リン化ガリウム単結晶の製造方法
【課題】LED用の基板として用いられるSi添加GaP単結晶をLEC法により製造するに際して、得られる単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の変化を低減させる。
【解決手段】Si添加GaP単結晶を製造する方法において、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度に対して0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御する。好ましくは、B2O3の水分量を200ppm以下とする。
【解決手段】Si添加GaP単結晶を製造する方法において、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度に対して0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御する。好ましくは、B2O3の水分量を200ppm以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封止引き上げ法による、シリコン添加リン化ガリウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の光を発する発光ダイオード(LED)を製造するための基板には、リン化ガリウム(GaP)単結晶が用いられている。このGaP単結晶は、液体封止引き上げ法(LEC法)によって製造されている。
【0003】
図2に、LEC法によるGaP単結晶の製造に用いられている、一般的なGaP単結晶製造装置の概略断面図を示す。GaP単結晶製造装置(1)は、100気圧程度の高圧にも耐えられる圧力容器(2)内に、カーボン製保温材(3)と、この保温材(3)内部に載置される石英ルツボ(4)と、カーボンヒータ(7)と、シャフト(8)とを備える。
【0004】
この石英ルツボ(4)には、原料のリン(P)とガリウム(Ga)とを合成して作成したGaP多結晶と、化合物半導体となったときの結晶中でn型またはp型の電気特性を発現する働きをする不純物、たとえば、n型添加物であるシリコン(Si)と共に、原料融解時のリンの揮発分解を防止するための液体封止剤としての酸化ホウ素(B2O3)が投入される。
【0005】
GaP単結晶の製造は、通常、圧力容器(2)内に50気圧以上の窒素(N2)やアルゴン(Ar2)といった不活性ガスを充填し、その中で行われる。この密封雰囲気下で、カーボンヒータ(7)により、GaP多結晶を加熱融解する。B2O3は、GaP融液(5)より比重が軽く透光性があることから液体封止剤(6)として好適に機能する。
【0006】
石英ルツボ(4)の上方には、上部シャフト(8)が配置されている。この上部シャフト(8)には保持具(図示せず)が連結されており、この保持具に(100)面が下面となるように種結晶(9)が取り付けられる。GaP多結晶の融解が確認された後に、種結晶(9)を降下させて、GaP融液(5)に浸漬させ、その後、GaP単結晶(10)が上方に引き上げられる。
【0007】
引き上げ法による単結晶の製造において、一般的には、引上げ距離に対して、目標とする直径や質量となるように温度を調整して、単結晶の成長速度を制御している。しかしながら、GaP単結晶の場合、高圧雰囲気と液体封止剤を用いているため、熱環境がきわめて複雑であり、GaP単結晶の直径の制御が困難となっている。また、このような厳しい熱環境に起因して、多結晶化や双晶の発生による単結晶化率の悪化や、単結晶内部におけるボイドやリネージなどの結晶欠陥の発生なども、GaP単結晶の引き上げにおいて生産性を悪化させる要因となっている。
【0008】
これらの問題を改善するために、ゆるやかな温度勾配の環境で育成することにより、低欠陥の結晶を得る試みがなされている。たとえば、特許文献1では、融液表面とB2O3直上におけるGaP単結晶の温度差を195℃以上245℃以下となるように調整することで、温度勾配をゆるやかなものとして、さらに50ppm以上200ppm以下の水分量のB2O3を用いて、単結晶のトップ部で発生するリング状のボイドの発生を低減させることが、提案されている。
【0009】
また、特許文献2では、所望の育成長、具体的にはGaP単結晶の固化率が0.65程度となるまでは一定の引き上げ速度で結晶を育成し、続く後段において、引き上げ速度をそれまでの速度から段階的に遅くすることで、固液界面の形状が下向き凸形状を維持するように制御し、多結晶化や双晶の発生を防止して、より長尺な単結晶を得ることが提案されている。
【0010】
ところで、Si添加GaP単結晶においては、目標となるキャリア濃度の範囲は、概ね1×1016cm-3〜1×1018cm-3とされるが、その製造工程において、原料中の水分やB2O3中の水分の影響により、成長界面近傍での酸化還元反応、いわゆるゲッタリング効果により、結晶成長軸方向においてキャリア濃度が低下する現象が観察される。また、ドーパントであるSiの偏析係数は1よりも小さいため、結晶育成の後半において結晶中に取り込まれるSi量が急激に増加する。このため、結晶成長軸方向においてキャリア濃度の変化が大きくなり、直胴部中間部分において、Si量が目標とするキャリア濃度を下回ったり、直胴部後半部分において、逆にSi量が目標とするキャリア濃度を上回ったりする。このような事態は、GaP単結晶から得られるGaP単結晶ウエハの収率を悪化させることとなる。
【0011】
目標とするキャリア濃度の範囲の結晶を得るためには、こうしたゲッタリング効果やSiの偏析などを考慮して、経験的にSi添加量を決定することが必要とされる。通常、原料中に添加されるSi量は1×1018cm-3〜1×1020cm-3以上と、目標とするキャリア濃度の100倍以上の量とされており、このことからも、キャリア濃度の制御が困難であることが理解される。
【0012】
これまでのところ、GaP単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の変化を低減させることに関して、十分な効果が得られる対策についての提案はなされていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−73198
【特許文献2】特開平9−52794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、可視発光ダイオード(LED)用の基板として用いられるSi添加のGaP単結晶をLEC法により製造するに際して、得られる単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の変化を低減させることにより、高品質なGaP単結晶基板の提供を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、酸化ホウ素(B2O3)を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法(LEC法)によりシリコン(Si)添加リン化ガリウム(GaP)単結晶を製造する方法に関する。
