説明

リン酸リサイクルによるヌクレオチドの製造方法

【課題】酸性ホスファターゼの一種を用いて縮合リン酸のリン酸分子をヌクレオシド混合物またはイノシンに付加する製造法において、反応後に残存するオルトリン酸を回収して、再縮合し、再度リン酸付加反応の原料とし、リン酸化収率(核酸収率)及びリン酸使用率を高めるヌクレオチドの製造方法の提供。
【解決手段】ヌクレオシドをポリリン酸と酸性フォスファターゼによりリン酸化させヌクレオチドを製造するに際し、(a)ポリリン酸として縮合リン酸塩を用い、リン酸化の反応を一定のpHで制御して行うリン酸付加工程、(b)該反応液からリン酸塩を晶析除去する工程、(c)上記(b)で取得したリン酸塩に、オルトリン酸と水酸化ナトリウムを添加し、かつ総リン酸量に対してナトリウム量を1倍モル〜2倍モルに設定し、200℃〜1200℃において焼成縮合する工程、(d)上記(c)で得られた縮合リン酸塩を上記(a)の工程にリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグアノシン、イノシンなどのヌクレオシドに酸性ホスファターゼを用いて縮合リン酸塩を作用させ、リン酸を付加してヌクレオチド、例えば5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムや5’−イノシン酸二ナトリウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性ホスファターゼ (特開平7−231793号、特開平9−37785号、特開2001−245676号、特開2001−136984号)は、縮合リン酸中の1つのリン酸を切り取りヌクレオシドに付加することができる。一方、オルトリン酸は、この様な目的に使われることができない。したがって、酸性ピロリン酸などの縮合度が2の縮合リン酸を使用すると、反応終了後には反応により生じたオルトリン酸が反応終了液に多量に残存してしまい、ヌクレオチドを単離精製した後の廃液中のオルトリン酸が多量となり処理できなく問題がある。
【0003】
一方、オルトリン酸塩を回収してオルトリン酸および水酸化ナトリウムを所定量添加してナトリウム/リン酸のモル比を調整して燃焼炉またはキルンで燃焼することにより、希望の縮合度の縮合リン酸を得ることは周知の事実である。温度によっては、有機物を完全に燃焼して炭酸ガスとして系外に排出して、縮合リン酸を得る事ができる(特開平11−60221)。また、回収したリン酸に含有する有機物などを除去する事ができれば、低温で燃焼することにより縮合リン酸を得る事ができる。
【0004】
具体的なリン酸の縮合再生の公知方法としては、Ullman‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol.A19, 487−492(1991年)に記されているように、縮合再生温度とM/P(Mはアルカリ金属元素のモル量、Pはリン酸元素のモル量を表す。)をコントロールすることにより、様々な縮合度の縮合リン酸を作り出すことができる。たとえば、M/Pモル比1.0の200〜250℃で酸性ピロリン酸、M/Pモル比1.0の300℃〜500℃でヘキサメタリン酸、M/Pモル比1.7の300〜550℃でトリポリリン酸が生成する。
【0005】
テトラポリリン酸については、たとえばドイツ特許第762903号(1950年10月5日発行)にあるように、300℃を超えるが、リン酸混合物の融点よりは低い温度で加熱することによって取得できることが知られている。
【0006】
更に、このようにして縮合した縮合リン酸塩はアルカリ金属を含むため、アルカリ性を示す。したがって、酸性フォスファターゼの至適条件である酸性pHで反応を行うために、酸を添加してpHを調整する必要がある。この際に反応前にpHを調整するだけであると、pHがアルカリ側にシフトしてしまい、高リン酸化収率を得ることが困難になるという問題がある。
【特許文献1】特開平7−231793号公報
【特許文献2】特開平9−37785号公報
【特許文献3】特開2001−245676号公報
【特許文献4】特開2001−136984号公報
【特許文献5】ドイツ特許第762903号
