説明

リン抽出液の回収方法及びリン抽出液の回収装置

【課題】低コストで、効率よく、リン抽出液を回収するリン抽出液の回収方法及びリン抽出液の回収装置を提供する。
【解決手段】ろ布42の一次側表面に混合液中の不溶性成分による層44を形成させた状態でろ過処理を行うように構成されたろ過板40と、ろ過処理中に混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部10a,10bと、汚泥堆積部10a,10bに堆積した不溶性成分を排出する排出手段とを有する固液分離槽10,20を2槽備え、各固液分離槽中の混合液を、他の固液分離槽に相互に導入する手段を有し、2槽の固液分離槽にて、混合液のろ過処理と、不溶性成分の排出処理とを交互に行うと共に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入して、前記処理を切り替えるように構成されているリン抽出液の回収装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンが溶解した溶液から不溶性成分を除去してリン抽出液を回収するリン抽出液の回収方法及びリン抽出液の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リン資源の枯渇が懸念されリン回収技術が注目されている。下水や下水汚泥はリンを含むため、各種のリン回収技術が開発、実用化されている。なかでも、下水汚泥等のようなリン含有汚泥の焼却灰からリンを回収する技術は、リン資源の回収と焼却灰の有効利用の観点から有望視されている。
【0003】
焼却灰からリンを回収するには、焼却灰中のリンを薬剤で抽出する必要があり、抽出方法としては、硫酸、塩酸、硝酸等の強酸性溶液を用いて抽出する方法(例えば、下記特許文献1〜5)や、苛性ソーダ水溶液等のような強アルカリ性溶液を用いて抽出する方法(例えば、下記特許文献6〜8)が知られている。強酸性溶液や強アルカリ性溶液を用いることで、リンを含有する汚泥の焼却灰から、効率よくリンを抽出することができる。
【0004】
そして、焼却灰中のリンを薬剤中に抽出した後、焼却灰と薬剤とを含む混合液を固液分離して焼却灰などの不溶性分を除去し、回収したリン抽出液に、消石灰(水酸化カルシウム)などを加えてリン化合物として析出させるようにして、焼却灰からリンを回収している。
【特許文献1】特開平7−251141号公報
【特許文献2】特開平9−77506号公報
【特許文献3】特開平10−101332号公報
【特許文献4】特開平11−92122号公報
【特許文献5】特開平2001−130903号公報
【特許文献6】特開2007−246360号公報
【特許文献7】特開2007−246361号公報
【特許文献8】特開2007−261878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リンを含有する汚泥の焼却灰から、リンを高純度でかつ効率よく回収するには、焼却灰中のリンを溶出させたリン抽出液と、焼却灰などの不溶性成分とを含む混合液を固液分離して、不溶性成分の混入の少ない清澄なリン抽出液を効率的に回収する必要がある。固液分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過による方法がある。
しかしながら、遠心分離による方法では、遠心分離機は設備コストが高いという問題があった。また、遠心分離機の作動には、回転エネルギーを要するので、運転コストがかかるという問題があった。さらには、遠心分離では、固形分回収率が低く、回収された抽出液中に数百mg/L程度の焼却灰が混入するため、最終製品として得られるリン化合物の商品価値が損なわれる問題があった。
【0006】
また、ろ過による固液分離方法では、固液分離を効率的に行うことが困難で、工業的なリン回収工程には適用しにくかった。
【0007】
また、上記特許文献8には、フィルタープレスによるろ布を用いたろ過が開示されている。しかしながら、フィルタープレスは、バッチ操作の運転となるため、目的とするリン抽出液を得るために長時間を要する結果、設備が大きくなり設備コストが高くなるという問題があった。また、ろ布が目詰まりし易く、高圧水での頻繁な洗浄を必要とし維持管理が面倒で運転コストも高くなる問題があった。すなわち、フィルタープレスは固形分の汚泥を得ることを目的とした固液分離装置であることから、液体であるリン抽出液を得ることを目的とした操作には不適であり、リン抽出液を得るには効率が悪く、処理に時間を要し、高コストとなる問題があった。
【0008】
