説明

リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物、その製造方法、難燃性熱硬化性樹脂組成物、硬化物および積層板

【課題】環境負荷が小さく、難燃剤のブリードアウトが無く、従来よりも少ない添加量でエポキシ樹脂組成物に優れた難燃性、耐熱性および耐水性を付与し、且つ耐熱性および耐水性に優れた硬化物の提供。
【解決手段】式1で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物。


(式中、R1はジフェニルフォスフィンオキサイド誘導体基であり、Wは芳香族炭化水素基である。R2はアルキル基またはアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および耐水性に優れ、且つ難燃性を有する硬化物を与える化合物とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、フェノール性水酸基を2つ有するリン含有化合物とキシリレンジハライド化合物とを反応させて得られるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物およびその製造方法、並びに該リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を用いた難燃性熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物、さらには積層板に関するものである。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、半導体封止剤、積層板、コーティング材料および複合材料等として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
電気・電子材料分野では、多くのエポキシ樹脂およびフェノール樹脂が用いられている。これらの分野では部品に対して高い難燃性が求められており、ハロゲン化合物を用いることにより難燃性を付与していた。しかしながら、近年では環境への負荷を低減させるという観点からハロゲン化合物の使用が問題となっている。
そこで、このようなハロゲン化合物による難燃処方に代わる技術として、トリフェニルフォスフェート等のリン酸エステル類や1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル類のようなリン系化合物が使用されていた。しかしながら、これらのリン系化合物を添加型難燃剤として使用した場合、硬化物の耐熱性、特にガラス転移温度(Tg)の低下が著しい。
そのため、ノボラック型エポキシ樹脂を20質量%以上含有するエポキシ樹脂類と、キノン化合物および9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドやジフェニルホスフィンオキシドのようなリン系化合物を反応させて得られた反応型のリン系化合物を使用することにより、エポキシ樹脂組成物の難燃性、耐水性等を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−11662号公報
【特許文献2】特開平11−279258号公報
【特許文献3】特開2000−309623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載のリン化合物で変性したエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂のリン原子含有率が2〜4質量%と低い。そのため、難燃性付与のために該エポキシ樹脂を樹脂組成物に含有させる場合、該エポキシ樹脂を多量に配合する必要がある。エポキシ樹脂を多量に配合した場合、得られる樹脂硬化物の物性は該エポキシ樹脂の特性に支配され、Tgや耐水性等が低くなるという問題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、難燃性を付与し得るリン原子を含有し、且つ硬化剤として機能し得る、フェノール性水酸基を2個有するリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を用いることにより、従来よりも少ない添加量でエポキシ樹脂組成物に優れた難燃性、耐熱性および耐水性を付与し、且つ耐熱性および耐水性に優れた硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1]下記一般式(1)で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は下記一般式(2)で表される基であり、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。pおよびqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。)
[2]下記一般式(5)または(6)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R3〜R6、p、q、rおよびsは前記定義の通りである。)
で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、R2は前記定義の通りである。Xは塩素原子または臭素原子を表す。tは0〜4の整数を表す。)
で表されるキシリレンジハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリおよび相間移動触媒の存在下に有機溶剤および水の混合液中で反応させる工程を有する、前記リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物の製造方法。
[3](a)上記[1]に記載のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物および(b)エポキシ樹脂を含有する、難燃性熱硬化性樹脂組成物。
[4]さらに(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有する、上記[3]に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物。
[5]上記[3]または[4]に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる硬化物。
[6]上記[3]または[4]に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる積層板。
[7]片面または両面に金属箔を有する上記[6]に記載の積層板。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、ハロゲン原子を含有しないため環境負荷が小さく、また別途に難燃剤の添加を必須としないため添加された難燃剤がブリードアウトするという問題が無い。また、該リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物をエポキシ樹脂組成物に少量(例えば全樹脂成分に対して50質量%以下)含有させるだけでも高い難燃性を付与することが可能であり、同時に耐熱性および耐水性に優れる。
これより、本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物およびそれを含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子基板用積層板(プリント配線板)、半導体の封止材等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物]
まず、本発明の下記一般式(1)で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物について説明する。
【0019】
【化6】

