説明

リン誘導体を軸置換基とするサブフタロシアニン誘導体とその製造方法、およびそれを用いる光学膜

【課題】サブフタロシアニン類が本来有する特性を損なうことなく、溶解性に優れたリン誘導体を軸置換基として有する、新規なリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体及びその製造方法、並びにこの物質を用いる光学膜を提供する。
【解決手段】新規なリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、下記式(I)


で表されるものであり、光学膜として有用である。式中、Z1−Z12はHやアルキル基等、R1,R2はアルキル基等を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸置換基としてリン誘導体を有する新規なリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体とその合成法、及びそれを用いる光学膜に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜、カラーフィルター・光学フィルター等の光透過膜のような機能性光学薄膜である光学膜は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の画像表示装置において、鮮明な画像を表示するために不可欠であり、重要な材料である。
【0003】
このような光学膜のほとんどは、無機化合物を化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)や物理蒸着法(Physical Vapor Deposition:PVD法)によって、製膜して得られる。有機化合物を用いた例も知られており、例えば特許文献1に、無金属フタロシアニン類を用いた反射防止膜が、開示されている。
【0004】
また、フタロシアニン類よりも環縮小したサブフタロシアニン類を機能性光学薄膜や光学部品やその原材料とした例も知られており、例えば、特許文献2に、青色形成のためのカラーレジスト用インキ及びカラーフィルターが開示され、特許文献3に、高明彩フルカラー印刷用青色水性インキが開示され、特許文献4に、プラズマディスプレイ用前面パネルに用いられるオレンジ光を吸収する色素が開示され、特許文献5に、有機LEDの発光素子が開示されている。
【0005】
サブフタロシアニン類は、顔料、薄膜化学材料、情報記録材料、発光材料としても、様々な分野に応用が検討されている。
【0006】
しかし、サブフタロシアニン類は、耐光性、溶解性が十分でない。そのため、溶剤にそれを分散させた顔料分散体を調製して塗布し、その薄膜を作製する必要がある。このような顔料分散体を用いた薄膜は、粒子径0.5μm以下の超微粒子領域にまで均質に微粉末化し非常に狭い粒度分布としたサブフタロシアニン類を用いなければ、十分な透明性を得ることができない。サブフタロシアニン類を超微粒子領域にまで粉砕すると、その表面積が増大し、耐光性の一層の低下を招く原因となってしまう。しかも、均質に分散し難い顔料分散体を塗布して、均質な薄膜を作製するのは、困難である。
【0007】
一方、特定波長領域に吸収を有する機能性光学薄膜、とりわけ、最近、需要が拡大しているプラズマ表示パネル(Plasma Display Panel:PDP)や液晶などの大画面ディスプレイに被覆される反射防止膜、カラーフィルター、青色レーザー域対応光記録媒体、フォトレセプターなどの光学膜は、530〜580nmでの半値幅が小さく、吸収特性が大きな物性のものが、望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−64492号公報
【特許文献2】特開2004−10838号公報
【特許文献3】特開2005−200601号公報
【特許文献4】特開2005−344021号公報
【特許文献5】特開2006−13226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、サブフタロシアニン類が本来有する特性を損なうことなく、溶解性に優れたリン誘導体を軸置換基として有する新規なリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに斯かるリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を用い、耐光性、耐熱性があって特定波長領域に吸収を有し、前記機能性光学薄膜として優れた光学膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を解決するためになされた特許請求の範囲の請求項1に係るリン誘導体を軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体(リン誘導体置換ホウ素サブフタロシアニン誘導体)は、
下記式(I)
【化1】

(化学式(I)中、Z〜Z12は、互いに同一又は異なり、水素原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルキル含有基、パーシャルフルオロアルキル含有基、パーフルオロアルキル含有基、アラルキル含有基、パーシャルフルオロアラルキル含有基、パーフルオロアラルキル含有基、アリール基、アミノ基、アルコキシル基、又はチオエーテル基であることを特徴とする。R、Rは互いに同一又は異なり、アルキル基、アラルキル基、フェニル基、アルコキシル基、フェノキシ基である。)
で表されることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る請求項1に記載のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の製造方法は、
下記式(II)
【化2】

(化学式(II)中、Z〜Z12は、前記式(I)と同一であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。)
で表わされるハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンを、下記式(III)
POH・・・・・(III)
(化学式(III)中、R、Rは、は互いに同一又は異なり、炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アラルキル基、フェニル基、アルコキシル基、フェノキシ基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。)
で示される化合物と反応させる工程を有する、下記式(I)
【化3】

(化学式(I)中、Z〜Z12、R、Rは前記に同じ。)
で表されることを特徴とする。
【0013】
リン誘導体を軸置換基として有するサブフタロシアニン誘導体を製造するというものである。
【0014】
また、請求項3に記載の光学膜は、請求項1に記載のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリン誘導体を軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、高耐光性・高耐熱性を示し、各種溶剤への溶解性が高く、530〜590nmに半値幅の狭い可視光域での吸収帯を有しており、また、その吸光係数も大きい。
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンと比べると、Solid−State(薄膜状態)での分子会合に起因して、所望波長の変化や半値幅のブロード化を顕著に抑制できる。
【0016】
また、本発明のリン誘導体を軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニン類と対応するリン誘導体とを反応させるという、簡便な方法で、収率よく、大量に製造することできる。
【0017】
さらに、本発明のリン誘導体を軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有する光学膜は、このリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体が溶剤への溶解度が高いために、塗布によって均一な厚さに製膜することができる。また、この光学膜は、高耐光性・高耐熱性のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有しているため、堅牢性にも優れており、さらに、530〜590nmに吸収係数の大きく、半値幅の狭い可視光域での吸収帯を有しているため、特定の波長の光のみを遮断することができる。
【0018】
その結果、この光学膜で被覆されたディスプレイ等は、コントラスト比の高い鮮明な画像を表示することができる。この光学膜は、光反射防止薄膜や光透過性薄膜として、オレンジ光(550〜620nm)や人間の視感度の中心である光(560nm)などの画像を不鮮明にする光(510〜610nm)を選択的に吸収するが他の可視光領域はほとんど妨げないという特性を有するから、ディスプレイの視認性向上に極めて有用である。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0019】
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、前記式(I)で表わされる。
【0020】
リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、例えば、下記式(IV)
【化4】

