説明

リン回収システム

【課題】 再生利用する種晶の形状、寸法のばらつきを少なくする。
【解決手段】 被処理水を槽内に充填した種晶12と接触させて被処理水中のリンを種晶12の表面に晶析リンとして析出させる晶析反応槽10と、晶析反応槽10から抜き出した種晶12を受け入れてノズル38から噴射する水の動エネルギによって種晶12表面の晶析リンを剥離する晶析リン剥離槽34と、晶析リン剥離槽34を経た種晶12と晶析リンとを分離する液体サイクロン68と、液体サイクロン68で分離された種晶12を晶析反応槽10に返送する管路80と、液体サイクロン68によって種晶12から分離された晶析リンを回収する回収タンク78とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン回収システムに係り、特にリンを含む被処理水を晶析法によって処理することによってリンを回収するリン回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リンを含む被処理水からリンを回収する方法として晶析法が知られている。この方法は、リン,カルシウムイオン,水酸イオンが反応して生成するヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムを種晶の表面に晶析リンとして析出させることによって、リンを含む被処理水からリンを回収する。回収したリンは晶析反応槽から種晶ごと引抜いて、リン酸質肥料などに利用される。
【0003】
しかしながら、回収したリンを種晶ごと晶析反応槽から引抜くと、晶析反応槽に新たな種晶を充填する必要がある。このため、種晶の材料費が嵩み、運転コストが高くなるという欠点がある。
このような欠点を解消するための技術として、特許文献1や特許文献2には晶析法によって肥大化した種晶を粉砕(破砕)し、種晶として再利用する方法が開示されている。また、特許文献3には晶析反応槽を回転自在に構成し、この晶析反応槽を間欠的に回転させることによって種晶(脱リン材)の表面に析出した晶析リンを剥離させ、種晶の脱リン性能を回復させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−303889号公報
【特許文献2】特開2003−275774号公報
【特許文献3】特開2004−51452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された方法は種晶を機械的に粉砕(破砕)するので、粉砕(破砕)後の種晶の形状、寸法にばらつきが多く、晶析反応槽に再投入した場合に運転の不安定を招くという問題点があった。また、特許文献3に記載された方法は、晶析反応槽を回転自在にするための機構が複雑になるため設備費や運転保守費の高騰を招き、下水処理など大容量向けの処理設備に不適であるという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を改善し、再生利用する種晶の形状、寸法にばらつきが少なく、晶析反応槽に種晶として再投入した場合でも安定運転が得られ、かつ、大容量向けの処理設備としても好適なリン回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係るリン回収システムは、被処理水を槽内に充填した種晶と接触させて被処理水中のリンを前記種晶の表面に晶析リンとして析出させる晶析反応槽と、前記晶析反応槽から抜き出した種晶を受け入れて当該種晶表面の晶析リンを剥離する晶析リン剥離手段と、前記晶析リン剥離手段を経た種晶と晶析リンとを分離する分離手段と、前記分離手段で分離された種晶を前記晶析反応槽に返送する種晶返送手段と、前記分離手段によって種晶から分離された晶析リンを回収する晶析リン回収手段とを具備したことを特徴とする。
【0007】
上記構成のリン回収システムにおいては、前記晶析リン剥離手段は前記種晶に流体を噴射するノズルを具備しており、当該ノズルから噴射する流体の動エネルギによって種晶の表面に析出した晶析リンを剥離するように構成されたことが望ましい。また、前記晶析リン剥離手段には前記ノズルから噴射する水を内部で循環使用する循環手段が設けられていることが望ましい。なお、前記分離手段としては液体サイクロンが好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る晶析リン剥離手段では、種晶を粉砕(破砕)することなく種晶の表面に析出した晶析リンを剥離するように構成されている。このため、再生後の種晶は形状、寸法にばらつきが少なく原形をとどめている。したがって、この再生後の種晶を晶析反応槽に種晶として再投入した場合でも安定運転が得られる。また、種晶の表面から剥離し、回収する晶析リンは種晶を粉砕(破砕)することによって得られた余剰の晶析リンに比べて性状や形状が安定しており、肥料などに有効利用しやすい。また、晶析反応槽は格別の回転機構を必要としないので、大容量向けの処理設備としても好適なリン回収システムを実現することができる。
【0009】