【0020】
上記一般式(1)中、R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。
2が表す炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。R2が表す置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
oは0または1が好ましく、0がより好ましい。nは1〜50が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5がさらに好ましい。
また、R1は下記一般式(2)で表される基である。
【0021】
【化7】

【0022】
上記一般式(2)中、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。pおよびqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。
3およびR4がそれぞれ独立して表す炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、いずれもR2における例示と同じものが挙げられる。
p、qは、それぞれ0または1が好ましく、0がより好ましい。
また、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。
【0023】
【化8】

【0024】
上記一般式(3)または(4)中、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。
5およびR6がそれぞれ独立して表す炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基としては、いずれもR2における例示と同じものが挙げられる。
rは0または1が好ましく、0がより好ましい。sは0または1が好ましく、0がより好ましい。
上記一般式(3)および(4)のいずれにおいても、パラ位で酸素原子2つと結合していることが好ましい。
【0025】
[リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物の製造方法]
前記リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物は、下記一般式(5)または(6)で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物を反応させることにより得られる。
【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
上記一般式(5)および(6)中、R3〜R6、p、q、rおよびsは、一般式(2)〜(4)における前記定義の通りであり、同じものを例示でき、好ましいものも同じである。
また、上記一般式(7)中、R2は前記定義の通りであり、同じものを例示できる。Xは塩素原子または臭素原子を表し、塩素原子が好ましい。
tは0〜4の整数を表す。
【0029】
上記一般式(5)で表されるリン含有化合物の具体例としては、例えば2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。また、一般式(6)で表されるリン含有化合物の具体例としては、例えば2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ナフトキノン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
また、上記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物の具体例としては、例えばα,α'−ジクロロ−p−キシレン等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0030】
本製造方法は、特開平9−31006号公報に記載されているような公知慣用のエーテル化反応を利用することができる。
具体的には、例えば上記一般式(5)または(6)で表されるリン含有化合物と上記一般式(7)で表されるキシリレンジハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリおよび相間移動触媒の存在下に有機溶剤および水の混合液中で反応させる方法により実施することができる。
【0031】
アルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド、水素化物若しくは水酸化物が挙げられる。
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシドとしては、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物としては、例えば水素化ナトリウム、水素化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ種は、反応系を非水系とするか、含水系とするかで適宜選択すればよい。
アルカリの使用割合は、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物のハロメチル基1当量に対して1.1〜3当量が好ましい。この範囲であれば、反応速度が著しく遅くなったりせず、反応が十分に進行して原料が残らず、後述する硬化物の物性に悪影響を与えるのを防ぐことができる。また、残存アルカリの除去に使用する洗浄水等の量が少なくて済む。
【0032】
相関移動触媒としては、各種オニウム塩を使用でき、例えば、テトラ−N−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−N−ブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリカプリルメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム化合物;テトラ−N−ブチルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第四級ホスホニウム化合物;ベンジルテトラメチレンスルホニウムブロマイド等の第三級スルホニウム化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
相間移動触媒の使用量は、その種類や反応温度によって適宜選択すればよいが、通常、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物のハロメチル基1当量に対して0.01〜0.5当量使用すれば十分である。
【0033】
有機溶剤としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、2−プロパノール、1,3−ジメトキシプロパン、1,2−ジメトキシプロパン、テトラメチレンスルホン、ヘキサメチルホスホアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトンなどの極性溶剤の他、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
反応温度および反応時間は、使用する原料の種類および反応条件によって適宜選択すればよいが、通常、30〜100℃で0.5〜20時間の範囲であればよい。反応温度および反応時間がこの範囲であれば、副反応等の好ましくない反応を併発することがなく、また反応時間をいたずらに長くすることもない。
また、一般式(7)で示されるキシリレンジハライド化合物の使用割合は、一般式(5)または(6)で示されるリン含有化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜1モル、より好ましくは0.6〜0.8モルである。この範囲であれば、未反応原料の残存量が少なくなる。
【0035】
このようにして得られる本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物は、エポキシ樹脂等と混合して樹脂組成物とすることにより、該樹脂組成物に対して難燃剤および硬化剤として作用する。
