説明

リン脂質組成物の製造方法

【課題】本発明により、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるリン脂質組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)マイクロ波加熱器を用いることによって、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱して前処理を行う工程、および(b)該前処理した原料からリン脂質組成物を溶剤抽出する工程を含むことを特徴とするリン脂質組成物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物からの高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の抽出工程および各原料の前処理工程を含むリン脂質組成物の製造方法に関し、特に、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるリン脂質組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エイコサペンタエン酸(以下EPAと言う)やドコサヘキサエン酸(以下DHAと言う)、ドコサペンタエン酸(以下DPAと言う)、アラキドン酸(以下ARAと言う)など高度不飽和脂肪酸の人体での機能が解明され、これらを含む油脂やエステル体が医薬や機能性食品として普及している。
【0003】
これらの原料の多くは水産物の副産物や微細藻類や菌体から搾油されるか、または抽出され、精製されることが大半である。またこれらの油脂は、ほとんどトリグリセリドの形状で流通している。
【0004】
近年、高度不飽和脂肪酸の人体での脂質代謝のなかでリン脂質や糖脂質、スフィンゴ脂質などの役割が見直されている。DHAのリン脂質ではDHAを摂取させた鶏卵の卵黄からのDHA結合リン脂質やマグロ頭部のリン脂質、イカ内蔵、イカ皮や乾燥イカミールからのリン脂質やホヤからのプラズマローゲン、キヒトデからのセレブロシド、豚内臓からのアラキドン酸結合リン脂質などの抽出方法およびその脂質の製造方法について多くの提案がなされている。
【0005】
更に、筋子からリン脂質を抽出したものや、鮪の卵巣からのリン脂質を抽出したものが市場に紹介されている。鮪などの魚卵からの抽出方法において、前処理として熱水かスチームで処理した後、溶剤で抽出する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
通常、畜産物や水産物からの脂質の抽出については、凍結乾燥するか、または天日乾燥などによって乾燥後、溶剤により抽出する方法が一般的である。特許文献1では、魚の内臓などを熱水またはスチームで加熱処理した後、保存工程を経て、これをエタノールで抽出している。
【0007】
凍結乾燥では加工に要するコストが増加し、得られる脂質の価格が高価格になり、市場に対して販売することが困難となる。天日乾燥などで温度や時間をかけて乾燥すると原料内の酵素が失活されず、得られるリン脂質の分解が起こりやすいという問題がある。
【0008】
特許文献1では、加熱処理により原料である魚の内臓内の酵素は失活し、保存時の安定性が得られるが、熱水の量が大量に必要となり、またこれらの熱水中に魚の内臓からの水溶性タンパクなどが溶出し、環境問題が発生するという問題があった。また、スチーム処理では品温が内部まで上昇するには時間がかかり、中心部が酵素失活のための温度に上昇する前に外部の温度が上昇し、70℃以上になると目的物であるリン脂質の分解が促進されるなどの問題があった。
【0009】
また、上記の熱水処理やスチーム処理以外の方法を用いるものとして、生にんにくを抽出してにんにくエキスを製造する方法において、抽出工程の前処理としてマイクロ波処理を行う方法(特許文献2)や、生魚を含む材料から栄養組成物を製造する方法において、タンパク質の加熱工程に電磁波(例えば、マイクロ波)照射を用いる方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、これらはリン脂質などの抽出方法や製造方法に用いられたものではなかった。
【特許文献1】特開2004‐2663号公報
【特許文献2】特開平7‐16072号公報
