説明

リン含有フェノール化合物およびその製造方法、該化合物を用いた硬化性樹脂組成物および硬化物

【課題】各種の用途に用いられる、外観、収率および経済性を高水準で両立するリン含有エポキシ樹脂およびリン含有エポキシ樹脂組成物、およびその硬化物の提供。
【解決手段】ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、特定の条件で測定されるクロマトグラム上の式(1)で表される成分のピーク面積(A)と式(1)より高分子側のピーク面積(B)およびピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下である式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物とを反応して得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物及び該リン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物及び硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路基板に用いられる銅張積層板、フィルム材、樹脂付き銅箔などを製造するエポキシ樹脂組成物や電子部品に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料などとして有用なリン含有フェノール化合物、およびその製造方法と、該化合物を必須成分として用いエポキシ樹脂を配合してなるリン含有硬化性樹脂組成物および硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は接着性、耐熱性、成形性に優れていることから電子部品、電気機器、自動車部品、FRP、スポーツ用品などに広範囲に使用されている。特に、電子部品、電気機器に使用される銅張積層板や封止材には火災の防止、遅延などといった安全性の観点から難燃性が要求され、従来からこれらの特性を有する臭素化エポキシ樹脂などが使用されている。エポキシ樹脂にハロゲン、特に臭素を導入することにより難燃性が付与されること、エポキシ基は高い反応性を有し、優れた硬化性が得られることから臭素化エポキシ樹脂類は有用な電子、電気材料として位置づけられている。
【0003】
しかし最近の電子機器を見ると、軽量化、小型化、回路の微細化の傾向が強くなってきている。このような要求下において、比重の大きいハロゲン化物は最近の軽量化傾向の観点からは好ましくなく、また、高温で長期にわたって使用した場合、ハロゲン化物の解離が起こり、これによって微細な配線を腐食するおそれがある。さらに使用済みの電子部品、電気機器の燃焼の際にハロゲン化物などの有害化合物を発生し、環境安全性の視点からもハロゲンの利用が問題視されるようになってきた。
【0004】
最近ではその代替材料として、水酸化アルミニウムなどの無機材料、リン化合物、窒素化合物などの検討が数多くなされ、特にそのなかでも近年、リン化合物を用いた難燃化処方が検討されている。エポキシ樹脂を難燃化するリン源としてはリン酸エステルや赤リンなどを添加することが開示されているが、リン酸エステルは加水分解反応が起こるために酸が遊離し、耐マイグレーション性に影響を与えること、赤リンは高い難燃性を有するが、消防法上の危険物に指定されていること、高温・多湿雰囲気において微量のホスフィンガスが発生することから、非特許文献1〜2および特許文献1で開示されている式3のような化合物を用いた難燃化が検討されている。
【0005】
【化1】

【0006】
式3で示される化合物を用いた樹脂の難燃化については、たとえば特許文献2に記載のエポキシ樹脂を反応することで得られるリン含有エポキシ樹脂や、シアネートエステル化合物と反応することで得られる特許文献3に記載のシアネート樹脂などに応用する例があり、それぞれの樹脂をリン変性することにより、難燃性を賦与する方法が開示されている。このように、式3で示される化合物はハロゲンを含まないで難燃化する手法において非常に重要な化合物である。
【0007】
この式3で示される化合物の製造方法は例えば、非特許文献2や、特許文献1に詳しく記載されているが、純度を高めるために再結晶をおこなう必要があり、収率が悪く、従来知られている方法では純度と収率の両立は難しかった。また、再結晶は工程上設備を長時間使用するため生産性も悪い。
【0008】
式3で示される化合物の生産性を改善する目的で、特許文献4が開示されている。これはエポキシ樹脂、式2で示される化合物及び式1で示される化合物を有機溶媒存在下に反応させることを特徴とする難燃性エポキシ樹脂の製造方法であり、式2で示される化合物及び式1で示される化合物を反応して式3で示される化合物を得た上で、更にエポキシ樹脂を反応させてリン含有エポキシ樹脂を得ると記述されている。この方法の場合、系内に仕込んだ式2で示される化合物及び式1で示される化合物をすべてそのまま樹脂中に導入することができ、収率は向上するが、反応で生成する副生成物などの影響により樹脂外観、硬化反応性、耐熱性、耐マイグレーション性などに影響を与えてしまうという問題がある。
【0009】
本発明者は過去にリン含有エポキシ樹脂について鋭意研究し、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂とを所定のモル比で反応して得られるリン含有エポキシ樹脂の物性は、リン含有フェノール化合物の品質に大きく左右されることを見出し、特願2008-023014号、特願2008-023015号を出願している。すなわち、式3で示される化合物に含まれる不純物であるリン含有モノフェノール体等の反応副生成物がごく微量存在するだけで、リン含有エポキシ樹脂の硬化性が著しく遅くなり、接着性も劣ってしまうのである。不純物成分の存在により硬化反応性に変化が生ずることから、硬化不良による接着性・耐熱性の低下、硬化時間の遅延による生産性低下などの問題が生じる恐れがあった。この硬化反応条件によっては電子回路の微細化が進む先端の電子材料分野などでは、接着力の低下、絶縁不良などの問題を引き起こす恐れもある。したがって、リン含有エポキシ樹脂の原料である式3で示される化合物の純度は非常に重要であることがわかる。
【0010】
以上のような観点からエポキシ樹脂に難燃性を賦与する場合、高純度の式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を使用する必要がある。しかしながら、従来技術ではリン含有フェノール化合物を高純度且つ高収率で得る方法は知られていなかった。
