞集団も本発明により得られるリンパ球に包含される。
【0034】
これらのうち、本発明はリンフォカイン活性化細胞の製造により適している。なお、本明細書においてリンフォカイン活性化細胞とは、リンパ球を含む末梢血液(末梢血白血球)や臍帯血、組織液等にIL−2を加えて、数日間培養することにより得られる機能的細胞集団を示す。このような細胞集団のことを一般的にリンフォカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)と称することがあるが、当該細胞集団には細胞傷害性を有さない細胞(例えば、ナイーブ細胞等)も含まれていることから、本願明細書においては当該細胞集団をリンフォカイン活性化細胞と称することとする。なお、本明細書においてリンパ球とはリンパ球を含有する細胞群をも包含する。他の細胞についても当該細胞を含有する細胞群をも包含するものとする。
【0035】
なお、本発明の製造方法により得られるリンパ球の細胞傷害活性は公知の方法により評価できる。例えば、放射性物質、蛍光物質等で標識した標的細胞に本発明の方法で得られたリンパ球を接触させ、破壊された標的細胞に由来する放射活性や蛍光強度を測定することによってその細胞傷害活性を評価できる。また、細胞傷害性リンパ球や標的細胞より特異的に遊離される顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターフェロン−ガンマ(IFN−γ)等のサイトカイン量を測定することにより評価することもできる。
【0036】
本発明は、疾病の治療等を目的として個体(患者)に投与されるリンパ球を大量に供給することを目的とするものである。本発明のリンパ球の製造方法においては、該方法に供する細胞の種類や、培養の条件等を適宜設定してリンパ球の培養を行うことにより、例えば養子免疫療法等に有用なリンパ球を製造することができる。
【0037】
本発明の培養工程において使用される細胞培養器材としては、特に限定はないが、例えば、シャーレ、フラスコ、バッグ、大型培養槽、バイオリアクター等を使用することができる。なお、バッグとしては、例えば、細胞培養用COガス透過性バッグを使用することができる。また、工業的に大量のリンパ球を製造する場合には、大型培養槽を使用することができる。また、培養は開放系、閉鎖系のいずれでも実施することができるが、好適には得られるリンパ球の安全性の観点から閉鎖系で培養を行うことが好ましい。
【0038】
本発明においてVLA−6に結合しうる物質(以下、本発明の有効成分と記載することがある)の存在下とは、リンパ球の培養を行なう際に、前記有効成分がその機能を発揮し得る状態で存在することをいい、その存在状態は特に限定されるものではない。例えば、有効成分を使用する培地に溶解させて使用する場合、培地中の本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定するものではないが、例えば、好ましくは0.0001〜10000μg/mL、より好ましくは0.001〜10000μg/mL、さらに好ましくは0.005〜5000μg/mL、さらに好ましくは0.01〜1000μg/mLである。
【0039】
本発明の有効成分を含め、培地中に使用される成分(例えば後述の抗CD3抗体、抗CD28抗体、IL−2等)は培地中に溶解して共存させる他、適切な固相、例えばシャーレ、フラスコ、バッグ等の細胞培養器材(開放系のもの、及び閉鎖系のもののいずれをも含む)、又はビーズ、メンブレン、スライドガラス等の細胞培養用担体に固定化して使用してもよい。前記担体は、細胞培養時に細胞培養器材中の培養液に浸漬して使用される。それらの固相の材質は細胞培養に使用可能なものであれば特に限定されるものではない。各成分を固定化して使用する場合、使用時の固定化された成分量/使用される培地量が各成分を培地中に溶解して用いる場合の所望の濃度と同様の割合となるように固定化するのが好適であるが、それらの固定化量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0040】
例えば、各成分の固定化は、国際公開第97/18318号パンフレット、並びに国際公開第00/09168号パンフレットに記載のフィブロネクチンのフラグメントの固定化と同様の方法により実施することができる。前記の種々の成分や、本発明の有効成分を固相に固定化しておけば、本発明の方法によりリンパ球を培養した後、該リンパ球と固相とを分離するのみで、該リンパ球と本発明の有効成分とを容易に分離することができ、該リンパ球への有効成分等の混入を防ぐことができる。
【0041】
培養条件は、リンパ球の公知の培養条件で行なえばよく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができる。例えば、37℃、5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で細胞培養液に新鮮な培地を加えて希釈したり、培地を新鮮なものに交換したり、細胞培養器材を交換することができる。使用される培地や、同時に使用されるその他の成分等は後述のとおり、製造するリンパ球の種類によって、適宜設定することができる。
【0042】
