説明

リン成分の回収方法

【課題】 不溶性リン酸塩を生成させることなく、被処理水からリン成分を効率よく回収する方法を提供する。
【解決手段】 被処理液中のリン酸成分を吸着剤で吸着処理し、吸着したリン酸成分を濃度0.1〜20重量%のアルカリ金属水酸化物の水溶液で脱離させ、生成したリン酸アルカリ金属塩を含む水溶液を減圧下で、アルカリ金属水酸化物の濃度が10〜30重量%となるまで濃縮した後、濃縮液の温度を低下させてリン酸アルカリ金属塩を析出させ、析出したリン酸アルカリ金属塩を固液分離により分離し、被処理液中のリン酸成分を回収する。吸着剤としては、チタン、ジルコニウム及びスズから選択された少なくとも1つの成分の水和亜鉄酸塩で構成された吸着剤が使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種水域の富栄養化の原因となるリン成分を回収するのに有用な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、合併浄化槽や工場廃水処理施設での被処理水、生活排水などの被処理水中のリン酸態リンは、富栄養化の原因となり、河川や湖水や海水の汚染をもたらす。特に、リン成分による閉鎖性水域(例えば、閉鎖性湖沼や流れの少ない湾内又は海域など)では富栄養化を抑制することが必要である。また、リン資源の枯渇化が懸念されるなかで、前記処理水からのリンの回収も叫ばれている。
【0003】
リン成分を除去又は回収する方法として、水溶液中のリン酸イオンを吸着剤に吸着させてリン酸イオンを除去したり、吸着剤に吸着したリン酸イオンをアルカリで脱着する方法が知られている。例えば、特開昭54−146455号公報(特許文献1)には、pH約1.5〜5.5に調整したリン酸イオン含有水溶液を酸化ジルコニウム水和物と接触させる方法、前記リン酸イオン含有水溶液と接触させて酸化ジルコニウム水和物をアルカリ性水溶液と接触させてリン酸イオンを脱離する方法が開示されている。この文献には、2%水酸化ナトリウム水溶液を通液して吸着したリン酸イオンを脱離させたことも記載されている。特開昭54−149261号公報(特許文献2)には、特許文献1の酸化ジルコニウム水和物に代えて酸化チタン水和物を用いる方法が開示されている。特開昭56−28638号公報(特許文献3)、特開昭56−53742号公報(特許文献4)には、酸化チタン、酸化ジルコニウム又は酸化スズの水和物又はそれらの混合物と樹脂との混合物を硬化させた吸着剤が開示されている。特開昭56−118734号公報(特許文献5)、特開昭57−50543号公報(特許文献6)には、チタン、ジルコニウムあるいはスズの含水亜鉄酸塩又はそれらの混合物と樹脂との混合物を硬化させた吸着剤が開示されている。これらの特許文献5及び6には、15%水酸化ナトリウム水溶液を通液して吸着したリン酸イオンを脱離させたことも記載されている。特開平10−296077号公報(特許文献7)には、チタン、ジルコニウムあるいはスズの含水亜鉄酸塩の少なくとも一種と、分子中に塩化ビニリデン単量体に由来するジクロロエチレン構造を有する重合体とを含有する組成物を硬化させたイオン吸着剤が開示されている。この文献には、イオンを吸着したイオン吸着剤をアルカリ性水溶液、次いで酸性水溶液で処理するイオン吸着剤の再生法も開示されている。この文献には、リン酸イオン濃度500mg/L(pH=3)の被処理液をイオン吸着剤の充填層に空間速度SV=10hr-1で通水した後、吸着剤を7重量%水酸化ナトリウム水溶液で処理してリン酸イオンを脱着し、吸着剤を蒸留水で洗浄し、2重量%の硫酸水溶液に浸漬して吸着剤を再生したことが記載されている。
【0004】
これらの方法において、脱離液からリン酸成分を回収するためには、リン酸塩を析出させ、析出物を分離し取り出すことが必要である。しかし、リン酸塩を析出させるには、脱離液中のリン酸成分の濃度が低すぎる。そのため、特開平11−92122号公報(特許文献8)には、下水汚泥焼却灰などのリン含有固形物より酸溶液によりリン分を抽出し、不溶物を分離した後、この酸溶液を両性イオン交換性を有する金属水和酸化物に接触させて、酸溶液中にリン酸イオンとして含まれるリン分を金属水和酸化物に吸着させ、次いでこの金属水和酸化物にアルカリ溶液を接触させて金属水和酸化物よりリン酸イオンをアルカリ溶液側に移行させ、リン酸イオンが移行したアルカリ溶液を回収する方法が開示されている。この文献には、酸溶液のpHを1.5〜2に調整することも記載されている。しかし、この方法では、アルカリ溶液により酸溶液を中和することに加えて金属水和酸化物からリン酸イオンを脱離させる必要があるため、多量のアルカリを必要とする。
【0005】
なお、前記特許文献8には、金属水和酸化物に接触させるアルカリ溶液を、リン酸とアルカリとの塩が析出しない温度に調節し、回収したアルカリ溶液を、リン酸塩が析出する温度に低下させて、析出したリン酸塩を分離回収することも開示されている。具体的には、カラムに吸着剤を充填してpH2.0のリン酸含有硫酸を空間速度0.7/hrで通水し、99%のリン酸を除去した後、35℃の1%水酸化ナトリウム溶液を空間速度6/hrで通水してリンを回収率95%で回収し、回収された水酸化ナトリウム溶液を15℃に冷却してリン酸三ナトリウム・水和物の結晶を析出させたことが記載されている。しかし、アルカリ溶液中のリン酸塩濃度が低いため、アルカリ溶液を冷却しても、リン酸塩の回収率を高めることが困難である。しかも、多量のアルカリ溶液を冷却するために多量のエネルギーが必要である。前記特許文献8には、さらに、回収したアルカリ溶液に、不溶性リン酸塩を生成する金属水酸化物を添加してリン酸塩を析出させ、析出リン酸塩を分離回収することも記載されている。しかし、不溶性リン酸塩は再利用の用途が限定され、リン成分を有効に再利用できない。
【特許文献1】特開昭54−146455号公報(特許請求の範囲、第3頁左下欄、実施例2)
【特許文献2】特開昭54−149261号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭56−28638号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭56−53742号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開昭56−118734号公報(特許請求の範囲、実施例8)
【特許文献6】特開昭57−50543号公報(特許請求の範囲、実施例9)