(化学式(IV)中、Y〜Yは、互いに同一又は異なり、水素原子;ヒドロキシル基;メルカプト基;
炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状で未置換、パーシャルフルオロ置換、パーフルオロ置換、若しくは置換基含有のアルキル基;
炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状で未置換、パーシャルフルオロ置換、パーフルオロ置換若しくは置換基含有のアラルキル基;
又は、アリール基、アミノ基、アルコキシル基、フェノキシ基、及びチオエーテル基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。n1〜n3は、互いに同一又は異なり、1〜4の整数である。R´は互いに同一又は異なり、炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシル基、フェノキシ基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。)
で表わされるものが、挙げられる。
【0021】
前記式中、Y〜Yが示す置換基の具体的な例としては以下のような置換基が挙げられる。なお、本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体が有することのできる置換基はこれらに何ら限定されるものではない。
【0022】
未置換のアルキル基として、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、i‐プロピル基、n‐ブチル基、i‐ブチル基、sec‐ブチル基、t−ブチル基、n‐ペンチル基、neo‐ペンチル基、n‐ヘキシル基、n‐ヘプチル基、n‐オクチル基、2‐エチルヘキシル基、n‐デシル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0023】
パーシャルフルオロ置換のアルキル基として、2,2,2‐トリフルオロエチル基、3,3,3‐トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロピル基、4,4,4‐トリフルオロブチル基等が挙げられる。また、パーフルオロ置換のアルキル基として、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロ‐n‐プロピル基、パーフルオロ‐i‐プロピル基、パーフルオロ‐n‐ブチル基、パーフルオロ‐i‐ブチル基、パーフルオロ‐sec‐ブチル基、パーフルオロ‐n‐ペンチル基、パーフルオロ‐neo‐ペンチル基、パーフルオロ‐n‐ヘキシル基、パーフルオロ‐n‐ヘプチル基、パーフルオロ‐n‐オクチル基、パーフルオロ‐n‐デシル基等が挙げられる。
【0024】
未置換のアラルキル基としては、ベンジル基、α、α‐ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0025】
パーシャルフルオロ置換のアラルキル基としては、‐CF基、‐C(CF基等が挙げられ、パーフルオロ置換のアラルキル基としては、‐CF基、‐C(CF基が挙げられる。
【0026】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0027】
アミノ基としては、アミノ基;
メチルアミノ基、エチルアミノ基、n‐プロピルアミノ基、i‐プロピルアミノ基、n‐ブチルアミノ基、sec‐ブチルアミノ基、t‐ブチルアミノ基、n‐ペンチルアミノ基、neo‐ペンチルアミノ基、n‐ヘキシルアミノ基、n‐ヘプチルアミノ基、n‐オクチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ‐n‐プロピルアミノ基、ジ‐i‐プロピルアミノ基、ジ‐n‐ブチルアミノ基、ジ‐sec‐ブチルアミノ基、ジ‐t‐ブチルアミノ基、ジ‐n‐ペンチルアミノ基、ジ‐neo‐ペンチルアミノ基、ジ‐n‐ヘキシルアミノ基、ジ‐n‐ヘプチルアミノ基、ジ‐n‐オクチルアミノ基等のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0028】
アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n‐プロポキシ基、i‐プロポキシ基、n‐ブトキシ基、i‐ブトキシ基、sec‐ブトキシ基、t‐ブトキシ基、n‐ペンチルオキシ基、neo‐ペンチルオキシ基、n‐ヘキシルオキシ基、n‐ヘプチルオキシ基、n‐オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
チオエーテル基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n‐プロピルチオ基、i‐プロピルチオ基、n‐ブチルチオ基、i‐ブチルチオ基、sec‐ブチルチオ基、t‐ブブチルチオ基、n‐ペンチルチオ基、neo‐ペンチルチオ基、n‐ヘキシルチオ基、n‐ヘプチルチオ基、n‐オクチルチオ基、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0030】
これらの基は、別な置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、フェネチル基等のアリール基;ベンジル基、α、α‐ジメチルベンジル基等のアラルキル基;アミノ基;アルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0031】
前記式中、R´が示す置換基の具体的な例としては以下のような置換基が挙げられる。なお、本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体が有することのできる置換基はこれらに何ら限定されるものではない。
【0032】
アルキル基として、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、i‐プロピル基、n‐ブチル基、i‐ブチル基、sec‐ブチル基、t−ブチル基、n‐ペンチル基、neo‐ペンチル基、n‐ヘキシル基、n‐ヘプチル基、n‐オクチル基、2‐エチルヘキシル基、n‐デシル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0033】
アラルキル基としては、ベンジル基、α、α‐ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0034】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0035】
アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n‐プロポキシ基、i‐プロポキシ基、n‐ブトキシ基、i‐ブトキシ基、sec‐ブトキシ基、t‐ブトキシ基、n‐ペンチルオキシ基、neo‐ペンチルオキシ基、n‐ヘキシルオキシ基、n‐ヘプチルオキシ基、n‐オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
これらの基は、別な置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、フェネチル基等のアリール基;ベンジル基、α、α‐ジメチルベンジル基等のアラルキル基;アミノ基;アルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0037】
リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、以下の方法で製造される。
【0038】
リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンと、リン誘導体との反応により製造される。この製造方法を用いると、簡便且つ良好な収率でリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を得ることができる。このリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、溶媒への溶解性、耐光性、耐熱性に優れているためインキや機能性光学薄膜など多くの分野に応用できる。
【0039】
リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体のより具体的な製造方法の一例は、以下のとおりである。
【0040】
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンは、特開2005−289854号公報、特願2007−053265記載の方法又は同等の方法により、フタロニトリル誘導体とハロゲン化ホウ素との反応により合成される。その化学反応式を、下記式(V)に示す。
【0041】
【化5】