また、国際公開第03/080817号パンフレットに記載されたフィブロネクチンや公知のフィブロネクチンのフラグメントを前記成分と共に用いて培養してもよい。好適には、前記の文献に記載されているH−296やCH−296等を使用することができる。
【0043】
さらに、国際公開第02/14481号パンフレットや国際公開第03/016511号パンフレットに記載された、抗原特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞の誘導に有効な物質を前記成分と共に用いて培養してもよい。
【0044】
本発明の培養工程に使用される培地としては、細胞培養に使用される公知の培地を使用すればよく、さらに後述するとおり製造するリンパ球の種類に応じて各種サイトカイン等を添加すれば良い。
【0045】
本発明の培養工程においては、培地中に血清や血漿を添加することもできる。これらの培地中への添加量は特に限定はないが、0〜20容量%、特に自己由来の血清又は血漿を用いる場合、患者への負担を考慮して、0〜5容量%とするのが好ましい。また、リンパ球の培養工程において、培地中の血清や血漿濃度は段階的に低減させることができる。例えば、リンパ球の培養工程において培地の交換や添加を行う際に、新たな培地中の血清や血漿濃度を低く調整することにより、使用する血漿や血漿を低減させてリンパ球の培養を実施することができる。このように、培地中の血清や血漿の添加量を低減させることができることは、本発明の有効な効果の1つである。なお、血清又は血漿の由来としては、自己(培養するリンパ球と由来が同じであることを意味する)もしくは非自己(培養するリンパ球と由来が異なることを意味する)のいずれでも良いが、好適には安全性の観点から自己由来のものが使用できる。
【0046】
例えば、本発明の方法において、リンパ球の拡大培養を行う場合、本発明において使用される培養開始時の細胞数としては、特に限定はないが、例えば1cell/mL〜1×10cells/mL、好適には10cells/mL〜5×10cells/mL、さらに好適には1×10cells/mL〜2×10cells/mLが例示される。
【0047】
以下、本発明の製造方法によりリンフォカイン活性化細胞を製造する例(以下、本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法と称することがある)について詳細に記載する。
【0048】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法は、リンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞を用いて、IL−2の存在下で本発明の培養工程を実施することを特徴とする。ここで本発明の培養工程の実施は、培養の全期間であっても一部の期間であってもよく、好適には培養開始時に本発明の培養工程を実施することが好ましい。本発明の培養工程の培養期間については、例えば1〜8日、好適には2〜7日、より好適には3〜7日が好ましく、より高い拡大培養率を実現する観点からは3日以上が好ましい。
【0049】
リンフォカイン活性化細胞になり得る能力を有する細胞としては、特に限定されるものではなく、例えばPBMC、NK細胞、臍帯血単核球、骨髄細胞、造血幹細胞、これらの細胞を含有する血液成分等が挙げられ、血球系細胞であれば使用できる。また、前記細胞を含有する材料、例えば末梢血液、臍帯血等の血液や、血液から赤血球や血漿等の成分を除去したもの、骨髄液等を使用することができる。
【0050】
また、リンフォカイン活性化細胞を培養するための一般的な条件は、公知の条件〔例えば、細胞工学、1995年、第14巻、第223〜227頁;組織培養、1991年、第17巻、第192〜195頁;The Lancet(ザ ランセット)、2000年、第356巻、第802〜807頁;Current Protocols in Immunology(カレント プロトコル イン イムノロジー)、補遺 17、UNIT7.7を参照〕に従えばよい。培養条件は特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を適用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件下で培養することができる。この培養は通常、2〜15日程度実施され、培養初期に本発明の培養工程を実施することが好ましいことは前述のとおりである。また、適当な時間間隔で細胞培養液を希釈する工程、培地を交換する工程もしくは細胞培養器材を交換する工程を行っても良い。
【0051】
使用される培地については特に限定はなく、リンパ球の培養に適した公知の培地を使用することができる。また、本発明の有効成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。好適には、IL−2を含有する培地が本発明に使用される。IL−2の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば0.01〜1×10U/mL好適には0.1〜1×10U/mLである。
【0052】