【特許文献7】特開平10−296077号公報(特許請求の範囲、試験例2)
【特許文献8】特開平11−92122号公報(特許請求の範囲、段落番号[0026]〜[0028])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、リン成分の濃度が低い被処理水であっても、リン成分を効率よく回収するのに有用な方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、アルカリの使用量を低減できるとともに、装置の腐蝕を抑制しつつエネルギー的に効率よくリン成分を回収できる方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、不溶性リン酸塩を生成させることなく、リン成分を有効に利用するためのリン酸成分の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リン酸ナトリウムなどの可溶性リン酸塩の溶解度がアルカリ濃度に大きく依存し、アルカリ濃度が低濃度域では比較的多くのリン酸塩が水に可溶であるのに対して、アルカリ濃度が15重量%を越えるとリン酸塩の溶解度が温度25℃で約1重量%以下に低下することに着目し、前記課題を達成するため鋭意検討した。その結果、リン酸イオンを低濃度で含む被処理液を吸着剤で吸着処理し、この吸着剤を低濃度のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液など)で処理してリン酸イオンを脱離させた後、生成した可溶性リン酸塩を含む水溶液を、特定のアルカリ濃度になるまで減圧下、低温で濃縮処理すると、濃縮装置の腐蝕を抑制しつつ、純度の高いリン酸塩が効率よく析出することを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のリン成分の回収方法では、リン酸塩を含む水溶液を、減圧下で濃縮してリン酸塩を析出させ、固液分離してリン酸塩を回収する。この方法では、リン酸塩を含む水溶液(例えば、0.1〜20重量%のアルカリ水溶液)を、アルカリ濃度が8〜30重量%(例えば、10〜30重量%)になるまで濃縮してもよい。また、リン酸塩はリン酸とアルカリ金属との塩であってもよく、リン換算の濃度が100〜5000mg/Lの水溶液を、濃縮倍率1.5〜100倍で濃縮してもよい。なお、濃縮は、温度20〜70℃(例えば、30〜60℃)、圧力1〜25kPaで行ってもよい。リン酸塩の析出は、前記濃縮に伴うアルカリ濃度を調整して行ってもよく、濃縮度の調整とともに又は濃縮度の調整とは独立して濃縮液の温度調整により行ってもよい。例えば、濃縮液の温度を低下させてリン酸塩を析出させてもよい。
【0011】
リン酸イオンを低濃度で含む被処理水からリン成分を回収する場合、通常、次のようにして行う場合が多い。すなわち、リン酸イオンを含む被処理液を吸着剤で吸着処理し、リン酸イオンを吸着した吸着剤をアルカリ水溶液で脱離処理し、生成したリン酸塩を含むアルカリ水溶液を濃縮処理することによりリン酸塩を析出させてもよい。なお、吸着剤としては、リン成分を吸着可能な種々の吸着剤、例えば、チタン、ジルコニウム及びスズから選択された少なくとも1つの成分の水和亜鉄酸塩で構成された吸着剤(ジルコニウムの水和亜鉄酸塩、又はジルコニウムの水和亜鉄酸塩と、水和酸化ジルコニウムと水和酸化鉄から選択された少なくとも一種のとの混合物で構成された吸着剤など)を用いてもよい。また、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液を用いてもよい。なお、固液分離によりリン酸塩から分離された分離液は、吸着剤からのリン酸の脱離に再利用してもよい。
【0012】
より具体的には、吸着剤で被処理液中のリン酸成分を吸着処理し、吸着したリン酸成分を濃度0.1〜20重量%(例えば、0.1〜10重量%)のアルカリ金属水酸化物の水溶液で脱離させ、脱離により生成したリン酸アルカリ金属塩を含む水溶液を減圧下で、アルカリ金属水酸化物の濃度が8〜30重量%(例えば、10〜30重量%)となるまで濃縮した後、濃縮液の温度を低下させてリン酸アルカリ金属塩を析出させ、析出したリン酸アルカリ金属塩を固液分離により分離することにより、被処理液中のリン酸成分を効率よく回収できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、リン酸塩を含む水溶液を減圧下で濃縮するため、リン成分の濃度が低い被処理水であっても、リン成分を効率よく回収できる。また、減圧下で行うため、低温で濃縮でき、装置(例えば、前記濃縮液と接触可能な装置、特に濃縮装置)の腐蝕も抑制できる。また、低濃度のアルカリ水溶液で吸着剤からリン酸イオンを脱離して特定のアルカリ濃度に濃縮すればよいため、アルカリの使用量を低減できるとともに、エネルギー的に有利にしかも効率よくリン成分を回収できる。さらに、アルカリとして不溶性リン酸塩を生成させるアルカリ土類金属ではなくアルカリ金属が使用できるため、不溶性リン酸塩を生成させることなくリン酸塩(リン成分)を回収でき、このリン酸塩は可溶性であるため、リン成分として有効に再利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、リン酸塩の濃度が低濃度であっても、リン酸塩を含む水溶液(又はリン酸塩が溶解した水溶液)からリン酸塩を効率よくしかも高い回収率で回収できる。そのため、前記水溶液の由来は特に制限されず、リン酸塩を含む排水であってもよく、前記リン酸塩を含む水溶液は酸性であってもよくアルカリ性であってもよい。水溶液のpHがアルカリ性の場合には、酸を添加し、中性から酸性にした後に吸着剤で吸着処理した方がリンの吸着量が増える場合もある。好ましい態様では、リン酸(リン酸イオン)を含む被処理液(水溶液)を吸着剤で吸着処理し、リン酸イオンを吸着した吸着剤をアルカリ水溶液で脱離処理し、前記リン酸イオンをリン酸塩の形態で含む水溶液を濃縮処理する場合が多い。この方法では、極めて低濃度のリン酸イオンを含む水溶液からリン酸をリン酸塩の形態で効率よく回収できる。
【0015】
[被処理液と吸着処理]
吸着処理工程では、リン酸成分(特に、イオンの形態で存在するリン酸イオン)を含む被処理液を吸着剤で吸着処理し、リン酸成分を吸着剤に濃縮した形態で保持させる。リン酸成分は、イオン解離した種々のリン酸(リン酸態リン)、例えば、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸などであってもよい。
【0016】
被処理液としては、通常、リン酸成分(リン酸イオンなどのリン酸態リン)を含む被処理水であれば特に制限されず、例えば、下水処理場、下水道処理場、浄化槽(合併浄化槽を含む)、工場廃水処理施設などの施設での被処理水、生活排水などを用いる場合が多い。
【0017】
被処理液中のリン酸成分(リン酸イオン)の濃度は、例えば、重量基準でリン換算で0.1〜100mg/L程度であってもよく、通常、0.1〜50mg/L、好ましくは0.5〜30mg/L、さらに好ましくは1〜20mg/L程度である。なお、被処理液は吸着処理に先立って、不純物や夾雑物を除去するため、ろ過処理してもよい。
【0018】
吸着剤としては、リン酸成分(リン酸イオン)を吸着可能な種々の吸着剤、例えば、活性炭、アルミナ、粘土鉱物、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、イオン交換樹脂(カルボキシル基、スルホン酸基、フルオロアルキルスルホン酸基などを有する陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂)などが例示できる。リン酸成分の吸着効率(又は回収効率)を高めるためには、吸着剤は、少なくとも特定の金属の水和酸化物[4価金属、例えば、チタン、ジルコニウム及びスズから選択された少なくとも1つの成分(以下、単に特定金属という場合がある)の水和酸化物]、特に、少なくとも前記特定金属の水和亜鉄酸塩(複塩など)で構成されているのが有利である。この吸着剤は、(a)前記特定金属の水和亜鉄酸塩単独で構成してもよく、(b)前記特定金属の水和亜鉄酸塩(複塩など)と、前記特定金属(チタン、ジルコニウム、スズ)及び鉄から選択された少なくとも一種の金属の水和酸化物との混合物、(c)前記特定の金属の水和亜鉄酸塩(複塩など)と、鉄の水和酸化物との混合物で構成されているのが有利である。さらに、吸着剤は、少なくともジルコニウム(水和酸化ジルコニウムなど)を主成分とする吸着剤であってもよい。吸着剤のうち、ジルコニウムフェライト吸着剤、例えば、ジルコニウムの水和亜鉄酸塩、又はジルコニウムの水和亜鉄酸塩と、水和酸化ジルコニウムと水和酸化鉄から選択された少なくとも一種との混合物は、リン酸成分に対して高い吸着能を有する。このような吸着剤は、日本エンバイロケミカルズ(株)から「セブントールTM−P」として入手できる。
【0019】
これらの吸着剤の製造方法については、前記特許文献2乃至特許文献7を参照できる。例えば、(a)前記特定金属の水和亜鉄酸塩(以下、単に複塩という場合がある)、又は(b)前記特定金属の水和亜鉄酸塩(複塩)と、前記特定金属(チタン、ジルコニウム、スズ)及び鉄から選択された少なくとも一種の金属の水和酸化物との混合物は、例えば、以下の方法で製造できる。
【0020】
先ず、少なくとも一種の特定金属塩を溶解した溶液(特定金属イオンを含有する溶液)に、この溶液中の特定金属イオンに対して、約0.2〜11倍モルに相当する第1鉄塩を添加した後、アルカリを添加し、溶液のpHを約6以上(好ましくは約7〜12)に保持する。この後、必要であれば、溶液の温度を約30〜100℃にした後、酸化成分を導入し、含水亜鉄酸塩の沈澱を生成させる。酸化成分の導入は、例えば、酸化性ガス(空気、酸素ガス、オゾンなど)を吹き込むか、酸化剤(過酸化水素水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなど)を添加することにより行うことができる。
【0021】
生じた沈澱を濾別し、水洗した後乾燥することにより、前記複塩又は混合物を得ることができる。乾燥は、風乾又加熱下で行うことができ、乾燥後の含水率は約6〜30重量%程度であるのが好ましい。
【0022】
さらに具体的に説明すると、(c)前記特定の金属の水和亜鉄酸塩(複塩など)と、鉄の水和酸化物との混合物は、前記方法において、少なくとも1種の特定金属塩を溶解した溶液(特定金属イオンを含有する溶液)に、溶液中の特定金属イオンに対して約2〜11倍モルに相当する第1鉄塩を添加する以外、前記方法と同様にして調製できる。
【0023】
鉄の水和酸化物とは、例えば、FeO、Fe23、Fe34などの鉄の酸化物の水和物(一水塩、二水塩、三水塩、四水塩など)をいう。含水亜鉄酸塩(複塩)と鉄の水和酸化物とで構成された混合物(c)において、含水亜鉄酸塩(複塩)の含量は24〜100重量%、好ましくは50〜99重量%程度である。
【0024】
(b1)特定金属の含水亜鉄酸塩の少なくとも1種と、特定金属の水和酸化物の少なくとも1種との混合物は、前記方法において、少なくとも1種の特定金属塩を溶解した溶液(特定金属イオンを含有する溶液)に、溶液中の特定金属イオンに対して約0.2倍モル以上、約2倍モル未満の範囲で第1鉄塩を添加する以外、前記と同様にして調製できる。前記混合物(b1)において、含水亜鉄酸塩の含量は20〜100重量%、好ましくは50〜99重量%程度である。
【0025】
前記特定金属塩としては、例えば、四塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、四塩化スズ、硝酸スズ、硫酸スズなどが挙げられる。これらの金属塩は、含水塩であってもよい。これらの金属塩は、通常、1リットル中に約0.05〜2モルの溶液状で用いられる。
【0026】
第一鉄塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄などが挙げられる。これらの鉄塩も含水塩であってもよい。これらの第一鉄塩は、通常、固形物の形態で添加されるが、溶液の形態で添加してもよい。
【0027】
アルカリとしては、例えば、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウムなど)、アンモニアなどが挙げられる。これらのアルカリは、通常、約5〜20重量%程度の水溶液の形態で用いられる。
【0028】
酸化性ガスの吹き込み時間は、酸化性ガスの種類などに応じて選択でき、通常、約1〜3時間程度である。
【0029】
前記特定金属の含水亜鉄酸塩(複塩)は、例えば、式 MFe2(OH)3(式中、Mはチタン、ジルコニウム又はスズを示す)で表すことができる。前記特定金属Mの水和酸化物は、式 MO2・nH2O(式中、Mはチタン、ジルコニウム又はスズを示し、nは0.5〜2である)で表され、具体的には、例えば、MO2・H2O(MO(OH)2)、MO2・2H2O(M(OH)4)、MO2・nH2O(式中、nは1.5〜2である)などが挙げられる。