【0016】
特に、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法は、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御することを特徴とする。
【0017】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.4〜0.8の範囲となるようにすることがより好ましく、0.5〜0.7の範囲となるようにすることがさらに好ましい。
【0018】
また、前記B2O3の水分量を200ppm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、GaP単結晶の固化率に基づいて、育成初期におけるGaP単結晶の引き上げ速度と、その後の段階におけるGaP単結晶の引き上げ速度の関係を所定の範囲に規制することにより、Si添加GaP単結晶における結晶成長軸方向のキャリア濃度分布の変化を低減させることができる。また、液体封止剤である、B2O3の水分量を規制することで、前記キャリア濃度をさらに適切に規制できる。
【0020】
これにより、結晶成長軸方向におけるキャリア濃度分布が安定した高品質のSi添加GaP単結晶が得られ、可視発光ダイオード(LED)基板の材料として最適なSi添加GaP単結晶ウエハを収率よく提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例と比較例について、GaP単結晶の固化率とキャリア濃度の関係を示すグラフである。
【図2】LEC法によるGaP単結晶を製造するための一般的な装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、上述の課題に対して、鋭意検討を行い、リン化ガリウム(GaP)単結晶の固化率に基づいて、育成初期におけるGaP単結晶の引き上げ速度とその後の段階におけるGaP単結晶の引き上げ速度の関係を所定の範囲とすることにより、シリコン(Si)の偏析とゲッタリング効果をバランスよく制御できるとの知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0023】
本発明は、酸化ホウ素(B2O3)を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法(LEC法)により、Si添加GaP単結晶を製造する方法に適用することができる。その実施にあたっては、図2に示すような従来から存在する一般的な単結晶製造装置を用いることができる。また、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法では、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を制御すること以外の条件については、基本的には、従来の製造方法と同様である。
【0024】
石英ルツボに、原料として、GaP多結晶と、Siと、B2O3を投入する。ルツボに投入するSi量は、Siのキャリアとしての活性化率を考慮して、得られるGaP単結晶に含まれるSi原子数比(キャリア濃度)が1×1016cm-3〜1×1018cm-3の範囲内となるように、GaP融液に含まれるSi原子数を前記キャリア濃度の100倍程度の量である1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度に調整する。具体的には、GaP多結晶原料に対して、質量比で2×10-5〜2×10-3から2×10-4〜2×10-2までの割合で、Siを投入する。
【0025】
インゴット内のSi原子数が1×1016cm-3未満であると、基板の比抵抗が過大となり、また、1×1019cm-3を超えると、基板が着色するといった不具合が生ずる。
【0026】
原料を投入した石英ルツボを圧力容器内に載置した状態で、ロータリーポンプを用いて、圧力容器の中を10-3MPa〜10-4MPa程度の真空レベルまで真空引きした後、圧力容器内に窒素(N2)ガスやアルゴン(Ar2)などの不活性ガスを充填する。充填圧力は、GaPの融点付近(1480℃)の温度で、4MPa以上、好ましくは4.5MPa〜6.5MPa程度とする。その後、これらの原料をGaPの融点より高い温度(1520℃程度)まで加熱して十分に融解させた後、固液界面近傍がGaPの融点(1480℃)の近傍として、種結晶をGaP融液中に浸漬させ、引き上げ中の単結晶の温度勾配が一定となるように育成温度を調整しながら、所定の引き上げ速度で単結晶を引き上げることにより、Si添加GaP単結晶を育成する。
【0027】
特に、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法では、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で、引き上げ速度を切り換えると共に、切換前における平均引き上げ速度(L1)を5mm/hr〜12mm/hr、好ましくは6mm/hr〜10mm/hrの範囲となるように設定する。引き上げ速度(L1)を5mm/hr未満とした場合でも、育成は可能ではあるが、この場合には、切換の有無にかかわらず、引き上げに長時間を要し生産性が悪化することとなる。特に、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3までの育成初期段階において、引き上げ速度(L1)が5mm/hr未満となると、ゲッタリング効果が支配的となるために、GaP単結晶中のキャリア濃度の低下が著しくなる。さらに、このことに起因して、単結晶の固化率が増大するに伴い、GaP融液中に残留する見掛け上のSi濃度が徐々に増加することにより、固化率が0.7を超えるGaP単結晶のボトム付近においてキャリア濃度が著しく増加してしまう。
【0028】
一方、前記切換前における平均引き上げ速度(L1)が12mm/hrを超えると、GaP単結晶における結晶欠陥、特に多結晶化の発生する頻度が高くなってしまう。この理由としては、固化率が0.15〜0.3までの育成初期段階は、GaP単結晶の肩部が形成され、かつ、GaP単結晶の直胴部のトップがB2O3より出るタイミングであり、熱環境が著しく変化するためである。よって、この育成初期段階における平均引上げ速度(L1)の上限値をこのように限定する必要がある。
【0029】
ここで、固化率とは、原料投入質量に対する結晶固化質量の割合であり、上記の固化率が0.2であるとは、原料投入質量の2割が固化した段階を意味し、その位置はその際の結晶下端の位置により判断する。
【0030】