本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法においては、高い拡大培養率を実現する観点から、前記有効成分に加え、抗CD3抗体、特に好適には抗ヒトCD3モノクローナル抗体、より好適にはOKT3を共存させることが好ましい。抗CD3抗体の培地中の濃度としては、特に限定はないが、例えば0.001〜100μg/mL、特に0.01〜100μg/mLが好適である。また、さらに副刺激を与えるために抗CD28抗体、特に好適には抗ヒトCD28モノクローナル抗体を共存させることもできる。また、レクチン等のリンパ球刺激因子を共存させてもよい。さらに、これらの成分は前述のとおり、適当な固相に固定化して使用することもできる。
【0053】
本発明はその一態様として、前述したリンパ球の製造方法において、さらに外来遺伝子を導入する工程を包含するリンパ球の製造方法も提供する。なお、「外来」とは、遺伝子導入対象のリンパ球に対して外来であることをいう。
【0054】
本発明のリンパ球の製造方法により、培養されるリンパ球の増殖能が増強される。よって、本発明のリンパ球の製造方法を、遺伝子の導入工程と組み合わせることにより、遺伝子の導入効率の上昇が期待される。当該方法により遺伝子導入されたリンパ球や当該リンパ球を含有する細胞集団が得られる。
【0055】
外来遺伝子の導入手段には特に限定はなく、公知の遺伝子導入方法により適切なものを選択して使用することができる。遺伝子導入の工程は、リンパ球の製造の際、任意の時点で実施することができる。例えば、前記本発明のリンフォカイン活性化細胞の製造方法中の細胞増殖時に実施するのが好適である。
【0056】
前記の遺伝子導入方法としては、ウイルスベクターを使用する方法、該ベクターを使用しない方法のいずれもが本発明に使用できる。それらの方法の詳細についてはすでに多くの文献が公表されている。
【0057】
前記ウイルスベクターには特に限定はなく、通常、遺伝子導入方法に使用される公知のウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はセンダイウイルスベクター等が使用される。特に好適には、ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はシミアンウイルスベクターが使用される。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。また、遺伝子導入の際に導入効率を向上させる物質を使用してもよく、例えばレトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製)やその他のフィブロネクチンフラグメントを使用することもできる。
【0058】
レトロウイルスベクター並びにレンチウイルスベクターは、当該ベクターが導入される細胞の染色体DNA中に該ベクターに挿入されている外来遺伝子を安定に組み込むことができ、遺伝子治療等の目的に使用されている。当該ベクターは分裂、増殖中の細胞に対する感染効率が高いことから、本発明における、リンパ球の製造工程、例えば、拡大培養の工程において遺伝子導入を行なうのに好適である。
【0059】
ウイルスベクターを使用しない遺伝子導入方法としては、本発明を限定するものではないが、例えば、リポソーム、リガンド−ポリリジンなどの担体を使用する方法やリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などを使用することができる。この場合にはプラスミドDNAや直鎖状DNAに組み込まれた外来遺伝子が導入される。
【0060】
本発明においてリンパ球に導入される外来遺伝子には特に限定はなく、前記細胞に導入することが望まれる任意の遺伝子を選ぶことができる。このような遺伝子としては、例えば、タンパク質(例えば、酵素、サイトカイン類、リンフォカイン類、レセプター類等)をコードするものの他、アンチセンス核酸やsiRNA(small interfering RNA)、リボザイムをコードするものが使用できる。また、遺伝子導入された細胞の選択を可能にする適当なマーカー遺伝子を同時に導入してもよい。
【0061】
前記の外来遺伝子は、例えば、適当なプロモーターの制御下に発現されるようにベクターやプラスミド等に挿入して使用することができる。また、効率のよい遺伝子の転写を達成するために、プロモーターや転写開始部位と協同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列やターミネーター配列がベクター内に存在していてもよい。また、外来遺伝子を相同組換えにより導入対象のリンパ球の染色体へ挿入することを目的として、例えば、該染色体における該遺伝子の所望の標的挿入部位の両側にある塩基配列に各々相同性を有する塩基配列からなるフランキング配列の間に外来遺伝子を配置させてもよい。導入される外来遺伝子は天然のものでも、又は人工的に作製されたものでもよく、あるいは起源を異にするDNA分子がライゲーション等の公知の手段によって結合されたものであってもよい。さらに、その目的に応じて天然の配列に変異が導入された配列を有するものであってもよい。
【0062】