すなわち、樹脂組成物を加熱することにより、リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物のフェノール性水酸基とエポキシ基との付加反応が起こるため、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を硬化させることが可能である。
このように、本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を加熱した場合、エポキシ樹脂骨格中にリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物が化学的に結合して組み込まれるため、添加型の難燃剤のような耐熱性の低下、ガラス転移温度の低下や別途に添加した難燃剤がブリードアウトするというような問題が抑制される。
【0036】
[難燃性熱硬化性樹脂組成物]
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、(a)上記リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物および(b)エポキシ樹脂、並びに必要に応じて(c)フェノール性水酸基を有する化合物、(d)硬化促進剤、(e)添加剤、(f)有機溶剤を含有するものである。
【0037】
((a)成分)
(a)成分としては、上記した一般式(1)で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を使用する。
((b)成分)
(b)成分としては、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する。該エポキシ樹脂としては特に限定されるものではなく、公知のエポキシ樹脂を使用できる。それらの中でも、グリシジルエーテル類が好ましい。該グリシジルエーテル類としては、例えば、ビスフェノールグリシジルエーテル、ジヒドロキシビフェニルグリシジルエーテル、ジヒドロキシベンゼングリシジルエーテル、含窒素環状グリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテル、フェノール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシフェノールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0038】
ビスフェノールグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、ビスフェノールFグリシジルエーテル、ビスフェノールADグリシジルエーテル、ビスフェノールSグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAグリシジルエーテル等が挙げられる。
ジヒドロキシビフェニルグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0039】
ジヒドロキシベンゼングリシジルエーテルの具体例としては、例えば、レゾルシングリシジルエーテル、ヒドロキノングリシジルエーテル、イソブチルヒドロキノングリシジルエーテル等が挙げられる。
含窒素環状グリシジルエーテルの具体例としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。
【0040】
ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテルの具体例としては、例えば、1,6−ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテル、2,6−ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテルなどが挙げられる。
フェノール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、フェノール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル(フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、クレゾール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0041】
ポリヒドロキシフェノールポリグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンポリグリシジルエーテル、トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタンポリグリシジルエーテル、トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)メタンポリグリシジルエーテル、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、ジシクロペンテン−フェノールホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
難燃性熱硬化性樹脂組成物中における(a)成分と(b)成分の含有割合は、(a)成分のフェノール性水酸基1当量に対して(b)成分のエポキシ基が好ましくは0.5〜3当量、より好ましくは1〜2当量になるようにする。この範囲であれば、エポキシ樹脂の硬化を十分進行させ、十分な機械的特性を得ることができ、かつ、不必要なリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を使用することを防止しつつ、十分な難燃性を確保することができる。
なお、熱硬化性樹脂組成物を十分に難燃化させる観点からは、成分(a)〜(c)の合計中に、リン原子が好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%存在するように調整する。
【0043】
((c)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、熱硬化性樹脂として(a)成分以外のフェノール性水酸基を有する化合物を含有させてもよい。該化合物は特に限定されるものではなく、例えば2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[別名:ビスフェノールA]、2−(3−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[別名:ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン[別名:ビスフェノールS]等のビスフェノール類;フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等のフェノール系樹脂類等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(c)成分を含有させる場合、その含有量は、(a)成分および(c)成分に含まれるフェノール性水酸基の総量1当量に対して、(b)成分のエポキシ基が好ましくは0.5〜3当量、より好ましくは1〜2当量になるように調整する。この範囲であれば、エポキシ樹脂およびフェノール性水酸基を有する樹脂の硬化を十分に進行させ、十分な機械的特性を得ることができ、且つ不必要なリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を使用することを防止しつつ、十分な難燃性を確保することができる。
【0045】
((d)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、硬化促進剤を含有させることが望ましい。
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂やフェノール性水酸基を有する樹脂の硬化促進剤として一般的に用いられているものを使用でき、例えば第三級アミン化合物、第四級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、第四級ホスホニウム塩、イミダゾール化合物等が挙げられる。
第三級アミン化合物としては、例えば1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ジメチルベンジルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
