説明

リン回収・肥料化方法

【課題】下水処理場等に集積されているリンを低コストで、かつ回収したリンを利用し易いように回収する。また、回収したリンを肥料として有効利用する。
【解決手段】リン発生源の排水中のリンを非晶質ケイ酸カルシウム系の材料からなるリン回収材に吸着させて回収する。リン発生源の排水にリン回収材を添加した後の該排水のpHを7.0以上とすることが好ましく、リン発生源の排水のpHを6.0以下に調整して脱炭酸処理した後に、リン回収材を添加することが好ましい。リン回収材は、非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体であって、Ca/Siモル比が0.8以上20以下のものが好ましく、該凝集体は固液分離し乾燥するか、該凝集体を含むスラリーやペーストとしたものを用いることもできる。回収したリン回収材は、肥料化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場等のリン発生源の排水からリンを回収する方法及び回収したリンを肥料化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料の三要素の1つであるリンは、その原料をリン鉱石に依存し、我が国ではリン鉱石を産出しないため、全量を海外から輸入している。リン鉱石は、将来枯渇することが予想されるなど、今後入手が極めて困難になる可能性があるため、国内で利用されずに廃棄されているリンを回収し、肥料として活用する技術の開発が活発に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−285635号公報
【特許文献2】特開2009−285636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リンの回収コストが高いことや、回収したリンの利用方法の面で問題があることなどから、リンの回収事業が進まない状況にある。そのため、国内の下水処理場には、リン鉱石の輸入量に匹敵するほどの膨大な量のリンが集積しているが、リン資源として有効利用されているのはその5%程度に留まっている。
【0005】
また、ケイ酸カルシウムを主成分とする脱リン材が従来から知られており、リンとの反応性が高く、かつリンを吸着して形成した凝集体の沈降性に優れたリン回収材が種々提案されている。例えば、平均粒子径(メジアン径)150μm以下の微粉末であって細孔容積0.3cm3/g以上の多孔質ケイ酸カルシウム水和物からなるリン回収材(特許文献1)、あるいはBET比表面積80m2/g以上、細孔容積0.5cm3/g以上の多孔質のケイ酸カルシウム水和物からなるリン回収材がある(特許文献2)。
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載されているリン回収材は、リンとの反応性が高く、ヒドロキシアパタイトを生成し、排水中のリン濃度を急激に低減することができ、消石灰等の他の石灰質資材よりもリンの回収率が高い利点を有している。
【0007】
そこで、本発明は、下水処理場等に集積されているリンを、リンとの反応性がよく、吸着後の凝集体の沈降性に優れたリン回収材を用い、低コストで、かつ回収したリンを利用し易いように回収する方法を提供すること、及び回収したリンを高品質の肥料として有効利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、リン回収方法であって、リン発生源の排水中のリンを非晶質ケイ酸カルシウム系の材料からなるリン回収材に吸着(反応)させて回収することを特徴とする。
【0009】
非晶質ケイ酸カルシウム系の材料は、リンとの親和性が高く、多孔質で比表面積が大きいため、リンの吸着能力が高く、選択的にリンを吸着することができ、リン発生源に集積されているリンを低コストで、かつ利用し易いように回収することができる。
【0010】
上記リン回収方法において、前記リン発生源の排水に前記リン回収材を添加した後の該排水のpHを7.0以上とすることができる。これにより、発生したリン酸カルシウムが液側に溶解するのを防止すると共に、排水中のカルシウムが炭酸カルシウムとなってリン酸カルシウムが生成され難くなることなどを防止し、より効率よくリン回収材によってリンを吸着することができる。
【0011】
上記リン回収方法において、前記リン発生源の排水のpHを6.0以下に調整して脱炭酸処理した後に、前記リン回収材を添加することができる。これにより、排水に含まれる炭酸から炭酸カルシウムが生成されることを防止し、さらに効率よくリンを吸着することができる。
【0012】
上記リン回収方法において、前記排水中のリンを吸着したリン回収材を含むスラリーを固液分離して脱水ケーキ状のリン回収物を得ると共に、得られたろ液を該リン発生源で用いることができる。これにより、取り扱いの容易なリン回収物を得ることができる。
【0013】
上記リン回収方法において、前記リン発生源を下水処理場とすることができ、下水処理場に集積されている大量のリンを低コストで、かつ回収したリンを利用し易いように回収することができる。
【0014】
前記排水を、下水処理場で発生した汚泥から分離された排水とすることができ、汚泥をリン回収物に含まないようにすることで、肥料用として有効利用する際に好ましいリン回収物を得ることができる。
【0015】
上記リン回収方法において、前記リン回収材は、非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体であって、Ca/Siモル比を0.8以上20以下とすることができる。
【0016】
