説明

リン成分含有廃液のリサイクル方法および液状肥料の製造方法

【課題】リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金属の表面化工工程から出るリン成分含有廃液を、そのまま、または、加工して液状肥料として用いることを特徴とする、リン成分含有廃液のリサイクル方法である。本発明はまた、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液中の、窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する工程を含む、液状肥料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン成分含有廃液のリサイクル方法に関する。本発明はまた、液状肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン成分を含有する廃液を、河川、湖沼、内湾などに排出した場合には、富栄養化現象が起こり、藻類の大量増殖によってアオコや赤潮等の問題が生じる。そのため、リン成分を含有する廃液を脱リン処理することが行われてきたが、近年では、廃液中のリン成分のリサイクル技術の確立が求められている。
【0003】
一方、リンは、植物の三大栄養素の1つであるため、肥料の主要な成分となっている。肥料に含まれるリンは、主にリン鉱石を原料としており、わが国ではリン鉱石のほぼ全量を、輸入に依存している。しかし、リン鉱石は、埋蔵国が限定されており、昨今の人口増加予測に伴う食料不足懸念から、輸出制限および関税引上げが多発している。そのため、リン鉱石の価格の高騰や供給不安が起こっている。従って、肥料に用いられるリンの安定供給のために、リン鉱石以外のリン源の開発が求められている。
【0004】
このような背景から、リン成分を含有する廃液からリン成分を回収し、肥料化してリサイクルする技術が提案されている。例えば、特許文献1では、リン鉱石の代わりに、金属表面処理工程からのリン成分を含有する廃液を中和処理して得られる廃リン酸塩スラッジを用いて、乾式リン酸肥料を製造する方法が提案されている。特許文献2では、リン成分を含有する廃液と多孔性の高活性生石灰を反応させることにより廃液を処理する方法が開示されており、当該方法により生成するリン酸カルシウムを含む固形分は、肥料として活用できることが記載されている。特許文献3では、リン成分を含有する廃液を特定の吸着材で吸着して、マグネシウム塩類によってリン成分を再生する、リン成分を回収する方法が開示されており、当該方法により生成するリンとマグネシウムを含む化合物が肥料として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3559856号公報
【特許文献2】特開平2−265692号公報
【特許文献3】特許第4164681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法によりリン成分を含有する廃液から肥料を製造するには、煩雑な工程を経る必要があるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの詳細な検討の結果、リン成分を含有する廃液の中でも金属の表面化工工程から出るリン成分を含有する廃液を、肥料の中でも液状肥料のリン源とすれば、リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の実施態様は、金属の表面化工工程から出るリン成分含有廃液を、そのまま、または、加工して液状肥料として用いることを特徴とするリン成分含有廃液のリサイクル方法である。
【0010】
別の側面から、本発明の第2の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液中の、窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【0011】
本発明の第3の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【0012】
本発明の第4の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液から、植物にとっての有害成分を除去する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができ、リン資源の有効利用を促進することができる。当該肥料は、液状肥料としてリサイクルされるため、従来の土壌における植物栽培に加え、養液土耕栽培、水耕栽培、さらには植物工場における植物生産に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、金属の表面化工工程から出るリン成分を含有する廃液を、液状肥料のリン源とすることに特徴がある。以下、本発明の各実施態様について詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施態様)
本発明の第1の実施態様は、金属の表面化工工程から出るリン成分含有廃液を、そのまま、または、加工して液状肥料として用いることを特徴とするリン成分含有廃液のリサイクル方法である。
【0016】
リン成分含有廃液のリン成分は、オルトリン酸、オルトリン酸塩、亜リン酸、および亜リン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のリン化合物であることが好ましく、より好ましくは、オルトリン酸塩である。これらは、植物のDNA、細胞膜などの構成成分や、およびアデノシン三リン酸(ATP)の合成原料となるものである。また、植物へ吸収されやすく、これらを含む液状肥料によれば、植物の栽培を効率化することができる。
