説明

リン酸の測定方法

【課題】本発明の課題は、低濃度から高濃度の広範囲の濃度のリン酸を測定する測定方法を提供することにある。
【解決課題】チオNADP類、チオNAD類、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を補酵素としてデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング系でリン酸を測定するに際して、予め、測定用の試薬成分中の遊離リン酸を除去した後に、リン酸を測定することにより、低濃度から高濃度の広範囲の濃度のリン酸の測定が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床生化学検査等に有用なリン酸の測定方法に関する。更に詳細には、チオNADP類、チオNAD類、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を補酵素としてデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング系でリン酸を測定する方法であって、低濃度から高濃度の広範囲の濃度のリン酸の測定が可能なリン酸の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のリン酸は、臨床検査では「無機リン」と呼ばれ、副甲状腺ホルモンおよびビタミンDにより調節される生体内の重要な無機物である。血中のリン酸濃度が低すぎると細胞内有機リン酸化合物の合成障害や細胞機能の障害をもたらし、一方、リン酸濃度が高いと異所性石灰化などをきたす。その結果、血液中のリン酸を測定することにより、例えば、内分泌、骨代謝異常を来たす様々な疾患を類推することができる。
【0003】
その測定法としては、モリブデンブルー法、酵素法等が知られている。モリブデンブルー法は、試料中のリン酸イオンにモリブデン酸を加え、6価のリンモリブデン酸塩(黄色)を形成させ、これにアスコルビン酸等の還元剤を加えて3価のリンモリブデン酸塩(モリブデンブルー)にし、660〜750nmで比色することにより、リン酸を測定する方法である(非特許文献1)。また、より緩和な条件で反応させるリン酸測定法として、酵素法、例えば、PNP−XOD−POD法が知られている。PNP−XOD−POD法は、試料中のリン酸イオンにイノシン(基質)の存在下でプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)を作用させヒポキサンチンを生成させ、次いで、生成したヒポキサンチンをキサンチンオキシダーゼ(XOD)の作用により、尿酸とHとし、さらに、Hをトリンダー試薬等で反応させ発色させて比色定量することによりリン酸を測定する方法である(非特許文献2)。
【0004】
しかし、これらの方法は、低濃度のリン酸の測定法としては感度が低く、また、モリブデンブルー法においては、反応特異性に問題があり、PNP−XOD−POD法においては還元物質の影響を受けやすい等の問題があった。
一方、特開平4−349898号においては、試料中のリン酸にD−グリセルアルデヒド−3−リン酸、チオNAD,およびNADHを作用させ、リン酸を測定している(特許文献1)。この方法は、チオNAD(P)Hが波長400nm付近、NAD(P)Hが340nm付近に吸光度があり、チオNAD(P)HとNAD(P)Hを区別して測定可能であることを利用して酵素サイクリング反応法によりリン酸を高感度で測定できる長所がある。しかし、試薬が高価であり、さらに水溶液として溶解したときに不安定になりやすく、試薬の保存が悪く、実用的に問題である。
【非特許文献1】臨床検査法提要(金原出版),改訂第31版,597〜598頁(1998年)
【非特許文献2】日本臨床,第43巻,1985年秋季増刊号,広範囲血液尿化学検査・免疫学的検査(上巻),460頁(1985年)
【特許文献1】特開平4−349898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記問題に鑑み、低濃度のリン酸を、チオNAD、還元型NADおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング系で測定しようと試みたが、ブランク値が高くなりやすく、測定不能であったり、測定できる範囲が狭くなるという問題を発見した。本発明は、かかる問題を解決し、達成されたものである。
本発明の目的は、試薬ブランクを低減し、酵素サイクリング法の特長である低濃度のリン酸を測定でき、しかも高濃度のリン酸をも測定可能とし、従来にはなかった広範囲の濃度で可能なリン酸の測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)から(22)の発明に関する。
(1)被検試料中のリン酸に対して、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、被検試料中のリン酸を測定するリン酸の測定方法であって、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応として、下記反応式(I)
【化1】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、A1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる酵素サイクリング反応を行って生成物Zを生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定して被検試料中のリン酸を測定する測定方法において、被検試料中のリン酸に、上記単数または複数の酵素反応を行うための試薬を作用させる前に、その試薬成分中に存在する遊離リン酸を予め除去しておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸の測定方法;
(2) 遊離リン酸を予め除去する方法として、カラムクロマトグラフィーまたは透析による物理的手段で遊離リン酸を除去する方法あるいは酵素的にリン酸を除去する方法を行う上記(1)の測定方法;
(3) 酵素的にリン酸を除去する方法として、上記(1)における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、上記(1)の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分を用い、更に、それらの補酵素とは別に補酵素C1として、最終酵素反応であるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応として、下記反応式(II)
【化2】


(式中、C1は、A1、B1とは独立にチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、C2はC1の還元型生成物を示す)で表される酵素反応を行うための補酵素を用いて、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分中の遊離リン酸に対して、上記反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、生成物Zを生じさせて、請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分中の遊離リン酸を除去する方法を行う上記(2)の測定方法;
(4) 上記(1)における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、上記(1)の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分と補酵素C1とを混合して、それら試薬成分中の遊離リン酸を一緒にし、一緒にした遊離リン酸を含む、該試薬成分の混合物を加温して、反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、遊離リン酸を除去する、上記(3)の測定方法;
(5) 反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応をpH4.0〜7.5で行ない、生成するチオNADP類、チオNAD類、NADP類およびNAD類のいずれかの還元生成物C2が分解されていく上記(2)から(4)のいずれかの測定方法;
(6) 反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応の際、さらに生成物Zが減少していく酵素系を存在させておく上記(2)から(5)のいずれかの測定方法;
(7) デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数の酵素反応が下記式
【化3】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、A1、A2,B1,B2は、それぞれ前記の通りである)で表される上記(1)から(6)のいずれかの測定方法;
(8) 試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去するために、試薬成分であるD−グリセルアルデヒド−3−リン酸およびD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を用いて、それら試薬成分中の遊離リン酸に対して、下記式(IV)
【化4】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、C1、C2は、それぞれ前記の通りである)で表される酵素反応を行って、試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去する上記(7)の測定方法;
(9) 遊離リン酸除去の際、生成物1,3−ジホスホグリセリン酸を減少させる酵素として、ビホスホグリセレートムターゼを試薬成分中に存在させておくことにより、下記反応式(V)
【化5】


