説明

リン含有重合体とその製造方法

【課題】熱可塑性樹脂に添加した組成物の、高温化使用時における耐ブリードアウト性が高度に高められ、添加による物性低下の小さい、難燃効果を有するリン含有重合体を提供する。
【解決手段】9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン骨格を有するリン含有化合物とエチレングリコールおよび構造式(4)


(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)で示される二価アルコールを重縮合せしめて得られるリン含有重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリン含有重合体、該重合体を主成分とする難燃剤、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは、その優れた特性から、電気および電子部品、自動車部品などに広く使用されている。近年、特に家電、電気およびOA関連部品では、火災に対する安全性を確保するため、難燃性が要求される例が多く、このため、種々の難燃剤の配合が検討されている。
【0003】
樹脂を難燃化する方法としては、臭素化ポリスチレンなどに代表されるハロゲン系難燃剤と、三酸化アンチモンなどに代表されるアンチモン系難燃助剤を併用添加する方法が従来公知であるが、燃焼時に有毒なガスを発生する疑いが持たれ、ハロゲン系難燃剤含有の樹脂組成物に対する規制が厳しくなりつつあり、非ハロゲン難燃剤の開発が活発化している。
【0004】
ハロゲン系難燃剤を用いずに樹脂組成物を難燃化する方法としては、金属酸化物を用いる方法、リン化合物を用いる方法などがある。金属酸化物を用いる方法では、多量に用いないと所望の難燃特性が得られ難く、また、多量に用いると、元来樹脂が持つ特性を低下させてしまうという問題があった。
【0005】
リン化合物を用いて樹脂を難燃化する方法としては、有機リン酸エステル化合物を用いる方法が従来公知であるが、比較的低分子量の有機リン酸エステルは揮発性、昇華性、耐熱性の点で不十分であり、また、樹脂組成物を高温下で長時間使用すると、難燃剤がブリードアウトする問題があった。さらに、低分子有機リン化合物が樹脂の可塑剤として働き、組成物の耐熱性を低下させるという問題があった。
【0006】
本願の化合物の構成成分の一つである構造式(1)
【0007】
【化8】

【0008】
と同一の構造を有する有機リン系難燃剤および熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物に関する技術(特許文献1および2)は開示されているが、樹脂種によっては相容性に改善の余地があり、該樹脂組成物からなる成形体において層状剥離が起こる場合もあった。
【特許文献1】特開昭53−128195号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2007/040075
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記のような現状を鑑み、熱可塑性樹脂、特に、エンジニアリングプラスチックへの相溶性が高められ、樹脂に添加した組成物の、高温下使用時における耐ブリードアウト性が高度に高められ、添加することによる物性低下の小さいリン含有重合体を得、さらに、該リン含有重合体を主成分とする難燃剤を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討を重ねた結果、下記に示す二種の構造単位を分子中に同時に存在させることにより、熱可塑性樹脂に対する相溶性が高まり、樹脂に添加した組成物の、高温下使用時における耐ブリードアウト性が高度に高められ、物性低下の小さいリン含有重合体を見出した。また、該リン含有重合体が効率的に得られる効率的な製造方法、さらに、難燃剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一は、主鎖中に下記構造式(1)
【0012】
【化9】

【0013】
および構造式(2)
【0014】
【化10】

【0015】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で表される構造単位をを同一分子中に含む、リン含有重合体に関する。
【0016】
本発明の第二は、前記記載の重合体を主成分とする難燃剤に関する。
【0017】
本発明の第三は、構造式(3)
【0018】
【化11】

【0019】
で表されるリン含有化合物とエチレングリコールおよび一般式(4)
【0020】
【化12】

【0021】
で示される二価アルコールを重縮合せしめる事を特徴とする、請求項1に記載のリン含有化合物の製造方法に関する。
【0022】
本発明の第四は、製造方法の更に好ましい実施形態として、構造式(3)
【0023】
【化13】

【0024】
で表されるリン含有ジカルボン酸とエチレングリコールとを重縮合せしめて得られる、構造式(5)
【0025】
【化14】

【0026】
で表される化合物に、構造式(4)
【0027】
【化15】

【0028】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で示される二価アルコールを作用させ、脱エチレングリコール反応をせしめる事を特徴とする、請求項1に記載のリン含有重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のリン含有重合体は、熱可塑性樹脂に対して相溶性が高く、樹脂に添加した際に層状剥離を起こすことなく、更には、本来樹脂が持つ特性の低下が小さい難燃剤として好適に使用でき、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のリン含有重合体は、熱可塑性樹脂に対する相容化を高め、熱可塑性樹脂に添加した組成物の高温時のブリードアウトを抑制し、更には本来の熱可塑性樹脂が持つ物性の低下を抑制するために、下記構造式(1)
【0031】
【化16】