【0030】
特定金属の含水亜鉄酸塩又はこの亜鉄酸塩と金属水和酸化物との混合物の形状は、特に制限されないが、造粒のための樹脂との混合操作や吸着性能などの点から、通常、粉粒体である。粉粒体の平均粒径は、通常、1〜500μm、好ましくは2〜250μm、さらに好ましくは3〜100μm程度である。前記特定金属の含水亜鉄酸塩又はこの亜鉄酸塩と金属水和酸化物との混合物は、そのまま吸着剤として使用してもよく、バインダー樹脂を用いて成形又は造粒し、成形吸着剤として使用してもよい。バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂(塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、フッ素樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂など)、熱硬化性樹脂(エポキシ系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂など)が使用できる。好ましいバインダー樹脂としては、分子中に塩化ビニリデン単量体に由来するジクロロエチレン構造を有する重合体、例えば、塩化ビニリデン単独重合体や塩化ビニリデンと他の重合性単量体との共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン共重合体を構成する塩化ビニリデン由来のジクロロエチレン構造[−C(Cl)2−CH2−]の含量は、通常、単量体換算で、30〜99重量%、好ましくは50〜98重量%、さらに好ましくは60〜95重量%である。
【0031】
バインダー樹脂の割合は、吸着剤100重量部に対して5〜50重量部、好ましくは7〜45重量部、さらに好ましくは10〜30重量部程度である。バインダー樹脂は、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、成形性を高めるための助剤、可塑剤、帯電防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。重合体は、溶液状、固体状で使用してもよく、分散液又は懸濁液(エマルジョン、サスペンジョン、スラリーなど)の形態で使用してもよい。
【0032】
成形又は造粒は、特定金属の含水亜鉄酸塩又はこの亜鉄酸塩と金属水和酸化物との混合物と、バインダー樹脂とを用いて慣用の方法、例えば、両者の混合物を硬化させて破砕し、整粒する方法、両者の混合物を円柱状に押出し、硬化した円柱状吸着剤を適度の長さに切断してペレット状吸着剤を得る方法、さらにこの円柱状の成型物をマルメライザーなどで顆粒状や球状に成型する方法、造粒機(回型転動造粒機や遠心流動被覆造粒機など)を用いて、特定金属の含水亜鉄酸塩又はこの亜鉄酸塩と金属水和酸化物との混合物をバインダー樹脂で被覆造粒し、成形吸着剤(球形吸着剤など)を得る方法などで行うことができる。なお、粉砕物の平均粒径は、例えば、約0.1〜15mm、好ましくは約0.2〜10mm、さらに好ましくは約0.3〜5mm程度である。
【0033】
なお、被覆造粒においては、特定金属の含水亜鉄酸塩又はこの亜鉄酸塩と金属水和酸化物の小粒子や、他の小粒子を核として用いてもよい。核として用いる物質は特に限定されないが、水不溶性物質、例えば、粘土鉱物、ゼオライト、シリカ、アルミナなどの金属酸化物、ケイ酸塩類、炭素材(活性炭、黒鉛やカーボンブラックなど)、樹脂成形体などが挙げられる。特に繰り返し再生を行う場合には、耐薬品性の高い物質、例えば、アルミナ、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化鉄、活性炭が好ましい。核物質の粒子径は、成形吸着剤の粒子径に対して、通常、0.1〜0.9倍、好ましくは0.2〜0.8倍、最も好ましくは0.3〜0.7倍程度である。核は必ずしも球状である必要はなく、円柱状、立方体、破砕状であってもよい。
【0034】
このようにして調製された成形吸着剤(例えば、球状イオン吸着剤)は、カラムなどへの充填性が高く、また目詰まりが生じにくく、水洗浄も容易となる。成形吸着剤の平均粒径は、通常、0.1〜15mm、好ましくは0.2〜10mm、さらに好ましくは0.3〜5mmである。
【0035】
このような吸着剤は、表面に多数存在する水酸基により高いイオン交換能を有し、酸性溶液中では陰イオン交換体、アルカリ性溶液中では陽イオン交換体として作用する。すなわち、酸性域において被処理液中のリン酸成分(リン酸イオン)を選択的に吸着し、アルカリ性域でリン酸成分を効率よく脱離する。なお、前記水和酸化ジルコニウムで構成された吸着剤(前記ジルコニウムフェライト吸着剤など)の陰イオンに対する吸着序列は、以下の通りであり、リン酸イオンに対して高い吸着能を有する。
【0036】
PO43->F->SO42->Br->NO2->Cl->NO3-
このような特性を有する吸着剤を用いてリン酸成分(リン酸イオン)を効率よく吸着するためには、酸性の被処理液を吸着処理するのが有利である。被処理液のpHは、酸性領域、例えば、1〜7、好ましくは1.5〜5、さらに好ましくは2〜5(例えば、2〜4)程度である。なお、被処理液のpH調整は、無機酸(塩酸、硫酸、硝酸など)又は有機酸を用いて行うことができ、通常、無機酸を用いる場合が多い。
【0037】
リン酸成分の吸着は、被処理液と吸着剤とを接触させればよく、例えば、(1)被処理液に吸着剤を添加する方法、(2)吸着剤を充填した充填層に被処理液を通液する固定床法、(3)吸着剤を充填した塔内で吸着剤と被処理液とを向流接触させ、処理水を塔上部から流出させる移動床法、(4)吸着剤が充填された充填層に被処理液を下方から供給し、流動層を形成しながら両者を接触させ、処理水をオーバーフロー形式で流出させる流動床法などの方法で被処理液を吸着処理してもよい。また、吸着処理は、バッチ式、セミバッチ式、連続式のいずれも採用できる。通常、吸着剤を充填した充填層に被処理液を通液する場合が多い。吸着剤層に対する被処理液の空間速度SVは、1〜50hr-1、好ましくは1.5〜30hr-1、2〜20hr-1(例えば、2〜15hr-1)程度であってもよい。
【0038】
このような吸着処理により、処理液中のリン酸成分の濃度を大きく低減できる。例えば、高い除去率又は吸着率(例えば、70〜100%、特に75〜95%程度の除去率)でリン酸成分を吸着でき、処理液中のリン酸成分の濃度を1mg/L以下に低減できる。