【0017】
リン成分含有廃液は、植物にとっての有害成分を実質的に含まないことが好ましい。この場合、リン成分含有廃液から、当該有害成分を除去する必要がないという利点を有する。本発明において、「植物にとっての有害成分」とは、日本国の肥料取締法の公定規格における液状複合肥料の有害物質のことを指し、具体的には、硫青酸化物、ひ素、亜硝酸、ビウレット性窒素、スルファミン酸、カドミウム、ニッケル、クロム、チタン、水銀、および鉛のことをいう。本発明において、「植物にとっての有害成分を実質的に含まない」とは、これらの有害成分の含有量が、日本国の肥料取締法の公定規格における最大量以下であることをいう。具体的には、窒素、リン酸、またはカリウムのそれぞれの最も大きい主成分の量の合計量の含有率1.0重量%につき、硫青酸化物が0.005重量%以下、ひ素が0.002重量%以下、亜硝酸が0.02重量%以下、ビウレット性窒素が0.01重量%以下、スルファミン酸が0.005重量%以下、カドミウムが0.000075重量%以下、ニッケルが0.005重量%以下、クロムが0.05重量%以下、チタンが0.02重量%以下、水銀が0.00005以下、かつ鉛が0.003重量%以下であることをいう。
【0018】
リン成分含有廃液は、窒素、リン酸、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも2種の肥料成分を含み、当該肥料成分のそれぞれの最も大きい主成分の量の合計量が、リン酸成分をP25、カリウム成分をK2Oに換算した場合に、8.0重量%以上であることが好ましい。この場合、肥料としての性能が特に高く、また、液状複合肥料としての日本国の肥料取締法の公定規格の含有すべき主成分の最小量の要件を満たす。さらに、リン成分含有廃液が植物にとっての有害成分を実質的に含まない場合には、リン成分含有廃液を、そのまま液状肥料に用いることができ、また、日本国において液状複合肥料として肥料登録を行うことができる。
【0019】
本発明において、金属の表面化工とは、金属の表面を、化学薬品を用いて処理することを意味し、化学薬品としては、リン成分含有処理液が用いられる。リン成分含有処理液としては、溶媒として水を含み、リン成分として、オルトリン酸、亜リン酸、オルトリン酸塩、亜リン酸塩などを含む処理液が挙げられる。オルトリン酸塩としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸カルシウム等が挙げられる。当該処理液は必要に応じ、pH調整用などの酸および/または塩基等を含んでいてもよい。ここで用いられる酸は、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸に加え、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アジピン酸等の有機酸が挙げられる。また塩基は例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基に加え、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩基が挙げられる。リン成分の濃度としては、表面化工の種類により異なるが、一般に、0.1〜30重量%である。
【0020】
本発明において、表面化工を受ける金属は、リン成分含有処理液によって表面化工される金属である限り特に限定されないが、アルミニウム、鉄、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。これらの金属をリン成分含有処理液によって化工処理する場合には、排出される廃液が、植物にとっての有害成分を実質的に含有しないようにすることができる。
【0021】
表面化工工程は、電子部品の製造工程の1つとして行われることが好ましい。電子部品の例としては、液晶デバイス、電解コンデンサが挙げられる。このような電子部品の製造においては、アルミニウム、鉄、およびシリコン等の金属をリン成分含有処理液で処理することが通常行われている。電子部品の製造における表面化工工程の例としては、粗面化工程、酸化皮膜形成工程、洗浄工程、およびそれらの間で行われる中間処理工程などが挙げられる。中間処理工程は、例えば、金属の表面に水酸基を導入する、またはイオンを吸着保持させることにより、親水化を行う工程である。
【0022】
最も好ましくは、金属の表面化工工程は、アルミニウム電解コンデンサに使用されるアルミニウム箔の、粗面化工程、酸化皮膜形成工程、洗浄工程、およびそれらの間で行われる中間処理工程からなる群より選ばれる少なくとも1つの工程である。アルミニウム電解コンデンサに使用されるアルミニウム箔に対するこれらの工程においては、リン成分含有処理液が頻繁に用いられており、排出される廃液が、植物にとっての有害成分を実質的に含有しないようにすることができる。
【0023】
リン成分含有廃液を加工して液状肥料とする場合の加工方法としては、窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する処理、窒素、リン、およびカリウム以外の植物成長に必須の元素を含む化合物を添加する処理、リン成分含有廃液から植物にとっての有害成分を除去する処理等が挙げられる。
【0024】
窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する方法しては、好適には、リン成分含有廃液を濃縮する方法、および硝酸化合物、アンモニウム化合物、およびカリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する方法が挙げられる。