なお、本発明において引き上げ速度は、切換前および切換後において、通常は一定に維持される。ただし、育成初期段階では、上述のように熱環境が著しく変化するため、これに対応するために、速度変更プログラムなどを用いて、引き上げ速度を変化させてもよく、また、育成後半においても、引用文献2に記載のように、段階的に引き上げ速度を遅くすることも可能である。この場合、引き上げ速度の変化は最大で2mm/hrまでの範囲の変化に抑制することが好ましい。
【0031】
本発明では、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の肩部が形成され、GaP単結晶の直胴部のトップB2O3から出るまでに切り換えることが必要である。具体的には、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3、好ましくは0.18〜0.25の範囲で切り換える。この切換を、前記固化率が0.15未満の段階で行うと、ゲッタリング効果が優勢となり、キャリア濃度が低下したままとなる。ゲッタリング効果とは、液体封止剤がGaP融液中の不純物を積極的に吸収することであるが、意図的に添加したSiも吸収の対象となる。一方、この切換を、前記固化率が0.3を超えた段階で行うと、Siの偏析の影響を受けて、育成の中盤におけるキャリア濃度が低下しすぎる一方、融液中のSiの濃度が増加する育成後半において、キャリア濃度の増加の傾きが大きくなってしまう可能性がある。通常、この切換は、前記固化率が0.2の段階で行うようにすればよい。
【0032】
本発明では、上記の育成初期段階に続く、前記切換後の平均引き上げ速度(L2)を、以下の通りに設定する。すなわち、前記切換前の平均引き上げ速度(L1)を基準として、前記切換後の平均引き上げ速度(L2)の比(L2/L1)を0.2〜0.9の範囲、好ましくは0.4〜0.8の範囲、さらに好ましくは0.5〜0.7の範囲となるようにする。より具体的には、この切換後の平均引き上げ速度(L2)は、前記切換前の平均引き上げ速度(L1)が5mm/hrの場合には、1mm/hr〜4.5mm/hrの範囲、好ましくは2mm/hr〜4mm/hrの範囲で、12mm/hrの場合には、2.4mm/hr〜10.8mm/hrの範囲、好ましくは4.8mm/hr〜9.6mm/hrの範囲で設定される。
【0033】
この比(L2/L1)が0.9を超えると、引き上げ速度の切り換えの効果がなく、固化率が0.5以上の直胴部後半、特に固化率0.7を超えるGaP単結晶のボトム付近において、キャリア濃度の増加の固化率に対する傾きが急峻化して、結晶の成長軸方向におけるキャリア濃度の制御が困難なものとなる。
【0034】
一方、この比(L2/L1)が、0.2未満となる場合には、GaP単結晶の引上げは可能であるが、育成終了までに長時間を要することになり、生産性に支障をきたす。
【0035】
このように、育成初期段階である固化率が0.15〜0.3までの段階における平均引き上げ速度(L1)を上記の範囲に規制し、かつ、この平均引き上げ速度(L1)と育成中盤から後半にかけての固化率が0.15〜0.3以降の段階における平均引き上げ速度の(L2)との関係を、これらの比(L2/L1)が0.2〜0.9の範囲となるようにすることで、ルツボの材質を石英としたLEC法による育成において、固化率に関わらずに育成時の平均引き上げ速度を上記の速度L1と同じ範囲で一定とした場合と比較して、固化率が0.05〜0.85の範囲におけるキャリア濃度の変化率(最大値/最小値)を、1.4を超える範囲から、1.4を下回る範囲にまで低減させることが可能となる。また、Si添加量が同じ場合に、固化率が0.2〜0.8の範囲で、単結晶中のキャリア濃度を向上させることができる。特に、固化率が0.3〜0.6の範囲では、キャリア濃度を1.2倍以上も向上させることができる。
【0036】
本発明では、GaP単結晶の平均引き上げ速度を、固化率0.15〜0.3の範囲のいずれかの固化率を閾値として、その前後で変化させているが、この平均引き上げ速度の切り換え方法としては、固化率が0.15〜0.3の範囲、特に0.18〜0.25の範囲のいずれかの固化率において、通常は固化率が0.2となったときに、引き上げ速度を手動により切り換える手段を採ることができる。
【0037】
そのほか、切り換え直前の引き上げ速度から、連続的もしくは段階的に変化させて、速度を低減させることも可能である。この場合、切換後の平均引き上げ速度(L2)が本発明の規定する範囲に収まる限り、その変化率(減速度)については制限を受けることはないが、急激な引き上げ速度の変化は結晶成長に悪影響を与える場合があるため、連続的に減速する場合には、毎分0.1mm/hr〜2.0mm/hrの割合で減速させることが好ましく、毎分0.5mm/hr〜1.0mm/hrの割合で連続的に減速させることがより好ましい。また、段階的に減速させる場合には、固化率が0.15〜0.3までの間に、0.5mm/hr〜2.0mm/hrごと数段階に分けて減速させてもよい。これらの速度制御については、速度変更プログラムなどによって自動的に行うことが好ましい。
【0038】
なお、この切換を連続的もしくは段階的に行う場合、この切換時点は、通常は切換開始時と捉えればよい。また、固化率が0.15〜0.3の範囲において、減速開始から減速終了まで完了可能である。ただし、切換前後の平均引き上げ速度(L1またはL2)が本発明の規定範囲に入っている限り、減速比を小さくして、その前後に減速開始と終了がずれ込んでしまった場合も、本発明に包含される。この場合、切換前後の引き上げ速度(L1およびL2)の中間点が上記の固化率の範囲に入っていればよい。
【0039】
本発明において、液体封止剤として一般的に用いられるB2O3を使用するが、B2O3の水分量を200ppm以下、好ましくは100ppm以下とすることが好ましい。これにより、固化率が0.2未満の段階におけるゲッタリング効果を抑制できるので、キャリア濃度をより結晶成長軸方向にわたって安定化させる効果を得ることができ、より高品質なGaP単結晶の製造が可能となる。なお、B2O3の水分量の制御は、原料として水分量の少ないものを選択するか、あらかじめ水分を除去したものを用いることによって行うことができる。
【0040】
このように、Si添加GaP単結晶の製造方法において、本発明は、B2O3界面での酸化還元反応、いわゆるゲッタリング効果によって生じるSi濃度の低い融液の結晶外部への取り込みとSiの偏析による効果をバランスよく制御し、もって、結晶成長軸方向でキャリア濃度の変化が少ない高品質なGaP単結晶を得ることを可能としている点に特徴がある。また、GaP単結晶の育成の中盤におけるキャリア濃度の低減が効果的に抑制されるので、添加するSi量を低減することも可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により、制限されることはない。
【0042】
[実施例1]