【0042】
(式(V)中、Y、Y〜Yは、互いに同一又は異なり、水素原子;ヒドロキシル基;メルカプト基;
炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状で未置換、パーシャルフルオロ置換、パーフルオロ置換、若しくは置換基含有のアルキル基;
炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状で未置換、パーシャルフルオロ置換、パーフルオロ置換若しくは置換基含有のアラルキル基;
又は、アリール基、アミノ基、アルコキシル基、フェノキシ基、及びチオエーテル基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。n1〜n3は、互いに同一又は異なり、1〜4の整数である。R´は互いに同一又は異なり、炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシル基、フェノキシ基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。)
【0043】
ホウ素化合物BXは、Xがフッ素、塩素、臭素、沃素などのハロゲン原子のものであり、Xが塩素原子である三塩化ホウ素であることが好ましい。この三塩化ホウ素は常温・常圧では気体であるので、反応系内に吹き込んでもよいが、三塩化ホウ素を含有する溶液を反応系内に添加してもよく、適当な冷却手段で冷却して液化し反応系内に滴下してもよい。
【0044】
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニン合成反応に用いる溶媒としては、高沸点であり、フタロニトリル誘導体を良好に溶解させ、ハロゲン化ホウ素と反応しないものであれば特に限定されないが、たとえば、トルエン、キシレン、メシチレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ナフタレン、モノメチルナフタレン、モノクロロナフタレン、ジクロロナフタレン、キノリン、イソキノリン、スルフォラン等を用いることができる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上混合して用いられてもよい。
【0045】
得られたハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンは、下記式(VI)
【化6】

【0046】
(式(VI)中、Y〜Y、n1〜n3、X及びR´は前記に同じ。)
に示すように、リン誘導体と反応させ、軸置換基の交換反応により、リン誘導体置換サブフタロシアニンへと誘導される。
【0047】
軸置換基の交換反応の方法を具体的に例示すると、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニン、リン誘導体を溶解、又は懸濁させ、必要に応じて適当な塩基の存在下、加熱し、脱ハロゲン化水素反応に伴う置換反応をさせることにより、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を合成するというものである。
【0048】
軸置換基の交換反応に用いることのできる溶媒としては、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンとリン誘導体とを溶解、又は懸濁させるこができるものであれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、クメン等のアルキルベンゼン類;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルプロピレンウレア等の含窒素系溶媒;テトラハイドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、1,4−ジオキサン、モノグライム、ダイグライム、トリグライム等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。
【0049】
軸置換基の交換反応に、適当な塩基を用いて、副生するハロゲン化水素を除去し、反応を促進させてもよい。塩基としては、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニン及び、リン誘導体にある基に影響を与えないものであれば、特に限定されることはないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩及び炭酸水素塩等を用いることができる。
【0050】
軸置換基の交換反応の反応温度は、前記溶媒の還流温度であることが好ましく、その反応時間は、1〜24時間である。
【0051】
軸置換基の交換反応終了後、反応混合物を濾過し、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を得ることが好ましい。更に目的に合わせて精製してもよい。例えば、カラムクロマトグラフィー等の精製手段や再結晶などを用いて、生成物を取り出すことができる。なお、精製手段はこれらに限定されるものではない。
【0052】
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンの構造式の例を以下の中間化合物1〜20に示す。これら構造式中のBnはベンジル基を表す。尚、ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンはこれらの例に限定されるものではない。
【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
本発明に用いることのできるリン誘導体としては、下記式(VII)
R´POH・・・・・(VII)
(R´は前記に同じ。)
で表わされる。
【0056】
これの具体的な例として、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジ−n−プロピルホスフィン酸、ジ−n−ブチルホスフィン酸、ジ−sec−ブチルホスフィン酸、ジ−n−ペンチルホスフィン酸、ジ−n−ヘキシルホスフィン酸、ジ−n−ステアリルホスフィン酸、ジアリルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジベンジルホスフィン酸、ジクロロメチルホスフィン酸、ジ(2−メトキシエチル)ホスフィン酸、ジトリルホスフィン酸、ジキシリルホスフィン酸などのようなホスフィン酸誘導体;ジメチルリン酸、ジエチルリン酸、ジ−n−プロピルリン酸、ジ−n−ブチルリン酸、ジ−sec−ブチルリン酸、ジ−n−ペンチルリン酸、ジ−n−ヘキシルリン酸、ジ−n−ステアリルリン酸、ジアリルリン酸、ジフェニルリン酸、ジベンジルリン酸、ジクロロメチルリン酸、ジ(2−メトキシエチル)リン酸、ジトリルリン酸、ジキシリルリン酸などのようなリン酸誘導体が挙げられる。なお、本発明に用いることのできるリン誘導体は上記に限定されない。
【0057】
本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の構造式の例を以下の化合物1〜44に示す。これら構造式中のBnはベンジル基を表す。尚、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体はこれらに限定されない。
【0058】
【化9】

