説明

リンパ管の新生、形成又は安定化剤

【課題】新規のリンパ管新生、形成又は安定化剤の提供、並びにリンパ管新生、形成又は安定化を図ることにより、リンパ管の回収機能を維持・亢進し、ひいてはむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防する薬剤の提供。
【解決手段】エストロゲン受容体を標的とするエストロゲンが、リンパ管新生、形成又は安定化に寄与することを見出すことに基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを有効成分として含むリンパ管の新生、形成又は安定化剤を提供する。本発明は、さらに、当該リンパ管の新生、形成又は安定化剤を含む、むくみの改善又は予防剤、或いは当該リンパ管の新生、形成又は安定化剤を適用することによるむくみを改善又は予防するため美容学的方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
血液は、心臓から送り出されて動脈・毛細血管・静脈を経て心臓へ戻る血管系を形成しており、この血管系とは別個に組織液の排水路を形成するものがリンパ管である。リンパ管は、末梢組織で血管から漏出した間質液、タンパク質、脂肪、細胞などを含む組織液を血管系へと環流することにより血液量を一定に保ち、閉鎖循環系である血管系を維持する。皮膚に存在する毛細血管では、内皮細胞の外側を基底膜が取り囲み、さらに周皮細胞が付着している一方で、毛細リンパ管では、内皮細胞の外には基底膜がほとんどなく、周皮細胞の付着もない。このリンパ管の構造が、効率よく間質から組織液を取り込むために役立っている(非特許文献1)。
【0003】
これまでに、チロシンキナーゼ型受容体VEGFR(vascular endothelial growth factor receptor)-3がリンパ管内皮細胞に特異的に発現することが示され、そのリガンドであるVEGF-CおよびVEGF-Dがリンパ管の新生を誘導することが示されてきた。また、最近、血管安定化因子として知られるAngiopoietin-1(Ang1)がリンパ管内皮細胞に発現する受容体Tie2(tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain)を介して、またVEGF−Aはリンパ管内皮細胞に発現するVEGFR2を介してリンパ管新生を誘導していることが明らかにされた(非特許文献2)。VEGF−Aを発現するアデノウイルスを感染させたマウス耳では、顕著なリンパ管新生が見られたが、リンパ管の構造的な異常を伴っていること、並びにコロイダルカーボンを耳に注入した実験から、リンパ管の組織液回収機能も顕著に阻害されていることが明らかにされた(非特許文献3)。これにより、リンパ管が適切に機能するためには、リンパ管内皮細胞の増殖のみならず、リンパ管内皮細胞が適切に配置して裏打ちされていることが必要であることが示されており、これが「リンパ管の安定化」と定義されている。
【0004】
皮膚に対する物理的あるいは化学的刺激は、血管新生や、VEGF−Aなどによる血管透過性を誘導し、その結果、組織液の貯留と浮腫が生じる。一方で、これらの刺激は直接的にリンパ管の新生・拡張を誘導することも知られている。これまでに、紫外線炎症によってリンパ管の拡張が観測されており、染料を注入した実験から紫外線炎症によってリンパ管の機能が障害されていることが明らかになった。血管拡張に伴う水分の真皮内への漏出にともない、リンパ管は拡張して組織液を回収しようとしていると考えられる。しかしながら、過剰なリンパ管の拡張はその組織液回収機能を逆に低下させ浮腫を遅延していると考えられた(非特許文献4)。つまり、組織液の速やかな回収には、リンパ管の過剰な拡張を誘導しないような“リンパ管の安定化”が必要であると考えられる。
【0005】
これまでに、リンパ管の機能不全が関与する病態としては、先天性リンパ浮腫とともに、フィラリア、手術、悪性腫瘍、炎症にともなう二次性のリンパ浮腫、が知られている。リンパ浮腫とは、なんらかの原因により、組織液が異常に滞留し、むくみ、慢性炎症及び/又は線維化をきたした状態をいい、運動機能に著しい不具合を生じさせるとともに、患部の感染を高め、患者のQOLを著しく低下させる。それにもかかわらず、リンパ浮腫の治療法としては、マッサージ、運動療法及びサポーターの装着などの対症療法が一般的であり、グアイフェネシンと呼ばれる化合物や、HGFがリンパ管の新生に関与することからリンパ浮腫の治療に有効でありうると報告されているに過ぎない(特許文献1及び2)。先天性のリンパ浮腫としてはMilroy病、Meige病、lymphedema-distichiasis症候群がある。Milroy病ではリンパ管の無形成や低形成が報告され、一方でlymphedema-distichiasis症候群ではリンパ管の過形成が報告されている。これらからも、リンパ管の新生だけではなくリンパ管の安定化によって組織液回収機能を保持することが必要であると考えられる(非特許文献5)。
【0006】
一方で、女性ホルモンであるエストロゲンは、乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵制御、脂質代謝制御、インスリン作用、血液凝固作用、中枢神経(意識)女性化、皮膚薄化、LDLの減少とVLDL・HDLの増加による動脈硬化抑制などの様々な作用を有する。女性においては、閉経期にエストロゲン分泌が急激に低下し、閉経以降、冠動脈疾患や脳梗塞など動脈硬化性疾患の発症頻度や進展に大きな影響を与えることが知られており、エストロゲンの血管保護作用についても多数報告がある(非特許文献6)。一方で、エストロゲンのリンパ管への作用については全くわかっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO03/000242