【非特許文献1】Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol.A19,487-492(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、ヌクレオシドと縮合リン酸塩を酸性フォスファターゼを用いてリン酸化する際に、副生するオルトリン酸やピロリン酸を回収し、該リン酸を焼成縮合してアルカリ性ポリリン酸とし、該アルカリ性ポリリン酸を再びヌクレオシドのリン酸化に用いて、高リン酸化収率及び高リン酸使用率を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、種々検討の結果、焼成縮合して得られたアルカリ性の縮合リン酸塩を使用するに際し、酵素反応pHを常に一定に保つことにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明の第1は、ヌクレオシドをポリリン酸と酸性フォスファターゼによりリン酸化するに際し、ポリリン酸として縮合リン酸塩を用い、リン酸化の反応を常にpH4.10〜5.15の範囲内の一定のpHで制御して行うことを特徴とするヌクレオチドの製造方法である。第2の発明は、ヌクレオシドをポリリン酸と酸性フォスファターゼによりリン酸化させヌクレオチドを製造するに際し、(a)ポリリン酸として縮合リン酸塩を用い、リン酸化の反応を常にpH4.10〜5.15の範囲内の一定のpHで制御して行うリン酸付加工程、(b)該反応液からリン酸塩を晶析除去する工程、(c)上記(b)で取得したリン酸塩に、オルトリン酸と水酸化ナトリウムを添加し、かつ総リン酸量に対してナトリウム量を1倍モル〜2倍モルに設定し、200℃〜1200℃において焼成縮合する工程、(d)上記(c)で得られた縮合リン酸塩を上記(a)の工程にリサイクルすることからなる、リン酸化収率かつリン酸使用率を向上させること特徴とするヌクレオチドの製造方法である。第3の発明は、第1〜2の発明において、ヌクレオシドが、イノシン、グアノシン、又はイノシン及びグアノシンの混合物である。第4の発明は、第2の発明において、(c)のナトリウム量を、リン酸に対し1.60〜1.75モルとし、かつ温度300℃〜1200℃までの間で燃焼することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
上述の通り、(a)〜(d)工程を図1のように組み合わせることで、リン酸付加工程で生じた反応後の残存リン酸(オルトリン酸およびピロリン酸の混合物)を高収率でリサイクルして縮合リン酸塩中のリン酸使用率を高めることができる。さらに、アルカリ性の縮合リン酸塩を使用することによるリン酸化収率の低下を、pH調整方法を改良することにより、向上させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるリン酸化収率とは、ヌクレオシドがリン酸化するモル比率すなわちヌクレオチドへの変換収率であり、リン酸使用率とは、ヌクレオチド生産に用いられた原料縮合リン酸類のうちのヌクレオチド化に使用されたリン酸のモル比率を指す。
【0011】
本発明で利用するヌクレオシドとしては、グアノシン、イノシン及びこれらの2種の混合物を指す。ヌクレオシドは市販品あるいは、公知の発酵法を用いて製造することができ、例えばグアノシンは特公昭57−14160号公報、イノシンは特公昭57−22558号公報、特公昭62−37959号公報記載の方法を採用できる。。
【0012】
反応に用いるヌクレオシド懸濁液中のヌクレオシドの濃度は、1〜20wt%であることが好ましい。ヌクレオシドの中でも、グアノシンについては反応性を向上させるために、比表面積0.4m/g以上であることが好ましい。さらに、この懸濁液に対して、酸性ピロリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、それ以上の縮合度の縮合リン酸塩との混合物が使用できる。これらの縮合リン酸を、ヌクレオシドのモル量に対して、2.0〜4.0倍モルのリン酸エステル結合量を含むように添加する。酸性ピロリン酸の場合は懸濁液の状態でpHが4.10以下になるため、酸性ホスファターゼの至適条件であるpH4.10〜5.15のうちの一定のpHになるようにアルカリ(水酸化ナトリウムなど)を加え、その他の縮合リン酸塩については、pH5.15以上のアルカリ性を示すため、酸を適量加える。この場合の酸は、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸など種々の酸が使用できる。
【0013】
本発明で使用される酵素は、酸性フォスファターゼであれば特に制限は無いが、ヌクレオチダーゼ活性が低下したもの、ヌクレオシドに対する親和性が向上したものが好ましい。このため、微生物を起源とする野生型酸性フォスファターゼを、変異処理又は遺伝子工学的手法により得られる変異型酸性フォスファターゼが特に好ましい。例えば、特開2002−289に記載されている参考例1に示されているプラスミドpEPI370を保持するエシェリヒア・コリJM109/pEPI370をL培地50mlに摂種し、37℃で16時間培養後、培養液を酵素液として使用することができる。該菌株は、プラスミドpEPI305をエシェリヒア・コリJM109株に保持させたFERM BP−5423株から、上述の特開2002−289号公報の参考例1に記載の方法で構築できる。