【0011】
式3で示される化合物を用いて難燃性を賦与する方法については、エポキシ樹脂をリン変性する以外にも、単純に硬化性エポキシ樹脂組成物に添加する方法も開示されている。これについては特許文献5〜8に記載されているが、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤に対して式3で示される化合物を所定量添加して得られる硬化性樹脂組成物およびその硬化物は難燃性を有すると記載されている。特許文献8には、エポキシ樹脂に配合することにより難燃性、耐熱性が向上することが記載されている。ただし、式3で示される化合物は溶剤溶解性が悪く、結晶を析出しやすいという特徴を持つため、電子材料分野などの微細化が要求され、均一に硬化させることを前提とする分野においては、結晶が析出しない範囲での配合しか出来ず、難燃性を賦与するための主たる成分としては不足し、難燃性を補助する程度にしか使用できないという問題があった。
【0012】
【非特許文献1】I.G.M. Campbell and I.D.R. Stevens, Chemical Communications, 第505-506頁(1966年)
【非特許文献2】(Zh. Obshch. Khim.), 42(11), 第2415-2418頁(1972)
【0013】
【特許文献1】特開昭60-126293号公報
【特許文献2】特許3092009号公報
【特許文献3】特開2003-128753号公報
【特許文献4】特許3642403号公報
【特許文献5】特開2000-212391号公報
【特許文献6】特許3108412号公報
【特許文献7】特開2001-040181号公報
【特許文献8】特開2002-249540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を、高純度かつ収率よく得る製造方法により提供することにある。また、本発明で得られたリン含有フェノール化合物を必須成分とする硬化性樹脂組成物及び硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物を反応する際の式(1)で示される化合物の純度によって、得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の純度や収率などに著しく影響することを見いだした。この原因は、式(1)で示される化合物が安定な化合物ではなく、工業的に生産されたものや試薬として一般に販売されているものでも不純物を多く含有していることによる。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明者は、式(1)で示される化合物は、経時変化を起こしやすく室温などの通常の状態で保管しても、一部の化合物が分子量の大きな化合物に転化することを見出し、これらの高分子成分が式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を製造する工程で副反応などを引き起こし、純度低下を起こすことを見出したのである。したがって本発明者らは式(1)で示される化合物に含まれる高分子化合物の含有量を特定量以下にした化合物を反応に用いることにより、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を高純度で且つ高収率で得られることを見いだした。得られたリン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物は硬化不良や硬化時間の遅延など生産性に影響を及ぼさないことを見出し本発明を完成したものである。
【0018】
また、本発明の製造方法により得られるリン含有フェノール化合物は熱硬化の際に溶解性が優れており、従来の製造方法では得られない均一な硬化物を得ることが出来るものである。これは、本発明の製造方法は再結晶を必要としない為、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の結晶化度に差があるためと思われる。
【0019】
すなわち本発明は、
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、下記条件で測定されるクロマトグラム上のピーク面積(A)と、(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)および、ピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下である式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物とを反応して得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物:
【0020】
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件)
分析カラムとして、排除限界分子量400,000、理論段数16,000、長さ30 cmと排除限界分子量60,000、理論段数16,000、長さ30 cm及び排除限界分子量10,000、理論段数16,000、長さ30 cmとを直列に用い、カラム室の温度を40℃とする。また、検出器として紫外可視検出器を使用し、測定波長は400 nmとし、さらに溶離液としてテトラヒドロフランを1ml/minの流速とし、サンプルは、式(1)で示される化合物のテトラヒドロフランの1%溶液を調製して測定する。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
(2)式(1)で示される化合物を溶液濾過することにより、クロマトグラム上のピーク(A)と(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下とし、そして溶液濾過された式(1)で示される化合物を、式(2)で示される化合物と反応せしめる、工程を含んで成る、前記(1)に記載のリン含有フェノール化合物の製造方法。
【0025】
(3)前記(1)に記載のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物。
(4)前記(2)記載のリン含有フェノール化合物の製造方法によって得られたリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物。