【0032】
で示される構造単位および構造式(2)
【0033】
【化17】

【0034】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で表される構造単位を、同一分子中に含むことを特徴としている。
【0035】
ここで、上記構造式(1)および構造式(2)の構造単位を同一分子中に含むとは、前記二種類の構造単位を、それぞれ一分子鎖中に少なくとも一単位以上持っていればよい。単独の構造単位のみからなるリン含有重合体の混合物では、構造式(1)のみからなるリン含有重合体が相溶性に欠けるため、成形体において層状剥離の原因になってしまう。同一分子中に前記二種類の構造単位を含んでいることは、リン含有重合体の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度(T)を測定することにより、明らかとなる。仮に、単独の繰り返し単位のみからなるリン含有重合体の混合物では、二種類のTが現れることになる。
【0036】
本発明のリン含有重合体の重量平均分子量(M)の下限値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で、3000が好ましく、4000がより好ましく、5000が更に好ましい。リン含有重合体の重量平均分子量(M)が3000未満であると、樹脂に添加した場合に、ブリードアウトが発生したり、機械的強度が低下したりする傾向がある。一方、リン含有重合体の重量平均分子量(M)の上限値には特に規定はないが、過度に分子量を高めると分散性等に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、Mの上限値は、50000が好ましく、40000がより好ましく、30000が更に好ましい。
【0037】
本発明のリン含有重合体の構成単位である前記構造式(1)および(2)の割合は、構造式(1)および(2)それぞれの構造単位の総数を100とした場合に、構造式(1)の割合の下限値は5が好ましく、10がより好ましく、15が更に好ましい。構造式(1)の割合の下限値が5より小さい場合は、リン含量の過度の低下により、難燃剤として樹脂中に大量に添加しなければならず、本来樹脂が持つ特性を低下させる可能性がある。構造式(1)の割合の上限値としては95が好ましく、93がより好ましく、90が更に好ましい。上限値が95より大きくなると、熱可塑性樹脂に対する相溶性を高める効果が小さくなり、成形品に層状剥離等の不具合が発生する可能性がある。
【0038】
繰り返し単位の構成比は、生成したリン含有重合体のH−NMRを測定することにより、明らかとなる。
【0039】
本発明においては、ジカルボン酸成分として下記構造式(3)
【0040】
【化18】

【0041】
で示される化合物を使用し、ジオール成分として、エチレングリコールおよび下記構造式(4)
【0042】
【化19】

【0043】
で示される、二価アルコールを用いる。
【0044】
ここで、構造式(4)中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、これらの中でも、入手の容易性、ハンドリングの容易さなどの点から、イソプロピリデン基が好ましい。R、R、R、R、R、R、R、およびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であるが、一般的には水素原子が好ましい。R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良いが、−CHCH−、−CHCHCH−が一般的である。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示す。
【0045】
m+nの下限値としては2が好ましい。m+nが2より小さいと、一方もしくは両方の末端がフェノール性ヒドロキシル基を持つこととなるため、エステル化の反応性が低下する問題が発生する場合がある。m+nの上限値としては40が好ましく、30がより好ましく、20が更に好ましい。オキシアルキレン基の繰り返し単位数が多すぎると、Tが低下することにより、ハンドリング性が低下したり、リン含量が低下したりすることにより、難燃剤として多量に添加しなくてはならなくなる傾向がある。
【0046】
本発明のリン含有重合体は、ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体、およびジオールとの縮合反応によって得ることができる。
【0047】
すなわち、構造式(3)
【0048】
【化20】