【0014】
この酵素液を1〜200ml/Kg(反応前スラリー)となるように、反応原料スラリーに添加して、反応を開始する。反応温度は通常、20〜60℃の間、好ましくは30〜40℃の間で一定に制御する。反応時間は、基質量、酵素活性等により一定ではないが、通常、3〜50時間である。反応中は、反応pHを反応開始時の値に維持するため、酸性ピロリン酸を使用した場合はアルカリを、その他の縮合リン酸を使用した場合は酸を添加してpHを一定に制御する。pH制御は、指定したpH±0.05の範囲内で行われることが望ましい。本pH一定制御法により、ポリリン酸ナトリウムを使用した場合の、原料ヌクレオシドから5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムへのモル収率は、後述の実施例1中の図2に示したように2〜8%向上する。
【0015】
図2にあるように、pH制御無しの場合は、反応前に図中の括弧で示めされたpHに調整され、反応終了後には、図の横軸に表示した値となる。例えば、反応開始時にpH4.20程度であったものが、pH4.47にまで変化する。単純にpH変化だけの問題であったとすると、pH制御ありの場合の、pH4.2からpH4.47まで変化する際の、リン酸化収率の平均値が制御無しのケースと一致するはずであるが、実際には、このpH領域では、pH制御無しの方が予想よりはるかに低いリン酸化収率の結果を示している。現段階でこの差異を説明できるメカニズムは、知られておらず、この差を理論的に説明することができない。
【0016】
リン酸付加反応終了後の液には、未反応の縮合リン酸、反応に伴って分解したオルトリン酸およびピロリン酸、反応原料であるヌクレオシド、反応生成物であるヌクレオチド、5‘−リボヌクレオチド二ナトリウム(本発明では、5’−グアニルサン二ナトリウムと5‘−イノシン酸二ナトリウムの混合化合物を指す)が含まれる。このうち、オルトリン酸およびピロリン酸をナトリウム塩として晶析除去する。反応終了後の液を、温度45〜65℃に維持して、水酸化ナトリウムでpH9.5〜12.4に調整する。これを温度4〜10℃にまで、冷却して晶析を行う。本晶析により80%以上のオルトリン酸が晶析され、析出した結晶は、ろ過分離により回収して縮合再生に使用する。
【0017】
ろ液には、生成物である5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムが含まれており、晶析や濃縮乾固など適当な方法によって、5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムを固体として取り出すことができる。
【0018】
先に述べた冷却晶析によって得られたオルトリン酸塩およびピロリン酸塩の混合物は、新たに供給するオルトリン酸と水酸化ナトリウムを用いて、リン酸に対して、ナトリウム量を1倍モルから2倍モルまで変化させて、200℃から1200℃において焼成縮合する。新たに加えるオルトリン酸の量は、回収したオルトリン酸塩(リン酸水素二ナトリウム・12水塩)のナトリウム量と加える水酸化ナトリウムの量を基準に、M/Pで適宣決めることができる。M/Pを1.6〜1.75、好ましくは1.66に調整して温度300〜600℃で電気炉または再生炉またはキルンを用いて1〜12時間加熱することにより平均重合度が約3〜4のポリリン酸ナトリウムに縮合再生する。
【0019】
焼成による縮合反応では、単一の縮合物ができるわけではなく、種々の縮合リン酸が生成するが、本発明では主として生成する生成物で表している。生成するその他の縮合リン酸塩も、本反応の基質となりえるので、特に分離、精製等の必要は無い。
【0020】
これら再生した縮合リン酸を用いて、再度先に述べたリン酸化反応を行うことで、リン酸を無駄にすることなく、有効に製品化することができる。本製造プロセスに添加するリン酸原料(縮合原料もしくはオルトリン酸)リサイクルシステムにより、リン酸使用率は縮合再生する前は、29〜44%であったものが、縮合再生して使用した場合には56〜85%にまで飛躍的に向上する。これらの数値は、再生した縮合リン酸塩の縮合度とヌクレオシドの組み合わせによる幅である。以下、実施例でさらに説明する。
【実施例1】
【0021】