(5)前記(3)又は(4)に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【0026】
式(1)で示される化合物に含まれる、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて特定の条件下で測定されるピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下である式(1)で示される化合物を用いることにより、再結晶などの煩雑な工程を取ることなく、高純度・高収率で色相の良好な式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を得ることができる。また、得られたリン含有フェノール化合物を必須成分とする硬化性樹脂組成物や、それを硬化してなる硬化物は色相や外観に優れたものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のリン含有フェノール化合物は、式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物を反応して得られるが、式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて特定の条件下で測定される高分子成分の含有量が全ピーク面積に対して8面積%以下である。
【0028】
本発明者らは式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分を除去したものを使用して、式(2)で示される化合物を反応することによって式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を、高純度かつ高収率で得ることができ本発明に至ったものである。さらにこのリン含有フェノール化合物を必須成分としてエポキシ樹脂に配合してなる硬化性樹脂組成物は色相および外観、硬化性等は従来の製造方法のものと同等もしくは改善されており、加えてエポキシ樹脂組成物において熱硬化の際に溶解性が優れており、従来の製像方法では得られない均一な硬化物を得ることが出来ることを見出し、本発明に至ったものである。本発明のリン含有フェノール化合物は電子回路基板、封止材、注型材などに好適である。
【0029】
式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分を除去したものを使用して、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を得る場合、式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分の含有量が8面積%以下、より好ましくは、6面積%以下であり、さらに好ましくは、4面積%以下である。この化合物の含有量が8面積%を越える式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物とを反応して得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物は色相が悪化し、またそのリン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物とその硬化物は色相が悪化し、さらには濁りが生じてしまう。また、硬化性が極端に遅くなり、硬化不良や生産性に悪影響を与えるなどの問題がある。
【0030】
本発明で用いられる式(1)で示される化合物は、製造後の抽出、洗浄、再結晶、蒸留、昇華などの精製操作により前記高分子成分の含有量を低減することができる。経時変化などにより含有量が8面積%を越えた場合でも、抽出、洗浄、再結晶、蒸留、昇華などの精製操作によりこの含有量を8面積%以下とすることができる。特に、容易な精製方法として、式(1)に示される化合物と前記高分子成分との溶剤に対する溶解性の差を利用して、前記高分子成分を濾過などにより、濾別する方法が容易な方法である。
【0031】
式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の製造方法を具体的に例示する。式(1)で示される化合物および式(2)で示される化合物を溶媒に別々の容器で溶解し、式(1)で示される化合物の溶液をフィルターにより高分子成分を濾過により除去しながら直接式(2)で示される化合物の溶液に10分から10時間、好ましくは10分から5時間、さらに好ましくは10分から3時間かけて滴下し、逐次反応することで、前記高分子成分を新たに発生することなく式(1)で示される化合物を反応系に供給することができる。
【0032】
式(1)で示される化合物に含有する高分子成分が溶解し、濾別されずに通過する事を抑えるため、溶解温度および濾過温度は60℃以下、好ましくは、40℃以下とすることが望ましい。式(2)で示される化合物の溶液を60℃から150℃で保持した状態で式(1)で示される化合物の濾過された溶液を滴下することでこの反応は逐次進行し、60℃以上好ましくは80℃以上、さらに好ましくは、100℃以上で保持することにより反応し、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を得ることができる。
【0033】
式(1)、式(2)の化合物を溶解する際に用いる溶媒は各化合物に対して不活性なもので、沸点35℃〜150℃、誘電率10以下、より好ましくは5以下のものが好ましい。具体的にはトルエン、キシレン、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。これらの溶媒はここに挙げたものに限定されるものではなく、2種類以上使用してもよい。ケトン類などのカルボニル基を有するものは式(2)で示される化合物と反応するため好ましくない。
【0034】
また、式(1)の化合物を溶解する溶媒と式(2)の化合物を溶解する溶媒がそれぞれ異なっていてもよい。ただし、いずれにしても式(1)で示される化合物と高分子成分との溶解性の差が重要であり、それをコントロールするのに特に重要な要素は式(1)で示される化合物を溶解する溶媒種の選択と溶解温度である。さらに、高分子成分の含有量を特定量以下にする手段は濾過に限られるものではなく、再結晶、昇華などの精製法を利用してもよい。
【0035】
