説明

リン回収方法

【課題】十分に高い回収率で汚泥焼却灰からリンを回収することができる方法を提供する。
【解決手段】汚泥焼却灰と、第1のアルカリ性反応液とを混合して汚泥焼却灰に含まれているリンを第1のアルカリ性反応液中に抽出し、第1のリン抽出液と1回処理灰との混合物を得る第1のリン抽出工程と、1回処理灰と、第2のアルカリ性反応液とを混合して1回処理灰に含まれているリンを第2のアルカリ性反応液中に抽出し、第2のリン抽出液と2回処理灰との混合物を得る第2のリン抽出工程と、2回処理灰と、第3のアルカリ性反応液とを混合して2回処理灰に含まれているリンを第3のアルカリ性反応液中に抽出し、第3のリン抽出液と3回処理灰との混合物を得る第3のリン抽出工程とを含むことを特徴とする、リン回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥焼却灰に含まれているリンを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場で発生する下水汚泥などの汚泥を焼却して減量化した際に生じる汚泥焼却灰は、大部分が無価値な廃棄物として埋立処分されてきた。
【0003】
しかし、下水汚泥焼却灰などの汚泥焼却灰には多量のリンが含まれているため、近年では、廃棄物である汚泥焼却灰からリンを回収し、世界的に枯渇が危惧されている資源の一つであるリン資源として再利用する手法が検討されている。
【0004】
具体的には、下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを混合し、下水汚泥焼却灰に含まれているリンと、ヒ素やセレン等の有害物質とをアルカリ性反応液中に抽出することにより、道路舗装材等として有効利用し得る清浄な処理灰を得つつ、下水汚泥焼却灰からリンを回収する、汚泥焼却灰の処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−229576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の汚泥焼却灰の処理方法では、十分に高い回収率でリンを回収することができなかった。
【0007】
そのため、特に汚泥焼却灰に多量のリンが含まれている場合に、十分に高い回収率で汚泥焼却灰からリンを回収することができる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のリン回収方法は、汚泥焼却灰と、第1のアルカリ性反応液とを混合して前記汚泥焼却灰に含まれているリンを前記第1のアルカリ性反応液中に抽出し、第1のリン抽出液と1回処理灰との混合物を得る第1のリン抽出工程と、前記1回処理灰と、第2のアルカリ性反応液とを混合して前記1回処理灰に含まれているリンを前記第2のアルカリ性反応液中に抽出し、第2のリン抽出液と2回処理灰との混合物を得る第2のリン抽出工程と、前記2回処理灰と、第3のアルカリ性反応液とを混合して前記2回処理灰に含まれているリンを前記第3のアルカリ性反応液中に抽出し、第3のリン抽出液と3回処理灰との混合物を得る第3のリン抽出工程と、前記第3のリン抽出液と前記3回処理灰との混合物を固液分離する3回処理灰分離工程とを含むことを特徴とする。このように、アルカリ性反応液を用いたリンの抽出処理を、汚泥焼却灰に対して3回以上行えば、高い回収率で汚泥焼却灰からリンを回収することができる。
【0009】
ここで、本発明のリン回収方法は、前記第1のアルカリ性反応液の液量に対する前記汚泥焼却灰の質量の比である第1固液比、前記第2のアルカリ性反応液の液量に対する前記1回処理灰の質量の比である第2固液比および前記第3のアルカリ性反応液の液量に対する前記2回処理灰の質量の比である第3固液比を、ともに0.17kg/L以下とすることが好ましい。リンを抽出する際に、アルカリ性反応液の液量(A)に対する灰(汚泥焼却灰または処理灰)の質量(B)の比(B/A)を0.17kg/L以下とすれば、リンの回収率を更に高めることができるからである。
【0010】
また、本発明のリン回収方法は、前記第2固液比を前記第1固液比以下とし、且つ、前記第3固液比を前記第2固液比未満とすることが好ましい。2回処理灰に含まれているリンの量は汚泥焼却灰や1回処理灰に含まれているリンの量に比べて少ないが、第1固液比Rと、第2固液比Rと、第3固液比Rとを、R≧R>Rとすれば、リン含有量が少ない2回処理灰からも効率的にリンを抽出し、リンの回収率を更に高めることができるからである。
【0011】