また、晶析リン剥離手段はノズルから噴射する流体の動エネルギによって種晶の表面に析出した晶析リンを剥離するように構成されている。このため、種晶の表面に流体の動エネルギが万遍なく作用して、晶析リンの剥離が進行する。したがって、再生後の種晶は形状、寸法にばらつきが少ない。また、回収する晶析リンも性状や形状が安定しており、肥料などに有効利用しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明に係るリン回収システムの実施形態を示す系統図である。晶析反応槽10は縦型の流動床式反応槽であり、内部には直径が1〜3mm程度の種晶12が充填されている。循環ポンプ14によって晶析反応槽10の底部から流入した被処理水は、晶析反応槽10内を上向流で流れる。この被処理水の上向流によって晶析反応槽10内には種晶12の流動床が形成される。晶析反応槽10の上部には集水管16が配設されており、被処理水の大部分は集水管16から抜き出され、管路18を経て循環ポンプ14により循環される。管路18にはリン含有水である被処理水の流入管20が接続している。また、晶析反応槽10の上方には薬品供給管22が接続しており、リンの晶析反応に必要なカルシウムイオンや水酸イオンが適量、添加される。
【0011】
上記構成の晶析反応槽10では、被処理水が種晶12の流動床を上向流で通過する過程で、被処理水中のリンが種晶12の表面に晶析リンとして析出し、被処理水のリン濃度が低下する。そして、流入管20から流入した被処理水の水量に見合う量の処理水が排出管24から排出され、処理水槽26に一時的に貯留された後、管路28から系外へ放出される。この晶析処理の結果、晶析反応槽10内の種晶12は表面に析出した晶析リンによって次第に肥大化するとともに、活性が低下してくる。したがって、種晶12の一部を晶析反応槽10から間欠的に抜き出し、再生する。
【0012】
すなわち、種晶12の流動床が形成されている晶析反応槽10の下部には種晶12の引抜管30が接続されている。引抜管30に設けた開閉弁32を開放することによって、晶析反応槽10内の種晶12の一部を間欠的に抜き出す。抜き出した種晶12は晶析リン剥離手段である晶析リン剥離槽34に送り込まれる。水を張り込んだ晶析リン剥離槽34内に投入された種晶12はその自重によって槽底部36に沈降する。槽底部36にはノズル38が配置され、当該ノズル38から噴射する水の動エネルギによって種晶12の表面に析出した晶析リンを剥離する。
【0013】
図2は槽底部36における種晶12の挙動を示した説明図である。ノズル38は下部には縮流部38Aと攪拌筒40とを有している。ノズル38の縮流部38Aから高速で噴射する噴射水が槽底部36に激しく打ち付けられる。そして槽底部36で反発した噴射水の一部が攪拌筒40に戻り、攪拌筒40の内部では激しい攪拌が行われる。攪拌筒40の下端と槽底部36との間隙から種晶12が攪拌筒40の下方に流入し、攪拌筒40での内部攪拌により、種晶12が激しく削り合い、それを繰り返すことによって種晶12の表面に析出した晶析リンが剥離する。晶析リンが剥離した種晶12は噴射水の水流によって攪拌筒40の外側に吐き出され、晶析リンが剥離した種晶12よりも重たい種晶12が槽底部36に沈降,流入して晶析リンの剥離作用を受ける。この剥離作用の繰り返しによって、晶析リン剥離槽34内に投入された種晶12の表面から晶析リンが万遍なく剥離される。
【0014】
ノズル38から噴射する水は晶析リン剥離槽34内に張り込んだ水を循環ポンプ42で循環させることによって賄う。晶析リン剥離槽34の上部には傾斜板44が設けられ、槽内を上向流で循環する水はこの傾斜板44によって同伴する種晶12や晶析リンの剥離物が分離された後に循環部45に溢流し、噴射水として繰り返し利用される。
【0015】
上記した晶析リンの剥離操作を所定時間(例えば8時間)実施した後、循環ポンプ42を停止し、種晶12と晶析リンの剥離物を槽底部36に沈降させる。次に、槽底部36に接続された種晶排出管46の開閉弁48を開放する。種晶排出管46の他端はインジェクタポンプ50の吸込口52に接続している。インジェクタポンプ50の水供給口54は、清澄水槽55からの清澄水を管路56を介して圧送する圧送ポンプ58の吐出管60に接続されている。圧送ポンプ58を駆動させつつ、吐出管60に設けた開閉弁62を開放する。すると、インジェクタポンプ50に圧送ポンプ58からの圧送水が導入され、インジェクタポンプ50の吸込口52に吸引力が発生する。その結果、晶析リン剥離槽34の底部の種晶12と晶析リンの剥離物を含んだスラリーがインジェクタポンプ50の吸込口52から吸込まれる。このスラリーはインジェクタポンプ50の吐出口64に接続した管路66を介して分離手段である液体サイクロン68へ送られる。
【0016】
液体サイクロン68ではスラリー中の粒径が大きい種晶12が液体サイクロン68の底部から分離,排出され、晶析リンの剥離物を含む懸濁水70が液体サイクロン68の内筒72から分離,排出される。懸濁水70はフィルタ又はスクリーンなどの固液分離手段74によって分離水75と晶析リンの剥離物76とに分離され、分離水75は処理水槽26に返送される。また、晶析リンの剥離物76は晶析リン回収手段である回収タンク78に回収され、リン酸質肥料などに有効利用される。
【0017】
液体サイクロン68で分離された種晶12は種晶返送手段である管路80を介して晶析反応槽10内に返送される。なお、圧送ポンプ58の吐出管60にはさらに管路86を分岐させ、この管路86の開閉弁88を開放することによって、晶析リン剥離槽34へ水を張り込むようにする。
【0018】
上述の晶析反応槽10からの種晶12の抜き出し、晶析リン剥離槽34での晶析リンの剥離、液体サイクロン68による種晶と晶析リンの分離、分離した種晶12の晶析反応槽10への返送、分離した晶析リンの回収といった一連の操作を例えば一週間に一回の頻度で実施する。すると、晶析反応槽10内に充填された種晶12はその一部が一週間に一回の頻度で更新されることになり、晶析反応槽10では種晶12の流動床が常に安定して維持される。
