説明

リン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、抗体ならびに硬組織および/または異所性石灰化促進剤

【課題】MEPE由来のASARMペプチドの石灰化抑制作用活性部位を利用する、硬組織および/または異所性石灰化抑制作用を有するリン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、硬組織および/または異所性石灰化促進作用を有する抗体、ならびに、硬組織および/または異所性石灰化促進剤を提供する。
【解決手段】リン酸化ペプチドは、MEPEに由来するASARMペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含有し、当該アミノ酸配列における少なくとも二つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであり、かつ硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する作用を有することを特徴とする。抗体は、当該リン酸化ペプチドの活性中心である、リン酸化されたセリンを認識することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬組織石灰化および血管等の異所性石灰化に関連する、リン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、抗体ならびに硬組織および/または異所性石灰化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の石灰化には、例えば、骨粗鬆症もしくは骨軟化症等の骨疾患による硬組織石灰化、または、糖尿病、慢性腎疾患もしくは老化等に伴う血管石灰化を含む異所性石灰化等がある。このような硬組織または血管の石灰化が関わる疾患の予防、治療薬としては、主に、カルシウム剤、ビタミンD製剤、エストロジェン、イプリフラボン、カルシトニン、ビスフォスフォネート、ビタミンK2製剤、リン酸吸着剤またはスタチン等を含むものが挙げられる。
【0003】
SIBLINGタンパクファミリー(small integrin-binding ligand N-linked glycoproteins)の一つであるMEPE(Matrix Extracellular Phosphoglycoprotein)は、腫瘍性低リン血症骨軟化症の患者から見出されたタンパク質であり、主に骨石灰化の役目を果たす(非特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、MEPE(その部分ペプチド、その塩またはこれらをコードするDNA等も含む)が骨分化促進作用を有することから、代謝性骨疾患および代謝性軟骨疾患の低毒性で安全な予防、治療剤への利用について記載されている。また、特許文献2には、MEPE等の骨細胞産生タンパク質またはその遺伝子を指標とし、骨質を評価する方法が記載されている。さらに、特許文献3には、当該MEPE等を用いた骨塩(骨密度)または腎における疾患の治療において特に有効であるリン酸代謝を調節する手段等も記載されている。一方、MEPEノックアウトマウスでは、骨量、骨芽細胞の数がともに増加することから、MEPEは骨形成の抑制因子と報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、MEPEは、カテプシンBより切断され、ASARM(acidic serine aspartate rich motif)を含むペプチド断片(以下、ASARMペプチド)が出現する。ASARMペプチドは、ハイドロキシアパタイトとの結合親和性が高く、in vitroでアパタイト結晶成長を阻害または骨芽細胞による基質石灰化を抑制することが明らかとなっている(非特許文献3および4参照)。MEPE由来のASARMペプチドは、カゼインキナーゼIIによるリン酸化部位が存在し、最近の報告では、リン酸化が上記の活性に不可欠であると推察される(非特許文献2参照)。ASARMペプチドはSIBLINGタンパクの全てに見られるモチーフであるが、全てのASARMペプチドにMEPE由来のものと同様の石灰化抑制作用があるか否かは不明である。なお、MEPEはエンドペプチターゼ活性を持つとされているPHEX(phosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases on the X chromosome)と結合し、カテプシンBによるMEPEの分解を抑制すると報告されている(非特許文献5参照)。これに対し、PHEXはリン酸化あるいは非リン酸化ASARMペプチドに結合すること、そのうちリン酸化されたASARMペプチドを分解することが示されている(非特許文献2参照)。
【0005】
PHEXは、骨(骨芽細胞および骨細胞)ならびに歯(象牙芽細胞)で発現する膜タンパク質で、X連鎖性低リン酸血症性くる病の原因因子である。すなわちPHEXの欠損は、その基質(未同定、フォスファトニンと仮称)となるリン利尿因子の血中濃度の増加を来すと考えられている。また、PHEX機能欠損は、フォスファトニンとは異なるリン利尿因子・FGF23(fibroblast growth factor 23)発現を促進することが証明されている。FGF23は骨で産生され、腎臓機能を介して間接的に骨の石灰化を抑制する因子である。なお、このようなFGF23の作用は、例えばKlotho等が関連していることが近年明らかとなった(非特許文献6および非特許文献7参照)。また、FGF23は骨に直接作用する可能性も示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−26692号公報
【特許文献2】特開2007−178356号公報
【特許文献3】特開2009−159974号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rowe, P. S. N., et al., Genomics 67 (1), 54-68, 2000
【非特許文献2】Gowen LC., et al., J. Biol. Chem. 278 (3), 1998-2007, 2003
【非特許文献3】Rowe, P. S. N., et al., Bone 34 (2), 303-319, 2004
【非特許文献4】Addison W. N., et al., J. Bone Miner Res. 23 (10), 1638-1649, 2008
【非特許文献5】Guo R., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 297 (1), 38-45, 2002