更に、本発明のリン回収方法は、前記第1のアルカリ性反応液、前記第2のアルカリ性反応液および前記第3のアルカリ性反応液が、濃度3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。濃度3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ性反応液として用いれば、より効率的にリンを抽出し、リンの回収率を更に高めることができるからである。
【0012】
そして、本発明のリン回収方法は、前記汚泥焼却灰のリン含有量はP換算で15〜30質量%であり、前記3回処理灰のリン含有量はP換算で5〜10質量%以下であることが好ましい。一般に、多量のリンを含有する汚泥焼却灰からリンを回収する場合、回収率が数%向上するだけでリンの回収量が飛躍的に増加するが、15〜30質量%(P換算)のリンを含有する汚泥焼却灰に対してリンの抽出を3回以上行い、処理灰のリン含有量が5〜10質量%(P換算)以下となるまでリンを回収すれば、非常に大量のリンを回収することができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分に高い回収率で汚泥焼却灰からリンを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う代表的なリン回収方法を用いて下水汚泥焼却灰からリンを回収する際の操作フローチャートである。
【図2】下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した際の、リン抽出回数とリン回収率との関係を示すグラフである。
【図3】下水汚泥焼却灰Bからリンを回収した際の、リン抽出回数とリン回収率との関係を示すグラフである。
【図4】アルカリ性反応液の液量に対する汚泥焼却灰の質量の比(固液比)を変化させて下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した際の、固液比とリン回収率との関係を示すグラフである。
【図5】アルカリ性反応液の濃度を変化させて下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した際の、アルカリ性反応液の濃度とリン回収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明に係るリン回収方法は、例えば、下水処理場で発生する余剰汚泥等の下水汚泥を焼却した際に生じる下水汚泥焼却灰などのリンを含有する汚泥焼却灰からリンを回収する際に用いることができる。
【0016】
本発明に係るリン回収方法の一例では、図1に操作フローチャートを示すように、まず、下水汚泥焼却灰に対し、第1のリン抽出工程(S1)、第1の固液分離工程(S2)、第2のリン抽出工程(S3)、第2の固液分離工程(S4)、第3のリン抽出工程(S5)および3回処理灰分離工程としての第3の固液分離工程(S6)を順次実施する。そして、次に、第1の固液分離工程(S2)、第2の固液分離工程(S4)および第3の固液分離工程(S6)で得たリン抽出液をリン抽出液混合工程(S7)で混合した後に、リン酸塩析出工程(S8)でリン抽出液中に含まれているリンをリン酸塩(リン酸カルシウム)として析出させ、最後に、最終固液分離工程(S9)でリン酸カルシウムと処理液とを分離して下水汚泥焼却灰中のリンをリン酸カルシウムとして回収する。
【0017】
ここで、第1のリン抽出工程(S1)は、下水汚泥焼却灰と、第1のアルカリ性反応液とを例えば抽出槽内で撹拌混合し、下水汚泥焼却灰に含まれているリンを第1のアルカリ性反応液中に抽出することで、抽出されたリンを含有するアルカリ性反応液からなる第1のリン抽出液と、含有するリンの一部が抽出された下水汚泥焼却灰からなる1回処理灰との混合物を得る工程である。なお、下水汚泥焼却灰に含まれているリンのアルカリ性反応液中への抽出は、原理的には明らかではないが、下水汚泥焼却灰にPなどの形態で含まれているリンが、例えば下記反応式(1)に示すような反応によりアルカリ性反応液中へ溶出することで起きていると推察される。
+6OH → 2PO3−+3HO ・・・(1)
【0018】
第1の固液分離工程(S2)は、第1のリン抽出工程(S1)で得た第1のリン抽出液と1回処理灰との混合物を、例えば沈降分離やろ過などの手段を用いて第1のリン抽出液と1回処理灰とに分離する工程である。
【0019】
第2のリン抽出工程(S3)は、第1の固液分離工程(S2)で混合物から分離された1回処理灰と、第2のアルカリ性反応液とを例えば抽出槽内で撹拌混合し、1回処理灰中に残存しているリンを第2のアルカリ性反応液中に抽出することで、抽出されたリンを含有するアルカリ性反応液からなる第2のリン抽出液と、含有するリンの一部が抽出された1回処理灰からなる2回処理灰との混合物を得る工程である。なお、1回処理灰に含まれているリンのアルカリ性反応液中への抽出は、第1のリン抽出工程(S1)と同様の機構で起こっていると推察される。