で表される酵素反応を行う上記(8)の測定方法;
(10) デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする複数の酵素反応が下記式(VI)
【化6】


(式中、A1、A2、B1、B2は前記のとおり)で表される上記(1)から(6)のいずれかの測定方法;
(11) 試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去するために、試薬成分であるマルトース、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を用いて、それら試薬成分中の遊離リン酸に対して、下記式(VII)
【化7】


(式中、C1、C2は前記のとおり)で表される酵素反応を行って、試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去する上記(10)の測定方法;
(12) 遊離リン酸除去の際、生成物グルコノラクトン−6−リン酸を減少させる酵素として、6−ホスホグルコノラクトナーゼを試薬成分中に存在させておくことにより、下記反応式(VIII)
【化8】


で表される酵素反応を行う上記(11)の測定方法;
(13) NADP類が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチドホスフェート(アセチルNADP)およびアセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェートおよびニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェート(デアミノNADP)からなる群より選ばれるものである上記(1)から(12)のいずれかの測定方法;
(14) NAD類が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(アセチルNAD)、アセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチドおよびニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチド(デアミノNAD)からなる群より選ばれるものである上記(1)から(12)のいずれかの測定方法;
(15) チオNADP類が、チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(チオNADP)およびチオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェートからなる群より選ばれるものである上記(1)から(12)のいずれかの測定方法;
(16) チオNAD類が、チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(チオNAD)およびチオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドからなる群より選ばれるものである上記(1)から(12)のいずれかの測定方法;
(17) 被検試料中のリン酸に対して、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分と、更に、請求項3の反応式(II)中の最終酵素反応を行うための補酵素を含む、遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)請求項1の反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素、
を含む、リン酸測定用キット;
(18) 上記(8)に記載の被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)D−グリセルアルデヒド−3−リン酸およびD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類からなる遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素、
を含む、リン酸測定用キット。
(19) 上記(11)に記載の被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)マルトース、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類からなる遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素、
を含む、リン酸測定用キット。
(20) 被検試料中のリン酸またはマルトースを測定する方法であって、被検試料中のリン酸またはマルトースに、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行うための試薬を加え、かつ、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記式(IX)
【化9】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる、最終酵素反応として、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を形成せしめてグルコノラクトン−6−リン酸を生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定することを特徴とする被検試料中のリン酸またはマルトースの測定方法;
(21) 生成物グルコノラクトン−6−リン酸が減少していく酵素系として6−ホスホグルコノラクトナーゼを存在させる上記(20)の測定方法;
(22) 被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質Yの測定方法であって、酵素Xがデヒドロゲナーゼである場合、酵素Xが酵素反応しうる試薬、かつ、該デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記反応式(X)
【化10】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる酵素サイクリング反応を形成せしめて生成物Zを生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定するリン酸の測定方法において、生成物Zが減少していく酵素系を存在させておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質の測定方法。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)から(19)の本発明の測定方法およびキットによれば、特定の補酵素の組み合わせおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を含んだ酵素系でリン酸を測定する場合、試薬中の補酵素以外の成分に存在するリン酸をあらかじめ除去しておくことにより、測定時のブランクを低くでき、その結果、リン酸を低濃度から高濃度まで濃度範囲を広く測定できる。
また、上記(20)から(21)の本発明の測定方法によれば、特定の補酵素の組み合わせおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応でリン酸またはマルトースを測定する場合、試薬が安価であり、さらに水溶液として溶解したときに試薬が安定であるため、長期保存可能な試薬を用いて、低濃度のリン酸またはマルトースを正確に測定できる。さらに、上記(22)の本発明の測定方法によれば、特定の補酵素の組み合わせおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を含む酵素系で、リン酸または特定の酵素基質を測定する場合、最終生成物がさらに減少していく系を存在させることにより酵素サイクリング反応の速度をコントロールでき、その結果、測定範囲を高濃度から低濃度まで広い範囲のリン酸濃度を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記(1)から(16)の本発明の測定法における測定対象物質は、リン酸である。また、リン酸を遊離したり、生成したりする酵素系がある場合、中間的に生成するリン酸を測定することにより、その酵素系の酵素活性やその酵素の基質を測定することができる。
また、本発明におけるリン酸とは、無機リン酸またはそのイオン体であればよく、例えばHPO、HPOイオン、HPO2−イオン、PO3−イオンを例示できる。また、これらのイオン体は、塩、例えば、Na塩、K塩、アンモニウム塩であってもよい。
【0009】
本発明の被検試料としては、上述したリン酸またはそのリン酸を含む可能性のある試料であれば特に限定しないが、例えば、生体試料、例えば、血清、血漿、そのモデルサンプルを例示できる。また、測定対象物質を酵素反応等で中間的に発生しうる試料でも構わない。
【0010】
本発明においては、補酵素として、チオNADP類、チオNAD類、NADP類、NAD類を用いる。チオNADP類またはチオNAD類としては、チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(チオNADP)、チオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェート;およびチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(チオNAD)、チオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドを例示できる。また、NADP類またはNAD類としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチドホスフェート(アセチルNADP)、アセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェート、ニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェート(デアミノNADP);およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(アセチルNAD)、アセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチド、ニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチド(デアミノNAD)を例示できる。なお、本明細書においては、これら補酵素の還元型は、おのおの、チオNADPH類(還元型チオNADP類)、チオNADH類(還元型チオNAD類)、NADPH類(還元型NADP類)、NADH類(還元型NAD類)として記載することもある。