反応終了後は式(3)で示される化合物が析出しているため、固液分離装置により式(3)で示される化合物を分離する。この際溶媒中に式(1)又は式(2)で示される化合物が微量溶解しているため、分離した式(3)で示される化合物を溶媒で洗浄することによって純度を更に向上することが出来る。また、イオン性不純物に対しては水洗することでイオン性不純物を低減することが出来る。
【0036】
高純度、高収率で得られたリン含有フェノール化合物を必須成分とし、硬化性樹脂組成物を得る際に配合するエポキシ樹脂類は、少なくとも1分子中に2個のグリシジル基を持ったものが望ましい。具体的にはエポトート YDC-1312、エポトート ZX-1027(東都化成株式会社製 ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、エポトート ZX-1251(東都化成株式会社製 ビフェノール型エポキシ樹脂)、エポトート YD-127、エポトート YD-128、エポトート YD-8125、エポトート YD-825GS、エポトート YD-011、エポトート YD-900、エポトート YD-901(東都化成株式会社製 BPA型エポキシ樹脂)、エポトート YDF-170、エポトート YDF-8170、エポトート YDF-870GS、エポトート YDF-2001(東都化成株式会社製 BPF型エポキシ樹脂)、エポトート YDPN-638(東都化成株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート YDCN-701(東都化成株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート ZX-1201(東都化成株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、NC-3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、EPPN-501H、EPPN-502H(日本化薬株式会社製 多官能エポキシ樹脂)エポトート ZX-1355(東都化成株式会社製 ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、エポトート ESN-155、エポトート ESN-185V、エポトート ESN-175(東都化成株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN-355、エポトート ESN-375(東都化成株式会社製 ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトート ESN-475V、エポトート ESN-485(東都化成株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂等のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート YH-434、エポトート YH-434GS(東都化成株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート YD-171(東都化成株式会社製 ダイマー酸型エポキシ樹脂)等のカルボン酸類とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート FX-289B、エポトート FX-305(東都化成株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)、フェノトート ERF-001(東都化成株式会社製 リン含有フェノキシ樹脂)等のリン含有エポキシ樹脂類などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく2種類以上併用しても良い。
【0037】
本発明のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物は必要に応じてエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物に対して過剰に配合し、過剰となったエポキシ基と反応せしめるための硬化剤を使用してもよい。硬化剤としては、各種フェノール樹脂類や酸無水物類、アミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類、アミノトリアジンフェノール類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良い。
【0038】
本発明のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物には必要に応じて第3級アミン、第4級アンモニウム塩、ホスフィン類、イミダゾール類等の硬化促進剤を配合することができる。
【0039】
本発明のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物には、粘度調整用として有機溶剤も用いることができる。用いることが出来る有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらの溶剤のうち1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良く、エポキシ樹脂濃度として30〜80重量%の範囲で配合することができる。
【0040】
本発明のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物には必要に応じてフィラーを配合することも出来る。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、ガラス粉末、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、シリカバルーン等の無機フィラーが挙げられるが、顔料等を配合しても良い。一般的無機充填材を用いる理由として、耐衝撃性の向上が挙げられる。
【0041】
また、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いた場合、難燃助剤として作用し、リン含有量が少なくても難燃性を確保することが出来る。特に配合量が10%以上の場合、耐衝撃性の効果が高い。しかしながら、配合量が150%を越えると積層板用途として必要な項目である接着性が低下する。また、シリカ、ガラス繊維、パルプ繊維、合成繊維、セラミック繊維等の繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマーなどの有機充填材を上記樹脂組成物に含有することもできる。