【0059】
【化10】

【0060】
【化11】

【0061】
以下に発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有する機能性光学薄膜である本発明の光学膜について説明する。
【0062】
この光学膜は、例えば光透過性薄膜のような機能性光学薄膜である。光透過性薄膜とは、特定の波長の光のみを色素により吸収・遮断し、目的の光を取り出すことができる機能を持った薄膜である。
【0063】
この光透過性薄膜は、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有することを特徴とする。このリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は半値幅が狭く、また、薄膜状態での分子の会合による波長のブロード化を抑制するので、本発明の誘導体を適宜選択することでこの光透過性薄膜は、ディスプレイ用途において画像を不鮮明にする510〜610nm領域における特定の狭い範囲の波長光のみを選択的に遮断することが出来る。
【0064】
560nm付近の光は、緑色光に相当し、人間の視感度の中心である。そのため、人間はこの光を強く視認する。また、520〜620nmのオレンジ光、特に580nm付近の光は画像を不鮮明にする原因のひとつである。
【0065】
この光透過性薄膜は、前記式(I)で表わされるリン誘導体を軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を主成分とする色素を含有させることにより、ディスプレイのコントラストを改善し、鮮明な画像を表示させることができる。この色素は530〜590nmの波長の光の吸収性を有しており、光透過性薄膜や光反射防止薄膜のような機能性光学薄膜として特に好適である。
【0066】
例えばリン誘導体をホウ素原子に対し、軸置換基として有するリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を主成分とする色素が含有された光学膜用塗布剤、例えばインキで、基材上に塗布されて光学膜が形成される。
【0067】
この光透過性薄膜の製膜法は、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を主成分とする色素を、適当な液媒体に溶解させた塗布剤例えばインキで、基板上に塗布して被着させるというものである。この塗布剤に含まれるリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の量は、塗布剤全量に対して、0.0001〜10重量%であるのが好ましく、0.001〜5重量%であるのがより好ましく、0.005〜3重量%であるのが更に好ましい。
【0068】
光透過性薄膜に用いる色素のモル吸光係数は、55000〜150000Lmol−1cm−1であり、好ましくは60000〜100000Lmol−1cm−1である。
【0069】
次に、本発明の別な光学膜について説明する。光学膜は、光反射防止薄膜のような機能性光学薄膜であってもよい。光反射防止薄膜とは、ディスプレイの表面に蛍光灯や背景等の映りこみを防止し、視認性を向上させるものである。
【0070】
光反射防止薄膜は、光吸収剤としてリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有することを特徴とする。このリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、オレンジ光(550〜620nm)や人間の視感度の中心である光(560nm)などの画像を不鮮明にする光(510〜610nm)を吸収し、鮮明な画像を表示させることができる。また、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、半値幅が狭いので、近接している赤色光の色純度を低下させない。そのため、鮮明な画像を表示させることができる。
【0071】
また、これら光透過性薄膜や光反射防止薄膜のような機能性光学薄膜は、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の光学特性を阻害しない程度に、他の機能性材料を混合して、製膜されていてもよい。他の機能性材料は、例えば、近赤外線吸収色素、紫外線吸収色素、色調調整用色素等が挙げられる。
【0072】
近赤外線吸収剤は、近赤外線が家電製品への誤動作、マイク受信部に干渉することにより生じるスピーカーのノイズ音、自動ドアの誤動作等を防止するために用いられるものである。これらは可視領域の波長の光は透過し、900nm〜1200nmの近赤外線のみを吸収する物質が好ましく、多くは有機色素を用いている。
【0073】
この有機色素として例えば、ジチオール金属錯体、シアニン系、ジインモニウム系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系の化合物等が挙げられる。これらの有機色素は、単独で用いられてもよく、2種以上混合してもよい。また、これら有機色素の添加方法は、特に制限されないが、塗布剤、例えば機能性光学膜用インキに添加するものであってもよく、カレンダー法、コーティング法、キャスト法等で製膜するものであってもよい。
【0074】
紫外線吸収剤は、無機系、有機系のいずれも使用できるが、有機系の紫外線吸収剤が実用的である。有機系の紫外線吸収剤としては、300nm〜400nmの間、好ましくは350nm付近に極大吸収を有し、その領域の光を80%以上吸収するものが好ましい。例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、アクリレート系、オギザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の化合物等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上混合し用いられてもよいが、数種類組み合わせて用いることが好ましい。また、これら紫外線吸収剤の添加方法は、特に制限されないが、塗布剤、例えば機能性光学膜用インキに添加するものであってもよく、カレンダー法、コーティング法、キャスト法等で製膜するものであってもよい。
【0075】
色調調整用色素は、表示色の色バランスを補正し、表示のコントラストを改善する目的で用いられるものである。例えば、シアニン(ポリメチン)系、キノン系、アゾ系、インジゴ系、ポリエン系、スピロ系、ポルフィリン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系等の色素が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上混合して用いられてもよいが、数種類組み合わせて用いられることが好ましい。
【0076】
これら機能性光学薄膜のような光学膜の薄膜形成法としては、インクジェット記録法、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、カレンダー法、コーティング法、キャスト法、ディッピング法等が挙げられる。特にPVD法の中でも真空蒸着法が、用いられる。真空蒸着法は、例えば真空中において、有機色素または金属酸化物を加熱し、それを基材(例えば、二つの電極層の間)に付着させることによって薄膜を形成するという方法である。
【0077】
リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、このような真空蒸着法での薄膜の形成に用いることができる。
【0078】
また、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有する塗布剤をスピンコート法等により塗布して、薄膜状に被着させることもできる。リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、各種溶剤への溶解度が高く、また、耐光性・耐熱性に優れているため、塗布剤は、堅牢なものとなる。
【0079】
