説明

リンパ管細胞特異的転写調節領域及びその利用

【課題】リンパ管細胞を選択的に識別、可視化する技術の開発、生きた哺乳動物においてリンパ管のリアルタイム画像の取得を可能にする技術の提供。リンパ管細胞特異的転写調節領域ポリヌクレオチドの利用法の提供。
【解決手段】リンパ管細胞特異的遺伝子であるヒトProx1又はLYVE1の転写調節活性を有するポリヌクレオチド、並びに当該ポリヌクレオチドに様々なレポーター遺伝子を作用可能式に連結して含むベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ管細胞特異的転写調節領域のポリヌクレオチドの提供に関する。さらに、本発明は、当該転写調節領域にレポーター遺伝子を作用可能式に連結したポリヌクレオチドを組み込んだベクター及びプラスミドの提供、当該転写調節領域にレポーター遺伝子を作用可能式に連結したポリヌクレオチドを培養細胞や哺乳動物に導入することによるリンパ管細胞の可視化、当該転写調節領域の制御に関わる物質の探索、精製する方法、並びにリンパ管形成の促進、リンパ管過形成の阻害及びリンパ管構造の安定化の方法、その治療剤の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAを鋳型にしてmRNAの転写開始を制御する塩基配列は転写調節領域と呼ばれており、RNAポリメラーゼはこのような転写調節領域を認識してmRNAの合成を開始することが知られている。転写調節領域はmRNAの転写効率を決定しており、転写効率の高い転写調節領域に作用可能式に連結された遺伝子のmRNAは大量に合成される。このような理由から、遺伝子工学的手法によって有用なタンパク質を大量かつ経済的に製造するためには、通常、転写効率の高い転写調節領域が利用されている。転写調節領域には、一般にポリメラーゼの作動に必要なTBPタンパク質が結合する特異配列(TATAボックスなど)が含まれており、通常、転写開始点の上流100塩基対内に位置する転写開始に必須なプロモーター領域と、このプロモーターからの転写速度を調節するエンハンサーが含まれる。プロモーターの例として、例えば、ラクトースオペロンのプロモーター(lac)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trp)、ラムダファージのPLプロモーターなどが知られている。一方エンハンサーは、通常、遺伝子の上流に存在するが、下流あるいは遺伝子内に存在することもあり、数千塩基ときには数万塩基以上も遺伝子から離れた場所に存在し、遺伝子発現を制御する場合もある。多くの場合、プロモーター活性を持つある配列は、異なる状況下において機能的なエンハンサーとして働くこと、そしてプロモーターやエンハンサーを構成している転写因子結合配列の種類は両者で同じ配列を共有していることから、プロモーターとエンハンサーの厳密に区別することは難しいといえる。
【0003】
転写調節領域は、発生や分化の特定時期に特定のタンパク質の発現を誘導するための転写誘導系に関与していることも知られている。このような発現時期特異性を示す転写調節領域として、例えば、筋細胞の分化に関与するMyoDプロモーター等が知られている(非特許文献1参照)。また、転写調節領域は特定の細胞内でのみ特異的に発現する遺伝子の制御に関与している可能性が示唆されている。このような細胞特異的発現転写調節領域としては、例えば、ミエリンの形成に必要であるミエリン塩基性タンパク質を中枢神経系の神経細胞において特異的に発現させた例等が知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
胚発生過程においてProx1ホメオボックス転写因子は将来リンパ管になる静脈血管内皮細胞において発現し、血管マーカーの発現を低下させ、リンパ管マーカーの発現を上昇させることにより、細胞分化に必要な遺伝子発現リプログラミングを行う。さらにProx1遺伝子欠損マウスにおいてはリンパ管が形成されずに胎生致死となるため、Prox1はリンパ管分化のマスター因子と考えられている。
【0005】
Prox1遺伝子はショウジョウバエのprosperoホメオボックス遺伝子の脊椎動物におけるオルソログである。prosperoは転写因子として機能するが、その際ホメオドメインとprosperoドメインは分子内結合をして1つのユニットとしてDNAに結合することが立体構造解析により明らかにされている。また、prosperoが結合するコンセンサス配列がC(A/T)(C/T)NNC(T/C)と(T)AAGACGであることが示されている。Prox1とprosperoは、ホメオドメインとprosperoドメインにおいて相同性を有する。Prox1は他に核内受容体に結合に重要な役割を果たすことが示されている。またグルタミンに富む配列(Q−rich)とプロリンに富む配列(P−rich)が存在するが、その役割については理解されていない。
【0006】
リンパ管の形成は胎生期の頸部・腎周囲部における多数のリンパ嚢として始まる。それらが吻合・拡大・伸張し、体全体にリンパ管網が形成される。リンパ嚢の形成については1世紀前にSabinが提唱して以来、頸部静脈から発芽してくると考えられている。Prox1遺伝子座にLacZ遺伝子をノックインしたマウスにおけるLacZ発現を指標としたProx1遺伝子の発現パターンの解析により、受精後8.5日の頸部静脈血管内皮細胞にまず初期リンパ管マーカーのLYVE1が発現し、LYVE1発現細胞の一部にProx1が発現することが示された。Prox1(LacZ)の発現した領域においては血管内皮細胞のマーカー(VEGFR2、VEカドヘリン)の発現が低下し、リンパ管内皮細胞のマーカー(VEGFR3、podoplanin)の発現が上昇する。それとともにProx1陽性細胞は静脈から出芽し、近傍のVEGF−Cを発現している部分へと遊走を開始し、Prox1陽性細胞が集まった部分において初期リンパ嚢が形成される。またProx1はヒト成体の正常リンパ管さらにはリンパ浮腫患者におけるリンパ管やリンパ管腫などの病的リンパ管においてもその発現は維持され、何らかの役割を果たしていることが示唆される。