前記リン回収材は、非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなるので、リンを吸着する性能に優れており、かつリンを吸着して形成した凝集体の沈降性がよいので、リンの除去効果が高く、かつ処理時間を短縮することができる。
【0017】
上記リン回収方法において、前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を、ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰を混合した後、非加熱下で生成することもできる。
【0018】
前記リン回収材は、ケイ酸ナトリウム水溶液を原料に用いるので、生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2以外の不溶解物が少なく、かつ高温で水熱合成を行わせる必要がなく、常温で生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体からなるので、製造が容易であり、かつ経済的にリンを回収することができる。
【0019】
上記リン回収方法において、前記リン回収材を、前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体あるいは非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を固液分離し乾燥した固体分であるか、又は前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体あるいは非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を含むスラリーもしくはペーストとすることができる。
【0020】
前記リン回収材は、原料としてケイ酸ナトリウム水溶液を用いるので、石灰を加えて非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を生成する工程において、非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2以外の不溶解物が殆ど生じないので、このリン回収材を回収するときに上記以外の不溶解物を分離する工程が不要である。したがって、リン回収材を含むスラリー又はペーストのまま使用することができる。
【0021】
さらに、本発明は、前記リン回収方法のいずれかにより回収したリン回収材から肥料を製造することを特徴とする。
【0022】
そして、本発明によれば、リン発生源の排水中のリンをリン回収材に吸着(反応)させることで、リンの回収を低コストで行うことができると共に、選択的にリンを吸着させることで、リンを吸着したリン回収材を用いて製造したりん肥料の品質を高く維持することもできるため、リン発生源の排水中のリンを回収して肥料として有効利用することができる。
【0023】
さらに、本発明は、前記リン回収方法のいずれかにより回収したリン回収材を原料として製造したりん酸肥料である。本発明のりん酸肥料は、く溶性りん酸が高い値を示し、十分な肥料効果が得られる肥料となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、下水処理場等に集積されているリンを低コストで、かつ回収したリンを利用し易いように回収し、回収したリンを肥料として有効利用することなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかるリン回収方法及び肥料化方法を実施するシステムの一例を示す全体構成図である。
【図2】本発明にかかるリン回収方法を実施する設備の第1実施例を示す全体構成図である。
【図3】本発明にかかるリン回収方法を実施する設備の第2実施例を示す全体構成図である。
【図4】本発明にかかるリン回収方法の試験結果を示すグラフである。
【図5】本発明に用いるリン回収材の製造例を示す工程図である。
【図6】本発明に用いるリン回収材の性状を検証した結果(検証例2)の非晶質ケイ酸カルシウム水和物(CSH)単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体のXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明においては、本発明にかかるリン回収・肥料化方法を下水処理場に適用した場合を例にとって説明する。
【0027】
図1は、本発明を適用した下水処理場とりん肥料化設備を示し、この下水処理場1は、下水S1中の沈殿し易い浮遊物や泥MAを濃縮して濃縮槽5へ送る最初沈殿池2と、沈殿処理を終えた最初沈殿池2からの有機物、窒素、リン等を含む汚水S2を微生物等で処理する生物処理槽3と、生物処理槽3で処理された活性汚泥S3を時間をかけて沈殿させ、上澄み水Dを放流する最終沈殿池4と、最終沈殿池4からの余剰汚泥S4を濃縮する濃縮機6と、濃縮機6からの濃縮汚泥S6及び濃縮槽5からの濃縮汚泥S7を貯留する貯槽7と、貯槽7から排出された濃縮汚泥S8を分解するメタン発酵槽8と、メタン発酵槽8から排出された汚泥S9を貯留する貯槽9と、貯槽9から排出された汚泥S10を、脱水汚泥S11と汚泥脱離液W3とに固液分離する脱水機10と、汚泥脱離液W3からリンを回収するリン回収設備11とで構成される。また、りん肥料化設備14は、リン回収設備11にて回収されたリン回収物APを乾燥させる乾燥機15と、乾燥機15から排出されたリン回収物AP’を造粒する造粒機16とで構成される。
【0028】
リン回収設備11は、リン回収材Aによって汚泥脱離液W3中のリンを吸着するリン回収工程12と、リンを吸着したリン回収材Aのスラリーからリン回収物APを回収する回収物分離工程13とで構成される。尚、リン回収設備11の具体的な装置構成例については後述する。
【0029】