【0020】
第2の固液分離工程(S4)は、第2のリン抽出工程(S3)で得た第2のリン抽出液と2回処理灰との混合物を、例えば沈降分離やろ過などの手段を用いて第2のリン抽出液と2回処理灰とに分離する工程である。
【0021】
第3のリン抽出工程(S5)は、第2の固液分離工程(S4)で混合物から分離された2回処理灰と、第3のアルカリ性反応液とを例えば抽出槽内で撹拌混合し、2回処理灰中に残存しているリンを第3のアルカリ性反応液中に抽出することで、抽出されたリンを含有するアルカリ性反応液からなる第3のリン抽出液と、含有するリンの一部が抽出された2回処理灰からなる3回処理灰との混合物を得る工程である。なお、2回処理灰に含まれているリンのアルカリ性反応液中への抽出は、第1のリン抽出工程(S1)および第2のリン抽出工程(S3)と同様の機構で起こっていると推察される。
【0022】
第3の固液分離工程(S6)は、第3のリン抽出工程(S5)で得た第3のリン抽出液と3回処理灰との混合物を、例えば沈降分離やろ過などの手段を用いて第3のリン抽出液と3回処理灰とに分離する工程である。
【0023】
リン抽出液混合工程(S7)は、互いにリン濃度の異なる第1のリン抽出液、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液を例えばリン酸塩析出槽中で混合する工程である。
【0024】
ここで、リン酸塩析出工程(S8)におけるリン酸塩の析出反応を効率的に進める観点からは、本発明のリン回収方法では、上記のようにリン抽出液混合工程(S7)で各リン抽出液を混合してからリン酸塩析出工程(S8)を実施することが好ましい。一般に、抽出回数が増えるほど、処理灰中のリンの含有量は減少し、それに伴いリン抽出液中のリン濃度も減少するが、各リン抽出液を混合してからリン酸塩析出工程(S8)を実施すれば、リン酸塩析出工程(S8)においてリン濃度の低いリン抽出液からリン酸塩を析出させる必要が無く、リン酸塩の析出反応を効率的に進めることができるからである。
【0025】
一方、リン酸塩析出工程(S8)で不純物含有量の少ないリン酸塩を析出させてリンを高純度で回収する観点からは、本発明のリン回収方法では、第2のリン抽出液と第3のリン抽出液のみを混合し、第1のリン抽出液と、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液の混合物とのそれぞれに対してリン酸塩析出工程(S8)を実施することが好ましく、第1のリン抽出液、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液を混合することなく、各リン抽出液に対してリン酸塩析出工程(S8)を実施することが更に好ましい。通常、下水汚泥焼却灰にはヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)などの有害物質が含まれているが、それらの有害物質の大部分は第1のリン抽出工程(S1)においてリンと共に抽出されてしまい、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液にはそれらの有害物質があまり含まれていないので、第1のリン抽出液と、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液とを分けてリン酸塩を析出させれば、第2のリン抽出液および第3のリン抽出液から純度が高いリン酸塩を析出させることができ、全てのリン抽出液を分けてリン酸塩を析出させれば、更に高純度なリン酸塩を析出させることができるからである。因みに、下水汚泥焼却灰の性状にもよるが、本発明のリン回収方法では、下水汚泥焼却灰に含まれているヒ素の50質量%程度、セレンの90質量%程度、フッ素の35質量%程度が第1のリン抽出工程(S1)において抽出され、下水汚泥焼却灰に含まれているヒ素の15質量%程度、セレンの9質量%程度、フッ素の15質量%程度が第2のリン抽出工程(S3)において抽出される。
【0026】
リン酸塩析出工程(S8)は、リン抽出液混合工程(S7)で得たリン酸塩析出槽中のリン抽出液に対し、例えば水酸化カルシウム(Ca(OH))などのカルシウム成分を添加することで、リン抽出液中に含まれているリンをリン酸カルシウム(Ca(PO)などのリン酸塩として析出させ、リン酸カルシウムと、リンが除去されたリン抽出液からなる処理液との混合物を得る工程である。
【0027】