【特許文献3】特開2002‐536983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来のリン脂質組成物の製造方法の有する問題点を解決し、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるリン脂質組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、マイクロ波加熱器を用いて、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱する前処理を行ってから、リン脂質組成物を溶剤抽出することによって、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるリン脂質組成物の製造方法が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、(a)マイクロ波加熱器を用いることによって、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱して前処理を行う工程、および(b)該前処理原料からリン脂質組成物を溶剤抽出する工程を含むことを特徴とするリン脂質組成物の製造方法。に関する。
【0013】
更に、本発明を好適に実施するためには、
上記工程(a)終了後、更なる処理を行わずに、上記(b)工程を行って、上記前処理した原料をそのまま抽出し;
上記畜産物が牛、豚および鶏の可食部および卵から成る群から選択され、上記水産物が魚介類の可食部および内臓から成る群から選択され;
上記(b)工程で用いる溶剤が、エチルアルコール、アセトン、ヘキサンおよびそれらの混合溶媒から成る群から選択される;
ことが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様として、
(a)マイクロ波加熱器を用いることによって、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱する前処理工程、および
(b)該前処理した原料からリン脂質組成物を溶剤抽出する工程
を含むことを特徴とするリン脂質組成物の製造方法によって得られるリン脂質組成物がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリン脂質組成物の製造方法は、マイクロ波加熱器を用いて、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱する前処理を行ってから、リン脂質組成物を溶剤抽出するものである。代表的な応用例として電子レンジに象徴されるマイクロ波加熱処理は、物体内部の水分の活動に直接的に作用し品温を上昇させる効果がある。マイクロ波加熱処理は短時間で温度上昇をさせる効果があり、また熱水やスチームと異なり、物質に均一に作用するので温度の上昇について偏在することがない。従って、本発明のリン脂質組成物の製造方法を用いることにより、製造コストが非常に低くなり、また高品質のリン脂質組成物が得られる。
【0016】
マイクロ波加熱処理を用いる効果としては、水分の減少とともに品温の上昇により水溶性タンパクが熱変性し抽出に際しエタノールなどの溶剤に溶出することが少なくなるか、またはほとんど無くなる効果もある。即ち、通常の畜産物や水産物の内蔵や可食部、卵などでは、本発明のような前処理としての加熱処理工程を行わず、そのまま抽出するとエタノールやアセトンなどの極性のある溶剤ではこれらに含まれる水溶性タンパクが溶出して脂質中に混在するため、目的物としての脂質の純度が低下し、品質の低下を招くこととなる。従って、本発明のリン脂質組成物の製造方法を用いることにより、高品質のリン脂質組成物、即ち、高濃度のリン脂質組成物が高収率で得られる。
【0017】
本発明によれば加熱時間も少なく、熱によるリン脂質の分解も少ないこと、および加熱処理による脂質を分解させる酵素の活動を抑制する効果も期待できる。脂質の分解酵素であるリパーゼやホスホリパーゼが失活することにより、リン脂質の分解が抑制される効果が生じる。従って、本発明のリン脂質組成物の製造方法を用いることによって、高品質のリン脂質、即ち、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるのである。マイクロ波処理は水分を減少させる効果もあり、通常、乾燥の方法として用いられている。しかしながら、本発明においては、前述のように、乾燥の目的だけでなく、リン脂質の分解を引き起こす酵素を失活させる目的に用いており、そのような目的にマイクロ波処理を用いた例は見当たらない。マイクロ波処理を用いる本発明のリン脂質組成物の製造方法を用いることによって、抽出前の加熱処理後の原料の保存安定性が非常に優れたものとなる。
【0018】
熱水処理やスチームによる処理方法では水質の汚染や品温の偏在の可能性があり抽出する脂質の品質上の問題が生じる。熱水処理では、大量の熱水を準備しないと冷凍保存した原料の水産物などの温度上昇に時間がかかることが問題となる。長時間加熱すると原料の腐敗を招いたり、タンパク自体の分解を招いたりする懸念もある。従って、大量の熱水を用いるが、これらの熱水はエネルギーを大量に消費し、水質汚染のための処理費用が発生し、製造コストが増加するという問題がある。