圧力容器内に載置されている、内径が120mmφの石英ルツボ内に、リン化ガリウム(GaP)多結晶原料1500gと、不純物材料としてのシリコン(Si)200mg(GaP多結晶原料に対して、質量比で1.33×10-4)とを投入した。その上に水分量が500ppmである酸化ホウ素(B2O3)を200g載置した後、圧力容器の上部シャフトに、4mm角、長さが60mmの種結晶を配置した。
【0043】
圧力容器中を真空引きした後に、窒素(N2)ガスを15kg/cm2入れて、カーボンヒータによりGaP多結晶を融点より高い温度である1520℃まで加熱して、十分に融解させた。その後、固液界面近傍がGaPの融点(1480℃)の近傍である1470℃付近に調整し、種結晶をGaP融液中に浸け、自動温度制御プログラムを用いて、GaP単結晶の温度勾配が一定となるように温度を調整して、直径が55mmとなるようにGaP単結晶を育成した。このとき、種結晶を20rpmの回転数で回転させ、石英ルツボを、種結晶とは反対方向に、20rpmで回転させた。
【0044】
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となるまでは10mm/hrで一定(平均引き上げ速度はL1=10mm/hr)とし、固化率が0.2となった時点で、この引き上げ速度を毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を5mm/hrで一定(L2=5mm/hr)に維持した。したがって、切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.5であった。
【0045】
育成は安定して行われ、所定の質量に達した時点でGaP単結晶の育成を終了し、1420gの単結晶が得られた。得られたGaP単結晶の外周部を円筒研削した後、ワイヤソーでウエハ状に加工した。得られたウエハのそれぞれについて、そのキャリア濃度を測定した。その測定結果を図1に示す。
【0046】
実施例1で得られたGaP単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の分布は、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.17×1017/cm3〜4.1×1017/cm3であった。このキャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.29であった。
【0047】
[実施例2]
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となった時点で、毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を8mm/hrで一定(L2=8mm/hr)に維持したこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。このときの切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.8であった。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.3×1017/cm3〜4.2×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.27であった。
【0048】
[実施例3]
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となるまでは5mm/hrで一定(平均引き上げ速度はL1=5mm/hr)とし、固化率が0.2となった時点で、この引き上げ速度を毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を3mm/hrで一定(L2=3mm/hr)に維持したこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。このときの切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.6であった。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.1×1017/cm3〜4.3×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.38であった。
【0049】
[実施例4]
水分量が100ppmであるB2O3を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1340gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.39×1017/cm3〜4.2×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.23であった。その測定結果を図1に示す。
【0050】
[比較例1]
GaP単結晶の引き上げ速度を、育成の開始から終了まで10mm/hrで一定としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、キャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、2.9×1017/cm3〜4.22×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.46であった。その測定結果を図1に示す。
【0051】
[比較例2]
GaP単結晶の引き上げ速度の切り替えを、固化率が0.5となった時点で行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、2.9×1017/cm3〜4.4×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.51であった。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
1 GaP単結晶製造装置
2 圧力容器
3 保温材
4 ルツボ
5 GaP融液
6 液体封止剤
7 カーボンヒータ
8 シャフト
9 種結晶
10 GaP単結晶
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封止引き上げ法による、シリコン添加リン化ガリウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の光を発する発光ダイオード(LED)を製造するための基板には、リン化ガリウム(GaP)単結晶が用いられている。このGaP単結晶は、液体封止引き上げ法(LEC法)によって製造されている。
【0003】
図2に、LEC法によるGaP単結晶の製造に用いられている、一般的なGaP単結晶製造装置の概略断面図を示す。GaP単結晶製造装置(1)は、100気圧程度の高圧にも耐えられる圧力容器(2)内に、カーボン製保温材(3)と、この保温材(3)内部に載置される石英ルツボ(4)と、カーボンヒータ(7)と、シャフト(8)とを備える。