本発明の方法によれば、例えば、癌等の患者の治療に使用される薬剤に対する耐性に関連する酵素をコードする遺伝子をリンパ球に導入して該リンパ球に薬剤耐性を付与することができる。そのようなリンパ球を用いれば、養子免疫療法と薬剤療法とを組み合わせることができ、従って、より高い治療効果を得ることが可能となる。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、多剤耐性遺伝子(multidrug resistance gene)が例示される。
【0063】
一方、前記の態様とは逆に、特定の薬剤に対する感受性を付与するような遺伝子をリンパ球に導入して、該薬剤に対する感受性を付与することもできる。かかる場合、生体に移植した後のリンパ球を当該薬剤の投与によって除去することが可能となる。薬剤に対する感受性を付与する遺伝子としては、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子が例示される。
【0064】
その他、導入する遺伝子としては、標的細胞の表面抗原を認識するTCRをコードする遺伝子や、標的細胞の表面抗原に対する抗体の抗原認識部位を有し、かつTCRの細胞内領域(CD3等)を含むキメラレセプターをコードする遺伝子が例示される。
【0065】
(3)本発明の製造方法により得られるリンパ球、当該リンパ球を含有する医薬、当該医薬を用いた疾患の治療方法
さらに本発明は、上記の本発明の製造方法で得られたリンパ球や当該リンパ球を含有する細胞集団、前期細胞集団から分離された細胞亜集団を提供する。また、本発明は当該リンパ球等を有効成分として含有する医薬(治療剤)を提供する。
【0066】
本発明の製造方法により得られるリンパ球や細胞集団を含有する治療剤は養子免疫療法への使用に適している。養子免疫療法においては、患者の治療に適したリンパ球が、例えば静脈より患者に投与される。当該治療剤は後述の疾患やドナーリンパ球輸注での使用において非常に有用である。当該治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製されたリンパ球や細胞集団を有効成分として、例えば、公知の非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合することにより調製できる。なお、治療剤における本発明のリンパ球の含有量、治療剤の投与量、当該治療剤に関する諸条件は公知の養子免疫療法に従って適宜決定でき、特に限定はないが、例えば、成人一日あたり、好適には1×10〜1×1012cells/日、より好ましくは、5×10〜5×1011cells/日、さらに好ましくは1×10〜1×1011cells/日が例示される。通常、リンパ球は注射や点滴により静脈、動脈、皮下、腹腔内等へ投与される。
【0067】
本発明の医薬の投与においては、特に限定はないが、例えば、治療しようとする疾病に対してワクチンとして機能しうる成分を投与することもできる。例えば、がんの治療に際しては腫瘍抗原、抗原を提示しうる能力を有する細胞、抗原の提示された細胞、人為的操作により増殖能を失った腫瘍組織由来の細胞や、腫瘍組織からの抽出物などを投与することもできる。また、当該医薬の投与においては、リンパ球刺激因子、例えば、抗CD3抗体、抗CD28抗体、リンフォカインやサイトカイン(IL−2、IL−15、IL−7、IL−12、IFN−γ,IFN−α、IFN−β等)、ケモカイン等を適宜投与することもできる。なお、本願明細書において、リンパ球刺激因子とはリンパ球増殖因子を包含するものである。
【0068】
本発明の方法により製造されるリンパ球を投与される疾患としては、特に限定はないが、例えば、癌、白血病等の悪性腫瘍疾患、肝炎、インフルエンザ、HIV等のウイルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患(例えば結核、MRSA、VRE、深在性真菌症)が例示される。また、前述のようにさらに外来遺伝子を導入した場合は、各種遺伝子疾患に対しても効果が期待される。また、本発明の方法により製造されるリンパ球は骨髄移植や放射線照射後の感染症予防、再発白血病の寛解を目的としたドナーリンパ球輸注等にも利用できる。
【0069】
本発明の方法により製造されるリンパ球の医薬の製造における使用、例えばがん性疾患や感染性疾患治療用の医薬の製造における使用も本発明に包含される。
【0070】
また、本発明の別の態様として、前記医薬を用いた疾患の治療方法が提供される。当該疾患の治療方法は、前述のリンパ球の製造方法により製造されたリンパ球を用いることを特徴とし、当該医薬の投与の諸条件については、公知の養子免疫療法や前述の医薬の投与の開示に従って実施できる。
【0071】
(4)本発明の有効成分を含有するリンパ球増殖剤、リンパ球培養用培地
本発明のさらなる態様として、本発明の有効成分を含有するリンパ球増殖剤が提供される。当該リンパ球増殖剤は前記の本発明の有効成分を含有するものであれば特に限定はない。例えば、用時に溶解して使用可能な乾燥品、本発明の有効成分を高濃度で含む溶液、細胞培養器材や細胞培養用担体の固定化に適した溶液といった任意の形態となすことができる。
【0072】