【0025】
リン成分含有廃液の濃縮方法としては、リン成分含有廃液から水の一部を留去する方法、水分子のみを透過するフィルター(例えば、逆浸透膜)を用いて、リン成分含有廃液から水の一部を除去する方法等が挙げられる。
【0026】
前記化合物の添加に関し、硝酸化合物としては、硝酸カルシウム四水和物、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。硝酸性窒素は、植物の必須元素であり、植物はこれを吸収することにより、アミノ酸を合成し、さらに蛋白質を生成する。従って、硝酸化合物を添加する場合には、植物の栽培を効率化することができる。硝酸化合物は、添加後の硝酸性窒素/P25の重量比が1〜3となるように添加されることが好ましい。このような範囲で硝酸化合物が添加される場合には、窒素の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0027】
アンモニウム化合物としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。アンモニア性窒素は、植物の必須元素であり、植物はこれを吸収することにより、アミノ酸を合成し、さらに蛋白質を生成する。従って、アンモニウム化合物を添加する場合には、植物の栽培を効率化することができる。アンモニウム化合物は、添加後のアンモニア性窒素/P25の重量比が0.1〜0.5のとなるように添加されることが好ましい。このような範囲でアンモニウム化合物が添加される場合には、窒素の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0028】
カリウム化合物としては、硝酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。カリウムは、植物の必須元素である。植物はカリウムを吸収することにより、光合成におけるATPの生産を促進させる。また、植物内の蛋白質や炭水化物の合成と移動を助長し、植物体内の浸透圧を調整する役目を担う。従って、カリウム化合物を添加する場合には、植物の栽培を効率化することができる。カリウム化合物は、添加後のK2O/P25の重量比が3.0〜5.5となるように添加されることが好ましい。このような範囲でカリウム化合物が添加される場合には、カリウムの欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0029】
窒素、リン、およびカリウム以外の植物成長に必須の元素を含む化合物とは、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、モリブデン化合物などのことをいう。従って、リン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加すれば、植物の栽培をより効率化できる液状肥料とすることができる。
【0030】
カルシウム化合物としては、硝酸カルシウム四水和物、硫酸カルシウム二水和物、塩化カルシウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。植物は、カルシウムを吸収することにより、代謝作用時の有機酸を中和する。また植物内の糖の移動に深く関与しこれが不足すると、葉でできた炭水化物の移動が妨げられる。カルシウム化合物は、添加後のCaO/P25の重量比が1.5〜2.5となるように添加されることが好ましい。このような範囲でカルシウム化合物が添加される場合には、カルシウムの欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0031】
マグネシウム化合物としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。植物はマグネシウムを吸収することにより、葉緑素を生成する。また、マグネシウムは作物内でのリン酸の移動に関わり、マグネシウムが不足すると生育不良が発生する。マグネシウム化合物は、添加後のMgO/P25の重量比が0.5〜1.0となるように添加されることが好ましい。このような範囲でマグネシウム化合物が添加される場合には、マグネシウムの欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0032】
マンガン化合物としては、硫酸マンガン五水和物、塩化マンガン四水和物等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。マンガンは、光合成、特に酸化還元反応での酵素の中心元素として働く。マンガン化合物は、添加後のMnO/P25の重量比が7.0E−3(×10-3)〜1.5E−2となるように添加されることが好ましい。このような範囲でマンガン化合物が添加される場合には、マンガンの欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0033】
ホウ素化合物としては、四ホウ酸ナトリウム10水和物、ホウ酸等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。ホウ素は、植物の細胞壁生成に関与する。ホウ素化合物は、添加後のB23/P25の重量比が1.0E−2〜1.5E−2となるように添加されることが好ましい。このような範囲でホウ素化合物が添加される場合には、ホウ素の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0034】