【特許文献2】特開2008/163007
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】実験医学 Vol. 24, No18 (2006), pp. 133-138
【非特許文献2】Jussila L and Alitalo K, (2006) Vascular growth factors and lymphangiogenesis. Phisiol Rev 82:673-700
【非特許文献3】Nagy et al., (2002) Vascular permeability factor/ vascular endothelial growth factor induces lymphangiogenesis as well as angiogenesis. J Exp Med 196: 1497-1506
【非特許文献4】Kajiya K., Hirakawa S., and Detmar M., (2006) VEGF-A mediates UVB-induced impairment of lymphatic vessel function. Am J Pathol 169: 1496-1503
【非特許文献5】実験医学 Vol. 24, No18 (2006), pp. 139-143
【非特許文献6】実験医学 Vol. 28, No17(2010), pp.56-60
【非特許文献7】Kajiya K., et al., (2005) Hepatocyte growth factor promotes lymphatic vessel formation and function. EMBO J 24:2885-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規のリンパ管新生、形成又は安定化剤を提供すること、並びにリンパ管新生、形成又は安定化を図ることにより、リンパ管の組織液回収機能を維持・亢進し、ひいてはむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防する薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明者らは、驚くべき事に、エストロゲン受容体α及びエストロゲン受容体βが血管内皮細胞のみならず、リンパ管内皮細胞においても強く発現していることを始めて見出した。VEGF-Cは血管内皮細胞ではなくリンパ管内皮細胞に作用し、リンパ管新生のみに効果を示すことから、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞との間では、特定のリガンドに対する受容体の発現が異なっていることも知れられている。そこで、エストロゲン受容体α及びエストロゲン受容体βが、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両者において発現していることは驚くべき知見である。
【0011】
本発明者らは、この知見に基づき、エストロゲン受容体のリガンドに該当する物質が、リンパ管内皮細胞においても何らかの作用を有すると考え、さらに鋭意研究を行った結果、エストロゲンの一種であるエストラジオールが、リンパ管内皮細胞の増殖作用を有すること、リンパ管内皮細胞の遊走促進作用を有すること、並びにリンパ管内皮細胞の透過性の抑制作用を有することを見出した。これまでのところ、リンパ管新生を促進する因子としてはVEGFファミリーの一つであるVEGF−CやHGFが知られているが、これらの増殖因子とは異なるステロイドホルモンがリンパ管内皮細胞の増殖、遊走、透過性の抑制に関与することを見出した点は驚くべき知見である。ここで、リンパ管内皮細胞の増殖は、リンパ管の新生に寄与し、リンパ管内皮細胞の遊走は、リンパ管形成に寄与し、そしてリンパ管内皮細胞の透過性の抑制は、リンパ管安定化に寄与する。
【0012】
したがって、本発明者らは、エストロゲン受容体を標的とするエストロゲンがリンパ管の新生又は形成のみならず、リンパ管を安定化することができる薬剤となることを見出し、以下の発明を完成するに到った:
(1) エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含むリンパ管新生、形成又は安定化剤。
(2) 前記女性ホルモンが、エストロゲンである、項目1に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
(3) 前記エストロゲン受容体が、エストロゲン受容体α又はβである、項目2に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
(4) 前記女性ホルモンが、エストロン、エストラジオール、及びエストリオールからなる群から選ばれる女性ホルモンである、項目1〜3のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
(5) 項目1〜4のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤を含んでなる、むくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤。