【0007】
Alitaloのグループはヒト皮膚微小血管内皮細胞においてアデノウイルスベクターを用いてProx1を発現させて、遺伝子発現の変化を網羅的に解析した(Detmar, Oliverのグループも同様の解析を行っている)。興味深いことにProx1の発現によりVEGFR2、uPA、PAI−1などの血管内皮細胞に発現している遺伝子群の発現が低下し、VEGFR3やpodoplaninなどのリンパ管内皮細胞に発現している遺伝子群の発現が上昇した。以上から血管内皮において発現するProx1は血管内皮からリンパ管内皮への遺伝子発現レベルでのリプログラミングを誘導することが示唆され、その発現パターンや遺伝子欠損マウスの表現型から、血管からリンパ管への分化を司るマスター因子であることが提唱された(非特許文献3)。
【0008】
LYVE1はヒアルロン酸結合タンパクスーパーファミリーであり、リンパ管内皮細胞に多く発現し、マクロファージにもいくらかの発現がみられる。LYVE1は正常組織や腫瘍組織において、リンパ管を血管と区別するための、リンパ管分子マーカーとして広く利用されている分子である(非特許文献4〜8)。LYVE1は212残基のグリコシル化された細胞外ドメインと、21残基の膜貫通ドメイン、63残基の細胞内ドメインから構成されており、白血球ヒアルロン酸レセプターであるCD44とアミノ酸の相同性が46%と類似した配列を保有している(非特許文献9〜12)。CD44に共通して、その細胞外ドメインはヒアルロン酸結合ドメインをもち、リンクモジュールとなっている。
リンパ管においてLYVE1は細胞外マトリックスであるグリコサミノグリカンの輸送に関わるといわれている(非特許文献13,14)。LYVE1ははじめ輸入リンパ管やリンパ洞内でのヒアルロン酸の取り込みや分解を担うと予測されてきた(非特許文献15)。更にin vitroにおいてリコンビナントLYVE1はヒアルロン酸や可溶性CD44と安定な複合体を形成することがわかり、in vivoにおいてヒアルロン酸が影響するリンパ管内皮の基底膜側、管腔側へのCD44発現細胞の接着をたすけることによって、リンパ節へ白血球を輸送する役割があるのではないかと考えられた(非特許文献11)。しがしながら、近年ではLYVE1ノックアウトマウスの解析により組織中のヒアルロン酸レベルは正常であることから白血球の輸送に関する仮説は疑われている(非特許文献16,17)。実際、炎症を惹起した野生型マウスはヒアルロン酸の取り込みなしにリソソームでのLYVE1の標的蛋白質分解やエンドサイトーシスを促進する白血球の輸送やヒアルロン酸のターンオーバーを誘導することが期待される(非特許文献16)。いずれにせよ、LYVE1の生理学的な機能は未だ不明な点が多く、in vivoではヒアルロン酸の他に結合するリガンドが存在する可能性も考えられる(非特許文献18)。
【0009】
従来の可視化技術では、リンパ管特異的に発現するタンパク質(LYVE1、Podoplaninなど)に対する抗体により、リンパ管を染色することは可能であった。しかし、既存の技術では固定した細胞、もしくは組織を用いて可視化するものであり、生きた細胞、組織ではリンパ管をイメージできない、皮膚におけるリンパ管の3次元的ネットワークを可視化できないなどの問題点があった。そこで、生細胞や生きた哺乳動物のリンパ管の可視化することが強く望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Buskin, J. N., and Hauschka, S.D., Mol. Cell. Biol., 9, pp.2627-2640, 1989
【非特許文献2】Kimura, M., et al., Brain Res., 785, pp.245-252, 1998
【非特許文献3】増刊実験医学 Vol.24, No.18(2006), pp.133-136
【非特許文献4】Jackson, D. G. (2007) Cancer Treat. Res. 135, 39-53
【非特許文献5】Mouta Carreira, C., Nasser, S. M., di Tomaso, E., Padera, T. P., Boucher, Y., Tomarev, S. I., and Jain, R. K. (2001) Cancer Res. 61, 8079-8084
【非特許文献6】Maruyama, K., Ii, M., Cursiefen, C., Jackson, D. G., Keino, H., Tomita, M., Van Rooijen, N., Takenaka, H., D’Amore, P. A., Stein-Streilein, J., Losordo,
【0011】
D. W., and Streilein, J. W. (2005) J. Clin. Invest. 115, 2363-2372
【0012】
【非特許文献7】Schledzewski, K., Falkowski, M., Moldenhauer, G., Metharom, P., Kzhyshkowska, J., Ganss, R., Demory, A., Falkowska-Hansen, B., Kurzen, H., Ugurel, S., Geginat, G., Arnold, B., and Goerdt, S. (2006) J. Pathol. 209, 67-77
【非特許文献8】Witte, M. H., Jones, K., Wilting, J., Dictor, M., Selg, M., McHale, N., Gershenwald, J. E., and Jackson, D. G. (2006) Cancer Metastasis Rev. 25, 159-184