また、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、染料として用いることができ、高耐光性、高耐熱性であるため、この塗布剤は、ディスプレイ等の表示装置に光吸収層を形成させるインキとして好ましく用いられる。この塗布剤で、基材例えばディスプレイ等の表示装置に、光吸収層を形成することにより、不要な光の遮断、反射防止等の機能を付与することができる。
【0080】
この塗布剤に用いられる液媒体としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メトキシ−4−メチルペンタノン等のケトン系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、2,4,6−ヘキサントリオール等のポリオール、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール及びそのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル等のエステル系溶媒;1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ジメチルスルホキシド;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン;γ−ブチルラクトン;THF等が挙げられる。これらの液媒体は、単独で用いられてもよく、混合して用いられてもよい。これらに少量の水を併用して用いてもよい。
【0081】
これらのうち、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル等エステル系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン;ジメチルスルホキシド;エチレングリコール等が推奨される。
【0082】
塗布剤は、更に各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えばバインダー(樹脂)、浸透剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、分散剤、レオロジーコントロール剤、界面活性剤、pH調整剤、皮膜改質剤、荷電制御剤(電荷調節剤)、動・植物油等油脂等の成分が挙げられる。これらの添加剤は、必要に応じて適宜選択し、単独で用いられ、又は複数組み合わせて用いられる。
【0083】
前記バインダー(樹脂)成分としては、リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を良好に定着させたり、インキを安定化したり、粘度を調整したりするなどの目的で用いられる。前記液媒体に対して溶解するものであれば、公知の樹脂を適宜用いることができる。
【0084】
バインダー(樹脂)成分としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン‐酢酸ビニル共重合体等のポリビニル系樹脂;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン等のポリアミン系樹脂;ポリメチルアクリレート、ポリエチレンアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルメタアクリレート等のポリアクリレート系樹脂;ロジン、ロジン変性樹脂(フェノール、マレイン酸、フマル酸樹脂等);エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;フェノール変性キシレン樹脂;キシレン樹脂;テルペンフェノール樹脂;フェノール樹脂;ケトン樹脂;アクリル樹脂;スチレン−アクリル樹脂;スチレン−マレイン酸樹脂;テルペン系樹脂;テルペン−マレイン酸樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリウレタン樹脂;アクリルウレタン樹脂;ポリエステル樹脂;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;ポリビニルホルマール及びそれらの共重合体;アルキッド樹脂;エポキシ樹脂;ポリエステルイミド樹脂;ポリアミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;シリコ−ン樹脂;フッ素系樹脂(フッ素系ポリマー);天然樹脂系(アラビアゴム、ゼラチン等)等が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上混合して用いられてもよい。
【0085】
塗布剤は、前記リン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体、液媒体、必要に応じてバインダー、添加剤等を混合し、攪拌して溶解し、必要に応じて希釈し、また必要に応じて他の添加剤を加えることによって、調製することができる。混合攪拌は、通常の羽を用いた攪拌機による攪拌のほか、高速の分散機、乳化機等により行われてもよい。
【0086】
得られた塗布剤を、必要に応じ希釈前、又は希釈後に、濾過して精製してもよい。濾過する場合は、例えば、孔径3.0μm以下のフィルター、好ましくは1.0μm以下のフィルターで、濾過する。
【0087】
この塗布剤は、光透過性薄膜や光反射防止薄膜のような機能性光学薄膜を形成するために、例えばインキとして用いられる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の光学膜を試作した例を参照しながら、より具体的に説明する。なお、文中のSubPcBは、ホウ素サブフタロシアニンを示す。
【0089】
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンの合成
【0090】
ハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンの合成は特開2005−289854号公報、特願2007−053265号記載の方法により合成した。以下にハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンの合成法について具体例をあげて、より詳細に説明する。
【0091】
(合成例1(中間化合物1の合成))
フタロニトリル76.8g、p―キシレン260g、1.0M三塩化ホウ素/p−キシレン溶液270gを窒素気流下還流温度で1時間撹拌することによって29.3gのSubPcBCl(中間化合物1)を得た。
【0092】
(合成例2(中間化合物2の合成))
4−t−ブチルフタロニトリル25.0g、p―キシレン58.9g、1.0M三塩化ホウ素/p−キシレン溶液61.3gを窒素気流下還流温度で2時間撹拌することによって12.7gの(t−Bu)SubPcBCl(中間化合物2)を得た。
【0093】
(合成例3(中間化合物6の合成))
i−ペンチルチオフタロニトリル140g、p―キシレン353g、1.0M三塩化ホウ素/p−キシレン溶液337gを窒素気流下還流温度で2時間撹拌することによって65.5gの(i−C11S)SubPcBCl(中間化合物6)を得た。
【0094】
(合成例4(中間化合物11の合成))
フェニルチオフタロニトリル35.0g、p―キシレン86g、1.0M三塩化ホウ素/p−キシレン溶液82gを窒素気流下還流温度で2時間撹拌することによって18.2gの(PhS)SubPcBCl(中間化合物11)を得た。
【0095】
以下に、本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の合成方法について、具体例を挙げより詳細に説明する。
【0096】
(実施例1(化合物1の合成))
合成例1で得られた中間化合物1を1.0g、ジフェニルホスフィン酸1.0gをオルトジクロロベンゼン40ml中に投入し、還流撹拌を6時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル:クロロホルム=1:1)にて精製を行うことにより、1.0g(中間化合物1からの収率67.4%)のSubPcBOPOPh(化合物1)を得た。
【0097】
SubPcBOPOPh(化合物1)について元素分析結果を表1に示す。なお、化合物1の分子式はC3622BOPである。
【0098】
【表1】