(6) 項目1〜4のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤を被験者に適用することを含んでなる、むくみ又はリンパ浮腫を改善又は予防するため美容学的方法。
(7) 項目1〜4のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤を被験者に投与することを含んでなる、むくみ又はリンパ浮腫を治療又は予防する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンが、リンパ管内皮細胞の増殖及び遊走を増強し、さらにリンパ管内皮細胞の透過性を抑制することから、リンパ管の新生及び形成を促進するとともに、リンパ管の安定性を向上させる。リンパ管の新生及び形成の促進とリンパ管の安定性の向上は、むくみ又はリンパ浮腫の改善、予防又は治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、リンパ管内皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現を示す図である。リンパ管内皮細胞(LEC)は、血管内皮細胞(HUVEC)と同様に、エストロゲン受容体α(ERα)及びエストロゲン受容体β(ERβ)を発現した。
【図2】図2は、エストラジオールがリンパ管内皮細胞増殖作用を有することを示す図である。エストラジオールが10-6〜10-8Mの濃度でリンパ管内皮細胞の増殖作用を有した。
【図3】図3は、エストラジオールがリンパ管内皮細胞遊走促進作用を有することを示す図である。
【図4】図4は、エストラジオールがリンパ管透過性の抑制作用を有することを示す図である。細胞の透過性を高めるS−ニトロ-N-アセチルペニシルアミン(SNAP)の添加により、電気抵抗が低下するが、エストロゲンとSNAPを投与することによりSNAPによる電気抵抗の低下作用が抑制された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の1の態様では、本発明は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含むリンパ管新生、形成又は安定化剤に関する。エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンは、リンパ管内皮細胞の増殖、遊走の促進、並びにリンパ管内皮細胞の透過性を抑制することから、リンパ管新生、形成及び安定化の全て、又はそのいずれかを促進する。このことから、本発明の別の態様では、本発明は、リンパ管新生、形成又は安定化をすることを必要とする対象において、女性ホルモンを投与することを含む、リンパ管新生、形成、又は安定化方法にも関する。
【0016】
リンパ管の機能が何らかの原因により障害されると、組織液が異常に滞留し、むくみ又はリンパ浮腫が生じる。上述のとおり、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンがリンパ管新生、形成及び安定化に寄与することから、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンの投与により、リンパ管の機能障害により生じるむくみ又はリンパ浮腫を改善、治療、又は予防することが可能になる。したがって、本発明の別の態様は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含むむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤である。本発明のさらに別の態様は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含む、むくみ又はリンパ浮腫の治療用の医薬組成物、さらにはむくみ又はリンパ浮腫を患う患者に対して女性ホルモンを投与することを含むむくみ又はリンパ浮腫の治療方法にも関する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを被験者に適用することを含む、むくみ又はリンパ浮腫を改善又は予防するための美容学的方法である。本発明に係る美容方法は、エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを、むくみ又はリンパ浮腫が形成されやすい顔、首、脚、腕の皮膚に適用することによるが、これらの部位に限定されるものではない。エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンは、むくみ又はリンパ浮腫がある部位に適用される。エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンの適用に加えて、リンパ管の流れの方向に即してマッサージなどを施し、リンパ管液の流れを促進することを行ってもよい。むくみ又はリンパ浮腫を改善又は予防するための美容学的方法は、エステティシャン、マッサージ師、整体師などの医師以外により行われる方法である。
【0018】