【非特許文献9】Aruffo, A., Stamenkovic, I., Melnick, M., Underhill, C. B., and Seed, B. (1990) Cell 61, 1303-1313
【非特許文献10】Ponta, H., Sherman, L., and Herrlich, P. A. (2003) Nat. Rev. Mol. Cell. Biol.4, 33-45
【非特許文献11】Banerji, S., Ni, J., Wang, S. X., Clasper, S., Su, J., Tammi, R., Jones, M., and Jackson, D. G. (1999) J. Cell Biol. 144, 789-801
【非特許文献12】Prevo, R., Banerji, S., Ferguson, D. J., Clasper, S., and Jackson, D. G. (2001) J. Biol. Chem. 276, 19420-19430
【非特許文献13】Fraser, J. R., Kimpton, W. G., Laurent, T. C., Cahill, R. N., and Vakakis, N. (1988) Biochem. J. 256, 153-158
【非特許文献14】Tengblad, A., Laurent, U. B., Lilja, K., Cahill, R. N., Engstrom-Laurent, A., Fraser, J. R., Hansson, H. E., and Laurent, T. C. (1986) Biochem. J. 236, 521-525
【非特許文献15】Jackson, D. G., Prevo, R., Clasper, S., and Banerji, S. (2001) Trends Immunol. 22, 317-321
【非特許文献16】Valenzuela, D. M., Murphy, A. J., Frendewey, D., Gale, N. W., SEconomides, A. N., Auerbach, W., Poueymirou, W. T., Adams, N. C., Rojas, J., Yasenchak, J., Chernomorsky, R., Boucher, M., Elsasser, A. L., Esau, L., Zheng, J., Griffiths, J. A., Wang, X., Su, H., Xue, Y., Dominguez, M. G., Noguera, I., Torres, R., MacDonald, L. E., Stewart, A. F., DeChiara, T. M., and Yancopoulos, G. D. (2003) Nat. Biotechnol. 21, 652-659
【非特許文献17】Gale, N. W., Prevo, R., Espinosa-Fematt, J., Ferguson, D. J., Dominguez, M. G., Yancopoulos, G. D., Thurston, G., and Jackson, D. G. (2007) Mol. Cell. Biol. 27, 595-604
【非特許文献18】Thomas D. Nightingale, Matthew E. F. Frayne, Steven Clasper, Suneale Banerji, and David G. Jackson. (2009) J. Biol. Chem. 284, 3935-3945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、リンパ管細胞を選択的に識別、可視化する技術の開発、さらには生きた哺乳動物においてリンパ管のリアルタイム画像の取得を可能にする技術を提供することである。さらに、本発明により同定されたリンパ管特異的遺伝子の転写調節領域の利用法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、リンパ管特異的遺伝子の転写調節活性を有する領域を鋭意研究した結果、リンパ管特異的遺伝子であるProx1、LYVE1に着目し、これらの遺伝子の転写開始点の上流約150kbについてゲノム相同比較をすることにより、転写調節活性を有する領域を同定することに成功し、当該領域のポリヌクレオチドを単離することにより本発明に至った。さらに、同定されたProx1、LYVE1の転写調節領域に様々なレポーター遺伝子(例えば蛍光、発光タンパク質の遺伝子など)を作用可能式に連結したポリヌクレオチドを得ることにより本発明の一態様に至った。
【0015】
より具体的に記載すると、本発明は、リンパ管細胞において転写調節活性を有するポリヌクレオチドに関する。ここで当該ポリヌクレオチドの塩基配列は、以下の(1)〜(3):
(1) 配列番号1及び配列番号2からなる群から選ばれる塩基配列;
(2) 上記(1)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつリンパ管において転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列;及び
(3) 上記(1)の塩基配列と90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつリンパ管において転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列
のいずれかに該当する塩基配列である。
【0016】
1の態様では、本発明は上記ポリヌクレオチドを含んでなるベクター又はプラスミドにも関する。当該ポリヌクレオチドに様々なレポーター遺伝子、例えば蛍光タンパク質又は発光タンパク質の遺伝子を作用可能式に連結したベクター又はプラスミドが好ましい。配列番号1の配列と配列番号2の配列の両者を含み、かつレポーター遺伝子に結合されている場合もある。
