説明

リン含有晶析物の評価方法

【課題】晶析脱リン装置から回収されるリン含有晶析物の評価を、現場の運転管理と連動させられるような汎用可能な評価方法で、純度として簡易に評価する方法を提供する。
【解決手段】廃水又は汚泥から晶析脱リン法を利用して回収されたリン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、ヒドロキシアパタイトなどのリン含有晶析物に、酸を加えて加熱した後、固液分離して上澄液を得て、次いでその上澄液について所定の波長における吸光度を測定してリン含有晶析物の純度を判定することを特徴とするリン含有晶析物の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設や排水処理施設などにおいて、リン資源回収のために実施される晶析脱リン法により回収されたリン含有晶析物の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策のひとつとして、バイオマスの資源利用が進められており、バイオマスからメタンあるいは水素をエネルギーとして取り出す方法としてメタン発酵が活用されている。このメタン発酵法においては、畜産廃棄物や下水汚泥などを処理するメタン発酵槽で発酵処理が進んでバイオガスが生成すると共に、リンなどの無機イオンが有機物から溶出し、マグネシウムイオンやカルシウムイオン、鉄イオンなどと反応して配管内でリン酸塩のスケールを形成し、配管閉塞が発生する場合があった。このようなリン酸塩析出による処理施設のスケール問題は古くから報告されており(非特許文献1参照)、スケール形成を制御し、リン酸塩を資源として回収する方法が望まれていた。
【0003】
最近では、スケール形成を制御しつつメタン発酵脱離液などからリン酸塩を回収する方法として、晶析脱リン法が用いられるようになった。晶析脱リン法の導入により、処理施設からリン酸塩の結晶としてリン資源を回収することができ、スケール対策も可能となったが、晶析脱リン法で回収されるリン酸塩は、汚泥など不純物を含んだ場合に、必ずしも有価物として流通できないことがあった。
【0004】
その理由の一つとして、リン含有晶析物の簡易な評価方法が確立されていなかったことが挙げられる。回収晶析物が肥料として用いられる場合は、肥料取締法の公定基準に基づいた評価を受けることができるが、評価項目が多く、費用もかかる。
【0005】
リン資源を回収し、実際に社会に流通させることを目的とするならば、肥料としての用途に限らず多様な用途に対して最適な晶析物を回収することが必要で、回収晶析物の評価を現場の運転管理と連動させられるような、汎用可能な評価方法が望まれていた。
【非特許文献1】(排水のリン酸塩を肥料として回収する最終処分方法)ULTIMATE DISPOSAL OF PHOSPHATE FROM WASTE WATER BY RECOVERY AS FERTILISER (1970)(FEDERAL WATER QUALITY ADMINISTRATION)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、汚泥その他の不純物がリン含有晶析物に混在した状態、又はリン含有晶析物が汚泥その他の不純物に付着して生長した場合、又は汚泥その他の不純物がリン含有晶析物に付着した場合など、リン含有晶析物の純度が100%とはいえない場合における簡便な評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討の結果、吸光光度法を適用し得ることを見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、廃水又は汚泥から晶析脱リン法を利用して回収されるリン含有晶析物に、酸を加えて加熱した後、固液分離して上澄液を得て、次いでその上澄液について所定の波長における吸光度を測定してリン含有晶析物の純度を判定することを特徴とするリン含有晶析物の評価方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタン発酵脱離液などからリン酸塩を回収する晶析脱リン装置で回収されるリン含有晶析物について、液の着色によって不純物の含有を短時間で予想することができる。さらに不純物の含有される割合を定量化することで、リン含有晶析物の純度を評価することができるのである。また、使用する薬品、器具、分析装置とも汎用品であり、大多数の実験室で実施が可能であるため、ルーチンワークとして分析を行い、得られた数値を晶析脱リン装置の運転評価に用いることも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明において、廃水又は汚泥はリンを含有しているものであればどのようなものでもよい。