リン回収材Aは、非晶質ケイ酸カルシウム系の材料からなり、この材料は、リンとの親和性が高く、多孔質で比表面積が大きいため、リンの吸着能力が高く、選択的にリンを吸着することができる。
【0030】
非晶質ケイ酸カルシウム系の材料とは、例えば、ケイ酸原料と石灰原料とを水性スラリーとし、水酸化アルカリを添加して水熱反応させることにより生成させた平均粒子径(メジアン径)10μm以上150μm以下、細孔容積0.5cm3/g以上、BET比表面積80m2/g以上の物や、ケイ酸ナトリウム水溶液にCa(OH)2を加えて生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物(以下「CSH」という)と、未反応のCa(OH)2との凝集体からなり、Ca/Siモル比が1.5〜10である物や、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、消石灰を加えて水熱合成したCSHとCa(OH)2との凝集体を回収してなる組成物であって、Ca(OH)2を2.5〜80重量%含み、Ca/Siモル比が1.0〜7.0である物、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)と石灰原料を非加熱下で混合させることにより生成させたCSH単体あるいはCSHとCa(OH)2との凝集体(以下「CSH凝集体」という)を回収してなる組成物であって、Ca/Siモル比が0.8〜20である物等をいう。尚、リン回収材Aの具体的な製造例については後述する。
【0031】
りん肥料化設備14は、回収したリン回収物APを用いた肥料を製造する設備である。ここでは、乾燥、造粒等の簡便な手法により、リンを吸着させたリン回収材Aをそのまま肥料とすることも可能である。尚、乾燥、造粒等の処理は、施肥の簡便さ、発塵防止のために実施するもので、該処理によっても肥料としての効果は変わらないため、必要に応じて行えばよい。
【0032】
次に、上記構成を有する下水処理場1でのリン回収方法及びりん肥料化設備14での肥料化方法について、図1を参照しながら説明する。
【0033】
下水処理場1に流入した下水S1を最初沈殿池2に導き、最初沈殿池2で沈殿し易い浮遊物や泥MAを濃縮して濃縮槽5へ送ると共に、有機物等を含む汚水S2を生物処理槽3に供給して微生物等で処理する。
【0034】
生物処理槽3で生成された活性汚泥S3を最終沈殿池4で時間をかけて沈殿させ、沈殿した汚泥を余剰汚泥S4として濃縮機6に供給し、返送汚泥S5を生物処理槽3に戻すと共に、最終沈殿池4で得られた上澄み水Dを放流する。
【0035】
最終沈殿池4からの余剰汚泥S4を濃縮機6で濃縮し、濃縮槽5に貯留された濃縮汚泥S7と共に、一旦貯槽7に貯留した後、メタン発酵槽8に供給する。メタン発酵槽8で、貯槽7から排出された濃縮汚泥S8を微生物によって分解し、発生した汚泥S9を貯槽9で一旦貯留した後、汚泥S10を脱水機10に供給し、固液分離して脱水汚泥S11を得ると共に、得られた汚泥脱離液W3をリン回収設備11のリン回収工程12に供給する。
【0036】
リン回収工程12において汚泥脱離液W3にリン回収材Aを添加し、リン回収材Aによって汚泥脱離液W3に含まれるリンを吸着する。リンを吸着したリン回収材Aを含むスラリーS12を回収物分離工程13において固液分離するなどしてリン回収物APを得ると共に、回収物分離工程13で生じた返送水W4を、濃縮槽5で生じた返送水W1、及び濃縮機6で生じた返送水W2と共に最初沈殿池2に戻す。リンを吸着したリン回収材Aは、凝集性及び沈降性に優れるため、ろ過(固液分離)を容易に行うことができ、下水処理場1における設備・運転コストを低く抑えることができる。
【0037】
りん肥料化設備14において、固液分離等により回収したリン回収物APを、乾燥機15及び造粒機16によって、乾燥、造粒等の簡便な方法を用いて肥料化する。リン回収材Aのリン選択吸着性が高いため、りん肥料化設備14では、肥料取締法等の品質に関する規定を満足させることができる肥料を製造することができる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、下水処理場1で発生した汚泥脱離液W3からリン回収設備11において、リン回収材Aを用いて低コストでリン回収物APを回収することができる。加えて、本実施の形態によれば、回収したリン回収物APを肥料化設備14で肥料化できると共に、リン回収材Aに選択的にリンを吸着させることで、りん肥料化設備14において、リン回収物APを用いて高品質の肥料Fを製造することができ、従来廃棄されていたリンを回収し、肥料として活用することが可能となる。
【0039】
尚、上記実施の形態では、汚泥脱離液W3に高濃度のリンが含まれているため、汚泥脱離液W3にリン回収材Aを添加してリンを回収したが、返送水W1、W2にもリンが含まれているため、これらにリン回収材Aを添加してリンを回収することもできる。
【0040】
また、上記実施の形態では、メタン発酵槽8を備えた下水処理場1を例示し、メタン発酵槽8の下流側に配置された脱水機10から排出された汚泥脱離液W3からリンを回収したが、メタン発酵槽8の存在しない下水処理場からも同様に、汚泥脱離液からリン回収材を用いてリンを回収することができる。この場合には、汚泥脱離液に含まれる二酸化炭素(炭酸イオン)が少ないため、二酸化炭素を除去するエアレーションの工程やそれに先立って行うpH調整の工程を省略することができる。
【0041】
さらに、上記実施の形態では、返送水W1、W2、汚泥脱離液W3にリン回収材Aを添加してリンを回収したが、濃縮汚泥や汚泥であるS6〜S10に対して本リン回収方法を適用することもできる。
【0042】
次に、上記リン回収設備11の具体的な装置構成例について、図2及び図3を参照しながら説明する。