【0017】
1の態様では、本発明は、上記ポリヌクレオチドを用いて、リンパ管細胞を可視化する方法に関する。具体的には、以下の:
(1)上記ポリヌクレオチドにレポーター遺伝子を作用可能式に連結して含むベクターを細胞にトランスフェクトする工程;及び
(2)上記レポーター遺伝子の発現を測定する工程
を含んでなるリンパ管細胞を可視化する方法が挙げられる。当該方法は、in vitro又はin vivoのいずれにおいても行うことができる。
【0018】
1の態様では、本発明は、リンパ管誘導調節の候補薬剤のスクリーニング法にも関する。すなわち、以下の:
(1)Prox1及び/又はLYVE1転写調節領域に様々なレポーター遺伝子を作用可能式に連結された遺伝子を含むベクターをリンパ管前駆細胞に導入する工程;
(2)(1)で得られたベクター含有リンパ管前駆細胞に、リンパ管誘導調節性の候補薬剤を添加する工程;及び
(3)前記レポーター遺伝子の発現を測定し、当該レポーター遺伝子の発現量に基づいて、候補薬剤がリンパ管前駆細胞をリンパ管細胞に誘導する能力を評価する工程;
を含む、リンパ管誘導調節性の候補薬剤のスクリーニング方法に関する。リンパ管誘導調節とは、リンパ管誘導の促進及びリンパ管誘導の抑制の両方を意図し、好ましくはリンパ管誘導の促進を指す。
【0019】
1の態様では、本発明は、Prox1及び/又はLYVE1転写調節領域のポリヌクレオチド、当該転写調節領域を含むベクター、又は当該転写調節領域にレポーター遺伝子を作用可能式に連結して含むベクターによりトランスフェクトされた細胞に関する。
【0020】
1の態様では、本発明は、Prox1及び/又はLYVE1転写調節領域のポリヌクレオチド、当該転写調節領域を含むベクター、又は当該転写調節領域にレポーター遺伝子を作用可能式に連結して含むベクターによりトランスフェクトされたトランスジェニック哺乳動物に関する。
【発明の効果】
【0021】
リンパ管細胞特異的な転写活性を有するProx1、LYVE1の転写調節領域を同定した結果、当該転写調節領域に様々な目的遺伝子を作用可能式に連結したポリヌクレオチドを細胞に導入することにより、リンパ管細胞特異的に目的遺伝子を発現することができるようになった。
目的遺伝子としてレポーター遺伝子を連結したポリヌクレオチドを生細胞に導入した場合、細胞を固定することなくリンパ管細胞を選択的に識別、可視化させることが可能になった。さらに、トランスジェニック動物を作製した場合には、生きた動物のリンパ管についてリアルタイムで画像を取得することが可能になった。このように本発明は、リンパ管を識別する方法として広く研究ツールとしても使用できる。
【0022】
目的遺伝子としてリンパ管新生因子などを選択した場合、リンパ管特異的にリンパ管を発現することが可能となり、リンパ管形成の促進、リンパ管過形成の阻害、又はリンパ管構造の安定化用の治療剤であって、Prox1及び/又はLYVE1転写調節領域にリンパ管新生因子などの様々な目的遺伝子を作用可能式に連結したベクターを含む、上記治療剤が提供される。また、Prox1及び/又はLYVE1転写調節領域にリンパ管新生因子などの様々な遺伝子を作用可能式に連結されたベクターを患者に投与することを含んでなる、患者のリンパ管疾患、腫瘍部位でのリンパ管新生に伴う腫瘍転移の治療又は予防方法が提供される。リンパ管新生因子としては、VEGFC/D、VEGFR3、PDGF−AA、PDGF−AB、PDGF−BB、PDGFR、FGF、HGF、Ang1、Tie2などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、Prox1転写調節領域の塩基配列を示す。
【図2】図2は、LYVE1転写調節領域の塩基配列を示す。
【図3】図3は、pGL4.74[hRluc/TK]ベクターの地図を示す。
【図4】図4は、pGL4.12[luc2CP]ベクターの地図を示す。
【図5】図5は、Prox1転写調節領域に作用可能式に連結されたルシフェラーゼ遺伝子を含むpGL4.12[luc2CP]ベクターの地図を示す。
【図6】図6は、LYVE1転写調節領域に作用可能式に連結されたルシフェラーゼ遺伝子を含むpGL4.12[luc2CP]ベクターの地図を示す。
【図7】図7は、図5のpGL−hProx1−lucからLuc2CPを切り出し、phmAG1−MC1由来のヒトアザミグリーン(hAG)をProx1転写調節領域に作用可能式に連結させたベクターの地図を示す。
【図8】図8は、図6のpGL−hLYVE1−lucからLuc2CPを切り出し、phmAG1−MC1由来のヒトアザミグリーン(hAG)をProx1転写調節領域に作用可能式に連結させたベクターの地図を示す。
【図9】図9は、Prox1の転写調節領域に作用可能式にルシフェラーゼを連結して含むベクター及び対照ベクター(pGL4.74[hRluc/TK])をそれぞれリンパ管内皮細胞と正常ヒト臍帯静脈内皮細胞にそれぞれトランスフェクトして、37℃48時間インキュベートした後におけるルシフェラーゼ活性についてのグラフを示す。
【図10】図10は、LYVE−1の転写調節領域に作用可能式にルシフェラーゼを連結して含むベクター及び対照ベクター(pGL4.74[hRluc/TK])をそれぞれリンパ管内皮細胞と正常ヒト臍帯静脈内皮細胞にそれぞれトランスフェクトして、37℃48時間インキュベートした後におけるルシフェラーゼ活性についてのグラフを示す。
【図11】図11は、Prox1転写調節領域、及びLYVE−1転写調節領域のそれぞれに作用可能式にヒトアザミグリーン(HmAG)遺伝子を連結させたベクターを用いてリンパ管内皮細胞と正常ヒト臍帯静脈内皮細胞に遺伝子導入を行い、37℃で48時間インキュベートした後の細胞を蛍光顕微鏡により撮影された画像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、リンパ管細胞における転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドに関する。ここで、当該ポリヌクレオチドの塩基配列が以下の(1)〜(3):