【0099】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果はSubPcBOPOPh(化合物1)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0100】
化合物1のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ6.84(m,4H)、6.97(m,4H)、7.08(m,2H)、7.77(m,6H)、8.71(m,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ122.2、127.6、127.8、129.7、130.3、130.5、130.9、130.9、131.0、131.6、133.5、150.6ppm
IR(KBr):ν1731、1456、1434(P−Ph)、1226、1132、1041(P−O)、734、698、532cm−1
【0101】
(実施例2(化合物3の合成))
合成例1で得られた中間化合物1を1.0g、リン酸ジフェニル1.2gをオルトジクロロベンゼン40ml中に投入し、還流撹拌を5時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)にて精製を行うことにより、1.0g(中間化合物1からの収率64.4%)のSubPcBOPO(OPh)(化合物3)を得た。
【0102】
SubPcBOPO(OPh)(化合物3)について元素分析果を表2に示す。なお、化合物3の分子式はC3622BOPである。
【0103】
【表2】

【0104】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果はSubPcBOPO(OPh)(化合物3)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0105】
化合物3のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ6.56(d,J=8.7Hz,4H)、6.93(t,J=6.6Hz,2H)、7.03(t,J=8.4Hz,4H)、7.90(m,6H)、8.83(m,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ119.5、119.5、122.3、123.6、123.5、129.3、130.0、131.0、134.3、149.9、150.0、150.9ppm
IR(KBr):ν1727、1589、1456、1288(P−OPh)、1051、1024(P−O)、944、740、509cm−1
【0106】
(実施例3(化合物4の合成))
合成例1で得られた中間化合物1を1.0g、リン酸ジブチル1.0gをオルトジクロロベンゼン40ml中に投入し、還流撹拌を11時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル:トルエン=1:1)にて精製を行うことにより、0.5g(中間化合物1からの収率34.3%)のSubPcBOPO(OBu)(化合物4)を得た。
【0107】
SubPcBOPO(OBu)(化合物4)について元素分析結果を表3に示す。なお、化合物4の分子式はC3230BOPである。
【0108】
【表3】

【0109】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果はSubPcBOPO(OBu)(化合物4)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0110】
化合物4のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ0.70(t,J=7.2Hz,6H)、1.02(m,4H)、1.17(m,4H)、3.20(q,J=6.9Hz,4H)、7.91(m,6H)、8.86(m,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ13.5、18.5、31.9、32.0、66.1、66.2、122.3、129.9、131.0、150.8ppm
IR(KBr):ν1456、1286、1133、1052(P−OBu)、1025(P−O)、738、511cm−1
【0111】
(実施例4(化合物5の合成))
合成例2で得られた中間化合物2を2.0g、ジフェニルホスフィン酸1.5gをオルトジクロロベンゼン40ml中に投入し、還流撹拌を5時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=5:1)にて精製を行うことにより、0.6g(中間化合物2からの収率23.3%)の(t−Bu)SubPcBOPOPh(化合物5)を得た。
【0112】
(t−Bu)SubPcBOPOPh(化合物5)について元素分析結果を表4に示す。なお、化合物5の元素分析値はC4846BOPである。
【0113】
【表4】

【0114】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(t−Bu)SubPcBOPOPh(化合物5)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0115】
化合物5のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ1.47(s,18H)、6.81(m,4H)、δ6.95(m,4H)、δ7.05(m,2H)、7.88(m,2H)、8.65(m,2H)、8.76(m,2H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ31.3、31.6、35.8、118.4、121.7、125.2、127.7、127.8、130.4、130.8、150.3、153.8ppm
IR(KBr):ν2960、1573、1436(P−Ph)、1035(P−O)、1022、696、528cm−1
【0116】
(実施例5(化合物7の合成))
合成例2で得られた中間化合物2を2.0g、リン酸ジブチル1.4gをオルトジクロロベンゼン80ml中に投入し、還流撹拌を5時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=5:1)にて精製を行うことにより、0.5g(中間化合物2からの収率18.8%)の(t−Bu)SubPcBOPO(OBu)(化合物7)を得た。
【0117】
(t−Bu)SubPcBOPO(OBu)(化合物7)について元素分析結果を表5に示す。なお、化合物7の元素分析値はC4454BOPである。
【0118】
【表5】

【0119】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(t−Bu)SubPcBOPO(OBu)(化合物7)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0120】
化合物7のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ0.70(t,J=7.5Hz,6H)、1.00(m,4H)、1.15(m,4H)、1.53(s,18H)、3.18(q,J=6.6Hz,4H)、7.97(d,J=7.8Hz,2H)、8.77(t,J=8.1Hz,2H)、8.87(d,J=7.5Hz,2H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ13.5、18.4、31.5、31.9、35.7、66.0、118.3、121.7、127.9、128.6、131.2、150.7、153.8ppm
IR(KBr):ν2958、1278、1182、1054(P−OBu)、1025(P−O)、711、541cm−1
【0121】
(実施例6(化合物11の合成))
合成例3で得られた中間化合物6を1.0g、ジフェニルホスフィン酸0.6gをオルトジクロロベンゼン40ml中に投入し、還流撹拌を6時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて精製を行うことにより、0.7g(中間化合物6からの収率57.6%)の(i−C11S)SubPcBOPOPh(化合物11)を得た。
【0122】
(i−C11S)SubPcBOPOPh(化合物11)について元素分析結果を表6に示す。なお、化合物11の分子式はC5152BOPSである。
【0123】
【表6】

【0124】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(i−C11S)SubPcBOPOPh(化合物11)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0125】
化合物11のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ1.00(d,J=6.9Hz,18H)、1.68(q,J=7.5Hz,6H)、1.84(m,3H)、3.20(m,6H)、6.92(m,4H)、7.07(m,4H)、7.18(m,2H)、7.75(d,J=8.4Hz,3H)、8.62(s,3H)、8.63(d,J=4.8Hz,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ21.2、22.3、27.5、31.1、37.5、119.8、122.1、127.6、129.2、130.3、130.5、131.0、141.1、141.2、149.3、149.8、150.0、150.4、151.1ppm
IR(KBr):ν2954、1606、1436(P−Ph)、1037(P−O)、1024、698、532cm−1
【0126】
(実施例7(化合物13の合成))
合成例3で得られた中間化合物6を2.0g、リン酸ジフェニル1.4gをオルトジクロロベンゼン80ml中に投入し、還流撹拌を6時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=3:1)にて精製を行うことにより、1.2g(中間化合物6からの収率46.9%)の(i−C11S)SubPcBOPO(OPh)(化合物13)を得た。
【0127】
(i−C11S)SubPcBOPO(OPh)(化合物13)について元素分析結果を表7に示す。なお、化合物13の分子式はC5152BOPSである。
【0128】
【表7】