【0043】
図2は、リン回収設備11の第1実施例として、連続式のリン回収設備21を示し、このリン回収設備21は、汚泥脱離液W22(図1の汚泥脱離液W3に相当)のpH調整を行うため、pH計22aを備えた第1のpH調整槽22と、第1のpH調整槽22から排出された汚泥脱離液W23に空気を添加しながら撹拌することによって二酸化炭素を除去すると共に、pH調整を行うため、エアレーション装置23aと、pH計23bとを備えた第2のpH調整槽23と、CSHの脱水ケーキからなるリン回収材Aに上水W21を添加してスラリー状とするCSHスラリー調整槽25と、第2のpH調整槽23からの汚泥脱離液W24に、CSHスラリー調整槽25からのCSHスラリーS21を添加し、リン回収材Aに汚泥脱離液W24中のリンを吸着させるため、pH計24aを備えたリン回収槽24と、リン回収槽24から排出されたスラリーS22中のリン回収物を沈降分離する沈降槽26と、沈降槽26から排出されたリン回収物を含むスラリーS23を貯留するスラリー槽27と、スラリー槽27から排出されたスラリーS24を固液分離する脱水機28等で構成される。尚、沈降槽26に代えてセパレータを用いることもできる。また、リン回収材Aと上水W21に代えて、後述するケイ酸ナトリウム水溶液と石灰(スラリー)を投入することでCSHスラリーS21とすることもできる。
【0044】
次に、上記構成を有するリン回収設備21の動作について、図2を参照しながら説明する。
【0045】
第1のpH調整槽22に汚泥脱離液W22を受け入れ、塩酸等の酸を添加し、汚泥脱離液W22のpHを6.0以下、好ましくは5.3以下に調整し、汚泥脱離液W22中の炭酸イオンを二酸化炭素に変化させると共に、下流側のリン回収槽24のpHが7.0以上となるように調整する。リン回収槽24のpH調整を行うのは、リン回収槽24で発生したリン酸カルシウムが液側に溶解するのを防止すると共に、リン回収槽24内のカルシウムが炭酸カルシウムとなってリン酸カルシウムが生成され難くなることなどを防止し、より効率よくリン回収材Aによってリンを吸着するためである。
【0046】
リン回収材Aはアルカリ性物質であるので、pH調整槽22の酸添加量を調整しておき、リン回収槽24に本リン回収材を添加することにより、pHを7.0以上となるようにする。酸は、炭酸イオンを二酸化炭素に変化させることができれば種類を問わない。
【0047】
次に、第2のpH調整槽23において、第1のpH調整槽22から排出された汚泥脱離液W23をエアレーション装置23aによってエアレーションしながら撹拌することにより、汚泥脱離液W23から二酸化炭素を除去する。これによって汚泥脱離液W23のpHが上昇する。尚、pH調整槽を第1のpH調整槽22と、第2のpH調整槽23の2つに分けたのは、pHを下げることによって炭酸が抜けるものの、脱炭酸の過程でpHが上昇するため、1つのpH調整槽で処理すると、pHを5.3以下に維持するための酸の使用量が増加するためである。
【0048】
該撹拌時間(滞留時間)は、好ましくは5分以上120分以下であり、より好ましくは15分以上60分以下である。撹拌時間が5分未満では、汚泥脱離液W24中の全炭酸[炭酸(H2CO3)、重炭酸(HCO3-)及び炭酸(CO32-)]濃度が高くなりリン回収材のリン回収性能が低下し、120分を超えると経済性に劣る。
【0049】
該pH調整により汚泥脱離液W24中の全炭酸濃度を、好ましくは150mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下とする。全炭酸濃度が150mg/L以下であればリン回収材のリン回収性能が高くなる。
【0050】
一方、CSHスラリー調整槽25において、リン回収材Aと上水W21とを混合してCSHスラリーS21を生成する。pH調整後の汚泥脱離液W24と、CSHスラリーS21とをリン回収槽24で混合し、リン回収材Aに汚泥脱離液W24に含まれるリンを吸着させる。
【0051】
リン回収槽24における混合時間(滞留時間)は、好ましくは5分以上120分以下であり、より好ましくは15分以上60分以下である。混合時間が5分未満では、リン回収工程のリン回収性能が低下し、120分を超えると経済性に劣る。
【0052】
次に、リンを吸着したリン回収材A、すなわちリン回収物を含むスラリーS22を沈降槽26に供給し、沈降槽26で沈降したスラリーS23をスラリー槽27に一時的に貯留した後、脱水機28に供給して固液分離する。これにより、脱水ケーキC21にリン回収物を得ることができる。また、脱水機28で発生した返送水W26は、図1の最初沈殿池2等に戻す。一方、沈降槽26の上澄み液W25も返送水として図1の最初沈殿池2等に戻す。
【0053】
図3は、リン回収設備11の第2実施例として、バッチ式のリン回収設備31を示し、このリン回収設備31は、汚泥脱離液W31(図1の汚泥脱離液W3に相当)に空気を添加しながら撹拌することによって二酸化炭素を除去すると共に、pH調整を行い、さらにリン回収材Aを添加し、リン回収材Aに汚泥脱離液W31中のリンを吸着させるため、エアレーション装置32aと、pH計32bとを備えたリン回収槽32と、リン回収槽32からリンを吸着したリン回収材AのスラリーS31を回収するスラリー槽33と、スラリー槽33から排出されたスラリーS32を固液分離する脱水機34等で構成される。
【0054】
次に、上記構成を有するリン回収設備31の動作について、図3を参照しながら説明する。
【0055】