(1) 配列番号1及び配列番号2からなる群から選ばれる塩基配列;
(2) 上記(1)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつリンパ管細胞における転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列;及び
(3) 上記(1)の塩基配列と90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつリンパ管細胞における転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列
のいずれかに該当する塩基配列である。
【0025】
本発明において「リンパ管細胞における転写調節活性」は、好ましくはリンパ管細胞特異的な転写調節活性である。「リンパ管細胞」は、好ましくはリンパ管内皮細胞である。
【0026】
配列番号1の塩基配列は、ヒトゲノム1番染色体の212,226,500〜212,228,519で定義される領域、配列番号2の塩基配列は、ヒトゲノム11番染色体の10,546,668〜10,548,074で定義される領域に該当する。配列番号1及び配列番号2の塩基配列は、それぞれProx1遺伝子の転写開始点の上流150kb、及びLYVE−1遺伝子の転写開始点の上流150kbにわたり、ヒト、マウス、ニワトリ、カエル、及び魚のあいだにおけるゲノム相同性を比較するin silicoスクリーニングを行うことにより、転写調節領域の候補を得て、次に当該候補の転写調節活性を調べることにより上記転写調節領域が同定された。
【0027】
本発明において「転写調節領域」とは、mRNAの転写開始を制御する塩基配列を指し、プロモーター配列、エンハンサー配列が挙げられる。プロモーターには、一般にポリメラーゼの作動に必要なTBPタンパク質が結合する特異配列(TATAボックスなど)が含まれており、通常、転写開始点の上流100塩基対内に位置する配列である。プロモーターの例として、例えば、ラクトースオペロンのプロモーター(lac)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trp)、ラムダファージのPLプロモーターなどが知られている。一方エンハンサーは、通常、遺伝子の上流に存在するが、下流あるいは遺伝子内に存在することもあり、数千塩基ときには数万塩基以上も遺伝子から離れた場所に存在し、遺伝子発現を制御する場合もある。多くの場合、プロモーター活性を持つある配列は、異なる状況下において機能的なエンハンサーとして働くこと、そしてプロモーターやエンハンサーを構成している転写因子結合配列の種類は両者で同じ配列を共有していることから、プロモーターとエンハンサーの厳密に区別することは難しいといえる。複数の転写調節領域が、mRNAの転写を制御する場合もある。
【0028】
本発明において「作用可能式に連結」とは、転写調節領域の上流(5’側)又は下流(3’側)に連結された遺伝子が、当該転写調節領域による転写促進作用又は転写抑制作用を受けるように連結されていることを指す。好ましくは、当該作用は、転写促進作用である。さらに好ましくは転写調節領域の下流に当該遺伝子が連結されて、当該遺伝子の転写を促進する。2以上の転写調節領域が1の遺伝子の転写を調節することもある。例えば、Prox1転写調節領域の下流にLYVE1転写調節領域を連結させ、さらに下流にレポーター遺伝子などの遺伝子を結合する場合である。この場合、Prox1転写調節領域の作用とLYVE1転写調節領域の作用により、リンパ管における高い発現が期待される。
【0029】
本発明において「高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、限定することなく、例えば以下に示すポリヌクレオチドをいう。即ち、(1)高イオン濃度下[例えば、6X SSC(900mMの塩化ナトリウムおよび90mMのクエン酸ナトリウムを含有する)等が挙げられる。]に、65℃の温度条件でハイブリダイズさせることによりポリヌクレオチド−ポリヌクレオチドハイブリッドを形成し、(2)低イオン濃度下[例えば、0.1X SSC(15mMの塩化ナトリウムおよび1.5mMのクエン酸ナトリウムを含有する)等が用いられる。]に、65℃の温度条件で30分間洗浄した後でも当該ハイブリッドが維持されうるポリヌクレオチドをいう。
【0030】
本発明において、「リンパ管前駆細胞」は、好ましくは「リンパ管内皮前駆細胞」である。「リンパ管前駆細胞」は、リンパ管細胞へと分化する全ての細胞を指し、例えば、血管内皮細胞、血管幹細胞、ES細胞、EG細胞、iPS細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明において、転写調節領域と一定の配列同一性を有する塩基配列であって、かつリンパ管細胞における転写調節作用を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドも転写調節領域として用いることができる。配列同一性は、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、及び99%以上であってもよい。好ましくは、90%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドを、転写調節作用を有する塩基配列として用いることができる。
【0032】
転写調節活性を評価するために使用される本発明の転写調節領域を含有するベクターは、本発明の転写調節領域の3’側下流にレポーター遺伝子が連結されたベクターであることが好ましい。レポーター遺伝子は、転写調節領域のポリヌクレオチドの3’側に作用可能なように連結される。