【0019】
スチームによる処理方法では、スチーム自体の温度が高く、原料の中心部まで加熱が進むまでに外部の温度上昇が起こりリン脂質自体の分解が促進され、目的とするリン脂質の品質の低下が懸念されるという問題がある。
【0020】
これに対して、マイクロ波処理を用いる本発明のリン脂質組成物の製造方法では、上記の熱水またはスチームを用いて加熱処理する場合に比較して、短時間で加熱処理することができ製造コストが非常に低いものとなる。
【0021】
以上より、本発明のリン脂質組成物の製造方法では、マイクロ波加熱器を用いて、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱する前処理を行ってから、リン脂質組成物を溶剤抽出することによって、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるものである。
【0022】
尚、前述のように、生にんにくを抽出してにんにくエキスを製造する方法において、抽出工程の前処理としてマイクロ波処理を行う方法(特許文献2)や、生魚を含む材料から栄養組成物を製造する方法において、タンパク質の加熱工程に電磁波(例えば、マイクロ波)照射を用いる方法(特許文献3)が提案されている。しかしながら、特許文献2については、マイクロ波により酵素を失活させることが記載されているものの、にんにく中のアリナーゼを失活させアリインからアリシンへの移行を抑制し、アリシンの臭気を抑えることを目的としている。従って、本発明の目的であるリパーゼやホスホリパーゼの失活を目的としたものではなく、また抽出目的物の安定性の向上や収率の向上を目的としたものではない。本発明の目的は、あくまでマイクロ波加熱によって、加熱による過度の温度上昇を抑え、リン脂質の分解を抑えることを目的とし、更に抽出工程までの保存中の分解を抑制することも目的になっている。
【0023】
特許文献3については、生魚を含む混合物を乳化して、上記混合物中に含まれるタンパク質を凝集させるためにマイクロ波処理などの加熱方法を用いたものであり、生魚中に含まれる水溶性タンパク質などを加熱凝集させて飼料を製造する方法である。特許文献3では、あくまでタンパク質を加熱凝集するために、上記のように得られるエマルジョンを電磁波による加熱する方法を用いており、これらに含まれる脂質への影響については記載されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(マイクロ波)
マイクロ波は、明確な定義がある用語ではないが、一般的には周波数300MHzから3THz(テラヘルツ)の電波(電磁波)を指し、この範囲には、デシメートル波(UHF)、センチメートル波(SHF)、ミリメートル波(EHF)、サブミリ波が含まれる。本発明の製造方法に用いられるマイクロ波加熱器は、物体内部の水分の活動に直接的に作用し品温を上昇させるものであり、代表的な応用例として、家庭用調理器の電子レンジが挙げられる。本発明の熱源であるマイクロ波は、通常、電子レンジに用いられる2.45GHzが最適である。本発明では畜産物などの原料中の含有水分を対象として加熱することを目的とするので、900MHzの電子レンジなども使用可能である。
【0025】
(加熱時間)
本発明における加熱時間は、マイクロ波のエネルギーレベルや、また畜産物などの原料中の含水量にも依存するが、品温が60℃以上に達し、タンパク変性が始まる時期が最適である。60℃未満ではタンパク変性が起こらず、内包する水溶性タンパクが抽出中に溶出することや、脂質の分解を促進する酵素タンパクの変性が起こらず、保存中の脂質の分解を促進するという問題が生じる。
【0026】
(処理温度)
また、必要以上に加熱を続けると、熱によるリン脂質の分解が促進される危険がある。リン脂質は一般的に70℃以上の温度を長時間かけると、重合、分解を起こすことが知られている。このような70℃以上の加熱によるリン脂質の変化として、リン脂質の重合によるリン脂質製品の褐変がある。本発明のようにマイクロ波加熱では、短時間の加熱で含水分を直接的に加熱するため、瞬時の処理で加熱を終了することができる。また、加熱処理を行わずに未処理のまま乾燥して抽出する場合には、乾燥時間が長くなり、その間に酸化を受けるため、過酸化物価が上昇し、通常の処理では低下することが困難であるため、リン脂質の致命的な劣化の原因となる。
【0027】
(熱水やスチームによる加熱の問題点)
熱水やスチームでは、表面から温度が上昇し、温度コントロールを十分に管理しないと品温が偏在するために、局部的に加熱されたり、十分に加熱されなかったりする問題が発生する。更に、熱水抽出すると畜産物や水産物などから溶出する水溶性タンパクなどで水質の汚染が発生し、環境上の問題が発生する。スチーム加熱でも凝縮水に畜産物や水産物などからの成分が混入するなどの問題が発生する。