第四級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
ホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン等が挙げられる。
第四級ホスホニウム塩としては、例えばテトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
イミダゾール化合物としては、例えば2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール等が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(d)成分を含有させる場合、その含有量は、成分(a)〜(c)の合計100質量部に対して、通常、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0046】
((e)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、その他の難燃剤、充填剤、カップリング剤、滑剤、離型剤、可塑剤、着色剤、増粘剤等の各種添加剤を添加してもよい。
その他の難燃剤としては、例えば水酸化アルミニウム等の金属水酸化物や、リン酸エステル、フォスファゼン等のリン含有化合物等が挙げられる。また、特開平11−279258号公報に記載されているリン含有エポキシ樹脂等も使用できる。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(e)成分を含有させる場合、その含有量は、成分(a)〜(c)の合計100質量部に対して、通常、好ましくは5〜150質量部、より好ましくは10〜100質量部である。
【0047】
((f)成分)
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて有機溶剤を含有させてもよい。有機溶剤としては、例えばメトキシプロパノール等のアルコール;メチルエチルケトン等のケトン;ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル;ジメチルアセトアミド等のアミド等が挙げられる。
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物に(f)成分を含有させる場合、その含有量は、成分(a)〜(c)の合計100質量部に対して、通常、好ましくは10〜90質量部、より好ましくは40〜80質量部、さらに好ましくは50〜70質量部である。
【0048】
なお、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、後述する積層体を形成する場合等に、強化用繊維基材へ含浸させて使用してもよい。該強化用繊維基材としては、例えばカーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、シリコンカーバイド繊維等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
難燃性熱硬化性樹脂組成物を強化用繊維基材へ含浸させる場合、強化用繊維基材が難燃性熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは5〜500質量部、より好ましくは10〜300質量部となるようにする。
【0049】
[硬化物、積層体]
上記のように調製される本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、以下のような条件で熱を与えて硬化させることにより、硬化物が得られる。
硬化温度と硬化時間は、通常、好ましくは140〜240℃で30〜180分、より好ましくは160〜220℃で60〜120分である。この範囲であれば、硬化を充分に進行させることができ、且つ硬化物が加熱劣化により物性が低下するのを抑制できる。
【0050】
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱反応させて硬化物を得る場合の成形方法としては、公知の方法を用いることができる。
成形方法としては、例えば、溶融注型法、圧縮成形機により加熱加圧する圧縮成形法;可塑化された成形材料を加熱した金型キャビティ内に圧入して成形するトランスファ成形法;プリプレグを数枚重ね合わせて加熱加圧により硬化させて積層品を得る積層成形法;プリフォームに樹脂を含浸させて圧縮成形するマッチドダイ成形法;SMC法;BMC法;一方向繊維に樹脂を含浸させた後ダイ中で硬化させる引き抜き成形法;樹脂を含浸したロービングを芯材に巻き付けるフィラメントワインディング法;RIM法等が挙げられる。
【0051】
本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、従来の難燃剤や難燃技術を用いた樹脂組成物およびそれから得られる硬化物と比較し難燃性や耐熱性に優れている。
この優れた特性により、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子基板用積層板(プリント配線板)、半導体の封止材や印刷回路基板等の電子材料等に好適に用いることができる。
【0052】
本発明はまた、前記本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形してなる積層板をも提供する。本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は金属箔との密着性に優れているため、前記積層板には片面または両面に金属箔等を設けることができる。この積層板はプリント配線板用基板等として好適に使用される。
金属箔としては、通常用いられる金属であれば特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、またはこれらの合金が挙げられる。こられの中でも、物理的および電気的性能の観点から、銅箔および銅を主成分とする合金箔が好ましい。
なお、積層板の片面または両面に金属箔を設ける方法としては、特に限定されるものではないが、例えば難燃性熱硬化性樹脂組成物を強化用繊維基材に含浸させ、(f)成分である溶媒を乾燥させてから、100〜180℃で予備加熱し、片面または両面に金属箔等を貼り付け、さらに1〜5MPaの加圧下、180〜230℃で加熱成形する方法が好ましく挙げられる。
【0053】
さらに、本発明の難燃性熱硬化性樹脂組成物は、電子材料だけでなく、自動車部品、OA機器部品等にも適用できる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例になんら限定されるものではない。
【0055】
実施例1(リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物(a−1)の製造)
1,4−ナフトキノン158g(1.0モル)およびジフェニルフォスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより、2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ナフトキノン295g(収率82%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ナフトキノン189g(0.525モル)、α,α'−ジクロロ−p−キシレン65.6g(0.375モル)およびテトラブチルアンモニウムブロミド32g(0.1モル)を、トルエン390gおよび2−プロパノール390g中に溶解し、80℃まで加温した。80℃に加温後、水酸化ナトリウム45g(1.125モル)および蒸留水130gを加え、8時間反応を行った。
反応終了後に常温まで冷却した後、リン酸36.8g(0.375モル)および蒸留水65gを加え中和した。静置後、2層に分離した後に下層を除去した。さらに蒸留水380gを加えて攪拌、静置後に下層を除去する行為を2回行った。
最後に溶媒を減圧溜去し、下記構造をした下記物性のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物(a−1)を得た。
【0056】
【化11】

