説明

リン脂質の製造方法

本発明は、魚粉を有機溶媒に接触させて脂質含有液を調製し、該液を精密ろ過し、その後任意に溶媒の留去を行うことを含む工程により得られるリン脂質組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン脂質の組成物、より詳しくは海産リン脂質を含む組成物の製造方法に関し、またそれにより製造されたリン脂質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
海産資源由来のリン脂質は今日、乾燥した状態または湿った状態の生物由来資源(バイオマス)から多くの種類の抽出方法を使用して製造されている。
天然のリン脂質の含有量は低く(湿った状態の海洋原料の1重量%〜5重量%の間)、原料及び抽出のコストが高いので、最終製品は高価である。その結果最終製品は、例えば水産養殖における稚魚の非常に高度品位の餌の成分だけでなく栄養補助食品及び医薬品のような、市場の高価格セグメントに主に適用される。
【0003】
現在市販されているものは一般的に魚卵、オキアミまたはイカの皮膚から得られる。年間の生産量は10トン(10 metric tons)を超えず、これは主にコストが高いためである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海産のリン脂質は極めて高いパーセンテージでω−3脂肪酸を含有し、またホスファチジルコリンが豊富である。このことはすぐれた栄養的特徴であり、それゆえそのような物質をより広い市場、たとえば人の食品、また一般的な飼料や水産養殖産業に供給することが非常に望まれる。
【0005】
リン脂質に結合した長鎖ω−3脂肪酸は、稚魚の成長、生存率及び適切に機能する免疫系の発達に必須の役割を果たす。
人の消費に供される動物に一定量のω−3リン脂質を与えることは、人の栄養におけるω−6とω−3脂肪酸の比のバランスを、理想的な2:1とするのに好適に寄与する―これは栄養学理論によれば非常に望ましい変化である。
【0006】
飼料及び飼料の成分について、PCBやダイオキシンのような環境毒物の汚染についての法的な規制は非常に厳しい。このことは、特に北海およびバルト海の魚類が深刻に高いレベルの汚染をしているために魚粉製造産業で問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々はいまや、驚くべきことに、有機溶媒を使用した溶媒抽出の後にリン脂質の分離、たとえば精密ろ過または溶媒沈殿を行うことが、汚染物質のレベルが十分に低く、更に精製をすることなく使用可能なリン脂質組成物を製造するのに使用できることを発見した。
【0008】
したがって、本発明の一つの態様(aspect)からは、魚粉からリン脂質組成物を製造する方法が提供される、その製造方法は、魚粉を有機溶媒に接触させて脂質含有液を調製することと、該液を、溶媒の留去をしてもよいが、極性脂質よりも中性脂質がより溶解しやすい第二の溶媒と接触させ、それによりリン脂質組成物を沈殿させることと、任意的な溶媒の留去後に、前記の溶解しやすい中性脂質(たとえば残留液)を吸着物質に接触させてもよく、それによりそこから汚染物を除去することとを含む。本発明は上記の製造方法により得られるリン脂質組成物も提供する。
【0009】
本発明のさらなる態様からは、魚粉からリン脂質組成物を製造する方法が提供される、
その製造方法は、魚粉を有機溶媒に接触させて脂質含有液を調製し、該液をポリマー膜またはセラミック膜を使用して精密ろ過(たとえば膜分離処理)し、その後任意に溶媒の留去を行うことを含む。本発明は上記の製造方法により得られるリン脂質組成物も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法において使用される魚粉はいずれの海産魚粉でもよく、例えば従来製造されている魚粉である。魚粉は魚、魚卵、オキアミまたはイカから、特にイカの皮膚または魚類廃棄物から製造することができる。
【0011】
脂質含有液を調製するために使用される有機溶媒は、リン脂質およびトリグリセリド(すなわち魚油)が溶解する溶媒であればいずれでもよい。一般的にヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタンなどのアルカンを使用してもよい。一般的に溶媒は魚粉に対して1:1〜10:1、特に2:1〜5:1、望ましくは3:1の重量割合で使用される。
【0012】
抽出工程(この工程で脂質含有液ができる)に続いて、脂質溶液は好ましくは、残留物から例えばろ過により分離される。残留物は好ましくは、続いて例えば減圧下で溶媒を除去した後に、魚粉の従来の仕方、例えば飼料の成分、特に魚のえさとして使用してもよい。
【0013】
望ましくは前記脂質溶液は、例えば減圧下で溶媒を除去され、そしてその溶媒は典型的には溶媒抽出工程で再利用される。
脂質生成物は大部分は、PCBやダイオキシンのような汚染物に対する、リン脂質の割合が比較的高い魚油である。
【0014】