鉄化合物としては、硝酸鉄、鉄−EDTA錯体等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。鉄は、葉緑体のリン蛋白と結合し葉緑素の形成に関与する。鉄化合物は、添加後のFe/P25の重量比が2.0E−2〜3.0E−2となるように添加されることが好ましい。このような範囲で鉄化合物が添加される場合には、鉄の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0035】
銅化合物としては、硫酸銅、銅−EDTA錯体等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。銅は、植物内で、光合成や呼吸に関与する酵素に含まれる。銅化合物は、添加後のCu/P25の重量比が2.0E−4〜3.0E−4となるように添加されることが好ましい。このような範囲で銅化合物が添加される場合には、銅の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0036】
亜鉛化合物としては、硫酸亜鉛、亜鉛−EDTA錯体等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。亜鉛は、植物内で、植物ホルモンであるオーキシンの代謝、蛋白質の合成に関与する。亜鉛化合物は、添加後のZn/P25の重量比が4.0E−3〜1.0E−2となるように添加されることが好ましい。このような範囲で亜鉛化合物が添加される場合には、亜鉛の欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0037】
モリブデン化合物としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。モリブデンは、植物内で、硫酸還元酵素の構成金属として、窒素代謝に関与する。モリブデン化合物は、添加後のMo/P25の重量比が2.0E−4〜3.0E−4となるように添加されることが好ましい。このような範囲でモリブデン化合物が添加される場合には、モリブデンの欠乏症状および過剰症状が発生しにくい。
【0038】
リン成分含有廃液に硝酸化合物、アンモニウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する場合には、廃液のpHを、3.0〜6.5に調整することが好ましい。このとき、リンは主にH2PO4-であり、植物に取り込まれやすい形態にある。さらに、鉄、銅、亜鉛、マンガンの水酸化物の析出、リン酸カルシウム化合物の析出など予防することができ、均質な液状肥料として施肥することができる。
【0039】
リン成分含有廃液が前記の植物にとっての有害成分を含む場合には、リン成分含有廃液から植物にとっての有害成分を除去する処理が行われる。この処理は、有害成分の種類に応じて適宜公知方法(例、吸着材による除去)に従い行うことができる。
【0040】
第1の実施態様によれば、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液という新規な肥料のリン源が提供され、リン成分含有廃液からリン成分を回収することなく、容易に低コストで液状肥料を得ることができる。具体的には、肥料成分の濃度を測定し、必要に応じ、濃度調節等を行うという簡単な操作によって、低コストで液状肥料を得ることができる。得られた液状肥料は、速効力に優れる、適量の施肥が容易等の液状肥料としての一般的な利点を有する。
【0041】
本発明は、金属の表面化工工程から出るリン成分を含有する廃液を、液状肥料のリン源とすることに特徴があり、別の側面から、本発明は、液状肥料の製造方法である。以下、本発明の製造方法である第2〜第4の実施態様について説明する。
【0042】
(第2の実施態様)
本発明の第2の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液中の、窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【0043】
リン成分含有廃液については、前述の通りである。
【0044】
濃度を調節する方法としては、好適には、リン成分含有廃液を濃縮する方法、および硝酸化合物、アンモニウム化合物、およびカリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する方法が挙げられる。これらの方法については、前述の通りである。
【0045】
本実施態様は、リン成分含有廃液が含む、窒素、リン、およびカリウムの濃度が小さいときに特に有効である。本実施態様においては、リン成分含有廃液が、窒素、リン酸、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも2種の肥料成分を含み、当該肥料成分のそれぞれの最も大きい主成分の量の合計量が、リン酸成分をP25、カリウム成分をK2Oに換算した場合に、8.0重量%以上となるように濃度を調節することが好ましい。この場合、肥料としての性能が特に高く、また、液状複合肥料としての日本国の肥料取締法の公定規格の含有すべき主成分の最小量の要件を満たす。
【0046】
本実施態様において、製造方法は、リン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する工程をさらに含むことが好ましい。これらの化合物は、植物成長に必須の元素を含み、これらの化合物を含む液状肥料によれば、植物の栽培をより効率化することができる。これらの化合物の具体例および好適な添加量は、前述の通りである。
【0047】
本実施態様において、リン成分含有廃液が、植物にとっての有害成分を含有する場合には、リン成分含有廃液から、植物にとっての有害成分を除去する工程をさらに実施する。
【0048】
植物にとっての有害成分とは前述の通りであり、有害成分の除去は、有害成分の種類に応じて適宜公知方法(例、吸着材による除去)に従い行うことができる。