【0011】
本発明のリン酸の測定方法においては、デヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を最終酵素反応する単数または複数の酵素反応を行って被検試料中のリン酸を測定する。本発明においては、最終酵素反応であるデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を行うために、補酵素として、チオNAD(P)類とNAD(P)H類との組み合わせ、あるいは、NAD(P)類とチオNAD(P)H類との組み合せを用いることが必要である。すなわち、補酵素の組み合せの一つとして、チオ型補酵素を用いる。従って、上述した反応式(I)において、A1がチオNAD(P)類である場合、B1はNAD(P)H類であることが必要であり、また、A1がNAD(P)類である場合、B1はチオNAD(P)H類であることが必要である。
さらに、本発明に用いるデヒドロゲナーゼが、(チオ)NADP類でなく(チオ)NAD類のみを補酵素とする場合は、上述のチオNAD類とNAD類より、また、用いるデヒドロゲナーゼが(チオ)NADP類のみを補酵素とする場合は、上述のチオNADP類およびNADP類より、さらに用いるデヒドロゲナーゼが(チオ)NAD類および(チオ)NADP類を共に補酵素にする場合は上述のチオNAD類およびチオNADP類と上述のNAD類およびNADP類より適宜選択し、それらの酸化型、還元型を適宜用いればよい。
本発明においては、被検試薬に使用するA1およびB1の補酵素中のリン酸量は無視できる量であるが、被検試料中のリン酸が特にないことが好ましいので、A1およびB1の組み合わせは、A1としてチオNAD類とB1としてNADH類の組み合わせ、または、A1としてNAD類とB1としてチオNADH類の組み合わせが特に好ましい。
【0012】
本発明においては、被検試料中のリン酸を測定する前に、測定に用いる試薬成分中に存在している遊離リン酸を予め除去する。
それらの試薬成分中に存在する遊離リン酸の除去方法としては、各々の試薬成分単独または複数の成分を合わせたものを、カラム、透析等の物理的手段でリン酸を除去する方法、酵素的に遊離リン酸を除去する方法等を例示できる。そのうち、簡便な意味から酵素的に遊離リン酸を除去する方法が好ましい。さらには、上記反応式(I)で表される、被検試料中のリン酸を測定するための単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、上記反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分を用い、更に、それらの補酵素とは別に補酵素として、上記反応式(II)中の最終酵素反応であるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行うための補酵素を用いて、それらの試薬成分中の遊離リン酸に対して、上記反応式(II)で表される、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、生成物Zを生じさせて、それらの試薬成分中の遊離リン酸を除去する方法が好ましい。この方法を実施するには、例えば、それらの試薬成分と補酵素C1とを混合して一緒にして、溶液に溶解し、得られる溶液中の遊離リン酸、すなわち、それら各試薬成分中に存在する遊離リン酸を一緒にした遊離リン酸を含む溶液を、加温して、上記反応式(II)で表される、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、生成物Zを生じさせて、それらの試薬成分中の遊離リン酸を除去する方法が好ましい。遊離リン酸除去反応は、例えば、溶液の吸光度が時間的に変化しなくなるのを目安として終了させることが好ましい。
【0013】
遊離リン酸除去反応のpHは、4.0〜7.5で行うことが好ましい。上記反応式(II)における、補酵素C1から生成する還元生成物C2がこの条件で分解しやすいからである。遊離リン酸除去反応の際、デヒドロゲナーゼ反応での遊離リン酸除去反応の効率を高め、また用いる補酵素C1の量を少なくするため、生成物Zを減少させる酵素系がその反応系の中にあることが好ましい。
補酵素C1は、上記反応式(I)におけるA1、B1とは独立にチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示すが、A1、B1と同じであってもよい。補酵素C1は、入手のしやすさからNAD類、NADP類が好ましい。
【0014】
このようにして試薬成分中の遊離リン酸を一括除去した液は、遊離リン酸消去試薬として被検試料中のリン酸を測定するときに使用できる。試薬成分中に存在するリン酸を、酵素反応により一括除去するための試薬成分は、補酵素以外は、リン酸測定試薬と重複する。そのため、リン酸測定試薬としてそれらの成分を省略し、補酵素A1と補酵素B1を成分として溶解したものを用い、遊離リン酸消去試薬と組み合わせて、試料中のリン酸を測定することができる。
従って、本発明においては、被検試料中のリン酸に対して、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットとして、1)上記反応式(I)で表される単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、上記反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分と、更に、上記反応式(II)で表される最終酵素反応を行うための補酵素を含む、遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および2)上記反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素、を含む、リン酸測定用キットを用いることができる。
【0015】
以上の通り、本発明においては、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行うための試薬を用いて、被検試料中のリン酸を測定する。酵素反応を行うための試薬として、単数の酵素(すなわちデヒドロゲナーゼ単独)反応しうる試薬、またはデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする複数の酵素反応を行うための試薬を用いて被検試料中のリン酸を測定する。この2つの場合を以下に別々に説明する。
【0016】
A.デヒドロゲナーゼ単独である場合
まず、デヒドロゲナーゼが単独である場合、単独の酵素としてD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いたときを例に詳述する。
この場合、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼの存在下に反応しうる基質は、リン酸以外にはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸であり、生成物Zは1,3−ジホスホグリセリン酸である。
試料中のリン酸を測定する原理は、試料中のリン酸にD−グリセルアルデヒド−3−リン酸(基質)とD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(デヒドロゲナーゼを最終とする単独の酵素反応をしうる試薬)を加え、更に、i)チオNAD(P)類とNAD(P)H類との組み合わせ、あるいは、NAD(P)類とチオNAD(P)H類との組み合せを補酵素として用いて、下記反応式(III)
【化11】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、A1、A2,B1,B2は、それぞれ前記の通りである)
で表わされる酵素サイクリング反応を行って、1,3−ジホスホグリセリン酸(生成物Z)を生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定するリン酸の測定方法において、試料中のリン酸に、酵素反応しうる試薬を作用させる前に、その試薬成分中の遊離リン酸を除去しておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸の測定方法である。
【0017】
この場合、被検試料中のリン酸を、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応させる前に、試薬成分中の遊離リン酸をあらかじめ除去しておく。試薬成分中の遊離リン酸の除去方法としては、前記したとおり、各々の成分をカラム、透析等の物理的手段で除去する方法、酵素的に除去する方法等を例示できるが、簡便な意味から酵素的に除去する方法が好ましく、試薬中の上記反応式(III)で用いる補酵素A1およびB1以外の試薬成分の遊離リン酸をあらかじめ酵素的に一括除去しておくことがより好ましい。
酵素的に一括除去する方法としては、例えば、試薬成分中の遊離リン酸をD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ反応により除去する方法が例示でき、これにより、遊離リン酸消去試薬を調製することができる。その原理は、以下の反応式(IV)とおりである。
【化12】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、C1、C2は、それぞれ前記の通りである)
【0018】
この場合、必須成分としてD−グリセルアルデヒド−3−リン酸、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ等および補酵素C1(チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類から選ばれる)を含む液を、酵素反応、例えば、37℃で酵素反応させることにより試薬成分中の各成分中の遊離リン酸を除去することができ、その結果、遊離リン酸消去試薬を製造することができる。リン酸除去反応のpHは、4.0〜7.5で行うことが好ましい。生成する還元生成物C2がこの条件で分解しやすいからである。
【0019】
リン酸除去反応の際、デヒドロゲナーゼ(D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)反応でのリン酸除去反応の効率を高めるため、生成物1,3−ジホスホグリセリン酸を減少させる酵素系がその反応系の中にあることが好ましい。そのような酵素系として、例えば、ビホスホグリセレートムターゼを反応液に存在させておくことにより、下記反応式(V)の酵素反応を行って、試薬成分中のリン酸の消去を効率的にすることができる。
【化13】