平均重合度が約3〜4のアルカリ性縮合リン酸ナトリウムを使用してヌクレオシドにリン酸付加する場合のリン酸化収率向上
【0022】
(1)酸性フォスファターゼを含む菌体の調製
特開2002−289号公報に記載されている参考例1に示されているプラスミドpEPI370を保持するエシェリヒア・コリJM109/pEPI370をL培地50mlに摂種し、37℃で16時間培養後、培養液を酵素液として使用した。該酵素液は、酸性フォスファターゼを含む菌体を含むものである。以下の実施例での酵素液は、全てこの方法により調製されたものを使用した。
【0023】
(2)リン酸付加反応原料スラリーの調製
特開2002−289号公報に開示されている方法を用いた。すなわち、グアノシン結晶を水中で27.1wt%スラリーとし、粉砕機(スイスWAB社製DYNO-MILL)により結晶の粉砕処理を行って、比表面積0.8m/gの粉砕スラリーを取得した。この粉砕スラリー57.7gにイノシン結晶を18.4g混合し、さらに111.9gの水を加えてリン酸付加反応原料スラリーとした。
【0024】
(3)5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムの生産
次に、タイ国TPC社製トリポリリン酸ナトリウム45.6gを反応原料スラリーに加えたのち、若干の35%塩酸でpHを図2中に示す所定の値に調整した。この反応原料スラリーに酵素液を45.6ml添加して反応開始した。反応は35℃でおこない、ヌクレオシドに対するリン酸化収率が最大の時点(3〜50時間)で反応を停止した。なお、本実施例の場合は、35%塩酸を反応中に追加添加してpHを一定に制御するようにおこなった。対照として、反応中に35%塩酸を添加しない反応中のpH制御無しの実験も行った。
【0025】
結果を図2に示した。図2中pH制御をしない場合のリン酸化収率は、対照として用意した実験であり、pH制御無しと記してある。本実施例では、pH制御ありの実験をpH制御有りとして記してある。結果からわかるように、反応中にpHを一定に制御した場合は、対照実験よりも収率を高くすることができる。以上より、反応中に変化するpHを酸添加により一定に維持することができれば、アルカリ性を示すトリポリリン酸塩を用いたとしても、高リン酸化収率を実現できることがわかった。
【実施例2】
【0026】
5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムの製造工程からオルトリン酸塩およびピロリン酸塩の混合物を回収し、回収したリン酸塩を平均重合度が約3〜4の縮合リン酸ナトリウムに縮合再生して、再度5‘−リボヌクレオチド二ナトリウムの生産に使用した場合
【0027】
(1)ヌクレオシドへのリン酸付加反応
実施例1と同様粉砕処理にかけた後のグアノシンスラリーを用いて、イノシン92g、グアノシン79gおよびトリポリリン酸ナトリウム228gを水760gに懸濁させ、さらに35%塩酸95gを添加して、pHを4.5に調製して35±0.5℃において、酵素液228mlを添加して反応を開始した。反応中は、35%塩酸30gを間欠的に添加して、pH4.5を維持できるようにした。反応開始約19時間後に、5‘−リボヌクレオチド289gを含む酵素反応液を得た。
【0028】
(2)リン酸塩晶析除去工程
上記反応液を34%水酸化ナトリウム水溶液によって、pH9.7に調整して50℃から8℃までの冷却晶析を行い、分離後リン酸水素2ナトリウム・12水塩と、ピロリン酸ナトリウム塩を含む混合物426gを得た。
【0029】
(3)リン酸焼成縮合工程
得られたリン酸水素2ナトリウム・12水塩とピロリン酸ナトリウム塩の混合物400gに、34%水酸化ナトリウム64gおよび97%オルトリン酸55g(M/P=1.66)を加えて、500℃、5時間電気炉で加熱することで96wt%の平均重合度が約3〜4のポリリン酸ナトリウム塩が200g得られた。なお、このポリリン酸塩の分析を行うと、オルトリン酸約10%、ピロリン酸約30%、トリポリリン酸約30%、テトラポリリン酸約10%、その他は、それ以上の高重合リン酸であった。
【0030】
(4)再縮合リン酸塩を使用したヌクレオシドへのリン酸付加反応
イノシン46g、グアノシン40gおよび上記再縮合によって得られた平均重合度が約3〜4のポリリン酸ナトリウム114gを水380gに懸濁させ、さらに35%塩酸 48gを添加して、pHを4.5に調製して35±0.5℃において、酵素液114mlを添加して反応を開始した。反応中は、35%塩酸65gを間欠的に添加して、pH4.5を維持できるようにした。反応開始約19時間後に、5‘−リボヌクレオチド244gを含む酵素反応液を得た。(1)の工程でのリン酸使用率が29%であったものが、(1)〜(4)の工程を経ることによりリン酸使用率は71%に向上した。なお、これにより(1)の工程のリン酸化収率は、低下しなかった。