【0028】
(対象物質)
本発明の製造方法に用いる原料は、畜産物、水産物、それらの副生物およびそれらの混合物から成る群から選択される。上記畜産物としては、牛、豚および鶏の可食部および卵から成る群から選択され、上記水産物としては、魚類、貝類、ウニ、ナマコ、キヒトデ、ホヤ等の棘皮動物を含む魚介類の可食部および内臓から成る群から選択される。上記畜産物の具体例として、牛、豚、鶏などの肉質および肝臓、大腸、小腸などの内蔵を含む可食部、並びに鶏卵などの卵が挙げられ;上記水産物の具体例として、マグロ、ニシン、ブリ、サメ、サケ、マス、イカ、キヒトデ、ホヤなどの肉質部などの可食部および卵巣、精巣などの内臓などが挙げられる。更に、畜産物および水産物の副生物とは、頭足、皮、内臓、血液、骨、殻など、解体したり、加工したりする段階で産出するものをいう。
【0029】
(処理後乾燥)
本発明の製造方法における溶剤抽出においては、原料としての畜産物、水産物およびそれらの副生物はマイクロ波による加熱後、水分を残したまま直接抽出することも可能であるが、凍結乾燥や天日乾燥、真空乾燥などの乾燥方法を用いてもよい。本発明では水分を残したまま直接的に抽出が可能である。
【0030】
(使用溶剤)
本発明による抽出溶剤は、特に限定するものではないが、食品として用いることが可能なエタノール、ヘキサン、アセトンなどが好ましい。特に含水している畜産物、水産物、またはそれらの副生物から脂質を抽出する場合にはエタノールが最も好ましい。
【0031】
(溶剤量)
上記溶剤の使用量は、効率的な抽出を行うことが可能な量であればよいが、畜産物、水産物およびそれらの副生物から成る群から選択される原料100重量部に対して、10〜10,000重量部、好ましくは50〜5,000重量部、より好ましくは100〜1,000重量部であることが望ましい。上記溶剤の使用量が、10重量部未満では原料が浸漬されず抽出が効率的に実施されず、10,000重量部を超えると溶剤の回収時ロスが多くなることと、溶剤留去時の加熱によるエネルギーロスが多くなり過ぎて製造コストが増加して好ましくない。
【0032】
(抽出温度および抽出時間)
本発明における溶剤による抽出温度は、室温から70℃までで実施されるべきである。温度が低すぎると抽出効率が悪くなる。すなわち抽出物の重量が低下するか、必要以上の溶剤の使用が必要となる。また温度が70℃を超えると抽出効率は向上するが、抽出される脂質組成物中のリン脂質が分解したり、重合したりすることにより、目的とするリン脂質が抽出されないという問題が生じる。
【0033】
(分離方法)
得られた脂質は、必要に応じて、アセトンなどにより、リン脂質などの極性脂質を分別することも可能である。また、カラム分離やHPLCにより、ホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルエタノールアミン(PE)のような成分を分離することも可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるも
【0035】
(実施例1):マグロ血合い肉
マグロ血合い肉(宮崎県内にて入手)を、
1)未処理のまま、
2)65℃熱水にて15分間加熱後、引き上げたもの、
3)マイクロ波加熱器として電子レンジ500Wで3分間処理したもの
を冷凍庫にて保管後、凍結乾燥した。各乾燥収率を表1に示す。各乾燥物を3倍量のエタノールで2回抽出し、得られた抽出液を溶剤留去した。残存する脂質の収率と脂質中のホスファチジルコリン(PC)量を表1に示す。また、比較として、マグロ血合い肉から直接抽出した場合の結果も表2に示す。更に、5℃にて2週間と3ヶ月保管後の脂質収量と残存する前留分解物量も表1に示す。2週間後のPCについては分解が激しく正確な定量ができないため、前留分解物を測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
保管後の前留分の分解物がマイクロ波処理では抑制された。また保管後の抽出収率もマイクロ波処理が良好であった。
【0038】
(実施例2):ニシン卵
ニシン卵(北海道内にて入手)を、
1)未処理のまま、
2)65℃熱水にて15分間加熱後、引き上げたもの、
3)マイクロ波加熱器として電子レンジ500Wで3分間処理したもの
を冷凍庫にて保管後、凍結乾燥した。各乾燥収率を表2に示す。各乾燥物を3倍量のエタノールで2回抽出し、得られた抽出液を溶剤留去した。残存する脂質の収率と脂質中のホスファチジルコリン(PC)量を表2に示す。また、比較として、ニシン卵から直接抽出した場合の結果も表2に示す。更に、5℃にて3ヶ月と6ヶ月保管後の脂質収量と残存するPC量も表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