本発明において、女性ホルモンは、卵胞ホルモン(又はエストロゲン)と黄体ホルモン(又はプロゲステロン)の両方を意味する。エストロゲン受容体に結合して作用する観点から、女性ホルモンは、好ましくは卵胞ホルモン(又はエストロゲン)を意味する。エストロゲンは、エストロゲン受容体に結合して作用する物質であれば、特に限定されることなく任意の物質であり、天然エストロゲン及び合成エストロゲンのいずれであってもよい。本発明において、好ましいエストロゲンとしては、エストラン骨格を有するステロイドであって、エストロゲン受容体に結合して作用するものである。より好ましいエストロゲンとしては、エストロン、エストラジオール、エストリオール、エステトロールエチノジオール、エキリン、エキレニン及びこれらの誘導体、並びにこれらの物質の異性体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。誘導体としては任意の誘導体が挙げられるが、一般にエストロゲン製剤として用いられる全ての化合物が挙げられ、例えば3位及び/又は17位の水酸基がエステル化及び/又はエーテル化されたものが特に好ましい。例えばエストロン、エストラジオール、エストリオール、エステトロールエチノジオール、エキリン又はエキレニンの安息香酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、吉草酸エステル、メチルエーテルが挙げられる。その他の誘導体として、エチニルエストラジオールが挙げられる。エストロゲン受容体に結合して作用する観点から、エストロゲンは、好ましくはエストロン、エストラジオール、エストリオールであり、より好ましくはエストラジオール、さらに好ましくは17β-エストラジオールである。エストロゲンは、1種の化合物であってもよいし、複数の化合物の組み合わせであってもよい。
【0019】
本発明のリンパ管新生、形成又は安定化剤、並びにむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤などは、使用目的に応じて用量、用法、剤形を適宜選択することが可能である。例えば、本発明のリンパ管新生、形成又は安定化剤、並びにむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤は、経口、非経口(例えば、経皮、経静脈、経粘膜、局所投与)で投与される。剤形としては、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パックなどの外用剤、注射剤、点滴剤、若しくは座剤などの非経口投与剤であるか、或いは錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤などの経口投与剤であってもよい。むくみやリンパ浮腫のある皮膚へ投与する観点から、筋肉注射剤や皮下注射剤、或いは外用剤が特に好ましい。
【0020】
本発明のリンパ管新生、形成又は安定化剤、並びにむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤において、有効成分であるエストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンは、そのエストロゲン活性、剤形、さらには患者の体重、年齢、症状などに応じて、配合量を決定することができ、例えば、下限値が0.01、0.05、0.1、0.5、及び1.0mgからなる群から選択され、上限値が5mg、10mg、50mg、及び100mgからなる群から選択される用量範囲で配合される。
【0021】
本発明において、むくみ又はリンパ浮腫の改善剤とは、むくみ又はリンパ浮腫を患う患者において、むくみ又はリンパ浮腫の症状を緩和することができる薬剤のことを指す。当該改善剤により、むくみ又はリンパ浮腫が寛解することが好ましいが、寛解しない場合も、症状が緩和、例えばむくみ又はリンパ浮腫に伴う痛みの軽減、運動機能の一部の回復などがみられればよい。
【0022】
本発明において、むくみ又はリンパ浮腫の予防剤とは、むくみ又はリンパ浮腫を患うことが予測される患者において、あらかじめ適用することにより、むくみ又はリンパ浮腫の発症を抑制する薬剤のことを指す。むくみやリンパ浮腫の発症を完全に抑制できなくても、発症を遅延させたり、また発症した際の症状を緩和できればよい。むくみ又はリンパ浮腫を患うことが予測される対象として、癌治療のためにリンパ節の摘出手術を受けた患者や、閉経後の女性などが挙げられる。
【0023】
本発明のリンパ管新生、形成又は安定化剤、並びにむくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤などは、有効成分として1又は複数のエストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含むものであるが、当該女性ホルモン以外にも、通常の食品、医薬品又は化粧品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0024】
さらに、本発明のリンパ管安定化剤を、むくみ又はリンパ浮腫の改善・予防剤のような皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【実施例】
【0025】
実施例1:リンパ管内皮細胞及び血管内皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現