さらに、本発明の有効成分を含有する培地が提供される。当該培地は、前記の本発明の有効成分を含有するものであれば特に限定はなく、例えば公知の細胞培養に用いられる培地成分を含有するものが例示される。さらにその他の任意の成分、例えばタンパク質、サイトカイン類(好適にはIL−2)、所望のその他の成分を含有させることができる。当該培地中の本発明の有効成分等の含有量は、本発明の所望の効果が得られれば特に限定されるものではなく、例えば、本発明の方法に使用される前記培地中の有効成分等の含有量に準じて、所望により、適宜、決定することができる。本発明の培地の一態様としては、本発明の有効成分が固定化された細胞培養用担体を含有する培地、本発明の有効成分が固定化された細胞培養器材に封入して提供される培地が包含される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0074】
実施例1 組換えラミニンフラグメント AG1−5−4の調製
(1)cDNAのクローニング
Human Placenta Total RNA(クロンテック社製)を鋳型とし、PrimeScript High Fidelity RT−PCR Kit(タカラバイオ社製)及びプライマーA1F5482(AgeI)、A1R8608(NotI)を用いてRT−PCRをおこなった。プライマーA1F5482(AgeI)、A1R8608(NotI)の塩基配列をそれぞれ配列表の配列番号3、4に示す。得られた増幅断片をMighty TA−cloning Kit for PrimeSTAR(タカラバイオ社製)を用いて当該キットに添付されたpMD20−Tベクターに挿入し、ヒトラミニンα1鎖をコードする遺伝子断片(NCBI登録番号NM_005559.2の5482−8608位に相当するcDNA)を保持するクローンを選択した。このクローンのプラスミドをpMD20−A1(5482−8608)35と命名した。
【0075】
(2)発現プラスミドの構築
プラスミドベクターpColdI(タカラバイオ社製)のXhoI−XbaIサイト間にSTPU1、STPL2の2種の合成DNA(STPU1、STPL2の塩基配列をそれぞれ配列表の配列番号5、6に示す)をアニーリングさせたものを挿入し、MCS改変型pColdIを作製した。pMD20−A1(5482−8608)35を鋳型とし、プライマーAG1F5、AG1R4を用いたPCRをおこなった。プライマーAG1F5、AG1R4の塩基配列をそれぞれ配列表の配列番号7、8に示す。得られた増幅断片をNdeIとXhoIで消化し、前記のMCS改変型pColdIのNdeI−XhoIサイトに挿入した。これによりN末端にヒスチジン−タグが付加された、ヒトラミニンα1鎖アミノ酸配列(NCBI登録番号NP_005550.2)のアミノ酸番号2159−2245の領域(配列番号1)を含有する組換えラミニンフラグメント(AG1−5−4:ヒスチジン−タグを含んで106残基、分子量11882.63)の発現プラスミド、pC1bAG1−5−4を得た。
【0076】
(3)ラミニンフラグメントの製造
pC1bAG1−5−4を用いて大腸菌BL21を形質転換し、100μg/mLアンピシリンで選択した。得られた形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地で37℃培養し、OD600が0.5付近になった時点で15℃に冷却した後、終濃度1mMのIPTGを添加して発現誘導した。発現誘導後、15℃で一晩培養を継続し、その後に菌体を回収した。
【0077】
前記の菌体を0.5MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)に懸濁後、超音波処理を行った。得られた菌体破砕液を遠心分離して上清を回収した。この遠心上清にTriton X−114(SIGMA社製)を終濃度0.1%(v/v)となるように添加した後、0.5MのNaClと0.1%のTriton X−114を含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化したNi−NTAアガロース(QIAGEN社製)4mlと混合し、さらに容器を回転させながら4℃で1時間保持した。この樹脂懸濁液をカラムに詰め、以下の順序で緩衝液をカラムに添加してクロマトグラフィーをおこなった。
【0078】
洗浄1:0.5MのNaClと0.1%のTriton X−114を含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
洗浄2:0.5MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
洗浄3:0.5MのNaClと50mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
洗浄4:0.5MのNaClと75mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
溶出:0.5MのNaClと300mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
【0079】
溶出操作で回収された画分をRC透析チューブ ポア3(スペクトラポア社製)に封入し、以下の順序で外液を交換する透析をおこなった。
(1)0.5MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