最終固液分離工程(S9)は、リン酸塩析出工程(S8)で得たリン酸カルシウムと処理液との混合物を、例えば沈降分離やろ過などの手段を用いてリン酸カルシウムと処理液とに分離し、リン資源として再利用可能なリン酸カルシウムを回収する工程である。
【0028】
そして、この一例のリン回収方法では、下水汚泥焼却灰に対し、アルカリ性反応液を用いたリンの抽出処理を3回繰り返しているので、3回処理灰中のリン含有量を例えばP換算で7質量%以下まで低下させることができ、下水汚泥焼却灰に含まれているリンをリン酸塩として十分に回収することができる。
【0029】
ここで、この一例のリン回収方法を用いてリンを回収する下水汚泥焼却灰としては、好ましくはリン含有量がP換算で15〜30質量%の下水汚泥焼却灰を挙げることができる。リンの含有量がP換算で15質量%以上の下水汚泥焼却灰では、回収率を数%向上させるだけでリンの回収量を大幅に増加させることができ、一方、リンの含有量がP換算で15質量%未満の下水汚泥焼却灰では、リンの抽出処理を3回繰り返さなくても十分に高い回収率でリンを回収することができるからである。また、リンの含有量がP換算で30質量%超の下水汚泥焼却灰は、殆ど存在しないからである。なお、下水汚泥焼却灰の性状等にもよるが、本発明のリン回収方法によれば、リン含有量がP換算で15質量%の下水汚泥焼却灰からリンを回収した場合には、3回処理灰中のリン含有量を例えばP換算で5質量%以下とすることができ、リン含有量がP換算で30質量%の下水汚泥焼却灰からリンを回収した場合には、3回処理灰中のリン含有量を例えばP換算で10質量%以下とすることができる。
【0030】
また、第1のアルカリ性反応液、第2のアルカリ性反応液および第3のアルカリ性反応液としては、水酸化ナトリウム水溶液や、水酸化カリウム水溶液などを用いることができるが、コスト低減の観点からは水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましく、より効率的にリンを抽出するという観点からは、濃度が3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。濃度3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液は、リンの抽出能が高いので、リンを抽出する際に加温等をすることなく、短時間で高いリン抽出率を達成することができるからである。
【0031】
ここで、第1のアルカリ性反応液、第2のアルカリ性反応液および第3のアルカリ性反応液としては、全て同一のアルカリ性反応液を用いても良いが、互いに異なるアルカリ性反応液を用いても良い。
【0032】
更に、この一例のリン回収方法では、リンの回収率を更に高める観点からは、抽出処理を行う際のアルカリ性反応液の液量(A)に対する汚泥焼却灰または処理灰の質量(B)の比(固液比:B/A)を、0.17kg/L以下とすることが好ましい。即ち、第1のアルカリ性反応液の液量に対する汚泥焼却灰の質量の比(第1固液比R)、第2のアルカリ性反応液の液量に対する1回処理灰の質量の比(第2固液比R)および第3のアルカリ性反応液の液量に対する2回処理灰の質量の比(第3固液比R)を、ともに0.17kg/L以下とする(0.17≧R,R,R>0)ことが好ましい。アルカリ性反応液の液量が少なすぎる場合、リン抽出時にアルカリ性反応液中のリン濃度が容易に上昇して抽出反応が平衡(抽出平衡)に達してしまうので、十分にリンを抽出できないからである。なお、アルカリ性反応液の使用量を可能な限り低減しつつ高い回収率でリンを回収してリン回収に要するコストを低減する観点からは、固液比は0.17kg/Lとすることが特に好ましい。
【0033】
ここで、下水汚泥焼却灰、1回処理灰および2回処理灰からアルカリ性反応液中へのリンの抽出反応は、主に灰の表面で起こっており、灰の内部におけるリンの拡散は殆ど起こらないか、非常に速度が遅いと推察されるところ、リンの抽出に伴い、1回処理灰および2回処理灰の表面近傍、特に2回処理灰の表面近傍に存在するリンの量は減少すると考えられる。従って、この一例のリン回収方法では、リンの回収率をより一層高める観点からは、R、RおよびRを0.17kg/L以下にすると共に、第2固液比Rを第1固液比R以下(R≧R)とし、且つ、第3固液比Rを第2固液比R未満(R>R)とすることが好ましく、R>R>Rとすることが更に好ましい。灰の表面近傍に多量のリンが存在しており、少量のアルカリ性反応液でもリンを比較的多く抽出することができる第1のリン抽出工程ではアルカリ性反応液の割合を低くしつつ、灰の表面近傍に存在しているリンの量が減少している第2のリン抽出工程や第3のリン抽出工程では、アルカリ性反応液の割合を多くしてリンの抽出反応を促進し、抽出液中から灰中へとリンが取り込まれる逆反応を抑制すれば、リンの回収率を更に向上することができるからである。