【0020】
なお、本発明において、この生成物(1,3−ジホスホグリセリン酸)を減少させる酵素系がその反応系の中にあるのは、試薬中のリン酸除去をするしないにかかわらず、試料中のリン酸を酵素サイクリングのデヒドロゲナーゼ系(例えば、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ系)で測定する場合において、サイクリング反応を抑制する目的で有効である。
被検試料中のリン酸を測定するには、このようにして調製した遊離リン酸消去試薬を用いるが、これとは別に、リン酸濃度測定試薬を製造すると良い。リン酸濃度測定試薬としては、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ等、補酵素A1、および補酵素B1を含む液である。しかし、遊離リン酸消去試薬とリン酸濃度測定試薬を二試薬系として使用して試料中のリン酸を測定する場合、遊離リン酸消去試薬に含まれている成分(すなわち、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸またはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)は、リン酸濃度測定試薬に含まれていなくとも構わない。その場合、リン酸濃度測定試薬は、補酵素A1、および補酵素B1を含む液であってよい。
本発明においては、試料中のリン酸を測定するには、例えば、リン酸を含む試料と遊離リン酸消去試薬とを混合し、次いで、得られる混合物にリン酸濃度測定試薬を加え、リン酸濃度測定試薬添加前後の吸光度変化量の度合いからリン酸濃度を測定できる。この場合、試薬中のリン酸を除去しているため、リン酸濃度の測定範囲が広くなる。
【0021】
この方法の典型的な例を以下に示す。まず、遊離リン酸消去試薬(第一試薬)として緩衝液、例えばMES緩衝液(好ましくはpH6.0〜7.0、好ましくは5〜200mM)中に、D−グリセルアルデヒドー3−リン酸(好ましくは0.2〜5mM)、NAD(好ましくは0.002〜0.2mM)、EDTA(好ましくは2〜50mM)、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(好ましくは1.6〜40U/ml)およびビホスホグリセレートムターゼ(好ましくは0.001〜10U/ml)を溶解させて遊離リン酸消去試薬原液を調製する。この原液を37℃で試薬中のリン酸を消去する反応を行い遊離リン酸消去試薬(第一試薬)を調製する。次にリン酸濃度測定試薬(第二試薬)として緩衝液、例えば、Tris緩衝液(好ましくはpH7.5〜9.0、好ましくは20〜200mM)にチオNAD(好ましくは0.2〜10mM)とNADH(好ましくは0.05〜1mM)とを溶解させる。試料中のリン酸の測定としては、例えば、日立7180型等の自動分析装置を用い、リン酸を含む測定試料(好ましくは1.5〜10μl)に対し第一試薬(好ましくは120〜200μl)を加え、次いで、その5分後に得られる混合液に第二試薬(好ましくは20〜60μl)を加え反応させる。波長390〜420nmにおいて、第二試薬添加前後の吸光度変化量の度合いからリン酸濃度を測定できる。また、試薬の安定性を考慮して、自動分析装置が三試薬系として使用できる場合は、第一試薬に遊離リン酸消去試薬を用い、一方、補酵素A1(例えばチオNAD)溶液と補酵素B1(例えばNADH)溶液とを別々に分けて、それぞれ第二試薬、第三試薬とし三試薬系として試料に順に試薬を加えていくことにより試料中のリン酸を測定することもできる。
【0022】
B.デヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬を用いる場合
本発明において、少なくともデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬を用いて被検試料中のリン酸を測定する方法としては、(1)マルトースホスホリラーゼにより、リン酸(試料)+マルトース→β−グルコース−1−リン酸 + D−グルコースなる反応をさせ、生じたβ−グルコース−1−リン酸をβ−ホスホグルコムターゼによりβ−グルコース−6−リン酸に転換した後、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(デヒドロゲナーゼ)とA1およびB1を用いて変化するA2またはB1を測定する方法、(2)ホスホリラーゼにより、リン酸(試料)+グリコーゲン→β−グルコース−1−リン酸+グリコーゲンなる反応をさせ、生じたβ−グルコース−1−リン酸を上記(1)と同様に測定する方法、(3)シュークロースホスホリラーゼを用い、リン酸(試料)+シュークロース→β−グルコース−1−リン酸+フルクトースなる反応系によりβ−グルコース−1−リン酸を生成せしめ、生じたβ−グルコース−1−リン酸を上記(1)と同様に測定する方法、(4)6−ホスホフルクトキナーゼ、ホスホグルコイソメラーゼを用い、リン酸(試料)+D−フルクトース−1,6−ジリン酸→ピロリン酸+フルクトース−6−リン酸→グルコース−6−リン酸なる酵素反応により生じたグルコース−6−リン酸を上記(1)と同様に測定する方法等を例示できる。
【0023】
このうち、上記(1)を例に本発明を詳述する。
この場合、本発明の測定方法は、被検試料中のリン酸に、少なくともデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬としてマルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ等の酵素反応をしうる試薬を加え、更に、i)チオNAD(P)類とNAD(P)H類との組み合わせ、あるいは、NAD(P)類とチオNAD(P)H類との組み合せを補酵素として用いて、下記反応式(VI)
【化14】