【0049】
リン成分含有廃液に硝酸化合物、アンモニウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する場合には、廃液のpHを、3.0〜6.5に調整することが前記と同様の理由で好ましい。
【0050】
第2の実施態様によれば、リン成分含有廃液からリン成分を回収することなく、容易に低コストで液状肥料を得ることができる。具体的には、リン成分含有廃液の肥料成分の濃度を測定し、濃度調節等を行うという簡単な操作によって、低コストで液状肥料を得ることができる。得られた液状肥料は、速効力に優れる、適量の施肥が容易等の液状肥料としての一般的な利点を有する。
【0051】
(第3の実施態様)
本発明の第3の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【0052】
当該実施態様は、前述のリン成分含有廃液に、これらの化合物を添加することにより行うことができる。これらの化合物の具体例および好適な添加量は前述の通りである。このとき、廃液のpHを、3.0〜6.5に調整することが好ましい。
【0053】
第3の実施態様によれば、リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができ、特に、リン成分含有廃液が肥料として十分な量の窒素、リンおよびカリウムを含有する場合に、植物の栽培をより効率化できる液状肥料を低コストで構成することができる。
【0054】
(第4の実施態様)
本発明の第4の実施態様は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液から、植物にとっての有害成分を除去する工程を含む、液状肥料の製造方法である。
【0055】
当該実施態様は、前述のリン成分含有廃液から、有害成分の種類に応じて適宜公知方法(例、吸着材による除去)に従い行うことができる。
【0056】
第4の実施態様によれば、リン成分を含有する廃液を、容易に肥料にリサイクルすることができ、特に、リン成分含有廃液が肥料として十分な量の窒素、リンおよびカリウムを含有する場合に、液状肥料を低コストで構成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
アルミニウム電解コンデンサ工場における、アルミニウムの各種表面処理工程から排出されるリン成分含有液の混合廃液の化学組成を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
この混合廃液は、リン(P25換算、本実施例において以下同じ)とカリウム(K2O換算、本実施例において以下同じ)の含有率の合計が約16重量%であり、液状複合肥料の規定を満たす。さらに、リン、カリウムの含有率はともに、1重量%を超えるため、液状複合肥料は、リンおよびカリウムの含有量を保証できるものとなる。さらに、窒素、リン酸、またはカリウムのそれぞれの最も大きい主成分の量の合計量の含有率1.0重量%につき、硫青酸化物が0.005重量%以下、ひ素が0.002重量%以下、亜硝酸が0.02重量%以下、ビウレット性窒素が0.01重量%以下、スルファミン酸が0.005重量%以下、カドミウムが0.000075重量%以下、ニッケルが0.005重量%以下、クロムが0.05重量%以下、チタンが0.02重量%以下、水銀が0.00005重量%以下、かつ鉛が0.003重量%以下を保証できる。したがって、液状複合肥料としての登録が可能であり、これを、土壌における植物栽培、または養液土耕、または水耕栽培、あるいは植物工場における植物栽培に利用することができる。
【0061】
(実施例2)
実施例1に記載の混合廃液8重量部に対し、硫酸マグネシウム7水和物を2重量部添加し、混合して液状肥料を作製した。その化学組成を表2に示す。この際、硫酸マグネシウム7水和物は完全に溶解し、析出物は生成しなかった。
【0062】
【表2】

【0063】
この場合、リンとカリウムの含有率の合計が約13重量%であり、液状複合肥料の規定を満たす。さらに、リンとカリウムの含有率はともに、1重量%を超え、さらにMgOの含有率は0.01重量%を超えるため、液状複合肥料は、リン、カリウム、マグネシウムの含有量を保証できるものとなる。したがって、これを土壌における植物栽培、または養液土耕、または水耕栽培、あるいは植物工場における植物栽培に利用することができる。
【0064】
(実施例3)
実施例1に記載の混合廃液9.3重量部に対し、硫酸アンモニウムを0.7重量部添加し、混合して液状肥料を作製した。その化学組成を表3に示す。この際、硫酸アンモニウムは完全に溶解し、析出物は生成しなかった。
【0065】
【表3】

【0066】
この場合、リンとカリウムの含有率の合計が約15%であり、液状複合肥料の規定を満たす。さらに、リン、カリウム、アンモニア性窒素の含有率はともに、1重量%を超えるため、液状複合肥料は、アンモニア性窒素、リン、カリウムの含有量を保証できるものとなる。したがって、これを土壌における植物栽培、または養液土耕、または水耕栽培、あるいは植物工場における植物栽培に利用することができる。
【0067】
(実施例4)
実施例1に記載の混合廃液7.8重量部に対し、アンモニア性窒素を6重量%、カリウムを9重量%、MnO2を2重量%、B23を2重量%、Feを5.7重量%、Cuを0.04重量%、Znを0.08重量%、Moを0.043重量%含む肥料(商品名:大塚ハウス5号/大塚アグリテクノ(株))を0.2重量部添加し、さらに硫酸マグネシウム7水和物を2.0重量部添加し、混合して液状肥料を作製した。その化学組成を表4に示す。この際、アンモニア性窒素を6重量%、カリウムを9重量%、MnO2を2重量%、B23を2重量%、Feを5.7重量%、Cuを0.04重量%、Znを0.08重量%、Moを0.043重量%含む肥料、硫酸マグネシウム7水和物は完全に溶解し、析出物は生成しなかった。