リン回収槽32に汚泥脱離液W31を受け入れ、塩酸等の酸を添加し、汚泥脱離液W31のpHを6.0以下、好ましくは5.3以下に調整し、汚泥脱離液W31中の炭酸イオンを二酸化炭素に変化させ、エアレーション装置32aでエアレーションしながら撹拌することにより、汚泥脱離液W31から二酸化炭素を除去する。また、これにより、リン回収材Aを添加した後のリン回収槽32の内部のpHが7.0以上となる。酸は、炭酸イオンを二酸化炭素に変化させることができれば種類を問わない。
【0056】
該撹拌時間は、好ましくは5分以上120分以下であり、より好ましくは15分以上60分以下である。撹拌時間が5分未満では、汚泥脱離液W31中の全炭酸濃度が高くなりリン回収材のリン回収性能が低下し、120分以上を超えると経済性に劣る。
【0057】
該pH調整により汚泥脱離液W31中の全炭酸濃度を、好ましくは150mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下とする。全炭酸濃度が100mg/L以下であればリン回収材のリンの回収性能が高くなる。
【0058】
次に、リン回収槽32にリン回収材A(脱水ケーキ)を添加して撹拌し、リン回収材Aに汚泥脱離液W31に含まれるリンを吸着させる。ここで、上述のように、汚泥脱離液W31のpHを7.0以上に調整したため、リン回収槽32で発生したリン酸カルシウムが液側に溶解するのを防止すると共に、リン回収槽32内のカルシウムが炭酸カルシウムとなってリン酸カルシウムが生成され難くなることなどを防止することができ、より効率よくリン回収材Aによってリンを吸着することができる。
【0059】
該撹拌時間は、好ましくは5分以上120分以下であり、より好ましくは15分以上120分以下である。混合時間が5分未満では、リン回収工程のリン回収率が低下し、120分を超えると経済性に劣る。
【0060】
上記の状態をしばらく維持し、リンを吸着したリン回収材Aがリン回収槽32の底部に沈降したら、底部よりリンを吸着したリン回収材AのスラリーS31を抜き出し、スラリー槽33に供給すると共に、スラリーS31から分離した処理水W32を返送水として図1の最初沈殿池2等に戻す。
【0061】
次いで、スラリー槽33からスラリーS32を脱水機34に供給して固液分離する。これにより、脱水ケーキC31にリン回収物を得ることができる。脱水機34で得られたろ液W33は、リン回収槽32に戻して再利用する。
【0062】
尚、上記2つの実施形態においては、酸を添加し、汚泥脱離液W22、W31のpHを6.0以下、好ましくは5.3以下に調整し、これらの脱離液W22、W31中の炭酸イオンを二酸化炭素に変化させ、エアレーションしながら撹拌することにより、汚泥脱離液W22、W31から二酸化炭素を除去したが、汚泥脱離液W22、W31の炭酸イオン含有量が多くなければ、この工程を省略することもできる。
【0063】
りん肥料としての高い効果を得るためには、上記の実施形態のように返送水や汚泥脱離液に対して本リン回収設備を適用することが好ましいが、濃縮汚泥あるいは汚泥に対して本リン回収設備を適用することもできる。この場合では、すでに下水処理場に設置されている脱水機や貯槽をpH調整槽等へ活用できるため、本発明のリン回収方法を実施するために新たに設置する設備を少なくすることができる。したがって、排水からのリンの除去あるいは低減のみを目的とする場合、又は下水汚泥を肥料や肥料原料として使用する場合に適している。
【0064】
次に、本発明にかかる排水からのリン回収方法の試験例について説明する。
【0065】
実施例として、非晶質ケイ酸カルシウム水和物を、比較例として、結晶質のケイ酸カルシウム水和物であるALCを下水汚泥脱離液に添加し、1時間常温にて撹拌してリンを回収した。これらの添加量は、添加資材中のカルシウム量と汚泥脱離液中のリン量がモル比で2.0になるように設定した。また、リン回収の開始から0.5h、1h後に排水をサンプリングし、液中のリン濃度をJIS K0102(工場排水試験法)のモリブデン青吸光光度法により測定した。尚、汚泥脱離液中のリン濃度は、110.0mg−P/Lであった。試験結果を表1及び図4に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1及び図4から明らかなように、本発明にかかる非晶質ケイ酸カルシウム水和物を用いた場合には、ALCを用いた場合に比較して格段にリン回収率が高いことが判る。
【0068】
尚、上記実施の形態においては、本発明にかかる排水からのリン回収方法を下水処理場の排水に適用した場合を例示したが、下水処理場以外にも、し尿処理場やリンを使用している工場排水処理設備等のリン発生源で生じた排水に本発明を適用することも可能である。
【0069】
次に、本発明に用いるリン回収材の製造例及びその性状の検証結果について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0070】
図5は、本発明に用いるリン回収材の製造例を示す工程図である。
【0071】
本発明に用いるリン回収材は、原料としてケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を用いることが好ましい。原料のケイ酸ナトリウム水溶液は市販品を使用することができる。ケイ酸ナトリウム水溶液は不純物が少ないので、製造工程において生成したCSHとCa(OH)2以外の不溶解物が殆ど生じない。従って、CSH単体又はCSHとCa(OH)2との凝集体を回収するときに、上記以外の不溶解物を分離する工程が不要であり、製造工程が簡単になる。また、生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物とこれに取り込まれるCa(OH)2以外の不溶解物を殆ど生じないので、上記CSH単体又はCSH凝集体を含む脱水ケーキ、又は乾燥物(粉体)の態様でも用いることができるが、スラリー又はペーストのまま使用することができる。スラリー又はペーストで用いることで、脱水機や乾燥機が不要となり、現地で簡易なリン回収材製造設備を設置することでリン回収材を製造しながらリン回収を行うことができ、リン回収材の劣化(炭酸化等)の虞もない。