【0033】
このようなレポーター遺伝子としては、該遺伝子産物の検出方法が知られているものであれば特に限定はなく、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子などの発光タンパク質遺伝子、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子などの酵素遺伝子、ヒトアザミグリーン(HmAG)蛍光タンパク質遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子および赤色蛍光タンパク質(DS-RED)遺伝子などの蛍光タンパク質遺伝子などを使用することができる。レポーター遺伝子が、発光タンパク質遺伝子又は蛍光タンパク質遺伝子である場合には、発光や蛍光を定量化する装置、蛍光タンパク質遺伝子である場合には、蛍光顕微鏡を用いてレポーター遺伝子の発現を測定することができる。
【0034】
転写調節活性を評価する方法としては、一般的に最も現在使われている方法がルシフェラーゼアッセイ法である。もちろん、従来より使用されている他のレポーターアッセイを使用することもできる。ルシフェラーゼアッセイ法はきわめて微細な活性をも測定でき、かつ簡単な方法であるため活性の評価という目的において好ましい。
【0035】
遺伝子操作、特に目的とする遺伝子が導入された細胞の選択を容易にするために、上記レポーター遺伝子のほかに、選択マーカー遺伝子を使用することが好ましい。選択マーカー遺伝子としては、種々の薬剤耐性遺伝子を使用することができ、一例としてネオマイシン耐性遺伝子を挙げることができる。具体的な一例として、β−ガラクトシダーゼ遺伝子にネオマイシン耐性遺伝子を連結したDNA(b-geo 遺伝子と称する)を挙げることができる。
【0036】
本発明の転写調節領域のポリヌクレオチドを組み込むベクターとしては、プラスミドベクターが好ましく、元ベクターの何らかの転写調節領域のポリヌクレオチドが制限酵素処理で切り出されるものであれば、どのようなものでも使用することができる。また、外来遺伝子を挿入するための制限酵素部位を複数有しているものが好ましい。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合には、ルシフェラーゼ遺伝子の上流に本発明の転写調節領域が連結されるベクターである。このようなベクターは市販されており、例えばpGL2ベーシックベクター(Promega, Madison, USA)、pGL3ベーシックベクター(Promega, Madison, USA)、pGL4ベーシックベクター(Promega, Madison, USA)などが挙げられる。好ましくは、pGL4.12[luc2CP]ベクター(Promega, Madison, USA)が用いられる。
【0037】
得られたベクターを細胞内に導入する方法としては、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などを使用することができる。これらの方法については、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載されている。
【0038】
本発明の転写調節領域を組み込んだベクターでトランスフェクトされた細胞も本発明に含まれる。好ましくは、当該細胞は哺乳動物細胞であり、さらに好ましくはリンパ管前駆細胞である。リンパ管前駆細胞は、リンパ管細胞に分化することができる細胞を指し、例えば、血管内皮細胞、血管幹細胞、ES細胞、iPS細胞などが挙げられる。当該ベクターでトランスフェクトされた細胞は、リンパ管誘導活性を有する候補薬剤を添加された際に、リンパ管に分化し、レポーター遺伝子を発現する。これにより候補薬剤をリンパ管誘導活性についてスクリーニングすることを可能とする。
【0039】
本発明の転写調節領域を組み込んだベクターで形質転換された細胞も本発明に含まれる。当該細胞には、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母、及び大腸菌などが挙げられるが、好ましくは、当該細胞は哺乳動物細胞である。
【0040】
本発明に係るベクターでトランスフェクトされた細胞と候補薬剤とを接触させた場合に、レポーター遺伝子の発現に基づき本発明に係る転写調節領域の転写調節活性の測定を行うことができる。当該転写調節活性の上昇が検出された場合(例えば、30%程度、好ましくは50%程度、さらに好ましくは100%程度増加するような変化が認められた場合)または低下が検出された場合(例えば、30%程度、好ましくは50%程度、さらに好ましくは100%程度減少するような変化が認められた場合)には、当該候補薬剤は、当該転写調節領域に作用し当該転写調節活性を制御する物質、即ち、リンパ管細胞特異的なポリペプチド発現を制御する能力を有する物質として選抜することができる。
【0041】
当該物質は、本発明の転写調節活性を制御し得ることから、当該転写調節領域の制御下にある遺伝子の細胞内での発現を制御することができる。よって、当該物質は、例えば当該遺伝子の翻訳産物の発現過多もしくは発現過少に起因する疾患の治療剤として有用である。
【0042】
候補薬剤の種類は特に限定されない。例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物(糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。
【0043】
本発明は更に、本発明に係る、任意的にレポーター遺伝子の連結された転写調節領域又はそれを担持する組換えDNAベクターをトランスフェクトされたトランスジェニック哺乳動物、好ましくはトランスジェニックマウスを提供する。哺乳動物細胞はマウスが好適であるが、ラット、モルモット、その他のマウス近縁のげっ歯動物であってもよい。トランスジェニック哺乳動物の作製は当業者周知の方法で実施することができる。