【0129】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(i−C11S)SubPcBOPO(OPh)(化合物13)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0130】
化合物13のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ1.00(d,J=6.9Hz,18H)、1.66(q,J=7.5Hz,6H)、1.83(m,3H)、3.20(m,6H)、6.56(d,J=7.2Hz,4H)、6.94(t,J=6.9Hz,2H)、7.05(t,J=7.8Hz,4H)、7.75(d,J=8.4Hz,3H)、8.63(s,3H)、8.65(d,J=4.8Hz,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ21.2、22.3、27.5、31.1、37.5、119.5、119.8、122.2、124.5、127.8、129.3、131.5、131.8、141.5、141.6、149.3、149.8、150.0、150.4、151.1ppm
IR(KBr):ν2954、1604、1440、1294(P−OPh)、1191、1047、1024(P−O)、943、755、584cm−1
【0131】
(実施例8(化合物24の合成))
合成例4で得られた中化合物11を2.0g、ジフェニルホスフィン酸1.2gをオルトジクロロベンゼン80ml中に投入し、還流撹拌を8時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=2:1)にて精製を行うことにより、1.4g(中間化合物11からの収率56.0%)の(PhS)SubPcBOPOPh(化合物24)を得た。
【0132】
(PhS)SubPcBOPOPh(化合物24)について元素分析結果を表8に示す。なお、化合物24の分子式はC5434BOPSである。
【0133】
【表8】

【0134】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(PhS)SubPcBOPOPh(化合物24)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0135】
化合物24のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ6.87(m,4H)、7.02(m,4H)、7.15(m,2H)、7.38(m,9H)、7.48(m,6H)、7.71(m,3H)、8.58(m,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ122.6、122.8、127.7、127.9、128.2、129.6、130.3、130.5、130.9、131.1、132.5、132.6、140.4、140.5、150.3、150.5、150.8ppm
IR(KBr):ν1606、1436(P−Ph)、1037(P−O)、1024、748、690、532cm−1
【0136】
(実施例9(化合物26の合成))
合成例4で得られた中間化合物11を2.0g、リン酸ジブチル1.1gをオルトジクロロベンゼン80ml中に投入し、還流撹拌を6時間行った。反応終了後ろ過を行い、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=1:1)にて精製を行うことにより、1.0g(中間化合物11からの収率40.0%)の(PhS)SubPcBOPO(OBu)(化合物26)を得た。
【0137】
(PhS)SubPcBOPO(OBu)(化合物26)について元素分析結果を表9に示す。なお、化合物26の分子式はC5042BOPSである。
【0138】
【表9】

【0139】
収率及びクロロホルム中での極大吸収波長、モル吸光係数を表10に示す。また測定した溶解度を表11に示す。これらの結果は(PhS)SubPcBOPO(OBu)(化合物26)が前記化学式の構造であることを確認した。
【0140】
化合物26のH NMRの測定結果を以下に示す。
NMR(300MHz)
H−NMR(CDCl):δ0.71(t,J=7.5Hz,6H)、1.00(m,4H)、1.16(m,4H)、3.18(q,J=6.6Hz,4H)、7.38(m,9H)、7.50(m,6H)、7.73(m,3H)、8.67(m,6H)ppm
13C−NMR(CDCl):δ13.5、18.5、31.9、66.2、122.6、122.7、129.7、130.8、130.9、132.7、132.8、133.8、140.7、140.9、150.2、150.3、150.6ppm
IR(KBr):ν1606、1438、1184、1052(P−OBu)、1024(P−O)、750、705、526cm−1
【0141】
上記実施例1〜9で得られたリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体及び合成例1〜4で得られたハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンのモル吸光係数の測定方法を以下に示す。
【0142】
得られた化合物を10.0mg量り、クロロホルム100mlに完全に溶解させた。この溶液を10ml取り、クロロホルムで100mlに希釈した。この溶液を分光光度計(島津社製 UV−1700)を用いて吸光度を測定し、下記式
A=ε・C・l
(A:吸光度、C:濃度(mol/L)、l:光路長(cm))
からモル吸光係数εを算出した。なお、この測定で用いたセルの光路長は1cmである。
【0143】
以下の表10に上記実施例で得られた化合物の分子式、分子量、収率、クロロホルム中での極大吸収波長及びモル吸光係数を示す。また、比較例として合成例1〜4で得られた中間化合物の分子式、分子量、収率、クロロホルム中での極大吸収波長及びモル吸光係数を示す。
【0144】
【表10】