【0072】
ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰(消石灰又は生石灰)を混合し、CSH単体又はCSH凝集体を生成させる。ケイ酸ナトリウム水溶液は粘性が高いので、水を加えて水溶液にし、また石灰も水を加えてスラリーにし、両者を混合すればよい。均一に反応するように、混合後に撹拌するのが好ましい。加熱する必要はなく、室温下で、ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰が反応してCSH単体又はCSH凝集体が生成する。石灰の混合量は、生成するCSH単体又はCSH凝集体のCa/Siモル比が0.8〜20になるように適宜調整すればよい。ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰との混合時間は、好ましくは10分以上120分以下であり、より好ましくは15分以上60分以下である。混合時間が10分未満では、リン回収材の生成反応が不十分となり、120分を超えると経済性に劣る。
【0073】
本発明のリン回収材は、CSHやCSH凝集体のCa/Siモル比は0.8〜20であり、好ましくは1.0〜10である。該値が0.8未満ではリンの吸着性能が不十分であり、20を超えるとリンを吸着した後のリン回収材の沈降性が低下する。該値が0.8〜20であればリン回収材のリンの吸着性能及び沈降性はいずれも高く好ましい。ちなみに、前記凝集体中のCa(OH)2の含有率(示差熱分析(TG−DTA)による測定)は、Ca/Siモル比が1.5の場合に約10wt%、5.5の場合に約50wt%、10の場合に約62wt%、20の場合に約86wt%である。
【0074】
ケイ酸ナトリウム水溶液に、CSHを生成する石灰量(当量)を超えて石灰を過剰に混合すると、CSHが余剰の石灰から生じるCa(OH)2を取り込むため、CSHの内部にCa(OH)2が分散した状態の凝集体が生成する。前記凝集体は、ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰を当量混合して生成したCa(OH)2を含まないCSHにCa(OH)2を単に混合した混合物とは異なり、沈降性がより高いものである。
【0075】
また、本発明のリン回収材は、リン含有水中のリン量に対して投入したリン回収材中のカルシウム量がCa/Pモル比で2になるようにリン回収材とリン含有水100mLを、20℃で1時間混合したときのリン回収率が60%以上であるものが好ましく、70%以上であるものがより好ましい。該値が60%以上であれば、リンを吸着した後のリン回収材中のリン濃度は十分に高いため、肥料効果の高いりん酸肥料として利用することができる。
【0076】
ここで、リン回収率は下記式により算出する。
【0077】
R=100×(P0−P)/P0
式中、Rはリン回収率(%)を表し、P0はリン回収材を添加する前のリン含有水中のリン濃度を表し、Pはリン回収材を添加してリンを吸着した後にリン含有水をろ過して得たろ液中のリン濃度を表す。
【0078】
また、本発明のリン回収材は、沈降性指標が60%以上のものが好ましく、75%以上のものがより好ましい。該値が60%以上であれば、リンを吸着した後の回収材の分離が容易であり、沈降したリン回収物スラリーの脱水ろ過量が減らせる。また、上澄みにリンを含有する懸濁物がないので、その他の成分に規制されなければ上澄みをろ過することなく排水できる。
【0079】
沈降性指標は以下の(i)〜(v)により求める。
(i) リン回収材と、リン濃度(P0)が既知のリン含有水100mLを、リン含有水中のリン量に対して投入したリン回収材中のカルシウム量がCa/Pモル比で2になるようにして、20℃で1時間混合し、混合液を調製する。
(ii)前記混合液の一部をろ過してろ液を分離し、ろ液中のリン濃度(P)を測定してリン回収率R1を求める。リン濃度は、例えば、JIS K 0102「工場排水試験方法」に規定するモリブデン青吸光光度法に準拠して測定することができる。
(iii)混合液の残りを所定時間静置した後、デカンテーションにより上層の懸濁液60mLを分離する。
(iv)前記分離した懸濁液に塩酸を添加してpH1にし、撹拌して懸濁物を溶解させた後、溶液中のリン濃度(P)を測定してリン回収率R2を求める。
(v)沈降性指標(S)は、下記式により算出する。
【0080】
S(%)={1−(R1−R2)/R1}×100
さらに、本発明のリン回収材のBET比表面積は30〜80m2/g、細孔容積は0.1〜0.3cm3/gとするのが好ましい。BET比表面積及び細孔容積が前記範囲にあれば、リンの吸着性能がより向上する。
【0081】
以下、本発明に用いるリン回収材の製造例を比較例と共に示す。
【0082】
〔検証例1: CSH単体とCSH凝集体の生成〕
表2に示す量の水道水を2等分して、各々、表2に示す量のケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス3号)と消石灰(薬仙石灰社製、JIS R 9001:2006 特号消石灰に準拠)に添加して撹拌し、ケイ酸ナトリウム水溶液の希釈液と石灰のスラリーを調製した。次に、該希釈液と該スラリーとを表2に示すCa/Si配合比で混合して常温で1時間撹拌し、所望のCa/Siモル比のCSH及びCSH凝集体を生成させた。ここで、Ca/Si配合比とは、原料である石灰中のCaとケイ酸ナトリウム水溶液中のSiのモル比である。
【0083】
【表2】

【0084】