【0049】
で表されるリン含有化合物とエチレングリコールおよび構造式(4)
【0050】
【化21】

【0051】
で示される二価アルコールを重縮合せしめる事により製造することができる。
【0052】
更に詳細には、構造式(6)
【0053】
【化22】

【0054】
で示される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドと等モル量以上のイタコン酸を、窒素ガス雰囲気下において150〜200℃の温度領域にて加熱混合する。次いで、反応温度を120℃程度まで低下させた後、エチレングリコールおよび構造式(4)の二価アルコールを、生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が所望の割合になるように加え、120〜200℃の間で加熱し、攪拌する。次いで、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、酸化ゲルマニウム等の金属触媒を加え、1Torr以下の真空減圧にて、さらに220℃に維持し、重縮合反応させることにより目的とするリン含有重合体を得ることができる。
【0055】
しかしながら、ジオール成分を二種以上用いる場合、ジオール成分の種類によっては反応性の違いにより反応の選択性に偏りが生じ、結果として、得られる重合体の組成比が所望のものと異なり、望まれる重合体が得られなかったり、重合度が上がらなかったりする可能性もある。
【0056】
この場合、以下の方法によって製造すれば、所望の割合で二種のジオール成分をリン含有重合体中に含有させることができるため、さらに好ましい。
【0057】
すなわち、本発明のリン含有重合体は、構造式(3)
【0058】
【化23】

【0059】
で表されるリン含有化合物およびエチレングリコールを重縮合せしめて得られる、構造式(5)
【0060】
【化24】

【0061】
で表される化合物に、構造式(4)
【0062】
【化25】

【0063】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で示される二価アルコールを作用させ、脱エチレングリコール反応を起こさせる方法により、製造することができる。
【0064】
上記に示した製造方法は、反応順序以外に特に規定するものではないが、以下に示すような方法により、製造することができる。
【0065】
すなわち、下記構造式(6)
【0066】
【化26】

【0067】
で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドに対し、等モル量以上のイタコン酸および、イタコン酸に対し2倍モル量以上のエチレングリコールを混合し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃の間で加熱し、攪拌する。次いで、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、酸化ゲルマニウム等の金属触媒を加え、1Torr以下の真空減圧にて、さらに220℃で維持し、エチレングリコールを留出させながら重縮合反応させることにより、構造式(5)
【0068】
【化27】

【0069】
で表される化合物が得られる。該化合物は通常、分子量4000〜12000のガラス状固体であり、リン含量は8%前後である。
【0070】
次に、150℃程度まで反応温度を低下させ、構造式(5)で表される化合物に対し、所望量の構造式(4)
【0071】
【化28】

【0072】
で表される二価アルコール、および安定剤を投入し、窒素ガス雰囲気下、150〜230℃まで徐々に昇温加熱し、攪拌する。次いで、1Torr以下の真空減圧にて、温度250℃で維持し、エチレングリコールを留出させながらエステル交換反応を行うことで目的とするリン含有重合体を得ることができる。
【0073】
本発明のリン含有重合体は、熱可塑性樹脂の難燃剤として好適に利用できる。
【0074】
対象となる熱可塑性樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアクリル系樹脂等が挙げられる。
【0075】
これらの中でも、高温使用時のブリードアウトが低減されているという点においては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂等のエンジニアリングプラスチックの難燃剤として有用である。
【0076】
本発明のリン含有重合体を難燃剤として用いる場合、熱可塑性樹脂への添加量の下限値は樹脂によって違いはあるものの、熱可塑性樹脂100重量部に対し、1重量部が好ましく、3重量部がより好ましく、5重量部がさらに好ましい。添加量が1重量部より少ない場合は十分な難燃性が得られない可能性がある。上限値としては80重量部が好ましく、75重量部がより好ましく、70重量部がさらに好ましい。添加量が80重量部を超える場合には、機械的強度が低下したり、成形性が悪化したりする可能性がある。
【実施例】
【0077】
次に、具体例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0078】
以下に、製造例、実施例および比較例において使用した原料類を示す。
リン含有化合物(A1):9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製、HCA)
リン含有化合物(A2):製造例1にて合成したもの。
リン含有重合体(A3):製造例2にて合成したもの。
リン含有重合体(A4):製造例3にて合成したもの。
リン含有重合体(A5):製造例4にて合成したもの。
リン含有重合体(A6):製造例5にて合成したもの。
リン含有重合体(A7):製造例6にて合成したもの。
リン含有重合体(A8):製造例7にて合成したもの。
二価アルコール(C1):下記構造式(7);東邦化学工業株式会社製、ビスオール4EN
【0079】
【化29】