リンパ管内皮細胞(LEC)は、ヒト新生児包皮よりCD31陽性CD34陰性CD45陰性細胞として単離した(非特許文献7)。血管内皮細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を購入して用いた(三光純薬)。HUVEC及びLECは添加因子(hEGF、ハイドロコーチゾン、FBS、VEGF、hFGF-B、R3-IGF-1、アスコルビン酸、ヘパリン、GA-1000)をメーカー推奨濃度で加えたEBM−2培地(Cambrex; Verviers, Belgium)で培養し、タンパク質をPhosphosafe Extraction Reagent(Novagen, Madison, WI)で抽出した。総タンパク量をRC DC Protein Assay Kit(BIO-RAD, Hercules, CA)にて定量し、以下のようにウエスタンブロッティングを行った。等量の総タンパク量を7.5%アクリルアミドゲル(NPU-7.5L, ATTO, Japan)でSDS−PAGEを行い、次にImmobilon Transfer Membrane (Millipore, Bedford, MA)に転写し、エストロゲン受容体ER−αのタンパク質に対するラット由来モノクローナル抗体 ER-α(H226):sc-53493(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、及びエストロゲン受容体ER−βのたんぱく質に対するラビット由来ポリクローナル抗体 ER-β(H-150):sc-8974)(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を反応させ、ECL Kitにより発色した。結果を図1に示す。等量のタンパク質がローディングされていることは、β-アクチン抗体(Sigma)を用いることにより確認された。
【0026】
実施例2:リンパ管内皮細胞の増殖アッセイ
リンパ管内皮細胞を、ファイブロネクチンコートした96穴ディッシュに播種して、24時間培養し、その後、添加因子を除いたEBM−2培地で24時間培養し、次に10-6M、10-7M、及び10-8Mとなるように17β-エストラジオールを添加してさらに48時間養した。血管内皮細胞増殖因子C(VEGF-C)(300ng/ml)を添加したものを陽性対照とし、さらに何も添加しないものを陰性対照として同様に培養した。添加後48時間において、4-メチルウンベリフェリルヘプタノアート(MUH)(Sigma)を添加後、蛍光強度を計測して細胞増殖能を評価した。結果を図2に示す。17β-エストラジオールの添加により、リンパ管内皮細胞が増殖することが示され、17β-エストラジオールがリンパ管の新生に寄与することが示された。
【0027】
実施例3:リンパ管内皮細胞の遊走アッセイ
リンパ管内皮細胞をフルオロブロックインサート(BDファルコン)に播種し、10-7M及び10-8Mとなるように17β-エストラジオールを添加したEBM−2培地中で培養した。17β-エストラジオールを添加した4時間後に、10%緩衝ホルマリンにて細胞を固定した後、Hoechst33432(Molecular Probe)にて細胞核を染色した。その後、フルオロブロックインサートの下側のメンブレンに遊走した細胞数を計測した。結果を図3に示す。17β-エストラジオールの添加により、リンパ管内皮細胞の細胞遊走が促進されることが示され、17β-エストラジオールがリンパ管の形成に寄与することが示された。
【0028】
実施例4:リンパ管内皮細胞の細胞透過性アッセイ
リンパ管内皮細胞をファイブロネクチンコートしたトランスウェルインサート(コーニング)上で3日間培養し、インサート上で細胞がコンフルエントになるまで培養した後、NOドナーであるS-ニトロソ-N-アセチルペニシルアミン(SNAP)(10μM)を添加するか、又はSNAPと共に17β-エストラジオール(10-8M)を添加してさらに6時間培養した。その後、細胞間の電気抵抗TERをcellZscope(セルシード社)で測定した。結果を図4に示す。SNAPにより電気抵抗が低下(すなわち透過性が上昇)するが、17β-エストラジオールを添加することにより、SNAPによる電気抵抗の低下を抑制した。したがって、17β-エストラジオールは、リンパ管の安定化効果を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲン受容体を標的とする女性ホルモンを含むリンパ管新生、形成又は安定化剤。
【請求項2】
前記女性ホルモンが、エストロゲンである、請求項1に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
【請求項3】
前記エストロゲン受容体が、エストロゲン受容体α又はβである、請求項1又は2に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
【請求項4】
前記女性ホルモンが、エストロン、エストラジオール、及びエストリオールからなる群から選ばれる女性ホルモンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤を含んでなる、むくみ又はリンパ浮腫の改善又は予防剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリンパ管新生、形成又は安定化剤を被験者に適用することを含んでなる、むくみ又はリンパ浮腫を改善又は予防するため美容学的方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−71913(P2013−71913A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212545(P2011−212545)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】