また、強酸性溶液や強アルカリ性溶液を用いて、焼却灰からリンの抽出を行った場合、化学的な腐食や材料劣化がきわめて生じ易い条件であるため、リン抽出液と、リン抽出後の焼却灰を含む不溶性成分とを分離する技術の開発はこれまで充分になされていないのが現状であった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、リンを含有する汚泥の焼却灰から、低コストで、効率よく、清澄なリン抽出液を回収するリン抽出液の回収方法及びリン抽出液の回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のリン抽出液の回収方法は、リンを含有する汚泥の焼却灰に、強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させるリン溶解工程と、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液から不溶性成分を除去してリン抽出液を回収する固液分離工程と、を含むリン抽出液の回収方法であって、前記固液分離工程において、前記混合液をろ過するためのろ布を備えたろ過板と、前記混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部と、この汚泥堆積部に堆積した不溶性成分を排出する排出手段を有する固液分離槽を2槽用い、一方の固液分離槽では、前記ろ過板の前記ろ布で仕切られた一次側に前記混合液を供給して、前記ろ布の一次側表面に前記混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行い、前記ろ布で仕切られた二次側からリン抽出液を回収するろ過処理を行うと共に、他方の固液分離槽では、前記汚泥堆積部に堆積した不溶性成分を前記排出手段によって排出する排出処理を行い、次いで、所定時間経過後に、ろ過処理を行っていた一方の固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた他方の固液分離槽に導入し、前記他方の固液分離槽で前記ろ過処理を行うと共に、前記一方の固液分離槽で前記排出処理を行う、という操作を繰り返すことを特徴とする。
【0011】
本発明のリン抽出液の回収方法によれば、固液分離槽を2槽用い、一方の固液分離槽では、リン抽出液とリン抽出後の焼却灰とを含む混合液のろ過処理を行い、他方の固液分離槽では、汚泥堆積部に堆積した不溶性成分を排出する排出処理行い、次いで、所定時間経過後に、ろ過処理を行っていた一方の固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた他方の固液分離槽に導入し、前記他方の固液分離槽で前記ろ過処理を行うと共に、前記一方の固液分離槽で前記排出処理を行う、という操作を繰り返すようにしたので、混合液をほぼ連続してろ過処理することができ、連続的にリン抽出液を回収できる。また、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入してろ過処理を行うようにしたので、リン抽出液を含む未ろ過の混合液を汚泥と共に排出することなく、ろ過処理することができ、リン抽出液の回収率が高い。そして、ろ過処理では、リン抽出液とリン抽出後の焼却灰とを含む混合液を、ろ布を備えたろ過板の一次側に通水させて、該ろ布の一次側表面に混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行うので、ろ布の一次側表面に形成させた不溶性成分による層がフィルターとして機能し、ろ過板の二次側から、焼却灰などの不溶性成分の混入が少ない、極めて清澄なリン抽出液を効率よく回収することができる。
【0012】
本発明のリン抽出液の回収方法は、前記ろ過処理を行う固液分離槽内の混合液を、ろ過処理を開始する前に攪拌することが好ましい。混合液中の不溶性成分は沈降し易いので、固液分離槽に供給した混合液の不溶性成分の濃度が低い場合、ろ布の一次側表面に溶液中の不溶性成分による層を形成する際に時間を要することがあるが、ろ過処理を開始する前に、混合液を攪拌することで、不溶性成分の沈降を防止できる。このため、ろ布の一次側表面に溶液中の不溶性成分による層を短時間で形成でき、効率よくリン抽出液を回収できる。
【0013】