【0068】
【表4】

【0069】
この場合、リンとカリウムの含有率の合計が約13%であり、液状複合肥料の規定を満たす。また、P25、K2O、MgOの含有率はともに、1重量%を超え、さらにMnO、B23の含有率は0.05重量%を超えるため、液状複合肥料は、リン、カリウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素の含有量を保証できるものとなる。したがって、これを土壌における植物栽培、または養液土耕、または水耕栽培、あるいは植物工場における植物栽培に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液という新規な肥料のリン源を提供するものである。本発明により得られる液状肥料は、従来の土壌における植物栽培に加え、養液土耕栽培、水耕栽培、さらには植物工場における植物生産に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面化工工程から出るリン成分含有廃液を、そのまま、または、加工して液状肥料として用いることを特徴とする、リン成分含有廃液のリサイクル方法。
【請求項2】
前記リン成分含有廃液が、植物にとっての有害成分を実質的に含まない、請求項1に記載のリサイクル方法。
【請求項3】
前記金属が、アルミニウム、鉄、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であり、前記表面化工工程が、電子部品の製造工程の1つとして行われる、請求項1または2に記載のリサイクル方法。
【請求項4】
前記金属の表面化工工程が、アルミニウム電解コンデンサに使用されるアルミニウム箔の、粗面化工程、酸化皮膜形成工程、洗浄工程、およびそれらの間で行われる中間処理工程からなる群より選ばれる少なくとも1つの工程である、請求項1または2に記載のリサイクル方法。
【請求項5】
前記廃液の含有するリン成分が、オルトリン酸、オルトリン酸塩、亜リン酸、および亜リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリサイクル方法。
【請求項6】
金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液中の、窒素、リン、およびカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の濃度を調節する工程を含む、液状肥料の製造方法。
【請求項7】
前記濃度の調節を、リン成分含有廃液を濃縮することにより行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記濃度の調節を、硝酸化合物、アンモニウム化合物、およびカリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記リン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する工程をさらに含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属が、アルミニウム、鉄、およびシリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であり、前記表面化工工程が、電子部品の製造工程の1つとして行われる、請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属の表面化工工程が、アルミニウム電解コンデンサに使用されるアルミニウム箔の、粗面化工程、酸化皮膜形成工程、洗浄工程、およびそれらの間で行われる中間処理工程からなる群より選ばれる少なくとも1つの工程である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記リン成分含有廃液から、植物にとっての有害成分を除去する工程をさらに含む、請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記リン成分含有廃液が、植物にとっての有害成分を実質的に含まない、請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記廃液の含有するリン成分が、オルトリン酸、オルトリン酸塩、亜リン酸、および亜リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を含む、請求項6〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液に、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、ホウ素化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、およびモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加する工程を含む、液状肥料の製造方法。
【請求項16】
金属の表面化工工程に用いたリン成分含有廃液から、植物にとっての有害成分を除去する工程を含む、液状肥料の製造方法。

【公開番号】特開2012−184150(P2012−184150A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50159(P2011−50159)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】