排水処理施設などから排出される汚泥脱水液や汚泥含有液、あるいはメタン発酵でのメタン発酵脱離液、し尿処理施設の流入原水や処理水、畜舎からの廃水、各種工場廃水などが挙げられる。近年は、様々な廃水に対して各種晶析脱リン法が用いられるようになっている。例えば、リン酸アンモニウムマグネシウムの回収は、リンや窒素濃度の高い廃水すなわち、下水処理施設では汚泥処理系で発生する廃水や汚泥、畜舎廃水、化学工場廃水、肥料製造工場廃水、食品加工廃水などにおいて実施される事例が多い。わが国において、初めてリン酸アンモニウムマグネシウムを回収できる装置が稼動したのは、し尿処理の一次消化脱窒液を原水としたプラントであった。これに対してヒドロキシアパタイトは比較的低濃度の廃水すなわち、下水処理施設の水処理系の廃水や処理水などにおいて回収される事例が多い。
【0012】
本発明における晶析脱リン法とは、廃水又は汚泥中に含まれるリン酸イオンがカルシウムやマグネシウムのイオンと難溶性の塩を形成することを利用し、過飽和溶液中でリンを結晶として析出させるリン除去方法をいう。
【0013】
本発明において評価の対象とするリン含有晶析物は、上記のような晶析脱リン法を利用して得られたものである。リンを回収する対象液の性状によっては、汚泥その他の不純物がリン含有晶析物に混在した状態で回収されることがある。晶析物の比重と混在する汚泥その他の不純物の比重の差が大きい場合、あるいは晶析物の粒径と不純物の大きさに差がある場合には分離装置を設置することで分離可能であるが、分離困難な場合も多い。このような汚泥その他の不純物がリン含有晶析物に混在したものが本発明による評価方法の対象となる。
【0014】
また、晶析物の形成が、非常に浮遊物や侠雑物の多い条件下で行われた場合、晶析物が侠雑物に付着して生長することがある。異形の晶析物が形成した場合は判別できるが、晶析物がそれらを覆ってしまうと、見た目では判断がつかないこともある。このような侠雑物に付着して生長したリン含有晶析物も本発明による評価方法の対象となる。
【0015】
リン含有晶析物の化学組成としては、リン酸アンモニウムマグネシウム(MgNHPO・6H0またはMgNHPO・H0)、リン酸マグネシウム(Mg(PO・4H0またはMg(PO・8H0)、リン酸水素マグネシウム(MgHPO・3H0またはMgHPO・7H0)、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO6(OH))、などが挙げられる。これらは純物質のときは白色結晶である。しかしながら、バイオマスのメタン発酵処理施設などにおいて実際に回収される場合は、晶析脱リン法回収晶析物自体が着色していることが多く、有害金属の含有率を測定した結果そうした金属がほとんど検出されないことから、この着色の原因物質は有機物に由来すると考えられている。
【0016】
本発明の評価方法においては、先ず、リン含有晶析物に対して酸を加えて加熱することが必要である。その際、評価すべき対象のリン含有晶析物試料を計量する。試料は乾燥したものを用いるべきであるが、晶析物によってはリン酸アンモニウムマグネシウム6水和物のように、高温で乾燥すると分解するものもある。このような場合は、30℃付近の低温で乾燥するか、硫酸デシケーターを用いて乾燥する方法が適当である。評価に用いるリン含有晶析物の量としては、0.1g〜1gの範囲が望ましい。一定量を、例えばビーカーに取り、酸を20mL〜100mL加えて加熱する。リン酸アンモニウムマグネシウムとヒドロキシアパタイトは、加水分解すると共にアルカリ性を示すので、評価に用いる試料の量が、分解に用いる酸の量に対して過剰であれば溶解が不十分になる。
【0017】
本発明において用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸などを利用することができる。これらの酸のいずれかを添加して加熱する。硫酸を用いたときには、カルシウム系のリン含有晶析物、例えばヒドロキシアパタイトなどを溶解することが困難である。従って、マグネシウム系のリン含有晶析物、例えばリン酸アンモニウムマグネシウムなどの溶解に用いることが適当である。過塩素酸を用いたときには、溶解液に着色が残らない場合が多いため、目視によるおよその判断はつけにくい。このような溶解液においては、測定が必要な吸光度の範囲を紫外部波長とすれば本発明による純度の評価は可能である。
【0018】
本発明における加熱手段に制限はなく、温度調節のできるホットプレートを用いることもできる。硝酸、塩酸、過塩素酸の場合は沸騰状態となるように加熱して、煮沸時間は30〜60分程度が適当である。不純物の多い場合には、分解時間を長く要する傾向があるので、試料の状況に応じて分解時間を決めれば良い。硫酸の場合は、ホットプレートを400℃付近に設定して加熱すれば沸騰状態でなくても溶解できる。リン含有晶析物に含まれる不純物が多い場合には、若干の発泡を伴うことがある。また、その場合には目視でも液の着色が観察される。逆に不純物が少ない場合は、加熱するまでもなく晶析物が溶解し、溶解液の着色は目視では判別できない。