保管後のPCの分解がマイクロ波処理では抑制された。また、保管後の抽出収率もマイクロ波処理が良好であった。
【0041】
(実施例3):ブリ卵
ブリ卵(宮崎県内にて入手)を、
1)未処理のまま、
2)65℃熱水にて15分間加熱後、引き上げたもの、
3)マイクロ波加熱器として電子レンジ500Wで3分間処理したもの
を冷凍庫にて保管後、凍結乾燥した。各乾燥収率を表3に示す。各乾燥物を3倍量のエタノールで2回抽出し、得られた抽出液を溶剤留去した。残存する脂質の収率と脂質中のホスファチジルコリン(PC)量を表3に示す。また、比較として、ブリ卵から直接抽出した場合の結果も表3に示す。更に、5℃にて2ヶ月保管後の脂質収量と残存するPC量も表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
あまり大きな差はないが、保管後のPCの分解がマイクロ波処理では抑制された。また保管後の抽出収率もマイクロ波処理が良好であった。
【0044】
(実施例4):イカ可食部
スルメイカ(兵庫県内の市場にて入手)を、
1)未処理のまま、
2)65℃熱水にて15分間加熱後、引き上げたもの、
3)マイクロ波加熱器として電子レンジ500Wで4分間処理したもの
を5℃室内で2週間乾燥した。各乾燥収率を表4に示す。各乾燥物を3倍量のエタノールで2回抽出し、得られた抽出液を溶剤留去した。残存する脂質の収率と脂質中のホスファチジルコリン(PC)量を表4に示す。また、比較として、生イカから直接抽出した場合の結果も表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
保管後のPCの分解がマイクロ波処理では抑制された。また、保管後の抽出収率もマイクロ波処理が良好であった。2週間の乾燥中に酵素による分解が進んだものと見なされる。
【0047】
(実施例5):豚肝臓
豚肝臓(兵庫県内の市場にて入手)を、
1)未処理のまま、
2)65℃熱水にて15分加熱後引き上げたもの、
3)マイクロ波加熱器として電子レンジ500Wで3分間処理したもの
を直接3倍量のエタノールで3回抽出し、得られた抽出液を溶剤留去した。残存する脂質の収率と脂質中のホスファチジルコリン(PC)量を表5に示す。また比較として凍結乾燥(FD)したものの乾燥収率、抽出収率を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
マイクロ波処理法が凍結乾燥法に最も近い結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法は、製造コストが低く、保存安定性に優れ、高濃度のリン脂質を高収率で得ることができるリン脂質組成物の製造方法として有用である。本発明の製造方法により得られるリン脂質組成物は、医薬や機能性食品などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)マイクロ波加熱器を用いることによって、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱して前処理を行う工程、および
(b)該前処理した原料からリン脂質組成物を溶剤抽出する工程
を含むことを特徴とするリン脂質組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)終了後、更なる処理を行わずに、前記(b)工程を行って、前記前処理した原料をそのまま抽出する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記畜産物が牛、豚および鶏の可食部および卵から成る群から選択され、前記水産物が魚介類の可食部および内臓から成る群から選択される請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記(b)工程で用いる溶剤が、エチルアルコール、アセトン、ヘキサンおよびそれらの混合溶媒から成る群から選択される請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
(a)マイクロ波加熱器を用いることによって、原料としての畜産物、水産物、またはそれらの副生物を加熱する前処理工程、および
(b)該前処理原料からリン脂質組成物を溶剤抽出する工程
を含むことを特徴とするリン脂質組成物の製造方法によって得られるリン脂質組成物。

【公開番号】特開2008−255182(P2008−255182A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97333(P2007−97333)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(504258011)新興貿易株式会社 (4)
【出願人】(503295323)
【Fターム(参考)】