一方、本発明のリン抽出液の回収装置は、リンを含有する汚泥の焼却灰に、強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させることにより形成された、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液から、不溶性成分を除去してリン抽出液を回収するためのリン抽出液の回収装置であって、ろ布によって、前記混合液を供給する一次側と、該混合液のろ液を受ける二次側とに仕切られ、ろ布の一次側表面に前記混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行うように構成されたろ過板と、ろ過処理中に前記混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部と、前記汚泥堆積部に堆積した前記不溶性成分を排出する排出手段とを有する固液分離槽を2槽備え、各固液分離槽中の混合液を、他の固液分離槽に相互に導入する手段を有し、2槽の固液分離槽にて、前記混合液のろ過処理と、前記不溶性成分の排出処理とを交互に行うと共に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入して、前記処理を切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のリン抽出液の回収装置によれば、2槽の固液分離槽にて、混合液のろ過処理と、不溶性成分の排出処理とを交互に行うと共に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入して、前記処理を切り替えるように構成されているので、リン抽出液を含む未ろ過の混合液を汚泥と共に排出せずに済み、混合液からのリン抽出液を効率よく回収できる。そして、ろ過処理では、リン抽出液とリン抽出後の焼却灰とを含む混合液を、ろ布を備えたろ過板の一次側に通水させて、該ろ布の一次側表面に混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行うので、ろ布の一次側表面に形成させた不溶性成分による層がフィルターとして機能し、ろ過板の二次側から、焼却灰などの不溶性成分の混入が少ない、極めて清澄なリン抽出液を効率よく回収することができる。
【0015】
本発明のリン抽出液の回収装置は、前記2槽の固液分離槽を、前記汚泥堆積部よりも上方で互いに連通させる連通管が配置されており、この連通管の途中に弁が設けられていて、前記処理を切り替える際に、該弁を開いて、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入するように構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明のリン抽出液の回収装置は、各固液分離槽中の混合液を個別に抜き出して所定の貯槽に貯留させる手段と、該貯槽に貯留された混合液を各固液分離槽に個別に供給する手段とを有し、前記処理を切り替える際に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を前記貯槽に導入し、前記貯槽に貯留された混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入するように構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明のリン抽出液の回収装置の前記ろ過板は、支持材の両面をろ布で囲み、該ろ布の全周を閉じて袋状となし、少なくとも一端にリン抽出液回収管を接続したもので構成されていることが好ましい。
【0018】
本発明のリン抽出液の回収装置の前記ろ布は、ポリプロピレン、塩化ビニリデン、ビニロンから選ばれた一種以上の材質で構成されていることが好ましい。これらの材質からなるろ布は、耐薬品性に優れるので、ろ過処理時にろ布が劣化し難く、ろ布の交換頻度を抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リン抽出液とリン抽出後の焼却灰とを含む混合液から、焼却灰などの不溶性成分の混入が少ない、極めて清澄なリン抽出液を効率よく回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明のリン抽出液の回収装置について説明する。図1は、本発明のリン抽出液の回収装置の第1の実施形態である。
【0021】
このリン抽出の液回収装置は、第1固液分離槽10と、第2固液分離槽20と、第1固液分離槽10及び第2固液分離槽20を連通する連通管30と、で主に構成されている。第1固液分離槽10、第2固液分離槽20は、基本的に同一の装置構成をなしているので、以下、固液分離槽と記載して説明する。
【0022】
固液分離槽10,20の底部は、槽内に供給された混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部10a(20a)をなしている。固液分離槽の汚泥堆積部10a(20a)よりも上方の側壁には、仕切り弁V5が介装された連通管30が伸びており、この連通管30によって、第1固液分離槽10と第2固液分離槽20とが連結されている。
【0023】
固液分離槽10,20の上部には、開閉弁V1a(V1b)が介装された配管L1a(L1b)が設けられており、それぞれの固液分離層から伸びた配管L1a、L1bは、混合液貯留槽50から伸びた配管L2と接続している。配管L2には、送液ポンプP1が介装されている。