(式中、A1、A2、B1、B2は前記のとおり)で表される、最終酵素反応として、酵素サイクリング反応を形成せしめて生成物グルコノラクトン−6−リン酸を生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定するリン酸の測定方法である。この場合、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼ 、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ等の複数の酵素反応を構成するための測定試薬は、安定な液状試薬とすることができ試料中のリン酸を測定することができる。
【0024】
本発明の場合、被検試料中のリン酸に、酵素反応しうる試薬を作用させる前に、その試薬成分中の存在する遊離リン酸を除去しておく。遊離リン酸の除去方法としては、各々の成分をカラム、透析等の物理的手段で除去する方法、酵素的に除去する方法等を例示できるが、簡便な意味から酵素的に除去することが好ましく、試薬中の上記反応式(VI)で用いる補酵素A1およびB1以外の試薬成分の遊離リン酸を一括的に酵素的に除去する方法が好ましい。
一括的に試薬成分中のリン酸を除去しておく場合、少なくともデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬としてマルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ等の酵素反応をしうる試薬を加え、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を用いて、それら試薬成分中の遊離リン酸に対して、下記式(VII)
【化15】


(式中、C1、C2は前記のとおり)で表される酵素反応を行って、生成物グルコノラクトン−6−リン酸を生じさせることにより、遊離リン酸を一括して除去できる。
【0025】
この場合、必須成分としてマルトース、マルトースホスホリラーゼ、グルコース−1,6−二リン酸、Mg2+、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH) および補酵素C1(チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類)を含む液を、酵素反応、例えば、37℃で酵素反応させることにより各試薬成分中の遊離リン酸を一括除去することができ、その結果、遊離リン酸消去試薬を製造することができる。リン酸除去反応はpH4.0〜7.5で行なうことが好ましい。生成するチオNADP類、チオNAD類、NADP類およびNAD類のいずれかの還元生成物が分解されやすいからである。
遊離リン酸除去反応の際、さらに、デヒドロゲナーゼ(グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)反応でのリン酸除去反応の効率を高めるため、生成物(グルコノラクトン−6−リン酸)を減少させる酵素系がその反応系の中にあることが好ましい。そのような酵素として6−ホスホグルコノラクトナーゼを反応液に存在させておくことにより、下記反応式(VIII)で表される酵素反応を行って、試薬成分中のリン酸の消去を効率的にすることができる。
【化16】