【0004】
この石英ルツボ(4)には、原料のリン(P)とガリウム(Ga)とを合成して作成したGaP多結晶と、化合物半導体となったときの結晶中でn型またはp型の電気特性を発現する働きをする不純物、たとえば、n型添加物であるシリコン(Si)と共に、原料融解時のリンの揮発分解を防止するための液体封止剤としての酸化ホウ素(B2O3)が投入される。
【0005】
GaP単結晶の製造は、通常、圧力容器(2)内に50気圧以上の窒素(N2)やアルゴン(Ar2)といった不活性ガスを充填し、その中で行われる。この密封雰囲気下で、カーボンヒータ(7)により、GaP多結晶を加熱融解する。B2O3は、GaP融液(5)より比重が軽く透光性があることから液体封止剤(6)として好適に機能する。
【0006】
石英ルツボ(4)の上方には、上部シャフト(8)が配置されている。この上部シャフト(8)には保持具(図示せず)が連結されており、この保持具に(100)面が下面となるように種結晶(9)が取り付けられる。GaP多結晶の融解が確認された後に、種結晶(9)を降下させて、GaP融液(5)に浸漬させ、その後、GaP単結晶(10)が上方に引き上げられる。
【0007】
引き上げ法による単結晶の製造において、一般的には、引上げ距離に対して、目標とする直径や質量となるように温度を調整して、単結晶の成長速度を制御している。しかしながら、GaP単結晶の場合、高圧雰囲気と液体封止剤を用いているため、熱環境がきわめて複雑であり、GaP単結晶の直径の制御が困難となっている。また、このような厳しい熱環境に起因して、多結晶化や双晶の発生による単結晶化率の悪化や、単結晶内部におけるボイドやリネージなどの結晶欠陥の発生なども、GaP単結晶の引き上げにおいて生産性を悪化させる要因となっている。
【0008】
これらの問題を改善するために、ゆるやかな温度勾配の環境で育成することにより、低欠陥の結晶を得る試みがなされている。たとえば、特許文献1では、融液表面とB2O3直上におけるGaP単結晶の温度差を195℃以上245℃以下となるように調整することで、温度勾配をゆるやかなものとして、さらに50ppm以上200ppm以下の水分量のB2O3を用いて、単結晶のトップ部で発生するリング状のボイドの発生を低減させることが、提案されている。
【0009】
また、特許文献2では、所望の育成長、具体的にはGaP単結晶の固化率が0.65程度となるまでは一定の引き上げ速度で結晶を育成し、続く後段において、引き上げ速度をそれまでの速度から段階的に遅くすることで、固液界面の形状が下向き凸形状を維持するように制御し、多結晶化や双晶の発生を防止して、より長尺な単結晶を得ることが提案されている。
【0010】
ところで、Si添加GaP単結晶においては、目標となるキャリア濃度の範囲は、概ね1×1016cm-3〜1×1018cm-3とされるが、その製造工程において、原料中の水分やB2O3中の水分の影響により、成長界面近傍での酸化還元反応、いわゆるゲッタリング効果により、結晶成長軸方向においてキャリア濃度が低下する現象が観察される。また、ドーパントであるSiの偏析係数は1よりも小さいため、結晶育成の後半において結晶中に取り込まれるSi量が急激に増加する。このため、結晶成長軸方向においてキャリア濃度の変化が大きくなり、直胴部中間部分において、Si量が目標とするキャリア濃度を下回ったり、直胴部後半部分において、逆にSi量が目標とするキャリア濃度を上回ったりする。このような事態は、GaP単結晶から得られるGaP単結晶ウエハの収率を悪化させることとなる。
【0011】
目標とするキャリア濃度の範囲の結晶を得るためには、こうしたゲッタリング効果やSiの偏析などを考慮して、経験的にSi添加量を決定することが必要とされる。通常、原料中に添加されるSi量は1×1018cm-3〜1×1020cm-3以上と、目標とするキャリア濃度の100倍以上の量とされており、このことからも、キャリア濃度の制御が困難であることが理解される。
【0012】
これまでのところ、GaP単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の変化を低減させることに関して、十分な効果が得られる対策についての提案はなされていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−73198
【特許文献2】特開平9−52794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、可視発光ダイオード(LED)用の基板として用いられるSi添加のGaP単結晶をLEC法により製造するに際して、得られる単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の変化を低減させることにより、高品質なGaP単結晶基板の提供を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、酸化ホウ素(B2O3)を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法(LEC法)によりシリコン(Si)添加リン化ガリウム(GaP)単結晶を製造する方法に関する。
【0016】
特に、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法は、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御することを特徴とする。
【0017】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.4〜0.8の範囲となるようにすることがより好ましく、0.5〜0.7の範囲となるようにすることがさらに好ましい。
【0018】
また、前記B2O3の水分量を200ppm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、GaP単結晶の固化率に基づいて、育成初期におけるGaP単結晶の引き上げ速度と、その後の段階におけるGaP単結晶の引き上げ速度の関係を所定の範囲に規制することにより、Si添加GaP単結晶における結晶成長軸方向のキャリア濃度分布の変化を低減させることができる。また、液体封止剤である、B2O3の水分量を規制することで、前記キャリア濃度をさらに適切に規制できる。
【0020】
これにより、結晶成長軸方向におけるキャリア濃度分布が安定した高品質のSi添加GaP単結晶が得られ、可視発光ダイオード(LED)基板の材料として最適なSi添加GaP単結晶ウエハを収率よく提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例と比較例について、GaP単結晶の固化率とキャリア濃度の関係を示すグラフである。
【図2】LEC法によるGaP単結晶を製造するための一般的な装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、上述の課題に対して、鋭意検討を行い、リン化ガリウム(GaP)単結晶の固化率に基づいて、育成初期におけるGaP単結晶の引き上げ速度とその後の段階におけるGaP単結晶の引き上げ速度の関係を所定の範囲とすることにより、シリコン(Si)の偏析とゲッタリング効果をバランスよく制御できるとの知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0023】
本発明は、酸化ホウ素(B2O3)を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法(LEC法)により、Si添加GaP単結晶を製造する方法に適用することができる。その実施にあたっては、図2に示すような従来から存在する一般的な単結晶製造装置を用いることができる。また、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法では、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を制御すること以外の条件については、基本的には、従来の製造方法と同様である。
【0024】
石英ルツボに、原料として、GaP多結晶と、Siと、B2O3を投入する。ルツボに投入するSi量は、Siのキャリアとしての活性化率を考慮して、得られるGaP単結晶に含まれるSi原子数比(キャリア濃度)が1×1016cm-3〜1×1018cm-3の範囲内となるように、GaP融液に含まれるSi原子数を前記キャリア濃度の100倍程度の量である1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度に調整する。具体的には、GaP多結晶原料に対して、質量比で2×10-5〜2×10-3から2×10-4〜2×10-2までの割合で、Siを投入する。
【0025】
インゴット内のSi原子数が1×1016cm-3未満であると、基板の比抵抗が過大となり、また、1×1019cm-3を超えると、基板が着色するといった不具合が生ずる。
【0026】
原料を投入した石英ルツボを圧力容器内に載置した状態で、ロータリーポンプを用いて、圧力容器の中を10-3MPa〜10-4MPa程度の真空レベルまで真空引きした後、圧力容器内に窒素(N2)ガスやアルゴン(Ar2)などの不活性ガスを充填する。充填圧力は、GaPの融点付近(1480℃)の温度で、4MPa以上、好ましくは4.5MPa〜6.5MPa程度とする。その後、これらの原料をGaPの融点より高い温度(1520℃程度)まで加熱して十分に融解させた後、固液界面近傍がGaPの融点(1480℃)の近傍として、種結晶をGaP融液中に浸漬させ、引き上げ中の単結晶の温度勾配が一定となるように育成温度を調整しながら、所定の引き上げ速度で単結晶を引き上げることにより、Si添加GaP単結晶を育成する。
【0027】
特に、本発明のSi添加GaP単結晶の製造方法では、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で、引き上げ速度を切り換えると共に、切換前における平均引き上げ速度(L1)を5mm/hr〜12mm/hr、好ましくは6mm/hr〜10mm/hrの範囲となるように設定する。引き上げ速度(L1)を5mm/hr未満とした場合でも、育成は可能ではあるが、この場合には、切換の有無にかかわらず、引き上げに長時間を要し生産性が悪化することとなる。特に、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3までの育成初期段階において、引き上げ速度(L1)が5mm/hr未満となると、ゲッタリング効果が支配的となるために、GaP単結晶中のキャリア濃度の低下が著しくなる。さらに、このことに起因して、単結晶の固化率が増大するに伴い、GaP融液中に残留する見掛け上のSi濃度が徐々に増加することにより、固化率が0.7を超えるGaP単結晶のボトム付近においてキャリア濃度が著しく増加してしまう。
【0028】
一方、前記切換前における平均引き上げ速度(L1)が12mm/hrを超えると、GaP単結晶における結晶欠陥、特に多結晶化の発生する頻度が高くなってしまう。この理由としては、固化率が0.15〜0.3までの育成初期段階は、GaP単結晶の肩部が形成され、かつ、GaP単結晶の直胴部のトップがB2O3より出るタイミングであり、熱環境が著しく変化するためである。よって、この育成初期段階における平均引上げ速度(L1)の上限値をこのように限定する必要がある。
【0029】
ここで、固化率とは、原料投入質量に対する結晶固化質量の割合であり、上記の固化率が0.2であるとは、原料投入質量の2割が固化した段階を意味し、その位置はその際の結晶下端の位置により判断する。
【0030】
なお、本発明において引き上げ速度は、切換前および切換後において、通常は一定に維持される。ただし、育成初期段階では、上述のように熱環境が著しく変化するため、これに対応するために、速度変更プログラムなどを用いて、引き上げ速度を変化させてもよく、また、育成後半においても、引用文献2に記載のように、段階的に引き上げ速度を遅くすることも可能である。この場合、引き上げ速度の変化は最大で2mm/hrまでの範囲の変化に抑制することが好ましい。
【0031】
本発明では、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の肩部が形成され、GaP単結晶の直胴部のトップB2O3から出るまでに切り換えることが必要である。具体的には、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3、好ましくは0.18〜0.25の範囲で切り換える。この切換を、前記固化率が0.15未満の段階で行うと、ゲッタリング効果が優勢となり、キャリア濃度が低下したままとなる。ゲッタリング効果とは、液体封止剤がGaP融液中の不純物を積極的に吸収することであるが、意図的に添加したSiも吸収の対象となる。一方、この切換を、前記固化率が0.3を超えた段階で行うと、Siの偏析の影響を受けて、育成の中盤におけるキャリア濃度が低下しすぎる一方、融液中のSiの濃度が増加する育成後半において、キャリア濃度の増加の傾きが大きくなってしまう可能性がある。通常、この切換は、前記固化率が0.2の段階で行うようにすればよい。
【0032】
本発明では、上記の育成初期段階に続く、前記切換後の平均引き上げ速度(L2)を、以下の通りに設定する。すなわち、前記切換前の平均引き上げ速度(L1)を基準として、前記切換後の平均引き上げ速度(L2)の比(L2/L1)を0.2〜0.9の範囲、好ましくは0.4〜0.8の範囲、さらに好ましくは0.5〜0.7の範囲となるようにする。より具体的には、この切換後の平均引き上げ速度(L2)は、前記切換前の平均引き上げ速度(L1)が5mm/hrの場合には、1mm/hr〜4.5mm/hrの範囲、好ましくは2mm/hr〜4mm/hrの範囲で、12mm/hrの場合には、2.4mm/hr〜10.8mm/hrの範囲、好ましくは4.8mm/hr〜9.6mm/hrの範囲で設定される。
【0033】
この比(L2/L1)が0.9を超えると、引き上げ速度の切り換えの効果がなく、固化率が0.5以上の直胴部後半、特に固化率0.7を超えるGaP単結晶のボトム付近において、キャリア濃度の増加の固化率に対する傾きが急峻化して、結晶の成長軸方向におけるキャリア濃度の制御が困難なものとなる。
【0034】
一方、この比(L2/L1)が、0.2未満となる場合には、GaP単結晶の引上げは可能であるが、育成終了までに長時間を要することになり、生産性に支障をきたす。
【0035】
このように、育成初期段階である固化率が0.15〜0.3までの段階における平均引き上げ速度(L1)を上記の範囲に規制し、かつ、この平均引き上げ速度(L1)と育成中盤から後半にかけての固化率が0.15〜0.3以降の段階における平均引き上げ速度の(L2)との関係を、これらの比(L2/L1)が0.2〜0.9の範囲となるようにすることで、ルツボの材質を石英としたLEC法による育成において、固化率に関わらずに育成時の平均引き上げ速度を上記の速度L1と同じ範囲で一定とした場合と比較して、固化率が0.05〜0.85の範囲におけるキャリア濃度の変化率(最大値/最小値)を、1.4を超える範囲から、1.4を下回る範囲にまで低減させることが可能となる。また、Si添加量が同じ場合に、固化率が0.2〜0.8の範囲で、単結晶中のキャリア濃度を向上させることができる。特に、固化率が0.3〜0.6の範囲では、キャリア濃度を1.2倍以上も向上させることができる。
【0036】
本発明では、GaP単結晶の平均引き上げ速度を、固化率0.15〜0.3の範囲のいずれかの固化率を閾値として、その前後で変化させているが、この平均引き上げ速度の切り換え方法としては、固化率が0.15〜0.3の範囲、特に0.18〜0.25の範囲のいずれかの固化率において、通常は固化率が0.2となったときに、引き上げ速度を手動により切り換える手段を採ることができる。
【0037】
そのほか、切り換え直前の引き上げ速度から、連続的もしくは段階的に変化させて、速度を低減させることも可能である。この場合、切換後の平均引き上げ速度(L2)が本発明の規定する範囲に収まる限り、その変化率(減速度)については制限を受けることはないが、急激な引き上げ速度の変化は結晶成長に悪影響を与える場合があるため、連続的に減速する場合には、毎分0.1mm/hr〜2.0mm/hrの割合で減速させることが好ましく、毎分0.5mm/hr〜1.0mm/hrの割合で連続的に減速させることがより好ましい。また、段階的に減速させる場合には、固化率が0.15〜0.3までの間に、0.5mm/hr〜2.0mm/hrごと数段階に分けて減速させてもよい。これらの速度制御については、速度変更プログラムなどによって自動的に行うことが好ましい。
【0038】
なお、この切換を連続的もしくは段階的に行う場合、この切換時点は、通常は切換開始時と捉えればよい。また、固化率が0.15〜0.3の範囲において、減速開始から減速終了まで完了可能である。ただし、切換前後の平均引き上げ速度(L1またはL2)が本発明の規定範囲に入っている限り、減速比を小さくして、その前後に減速開始と終了がずれ込んでしまった場合も、本発明に包含される。この場合、切換前後の引き上げ速度(L1およびL2)の中間点が上記の固化率の範囲に入っていればよい。
【0039】
本発明において、液体封止剤として一般的に用いられるB2O3を使用するが、B2O3の水分量を200ppm以下、好ましくは100ppm以下とすることが好ましい。これにより、固化率が0.2未満の段階におけるゲッタリング効果を抑制できるので、キャリア濃度をより結晶成長軸方向にわたって安定化させる効果を得ることができ、より高品質なGaP単結晶の製造が可能となる。なお、B2O3の水分量の制御は、原料として水分量の少ないものを選択するか、あらかじめ水分を除去したものを用いることによって行うことができる。
【0040】
このように、Si添加GaP単結晶の製造方法において、本発明は、B2O3界面での酸化還元反応、いわゆるゲッタリング効果によって生じるSi濃度の低い融液の結晶外部への取り込みとSiの偏析による効果をバランスよく制御し、もって、結晶成長軸方向でキャリア濃度の変化が少ない高品質なGaP単結晶を得ることを可能としている点に特徴がある。また、GaP単結晶の育成の中盤におけるキャリア濃度の低減が効果的に抑制されるので、添加するSi量を低減することも可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により、制限されることはない。
【0042】
[実施例1]
圧力容器内に載置されている、内径が120mmφの石英ルツボ内に、リン化ガリウム(GaP)多結晶原料1500gと、不純物材料としてのシリコン(Si)200mg(GaP多結晶原料に対して、質量比で1.33×10-4)とを投入した。その上に水分量が500ppmである酸化ホウ素(B2O3)を200g載置した後、圧力容器の上部シャフトに、4mm角、長さが60mmの種結晶を配置した。
【0043】
圧力容器中を真空引きした後に、窒素(N2)ガスを15kg/cm2入れて、カーボンヒータによりGaP多結晶を融点より高い温度である1520℃まで加熱して、十分に融解させた。その後、固液界面近傍がGaPの融点(1480℃)の近傍である1470℃付近に調整し、種結晶をGaP融液中に浸け、自動温度制御プログラムを用いて、GaP単結晶の温度勾配が一定となるように温度を調整して、直径が55mmとなるようにGaP単結晶を育成した。このとき、種結晶を20rpmの回転数で回転させ、石英ルツボを、種結晶とは反対方向に、20rpmで回転させた。
【0044】
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となるまでは10mm/hrで一定(平均引き上げ速度はL1=10mm/hr)とし、固化率が0.2となった時点で、この引き上げ速度を毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を5mm/hrで一定(L2=5mm/hr)に維持した。したがって、切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.5であった。
【0045】
育成は安定して行われ、所定の質量に達した時点でGaP単結晶の育成を終了し、1420gの単結晶が得られた。得られたGaP単結晶の外周部を円筒研削した後、ワイヤソーでウエハ状に加工した。得られたウエハのそれぞれについて、そのキャリア濃度を測定した。その測定結果を図1に示す。
【0046】
実施例1で得られたGaP単結晶の結晶成長軸方向におけるキャリア濃度の分布は、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.17×1017/cm3〜4.1×1017/cm3であった。このキャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.29であった。
【0047】
[実施例2]
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となった時点で、毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を8mm/hrで一定(L2=8mm/hr)に維持したこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。このときの切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.8であった。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.3×1017/cm3〜4.2×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.27であった。
【0048】
[実施例3]
GaP単結晶の引き上げ速度を、固化率が0.2となるまでは5mm/hrで一定(平均引き上げ速度はL1=5mm/hr)とし、固化率が0.2となった時点で、この引き上げ速度を毎分1.0mm/hrの割合で減速して、その後の引き上げ速度を3mm/hrで一定(L2=3mm/hr)に維持したこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。このときの切換前後の平均引き上げ速度の比(L2/L1)は0.6であった。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.1×1017/cm3〜4.3×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.38であった。
【0049】
[実施例4]
水分量が100ppmであるB2O3を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1340gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、3.39×1017/cm3〜4.2×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.23であった。その測定結果を図1に示す。
【0050】
[比較例1]
GaP単結晶の引き上げ速度を、育成の開始から終了まで10mm/hrで一定としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、キャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、2.9×1017/cm3〜4.22×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.46であった。その測定結果を図1に示す。
【0051】
[比較例2]
GaP単結晶の引き上げ速度の切り替えを、固化率が0.5となった時点で行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で、GaP単結晶の育成を行い、その結果、1400gのGaP単結晶が得られた。実施例1と同様にして、ウエハを得て、そのキャリア濃度分布を測定したところ、固化率が0.05〜0.85の範囲では、2.9×1017/cm3〜4.4×1017/cm3、キャリア濃度の変化率(最大値/最小値)は、1.51であった。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
1 GaP単結晶製造装置
2 圧力容器
3 保温材
4 ルツボ
5 GaP融液
6 液体封止剤
7 カーボンヒータ
8 シャフト
9 種結晶
10 GaP単結晶
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B2O3を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法により、Si添加GaP単結晶を製造する方法において、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御することを特徴とする、GaP単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.4〜0.8の範囲となるようにする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.5〜0.7の範囲となるようにする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記B2O3の水分量を200ppm以下とする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項1】
B2O3を液体封止剤として用いる液体封止引き上げ法により、Si添加GaP単結晶を製造する方法において、Si添加GaP単結晶の引き上げ速度を、Si添加GaP単結晶の固化率が0.15〜0.3の範囲で切り換えると共に、切換前の平均引き上げ速度が、5mm/hr〜12mm/hrの範囲となり、かつ、切換後の平均引き上げ速度が、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.2〜0.9の範囲となるように、前記引き上げ速度を制御することを特徴とする、GaP単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.4〜0.8の範囲となるようにする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記切換後の平均引き上げ速度を、前記切換前の平均引き上げ速度を基準とする比で0.5〜0.7の範囲となるようにする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記B2O3の水分量を200ppm以下とする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2013−87044(P2013−87044A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232138(P2011−232138)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
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