【0042】
上記のような硬化性樹脂組成物にて得られる電子回路基板用材料としては、樹脂シート、樹脂付き金属箔、プリプレグ、積層板が挙げられる。樹脂シートを製造する方法としては、特に限定するものではないが、例えばポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムなどの硬化性樹脂組成物に溶解しないキャリアフィルムに、上記のようなリン含有エポキシ樹脂組成物を好ましくは5〜100 μmの厚みに塗布した後、100〜200℃で1〜40分加熱乾燥してシート状に成型する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で樹脂シートが形成されるものである。このときリン含有エポキシ樹脂組成物を塗布するシートにはあらかじめ離型剤にて表面処理を施しておくと、成型された樹脂シートを容易に剥離することが出来る。ここで樹脂シートの厚みは5〜80 μmに形成することが好ましい。
【0043】
次に、上記のような硬化性樹脂組成物にて得られる樹脂付き金属箔について説明する。金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。厚みとして9〜70 μmの金属箔を用いることが好ましい。リン含有フェノール化合物を含んでなる難燃性樹脂組成物及び金属箔から樹脂付き金属箔を製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記金属箔の一面に、上記硬化性樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスをロールコーター等を用いて塗布した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して樹脂層を形成することにより得られるものである。樹脂成分を半硬化するにあたっては、例えば100〜200℃で1〜40分間加熱乾燥することができる。ここで、樹脂付き金属箔の樹脂部分の厚みは5〜110 μmに形成することが望ましい。
【0044】
次に、上記のような硬化性樹脂組成物を用いて得られるプリプレグについて説明する。シート状基材としては、ガラス等の無機繊維や、ポリエステル等、ポリアミン、ポリアクリル、ポリイミド、ケブラー等の有機質繊維の織布又は不織布を用いることができるがこれに限定されるものではない。硬化性樹脂組成物及び基材からプリプレグを製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記基材を、上記エポキシ樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスに浸漬して含浸した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して得られるものであり、例えば100〜200℃で1〜40分間加熱乾燥することができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、全体に対して30〜80重量%とすることが好ましい。
【0045】
次に、上記のような樹脂シート、樹脂付き金属箔、プリプレグ等を用いて積層板を製造する方法を説明する。プリプレグを用いて積層板を形成する場合は、プリプレグを一又は複数枚積層し、片側又は両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。積層物を加熱加圧する条件としては、硬化性樹脂組成物が硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧時の圧力があまり低いと、得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成形性を満足する条件で加圧することが好ましい。
【0046】
例えば温度を160〜220℃、圧力を49.0〜490.3 N/cm2(5〜50 kgf/cm2)、加熱加圧時間を40〜240分間にそれぞれ設定することができる。更にこのようにして得られた単層の積層板を内層材として、多層板を作製することができる。この場合、まず積層板にアディティブ法やサブトラクティブ法等にて回路形成を施し、形成された回路表面を酸溶液で処理して黒化処理を施して、内層材を得る。この内層材の、片側又は両側の回路形成面に、樹脂シート、樹脂付き金属箔、又はプリプレグにて絶縁層を形成すると共に、絶縁層の表面に導体層を形成して、多層板を形成するものである。
【0047】
樹脂シートにて絶縁層を形成する場合は、複数枚の内層材の回路形成面に樹脂着シートを配置して積層物を形成する。あるいは内層材の回路形成面と金属箔の間に樹脂シートを配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、樹脂シートの硬化物を絶縁層として形成すると共に、内層材の多層化を形成する。あるいは内層材と導体層である金属箔を樹脂シートの硬化物を絶縁層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを用いることもできる。
【0048】
また加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。積層板に樹脂を塗布して絶縁層を形成する場合は、内層材の最外層の回路形成面樹脂をリン含有エポキシ樹脂組成物またはリン含有エポキシ樹脂を含んでなる難燃性エポキシ樹脂組成物を好ましくは5〜100 μmの厚みに塗布した後、100〜200℃で1〜90分加熱乾燥してシート状に成形する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で形成されるものである。乾燥後の厚みは5〜80 μmに形成することが望ましい。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成をほどこして、プリント配線板を形成することができる。
【0049】
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができるものである。また樹脂付き金属箔にて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、樹脂付き金属箔を、樹脂付き金属箔の樹脂層が内層材の回路形成面と対向するように重ねて配置して、積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、樹脂付き金属箔の樹脂層の硬化物を絶縁層として形成すると共に、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。ここで加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。