【0039】
なお、吸着処理に供された吸着剤は、必要により水や酸性水(希薄硫酸水など)などで洗浄し、脱離工程に供してもよい。
【0040】
[脱離処理]
リン酸成分を吸着剤から脱離又は溶離させるため、アルカリ水溶液(脱離液)が使用される。アルカリとしては、例えば、無機塩基(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニア又はアンモニア水など)、有機塩基(例えば、トリエチルアミンなどの脂肪族アミン類など)が例示できる。これらのアルカリは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいアルカリ水溶液は、アルカリ金属水酸化物の水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)である。
【0041】
アルカリ水溶液中のアルカリの濃度は、リン酸成分の脱離効率及び濃縮後の析出効率を損なわない範囲であれば、例えば、0.1〜20重量%(例えば、0.2〜15重量%)、好ましくは0.5〜10重量%程度の範囲から選択できる。アルカリ濃度は、通常、0.1〜10重量%(例えば、0.5〜8重量%)、好ましくは0.5〜7重量%(例えば、1〜6重量%)、さらに好ましくは0.5〜6重量%(例えば、2〜5重量%)程度である。このような濃度のアルカリ溶液を用いると、吸着剤に吸着したリン酸成分を高い脱離率(例えば、90〜100%程度の脱離率)で脱離できる。
【0042】
脱離液(アルカリ水溶液)の使用量は、濃縮性を損なわない範囲であれば特に制限されず、例えば、吸着剤の容量1に対して、容量基準で、1〜20倍程度の範囲から選択でき、通常、1〜15倍(例えば、1〜10倍)、好ましくは1.5〜7倍、さらに好ましくは2〜5倍程度である。なお、吸着剤からの吸着成分の脱離には、脱離液(アルカリ水溶液)と吸着剤とが接触可能な種々の方法、例えば、前記吸着処理と同様に、(1)被処理液に吸着剤を添加する方法、(2)固定床法、(3)移動床法、(4)流動床法などの方法が採用できる。また、脱離処理は、バッチ式、セミバッチ式、連続式のいずれの方式であってもよい。バッチ操作で吸着剤から吸着成分を脱離させる場合、吸着剤と脱離液(アルカリ水溶液)とを、適当な時間(例えば、10分〜24時間)に亘り混合して両者を接触させた後、固液分離して、吸着剤と、リン酸塩を含む水溶液とを分離してもよい。
【0043】
なお、リン酸成分を吸着した吸着剤を充填した充填層(充填塔)にアルカリ水溶液を通液する場合が多い。吸着剤層に対するアルカリ水溶液の空間速度SVは、1〜50hr-1、好ましくは1.5〜30hr-1、2〜20hr-1(例えば、2〜15hr-1)程度であってもよい。アルカリ水溶液は充填塔に1パスで通液してもよく循環通液してもよい。循環通液の場合には高流速(例えば、SV=5〜50hr-1程度)で流すことにより、処理時間を短くすることもできる。
【0044】
この脱離操作において、通常、1回の脱離処理で十分に脱離できるが、脱離処理は、アルカリ溶液で複数回に亘り行ってもよく、複数回に亘る脱離処理において、必要によりアルカリ濃度の異なるアルカリ水溶液を用いてもよい。例えば、脱離処理の初期にアルカリ濃度の高い水溶液を用い、後期にアルカリ濃度の低い水溶液を用いて吸着剤を処理して吸着成分を脱離させてもよく、逆に脱離処理の初期にアルカリ濃度の低い水溶液を用い、脱離処理の後期にアルカリ濃度の高い水溶液を用いてもよい。また、脱離処理は、加温又は加熱下で行ってもよい。例えば、加熱したアルカリ溶液を吸着剤と接触させてもよい。
【0045】
このような脱離処理により吸着剤を再生することができる。なお、吸着剤の再生において、必要により吸着剤を洗浄し、吸着剤を酸処理してもよい。酸としては、例えば、無機酸(塩酸、硫酸など)、有機酸が使用でき、酸の水溶液濃度は、例えば、0.1〜5重量%(例えば、0.1〜2.5重量%)程度であってもよい。
【0046】
[濃縮処理]
リン酸塩(例えば、前記脱離により生成したリン酸アルカリ金属塩)を含む水溶液(例えば、アルカリ水溶液)を減圧下で水分を蒸発させて濃縮することにより、リン酸塩を効率よく析出させることができる。濃縮処理に供される前記水溶液中のリン酸塩の濃度は、リン換算で、100〜5000mg/L、好ましくは200〜4000mg/L、さらに好ましくは300〜3000mg/L(例えば、500〜3000mg/L)程度であってもよい。なお、前記吸着剤によるリン酸成分の吸着と脱離とを利用すると、リン換算で、500〜5000mg/L、特に1000〜4000mg/L(例えば、1500〜3000mg/L)程度の濃度でリン酸塩を含む水溶液を容易に得ることができる。
【0047】
水溶液の濃縮は、常圧下で水分を除去することにより行ってもよいが、通常の蒸発装置を用いて常圧下で濃縮すると、長時間を要するか又は水溶液を高温(例えば、80〜100℃)に加熱する必要があり、多量のエネルギーを必要とする。また、高温に加熱して濃縮すると、アルカリ濃度の増大に伴って、濃縮液と接触する装置(濃縮装置、固液分離装置、これらの装置に付随するラインやユニットなど)が腐蝕しやすくなる。また、腐蝕を防止するためには、耐食性の高い高価な材質で前記装置を作成する必要がある。そのため、水溶液の濃縮は、水分を除去するため減圧下で行うのが好ましい。特に、低温で濃縮するのが好ましい。このような濃縮法を利用すると、安価なステンレススチール(SUS)で装置を作製しても腐蝕を防止できる。
【0048】
濃縮は、例えば、圧力1〜25kPa(例えば、1〜23kPa)、好ましくは2〜22kPa(例えば、2〜20kPa)、さらに好ましくは3〜18kPa(例えば、3〜15kPa)である。濃縮温度は、装置の材質に応じて腐蝕を抑制可能な温度、例えば、20〜70℃程度の温度から選択でき、通常、25〜65℃、好ましくは30〜60℃、さらに好ましくは35〜58℃程度であり、40〜55℃程度であってもよい。
【0049】
濃縮倍率(濃縮前の液量/濃縮後の液量)は、リン酸塩の濃度に応じて、1.5〜100倍(例えば、2〜90倍)程度の範囲から選択でき、通常、2〜20倍、好ましくは2〜10倍(例えば、2〜5倍)程度であってもよい。
【0050】
濃縮液のリン酸塩の濃度は、例えば、リン換算で、1000〜20000mg/L、好ましくは2000〜17000mg/L、さらに好ましくは3000〜15000mg/L(例えば、5000〜12000mg/L)程度であってもよい。