【0019】
上述のとおり、本実施形態のリン回収システムによれば、晶析リン剥離槽34では、ノズル38から噴射する水の動エネルギによって種晶12の表面に析出した晶析リンを剥離するように構成されている。このため、種晶12の表面に流体の動エネルギが万遍なく作用して、晶析リンの剥離が進行する。したがって、再生後の種晶12は形状、寸法にばらつきが少なく原形をとどめており、この再生後の種晶12を晶析反応槽10に再投入した場合でも安定運転が得られる。また、種晶の表面から剥離し、回収する晶析リンも性状や形状が安定しており、肥料などに有効利用しやすい。また、晶析反応槽10は格別の回転機構を必要としないので、大容量向けの処理設備としても好適なリン回収システムを実現することができる。
【0020】
図3は本発明に係るリン回収システムにおける晶析リン剥離手段の変形例を示す断面図である。この晶析リン剥離手段100は、水が張り込まれた外筒90と内筒92とからなり、内筒92の下部にはブロワ94からの供給された圧縮空気を噴出する噴気ノズル96が配置されている。また、内筒92内には水流をジグザグに案内する案内部材98が設けられている。
【0021】
噴気ノズル96から噴出した空気の動エネルギ及び当該空気の浮力に基くエアリフト作用によって、内筒92では上向、外筒90では下向の循環流が生起される。この循環流に乗って種晶12も内筒92と外筒90を循環する。この循環の過程で種晶12は内筒92内の案内部材98に衝突し、或いは種晶12同士が激しく衝突し合う。この衝突力によって種晶12表面の晶析リンが徐々に剥離する。したがって、この循環運転を一定時間(例えば8時間)、継続することによって、種晶12表面から所定のレベルで晶析リンを剥離させることができる。
この晶析リン剥離手段100は前記実施形態に係る晶析リン剥離槽34に代替するものであり、晶析リン剥離槽34に比べて装置構成を簡潔にすることができる。
【0022】
前記実施形態では晶析反応槽として縦型の流動床式のものを示した。しかしながら、本発明に係る晶析反応槽はこれに限定されず、固定床式の反応槽にも適用できる。また、本発明に係る晶析リン剥離手段としては、ノズルから噴射する流体の動エネルギによって種晶の表面に析出した晶析リンを剥離するものに限らず、種晶を混合攪拌し、種晶同士の接触、摩擦力によって晶析リンを剥離する構造を採用してもよい。また、本発明に係る分離手段は液体サイクロンに限らず、他形式の分級機を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るリン回収システムの実施形態を示す系統図である。
【図2】槽底部36における種晶12の挙動を示した説明図である。
【図3】本発明に係る晶析リン剥離手段の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10………晶析反応槽、12………種晶、14………循環ポンプ、16………集水管、20………流入管、22………薬品供給管、24………排出管、26………処理水槽、30………引抜管、34………晶析リン剥離槽、36………槽底部、38………ノズル、38A………縮流部、40………攪拌筒、42………循環ポンプ、44………傾斜板、45………循環部、46………種晶排出管、50………インジェクタポンプ、55………清澄水槽、58………圧送ポンプ、60………吐出管、68………液体サイクロン、70………懸濁水、74………固液分離手段、75………分離水、76………晶析リンの剥離物、78………回収タンク、90………外筒、92………内筒、94………ブロワ、96………噴気ノズル、98………案内部材、100………晶析リン剥離手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を槽内に充填した種晶と接触させて被処理水中のリンを前記種晶の表面に晶析リンとして析出させる晶析反応槽と、前記晶析反応槽から抜き出した種晶を受け入れて当該種晶表面の晶析リンを剥離する晶析リン剥離手段と、前記晶析リン剥離手段を経た種晶と晶析リンとを分離する分離手段と、前記分離手段で分離された種晶を前記晶析反応槽に返送する種晶返送手段と、前記分離手段によって種晶から分離された晶析リンを回収する晶析リン回収手段とを具備したことを特徴とするリン回収システム。
【請求項2】
前記晶析リン剥離手段は前記種晶に流体を噴射するノズルを具備しており、当該ノズルから噴射する流体の動エネルギによって種晶の表面に析出した晶析リンを剥離するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のリン回収システム。
【請求項3】
前記晶析リン剥離手段には前記ノズルから噴射する水を内部で循環使用する循環手段が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のリン回収システム。
【請求項4】
前記分離手段が液体サイクロンであることを特徴とする請求項1に記載のリン回収システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−69175(P2007−69175A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261961(P2005−261961)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】