【0024】
固液分離槽10,20の底部には、汚泥給排口(図示しない)がそれぞれ設けられており、この汚泥給排口から、汚泥排出弁V2a(V2b)が介装された配管L3a(L3b)が伸びている。
【0025】
固液分離槽10,20の内部には、ろ過板40が複数(この実施形態では2個)配置されている。図2を併せて参照すると、ろ過板40は、支持材41の両面をろ布42で囲み、該ろ布42の全周を閉じて袋状の形状をなしている。そして、上下方向に沿って、かつ、幅方向に所定間隔で縫い込んだ複数の縫い目43によって、上下に伸びる通路を幅方向に複数並んで形成した構造をなしている。また、上端には、リン抽出液回収管L4a(L4b)が伸びて、配管L5a(L5b)に接続している。
【0026】
ろ布42の材質は、耐薬品性に優れたものであれば特に限定はなく、ポリプロピレン、塩化ビニリデン、ビニロン等が好ましく用いられる。また、ろ布42の厚さは、0.3〜0.5mmが好ましい。また、ろ布42の通気速度は、10〜20ml/cm/sec at 125Paが好ましい。
【0027】
配管L5a(L5b)の下流側端部は、上下に分岐している。上方に伸びた配管L6a(L6b)には、通気弁V3a(V3b)、吸引ポンプP2a(P2b)が介装されている。下方に伸びた配管L7a(L7b)には、排水弁V4a(V4b)が介装されおり、この配管L7a(L7b)は、固液分離槽内の水位よりも下方に伸びている。
【0028】
次に、上記リン抽出液の回収装置を用いた、本発明のリン抽出液の回収方法を説明する。
【0029】
本発明のリン抽出液の回収方法は、リンを含有する汚泥の焼却灰に強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させるリン溶解工程と、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液から不溶性成分を除去してリン抽出液を回収する固液分離工程と、を含む工程からなる。
【0030】
(リン溶解工程)
リンを含有する汚泥の焼却灰に、強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させる。
【0031】
強酸性溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。強アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0032】
強酸性溶液を用いてリンを溶解させる場合においては、焼却灰に強酸性溶液を加えて、pH2以下にして処理することが好ましい。また、50〜75℃の温度条件下で処理すると、焼却灰からのリン溶出に要する時間を短縮できるので好ましい。
【0033】
強アルカリ性溶液を用いてリンを溶解させる場合においては、焼却灰に強アルカリ性溶液を加えて、pH14程度にして処理することが好ましい。50〜75℃の温度条件下で処理すると、焼却灰からのリン溶出に要する時間を短縮できるので好ましい。
【0034】
(固液分離工程)
次に、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液(以下、「混合液」と記す)を、図1に示すリン抽出液回収装置を用いて固液分離し、混合液から不溶性成分を除去してリン抽出液を回収する。本装置では、第1固液分離槽20と、第2固液分離槽20とで、混合液のろ過処理と、槽内に蓄積した不溶性成分を汚泥として排出する排出処理と、を交互に行い、混合液を固液分離してリン抽出液を回収する。以下、第1固液分離槽10でろ過処理を行い、第2固液分離槽20で排出処理を行う場合の処理を例に挙げて、図3〜8を用いて説明する。なお、図中の実線で記した配管は、配管内を液等が流通している状態を示し、点線で記した配管は、配管内を液等が流通していない状態を示している。また、黒塗りした弁は閉じている状態を示し、白抜きした弁は開いている状態を示している。
【0035】
まず、開閉弁V1b、汚泥排出弁V2a及び仕切り弁V5を閉じ、開閉弁V1a及び汚泥排出弁V2bを開き、送液ポンプP1を作動する。このようにすると、図3に示すように、第1固液分離槽10には、混合液貯留槽50内の混合液が、配管L1aを通って供給され、第2固液分離槽20では、汚泥堆積部20aに堆積した汚泥が、配管L3bから系外に引き抜かれる。
【0036】
次に、図4に示すように、第1固液分離槽10に混合液がろ過板40の上方に至るまで供給されたら、送液ポンプP1を停止し、開閉弁V1aを閉じる。そして、排水弁V4aを閉じた状態で、通気弁V3aを開いて吸引ポンプP2aを作動させ、ろ液(リン抽出液)を配管L5a,L7a内に充満させる。そして、配管L5a,L7a内にリン抽出液を充満し、吸引ポンプP2aを停止して、通気弁V3aを閉じ排水弁V4aを開く。このようにすると、サイフォン効果により、配管L7aの長さに応じた負圧がろ過板40の内部に作用し、無動力でろ過が行われ、リン抽出液は、配管L7aを通って系外に排水される。