【0145】
【表11】

【0146】
表10のすべての化合物についてクロロホルム中での吸収スペクトルを図1,2,3,4に示した。この図1〜4より、ほとんどのリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は同じ置換基を有するクロロホウ素サブフタロシアニンよりモル吸光係数が大きく、リン誘導体による軸置換によってもQ帯波長がほとんど変化しなかった。
また、表10のすべての化合物についてメチルエチルケトンに対する溶解度を表11に示す。周辺置換基が無置換の誘導体である化合物1,3,4と中間化合物1を比較すると、リン誘導体による軸置換によって溶解度が大きく向上していた。特に化合物4は10wt%以上の高い溶解度を有する。また、化合物5〜13を比較するとリン誘導体による軸置換によってもサブフタロシアニン誘導体は高い溶解度を維持し、周辺置換基効果による分子設計で適宜な溶解性を付与することが出来る。
【0147】
次に、リン誘導体置換サブフタロシアニンを用いた薄膜作製法及び評価方法を説明する。なお、下記実施例において、重量部を部と表記する。
【0148】
(実施例10)
上記実施例1で得られた本発明の薄膜用色材である化合物1を含む薄膜を下記に示す工程で作製した。
【0149】
実施例1で得られた化合物1を0.5部と、ポリカーボネート1.0部をシクロヘキサノン68.5部、メチルエチルケトン30部に攪拌により溶解混合させて、液状の塗布液を調整した。
【0150】
得られた塗布液を厚さ1mmのガラス板に自動フィルムアプリケーター(コーティングテスター工業社製)を用いて塗布し、薄膜を作製した。
【0151】
(実施例11)
実施例10の化合物1を実施例2で得られた化合物3に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0152】
(実施例12)
実施例10の化合物1を実施例3で得られた化合物4に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0153】
(実施例13)
実施例10の化合物1を実施例4で得られた化合物5に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0154】
(実施例14)
実施例10の化合物1を実施例5で得られた化合物7に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0155】
(実施例15)
実施例10の化合物1を実施例6で得られた化合物11に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0156】
(実施例16)
実施例10の化合物1を実施例7で得られた化合物13に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0157】
(実施例17)
実施例10の化合物1を実施例8で得られた化合物24に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0158】
(実施例18)
実施例10の化合物1を実施例9で得られた化合物26に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0159】
(比較例5)
実施例10の化合物1を合成例1で得られた中間化合物1に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。なお、中間化合物1は完全に溶解しなかったため分散液とした。
【0160】
(比較例6)
実施例10の化合物1を合成例2で得られた中間化合物2に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0161】
(比較例7)
実施例10の化合物1を合成例3で得られた中間化合物6に替えた以外は同じ塗布液を調製し、薄膜を作製した。
【0162】
(ヘイズの測定法)
上記の本発明のサブフタロシアニンを含有する薄膜を用いて、ヘイズメーター(日本電色工業社製 NDH2000)で薄膜のヘイズを測定した。樹脂のみを塗布した薄膜(Blank薄膜)のヘイズ値は0.41であった。
ヘイズ値を表12に示した。1.0以下を◎、1.5以下を○、2.0以下を△、2.0以上を×とした。
【0163】
(耐熱性の測定法)
上記の本発明のサブフタロシアニンを含有する薄膜を用いて、加熱乾燥機(EYELA社製 WFO−600SD)で薄膜の耐熱性を測定した。薄膜を180℃で30分間加熱し、加熱前後の薄膜の吸光度を測定し、その変化率を比較した。
耐熱性を表12に示した。変化率が−10%以下を◎、−20%以下を○、−30%以下を△、−30%以上を×とした。
【0164】
(耐光性の測定法)
上記の本発明のサブフタロシアニンを含有する薄膜にND10フィルター(透過光が1/10)を重ねて、キセノン・フェードメーター(アトラス社製 Ci−4000)で薄膜の耐光性を測定した。試験条件はBST温度45℃、湿度50%、放射照度25W/mで2時間試験であり、試験前後の薄膜の吸光度を測定し、その変化率を比較した。
耐光性を表12に示した。変化率が−20%以下を◎、−30%以下を○、−40%以下を△、−50%以上を×とした。
【0165】
【表12】

【0166】
ヘイズ値については、樹脂のみを塗布した薄膜(Blank薄膜)のヘイズ値が0.41であり、これに比べると比較例5の塗布液は顔料分散体であるために薄膜のヘイズが悪い値になった。他の薄膜はヘイズ値がBlank薄膜と同程度かそれ以下であり、良好な結果であった。
【0167】
耐熱性については、総じて本発明の新規なリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を用いた薄膜は比較例に比べて良好な結果であった。
耐光性については、比較例と比べ△と同程度の評価が多く見られたが、実施例17,18の様に◎の良好な結果を与え、優位性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体は、各種溶剤への溶解性が高く、高耐光性・高耐熱性を有しているため、これを含有する光学膜は非常に堅牢なものである。また、この光学膜は、510〜610nm領域における狭い特定吸収域の画像を不鮮明にする光を効果的に遮断し、ディスプレイの視認性向上に極めて有用であり、また、半値幅が比較的狭いため波長の近接する赤色光の透過をほとんど妨げないため種々の機能性光学薄膜に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】実施例1〜3、比較例1における無置換のサブフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルである。
【図2】実施例4、5、比較例2におけるt−ブチルサブフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルである。
【図3】実施例6、7、比較例3におけるi−ペンチルチオサブフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルである。
【図4】実施例8、9、比較例4におけるフェニルチオサブフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(化学式(I)中、Z〜Z12は、互いに同一又は異なり、水素原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルキル含有基、パーシャルフルオロアルキル含有基、パーフルオロアルキル含有基、アラルキル含有基、パーシャルフルオロアラルキル含有基、パーフルオロアラルキル含有基、アリール基、アミノ基、アルコキシル基、又はチオエーテル基であることを特徴とする。R、Rは互いに同一又は異なり、アルキル基、アラルキル基、フェニル基、アルコキシル基、フェノキシ基である。)
で表されるリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体。
【請求項2】
下記式(II)
【化2】

(化学式(II)中、Z〜Z12は、前記式(I)と同一であり、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。)
で表わされるハロゲン化ホウ素サブフタロシアニンを、下記式(III)
POH・・・・・(III)
(化学式(III)中、R、Rは、は互いに同一又は異なり、炭素数を1〜20とし直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アラルキル基、フェニル基、アルコキシル基、フェノキシ基から選ばれ置換基を有していてもよい基を示す。)
で示される化合物と反応させる工程を有する、下記式(I)
【化3】

(化学式(I)中、Z〜Z12、R、Rは前記に同じ。)
で表されるリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリン誘導体置換サブフタロシアニン誘導体を含有する光学膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−43135(P2010−43135A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206016(P2008−206016)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】