【0050】
またプリプレグにて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、プリプレグを一枚又は複数枚を積層したものを配置し、更にその外側に金属箔を配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、プリプレグの硬化物を絶縁層として形成すると共に、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層板として用いられる積層板に用いたものと同様のものを用いることもできる。また加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成をほどこして、プリント配線板を形成することができる。また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができる。
【実施例】
【0051】
実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。式(1)に含有する高分子成分の含有量は東ソー株式会社製GPC-8220ゲルパーミエーションクロマトグラフに分析カラムとして東ソー株式会社製TSK-GEL SuperH4000、SuperH3000、SuperH2000の順に連結し使用した。カラム室の温度は40℃で、検出器として紫外可視検出器を使用し、波長は400 nmにて測定した。また、溶離液はテトラヒドロフランを1ml/minの流速にて用い、サンプルは、式(1)で示される物質のテトラヒドロフラン1%溶液を調製して測定した。
【0052】
なお、濾液などの溶液を測定する場合、溶液を任意の量はかりとり、p−ベンゾキノンの成分がおおよそ1重量%程度となるようにテトラヒドロフランを加えて試料とした。また、調製した試料は調製後速やかに分析をおこなった。
インジェクションボリュームは、検出器が飽和せず、かつ、ブロードなピークであっても定量性を損なわない量に調整して測定した。この装置におけるインジェクションボリュームは200 μlとした。
【0053】
また、反応により得られた式(3)で示されるリン含有フェノール化合物中の、式(3)で示される化合物の純度についてはHPLCを用いて測定した。Hewlett Packerd社製Agilent1100seriesの装置を使用し、Imtakt社製Cadenza CD-C18のCD005カラムを使用した。溶離液として水/酢酸/酢酸アンモニウム=790/10/2(重量部)の緩衝溶液とテトラヒドロフラン/アセトニトリル=1/1(体積比)の混合溶液を用い、混合溶液30%でサンプル測定を開始し、8分に混合溶液が80%となるようにグラジエントをおこなった。以後は混合溶液を100%として、開始より24分が経過した時点で測定を終了した。流速は1ml/minとし、紫外可視検出器により波長266 nmで測定をおこなった。インジェクションボリュームは、検出器が飽和せず、かつ、微小なピークであっても定量性を損なわない量に調整して測定し、この装置におけるインジェクションボリュームは5μlとした。
【0054】
式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の外観は、エチレングリコールに溶解し、6重量%の溶液としたものをAPHA比色法(JIS K6901)によって判断した。式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の収率は配合した式(2)で示される化合物を基に理論量を100%として収量から計算した。
【0055】
式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物の評価は以下の手順に従っておこなった。まず、式(3)で示される化合物とエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤とを配合し、JKホモディスパーを用いて充分に混合した。得られた硬化性樹脂組成物は式(3)で示される化合物と硬化剤の微細な粉末があるため不透明な組成物である。これを0.1 g、160℃のホットプレート上にとり、テフロン(登録商標)棒で撹拌して、式(3)で示される化合物と硬化物の微細な粉末が溶解して透明になるまでの溶解時間と、硬化反応が完結してゲル化するまでのゲル化時間を測定した。
【0056】
式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物を型に入れ、170℃で90分硬化をおこなった。得られた硬化物のガラス転移温度、難燃性、外観について評価した。ガラス転移温度の測定にはセイコーインスツルメント社製TMA/SS120Uを使用した。難燃性試験はUL−94規格に従って評価をおこなった。硬化物外観については目視にて判断した。
【0057】
積層板評価として式(3)で示されるリン含有フェノール化合物、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド(DICY)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)を2−メトキシエタノール、メチルエチルケトンの溶剤で溶解し均一として硬化性樹脂組成物を得た。ワニスは60℃の温度で24時間保存したのち、式3で示される化合物の析出の有無を目視にて確認した。この硬化性樹脂組成物を160℃のホットプレートに0.2 mlとり、テフロン(登録商標)棒で撹拌し、硬化反応が完結してゲル化するまでのワニスゲルタイムを測定した。また、この硬化性樹脂組成物をガラスクロス(日東紡績株式会社製WEA 7628 107 XS13)に含浸し、150℃の熱風循環式オーブンを用いて7分間乾燥をおこない、半硬化状態のプリプレグを得た。これを4枚積層し、銅箔(三井金属鉱山株式会社製3EC−III )ではさみ、真空ホットプレス機を用いて減圧下170℃×70分、20 kgf/cm2の圧力をかけて硬化をおこなった。難燃性試験はUL-94規格にしたがいおこなった。
【0058】
実施例1.