【0026】
被検試料中のリン酸を測定するには、このようにして調製した遊離リン酸消去試薬とは別に、リン酸濃度測定試薬を製造すると良い。リン酸濃度測定試薬としては、マルトース、マルトースホスホリラーゼ、グルコース−1,6−二リン酸、Mg2+、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH) 、補酵素A1および補酵素B1を含む液である。しかし、遊離リン酸消去試薬に含まれている成分、すなわち、マルトース、マルトースホスホリラーゼ、グルコース−1,6−二リン酸、Mg2+、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH) は遊離リン酸消去試薬に含まれているので、リン酸濃度測定試薬に含まれていなくとも構わない。その結果、リン酸濃度測定試薬は、補酵素A1、および補酵素B1を含む液であってよい。
遊離リン酸消去試薬はpH4.0〜7.5の範囲で、かつ、リン酸濃度測定試薬はpH7.5を超えて10.0以下が好ましい。このようなpHにしておくことにより遊離リン酸消去試薬、リン酸濃度測定試薬とも水溶液として安定であり、液状試薬としても供給できる。
試料中のリン酸を測定するには、例えば、リン酸を含む可能性のある試料と遊離リン酸消去試薬とを混合し、次いで、得られる混合物にリン酸濃度測定試薬を加え、リン酸濃度測定試薬添加前後の吸光度変化量の度合いからリン酸濃度を測定できる。この場合、試薬中のリン酸を除去しているため、リン酸濃度の測定範囲が広くなる。
【0027】
典型的な例を以下に示す。まず、遊離リン酸消去試薬(第一試薬)として、緩衝液好ましくはMES緩衝液(好ましくはpH5.0〜7.0、好ましくは20〜500 mM)中に、マルトース一水和物(好ましくは4〜100mM)、酢酸マグネシウム二水和物(好ましくは0.4〜10mM)、グルコース−1,6−二リン酸(好ましくは0.01〜0.3mM)、NAD(好ましくは0.02〜0.5mM)、マルトースホスホリラーゼ(好ましくは0.5〜20U/mL)、β−ホスホグルコムターゼ (好ましくは0.5〜20U/mL)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(好ましくは4〜100U/mL)、および6−ホスホグルコノラクトナーゼ(好ましくは0.1〜5U/mL)を溶解させて遊離リン酸消去試薬原液を調製する。この原液を37℃で試薬中のリン酸を消去する反応を行い遊離リン酸消去試薬(第一試薬)を調製する。次にリン酸濃度測定試薬(第二試薬)として緩衝液、好ましくはTris緩衝液(好ましくはpHが7.5を超えて10.0以下、好ましくは濃度が20〜200mM)にチオNAD(好ましくは0.2〜10mM)、NADH(好ましくは0.2〜40mM)を溶解させる。リン酸の測定としては、例えば、日立7180型等の自動分析装置を用い、リン酸を含む測定試料(好ましくは1.5〜10μl)に対し第一試薬(好ましくは120〜200μl)を加え、次いで、その5分後に得られる混合液に第二試薬(好ましくは20〜60μl)を加え反応させる。波長390〜420nmにおいて、第二試薬添加前後の吸光度変化量の度合いからリン酸濃度を測定できる。
また、試薬の安定性を考慮して、自動分析装置が三試薬系として使用できる場合は、第一試薬に遊離リン酸消去試薬を用い、一方、補酵素A1(例えばチオNAD)溶液と補酵素B1(例えばNADH)溶液とを別々に分けて、それぞれ第二試薬、第三試薬とし三試薬系として試料に順に試薬を加えていくことにより試料中のリン酸を測定することもできる。
【0028】
また、本発明では、被検試料中のリン酸またはマルトースを測定する方法であって、被検試料中のリン酸またはマルトースに、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行うための試薬を加え、かつ、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記式(IX)
【化17】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる、最終酵素反応として、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を形成せしめてグルコノラクトン−6−リン酸を生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定することを特徴とする被検試料中のリン酸またはマルトースの測定方法も提供される。この測定方法においては、生成物グルコノラクトン−6−リン酸が減少していく酵素系として6−ホスホグルコノラクトナーゼを、更に、存在させるのが好ましい。
【0029】
このリン酸またはマルトースの測定方法は、上述した、デヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬を用いて被検試料中のリン酸を測定する方法である、(1)マルトースホスホリラーゼにより、リン酸(試料)+マルトース→β−グルコース−1−リン酸 + D−グルコースなる反応をさせ、生じたβ−グルコース−1−リン酸をβ−ホスホグルコムターゼによりβ−グルコース−6−リン酸に転換した後、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(デヒドロゲナーゼ)とA1およびB1を用いて変化するA2またはB1を測定する方法とは、予め試薬成分中の遊離リン酸を除去することを除いて、同様であるため、上述した方法と同様にして実施することができる。
上記した本発明の測定方法によれば、特定の補酵素の組み合わせおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応でリン酸またはマルトースを測定する場合、試薬が安価であり、さらに水溶液として溶解したときに試薬が安定であるため、長期保存可能な試薬を用いて、低濃度のリン酸またはマルトースを正確に測定できる。
【0030】
また、本発明では、被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質Yの測定方法であって、酵素Xがデヒドロゲナーゼである場合、酵素Xが酵素反応しうる試薬、または少なくとも酵素Xの反応を最初としデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬を加え、かつ、該デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記反応式(X)
【化18】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる酵素サイクリング反応を形成せしめて生成物Zを生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定するリン酸の測定方法において、生成物Zが減少していく酵素系を存在させておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質の測定方法が提供される。
【0031】
この測定方法は、上述した本発明の測定方法において、更に、生成物Zが減少していく酵素系を存在させておくことを必須工程として加えて、被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質の測定するものである。リン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質としては、例えば、リン酸とD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼの存在下に反応しうるD−グリセルアルデヒド−3−リン酸が挙げられ、この場合には、上記の測定方法においては、反応式(III)および反応式(V)で示される酵素反応を行う。また、リン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質としては、リン酸と酵素マルトホスホリラーゼの存在下に反応しうるマルトースが挙げられ、この場合には、上記の測定方法においては、反応式(VI)および反応式(VIII)で示される酵素反応を行う。これら以外にも、同様にして、リン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質を選択することができる。
この測定方法も、上述した本発明のデヒドロゲナーゼを単独とする酵素反応あるいはデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応により、リン酸を測定する方法とは、予め試薬成分中の遊離リン酸を除去することを除いて、同様であるため、上述した方法と同様にして実施することができる。
【0032】
上記の本発明の測定方法によれば、特定の補酵素の組み合わせおよびデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を含む酵素系で、リン酸または特定の酵素基質を測定する場合、最終生成物がさらに減少していく系を存在させることにより酵素サイクリング反応の速度をコントロールでき、その結果、測定範囲を高濃度から低濃度まで広い範囲のリン酸濃度を測定できる。
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例によって何ら制限されるものではない。
実施例1
リン酸の測定
1)遊離リン酸消去試薬(第一試薬)の調製
試薬中のリン酸消去の原理
この遊離リン酸消去試薬は、以下ようなスキームでリン酸を消去する。
【化19】