【0051】
このような水溶液の濃縮において、アルカリ濃度(例えば、アルカリ金属水酸化物の濃度)が特定の濃度になるまで濃縮するのが有利である。図1は温度25℃での水溶液中のリン酸ナトリウム濃度と水酸化ナトリウム濃度との関係を示すグラフである。このグラフから明らかなように、水酸化ナトリウム濃度が5重量%であると、リン酸ナトリウムの溶解度は6重量%程度となり、水酸化ナトリウム濃度が10重量%に濃縮されると、リン酸ナトリウムの溶解度は3重量%程度となり、水酸化ナトリウム濃度が15重量%に濃縮されると、リン酸ナトリウムの溶解度は1重量%以下となり、水酸化ナトリウム濃度が17〜18重量%に濃縮されると、リン酸ナトリウムは殆ど析出する。そのため、水溶液を濃縮し、濃縮度(濃縮液中のアルカリ濃度)を調整することにより、リン酸塩の析出量を容易にコントロールできる。
【0052】
上記図1に示す関係から明らかなように、水溶液の濃縮において、アルカリ濃度(例えば、アルカリ金属水酸化物の濃度)が8〜30重量%(例えば、10〜30重量%)、好ましくは10〜28重量%(例えば、10〜25重量%)、さらに好ましくは10〜20重量%(例えば、12〜18重量%)、特に13〜17重量%程度になるまで濃縮するのが有利である。また、濃縮前後のアルカリ濃度の差は、一般的に大きいほどよいものの、アルカリが水酸化ナトリウムである場合、アルカリ濃度が16重量%を越えても大きなリン酸塩の溶解度差が生じない。そのため、濃縮前後のアルカリ濃度の差は、1〜20重量%、好ましくは2〜17重量%、さらに好ましくは3〜15重量%(例えば、5〜12重量%)程度であり、通常、5〜10重量%程度であってもよい。
【0053】
濃縮装置は、減圧により脱離液の水分を蒸発するため、通常、減圧又は真空装置(又はユニット)と接続されているか又は減圧又は真空ユニットを備えている。濃縮装置は、バッチ式装置、セミバッチ式装置、連続式装置(例えば、フラッシュ蒸留装置など)であってもよい。濃縮装置は、必要により加熱し、撹拌しながら減圧下で水分を除去してもよい。局部加熱を防ぎつつ効率よく脱離液を濃縮するためには、回転可能な中空の伝熱コイル(二重管状コイル)を利用するのが有利である。すなわち、濃縮装置として、減圧手段に接続されて減圧可能であり、かつ加熱可能な容器本体と、この容器本体内に回転可能に配設され、かつ熱媒供給管とこの熱媒供給管内に同芯状に配設されたドレン排出管とを備えた二重管状回転軸と、必要により前記加熱容器を外部加熱可能な加熱手段とを備えた装置などが利用できる。このような装置を用いて、脱離液中で伝熱コイルを回転させながら伝熱コイルの中空部に熱媒(蒸気など)を通じて減圧下に濃縮すると、コイル表面の液境膜が回転に伴って更新されるので、コイル表面へのスケールの付着がなく、局部加熱及びリン酸塩の変性を防止できる。しかも、低温(例えば、35〜55℃程度)での濃縮が可能である。このような装置は、特公平6−47041号公報に開示されており、(株)ジーテックより「ダイナミックコンダクター 真空濃縮装置」として市販されている。
【0054】
このような濃縮により、常温(例えば、15〜25℃程度)でもリン酸塩を効率よく析出又は晶析させることができる。そのため、リン酸塩の析出は濃縮温度で行ってもよく、濃縮温度(濃縮操作温度)よりも低い温度に低下させてリン酸塩(リン酸アルカリ金属塩など)を析出又は晶析させてもよい。濃縮液の温度を低下(又は濃縮液を冷却)させると、濃縮倍率を大きくしなくて効率よくリン酸塩を析出できるとともに、析出温度条件によりリン酸塩の結晶形状をコントロールでき、固液分離性(又はろ過性)の高い析出物(結晶)を生成できる。また、リン酸塩の結晶形状をコントロールするため、必要により、濃縮液を所定の温度で保温してもよい。例えば、リン酸塩(リン酸ナトリウムなど)は、晶析条件によりシャーベット状、針状、又はこれらの混合物として析出する場合がある。より具体的には、濃縮温度からの析出温度が低いと、リン酸塩が細かなシャーベット状として析出し、析出温度が室温(例えば、15〜25℃程度)であると、リン酸塩がシャーベット状と針状結晶とが混在して析出し、析出温度が高いと、リン酸塩が針状結晶として析出する場合がある。なお、シャーベット状結晶に比べて針状結晶は液切れがよく、固液分離が容易である。そのため、晶析温度を高くして保温(例えば、25〜35℃程度で保温)すると、針状結晶を効率よく析出させることができる。
【0055】
析出温度は、例えば、0〜60℃、好ましくは5〜50℃、さらに好ましくは10〜40℃(例えば、15〜30℃)程度であり、通常、室温(15〜25℃)程度である場合が多い。
【0056】
なお、リン酸塩の析出効率を高めるためには、濃縮倍率と濃縮液の温度(又は冷却温度)との双方をコントロールしてもよい。例えば、比較的高い温度(例えば、40〜50℃)で濃縮して濃縮倍率を高め、濃縮液を比較的高い温度(例えば、25〜35℃)で保持してリン酸塩を析出させてもよく、濃縮倍率を高めた濃縮液を低温(例えば、10〜20℃程度)に冷却し、リン酸塩を析出させてもよい。
【0057】
なお、濃縮と析出とは、同じ装置内で行ってもよく、それぞれ異なる装置で行ってもよい。例えば、濃縮倍率を大きくして、濃縮装置内でリン酸塩を析出させてもよく、濃縮液を他の槽(析出槽)へ移送し、析出槽でリン酸塩を析出させてもよい。
【0058】
このような濃縮処理により、濃縮液に含まれるリン酸成分をリン酸塩として60%以上(60〜100%)、特に80〜98%(例えば、85〜95%)程度の回収率で回収できる。
【0059】
[固液分離とリン酸塩の回収]
析出したリン酸塩(リン酸アルカリ金属塩など)は、慣用の固液分離、例えば、ろ過、遠心分離などの分離手段により分離することにより回収できる。この固液分離により被処理液中のリン酸成分を高率(例えば、80%以上)でリン酸塩の晶析物(例えば、純度90%以上の高純度のリン酸塩結晶)として分離・回収できる。リン酸塩の析出物は、例えば、アルカリがナトリウムである場合、リン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムのいずれの形態であってもよく、通常、リン酸ナトリウムNa3PO4の形態で回収できる。また、リン酸塩は水和物、例えば、リン酸三ナトリウム・12水和物などとして回収する場合が多い。
【0060】