【0080】
二価アルコール(C2):下記構造式(8);東邦化学工業株式会社製、ビスオール18EN
【0081】
【化30】

【0082】
熱可塑性樹脂(D):ポリカーボネート樹脂(出光興産株式会社製、タフロンA2200)
安定剤(E1):ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート;チバスペシャリティーケミカルズ社製、IRAGANOX1010)
本製造例での評価方法は、以下の通りである。
【0083】
<重量平均分子量(M)>
得られたリン含有重合体のMは、GPCにより、溶媒としてクロロホルムを用いて測定し、ポリスチレン換算により求めた。GPC測定はWater社製(サンプラ:717plus、ポンプ:515)のGPC測定装置(カラム:昭和電工株式会社製K−804およびK−802.5)を用い、35℃で測定した。
【0084】
<ガラス転移温度(T)>
得られたリン含有重合体のTは、DSCを用いて求めた。DSC測定は、セイコーインスツル株式会社製のDSC−220Cを用い、昇温速度10℃/min、窒素気流下で行った。
【0085】
<リン含有重合体における構成比率(構造式(1)および一般式(2)の比率)>
得られたリン含有重合体における構成比率は、H−NMRにおける、構造式(4)の二価アルコール中のp−フェニレン水素およびホスファフェナントレン環上の水素由来のシグナルから算出した[ピーク:6.62−6.82,7.02−7.07(p-フェニレン水素に基づく)および7.07−8.00ppm(ホスファフェナントレン環上の水素に基づく)]。
H−NMR測定は、Varian社製Gemini300を用い、重水素化クロロホルム中で行った。
【0086】
<リン含有量>
得られたリン含有重合体のリン含有量は、高周波プラズマ発光分光分析(ICP−AES)よりもとめた。ICP−AESは、前処理として、US EPA METHOD 3052に準拠し、マイルストーン社製のETHOSを用いてマイクロウエーブ分解を行い、島津製作所製のICPS−8100を用いて行った。
【0087】
本実施例での評価方法は、以下の通りである。
【0088】
<難燃性>
得られたペレットを120℃で3時間乾燥後、射出成形機(JS36SS型締め圧:35トン)を用い、シリンダー設定温度250℃〜280℃および金型温度60℃の条件にて射出成形を行い、127mm×12.7mm×厚み1/16インチの試験片を得た。UL94基準V−0試験に準拠し、得られた厚さ1/16インチのバー形状試験片を用いて燃焼性を評価した。
【0089】
<引張強度および破断伸び>
得られたペレットを120℃にて3時間乾燥後、射出成形機(東芝機械株式会社製、IE−75E−2A(型締め圧:75トン))を用い、シリンダー設定温度250℃〜280℃、金型温度60℃、射出率30cm/secまたは80cm/secの条件にて射出成形を行い、ASTM D−638に準じたダンベル試験片を作製した。
得られた測定用試験片を用いて、ASTM D−638に準拠して引張試験を行い、23℃での引張強度および破断伸びを測定した。
【0090】
<成形品の層状剥離状態>
引張試験後の破断したダンベルを観察し、層状剥離の有無を調べた。
○:層状剥離が起こっていない。
△:射出率を上げて(80cm/sec)成形した場合のサンプルにおいては、層状剥離が起こっている。
×:層状剥離が起こっている。
【0091】
<ブリードアウト評価>
引張試験に用いたダンベルを、120℃のオーブン内で1時間加熱し、加熱後の成形体に、脱脂綿を押し当て、成形体への脱脂綿の付着の有無を調べた。
○:リン含有化合物のブリードアウトがなく、成形体に脱脂綿付着しない。
×:リン含有化合物のブリードアウトがあり、成形体に脱脂綿付着する。
【0092】
(製造例1)
蒸留管、精留管、窒素導入管および攪拌基を有する縦型重合器に、リン含有化合物(A1)100重量部、(A1)に対して等モルのイタコン酸60重量部およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコール160重量部を投入し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃まで徐々に昇温加熱し、約10時間攪拌した。
次いで、三酸化アンチモンおよび酢酸亜鉛0.1重量部を加え、1Torr以下の真空減圧にて、温度220℃で維持し、エチレングリコールを留出させながら重縮合反応させた。約5時間後、エチレングリコールの留出量が極端に減少したことで、反応終了とみなした。得られたリン含有化合物(A2)の性質を表1に示す。
【0093】
(製造例2)
蒸留管、精留管、窒素導入管および攪拌基を有する縦型重合器に、製造例1で得られたリン含有化合物(A2)100重量部、生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が75/25となるように、二価アルコール(C1)26.2重量部、安定剤(E1)0.13重量部および三酸化アンチモン0.05重量部を投入し、窒素ガス雰囲気下、120〜230℃まで徐々に昇温加熱し、約5時間攪拌した。
次いで、1Torr以下の真空減圧にて、温度250℃で維持し、エチレングリコールを留出させながらエステル交換反応を行った。約6時間後、投入した二価アルコール(C1)と等モル量のエチレングリコールが流出した時点で、反応終了とみなした。
得られたリン含有重合体(A3)の性質を、表1に示す。
【0094】
(製造例3)