【0034】
試薬組成
MES 100 mM pH 6.0
マルトース一水和物 20 mM
酢酸マグネシウム二水和物 2 mM
グルコース−1,6−二リン酸 0.05 mM
NAD 0、0.01、0.1 mM
Triton−X100 0.05 %
マルトースホスホリラーゼ(MP) 3 U/mL
β−ホスホグルコムターゼ
(β−PGluM) 3 U/mL
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ
(G6PDH) 20 U/mL
6−ホスホグルコノラクトナーゼ
(6−PGL) 0、0.5、1 U/mL
【0035】
試薬の調製
試薬組成にそって成分を混合することにより原試薬を調製し、次いで、原試薬を37℃にて1時間加温し酵素反応によって、試薬(特にグルコース−1,6−二リン酸)に含まれるリン酸を除去することにより、遊離リン酸消去試薬を製造した。この酵素反応によって生成したNADHは緩衝液のpHが6.0であるため加水分解される。なお、6−ホスホグルコン酸は反応に関与する物質ではないため、リン酸濃度測定に対して影響を与えることはない。本実験では消去反応に関わるNADおよび6−PGLの濃度を適宜変化させることによって、その効果を確認した。比較例として、NAD 0mMおよび6−PGL 0 U/mLとした試薬を調製し、測定に供した。
【0036】
2)リン酸濃度測定試薬(第二試薬)の調製
以下の成分を混合することによりリン濃度測定試薬(第二試薬)を調製した。
Tris 100 mM pH 8.0
チオNAD 2 mM
NADH 10 mM
Triton−X100 0.05 %
【0037】
リン酸測定に必要なマルトース、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼ等その他の成分は第一試薬に含まれているので第二試薬には入れなかった。
【0038】
3)リン酸の測定
測定原理
試料中のリン酸は、以下のようにして測定できる。
【化20】

【0039】
測定方法
遊離リン酸消去試薬を第一試薬とし、酵素サイクリング用の第二試薬として用いた。試料としては、リン酸二水素ナトリウム水溶液を、リン酸濃度として0〜30mg/dLまで生理食塩水で適宜希釈したものを用い、測定試料とした。
リン酸濃度の測定は日立7180型自動分析装置を用い、リン酸を含む測定試料2μLに対し第一試薬160μLを加え、その5分後に第二試薬40μLを反応させ、主波長405nm、副波長700nmにて、16〜34測光ポイント間(第二試薬添加直前から添加5分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した。
【0040】
4)測定結果
上記試薬を用いて、リン濃度を測定した際の吸光度変化量を表1に示した。また、表2には0mg/dLの吸光度を差し引き後の吸光度変化量を示した。さらに、表2で求めた吸光度変化量を図1に示した。
本発明者らは、表1に示したように、NADおよび6−PGLが無添加(比較例)の場合には、リン酸0mg/dLの試料であっても、自動分析装置の測定可能吸光度を上回ってしまい測定不能となってしまうという問題があることを発見した。通常のリン酸測定酵素系(非酵素サイクリング)では問題とならない試薬中の微量のリン酸量でも、酵素サイクリング法では測定感度が大きいため、試薬ブランク吸光度が極度に上昇し、測定不能となってしまうとも考えられた。一方、遊離リン酸消去系を組み込んだ場合(実施例)では、低濃度から高濃度まで測定可能であることが判明した。
これらのことから、リン酸消去系を組み込んだ酵素サイクリング法は、臨床検査分野において非常に有用であると考えられる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のリン酸の測定方法は、チオNADP類、チオNAD類、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を補酵素としてデヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング系でリン酸を測定する方法であって、低濃度から高濃度の広範囲の濃度のリン酸の測定が可能なリン酸の測定方法であり、臨床生化学検査等に有用なリン酸の測定方法である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】表2に示したリン酸濃度を測定した際の吸光度変化量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中のリン酸に対して、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、被検試料中のリン酸を測定するリン酸の測定方法であって、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応として、下記反応式(I)
【化1】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、A1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる酵素サイクリング反応を行って生成物Zを生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定して被検試料中のリン酸を測定する測定方法において、被検試料中のリン酸に、上記単数または複数の酵素反応を行うための試薬を作用させる前に、その試薬成分中に存在する遊離リン酸を予め除去しておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸の測定方法。
【請求項2】
遊離リン酸を予め除去する方法として、カラムクロマトグラフィーまたは透析による物理的手段で遊離リン酸を除去する方法あるいは酵素的にリン酸を除去する方法を行う請求項1の測定方法。
【請求項3】
酵素的に遊離リン酸を除去する方法として、請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分を用い、更に、それらの補酵素とは別に補酵素C1として、最終酵素反応であるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応として、下記反応式(II)
【化2】


(式中、C1は、A1、B1とは独立にチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、C2はC1の還元型生成物を示す)で表される酵素反応を行うための補酵素を用いて、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分中の遊離リン酸に対して、上記反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、生成物Zを生じさせて、請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分中の遊離リン酸を除去する方法を行う請求項2の測定方法。
【請求項4】
請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分と補酵素C1とを混合して、それら試薬成分中の遊離リン酸を一緒にし、一緒にした遊離リン酸を含む、該試薬成分の混合物を加温して、反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、遊離リン酸を除去する、請求項3の測定方法。
【請求項5】
反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応をpH4.0〜7.5で行ない、生成するチオNADP類、チオNAD類、NADP類およびNAD類のいずれかの還元生成物C2が分解されていく請求項3または4の測定方法。
【請求項6】
反応式(II)で表されるデヒドロゲナーゼを用いた酵素反応の際、さらに生成物Zが減少していく酵素系を存在させておく請求項3から5のいずれかの測定方法。
【請求項7】
デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数の酵素反応が下記式(III)
【化3】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、A1、A2,B1,B2は、それぞれ前記の通りである)で表される請求項1から6のいずれかの測定方法。
【請求項8】
試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去するために、試薬成分であるD−グリセルアルデヒド−3−リン酸およびD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を用いて、それら試薬成分中の遊離リン酸に対して、下記式(IV)
【化4】