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素導入口、原料仕込み口を備えた5つ口のガラス製セパラブルフラスコに、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物としてHCA(三光株式会社製 3,4,5,6,−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシド)を60.00重量部とトルエンを140重量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、80℃で加熱溶解した。また、別のフラスコに(1)で示される化合物としてPBQ(Yancheng Fengyang Chemical Industry Co.,Ltd.社製 p−ベンゾキノン)を30.30重量部とトルエンを270重量部配合し、20℃で溶解した。溶解前のPBQ粉末を用いて1%溶液を調製し、ピーク面積(B)を定量した結果、13.2面積%であった。このベンゾキノンのトルエン溶液は1μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過したうえでHCAトルエン溶液に2時間かけて仕込み、その後30分間80℃で反応をおこなった。30分が経過した後、トルエンの還流温度まで昇温し、そのまま90分間反応をおこなった。
【0059】
反応終了後徐冷し、70℃で濾過をおこなった。これをトルエンで洗浄、乾燥してリン含有フェノール化合物の白色粉末を得た。色相はAPHA50だった。PBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製し、ピーク面積(B)を定量した結果3.9面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.5%、収率は93.5%であった。図1にPBQ粉末のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラフを示す。図2にPBQを溶液濾過した溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラフを示す。
【0060】
実施例2.
PBQを10 μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過した以外は合成例1と同様の操作をおこない、リン含有フェノール化合物の白色粉末を得た。色相はAPHA120だった。PBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製しピーク面積(B)を定量した結果、4.4面積%であった。なお、PBQ粉末を用いて1%溶液を調製し、ピーク面積(B)を定量した結果、13.3面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.6%、収率は93.0%であった。
【0061】
実施例3.
PBQを20 μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過した以外は合成例1と同様の操作をおこない、リン含有フェノール化合物の淡褐色粉末を得た。色相はAPHA200だった。PBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製しピーク面積(B)を定量した結果、6.9面積%であった。なお、PBQ粉末を用いて1%溶液を調製し、ピーク面積(B)を定量した結果、13.3面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.4%、収率は93.4%であった。
【0062】
比較例1.
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素導入口、原料仕込み口を備えた5つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCAを60.00重量部とトルエンを410重量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、80℃で溶解した。PBQ 30.30重量部を精製することなく仕込み、30分が経過した後、トルエンの還流温度まで昇温し、そのまま90分間反応をおこない、以後は合成例1と同様の操作をおこなってリン含有フェノール化合物の褐色粉末を得た。色相はAPHA450だった。PBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製しピーク面積(B)を定量した結果、13.3面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は92.4%、収率は93.8%であった。外観は褐色粉末であり黒色の塊状粒子が含まれていた。
【0063】
比較例2.