生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が50/50となるように、二価アルコールとして(C1)52重量部を用いる以外は、製造例2と同様の方法により反応を行った。得られたリン含有重合体(A4)の性質を、表1に示す。
【0095】
(製造例4)
生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が25/75となるように、二価アルコールとして(C1)79重量部を用いる以外は、製造例2と同様の方法により反応を行った。得られたリン含有重合体(A5)の性質を、表1に示す。
【0096】
(製造例5)
生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が25/75となるように、二価アルコールとして(C2)39重量部を用いる以外は、製造例2と同様の方法により反応を行った。得られたリン含有重合体(A6)の性質を、表1に示す。
【0097】
(製造例6)
生成されるリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が25/75となるように、二価アルコールとして(C1)105重量部を用いる以外は、製造例2と同様の方法により反応を行った。得られたリン含有重合体(A7)の性質を、表1に示す。
【0098】
(製造例7)
蒸留管、精留管、窒素導入管および攪拌基を有する縦型重合器に、リン含有化合物(A1)100重量部および、(A1)に対して等モルのイタコン酸60重量部を投入し、150℃〜200℃まで徐々に昇温加熱し、3時間攪拌した。温度を120℃まで低下させた後、生成するリン含有重合体中の理論構成比率(構造式(1)/(2))が75/25となるように、エチレングリコール22重量部および(C1)47重量部を投入し、窒素ガス雰囲気下、120〜190℃まで徐々に昇温加熱し、約5時間攪拌した。
次いで、1Torr以下の真空減圧にて、温度250℃で維持し、脱水重縮合を行った。約6時間後、水および未反応のジオール成分の流出がなくなった時点で、反応終了とみなした。得られたリン含有重合体(A8)の性質を、表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
(実施例1〜5)
表2に示した原料および配合組成(単位:重量部)に従い、予めドライブレンドした。ベント式44mmφ同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)を用い、前記混合物をホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度250〜280℃にて溶融混練を行い、ペレット化を行った。
得られたペレットを前記条件にて射出成形を行い、試験片を得て、前記記載の評価方法にて実験を行った。
実施例1〜5における評価結果を、表2に示す。
【0101】
(比較例1〜3)
表2に示した配合組成(単位:重量部)に従い、実施例1〜5と同様に、ペレット化および射出成形を行い、試験片を得、同様の評価方法にて実験を行った。
実施例5〜6における評価結果を、表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
実施例および比較例の比較から、本発明のリン含有重合体を難燃剤として樹脂組成物に含有させることにより、成形品の層状剥離が改善され、高温暴露後もブリードアウトが少なく、さらに、引張強度、引張伸びなどの機械物性の低下が小さいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のリン含有重合体は、熱可塑性樹脂の難燃剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖中に下記構造式(1)
【化1】

および構造式(2)
【化2】

(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)
で表される構造単位を同一分子中に有する、リン含有重合体。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を主成分とする、難燃剤。
【請求項3】
構造式(3)
【化3】

に示されるリン含有化合物とエチレングリコールおよび構造式(4)
【化4】

で示される二価アルコールを重縮合せしめることを特徴とする、
請求項1に記載のリン含有化合物の製造方法。
【請求項4】
構造式(3)
【化5】

に示されるリン含有化合物とエチレングリコールとを重縮合せしめて得られる、構造式(5)
【化6】

に示される化合物に、構造式(4)
【化7】

(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン基の繰り返し単位数を示し、2≦m+n≦50である。)で示される二価アルコールを作用させ、脱エチレングリコール反応をせしめることを特徴とする、請求項1に記載のリン含有重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−144042(P2009−144042A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322381(P2007−322381)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】