【0044】
本発明を以下の実施例によりさらに詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
Prox1、LYVE1の予測転写調節領域のクローニング
ヒトリンパ管特異的遺伝子であるProx1、LYVE1の転写調節領域をゲノム塩基配列の生物種間の相同性比較により予測した。実際にプロモーター活性を有する領域として予測したゲノム配列は、Prox1については1番染色体の212,226,500〜212,228,519で定義される領域、LYVE1については11番染色体の10,546,668〜10,548,074で定義される領域を選択した。予測領域をヒトゲノムDNA(Promega, Madison, USA)を鋳型にリン酸化酵素T4ポリヌクレオチド・キナーゼ(Takara, Shiga, Japan)でリン酸化処理を行ったプライマーを使用し、PCRで増幅した。得られた増幅断片を電気泳動し、0.7%アガロースゲルから切り出し精製した。ゲル精製にはQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN, California, USA)を用いた。上記プライマーの配列は以下のとおりである:
Prox1プライマー
フォワード:5’- GACATTGGTAGTGTTTGGCCAGTG -3’ (配列番号3)
リバース:5’- CAAGAACAAGACAGTGCAAGTGATTCTG -3’(配列番号4)
LYVE1プライマー
フォワード:5’- CAAAGCCTTGCCTTCCCTGATTC -3’ (配列番号5)
リバース: 5’- TTCAGAGCCAGGGAAACACCTC -3’ (配列番号6)
【0046】
転写調節領域ポリヌクレオチドを挿入したルシフェラーゼレポーターベクターの構築
pGL4.12[luc2CP]ベクター(Promega, Madison, USA)を制限酵素EcoRV(Takara, Shiga, Japan)で切断処理を行った。その後、アルカリフォスファターゼ(BAP)(Takara, Shiga, Japan)処理を行った。処理後のベクターと調製した転写調節領域ポリヌクレオチドを混和し、DNAライゲーションキット(Takara, Shiga, Japan)を添加し、転写調節領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結した。得られたライゲーション溶液を大腸菌JM109コンピテントセル(Takara, Shiga, Japan)に形質転換した。37℃でインキュベート後、得られたコロニーからコロニーPCRを行い、アガロースゲル電気泳動により目的挿入断片の確認を行った。確認できたポジティブクローンからEndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN, California, USA)を用いてプラスミドを精製した。その後、シークエンス解析(バイオマトリックス研究所, Chiba, Japan)を行い、目的断片が正確に挿入されていることを確認し、コンストラクトの構築を完了した。
【0047】
転写調節領域ポリヌクレオチドを挿入したアザミグリーンレポーターベクターの構築
pGL4.12[luc2CP]ベクター(Promega, Madison, USA)を制限酵素NcoI、XbaIで切断処理後、電気泳動を行い、アガロースゲルからルシフェラーゼ遺伝子領域を除外した断片を切り出し精製した。ゲル精製にはQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN, California, USA)を用いた。一方、phmAG1−MC1(医学生物学研究所, Nagoya, Japan)ベクターから制限酵素NcoI、XbaIで切断処理後、電気泳動を行い、ヒトアザミグリーン遺伝子断片を切り出し精製した。これらの調製断片を混和し、DNAライゲーションキット(Takara, Shiga, Japan)を添加することで、ヒトアザミグリーン遺伝子をルシフェラーゼ遺伝子と置換したpGL4.12ベクターを得た。このレポーターベクターに対して制限酵素EcoRV(Takara, Shiga, Japan)で切断処理を行った。その後、アルカリフォスファターゼ(BAP)(Takara, Shiga, Japan)処理を行った。処理後のベクターと調製した転写調節領域ポリヌクレオチドを混和し、DNAライゲーションキット(Takara, Shiga, Japan)を添加し、転写調節領域ポリヌクレオチドをアザミグリーン遺伝子の上流に挿入した。得られたライゲーション溶液を大腸菌JM109コンピテントセル(Takara, Shiga, Japan)に形質転換した。37℃でインキュベート後、得られたコロニーからコロニーPCRを行い、アガロースゲル電気泳動により目的挿入断片の確認を行った。確認できたポジティブクローンからEndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN, California, USA)を用いてプラスミドを精製した。その後、シークエンス解析(バイオマトリックス研究所, Chiba, Japan)を行い、目的断片が正確に挿入されていることを確認し、コンストラクトの構築を完了した。
【0048】
構築したルシフェラーゼレポーターベクターの細胞導入とルシフェラーゼ活性測定
Prox1、LYVE1の転写調節領域をルシフェラーゼの上流に挿入したコンストラクト1μgとルシフェラーゼ活性を測定するための補正用ベクターであるpGL4.74[hRluc/TK]ベクター0.1μgをリンパ管内皮細胞(以下、LEC)、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(以下、HUVEC)にエレクトロポレーション法(AMAXA, Maryland, USA)を用いて導入した。その後、37℃で48時間インキュベートした。インキュベート後の細胞からルシフェラーゼの活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega, Madison, USA)を用いて測定した。