(2)0.35MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
(3)0.2MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
【0080】
以上の透析により溶媒置換したタンパク質溶液をAcrodisc Syringe Filter(Posidyne membrane、孔径0.2μm、PALL社製)で濾過し、濾液を回収してAG1−5−4タンパク質標品とした。
【0081】
実施例2 ラミニンフラグメントによる細胞増殖の促進
(1)PBMCの分離及び保存
インフォームド・コンセントの得られた健常人より成分採血を実施後、採血液をFicoll−paqueを用いた分離操作に供し、PBMCを回収した。採取したPBMCはRPMI1640に懸濁後、CP−1(極東製薬工業社製)と25%ヒト血清アルブミン(ブミネート:バクスター社製)を17:8の割合で混合した保存液を等量加えて液体窒素中にて保存した。使用時には、これら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mlのDNase(カルビオケム社製)を含むGT−T551(タカラバイオ社製)で洗浄した。
【0082】
(2)抗ヒトCD3抗体及びAG1−5−4の固定化
96ウェル細胞培養プレート(コーニング社製)に終濃度5μg/mLの抗ヒトCD3抗体(OKT3、ヤンセンファーマ社製)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を80μL/ウェルずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。その後、上清を除去し、実施例1で調製したAG1−5−4をそれぞれ終濃度100μg/mL、50μg/mL、25μg/mLで含むPBSを80μL/ウェルずつ添加し、37℃(5%CO存在下)で5時間インキュベートした。対照として、抗ヒトCD3抗体固定後にAG1−5−4を含まない0.001%のTritonX―114溶液を用いて同様のインキュベート操作を行う群も設定した。上記のプレートは使用直前にPBSで2回、RPMI1640で1回洗浄した。
【0083】
(3)細胞の培養とチミジン取り込み試験
実施例2−(1)で分離したPBMC 0.3×10cellsを0.5%ヒトAB型血清(LONZA社製、以下血清と記載)、終濃度200U/mLのIL−2(カイロン社製、製剤名Proleukin)を含むGT−T551 0.2mLに懸濁し、実施例2−(2)で調製した抗ヒトCD3抗体固定化プレート、又は抗ヒトCD3抗体及びAG1−5−4固定化プレートに添加し、これらのプレートを37℃、5%COインキュベータ内で培養した(培養0日目)。培養3日目に終濃度0.1mCi/mL Thymidine[methyl−H]−(Perkin Elmer社製)を含む0.5%血清含有GT−T551を10μL/ウェルずつ添加し、37℃(5%CO存在下)で16時間インキュベートした。培養後の細胞をセルハーベスター(SKATORON instruments社製)を用いて、FilterMAT(SKATORON instruments社製)上に回収し、エタノール(ナカライテスク社製)で固定後、水で洗浄し、乾燥させた。細胞へのチミジン取り込みは、細胞が固定化されたFilterMATの放射活性を、Aquasol−2(Perkin Elmer社製)をシンチレーションカクテルとして、液体シンチレーションカウンターLS6500(ベックマン・コールター社製)により測定することで評価した。各初期刺激における放射活性の値を表1に示す。また、表中において「+」は「及び」を意味し、以降の表においても同様である。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示されるように、初期刺激として抗CD3抗体とラミニンフラグメント(AG1−5−4)を組み合わせることにより、放射活性が高くチミジン取り込み量が多いことが確認された。すなわちAG1−5−4による細胞増殖促進効果が示された。
【0086】
実施例3 ラミニンフラグメントを用いたリンパ球の拡大培養
(1)抗ヒトCD3抗体及びAG1−5−4の固定化
実施例2−(2)と同様の方法で、抗ヒトCD3抗体及びAG1−5−4を固定化したプレートを作製した。ただし、プレートは12ウェル細胞培養プレート(コーニング社製)に変更し、抗ヒトCD3抗体を含むPBSは0.45mL/ウェルずつ添加した。またAG1−5−4固定化時には、終濃度100μg/mL、50μg/mLのAG1−5−4を含むPBSを0.45mL/ウェルずつ添加した。
【0087】
(2)リンパ球の拡大培養