なお、分離回収したリン酸塩の析出物は、必要により洗浄液(水やアルカリ水溶液など)で洗浄してもよく、乾燥してもよい。
【0061】
前記濃縮液の固液分離により生成する液相(分離液又はアルカリ溶液)はアルカリ濃度が高い。そのため、この分離液は、リン酸成分を吸着した吸着剤からリン酸成分を脱離するためのアルカリ水溶液として再利用できる。なお、前記分離液は、通常、適当な濃度に稀釈して脱離に利用する場合が多い。また、分離液中には微量(例えば、2〜600mg/L、特に10〜500mg/L程度)のリン酸イオンを含む場合がある。このような分離液を、吸着剤からのリン酸成分の脱離に利用すると、リン酸成分の脱離効率が低下する場合がある。そのため、前記分離液(又は稀釈した分離液)を用いて吸着剤からリン酸成分を脱離させた後、新鮮なアルカリ水溶液(リン酸を実質的に含まない水溶液)を用いてさらに吸着剤からリン酸成分を脱離させると、リン酸成分の脱離効率を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、リン酸成分を含む種々の被処理水、例えば、下水処理場、合併浄化槽や工場廃水処理施設からの処理水、生活排水からリン成分を除去し、高い回収率で回収できる。そのため、河川、湖水や海水(特に、閉鎖性水域)の富栄養化を抑制するのに有用であるとともに、リンの再資源化に有用である。例えば、回収したリン酸塩は、肥料として使用できるだけでなく、リン化合物の製造のための原料としても幅広く再利用できる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
試薬の水酸化ナトリウム(和光純薬(株)製、1級)を水道水に溶解し、5重量%の水酸化ナトリウム溶液を調製した。この溶液にリン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬(株)製、1級)を添加し、リン酸イオンを、リン換算で3,000mg−P/Lの濃度で含有する水酸化ナトリウム溶液を調製した。
【0065】
この水酸化ナトリウム水溶液10L(全リン量は30g)を真空低温濃縮装置((株)ジーテック製:伝熱管回転式ダイナミックコンダクター)で濃縮した。なお、この濃縮装置は、被濃縮液中に浸漬した伝熱コイルに加熱蒸気を供給し、前記伝熱コイルを回転させながら被濃縮液を加熱するため、伝熱コイル(伝熱管)表面に遠心力が作用し、伝熱面の液境膜を剥離更新することにより、伝熟係数が著しく向上し、境膜温度を低下させるとともにスケールの付着を防止できる。濃縮装置の容器本体の材質はステンレス製である。
【0066】
この装置内を、10kPaに減圧し、次いで前記水酸化ナトリウム水溶液10L(全リン量30g含む)を装置に仕込み、伝熱コイル内に蒸気を流して加熱し、温度約45℃で被濃縮液中の水の蒸発を開始した。圧力を10kPa付近一定に保ちながら、水の蒸発量0.5L/分で蒸発操作を続け、水酸化ナトリウム濃度が15重量%となるまで、すなわち装置内の液量が3.3Lとなるまで濃縮した(3倍濃縮)。濃縮液の液温度は約50℃であった。蒸発した水はコンデンサーで冷却し凝縮水として回収した(第1液)。
【0067】
蒸気の導入を止め、装置の圧力を大気圧に戻し、濃縮された液(濃縮液)を外部へ抜き出した。装置の伝熱管表面、槽内壁などにも全くスケールの付着はなかった。
【0068】
濃縮液を常温(25℃)に保つと、リン酸塩の結晶が析出した。ろ過器を用いて、リン酸塩結晶と液相(分離液、第2液)とを分離した。第1液及び第2液中のリン濃度をイオンクロマトグラフイーで測定したところ、第1液ではわずか0.1mg−P/Lであり、第2液では510mg−P/Lであった。この第2液中の全リン量は1.5gであり、リン酸塩結晶として28.5gのリンが回収できた(回収率95%)。
【0069】
[実施例2]
濃縮倍率を2倍(水酸化ナトリウム濃度10重量%)とする以外、実施例1と同様の方法でリン酸塩の結晶を得た。リンの回収率は93%であった。
【0070】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、濃縮倍率を4倍(水酸化ナトリウム濃度20重量%)とする以外、実施例1と同様の方法でリン酸塩の結晶を得た。リンの回収率は97%であった。なお、濃縮操作の途中で、リン酸塩の結晶の析出が見られたが、そのまま濃縮を続けても何のトラブルもなく、濃縮操作を終了でき、濃縮液を得ることができた。
【0071】
[実施例4]
(1)リン酸塩含有溶液の調製
一般家庭に設置された浄化槽の廃液を、ジルコニウムフェライト系リン吸着剤(日本エンバイロケミカルズ(株)製、「セブントールTM−P」)が充填された充填塔に通し、リン酸イオンを吸着させた。10箇所の浄化槽で吸着処理に供し、リン酸イオンを吸着したリン吸着剤を吸着塔から抜き出して集め、再生塔に充填した。このリン吸着剤には、リン換算で8g−P/kg−吸着剤のリン酸イオンが吸着していた。
【0072】
リン酸イオンを吸着したリン吸着剤を、吸着剤容量に対して3倍量の水で逆洗浄し、洗浄水を排出した。次いで、再生塔内の吸着剤容量に対して3倍量の7重量%水酸化ナトリウム溶液を通液し、リン酸イオンを吸着剤から脱離させ、2500mg−P/Lのリンを含有する7重量%水酸化ナトリウム溶液(脱離液)を得た。この脱離液中には、吸着していたリンの95重量%が脱離していた。なお、前記再生塔内を、吸着剤容量に対して5倍量の水で洗浄し、7倍量の1重量%硫酸溶液を通液することにより、吸着剤を活性化させ再生した。
【0073】
(2)リン酸塩含有溶液の濃縮
前記脱離液を真空低温濃縮装置((株)ジーテック製:伝熱管回転式ダイナミックコンダクター)で濃縮した。すなわち、濃縮装置内を10kPaに減圧し、次いで脱離液10L(全リン量25gを含む)を装置に仕込み、伝熱コイル内に蒸気を流して加熱し、温度約45℃で被濃縮液中の水の蒸発を開始した。圧力を10kPa付近一定に保ちながら、水の蒸発量0.5L/分で蒸発操作を続け、蒸発に伴って減少する液量だけ脱離液を装置内に供給しながら、水酸化ナトリウム濃度が21重量%となるまで、すなわち原液30Lが10Lとなるまで濃縮した(3倍濃縮)。濃縮液の液温度は約50℃であった。蒸発した水はコンデンサーで冷却し凝縮水として回収した(第1液)。
【0074】
蒸気の導入を止め、装置の圧力を大気圧に戻し、濃縮された液(濃縮液)を外部へ抜き出した。装置の伝熱管表面、槽内壁などにも全くスケールの付着はなかった。
【0075】
(3)リン酸塩の晶析・回収