合成例1と同様の装置にHCA 54.00重量部とトルエンを120重量部仕込み、窒素雰囲気下80℃で加熱溶解した。HCAが完全に溶解してからPBQ 24.30重量部を少量ずつ粉末のまま2時間かけて仕込み、その後120分間130℃で反応をおこなった。120分が経過した後これを20℃に冷却し、濾過をおこなった。これを180重量部のエチルセルソルブ、続いて180重量部のメタノールで洗浄、乾燥してリン含有フェノール化合物の褐色粉末を得た。これをメチルセルソルブ700重量部を加え、110℃に加熱して溶解した後−18℃まで冷却して再結晶、洗浄をおこない、リン含有フェノール化合物の白色粉末を得た。得られたリン含有フェノール化合物の色相はAPHA50、純度は99.8重量%、収率は52.2%であった。
【0064】
実施例4、比較例3〜5については、表2に示した配合で樹脂組成物を調製したのちロール分散し、硬化性樹脂組成物を得た。この硬化性樹脂組成物を型に流し込み、130℃で1時間、180℃で3時間の2段階で加熱処理を行い硬化物を得た。
【0065】
実施例5、比較例6〜8については表3に示した配合条件に従い、エポキシ樹脂、溶剤、式3で示される化合物を加熱溶解した。ついで60℃まで冷却した後ジシアンジアミド(DICY)粉末を仕込んで溶解し、完全に溶解してから2E4MZを加えて均一にし、硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
【0066】
表1に実施例1〜3および比較例1〜2により得られたリン含有フェノール化合物の外観、純度、収率を示す。また、表2には実施例4および比較例3〜5で得られた硬化性樹脂組成物における式(3)で示されるリン含有フェノール化合物及び又はDICY粉末の溶解性と、硬化反応性、硬化物物性、硬化物の外観を示す。さらに表3には実施例5および比較例6〜8で得られた硬化性樹脂組成物のワニスにおける式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の結晶性の確認と、硬化反応性、積層板を作製したときの耐熱性、難燃性について示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
発明の効果
式3で示される化合物の合成結果を表1に示す。実施例1〜3で行った、ピーク面積(B)の値が8面積%以下である式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物とを反応することによって、高純度・高収率でリン含有フェノール化合物を得ることができた。このリン含有フェノール化合物は、式(1)で示される化合物を精製せずに用いた比較例1と比較して明らかに純度が高く、外観に優れるものであった。
【0071】
また、再結晶処理をした比較例2については色相が良好でかつ極めて高い純度のものを得ることができたものの、収率は52%程度であった。本発明の製造方法の収率は93%以上であることから、本発明は高純度、高収率で式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を得ることが出来る製造方法であることがわかる。また、本発明の製造方法により得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を必須成分とするエポキシ樹脂組成物について表2,3に示す。実施例4と比較例3の比較、実施例5と比較例6の比較から、純度が悪い式(3)で示されるリン含有フェノール化合物(D)を使用した場合、不純物成分の影響により反応性が悪くなりゲルタイムが長くなったと考えられる。
【0072】
また、硬化物の耐熱性も低くなり、外観も悪くなることがわかる。実施例4と比較例4の比較では溶解時間に差が生じること、実施例5と比較例7の比較では式(3)で示されるリン含有フェノール化合物がワニス中で結晶として析出し沈降することが示されている。これにより、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物(E)を使用した場合、均一な硬化物が得られない可能性がある。これは式(3)で示されるリン含有フェノール化合物(E)は再結晶をして製造されたために結晶性が強く、溶解性に劣る化合物となり、硬化反応に長い時間を要するようになった為と考えられる。
【0073】
また、比較例5のように式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を使用しない場合は、難燃性が得られず、比較例8のように式(3)で示されるリン含有フェノール化合物がワニス中で結晶として析出しない量使用した場合は、難燃性が不十分である。この様に、本発明の式(3)で示されるリン含有フェノール化合物は高純度、高収率であるばかりではなく、エポキシ樹脂組成物への溶解性が良いという効果もあったことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、PBQ粉末のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラフを示す。
【図2】図2は、PBQを溶液濾過した溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、下記条件で測定されるクロマトグラム上のピーク面積(A)と、(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)および、ピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下である式(1)で示される化合物と、式(2)で示される化合物とを反応して得られる式(3)で示されるリン含有フェノール化合物。
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件)
分析カラムとして、排除限界分子量400,000、理論段数16,000、長さ30 cmと排除限界分子量60,000、理論段数16,000、長さ30 cm及び排除限界分子量10,000、理論段数16,000、長さ30 cmとを直列に用い、カラム室の温度を40℃とし、検出器として紫外可視検出器を使用し、測定波長は400 nmとし、溶離液としてテトラヒドロフランを1ml/minの流速とし、サンプルは、式(1)で示される化合物のテトラヒドロフランの1%溶液を調製して測定する。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
式(1)で示される化合物を溶液濾過することにより、クロマトグラム上のピーク面積(A)と、(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)および、ピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下とし、そして溶液濾過された式(1)で示される化合物を、式(2)で示される化合物と反応せしめる、工程を含んで成る、請求項1記載のリン含有フェノール化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2記載のリン含有フェノール化合物の製造方法によって得られるリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70470(P2010−70470A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237165(P2008−237165)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】