沈殿工程では、極性脂質(例えばリン脂質)と中性脂質(例えば油、トリグリセリド、遊離脂肪酸、コレステロール、数種類の色素およびダイオキシン、PCB、PAHなどのような親油性汚染物)との間で溶解度に差があるいずれの溶媒も使用でき、たとえば超臨界二酸化炭素、プロパン、二酸化炭素/プロパン混合物、エタノール/水混合液(とりわけ水は25%までである)またはケトン(特にアセトン)である。アセトンが特に好ましい。
【0015】
沈殿工程に使用される溶媒は、典型的には沈殿処理される前記脂質生成物に対して、1:1〜15:1、特に3:1〜10:1、望ましくは7:1の重量割合で使用される。
沈殿したリン脂質は好ましくはトリグリセリド含有画分から、例えばろ過またはほかの種類の分離方法により取り除かれる。分離されたリン脂質は好ましくは乾燥し、直接、または油または油脂のいずれかに溶解してから、例えば飼料の成分として使用してもよい。その飼料としては例えば、タンパク質、油、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどをさらに含有する飼料があげられる。必要に応じて前記リン脂質は使用の前に、例えば酵素的な頭(head)基の交換により化学的に修飾されてもよい。分離され、任意に化学的修飾を受けたリン脂質およびそれを含む組成物は本発明のさらなる態様を構成する。驚くべきことに、そして予想外なことに前記リン脂質中のPCBの含量は、トリグリセリド(魚油)含有画分のそれよりも10〜15倍低くなりうる。そのように汚染物のレベルが低いことは、前記リン脂質がさらに精製をすることなく使用し得ることを意味している。
【0016】
もう一つの方法として、有機溶媒との接触の次に、リン脂質画分を膜分離あるいは精密ろ過分離を使用してトリグリセリド画分から分離してもよい。汚染された魚粉から抽出した脂質中のダイオキシンの汚染レベルを除去/減少させる、別の本発明の実施態様において、中性脂質(主にトリグリセリド、遊離脂肪酸、コレステロール、数種類の色素および
ダイオキシン、PCB、PAHのような親油性の汚染物)および極性脂質(主にリン脂質)を含有する魚粉のアルカン(ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなど)抽出物は、溶媒の蒸留に先立ち中性脂質からリン脂質を分離するために、膜分離または精密ろ過分離工程に供される。
【0017】
リン脂質濃縮物中の汚染物レベルを減少させるそのような精密ろ過工程の基本原理を以下に記述する。
非極性アルカン溶媒中ではリン脂質は凝集して高い分子量をもつミセル構造になり、一方すべての中性脂質は分子が分散した状態で溶液中に溶解している。
【0018】
分子量が200000(およそ直径1μm)までのリン脂質ミセルは大きすぎて、孔の大きさが約0.1〜0.5μmである精密ろ過膜を通って拡散することができない。しかしながら、すべての中性脂質は、親油性汚染物を含めて膜の孔を透過することができる。
【0019】
好適な市販の精密ろ過膜は、例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルフォン(PS)、ポリアミド(PA)またはポリイミド(PI)などのポリマー材料、またはセラミック材料からできている。
【0020】
魚粉からの親油性抽出物を含有するアルカン溶液を1〜5barの適度な膜間圧でこの精密ろ過工程に供することで、親油性の汚染物の大部分を含み、実質的にリン脂質を含まない透過物と、汚染物が除去し尽くされたリン脂質濃縮物を含む保持液が得られる。
【0021】
膜の表面積と溶液全容量との比、魚粉抽出物のリン脂質濃度、循環時間、圧力などによって、前記保持液中のリン脂質濃度を正確に決定することができる。
親油性の汚染物は比較的分子量が低いことから、それらは出発混合物における他の中性脂質と同じ割合で膜を透過する。このことは、もし三倍のリン脂質含有量で前記工程を実施すれば、親油性の汚染物の量は三倍減少する、などといったことを意味する。
【0022】
分離後、透過物(中性脂質)および保持液(所定量の残留中性脂質とともにリン脂質濃縮物を含有する)は、溶媒を除去して回収するために適切な蒸留設備に移される。
ほとんどの飼料製造者は扱いやすく食べさせやすい材料を要求するため、リン脂質含量を、リン脂質濃縮物がなおも流動することができる程度まで増加させることが望ましい。
【0023】
前記トリグリセリド画分は好ましくは、例えば減圧下で溶媒除去して、その溶媒をもう一度再利用してもよい。得られる魚油組成物に吸着物質(たとえば活性炭)で従来処理を施して、PCBおよびダイオキシンによる汚染レベルを低下させ、それ自身飼料として使用し得る製品を得てもよい。
【0024】
本発明のリン脂質組成物は、典型的には、水産養殖における稚魚の餌の成分、魚餌の成分、陸生動物の飼料の成分、ペットフードの成分、動物の生存率、免疫応答および一般的健康状態を向上させるための製剤の成分、人が消費する動物産物のω−6とω−3との比を調整するための飼料成分として、動物への給餌のため、あるいは酵素的もしくは化学的修飾をした後に人に投与するために使用し得る。
【0025】
本発明はこれからさらに以下の限定を意図しない実施例によって記述される。
【実施例】