【0057】
元素分析:リン元素含有率6.8%(理論値7.1%)
数平均分子量:740、重量平均分子量:1550
1H−NMR(300MHz,CDCl3,TMS,ppm)δ:3.8(1H)、4.9(2H)、7.0〜8.5(19H)、11.8(0.3H)、13.8(0.3H)
赤外吸収スペクトル(cm-1):3052、1689、1592、1572、1512、1484、1438、1384、1360、1312、1282、1165、1118、1093、1025、998、868、844、813、769、748、726
【0058】
実施例2(リン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物(a−2)の製造)
1,4−ベンゾキノン108g(1.0モル)およびジフェニルフォスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより、2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン223g(収率72%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン189g(0.525モル)、α,α'−ジクロロ−p−キシレン65.6g(0.375モル)およびテトラブチルアンモニウムブロミド32g(0.1モル)を、トルエン390gおよび2−プロパノール390g中に溶解し、80℃まで加温した。80℃に加温後、水酸化ナトリウム45g(1.125モル)および蒸留水130gを加え、8時間反応を行った。
反応終了後に常温まで冷却した後、リン酸36.8g(0.375モル)および蒸留水65gを加え中和した。静置後、2層に分離した後に下層を除去した。さらに蒸留水380gを加えて攪拌、静置後に下層を除去する行為を2回行った。
最後に溶媒を減圧溜去し、下記構造をした下記物性の褐色固体のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物(a−2)を得た。
【0059】
【化12】