このようにして得られた濃縮液から下記方法でリン酸塩を晶析させた。
【0076】
a)40℃の恒温槽内で1日静置して晶析させる
b)30℃の恒温槽内で1日静置して晶析させる
c)5℃の恒温槽内で1日静置して晶析させる
d)室温(25℃)で1日静置して晶析させる
e)40℃の恒温槽内で3時間静置後、室温で1日静置して晶析させる。
【0077】
いずれの方法でもリン酸塩の結晶が得られたが、析出温度を高くすると、針状結晶の割合が多くなり、析出温度が常温より低くなると、結晶は細かくなり、シャーベット状になった。
【0078】
リン酸塩が析出した後、固液混合状態の濃縮液をろ過し、リン酸塩結晶を取り出し、リン酸塩中のリン含有量を測定したところ、濃縮液中からの結晶(リン酸塩)としてのリン回収率は、いずれも90重量%以上であり、リン酸塩の結晶としてリンを効率よく回収できた。なお、濃縮液中のリンの回収率Rは、濃縮液中のリンの含有量Pcと、析出したリン酸塩のリンの含有量Ppとに基づいて、式 R(%)=(Pp/Pc)×100で計算できる。
【0079】
(4)回収リン酸塩の分析結果
得られたリン酸塩の結晶の成分分析を行った。その結果を示す。
【0080】
(4-1)元素分析
有機元素分析装置(ヤナコ社製「MT−700HCN」)を用いて元素分析したところ、下記の結果が得られた。なお、ナトリウムについては、ICP発光分析装置(パーキンエルマー社製、「OPTIMA−3300DV」)を用いてICP発光分析法により定量した。
【0081】
C<0.1%、H=0.81%、N<0.1%、P=8.0%、Na=20%
(4-2)強熱減量
示差熱・熱重量同時測定装置((株)島津製作所製「DTG−60」)を用い熱分析(TG−DTA)を行い、1050℃までの温度変化と減量を調べたところ、下記の結果を得た。
【0082】
乾燥減量(110℃)=51.7%
灰分(1050℃)=44.6%
(4-3)陰イオン分析
イオンクロマトグラフ計((株)島津製作所製「HIC−10A」)を用いて陰イオンの定量をイオンクロマト法で行ったところ、下記の結果を得た。
【0083】
PO4=25%、PO3<0.01%、PO2<0.01%、Cl=3.0ppm
(4-4)水酸化ナトリウム
JIS K 9012の6.1「リン酸三ナトリウム・12水(試薬):水酸化ナトリウム定量試験方法」に従って水酸化ナトリウムを定量したところ、下記の結果を得た。
【0084】
NaOH=3.1%
(4-5)結晶の純度
針状結晶の主成分はNa3PO4・12H2OまたはNa3PO4・12H2O・1/4NaOHと推定される。これらの結晶の純度を前記分析データに基づいて計算した結果を下記表に示す。なお、結晶の純度は、(a)イオンクロマト法で定量したPO4イオン濃度(=24.5%)、(b)ICP法で定量したナトリウム濃度(=20.1%)に基づいて算出するとともに、(c)250℃での減量分(=52.8%)が全てリン酸塩の水和水(12H2O)に相当するとみなして算出し、(d)1050℃での灰分(=44.6%)が全てNa3PO4またはNa3PO4・1/4NaOHに相当するとみなして算出した。
【0085】
【表1】

【0086】
これらの結果から、回収されたリン酸塩は、純度の高いリン酸ナトリウム塩であることが確認できた。以上のように、浄化槽から排出されるリンを、リン吸着剤で吸着し、そのリンをリン酸塩結晶として効率よく回収できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は温度25℃での水溶液中のリン酸ナトリウム濃度と水酸化ナトリウム濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩を含む0.1〜20重量%のアルカリ水溶液を、アルカリ濃度が8〜30重量%になるまで濃縮してリン酸塩を析出させ、固液分離してリン酸塩を回収する方法。
【請求項2】
リン酸塩がリン酸とアルカリ金属との塩であり、リン換算でのリン酸塩の濃度が100〜5000mg/Lの水溶液を、濃縮倍率1.5〜100倍で濃縮する請求項1記載の方法。
【請求項3】
温度20〜70℃、圧力1〜25kPaの減圧下で濃縮する請求項1記載の方法。
【請求項4】
濃縮液の温度を低下させてリン酸塩を析出させる請求項1記載の方法。
【請求項5】
リン酸イオンを含む被処理液を吸着剤で吸着処理し、リン酸イオンを吸着した吸着剤をアルカリ水溶液で脱離処理し、生成したリン酸塩を含むアルカリ水溶液を濃縮処理する請求項1記載の方法。
【請求項6】
吸着剤が、ジルコニウムの水和亜鉄酸塩、又はジルコニウムの水和亜鉄酸塩と、水和酸化ジルコニウムと水和酸化鉄から選択された少なくとも一種のとの混合物で構成されている請求項5記載の方法。
【請求項7】
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である請求項5記載の方法。
【請求項8】
固液分離によりリン酸塩から分離された分離液を、吸着剤からのリン酸の脱離に再利用する請求項5記載の方法。
【請求項9】
チタン、ジルコニウム及びスズから選択された少なくとも1つの成分の水和亜鉄酸塩で構成された吸着剤で、被処理液中のリン酸成分を吸着処理し、吸着したリン酸成分を濃度0.1〜20重量%のアルカリ金属水酸化物の水溶液で脱離させ、脱離により生成したリン酸アルカリ金属塩を含む水溶液を減圧下で、アルカリ金属水酸化物の濃度が8〜30重量%となるまで濃縮した後、濃縮液の温度を低下させてリン酸アルカリ金属塩を析出させ、析出したリン酸アルカリ金属塩を固液分離により分離し、被処理液中のリン酸成分を回収する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−130420(P2006−130420A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322930(P2004−322930)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月15日 日本水処理生物学会発行の「日本水処理生物学会誌 別巻 第24号」に発表
【出願人】(503221621)
【出願人】(504410217)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【出願人】(591140710)ダイキ株式会社 (2)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】