【0034】
なお、本発明のリン回収方法は、上記一例に限定されることなく、適宜変更を加えることができる。具体的には、最終固液分離工程で分離された処理液はアルカリ性反応液として再利用しても良く、また、各固液分離工程の後には、任意に処理灰の水洗工程や酸洗工程を設けても良い。更に、第3の固液分離工程の後に、3回処理灰から更にリンを抽出しても良い。また、第1の固液分離工程および第2の固液分離工程を行うことなく、第1のリン抽出液と1回処理灰との混合物に第2のアルカリ性反応液を添加して1回処理灰からリンを抽出すると共に、第2のリン抽出液と2回処理灰との混合物に第3のアルカリ性反応液を添加して2回処理灰からリンを抽出し、最後に処理灰とリン抽出液との混合物を固液分離しても良い。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図1に示す操作フローチャートに従い、表1に示す条件で本発明に係るリン処理方法を用いて0.025kgの下水汚泥焼却灰A(リン含有量:Pとして20.2質量%)からリンを回収した。なお、各アルカリ性反応液としては、濃度4質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、各リン抽出工程における抽出条件は、反応温度60℃、撹拌時間30分とし、各固液分離工程では吸引ろ過法を用いた。
そして、得られたリン酸カルシウムの質量から回収したリンの量を求め、リン回収率(=(回収されたリンの量/下水汚泥焼却灰に含まれていたリンの量)×100)を算出した。なお、回収されたリンの量は、リン抽出液のリン濃度とリン抽出液量とを乗算して求め、下水汚泥焼却灰に含まれていたリンの量は、下水汚泥焼却灰のリン濃度と使用した下水汚泥焼却灰の質量とを乗算して求めた。結果を表1および図2に示す。
【0037】
(実施例2)
第3の固液分離工程の後に3回処理灰からリンを更に抽出した、即ち、リンの抽出回数を4回とした以外は、実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表1および図2に示す。
【0038】
(比較例1〜2)
リン抽出回数を1回(比較例1)または2回(比較例2)とした以外は、実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表1および図2に示す。
【0039】
(実施例3〜4、比較例3〜4)
表1に示すように固液比を変更した以外は、それぞれ実施例1〜2、比較例1〜2と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表1および図2に示す。
【0040】
(実施例5〜8、比較例5〜8)
表1に示すように下水汚泥焼却灰の種類を変更した以外は、それぞれ実施例1〜4、比較例1〜4と同様にして0.025kgの下水汚泥焼却灰B(リン含有量:Pとして16.0質量%)からリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表1および図3に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1および図2、図3より、リン抽出回数を3回以上とすれば、リンを十分に回収できることが分かる。なお、リン抽出回数3回と4回とでは、リン回収率が殆ど変わっていないが、これは、濃度平衡上、リンの抽出がほぼ限界に達したためであると思われる。
【0043】
(実施例9〜12)
表2に示すように固液比を変更した以外は、実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表2および図4に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2および図4より、固液比を0.200kg/Lとすると、リン回収率が急激に低下してしまうことが分かる。
【0046】
(実施例13〜15)
表3に示すようにアルカリ性反応液の濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表3および図5に示す。
【0047】
(実験例1)
表3に示すようにリン抽出回数を2回とした以外は、実施例13と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3および図5より、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を3質量%以上とすれば、リン回収率を向上できることが分かる。