【0060】
元素分析:リン元素含有率8.1%(理論値8.1%)
数平均分子量:880、重量平均分子量:1570
1H−NMR(300MHz,CDCl3,TMS,ppm)δ:4.8(2H)、5.0(1H)、6.7〜7.7(17H)、10.7(0.4H)
赤外吸収スペクトル(cm-1):3055、2868、1737、1576、1481、1436、1409、1373、1271、1205、1147、1118、1101、1063、1014、999、889、814、745、729、706
【0061】
参考例1(リン含有エポキシ化合物(b−1)の製造)
1,4−ベンゾキノン108g(1.0モル)およびジフェニルフォスフィンオキサイド202g(1.0モル)をトルエン中、還流下で3時間反応させ結晶物を濾別することにより2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン223g(収率72%)を得た。
得られた2−ジフェニルホスフィニル−1,4−ハイドロキノン155g(0.5モル)、ビスフェノールF型エポキシ「YDF−170」(東都化成株式会社製、エポキシ当量170)340g(2当量)およびテトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド0.75gをγ−ブチロラクトン100g中に溶解し150℃まで加熱し、3時間反応させた後、冷却し、リン含有エポキシ化合物(b−1)を得た。得られた化合物(b−1)のエポキシ当量は643であった。
【0062】
参考例2(リン含有エポキシ化合物(b−2)の製造)
9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン 10−オキサイド−1,4−ハイドロキノン「HCA−HQ」(三光株式会社製)163g(0.5モル)、ビスフェノールF型エポキシ「YDF−170」(東都化成株式会社製、エポキシ当量170)340g(2当量)、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド0.75gをγ−ブチロラクトン100g中に溶解し150℃まで過熱、3時間反応を行った後に冷却を行い、リン含有エポキシ化合物(b−2)を得た。得られた化合物(b−2)のエポキシ当量は598であった。
【0063】
実施例3および4並びに比較例1〜4(熱硬化性樹脂組成物)
表1に示す配合組成で、各成分を下記の方法で溶媒に溶かしてワニスを調製した。さらに、下記の条件で硬化させて両面銅張積層板および成型板を試作した。難燃性(UL)および半田耐熱性試験は両面銅張積層板を用いて測定し、Tg(DMA法、TMA法)、線膨張係数および吸水率の試験は成形板を用いて行った。評価結果を表1に示す。
なお、表中の%はいずれも質量基準である。
【0064】
以下に、実施例3および4並びに比較例1〜4で使用した各成分について簡単に説明する。
<リン含有化合物>
(i)上記実施例1、2で得られたリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物(a−1)および(a−2)
(ii)上記参考例1、2で得られたリン含有エポキシ化合物(b−1)および(b−2)
(iii)シクロホスファゼンオリゴマー「SPE−100」(大塚化学株式会社製、リン原子含有率13.0質量%)
<エポキシ樹脂>
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−680」(大日本インキ化学工業株式会社製、エポキシ当量=208グラム/当量)
<フェノール性水酸基を有する化合物>
クレゾールノボラック型フェノール樹脂「ショウーノール CRG−951」(昭和高分子株式会社製、水酸基当量=118グラム/当量)
<硬化促進剤>
1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール「キュアゾールC11Z−CN」(四国化成株式会社製)
【0065】
[ワニスの調製]
予め、硬化促進剤および溶剤以外の表1に示す各成分(成分(a)〜(c)および(e))を、表1に示す混合割合のジオキソランとメトキシプロパノールの混合溶媒(成分(f))に溶解し、さらに表1に示す量の硬化促進剤(成分(d))を加え、不揮発分(N.V.)が60質量%のワニス(難燃性熱硬化性樹脂組成物A〜F)を調製した。
【0066】
[積層板の作製]
実施例3、4または比較例1〜4で調製したワニスを、厚さ約180μmのガラスクロス「WE18K105」(日東紡績株式会社製)に含浸させた後、溶媒を乾燥した。
ついで、120℃×3分、引き続き160℃×3分の条件で予備加熱してプリプレグを作製した。各プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔「JTC1/2OZ」(日鉱マテリアル株式会社製)を貼り合わせ、さらに3.92MPaの加圧下、200℃×60分の条件で加熱成形することで積層板を作製した。得られた積層板は、厚み約0.2mm、樹脂含有量約40質量%であった。
【0067】
[成型板の作製]
実施例3、4または比較例1〜4で調製したワニスを、減圧下(1.33×10-3MPa)、90℃で30分間乾燥させることにより樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物を加圧下(1.0MPa)、200℃で60分かけて加熱成形することで、成型板を作製した。
【0068】
[物性試験項目および測定条件]
下記、測定項目のうち、(1)〜(5)は実施例1、2または参考例1、2で得られた化合物を用いて、(6)および(7)は上記積層板を用いて、(8)〜(10)は上記成型板を用いて測定を行った。
【0069】
(1)元素分析:試料を硫酸および硝酸で分解した後、ICP発光法を用いてリン含有量を測定した。リン含有量を難燃性熱硬化性樹脂組成物の質量で序することにより、リン原子含有率(%)を求めた。
(2)分子量:ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定を行った。なお、測定には昭和電工株式会社製の「Shodex GPC System−21」(カラム KF−802、KF−803、KF−805)を用い、測定条件はカラム温度40℃、溶出液テトラヒドロフラン、溶出速度1ml/分とした。標準ポリスチレン換算分子量(Mw)で表示した。
(3)1H−核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR):テトラメチルシランを内部標準物質に、日本電子株式会社製の「JNM−LA300」を用いて測定した。
(4)IRスペクトル:パーキンエルマー社製のフーリエ変換赤外分光光度計「Spectrum One」を用いて測定した。
(5)エポキシ当量:JIS−K7236に準拠して測定した
【0070】
(6)難燃性:UL−94垂直燃焼試験に準拠して測定した。
(7)半田耐熱性:JIS−C6481に準拠して測定し、耐熱性の指標とした。260℃の半田に積層板を120秒浸漬したときの膨れ発生の有無を目視で観察し、膨れ発生が認められないものを「○」とした。
【0071】
(8)ガラス転移温度(Tg):DMA法(昇温スピード3℃/分)およびTMA法(昇温スピード10℃/分)にて測定し、耐熱性の指標とした。なお、DMA法では株式会社オリエンテック製の「RTM−1T」、TMA法では理学電機株式会社製の「TAS200」を用いて測定を行った。
(9)線膨張係数:TMA法にて測定(昇温スピード10℃/分)し、耐熱性の指標とした。なお、測定には理学電機株式会社製の「TAS200」を用いた。
(10)吸水率:JIS−C6481に準拠して測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の評価結果より、本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物から加熱硬化して得られた積層板は、高い難燃性を示すと同時に、耐熱性、銅箔との密着性および耐水性のいずれにおいても優れていることが明らかである。
なお、比較例1および2のように、成分(a)を用いずに、エポキシ化合物にリン原子を組み込んだ化合物を難燃剤として添加した場合には、樹脂組成物中に多量に添加することによってリン原子含有率を高めて難燃性を付与することができたが、耐熱性および吸水性が低下した。また、比較例3のように、成分(a)を用いずに、フェノール性水酸基を有さないリン含有化合物を難燃剤として添加した場合、難燃性は付与されたものの、耐熱性が低下しており、また、長期間保存・使用時にはブリードアウトの懸念が残る。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物を含有する難燃性熱硬化性樹脂組成物は、半導体封止剤、積層板、コーティング材料および複合材料等として電子材料分野で好適に使用される。また、自動車部品、OA機器部品等としても好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物。
【化1】