【0026】
[実施例1]アセトン沈殿
1.000kgの従来法により調製された、ダイオキシンで汚染された魚粉を、バッチ抽出機
中でヘキサンで抽出して、21%のリン脂質を含有する油52kgを得た(慎重な分離、ろ過お
よびヘキサン除去の後である)。抽出された粗油は4.01ppt TEQのレベルのダイオキシン
を含んでいた(ガスクロマトグラフィー)。
【0027】
400Lのアセトンを外気温で抽出容器に仕込み、継続的に勢いよく撹拌しながら、前記
のダイオキシン汚染粗油をゆっくりとアセトン中に注いだ。リン脂質が直ちに凝集沈殿物を形成した。
【0028】
油を含有する上清を除去し、撹拌した状態で新鮮なアセトン(250L)を再び添加し、
リン脂質沈殿物を洗浄して残留中性脂質を除去した。
アセトンを除去した後に残ったリン脂質を40℃、減圧下で慎重に乾燥させた。
【0029】
リン脂質画分を分析したところ、ダイオキシンのレベルがわずか0.31ppt TEQに減少し
ていた。
ダイオキシン汚染は濃縮の数工程後にガスクロマトグラフィーにより測定された。
【0030】
[実施例2]膜ろ過
魚粉をヘキサンで抽出して、総脂質含量が26%で、6.970ppmのリン(19.2%のリン脂質に相当する)および脂質部分に4.13pptのダイオキシンを含有する、中性脂質および極性
脂質のヘキサン溶液を得た。
【0031】
平均孔サイズ0.3μmのエレメントがスパイラルに巻かれた形状のPAN膜ろ過装置を
、最初にプロパノールで約12時間、次にプロパノール/ヘキサン(1:1)混合液で12時間、最後に抽出溶媒であるヘキサンでさらに12時間、事前に条件の調整を行った。
【0032】
脂質部分のリンが16.030ppmとなる保持液のリン含量(44.1%のリン脂質に相当する)
までサンプル溶液を2barの膜間圧でろ過する。その結果浸透物の流速は59L/時間・m2である。浸透物中の残存リン含量は、溶媒フリーの脂質部分において117ppm程度であ
ると推測できる。
【0033】
保持液脂質のダイオキシン含量は約2.07pptに減少したと推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚粉を有機溶媒に接触させて脂質含有液を調製し、該液を精密ろ過し、その後溶媒留去を行ってもよいことを含む工程により得られるリン脂質組成物。
【請求項2】
前記精密ろ過が膜分離工程を含む請求項1に記載のリン脂質組成物。
【請求項3】
a)魚粉を有機溶媒に接触させて脂質含有液を調製すること、
b)任意的な溶媒の留去後に、前記液を極性脂質よりも中性脂質がより溶解しやすい第二の溶媒と接触させ、それによりリン脂質組成物を沈殿させること、
c)任意的な溶媒留去後に、前記の溶解しやすい中性脂質を吸着物質に接触させてもよく、それによりそこから汚染物を除去することと
を含む工程により得られるリン脂質組成物。
【請求項4】
前記魚粉がイカの皮膚または魚類廃棄物から調製される請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにより規定されるリン脂質組成物の製造方法。
【請求項6】
動物への給餌のための請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項7】
水産養殖における稚魚の飼料の成分としての請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項8】
魚の餌としての請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項9】
陸生動物の飼料の成分としての請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項10】
ペットフードの成分としての請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項11】
動物の生存率、免疫応答および一般的健康状態を向上させるための製剤の成分としての請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項12】
人が消費する動物産物のω−6とω−3との比を調整するための飼料の成分としての、請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。
【請求項13】
酵素的又は化学的な修飾をした後に人に投与するための請求項1〜4のいずれかに記載のリン脂質組成物の使用。

【公表番号】特表2008−537569(P2008−537569A)
【公表日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504839(P2008−504839)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001241
【国際公開番号】WO2006/106325
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507331472)
【Fターム(参考)】