【0050】
(実施例16〜20)
表4に示すように第1固液比、第2固液比および第3固液比を変更した以外は、実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰Aからリンを回収した。
そして、実施例1と同様にしてリン回収率を算出した。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
表4より、第1固液比および第2固液比よりも第3固液比を小さくすれば、アルカリ性反応液の使用量を増加させることなく、リン回収率を向上できることが分かる。
【0053】
(実施例21)
実プラントにおいて、図1に示す操作フローチャートに従い、1日10tの下水汚泥焼却灰Aを330日間処理した。なお、リンの抽出回数は3回(第1固液比:0.167kg/L、第2固液比:0.125kg/L、第3固液比:0.100kg/L)とし、各アルカリ性反応液としては濃度4質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、各リン抽出工程における抽出条件は、反応温度60℃、撹拌時間30分とした。
その結果、434t(P換算)のリンを回収することができた(リン回収率65.1%)。
【0054】
(比較例9)
リンの抽出回数を2回(第1固液比:0.083kg/L、第2固液比:0.083kg/L)とした以外は実施例21と同様にして、実プラントにおいて、下水汚泥焼却灰Aを330日間処理した。なお、固液比を変更しているので、使用したアルカリ性反応液の総量は実施例21と同量である。
その結果、370t(P換算)のリンを回収することができた(リン回収率55.5%)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、十分に高い回収率で汚泥焼却灰からリンを回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却灰と、第1のアルカリ性反応液とを混合して前記汚泥焼却灰に含まれているリンを前記第1のアルカリ性反応液中に抽出し、第1のリン抽出液と1回処理灰との混合物を得る第1のリン抽出工程と、
前記1回処理灰と、第2のアルカリ性反応液とを混合して前記1回処理灰に含まれているリンを前記第2のアルカリ性反応液中に抽出し、第2のリン抽出液と2回処理灰との混合物を得る第2のリン抽出工程と、
前記2回処理灰と、第3のアルカリ性反応液とを混合して前記2回処理灰に含まれているリンを前記第3のアルカリ性反応液中に抽出し、第3のリン抽出液と3回処理灰との混合物を得る第3のリン抽出工程と、
前記第3のリン抽出液と前記3回処理灰との混合物を固液分離する3回処理灰分離工程と、
を含むことを特徴とする、リン回収方法。
【請求項2】
前記第1のアルカリ性反応液の液量に対する前記汚泥焼却灰の質量の比である第1固液比、前記第2のアルカリ性反応液の液量に対する前記1回処理灰の質量の比である第2固液比および前記第3のアルカリ性反応液の液量に対する前記2回処理灰の質量の比である第3固液比を、ともに0.17kg/L以下とすることを特徴とする、請求項1に記載のリン回収方法。
【請求項3】
前記第2固液比を前記第1固液比以下とし、且つ、前記第3固液比を前記第2固液比未満とすることを特徴とする、請求項2に記載のリン回収方法。
【請求項4】
前記第1のアルカリ性反応液、前記第2のアルカリ性反応液および前記第3のアルカリ性反応液が、濃度3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のリン回収方法。
【請求項5】
前記汚泥焼却灰のリン含有量はP換算で15〜30質量%であり、前記3回処理灰のリン含有量はP換算で5〜10質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のリン回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−206714(P2011−206714A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77953(P2010−77953)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(000220675)東京都下水道サービス株式会社 (98)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】