(式中、R1は下記一般式(2)で表される基であり、Wは下記一般式(3)または(4)で表される基である。R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。また、oは0〜4の整数を表し、nは1以上の数を表す。)
【化2】

(式中、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。pおよびqは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表す。)
【化3】

(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または置換若しくは無置換の環形成炭素数6〜10のアリール基を表す。rは0〜3の整数を表し、sは0〜5の整数を表す。)
【請求項2】
下記一般式(5)または(6)
【化5】

(式中、R3〜R6、p、q、rおよびsは前記定義の通りである。)
で表されるフェノール性水酸基を2個有するリン含有化合物と、下記一般式(7)
【化6】

(式中、R2は前記定義の通りである。Xは塩素原子または臭素原子を表す。tは0〜4の整数を表す。)
で表されるキシリレンジハライド化合物を、アルカリ存在下に極性溶剤中で反応させるか、または、アルカリおよび相間移動触媒の存在下に有機溶剤および水の混合液中で反応させる工程を有する、下記一般式(1)で表されるリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物の製造方法。
【化7】

(式中、R1、R2、W、oおよびnは前記定義の通りである。)
【請求項3】
(a)請求項1に記載のリン含有ポリパラキシレンアリールエーテル化合物および(b)エポキシ樹脂を含有する、難燃性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに(c)フェノール性水酸基を有する化合物を含有する、請求項3に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる硬化物。
【請求項6】
請求項3または4に記載の難燃性熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる積層板。
【請求項7】
片面または両面に金属箔を有する請求項6に記載の積層板。

【公開番号】特開2010−241753(P2010−241753A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93773(P2009−93773)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】