【0019】
本発明においては、その後、放冷することが望ましい。本発明においては、高濃度の酸を用いて分解しているので、放冷の目的は以後の手順において用いる器具の保護と、分析操作を安全に行うためである。なお、本発明においては中和する工程は特に必要とはしない。
【0020】
次に液量を一定量に調整する。30分間の加熱操作の結果、放冷された分解液の体積は当初加えた酸の体積よりも減量しているので、水を加えて一定量とする。一定量の範囲としては50mL〜300mLが適当であるが、評価対象の性状に応じて決めればよい。
【0021】
その後、固液分離して上澄液を得る。固液分離の方法としてはどのような方法でもよいが、乾燥したろ紙を用いてろ過する方法が好ましい。ろ紙は5種C、ガラス繊維ろ紙など孔径1μm程度のものを適宜利用すればよい。
【0022】
次に、得られた上澄液について所定の波長における吸光度を測定する。所定の波長がどの波長であるかについては、波長スキャン機能のある分光光度分析装置で測定することで判定ができる。上澄液の着色について可視光の範囲(350nm〜800nm付近)の波長スキャンを行い、吸光度の大きい波長を評価波長として選択すればよい。例えば、畜産廃棄物をメタン発酵した脱離液中で形成されたリン酸アンモニウムマグネシウムの回収物は、硝酸を加えて加熱したとき黄色を呈する。このようなプラントからの晶析脱リン法回収晶析物については400nm〜420nmの波長において吸光度を測定すればよい。また、リンを回収する対象液がある程度一定であれば、吸光度を測定すべき波長は大きく変わらない。
【0023】
図4はし尿汚泥を塩酸を用いて分解した分解液、図5は硝酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。塩酸、硝酸を用いて分解した分解液では可視光範囲の下限付近である350〜450nmにおいて急激に吸光度が高くなる。従って、この範囲で波長を設定すれば良い。図7はヒドロキシアパタイト(試薬)を塩酸を用いて分解した分解液、図8は硝酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。純粋なヒドロキシアパタイトを分解した場合には着色成分がなく、吸光度はほぼ0である。
【0024】
図6はし尿汚泥を過塩素酸を用いて分解した分解液、図9はヒドロキシアパタイト(試薬)を過塩素酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。いずれも波長スキャンの範囲を紫外光の範囲まで広げて測定した結果であるが、純粋なヒドロキシアパタイトを分解した場合には吸光度はほぼ0である。し尿汚泥を分解した場合には、250〜300nmにおいて急激に吸光度が高くなるのでこの範囲で波長を設定すれば良い。
【0025】
さらに、ここで得られた吸光度の値を、予め用意しておく検量線と比較することによってリン含有晶析物の純度を算出することができる。検量線を作成するためには、3つの手順が必要である。なお、本発明の目的は、晶析脱リン法によって回収される晶析物に不純物が含まれる場合に不純物がどれくらい含まれているのかを知ることにある。従って、回収晶析物に不純物の含有される割合が50%以上であるような場合は想定する必要がないと考える。
【0026】
検量線作成手順としては、まず晶析脱リン装置に供給される原水又は原汚泥中に含有される汚泥その他の不純物を回収し、不純物100%の乾燥試料を用意する。不純物回収方法は、原水、原汚泥を遠心分離する方法が適当である。遠心分離によって沈降した不純物を乾燥し、乾燥試料とする。次に晶析されるリン酸塩の純物質を用意する。これは試薬として販売されているものが適当である。不純物100%の乾燥試料と純物質の晶析物試薬とを所定の割合で混合した物を検量線作成サンプルとして調整する。例えば、不純物1gと純物質の晶析物試薬99gを混合し、乳鉢などで十分に混ぜ合わせることで純度99%のサンプルが調整可能である。このようにして純度99%以下、70%程度の範囲で、サンプルを調整し、それらをリン含有晶析物の溶解操作と同様の手順で溶解液を用意し、吸光度を測定することで検量線を作成することができる。
【0027】
評価対象となるリン含有晶析物について得られた吸光度を、このようにして作成した検量線に内挿することで不純物の含有される割合が求まり、この値を100%から差し引くことでリン含有晶析物の純度を算出することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