【実施例3】
【0031】
5‘−イノシン酸二ナトリウムの製造工程からオルトリン酸塩およびピロリン酸塩の混合物を回収し、回収したリン酸塩を平均重合度が約3〜4の縮合リン酸ナトリウムに縮合再生して、再度5‘−イノシン酸二ナトリウムの生産に使用した場合
【0032】
(1)ヌクレオシドへのリン酸付加反応
イノシン55gおよびトリポリリン酸ナトリウム54gを水97gに懸濁させ、さらに35%塩酸 15gを添加して、pHを4.5に調製して35±0.5℃において、酵素液50mlを添加して反応を開始した。反応中は、35%塩酸12gを間欠的に添加して、pH4.5を維持できるようにした。反応開始約26時間後に、5‘−イノシン酸二ナトリウム101gを含む酵素反応液を得た。
【0033】
(2)リン酸塩晶析除去工程
上記反応液を34%水酸化ナトリウム水溶液によって、pH9.7に調整して50℃から8℃までの冷却晶析を行い、分離後、リン酸水素2ナトリウム・12水塩とピロリン酸ナトリウム塩の混合物84gを得た。
【0034】
(3)リン酸焼成縮合工程
得られたリン酸水素2ナトリウム・12水塩とピロリン酸ナトリウム塩の混合物80gに、34%水酸化ナトリウム13gおよび97%オルトリン酸11gを加えて、500℃、5時間電気炉で加熱することで96wt%の平均重合度が約3から4のポリリン酸ナトリウムが40g得られた。なお、このポリリン酸塩の分析を行うと、オルトリン酸約10%、ピロリン酸約30%、トリポリリン酸約30%、テトラポリリン酸約10%、その他は、それ以上の高重合リン酸であった。
【0035】
(4)再縮合リン酸塩を使用したヌクレオシドへのリン酸付加反応
イノシン28gおよび再縮合したトリポリリン酸ナトリウム27gを水49gに懸濁させ、さらに35%塩酸 8gを添加して、pHを4.5に調製して35±0.5℃において、酵素液25mlを添加して反応を開始した。反応中は、35%塩酸6gを間欠的に添加して、pH4.5を維持できるようにした。反応開始約26時間後に、5‘−イノシン酸二ナトリウム50gを含む酵素反応液を得た。(1)の工程でのリン酸使用率が43%であったものが、(1)〜(4)の工程を経ることによりリン酸使用率は85%に向上した。なお、これにより(1)の工程のリン酸化収率は、低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
図1のように、(a)〜(d)工程を組み合わせることで、酸性フォスファターゼによるヌクレオシドへのリン酸付加工程で生じた反応後の残存リン酸を、縮合リン酸塩としてリサイクルし、リン酸の使用率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】全工程概略図
【図2】リン酸付加反応における各反応終了時pHでの5‘−リボヌクレオチド二ナトリウム収率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオシドをポリリン酸と酸性フォスファターゼによりリン酸化するに際し、ポリリン酸として縮合リン酸塩を用い、リン酸化の反応を常にpH4.10〜5.15の範囲内の一定のpHで制御して行うことを特徴とするヌクレオチドの製造方法。
【請求項2】
ヌクレオシドをポリリン酸と酸性フォスファターゼによりリン酸化させヌクレオチドを製造するに際し、
(a)ポリリン酸として縮合リン酸塩を用い、リン酸化の反応を常にpH4.10〜5.15の範囲内の一定のpHで制御して行うリン酸付加工程、
(b)該反応液からリン酸塩を晶析除去する工程、
(c)上記(b)で取得したリン酸塩に、オルトリン酸と水酸化ナトリウムを添加し、かつ総リン酸量に対してナトリウム量を1倍モル〜2倍モルに設定し、200℃〜1200℃において焼成縮合する工程、
(d)上記(c)で得られた縮合リン酸塩を上記(a)の工程にリサイクルすること
からなる、リン酸化収率かつリン酸使用率を向上させること特徴とするヌクレオチドの製造方法。
【請求項3】
ヌクレオシドが、イノシン、グアノシン、又はイノシン及びグアノシンの混合物であることを特徴とする請求項1〜2に記載の方法
【請求項4】
請求項2の上記(c)のナトリウム量を、リン酸に対し1.60〜1.75モルとし、かつ温度300℃〜1200℃までの間で燃焼する請求項2〜3記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate