説明

リン含有シラザン組成物、リン含有シリカ質膜、リン含有シリカ質充填材、リン含有シリカ質膜の製造方法及び半導体装置

本発明は、比誘電率3.5以下のリン含有シリカ質材料を提供することを目的とする。本発明によるリン含有シラザン組成物は、有機溶媒中にポリアルキルシラザン及び少なくとも1種のリン化合物を含むことを特徴とするものである。該組成物を基板上に塗布して得られた膜を、温度50〜300℃で予備焼成し、次いで温度300〜700℃の不活性雰囲気中で焼成することにより、リン含有シリカ質膜が得られる。本発明によるリン化合物は、5価のリン酸エステル又はホスファゼン化合物であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有シリカ質膜を与えるコーティング組成物、リン含有シリカ質膜、当該リン含有シリカ質膜を含む、特に、当該リン含有膜をPMD又はIMDとして用いた半導体装置、及びリン含有微細孔充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の電子デバイスの製作には、PMD(Premetal Dielectrics)と呼ばれるトランジスタ素子とビット線間、トランジスタ素子とキャパシタ間、ビット線間とキャパシタ間又はキャパシタと金属配線間の絶縁膜や、IMD(Intemetal Dielectrics)と呼ばれる金属配線間の絶縁膜の形成、或いはアイソレーション溝の埋封、といった工程が含まれる。かかる絶縁膜の形成や埋封には一般にシリカ質材料が用いられ、その形成方法としてCVD法、およびゾルゲル法、シロキサン系ポリマー溶液塗布法がある。
【0003】
電子デバイスの高集積度化により、基板上の溝は一層微細化される傾向にあり、例えば、溝幅が0.2μm以下でその幅に対する深さの比(以下「アスペクト比」ともいう。)が2以上である微細溝を、比較的低温度で良好な膜質が得られる高密度プラズマCVD法によりシリカ質で埋封した場合、CVD法固有のコンフォーマル性のため、微細溝の内部にボイドが発生しやすいという問題が生じる。これを回避するためには、高密度プラズマCVD法による成膜とエッチングによる開口を繰り返してボイドのない膜を形成していく必要がある。しかしながら、この方法では、高密度のプラズマ雰囲気による溝形状や材料特性の変化など、基材へのダメージが避けられない。別の方法として、比較的高温で通常のプラズマ密度でCVDを行い、必要に応じてさらに高温焼成を行うこともできるが、この場合には、プロセスの低温化要求に応えることができない。
【0004】
このようなCVD法固有の問題を解決する方法として、微細溝を有する基材にゾルゲル液やシロキサン系ポリマー溶液を塗布、乾燥することにより微細溝を埋封し、その後加熱によりシリカ質材料へ転化するゾルゲル法やシロキサン系ポリマー溶液塗布法があるが、これらの材料の溶液が一般に高粘度であったり、シリカ転化に伴う脱水・脱アルコール反応が必須であることの問題などから、微細溝に完全に溶液を埋封することや、膜表面から微細溝の底部に向かって密度が均一となるように微細溝を埋封することが困難である。
【0005】
このような微細溝を均質埋封するため、特許文献1に、ポリスチレン換算重量平均分子量が3000〜20000の範囲にあるペルヒドロポリシラザンの溶液を、微細溝を有する基材に塗布して乾燥することにより当該溝をペルヒドロポリシラザンで埋封し、その後当該ペルヒドロポリシラザンを、水蒸気を含む雰囲気において加熱することにより、膜表面から微細溝の底部に向かって密度が均一なシリカ質材料に転化する方法が提案されている。
【0006】
一方、上述したPMDやIMDは、電子デバイスの高速化、高集積化に伴い当該材料のさらなる低誘電率化が要請されており、特に、PMD用途では3.5以下の誘電率、またIMD用途では2.5以下の誘電率がそれぞれ望まれる。なぜなら、CVD法により成膜されたリン酸含有シリカ(PSG)またはホウ酸−リン酸含有シリカ(BPSG)系のPMDでは、誘電率が通常は4.2以上、場合によっては5以上となるからである。しかしながら、特許文献1に記載されているペルヒドロポリシラザン由来のシリカ質膜は、誘電率が無機シリカ質の4前後に留まり、PMDやIMD用途に望まれるような低誘電率を達成することができない。
【0007】
また、非特許文献1に記載されているように、PMDにおいては、PMD中にほんの僅かでも可動イオン、特にNaやK、が存在すると電気的特性や信頼性が不安定化するため、可動イオンを電気的にトラップするためリン酸を混入することが知られている。しかしながら、一般に無機ポリシラザンにリン酸(5価)を添加すると、モノシラン(SiH4)が発生して発火する可能性があるため、特許文献1に記載の方法においてペルヒドロポリシラザンにリン酸(5価)を添加することはできない。また、リン酸を安全に添加できたとしても、リン酸は吸湿性が高いため、これを添加することは低誘電率化にとって不利であると一般に考えられている。さらに、特許文献3及び特許文献4に記載されているようなイオン注入法を利用して、シリカ質膜への転化後にリンをドープする方法も考えられるが、この方法では、シリカ質膜全体に均一にドープすることができない上、成膜後に付加的なプロセスが必要となるためスループットの点で不利となる。
【特許文献1】特開2000−308090号公報
【特許文献2】特開2002−75982号公報
【特許文献3】特開2001−319927号公報
【特許文献4】特開2002−367980号公報
【非特許文献1】徳山、「エレクトロニクス技術全書〔3〕MOSデバイス」、第5版、株式会社工業調査会、1979年8月10目、p,59−64
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、上述の従来法では困難であったシリカ質材料による微細溝の均質埋封を可能にし、かつ、PMD用リン含有絶縁膜としてはこれまでにない低い誘電率を実現するシリカ質膜を簡便に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、有機ポリシラザンにリン化合物を組み合わせることにより本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の事項により特定されるものである。
【0010】
〔1〕有機溶媒中にポリアルキルシラザン及び少なくとも1種のリン化合物を含むことを特徴とするリン含有シラザン組成物。
【0011】
〔2〕前記リン化合物が、リン酸エステル及びホスファゼン化合物からなる群より選ばれたことを特徴とする、〔1〕に記載の組成物。
【0012】
〔3〕前記リン化合物がトリス(トリメチルシリル)ホスフェートであることを特徴とする、〔1〕に記載の組成物。
【0013】
〔4〕前記リン化合物が前記ポリアルキルシラザンに対して5〜100質量%含まれることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
【0014】
〔5〕前記ポリアルキルシラザンが、下記一般式(1)で表わされる繰返し単位および、少なくとも下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される単位の一種を含む数平均分子量100〜50,000のものであることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
−(SiR(NR)1.5)−(1)
(上式中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。)
【化1】

(上式中、R、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。)
【化2】

(上式中、RからRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、R、R、Rがすべて水素原子である場合を除く。)
【0015】
〔6〕前記一般式(1)において、Rがメチル基であり且つRが水素原子であり、前記一般式(2)において、R及びRが水素原子又はメチル基であり且つRが水素原子であり、さらに前記一般式(3)において、R、R、Rがメチル基であり且つRが水素原子であることを特徴とする、〔5〕に記載の組成物。
【0016】
〔7〕前記ポリアルキルシラザンが、前記一般式(1)で表される繰返し単位を、前記一般式(1)及び(2)及び(3)で表される単位の総数の50%以上、好ましくは80%以上、含むことを特徴とする、〔5〕又は〔6〕に記載の組成物。
【0017】
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の組成物の膜を焼成することにより得られる、リンを0.5〜10原子%含有することを特徴とするリン含有シリカ質膜。
【0018】
〔9〕比誘電率が3.5以下であることを特徴とする、〔8〕に記載のリン含有シリカ質膜。
【0019】
〔10〕〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の組成物の膜を、最深部の幅が0.2μm以下であってその幅に対する深さの比が2以上である溝を充填し、焼成することにより得られる、リンを0.5〜10原子%含有することを特徴とするリン含有シリカ質充填材。
【0020】
〔11〕〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の組成物を基板上に塗布して得られた膜を、温度50〜300℃で予備焼成し、次いで温度300〜700℃の不活性雰囲気中で焼成することを特徴とする、リン含有シリカ質膜の製造方法。
【0021】
〔12〕〔8〕に記載のリン含有シリカ質膜を層間絶縁膜として含むことを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明により得られるシリカ質膜は、リン含有絶縁膜、特にPMDとしては従来にない3.5以下の低い比誘電率を実現する。また、本発明によるシリカ質膜は、ボイドを発生させることなく均質に微細溝を埋封するので、最新の高集積化プロセスに適合する半導体装置用層間絶縁膜として特に有用である。さらに、本発明による方法は、シリカ質膜への転化に際し加湿工程が不要である点、及び従来に比べ低温成膜が可能である点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるシリカ質膜の埋封性を説明するためのシリカ質膜付き基板の略横断面図である。
【図2】本発明によるシリカ質膜の埋封性を説明するためのシリカ質膜付き基板の略横断面図である。
【図3】本発明によるシリカ質膜の埋封性を説明するためのシリカ質膜付き基板の略斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明によるポリアルキルシラザンは、その分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰返し単位、および下記一般式(2)または(3)で表される単位、もしくはその全てを含む数平均分子量100〜50,000のものであることが好ましい。
−(SiR(NR)1.5)−(1)
(上式中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。)
【化3】

【化4】

【0025】
上式中、R、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。また、RからRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、R、R、Rがすべて水素原子である場合を除く。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。特に好適なアルキル基はメチル基である。なお、炭素原子数4以上のアルキル基を有するポリアルキルシラザンは、得られる多孔質膜が軟らかくなりすぎるため望ましくない。上記一般式(2)により定義されるポリアルキルシラザンは、R及びRが水素原子又はメチル基であり(ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く)且つR5が水素原子であることが特に好適である。上記一般式(3)により定義されるポリアルキルシラザンは、R、R及びRがメチル基であり、且つRが水素原子であることが特に好適である。
【0026】
本発明による特に好適なポリアルキルシラザンは、その分子鎖中に下記一般式(1)で表される繰返し単位を含む数平均分子量100〜50,000のものである。これは、数平均分子量が100以下である場合は、薄膜が形成されない(特にスピンコート時において顕著)という問題が生じるためであり、50000を超えると架橋基が多すぎゲル化するためである。
【0027】
本発明においては、上記一般式(1)及び(2)または(3)、(2)および(3)の両方の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンが、当該組成物の保存時のゲル化を防止することができる点で特に有用である。その場合、一般式(1)で表される繰返し単位の数が一般式(1)と一般式(2)または(3)で表される単位、もしくは一般式(1)と一般式(2)および(3)で表される単位の総数の50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上を占めるものであることが好適である。これは、50%以下であると、成膜時にハジキや塗布ムラなどの報疵が生じやすくなるためである。
【0028】
これらのポリアルキルシラザンは、当業者に自明の通常のポリシラザンを合成する際のアンモノリシスにおいて、一般式(1)の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはアルキルトリクロロシラン(RSiCl3)を、一般式(2)の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはジアルキルジクロロシラン(RSiCl2)を、一般式(3)の単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはトリアルキルクロロシラン(RSiCl)を、そしてこれら両方の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはこれらの混合物を出発原料とすることにより得られる。それらのクロロシラン類の混合比が各単位の存在比を決める。
【0029】
本発明によるポリアルキルシラザンは、好ましくは活性水素を有しない不活性有機溶媒に溶かして用いられる。このような有機溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカピドロナフタレン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンチン、ジペンテン(リモネン)等の脂環族炭化水素系溶媒;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0030】
本発明による組成物には、少なくとも1種のリン化合物が含まれる。上述したように、無機ポリシラザンにリン酸(リン原子の価数が5価)を添加するとモノシラン(SiH4)が発生して発火する可能性があることから、ポリアルキルシラザンとリン化合物とを組み合わせること自体、その安全性に疑問があった。また、仮にその安全性が確保されたとしても、リン化合物の吸湿性のため、リン添加によるPMDの電気的特性の安定化と低誘電率化とは両立しないと考えられていた。このような従来技術の示唆に反し、本発明者らは、Siにアルキル基が結合しているポリアルキルシラザンにリン化合物を添加してもモノシランを発生しないことを見出した上、その組成物の焼成条件を制御することにより、得られるシリカ質膜の電気的特性の安定化と低誘電率化とが両立し得ることをも見出した。具体的には、本発明により得られるシリカ質膜は、リンが含まれるにも関わらず、PMD用途に望まれる3.5以下という従来にない低い比誘電率を安定的に保持することができる。
【0031】
本発明によるリン化合物は、一般式:(RO)P=Oで表わされる、リン原子の価数が5価のリン酸類であることが好ましい。上式中のRは、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素、アンモニウム基、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数6〜10の置換もしくは無置換アリール基、または置換基の炭素原子数1〜4の三置換型シリル基を表わす。5価のリン酸類の具体例として、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレシル、リン酸トリス(トリメチルシリル)及びリン酸トリス(2−クロロエチル)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
本発明によるリン化合物は、−RP=N−構造を有する化合物であるホスファゼンであってもよい。上式中のRは、同一であっても異なってもよく、それぞれハロゲン、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、または炭素原子数6〜10の置換もしくは無置換フェノキシ基を表わす。特に、本発明においては環状ホスファゼン又はホスファゼンオリゴマーを使用することが好ましい。そのようなホスファゼンの具体例として、ヘキサクロロシクロホスファゼン、プロポキシホスファゼンオリゴマー及びフェノキシホスファゼンオリゴマーが挙げられる。また、本発明においては、環状ホスファゼンを出発物質としたオリゴマー類、例えばヘキサクロロシクロホスファゼンとヘキサメチルジシラザンを反応させて得られるオリゴマー、を使用することもできる。これらのリン化合物を2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0033】
なお、亜リン酸トリアルキルをはじめとする、リン原子の価数が3価であるリン化合物も本発明に用いることが可能であるが、当該組成物を焼成して得られるシリカ質膜における残留率を高くする、また後述する工程簡略化に寄与する触媒作用を十分発揮させるという観点から、本発明においては前記したリン酸化合物を用いることが好ましい。
【0034】
本発明によるリン化合物は、当該組成物の焼成膜においてNaやK等の可動イオンを電気的に捕獲する効果(ゲッタリング効果)が得られるに必要な量で当該組成物に含まれる。このようなゲッタリング効果を得るためには、焼成膜中に少なくとも0.5原子%、好ましくは2原子%、より好ましくは4原子%の、リン(P)が必要である。一方、本発明によるリン化合物の量が多過ぎると、その吸湿性により焼成膜の誘電率が上昇するので、焼成膜中のリン(P)量を、全原子数を基準に、10原子%以下に、好ましくは8原子%以下に、制限する必要がある。
【0035】
上記焼成膜中のリン含有量を実現するため、本発明によるリン含有シラザン組成物における当該リン化合物の含有量は、具体的な化合物組成により変動するが、ポリアルキルシラザンに対して、一般に5〜100質量%、好ましくは10〜100質量%の範囲内にある。
【0036】
本発明によるリン化合物を混合する際には、これらを直接ポリアルキルシラザン溶液へ添加してもよいし、これらを有機溶媒に溶かした溶液の形態でポリアルキルシラザン溶液へ添加してもよい。後者の場合、有機溶媒としてはポリアルキルシラザン溶液の調製に用いたものと共通の有機溶媒を使用すればよい。
【0037】
所望により、本発明によるリン含有シラザン組成物に、特許文献2に記載のポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルを添加することにより、或いは、特願2003−126381号明細書に記載のアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの単独重合体及び共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の有機樹脂成分であって、該有機樹脂成分の少なくとも一種に含まれる側基の少なくとも一部に−COOH基及び/又は−OH基が含まれるもの、を添加することにより、多孔質化した焼成シリカ質膜を得ることができる。このように多孔質化したシリカ質膜は、誘電率が一段と低くなるので、特に2.5以下の低誘電率が求められるIMD用途等に有用である。
【0038】
特許文献2に記載のポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルには、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、およびこれらのブロックコポリマーその他のコポリマーが包含される。該ポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルとしては、数平均分子量が1,000〜800,000、好ましくは10,000〜600,000、最適には50,000〜300,000であるものを使用する。
【0039】
特願2003−126381号明細書に記載の有機樹脂成分には、アクリル酸エステルの単独重合体、例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル;メタクリル酸エステルの単独重合体、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル;アクリル酸エステルの共重合体、例えば、ポリ(アクリル酸メチル−コ−アクリル酸エチル);メタクリル酸エステルの共重合体、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル−コ−メタクリル酸エチル);アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体、例えば、ポリ(アクリル酸メチル−コ−メタクリル酸エチル)、のいずれの組合せも包含される。
【0040】
該有機樹脂成分が共重合体である場合、そのモノマー配列に制限はなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーその他の任意の配列を使用することができる。
【0041】
アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの単独重合体及び共重合体を構成するモノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸セブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、メタクリル酸メチルとメタクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸n−ブチルとアクリル酸i−ブチルは、ポリアクリルシラザンとの相溶性の観点からより好ましい。
【0042】
該有機樹脂成分の少なくとも一種に含まれる側基の少なくとも一部に−COOH基及び/又は−OH基が含まれる。−COOH基及び/又は−OH基は、当該有機樹脂成分を構成するモノマーに予め含有させておくことができる。−COOH基又は−OH基を含有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートは、ポリアクリルシラザンとの反応容易性という観点から好ましい。
【0043】
別法として、−COOH基及び/又は−OH基を、単独重合体又は共重合体の側鎖に後から導入することもできる。例えば、ポリメタクリル酸エステルを少なくとも部分的に加水分解することにより、側鎖に−COOH基を導入することもできる。
【0044】
該有機樹脂成分が2種以上存在する場合には、それらの少なくとも一種が−COOH基及び/又は−OH基を含有していればよい。したがって、有機樹脂成分として、−COOH基も−OH基も一切含まないもの、例えば、ポリアクリル酸エステルと、−COOH基及び/又は−OH基を含むもの、例えば、ポリ(メタクリル酸エステル−コ−メタクリル酸)との混合物を使用してもよい。
【0045】
上記のポリアクリル酸エステルもしくはポリメタクリル酸エステルまたは有機樹脂成分の添加量は、使用するポリアルキルシラザンに対し5〜150質量%とする。5質量%よりも少ないと、膜の多孔質化が不十分となり、反対に150質量%よりも多いと膜にボイドやクラック等の欠陥が発生して膜強度が低下し、いずれも望ましくない。当該有機樹脂成分の好適な添加量の範囲は10〜120質量%であり、特に20〜100質量%である場合に最適な結果が得られる。
【0046】
上記の有機樹脂成分を使用する場合、そのリン含有シラザン組成物中の−COOH基及び/又は−OH基の含有量が、当該有機樹脂成分の全モノマー数に対して0.01〜50モル%、特に0.1〜30モル%であることが好ましい。
【0047】
該有機樹脂成分を使用する場合、上述の混合物や重合物中に含まれる−COOH基又は−OH基を有する単位は、その−COOH基又は−OH基を介してポリアルキルシラザン鎖と架橋結合を形成するので、これらの単位を含む組成物と基材であるポリアルキルシラザンは単純な混合物ではなく結合を有する反応物となる。この場合、−COOH基及び/又は−OH基が50モル%より多いと、ポリアルキルシラザンとの架橋が進みすぎて容易にゲル化を招く。一方で、0.01モル%より少ない場合は架橋結合が少なすぎ、所期の効果が得られない。
【0048】
また、有機樹脂成分を使用する場合、その数平均分子量が1,000〜800,000であるものを使用する。当該分子量が1,000未満であると、焼成膜の形成時、ごく低温で当該有機樹脂成分が昇華するため、多孔質膜を形成しない。また800,000を超えると孔径が増大し、ボイドの原因となり、膜強度の低下を招き、いずれも望ましくない。当該有機樹脂成分の好適な分子量の範囲は1,000〜600,000であり、特に10,000〜200,000である場合に最適な結果が得られる。
【0049】
−COOH基及び/又は−OH基を含有する有機樹脂成分の場合、それが−COOH基及び/又は−OH基を介して基材のポリアルキルシラザンに結合することにより、有機樹脂成分の分離が制限され、その結果マクロ相分離を起こさない(ミクロ相分離に留まる)組成物が得られる。
【0050】
ポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルや有機樹脂成分を混合する場合、一般に、これらを有機溶媒に溶かした溶液の形態でポリアルキルシラザン溶液へ添加し、撹拝することができる。その際、有機溶媒としてはポリアルキルシラザン溶液の調製に用いたものと共通の有機溶媒を使用すればよい。すなわち、溶解するための有機溶媒としては前述の活性水素を有しない不活性有機溶媒を使用することができる。
【0051】
この有機溶媒への溶解時、当該有機樹脂成分の濃度を5〜80質量%、好ましくは10〜40質量%の範囲とすることができる。
【0052】
これらの添加後、物理的に1〜24時間撹拝することにより架橋結合が形成され均質な反応溶液を得ることができる。さらに30−80℃の湯浴上で5−90分間程度の超音波分散処理を行うことは、反応を促進させるのでなお好適である。
【0053】
尚、当該有機樹脂成分をそのままポリアルキルシラザン溶液へ添加し、溶解、反応させることも可能である。
【0054】
上述のようにして得られた反応物であるリン含有シラザン組成物は、そのまま又は濃度調節を行った後、コーティング組成物として使用し、基体表面に塗布することができる。基体表面に対する当該コーティング組成物の塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法等が挙げられる。
【0055】
基体表面に形成された塗布膜の焼成は、ポリアルキルシラザンのアルキル基が残留するように行う。そのため、焼成は、一般に不活性雰囲気、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、等において実施される。さらに、焼成は、ポリアルキルシラザンに含まれる炭素の脱離を防止するため、乾燥雰囲気で実施することが好ましい。乾燥雰囲気において焼成を実施することにより、電子デバイス構造へのダメージを低減することもでき、有利である。
【0056】
焼成温度は50〜600℃、好ましくは300〜500℃であり、焼成時間は1分〜1時間である。もちろん、焼成膜にアルキル基が残留する限り、大気雰囲気中で焼成を行ってもよい。
【0057】
本発明によるリン含有シラザン組成物は、そのリン化合物が吸湿加速触媒として働くため、上記の塗布工程を通常のクリーンルーム雰囲気下で行うことで、シリカ質への転化(シラザンの窒素を酸素に置き換えること)に必要な水分が塗膜に取り込まれる。したがって、その後塗膜を大気雰囲気中に放置したり、加湿雰囲気下で吸湿処理したりする「吸湿工程」を別途施さなくても、膜質の良好なシリカ質膜を得ることができる。
【0058】
所望により、焼成工程に先立ち、リン含有ポリアルキルシラザン塗膜に含まれる溶媒を除去し、さらには該塗膜に含まれる低分子量成分を飛散させるために、塗膜に加熱処理(予備焼成)を施すことができる。加熱処理は、溶媒除去を目的とする場合には約50〜200℃の温度で、また低分子量成分除去を目的する場合には約200〜300℃の温度で実施することができる。加熱処理時間は、処理温度にもよるが、約1〜10分程度とすればよい。好ましい態様では、焼成工程に先立ち、塗膜を約150℃で3分問加熱して溶媒を除去し、次いで約250℃で3分間加熱して低分子量成分を除去する。加熱処理により、得られるシリカ質膜の膜質が一層向上する。
【0059】
上記焼成工程により、ポリアルキルシラザン中のSiH、SiR(R:アルキル基)及びSiNの各結合のうちSiN結合のみが酸化されてSiO結合に転換され、未酸化のSiH及びSiR結合を有するシリカ質膜が形成される。このように、形成されるシリカ質膜中には、SiN結合が選択的に酸化されてできたSiO結合と、未酸化のSiH及びSiR結合を存在させることができ、これにより、低密度のシリカ質膜を得ることができる。一般的に、シリカ質膜の誘電率は、その膜密度の低下に応じて低下するが、一方、膜密度が低下して多孔質状態になると、膜の内部にまで高誘電質物質である水の吸着が起るため、シリカ質膜を大気中に放置すると膜の誘電率が上昇するという問題を生じる。一方、SiHやSiR結合を含む本発明のシリカ質膜の場合には、それらの結合が撥水性を有することから、低密度でありながら水の吸着を防止することができる。従って、本発明によるシリカ質膜は水蒸気を含む大気中に放置しても、その膜の誘電率は殆んど上昇しないという大きな利点を有する。さらに、本発明のシリカ質膜は、低密度であることから、膜の内部応力が小さく、クラックを生じにくいという利点もある。
【0060】
本発明によるリン含有シラザン組成物は、微細溝を有する基板の微細溝を均質に埋封するのに特に適している。具体的には、最深部の幅が0.2μm以下であってその幅に対する深さの比が2以上である溝を、溝外部に対して溝内部のシリカ質材料を顕著に低密度化することなく、埋封することができる。微細溝内部のシリカ質材料の密度の均一性が向上することにより、後続のスルーホールの形成が容易となる。このような用途として、例えば、液晶ガラスのアンダーコート(Na等パッシベーション膜)、液晶カラーフィルターのオーバーコート(絶縁平坦化膜)、フィルム液晶のガスバリア、基材(金属、ガラス)のハードコーテイング、耐熱・耐酸化コーティング、防汚コーティング、撥水コーティング、親水コーティング、ガラス・プラスチックの紫外線カットコーティング、着色コーティング、他が挙げられる。
【0061】
本発明によるリン含有シラザン組成物が上述のポリアクリル酸エステルもしくはポリメタクリル酸エステルを含む場合、当該塗膜の焼成時に当該ポリマーが昇華することによりシリカ質膜の内部に直径5〜30nmの微細な細孔が形成される。この細孔の存在によりシリカ質膜の密度が低下し、その結果シリカ質膜の比誘電率がさらに低下することとなる。また、本発明によるリン含有シラザン組成物が上述の有機樹脂成分を含む場合には、当該塗膜の焼成時に有機樹脂成分が昇華することによりシリカ質膜の内部に主に直径0.5〜3nmの微細な細孔が形成される。この細孔の存在によりシリカ質膜の密度が低下し、その結果シリカ質膜の比誘電率がさらに低下することとなる。なお、かように微細な孔が形成できる理由としては、ポリアルキルシラザンと当該有機樹脂成分との相溶性が非常によいことに加え、上記有機樹脂成分の場合には、ポリアルキルシラザンと、−COOH基及び/又は−OH基を含有する有機樹脂成分との間に架橋結合が存在するため、当該有機樹脂成分が昇華する直前までマクロ相分離を起こさせないことが一因と考えられる。
【0062】
特に、上記の有機樹脂成分を使用して得られた多孔質シリカ膜質は、極めて微細な孔が形成できるため、優れた機械強度を有するものでもある。特に、当該多孔質シリカ質膜は、ナノインデンテーション法による弾性率として3GPa以上、場合によっては5GPa以上という多孔質材料としては顕著に高い機械的強度を示すものである。したがって、CMP法による配線材料の除去工程に耐えうる機械的強度と各種耐薬品性を兼ね備えるため、ダマシン法をはじめとする最新の高集積化プロセスに適合する層間絶縁膜として使用することも可能である。
【0063】
本発明によるシリカ質膜は、そのマトリックス成分であるポリアルキルシラザンの撥水基が焼成後に十分残存するため、水蒸気を含む大気中に放置しても、リン化合物による吸湿性が抑制され、比誘電率が殆ど上昇しない。このように、本発明によると、リンが含まれるにも関わらず、シリカ質膜の結合成分(SiH、SiR)による低密度化・撥水性化により、また多孔質化した場合には細孔による膜全体のさらなる低密度化とが相まって、IMD用途に望まれる2.5以下という極めて低い比誘電率を安定的に保持できる多孔質シリカ質膜が得られる。
【0064】
本発明による多孔質シリカ質膜の他の性状を示すと、その密度は0.5〜1.6g/cm、好ましくは0.8〜1.4g/cm、そのクラック限界膜厚は1.0μm以上、好ましくは5μm以上、及びその内部応力は80MPa以下、好ましくは50MPa以下である。また、このシリカ質膜中に含まれるSiH又はSiR(R:アルキル基)結合として存在するSi含有量は、膜中に含まれるSi原子数に対して10〜100原子%、好ましくは25〜75原子%である。また、SiN結合として存在するSi含有量は5原子%以下である。焼成後得られる多孔質シリカ質膜の厚さは、その基体表面の用途によっても異なるが、通常、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜2μmである。特に、半導体の層間絶縁膜として用いる場合には0,1〜2μmである。
【0065】
次に本発明を実施例によってさらに詳述する。なお、以下においてシリカ質膜に関して示した物性の評価方法は次の通りである。
【0066】
(膜厚と屈折率)直径4インチ(10.16cm)、厚さ0.5mmのシリコンウェハーに当該組成物溶液をスピンコート法で製膜した後、実施例及び比較例の方法に従ってシリカ質膜に転化したものを分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製、M−44)を用いて39点測定し、その平均を測定値とした。
【0067】
(比誘電率)Solid State Measurements社製の水銀CV/IV測定装置(SSM495)を用いて周波数100kHzにてCV測定を行った。得られたキャパシタンスから装置付属のソフトウェアで下式により比誘電率を算出した。計算に用いる膜厚は分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製、M−44)で測定した。
比誘電率=(キャパシタンス〔pF〕)×(膜厚〔μm〕)/35.4
なお、比誘電率の値は17点の平均値とした。
【0068】
(膜密度)直径4インチ(10.16cm)、厚さ0.5mmのシリコンウェハーの重量を電子天秤で測定した。これに当該組成物溶液をスピンコート法で製膜した後、実施例及び比較例の方法に従ってシリカ質膜に転化し、再び膜付きのシリコンウェハーの重量を電子天秤で測定した。膜重量はこれらの差とした。膜厚は比誘電率評価と同様に分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製、M−44)を用いて測定した。膜密度は下式により計算した。
膜密度〔g/cm〕ニ(膜重量〔g〕〉/(膜厚〔μm〕)/0.008
【0069】
(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)シリカ質材料の溝の最深部(溝内部)と膜表面における洗浄用水溶液に対する耐性を以下のように評価した。評価対象のポリマー溶液を、濾過精度0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。得られたポリマー溶液2mLを、表面が膜厚0.05μmのSi3N4薄膜によって覆われ、深さが0.4μmで一定であり、幅が0.08μm、0.1μm、0.2μm及び0.4μmの4種類(アスペクト比はそれぞれ5.0、4.0、2.0、1.0となる)である縦断面が長方形の溝を表面に有する直径101.6mm(4インチ)のシリコンウェハー(溝付き基板;図1参照)上に滴下し、回転数2000rpm、保持時間20秒の条件でスピンコートした。次いで、後述の各種方法で加熱してシリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜付き基材を、溝の長手方向に対して直角の方向で切断し、断面の溝部分を、目立製作所製モデルS−5000の走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率150000倍で断面に垂直な方向から観察し、図1に示すエッチング前の長さ(a)を測定した。
【0070】
次いで、溝の長手方向に対して直角の方向で切断したシリカ質膜付き基板を、(1)0.5質量%のフッ化水素酸と40質量%のフッ化アンモニウムを含有する水溶液に20℃で1分間浸漬し、また(2)エッチング残さ剥離液として広く用いられているACT−970(Ashland Chemical社製)、EKC265及びEKC640(EKC社製)にそれぞれ75℃で20分、75℃で30分及び23℃で20分浸漬し、その後純粋でよく洗浄して乾燥させた。そして、断面の溝部分を、同様に上記のSEMにより倍率150000倍で、まず断面に垂直な方向から観察し、図2に示すエッチング後の長さ(b)を測定した。続いて、断面の溝部分を、上記のSEMにより倍率300000倍で、断面に垂直な方向の仰角40度上方から溝最深部を観察して写真撮影し、写真上の長さから三角法により図3に示すエッチング後の長さ(c)を算出した。なお、溝最深部のエッチング後の長さ(c)は溝の幅(アスペクト比)によって異なるので、4種類の幅の各溝について測定した。
【0071】
(XPSによる元素定量分析)膜の深さ方向の元素分析は、PhysicalElectronics社製のxps装置、モデル5600ci装置を用いて行った。
【0072】
参考例1〔ポリメチルシラザンの合成(1)〕
内容積5Lのステンレス製タンク反応器に原料供給用のステンレスタンクを装着した。反応器内部を乾燥窒素で置換した後、原料供給用ステンレスタンクにメチルトリクロロシラン780gを入れ、これを窒素によって反応タンクに圧送し導入した。次にピリジン入りの原料供給タンクを反応器に接続し、ピリジン4kgを窒素で同様に圧送した。反応器の圧力を1.0kg/cmに調整し、反応器内の混合液温が−4℃になるように温度調節を行った。そこに、撹拝しながらアンモニアを吹き込み、反応器の圧力が2.0kg/cmになった時点でアンモニア供給を停止した。排気ラインを開けて反応器圧力を下げ、引き続き乾燥窒素を液層に1時間吹き込み、余剰のアンモニアを除去した。得られた生成物を加圧濾過器を用いて乾燥窒素雰囲気下で加圧濾渦し、濾液3200mLを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、約340gのポリメチルシラザンを得た。得られたポリメチルシラザンの数平均分子量をGPC(展開液:CHCl3)により測定したところ、ポリスチレン換算で1800であった。IR(赤外吸収)スペクトルは、波数(cm−1)3350、および1200付近のN−Hに基づく吸収;2900および1250のSi−Cに基づく吸収;1020〜820のSi−N−Siに基づく吸収を示した。
【0073】
参考例2〔ポリメチルシラザンの合成(2)〕
原料としてメチルトリクロロシラン780gの代わりに、メチルトリクロロシラン720g(約4.8モル)とジメチルジクロロシラン65g(約0.5モル)の混合物(メチルトリクロロシラン:ジメチルジクロロシラン=95:10(mol/mol))を用いたことを除き、参考例1と同様に合成を行い、約370gのポリメチルシラザンを得た。得られたポリメチルシラザンの数平均分子量をGPC(展開液:CHCl3)により測定したところ、ポリスチレン換算で1400であった。IR(赤外吸収)スペクトルは、波数(cm−1)3350、および1200付近のN−Hに基づく吸収12900および1250のSi−cに基づく吸収;1020〜820のSi−N−Siに基づく吸収を示した。
【実施例1】
【0074】
参考例1で合成したポリメチルシラザンの15%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMEA)溶液80gに、リン酸トリス(トリメチルシリル)4.8gを添加し十分撹拝した。続いてその溶液を濾過精度0.2μmのアドバンテック社製PTFEシリンジフィルターで濾過した。その濾液を直径10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布し(2000rpm、30秒)、次いで大気雰囲気中で150℃、次に250℃のホットプレート上でそれぞれ3分間加熱した。この膜を乾燥窒素雰囲気中500℃で30分間焼成した。IR(赤外吸収)スペクトルは、波数(cm−1)1100及び450のSi−Oに基づく吸収、波数(cm−1)1270及び770のSi−Cに基づく吸収、波数(cm−1)2970のC−Hに基づく吸収が主に見られ、波数(cm−1)3350及び1200のN−Hに基づく吸収は消失した。尚、P=Oに基づく波数(cm−1)1100付近のピークはSi−Oに基づく吸収に隠れ、高波数側にわずかにショルダーピークが観察された。
【0075】
得られた膜の評価を行ったところ、比誘電率は3.20、密度は1.3g/cmであった。また、得られた膜を温度23℃、相対湿度50%の大気中に一週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ3.30となり、その上昇幅はわずか0.1にすぎなかった。
【0076】
この膜におけるリン元素の分布状態をXPS測定で調べたところ、膜厚の深さ方向に対して、表面から最下面(Si基板との接触面)まで均一に、約4原子%のP原子の存在が観察された。このため、本例により得られたシリカ質膜は、所期のゲッタリング効果を奏するものであるといえる。
【0077】
次に、(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)の項に記した方法で、表面に溝を有する基板上に上記濾液を塗布し、上記の方法で加熱してシリカ質膜を得た。これを同項に記した方法でSEM観察したところ、溝内部に焼成膜が完全に埋封されており、ボイド等は観察されなかった。また、ライナーとの間にもボイドや剥がれは観察されなかった。洗浄用水溶液(1)、(2)によりエッチングされた膜厚{(a−b)及びc}の測定及び算出をしたところ、(1)に対してはいずれの溝幅についてもほぼ0Å、また(2)に対しても0〜20Åと、ほとんどエッチングされていなかった。
【実施例2】
【0078】
参考例1で合成したポリメチルシラザンの30%PGMEA溶液50gに、プロポキシホスファゼンオリゴマー(分子量1500)15gをPGMEA35gに溶解させて得た溶液を添加し十分撹拌した。続いてその溶液を濾過精度0.2μmのアドバンテック社製PTFEシリンジフィルターで濾過した。その濾液を直径102cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布し(2000rpm、30秒)、次いで大気雰囲気中で150℃、次に250℃のホットプレート上でそれぞれ3分間加熱した。この膜を乾燥窒素雰囲気中500℃で30分間焼成した。IR(赤外吸収)スペクトルは、波数(cm−1)1120及び440のSi−Oに基づく吸収、波数(cm−1)1270及び770のSi−Cに基づく吸収、波数(cm−1)2950のC−Hに基づく吸収が主に見られ、波数(cm−1)3350及び1200のN−Hに基づく吸収は消失した。尚、P=Oに基づく波数(cm−1)1120付近のピークはSi−Oに基づく吸収に隠れ、高波数側にわずかにショルダーピークが観察された。
【0079】
得られた膜の評価を行ったところ、比誘電率は3.35、密度は1.3g/cmであった。また、得られた膜を温度23℃、相対湿度50%の大気中に一週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ3.50となり、その上昇幅はわずか0.15にすぎなかった。
【0080】
この膜におけるリン元素の分布状態をXPS測定で調べたところ、膜厚の深さ方向に対して、表面から最下面(Si基板との接触面)まで均一に、約3原子%のP原子の存在が観察された。このため、本例により得られたシリカ質膜も、所期のゲッタリング効果を奏するものであるといえる。
【0081】
次に、(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)の項に記した方法で、表面に溝を有する基板上に上記濾液を塗布し、上記の方法で加熱してシリカ質膜を得た。これを同項に記した方法でSEM観察したところ、溝内部に焼成膜が完全に埋封されており、ボイド等は観察されなかった。また、ライナーとの間にもボイドや剥がれは観察されなかった。洗浄用水溶液(1)、(2)によりエッチングされた膜厚{(a−b〉及びc}の測定及び算出をしたところ、(1)に対してはいずれの溝幅についてもほぼ0Å、また(2〉に対しても0〜20Åと、ほとんどエッチングされていなかった。
【実施例3】
【0082】
参考例1で合成したポリメチルシラザンの12%PGMEA溶液100gに、リン酸トリス(トリメチルシリル)15gを添加し十分撹拌した。さらに、この溶液50gに、分子量約19,000のポリ(メタクリル酸n−ブチル(68モル%)−コ−メタクリル酸メチル(30モル%)−コ−メタクリル酸(2モル%))4gをPGMEA33gによく溶解させたものを混合し十分撹拌した。続いてその溶液を濾過精度0.2μmのアドバンテック社製PTFEシリンジフィルターで濾過した。その濾液を直径10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて塗布し(2000rpm、30秒)、次いで大気雰囲気中で150℃、次に280℃のホットプレート上でそれぞれ3分間加熱した。この膜を乾燥窒素雰囲気中400℃で30分間焼成した。IR(赤外吸収)スペクトルは、波数(cm−1)1100及び450のSi−Oに基づく吸収、波数(cm−1)1270及び770のSi−Cに基づく吸収、波数(cm−1)2970のC−Hに基づく吸収が主に見られ、波数(cm−1)3350及び1200のN−Hに基づく吸収並びにポリ(メタクリル酸n−ブチル−コ−メタクリル酸メチル−コ−メタクリル酸)に基づく吸収は消失した。尚、P=0に基づく波数(cm−1)1100付近のピークはSi−Oに基づく吸収に隠れ、高波数側にわずかにショルダーピークが観察された。
【0083】
得られた膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.24、密度は1.0g/cmであった。また、得られた膜を温度23℃、相対湿度50%の大気中に一週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ2.30となり、その上昇幅はわずか0.06にすぎなかった。
【0084】
この膜におけるリン元素の分布状態をXPS測定で調べたところ、膜厚の深さ方向に対して、表面から最下面(Si基板との接触面)まで均一に、約4原子%のP原子の存在が観察された。このため、本例により得られたシリカ質膜も、所期のゲッタリング効果を奏するものであるといえる。
【0085】
次に、(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)の項に記した方法で、表面に溝を有する基板上に上記濾液を塗布し、上記の方法で加熱してシリカ質膜を得た。これを同項に記した方法でSEM観察したところ、溝内部に焼成膜が完全に埋封されており、ボイド等は観察されなかった。また、ライナーとの間にもボイドや剥がれは観察されなかった。
【0086】
比較例1:
リン酸トリス(トリメチルシリル)を添加しないことを除き、実施例1と同様の溶液を調製した。その溶液を、実施例1と同様に濾過し、塗布し、加熱処理を施すに際し、塗布後の塗膜に、加湿器による50℃80%RHの加湿雰囲気において1時間吸湿させる工程を追加した。その後、実施例1と同様に焼成工程を施して焼成シリカ質膜を調製した。
【0087】
得られた膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.90、密度は1.3g/cmであった。また、得られた膜を温度23℃、相対湿度50%の大気中に一週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ2.95となり、その上昇幅はわずか0.05にすぎなかった。
【0088】
次に、(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)の項に記した方法で、表面に溝を有する基板上に上記濾液を塗布し、上記の方法で加熱してシリカ質膜を得た。これを同項に記した方法でSEM観察したところ、溝内部に焼成膜が完全に埋封されており、ボイド等は観察されなかった。また、ライナーとの間にもボイドや剥がれは観察されなかった。洗浄用水溶液(1)、(2)によりエッチングされた膜厚{(a−b)及びc}の測定及び算出をしたところ、(1)に対してはいずれの溝幅についてもほぼ0Å、また(2)に対しても0〜20Åと、ほとんどエッチングされていなかった。
【0089】
比較例2:
リン酸トリス(トリメチルシリル)を添加しないことを除き、実施例3と同様の溶液を調製した。その溶液を、実施例3と同様に濾過し、塗布し、加熱処理を施すに際し、塗布後の塗膜に、加湿器による50℃80%RHの加湿雰囲気において1時間吸湿させる工程を追加した。その後、実施例3と同様に焼成工程を施して焼成シリカ質膜を調製した。
【0090】
得られた膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.20、密度は1.0g/cmであった。また、得られた膜を温度23℃、相対湿度50%の大気中に一週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ2.22となり、その上昇幅はわずか0.02にすぎなかった。
【0091】
次に、(各種洗浄用水溶液に対する耐性評価)の項に記した方法で、表面に溝を有する基板上に上記濾液を塗布し、上記の方法で加熱してシリカ質膜を得た。これを同項に記した方法でSEM観察したところ、溝内部に焼成膜が完全に埋封されており、ボイド等は観察されなかった。また、ライナーとの間にもボイドや剥がれは観察されなかった。
【0092】
比較例3:
リン酸トリス(トリメチルシリル)を添加しないことを除き、実施例1と同様の溶液を調製した。その溶液を、実施例1と同様に濾過し、塗布した後、加湿処理を施さずに直ちに大気雰囲気中で150℃、次に250℃のホットプレート上でそれぞれ3分間加熱した。この膜を乾燥窒素雰囲気中500℃で30分間焼成したところ、焼成中に溶液中のコーティング成分が転化や架橋反応をすることなく飛散したことを示唆する膜ムラが生じ、また膜厚が実施例1の焼成膜の1/3程度しかなかった。IRスペクトルは、実施例1のスペクトルに加えて、波数(cm−1)900〜1000のSi−Nに由来するピークが多く残存していること、並びに波数(cm−1)920および3700付近にブロードなSi−OHに基づく吸収が存在することを示した。得られた膜の比誘電率は、焼成直後には3.85であったが、大気雰囲気中(25℃、相対湿度40%)3時間放置後には4.2を超え、膜の吸湿が進んだことが示唆された。
【0093】
上記比較例により、本発明によるリン化合物の添加が、焼成シリカ質膜の誘電率及び埋封性に悪影響を及ぼさないことが確認された。具体的には、比較例1のシリカ質膜の比誘電率が2.90(放置後は2.95)であるのに対し、実施例1のシリカ質膜の比誘電率は3.20(放置後は3.30)となり、リンを含有すると若干高くなるとはいえ、この程度の比誘電率差はリン酸成分自体の寄与分であって、リン酸成分が吸湿を誘発していないことは明らかである。同様のことが、実施例3と比較例2の対比においても当てはまる。
【0094】
比誘電率の絶対値に関しては、最大でも実施例2の3.50(放置後〉であり、従来のCVD法によるPSG系またはBPSG系のPMDの比誘電率が4.2以上であることに照らし、本発明によると比誘電率が有意に低いPMDが得られることが実証された。
【0095】
また比較例3により、本発明によるリン化合物の添加が、ポリアルキルシラザンのシリカ質膜への転化に際し、加湿工程を不要ならしめることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中にポリアルキルシラザン及び少なくとも1種のリン化合物を含むことを特徴とするリン含有シラザン組成物。
【請求項2】
前記リン化合物が、リン酸エステル及びホスファゼン化合物からなる群より選ばれたことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リン化合物がトリス(トリメチルシリル)ホスフェートであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記リン化合物が前記ポリアルキルシラザンに対して5〜100質量%含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリアルキルシラザンが、下記一般式(1)で表わされる繰返し単位および、少なくとも下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される単位の一種を含む数平均分子量100〜50,000のものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
−(SiR(NR)1.5)−(1)
(上式中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。)
【化1】

(上式中、R、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子である場合を除く。)
【化2】

(上式中、RからRは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。ただし、R、R、Rがすべて水素原子である場合を除く。)
【請求項6】
前記一般式(1)において、Rがメチル基であり且つRが水素原子であり、前記一般式(2)において、R及びRが水素原子又はメチル基であり且つRが水素原子であり、さらに前記一般式(3)において、R、R、Rがメチル基であり且つRが水素原子であることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリアルキルシラザンが、前記一般式(1)で表される繰返し単位を、前記一般式(1)及び(2)及び(3)で表される単位の総数の50%以上含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の膜を焼成することにより得られる、リンを0.5〜10原子%含有することを特徴とするリン含有シリカ質膜。
【請求項9】
比誘電率が3.5以下であることを特徴とする、請求項8に記載のリン含有シリカ質膜。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の膜を、最深部の幅が0.2μm以下であってその幅に対する深さの比が2以上である溝を充填し、焼成することにより得られる、リンを0.5〜10原子%含有することを特徴とするリン含有シリカ質充填材。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を基板上に塗布して得られた膜を、温度50〜300℃で予備焼成し、次いで温度300〜700℃の不活性雰囲気中で焼成することを特徴とする、リン含有シリカ質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載のリン含有シリカ質膜を層間絶縁膜として含むことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/007748
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511815(P2005−511815)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009649
【国際出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】