【0037】
こうしてろ過作業を開始すると、ろ過板40のろ布の一次側表面には、混合液中の不溶性成分による層(以下、「プレコート層」と記す)44が形成される。プレコート層44の厚さは、運転条件により異なるので特に限定はしないが、十〜数十mmの厚さになるように形成することが好ましい。このように、ろ過板40のろ布42の一次側表面にプレコート層44が形成されていることにより、プレコート層44がフィルターとして機能し、配管L7aからは、極めて清澄なリン抽出液が得られる。そして、ろ過により固液分離槽10内の水位が一定レベルまで低下すると、開閉弁V1aを開き、送液ポンプP1を作動して、配管L1aから第1固液分離槽10内に混合液が供給され、ろ過が連続的に行われる。なお、焼却灰は、有機物を含まないので、混合液中に含まれる不溶性成分は無機性の粒子からなるものであり、ろ布42は目詰まりが生じにくく、ろ過処理中にろ布に付着した不溶性成分は、自重で自然剥離し、剥離した部分には、再度不溶性成分が付着するのでプレコート層が形成される。一方、第2固液分離槽20では、汚泥堆積部20aに堆積した汚泥の排出処理が行われている。
【0038】
第1固液分離槽10、第2固液分離槽20にて、上記処理を継続すると、第1固液分離槽10の汚泥堆積部10aには、混合液中の不溶性成分がろ過処理中に重力沈降し、更には、ろ布42の表面からプレコート層44の一部が自然剥離するので、汚泥が蓄積する。一方、第2固液分離槽20では、汚泥が排出されて槽内は空になる。
【0039】
図5に示すように、第1固液分離槽10の汚泥堆積部10aに、所定量の汚泥が堆積した時点で、送液ポンプP1を停止し、開閉弁V1aを閉じ、汚泥排出弁V2bを閉じる。そして、この状態で仕切り弁V5を開くと、図6に示すように、第1固液分離槽10に残っていた未ろ過の混合液が、連通管30を通って第2固液分離槽20に移送される。そして、未ろ過の混合液の移送が終わると、図7に示すように、第1固液分離槽10及び第2固液分離槽20の水位はほぼ同じとなり、第1固液分離槽10には汚泥が残り、第2固液分離槽20には未ろ過の混合液が残る。
【0040】
次に、未ろ過の混合液の移送が終了したら、図8に示すように、仕切り弁V5を閉じ、開閉弁V1b及び汚泥排出弁V2aを開き、送液ポンプP1を作動する。
【0041】
第1固液分離槽10では、汚泥堆積部10aに堆積した汚泥の引き抜きを行うと共に、ろ布42の一次側表面に付着した不溶性成分の剥離が行われる。剥離操作は、例えば、ろ布42の2次側から加圧空気を送風して剥離する方法などが挙げられる。なお、前述したように、焼却灰は、有機物を含まないので、ろ布42に付着した不溶性成分は、無機性の粒子からなるものであるので、ろ布42からは不溶性成分は自然剥離しやすい。
【0042】
一方、第2固液分離槽20では、第2固液分離槽20に、混合液貯留槽50内の混合液がろ過板40の上部に至るまで供給され、第1固液分離槽10と同様にして、ろ過処理が行われる。なお、第2固液分離槽20には、切り替え時に第1固液分離槽10から流入した未ろ過の混合液が存在するので、混合液の充填に要する時間を短縮できる。
【0043】
このようにして、第1固液分離槽10、第2固液分離槽20では、ろ過処理と、汚泥排出処理とが交互に繰り返され、全体としてほぼ連続的に混合液をろ過処理できるので、リン抽出液を連続的に回収できる。
【0044】
従来の方法では、槽内に蓄積した汚泥を排出する際に、リン抽出液を含んだ未ろ過の混合液をも排出していたので、リン抽出液の回収率が不十分であったが、本実施形態によれば、リン抽出液を含んだ未ろ過の混合液を排出することなく、ろ過処理するので、リン抽出液の回収効率が高い。また、ろ過処理では、ろ布42の一次側表面に混合液中の不溶性成分による層(プレコート層44)を形成させた状態でろ過処理を行うので、プレコート層44がフィルターとして機能し、ろ過板40の二次側から回収できるリン抽出液は、焼却灰などの不溶性成分の混入が少なく、極めて清澄である。
【0045】
図9に、本発明のリン抽出液の回収装置の第2の実施形態を示す。上記第1の実施形態のリン抽出液の回収装置と同一箇所については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
この実施形態では、固液分離槽内に攪拌装置60が配置されている点で、上記第1の実施形態と相違する。攪拌装置60は、混合液のろ過処理や、配管L3a、L3bからの汚泥の引き抜きを行う際に支障をきたさないようなものであれは特に限定はなく、例えば、曝気式攪拌装置などが好ましく挙げられる。