(ただし、デヒドロゲナーゼはD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼを示し、C1、C2は、それぞれ前記の通りである)で表される酵素反応を行って、試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去する請求項7の測定方法。
【請求項9】
遊離リン酸除去の際、生成物1,3−ジホスホグリセリン酸を減少させる酵素として、ビホスホグリセレートムターゼを試薬成分中に存在させておくことにより、下記反応式(V)
【化5】


で表される酵素反応を行う請求項8の測定方法。
【請求項10】
デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする複数の酵素反応が下記式(VI)
【化6】


(式中、A1、A2、B1、B2は前記のとおり)で表される請求項1から6のいずれかの測定方法。
【請求項11】
試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去するために、試薬成分であるマルトース、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を用いて、それら試薬成分中の遊離リン酸に対して、下記式(VII)
【化7】


(式中、C1、C2は前記のとおり)で表される酵素反応を行って、試薬成分中に存在する遊離リン酸を除去する請求項10の測定方法。
【請求項12】
遊離リン酸除去の際、生成物グルコノラクトン−6−リン酸を減少させる酵素として、6−ホスホグルコノラクトナーゼを試薬成分中に存在させておくことにより、下記反応式(VIII)
【化8】


で表される酵素反応を行う請求項11の測定方法。
【請求項13】
NADP類が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチドホスフェート(アセチルNADP)およびアセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェートおよびニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェート(デアミノNADP)からなる群より選ばれるものである請求項1から12のいずれかの測定方法。
【請求項14】
NAD類が、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(アセチルNAD)、アセチルピリジンヒポキサンチンジヌクレオチドおよびニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチド(デアミノNAD)からなる群より選ばれるものである請求項1から12のいずれかの測定方法。
【請求項15】
チオNADP類が、チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(チオNADP)およびチオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドホスフェートからなる群より選ばれるものである請求項1から12のいずれかの測定方法。
【請求項16】
チオNAD類が、チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(チオNAD)およびチオニコチンアミドヒポキサンチンジヌクレオチドからなる群より選ばれるものである請求項1から12のいずれかの測定方法。
【請求項17】
被検試料中のリン酸に対して、デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を最終酵素反応とする単数または複数の酵素反応を行って、被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)請求項1における単数または複数の酵素反応を行うための試薬成分であって、請求項1の反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素以外の試薬成分と、更に、請求項3の反応式(II)中の最終酵素反応を行うための補酵素を含む、遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)請求項1の反応式(I)中の酵素サイクリング反応を行うための補酵素、
を含む、リン酸測定用キット。
【請求項18】
請求項8に記載の被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)D−グリセルアルデヒド−3−リン酸およびD−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類からなる遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素、
を含む、リン酸測定用キット。
【請求項19】
請求項11に記載の被検試料中のリン酸を測定するためのリン酸測定用キットであって、
1)マルトース、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、更に、チオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類からなる遊離リン酸消去用試薬、あるいは、該遊離リン酸消去用試薬を酵素反応させて得られる遊離リン酸消去試薬、および
2)チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素、
を含む、リン酸測定用キット。
【請求項20】
被検試料中のリン酸またはマルトースを測定する方法であって、被検試料中のリン酸またはマルトースに、マルトースホスホリラーゼ、β−ホスホグルコムターゼおよびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行うための試薬を加え、かつ、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記式(IX)
【化9】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表わされる、最終酵素反応として、該グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた酵素サイクリング反応を形成せしめてグルコノラクトン−6−リン酸を生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定することを特徴とする被検試料中のリン酸またはマルトースの測定方法。
【請求項21】
生成物グルコノラクトン−6−リン酸が減少していく酵素系として6−ホスホグルコノラクトナーゼを存在させる、請求項20の測定方法。
【請求項22】
被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質Yの測定方法であって、酵素Xがデヒドロゲナーゼである場合、酵素Xが酵素反応しうる試薬、または少なくとも酵素Xの反応を最初としデヒドロゲナーゼを最終とする複数の酵素反応しうる試薬を加え、かつ、該デヒドロゲナーゼを用いた酵素反応を行う試薬として、チオNADP類またはチオNAD類と、還元型NADP類または還元型NAD類とを組み合せた補酵素、あるいはNADP類またはNAD類と、還元型チオNADP類または還元型チオNAD類とを組み合せた補酵素を加えて、下記反応式(X)
【化10】


(式中、A1はチオNADP類、チオNAD類、NADP類またはNAD類を示し、A2はA1の還元型生成物を示し、B1はA1がチオNADP類またはチオNAD類のときは還元型NADP類または還元型NAD類を、またA1がNADP類またはNAD類のときは還元型チオNADP類または還元型チオNAD類を示し、B2はB1の酸化型生成物を示す)で表される酵素サイクリング反応を形成せしめて生成物Zを生じさせ、該反応によって変化するA2またはB1の量を測定するリン酸の測定方法において、生成物Zが減少していく酵素系を存在させておくことを特徴とする、被検試料中のリン酸またはそのリン酸と酵素Xの存在下に反応しうる基質の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−124981(P2009−124981A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302495(P2007−302495)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】