尚、試料9については、水道水に0.5wt%量(外割り)のNaOHを添加して70℃に加温した後に、粒径1mm以下に粉砕したケイ質頁岩(北海道産、アルカリ可溶性SiO2量45%)を投入し、同温で1時間撹拌し、ケイ質頁岩中のアルカリ可溶性シリカを溶解した。このシリカ溶解液に消石灰(薬仙石灰社製消石灰、JIS R 9001:2006 特号消石灰に準拠)を加え、70℃に加熱し、3時間撹拌してCSHを水熱合成した。合成後、デカンテーションして不溶解残渣を分離し、上澄液に懸濁しているリン回収材を回収した。
【0085】
スラリー状のCSH及びCSH凝集体におけるCa/Siモル比をJIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して測定した。これらの結果を表2に示す。
【0086】
また、BET比表面積及び細孔容積は、150℃で1時間真空脱気を行った試料について、Micrometrics社製の比表面積測定装置 ASAP-2400を用いて窒素吸着法(BJH法)により測定した。この結果を表2に示す。
【0087】
また、Ca/Siモル比が1.1の試料3と5.5の試料5の乾燥粉末のXRDチャートを図6に示す。このチャートに示すように、試料3はCSHのピークのみが現れており、試料5はCSHとCa(OH)2のピークが現れている。
【0088】
〔検証例2: リン回収率と沈降性〕
リン含有水として、下水処理場において発生した余剰汚泥の脱水ろ液(リン濃度(P0)100mg/L、全炭酸濃度1500mg/L)を用いた。試料1〜8のリン回収材、及び比較例である消石灰(薬仙石灰社製消石灰、JIS R 9001:2006 特号消石灰に準拠)については、該リン含有水にpH5.3になるまで塩酸を滴下し、脱炭酸したリン含有水(全炭酸濃度69mg/L)を使用した。試料2、3、4、5、7、9のリン回収材については、脱炭酸を行っていないリン含有水も使用した(2B、3B、4B、5B、7B、9B、5Cが対応)。
【0089】
該脱水ろ液100gに対し、リン回収材のスラリー(反応液)を、脱水ろ液中のリン量に対して投入したリン回収材中のカルシウム量がCa/Pモル比で2になるように混合した後、該混合液を室温(20℃)で1時間撹拌してリン回収材にリンを吸着させた。尚、試料5のリン回収材については、該Ca/Pモル比で3になるように混合した場合も行った(5Cが対応)。
【0090】
次に、該混合液の一部5mLを、ろ紙5Cを用いてろ過し、得られたろ液中のリン濃度(P)を測定しリン回収率(R1)を求めた。
【0091】
また、混合液の残りを100mLのメスシリンダーに入れ1時間静置した後、デカンテーションにより上層の懸濁液60mLを分離した。前記分離した懸濁液に塩酸を添加してpHを1に調整し撹拌して懸濁物を溶解させた後、溶液中のリン濃度(P)を測定しリン回収率(R2)を求め、さらに沈降性指標(S)を求めた。これらの結果を表3に示す。
【0092】
尚、リン濃度の測定は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に規定するモリブデン青吸光光度法に準拠して行った。全炭酸濃度の測定は、全有機炭素分析装置(TOC-Vcsn:島津製作所制)を用いて無機炭素(IC)モードにて測定した。
【0093】
【表3】

【0094】
表3に示すように、リン回収率(R1)は、Ca/Siモル比が0.5である試料1は、65%であるのに対し、該比が0.8〜20の範囲にある試料2〜7では91〜94%であることから、本発明のリン回収材のリン回収性能は格段に高い。
【0095】
また、沈降性指標は、Ca/Siモル比が30の試料8では51%、消石灰では45%であるのに対し、該値が0.8〜20の範囲にある試料2〜7では70%以上であることから、本発明のリン回収材は沈降性に優れている。
【0096】
脱炭酸を行っていないリン含有水を使用した2B、3B、4B、5B、7Bの場合では、Ca/Siモル比及び混合量は等しいが、脱炭酸を行ったリン含有水を処理した場合よりもリン回収率(R1)が低下している。ただし、Ca/Siモル比が低い2B、3B、4Bの場合は低下の度合いが小さく、リン回収率(R1)は60%以上である。
【0097】
脱炭酸を行っていないリン含有水も使用した場合でも、混合量を増加させた5Cの場合には、リン回収率(R)が90%、沈降性指標は79%と、リン回収材の添加量を増加させれば、脱炭酸を行ったリン含有水も使用した場合と同等の性能を示し、排水からのリンの除去のみを目的とする場合はpH処理を行うことなく高いリン回収率が得られる。
【0098】
また、炭酸イオン濃度が高いにもかかわらず脱炭酸を行っていないリン含有水を使用する場合、水熱合成により製造した試料9Bはリン回収率(R1)が60%であったが、ケイ酸ナトリウム水溶液から製造したCa/Siモル比が2.0以下のリン回収材を使用すれば高い回収率が得られる。さらにリン回収率(R)を高めたい場合には、5Cの結果から添加量を若干増やせばよいことがわかる。
【0099】
〔検証例3: りん肥料の特性〕
試料3B、5、5Bについて、リン回収後のリン回収物をろ紙でろ過することにより、リン回収物を得た。該回収物を105℃で12時間乾燥して得られた乾燥物に対して、肥料試験法に準拠してく溶性りん酸濃度、窒素濃度、カリウム濃度を測定した。
【0100】
尚、副産りん酸肥料の公定規格とは、日本国において肥料取締法に基づいて定められた普通肥料の公定規格(昭和61年2月22日・農林水産省告示第284号)であり、厳密には副産りん酸肥料としてはく溶性りん酸濃度15%以上が規定されている。ここでは、窒素、カリウムの規定はないが、窒素、カリウムが1%を超えると化成肥料に分類され、副産りん酸肥料に比べて汎用性が低くなる。
【0101】
【表4】

【0102】