0.5%血清含有GT−T551に0.5×10cells/mLとなるように実施例2−(1)で調製したPBMCを懸濁した。実施例3−(1)で調製した抗ヒトCD3抗体固定化プレート、又は抗ヒトCD3抗体及びAG1−5−4固定化プレートに0.5%血清含有GT−T551を1.0mL/ウェルで添加しておき、前記の細胞懸濁液を0.5mL/ウェルずつ添加した。続いて終濃度1000U/mLとなるようにIL−2を添加し、これらのプレートを5%CO中37℃で培養した(培養0日目)。培養4日目及び7日目に、各群の培養液を0.5%血清含有GT−T551を用いてそれぞれ約14倍(4日目)及び約2倍(7日目)希釈した。また、この希釈の際に希釈液10mLをそれぞれT25細胞培養フラスコ(コーニング社製)を立てたものに移し、終濃度500U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養7日目及び10日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示されるように、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体とラミニンフラグメント(AG1−5−4)を固定化した培養器材を使用した群においては、対照群と比較して高い拡大培養率が得られた。つまり、ラミニンフラグメント(AG1−5−4)はリンパ球拡大培養時において好適に使用されることが明らかとなった。
【0090】
実施例4 組換えラミニンフラグメント AG2−10−7の調製
(1)発現プラスミドの構築
実施例1−(1)で作製したpMD20−A1(5482−8608)35を鋳型とし、プライマーLMAG2F10、LMAG2R7を用いたPCRをおこなった。プライマーLMAG2F10、LMAG2R7の塩基配列をそれぞれ配列表の配列番号9、10に示す。得られた増幅断片をNdeIとXhoIで消化し、実施例1−(2)記載のMCS改変型pColdIのNdeI−XhoI サイトに挿入した。これによりN末端にヒスチジン−タグが付加された、ヒトラミニンα1鎖アミノ酸配列(NCBI登録番号NP_005550.2)のアミノ酸番号2346−2438の領域(配列番号11)を含有する組換えラミニンフラグメント(AG2−10−7:ヒスチジン−タグを含んで112残基、分子量12744.73)の発現プラスミド、pC1bAG2−10−7を得た。
【0091】
(2)AG2−10−7の製造
pC1bAG2−10−7を用いて大腸菌BL21を形質転換し、100μg/mL アンピシリンで選択した。得られた形質転換体を100μg/mLのアンピシリンを含有するLB培地で37℃培養し、OD600が0.5付近になった時点で15℃に冷却した後、終濃度1mMのIPTGを添加して発現誘導した。発現誘導後、15℃で一晩培養を継続し、その後に菌体を回収した。
【0092】
前記の菌体を0.2MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)に懸濁後、超音波処理を行った。得られた菌体破砕液を遠心分離して上清を回収した。この遠心上清に終濃度50mMとなるようにイミダゾールを添加した後、0.2MのNaClと50mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で平衡化したNi−NTAアガロース4mLと混合し、さらに容器を回転させながら4℃で1時間保持した。この樹脂懸濁液をカラムに詰め、以下の順序で緩衝液をカラムに添加してクロマトグラフィーをおこなった。
【0093】
洗浄:0.2MのNaClと50mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
溶出:0.2MのNaClと300mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)。
【0094】
溶出操作で回収された画分をRC透析チューブ ポア3に封入し、0.2MのNaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)に対して透析をおこなった。こうして溶媒置換したタンパク質溶液をAG2−10−7タンパク質標品とした。
【0095】
実施例5 組換えラミニンフラグメント(AG2−10−7)を用いたリンパ球の拡大培養
(1)PBMCの分離及び保存
実施例2-(1)と同様の方法でPBMCの分離及び保存を行った。
【0096】
(2)抗ヒトCD3抗体及びAG2−10−7の固定化
実施例2−(2)と同様の方法で、抗ヒトCD3抗体及び実施例4で調製したAG2−10−7を固定化したプレートを作製した。ただし、プレートは24ウェル細胞培養プレート(コーニング社製)に変更し、抗ヒトCD3抗体を含むPBSは0.24mL/ウェルずつ添加した。またAG2−10−7固定化時には、終濃度10μg/mLとなるようにAG2−10−7を添加した。
【0097】
(3)リンパ球の拡大培養