【0047】
次に、図9に示すリン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液を回収する方法について説明する。
【0048】
この実施形態では、混合液を固液分離槽10、20内に供給し、ろ過板40の上方に至るまで供給してろ過板40によるろ過処理を開始するまでの間に、攪拌装置60を作動して、固液分離槽10,20内の混合液を攪拌する点で上記第1の実施形態と相違する。
【0049】
混合液中の不溶性成分は沈降し易いので、混合液の不溶性成分の濃度が低い場合、ろ布の一次側表面に溶液中の不溶性成分によるプレコート層44を形成する際に時間を要することがあるが、この実施形態では、ろ過処理を開始する前に混合液を攪拌するので、不溶性成分の沈降を防止でき、ろ布の一次側表面にプレコート層44を短時間で形成でき、ろ過処理開始までに要する時間を短縮でき、リン抽出液の回収効率が向上する。
【0050】
図10に、本発明のリン抽出液の回収装置の第3の実施形態を示す。上記第1の実施形態のリン抽出液の回収装置と同一箇所については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0051】
この実施形態では、1)第1固液分離槽10と第2固液分離槽20との間に連通管30が配置されていない点、2)第1固液分離槽10の汚泥堆積部10aよりも上方の側壁に、開閉弁V6aが介装された配管L8aが接続して、混合液貯留槽50にまで伸びている点、3)第2固液分離槽20の汚泥堆積部20aよりも上方の側壁に、開閉弁V6bが介装された配管L8bが接続して、混合液貯留槽50にまで伸びている点、で上記第1の実施形態と相違する。
【0052】
次に、図10に示すリン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液を回収する方法について説明する。
【0053】
この実施形態では、第1固液分離槽10で行っていた処理と、第2固液分離槽20で行っていた処理とを切り替える際に、開閉弁V6a(V6b)を開き、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の未ろ過の混合液を、混合液貯留槽50に導入する点で上記第1の実施形態と相違する。
【0054】
この実施形態によれば、装置設置などの制約で2槽間に連通管30を設けることができない場合や、各固液分離槽の汚泥堆積部10a,10bの容積が小さく、未ろ過の混合液を充分に受け入れることができない場合等に特に好適である。なお、新たにろ過処理を行う固液分離槽には、槽内が空の状態から混合液を供給することになるので、上記第1の実施形態に比べ、混合液の充填に時間を要し、ろ過処理時間が短くなる傾向がある。
【0055】
なお、堆積した汚泥の排出手段を汚泥排出弁により説明したが、例えばスクリューフィーダーなどを用いることもある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のリン抽出液の回収方法の固液分離工程で用いるリン抽出液の回収装置の第1の実施形態を示す概略図である。
【図2】(a)はろ過板の平面図であり、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【図3】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図4】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図5】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図6】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図7】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図8】上記リン抽出液の回収装置を用いてリン抽出液の回収を行う動作図である。
【図9】本発明のリン抽出液の回収方法の固液分離工程で用いるリン抽出液の回収装置の第2の実施形態を示す概略図である。
【図10】本発明のリン抽出液の回収方法の固液分離工程で用いるリン抽出液の回収装置の第3の実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
10:第1固液分離槽
20:第2固液分離槽
10a、20a:汚泥堆積部
30:連通管
40:ろ過板
41:支持材
42:ろ布
43:縫い目
44:プレコート層
50:混合液貯留槽
60:攪拌装置
P1:送液ポンプ
P2a,P2b:吸引ポンプ
V1a,V1b:開閉弁