表4に示すように、く溶性りん酸濃度は、18.9%、22.5%、及び11.8%と高い値を示し、十分な肥料効果が得られ、とくに脱炭酸したリン含有水を用いた場合や、脱炭酸の有無にかかわらずCa/Siモル比が低いリン回収材を用いた場合は、汎用性の高い副産りん酸肥料となる。また、本検証例のようにそのままでも肥料効果が得られ、そのまま肥料又は肥料原料として用いることができる。
【0103】
〔検証例4: 汚泥へのリン回収材の添加〕
汚泥として、検証例2に用いた余剰汚泥をpH5.3になるまで塩酸を滴下し、脱炭酸した余剰汚泥(ろ過した液の全炭酸濃度91mg/L)を使用した。試料4のリン回収材について、該余剰汚泥100gに対し、リン回収材のスラリー(反応液)を、液中のリン量に対して投入したリン回収材中のカルシウム量がCa/Pモル比で2.5になるように混合した後、該余剰汚泥を室温で1時間撹拌してリン回収材にリンを吸着させた。
【0104】
次に、該余剰汚泥とリン回収物との混合物の一部を、ろ紙5Cを用いてろ過し、得られたろ液中のリン濃度(P)を測定しリン回収率(R)を求めた。
【0105】
液中のリンに対するリン回収率(R)は、92%であった。本リン回収材は、固形分の含まないリン含有水のみならず、固形分を含むリン含有水についてもリン回収性能が高い。したがって、液に含まれるリンも、脱水汚泥として回収され、該脱水汚泥を肥料原料として使用する場合に全てのリンの有効利用を図ることができる。
【符号の説明】
【0106】
1 下水処理場
2 最初沈殿池
3 生物処理槽
4 最終沈殿池
5 濃縮槽
6 濃縮機
7 貯槽
8 メタン発酵槽
9 貯槽
10 脱水機
11 リン回収設備
12 リン回収工程
13 回収物分離工程
14 りん肥料化設備
15 乾燥機
16 造粒機
21 リン回収設備
22 第1のpH調整槽
22a pH計
23 第2のpH調整槽
23a エアレーション装置
23b pH計
24 リン回収槽
24a pH計
25 CSHスラリー調整槽
26 沈降槽
27 スラリー槽
28 脱水機
31 リン回収設備
32 リン回収槽
32a エアレーション装置
32b pH計
33 スラリー槽
34 脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン発生源の排水中のリンを非晶質ケイ酸カルシウム系の材料からなるリン回収材に吸着させて回収することを特徴とするリン回収方法。
【請求項2】
前記リン発生源の排水に前記リン回収材を添加した後の該排水のpHを7.0以上とすることを特徴とする請求項1に記載のリン回収方法。
【請求項3】
前記リン発生源の排水のpHを6.0以下に調整して脱炭酸処理した後に、前記リン回収材を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のリン回収方法。
【請求項4】
前記排水中のリンを吸着したリン回収材を含むスラリーを固液分離して脱水ケーキ状のリン回収物を得ると共に、得られたろ液を該リン発生源で用いることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のリン回収方法。
【請求項5】
前記リン発生源は、下水処理場であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のリン回収方法。
【請求項6】
前記排水は、前記下水処理場で発生した汚泥から分離された排水であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のリン回収方法。
【請求項7】
前記リン回収材は、非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体であって、Ca/Siモル比が0.8以上20以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のリン回収方法。
【請求項8】
前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体又は非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体は、ケイ酸ナトリウム水溶液と石灰を混合した後、非加熱下で生成したものであることを特徴とする請求項7に記載のリン回収方法。
【請求項9】
前記リン回収材は、前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体あるいは非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を固液分離し乾燥した固体分であるか、又は前記非晶質ケイ酸カルシウム水和物単体あるいは非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)2との凝集体を含むスラリーもしくはペーストであることを特徴とする請求項7又は8に記載のリン回収方法。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載のリン回収方法により回収したリン回収物から肥料を製造することを特徴とするリン回収・肥料化方法。
【請求項11】
請求項1乃至9に記載のリン回収方法により回収したリン回収物を原料として製造したことを特徴とするりん酸肥料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−27865(P2013−27865A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138532(P2012−138532)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】