0.5%血清含有GT−T551に0.5×10cells/mLとなるように実施例5−(1)で調製したPBMCを懸濁した。実施例5−(2)で調製した抗ヒトCD3抗体固定化プレート、又は抗ヒトCD3抗体及びAG2−10−7固定化プレートに0.5%血清含有GT−T551を0.56mL/ウェルで添加しておき、前記の細胞懸濁液を0.24mL/ウェルずつ添加した。続いて終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、これらのプレートを5%CO中37℃で培養した(培養0日目)。培養4日目及び7日目に、各群の培養液を0.5%血清含有GT−T551を用いてそれぞれ約5.714倍(4日目)及び約2倍(7日目)希釈した。また、この希釈の際に希釈液2mLをそれぞれ新しい24ウェル細胞培養プレートに移し、終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養4日目と培養7日目及び10日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較して拡大培養率を算出した。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表3に示されるように、リンパ球拡大培養初期に抗CD3抗体とラミニンフラグメント(AG2−10−7)を固定化した培養器材を使用した群においては、対照群と比較して高い拡大培養率が得られた。つまり、ラミニンフラグメント(AG2−10−7)はリンパ球拡大培養時において好適に使用されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、養子免疫療法に有用なリンパ球の拡大培養方法が提供される。また、リンパ球の拡大培養に有用な新規なラミニンフラグメントも提供される。高い効率でリンパ球を拡大培養可能な本発明の方法は、細胞医薬の製造技術として極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0101】
SEQ ID NO:1 ; Partial region of human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:2 ; Partial region of the gene encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:3 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:4 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:5 ; Synthetic DNA STPU1.
SEQ ID NO:6 ; Synthetic DNA STPL2.
SEQ ID NO:7 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:8 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:9 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:10 ; Primer to amplify the fragment of cDNA encoding human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:11 ; Partial region of human laminin alpha 1 chain.
SEQ ID NO:12 ; Partial region of the gene encoding human laminin alpha 1 chain.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球又はリンパ球の前駆細胞をVLA−6に結合しうる物質の存在下で培養する工程を包含するリンパ球の製造方法。
【請求項2】
VLA−6に結合しうる物質がラミニンのフラグメントである請求項1記載のリンパ球の製造方法。
【請求項3】
ラミニンのフラグメントが、ラミニンα鎖の球状ドメイン領域由来のポリペプチドである請求項2記載のリンパ球の製造方法。
【請求項4】
ラミニンのフラグメントが配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドである請求項3記載のリンパ球の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のリンパ球の製造方法により得られるリンパ球を含有する細胞集団。
【請求項6】
請求項5記載の細胞集団を有効成分として含有する細胞医薬。
【請求項7】
配列表の配列番号1又は11に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加して生じるアミノ酸配列を含有し、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項9】
請求項8記載の核酸に相補的な配列の核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能で、かつVLA−6に結合する能力並びにリンパ球の増殖を促進する能力を有しているポリペプチドをコードする核酸。
【請求項10】
請求項7記載のポリペプチドを有効成分として含有するリンパ球増殖促進剤。
【請求項11】
請求項7記載のポリペプチドを有効成分として含有するリンパ球培養用培地。

【公開番号】特開2010−63455(P2010−63455A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183783(P2009−183783)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】