【0049】
構築したアザミグリーン蛍光レポーターベクターの細胞導入と蛍光観察
Prox1、LYVE1の転写調節領域をアザミグリーンの上流に挿入したコンストラクト1μgをLEC、HUVECにエレクトロポレーション法(AMAXA, Maryland, USA)を用いて導入した。その後、37℃で48時間インキュベートした。インキュベート後の細胞を蛍光顕微鏡観察し、アザミグリーン活性を有する細胞の写真を撮影した。遺伝子導入の対照としてCMVプロモーターに作用可能式にアザミグリーンを連結したコンストラクトを用い、遺伝子導入が成功したことを確認した。
【0050】
結果及び考察
Prox1転写調節領域に作用可能式に連結されたルシフェラーゼ遺伝子を含むベクターをリンパ管内皮細胞及び正常ヒト臍帯静脈内皮細胞に導入した場合、有意にリンパ管内皮細胞特異的にルシフェラーゼが発現することが示された。また、LYVE−1転写調節領域に作用可能式に連結されたルシフェラーゼ遺伝子を含むベクターをリンパ管内皮細胞及び正常ヒト臍帯静脈内皮細胞に導入した場合、有意にリンパ管内皮細胞特異的にルシフェラーゼが発現することが示された。したがって、Prox1転写調節領域及びLYVE−1転写調節領域のいずれも、リンパ管内皮細胞特異的に転写活性を増大することが示された。
【0051】
ルシフェラーゼ以外のレポーター遺伝子として、ヒトアザミグリーン蛍光タンパク質をProx1、LYVE1の転写調節領域に作用可能式に連結し、それぞれリンパ管内皮細胞、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞に導入した場合も、Prox1、LYVE1の転写調節領域が、リンパ管内皮細胞特異的に転写活性を増大することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドであって、その塩基配列が以下の(1)〜(3):
(1) 配列番号1の塩基配列;
(2) 上記(1)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつリンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列;及び
(3) 上記(1)の塩基配列と90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつリンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列
のいずれかに記載される塩基配列であるポリヌクレオチド。
【請求項2】
リンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドであって、その塩基配列が以下の(1)〜(3):
(1) 配列番号2の塩基配列;
(2) 上記(1)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつリンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列;及び
(3) 上記(1)の塩基配列と90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつリンパ管細胞特異的な転写調節領域として作用しうるポリヌクレオチドの塩基配列
のいずれかに記載される塩基配列であるポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項2に記載のポリヌクレオチドを含んでなる組換えベクター。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドにレポーター遺伝子が作用可能式に連結されている、請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼである、請求項4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
リンパ管細胞を可視化する方法であって、以下の:
(1)請求項4又は5に記載の組み換えベクターを細胞にトランスフェクトする工程;及び
(2)前記レポーター遺伝子の発現を測定する工程
を含んでなる、前記方法。
【請求項7】
リンパ管誘導性の候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下の:
(1)請求項4又は5に記載のベクターをリンパ管前駆細胞に導入する工程;
(2)(1)で得られたベクター含有リンパ管前駆細胞に、リンパ管誘導性の候補薬剤を添加する工程;及び
(3)前記レポーター遺伝子の発現を測定し、当該レポーター遺伝子の発現量に基づいて、候補薬剤がリンパ管前駆細胞をリンパ管細胞に誘導する能力を評価する工程;
を含んでなる、前記方法。
【請求項8】
前記リンパ管前駆細胞が、血管内皮細胞、血管幹細胞、ES細胞、EG細胞、及びiPS細胞からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド又は請求項3〜5のいずれか一項に記載の組換えベクターによりトランスフェクトされた細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−147371(P2011−147371A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10088(P2010−10088)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】