V2a,V2b:汚泥排出弁
V3a,V3b:通気弁
V4a,V4b:排水弁
V5:仕切り弁
V6a,V6b:開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有する汚泥の焼却灰に、強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させるリン溶解工程と、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液から不溶性成分を除去してリン抽出液を回収する固液分離工程と、を含むリン抽出液の回収方法であって、
前記固液分離工程において、前記混合液をろ過するためのろ布を備えたろ過板と、前記混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部と、この汚泥堆積部に堆積した不溶性成分を排出する排出手段を有する固液分離槽を2槽用い、
一方の固液分離槽では、前記ろ過板の前記ろ布で仕切られた一次側に前記混合液を供給して、前記ろ布の一次側表面に前記混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行い、前記ろ布で仕切られた二次側からリン抽出液を回収するろ過処理を行うと共に、他方の固液分離槽では、前記汚泥堆積部に堆積した不溶性成分を前記排出手段によって排出する排出処理を行い、
次いで、所定時間経過後に、ろ過処理を行っていた一方の固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた他方の固液分離槽に導入し、前記他方の固液分離槽で前記ろ過処理を行うと共に、前記一方の固液分離槽で前記排出処理を行う、という操作を繰り返すことを特徴とするリン抽出液の回収方法。
【請求項2】
前記ろ過処理を行う固液分離槽内の混合液を、ろ過処理を開始する前に攪拌する、請求項1に記載のリン抽出液の回収方法。
【請求項3】
リンを含有する汚泥の焼却灰に、強酸性溶液又は強アルカリ性溶液を加えてリンを溶解させることにより形成された、リンが溶解した溶液と不溶性成分との混合液から、不溶性成分を除去してリン抽出液を回収するためのリン抽出液の回収装置であって、
ろ布によって、前記混合液を供給する一次側と、該混合液のろ液を受ける二次側とに仕切られ、ろ布の一次側表面に前記混合液中の不溶性成分による層を形成させた状態でろ過処理を行うように構成されたろ過板と、ろ過処理中に前記混合液中の不溶性成分を堆積させる汚泥堆積部と、前記汚泥堆積部に堆積した前記不溶性成分を排出する排出手段とを有する固液分離槽を2槽備え、
各固液分離槽中の混合液を、他の固液分離槽に相互に導入する手段を有し、
2槽の固液分離槽にて、前記混合液のろ過処理と、前記不溶性成分の排出処理とを交互に行うと共に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入して、前記処理を切り替えるように構成されていることを特徴とするリン抽出液の回収装置。
【請求項4】
前記2槽の固液分離槽を、前記汚泥堆積部よりも上方で互いに連通させる連通管が配置されており、この連通管の途中に弁が設けられていて、前記処理を切り替える際に、該弁を開いて、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入するように構成されている請求項3記載のリン抽出液の回収装置。
【請求項5】
各固液分離槽中の混合液を個別に抜き出して所定の貯槽に貯留させる手段と、該貯槽に貯留された混合液を各固液分離槽に個別に供給する手段とを有し、前記処理を切り替える際に、ろ過処理を行っていた固液分離槽中の混合液を前記貯槽に導入し、前記貯槽に貯留された混合液を、排出処理を行っていた固液分離槽に導入するように構成されている請求項3記載のリン抽出液の回収装置。
【請求項6】
前記ろ過板は、支持材の両面をろ布で囲み、該ろ布の全周を閉じて袋状となし、少なくとも一端にリン抽出液回収管を接続したもので構成されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のリン抽出液の回収装置。
【請求項7】
前記ろ布は、ポリプロピレン、塩化ビニリデン、ビニロンから選ばれた一種以上の材質で構成されている、請求項3〜6のいずれか1項に記載のリン抽出液の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−207983(P2009−207983A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52862(P2008−52862)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】