し尿処理場から回収したヒドロキシアパタイトを主成分とする褐色のリン含有晶析物について純度を算出した。まず、検量線を作成するために、晶析脱リン装置原水に含まれる汚泥を沈澱させて回収した。沈澱汚泥を乾燥した汚泥乾燥試料と、純物質のヒドロキシアパタイト(試薬)を用意した。ヒドロキシアパタイトの純度が70〜100%(重量比)となるように、すなわち不純物として乾燥汚泥の含有率が0〜30%となるように純物質に汚泥乾燥試料を混合し、1gとしたものを検量線試料とした。
【0030】
検量線試料及び純度測定試料(し尿処理場から回収したヒドロキシアパタイトを主成分とするリン含有晶析物)1gに対し、75mLの塩酸を添加して加熱溶解した。加熱はホットプレートを用い、350℃の条件で60分間行った。放冷後、分解液にイオン交換水を加えて100mLとし、5Cろ紙でろ過したろ液を吸光度測定サンプルとした。
【0031】
検量線は420nm(図1)、400nm(図2)、380nm(図3)の波長についてそれぞれ作成した。近似式から判断し、最も信頼度の高い検量線として420nmによる検量線を採用して純度を算出した結果、し尿処理場から回収したヒドロキシアパタイトを主成分とするリン含有晶析物に含まれる不純物は28%であった。すなわち、回収物の純度は72%と判定された。
【0032】
実施例2
畜舎排水処理施設から回収した白色のリン酸アンモニウムマグネシウムを主成分とするリン含有晶析物について純度を算出した。まず、検量線を作成するために、晶析脱リン装置原水に含まれた汚泥を遠心分離させて回収した。遠心分離汚泥を乾燥した汚泥乾燥試料と、純物質のリン酸アンモニウムマグネシウム(試薬)を用意した。リン酸アンモニウムマグネシウム70〜100%(重量比)となるように、すなわち不純物として乾燥汚泥の含有率が0〜30%となるように純物質に汚泥乾燥試料を混合し、1gとしたものを検量線試料とした。
【0033】
検量線試料及び純度測定試料(畜舎排水処理施設から回収したリン酸アンモニウムマグネシウムを主成分とするリン含有晶析物)1gに対し、75mLの硝酸を添加して加熱溶解した。加熱はホットプレートを用い、350℃の条件で60分間行った。放冷後、分解液にイオン交換水を加えて100mLとし、5Cろ紙でろ過したろ液を吸光度測定サンプルとした。
【0034】
420nmによる検量線(図10)を採用して純度を算出した結果、畜舎排水処理施設から回収したリン酸アンモニウムマグネシウムを主成分とするリン含有晶析物に含まれる不純物は3.2%であった。すなわち、回収物の純度は96.8%と判定された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】し尿汚泥を不純物として含有するヒドロキシアパタイトの420nmにおける検量線である。
【図2】し尿汚泥を不純物として含有するヒドロキシアパタイトの400nmにおける検量線である。
【図3】し尿汚泥を不純物として含有するヒドロキシアパタイトの380nmにおける検量線である。
【図4】し尿汚泥を塩酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図5】し尿汚泥を硝酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図6】し尿汚泥を過塩素酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図7】ヒドロキシアパタイト(試薬)を塩酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図8】ヒドロキシアパタイト(試薬)を硝酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図9】ヒドロキシアパタイト(試薬)を過塩素酸を用いて分解した分解液の波長スキャン結果である。
【図10】畜産排水汚泥を不純物として含有するリン酸アンモニウムマグネシウムの420nmにおける検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水又は汚泥から晶析脱リン法を利用して回収されるリン含有晶析物に、酸を加えて加熱した後、固液分離して上澄液を得て、次いでその上澄液について所定の波長における吸光度を測定してリン含有晶析物の純度を判定することを特徴とするリン含有晶析物の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−209133(P2008−209133A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43986(P2007−43986)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】