【非特許文献6】Urakawa I., et al., Nature 444 (7120), 770-774, 2006
【非特許文献7】Kawaguchi H., et al., J. Clin. Invest., 104 (3), 229-237, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、MEPE、ASARMペプチド、PHEXおよびFGF23等による、硬組織(主に、骨(骨芽細胞および骨細胞))における石灰化のメカニズムの詳細が少しずつ明らかとなってきている。特に、MEPE、さらにはその分解産物ASARMペプチドの石灰化抑制作用を用いた骨疾患の予防、治療剤の開発は大いに期待されており、関連した様々な研究が多くなされている(非特許文献3および4参照)。また、前述したように、腎疾患の治療において特に有効であるリン酸代謝調節に関連した研究開発も多くなされている(特許文献4参照)。
【0009】
このように、当該MEPEおよびASARMペプチドの機能を利用する様々な研究はなされているが、骨の石灰化抑制作用活性は、当該ASARMペプチドにおけるどのような配列および形態等によるものであるのかは未だ明確には分かっていない。さらには、硬組織(主に、骨(骨芽細胞および骨細胞))での石灰化抑制、ならびに、それに伴う腎でのリン酸代謝調節における当該MEPE、ASARMペプチドの効果については相反する報告もあり、その実体は不明である。さらに、これらの作用とASARMペプチドのリン酸化との関係、ならびに血管等の異所性石灰化についての効果については不明である。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、MEPE由来のASARMペプチドの石灰化抑制作用活性部位を利用する、硬組織および/または異所性石灰化抑制作用を有するリン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、硬組織および/または異所性石灰化促進作用を有する抗体、ならびに、硬組織および/または異所性石灰化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する為、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、MEPE由来のASARMペプチドの石灰化抑制活性部位は、当該ASARMペプチドのアミノ酸配列における少なくとも二つ(特に好ましくは三つ)以上のリン酸化されたセリンであり、あわせて例えばヒトASARMペプチドのPHEX切断部位(N末端側から12番目のセリンと13番目のアスパラギン酸)からN末端側の3アミノ酸残基を含む配列が不可欠であることを発見した。また、このような石灰化抑制活性部位を有するリン酸化ペプチドは、硬組織石灰化抑制作用だけでなく異所性石灰化抑制作用(特に、血管石灰化抑制作用)を有することも発見した。さらには、このような石灰化抑制活性部位を認識、結合する抗体は、硬組織石灰化促進作用および異所性石灰化促進作用(特に、血管石灰化促進作用)を有することも発見した。
【0012】
そこで、本発明の第1の態様に係るリン酸化ペプチドは、MEPEに由来するASARMペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含有し、前記アミノ酸配列における少なくとも二つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであり、かつ硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する作用を有することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記アミノ酸配列は、ヒトにおけるPHEX切断部位からN末端側の3アミノ酸残基を含むことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記アミノ酸配列における少なくとも三つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであることを特徴とする。
【0015】
より好ましくは、前記リン酸化ペプチドは、少なくとも12アミノ酸残基を有することを特徴とする。
【0016】
さらに好ましくは、前記ASARMペプチドは、以下(a)ないし(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列で表されることを特徴とする。
(a)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列。
(b)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
(c)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列。
【0017】
好ましくは、前記アミノ酸配列は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有し、前記配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて3番目と5番目のセリンがリン酸化されていることを特徴とする。
【0018】
より好ましくは、さらに、前記配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて1番目のセリンがリン酸化されていることを特徴とする。
【0019】
さらに好ましくは、前記リン酸化ペプチドは、配列番号5ないし8のいずれかに記載のアミノ酸配列で表されることを特徴とする。
【0020】
本発明の第2の態様に係る硬組織および/または異所性石灰化抑制剤は、第1の態様に係るリン酸化ペプチドを有効成分として含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の第3の態様に係る抗体は、第1の態様に係るリン酸化ペプチドの活性中心である、前記リン酸化されたセリンを認識することを特徴とする。
【0022】
本発明の第4の態様に係る硬組織および/または異所性石灰化促進剤は、第3の態様に係る抗体を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、MEPE由来のASARMペプチドの石灰化抑制作用活性部位を利用する、硬組織および/または異所性石灰化抑制作用を有するリン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、硬組織および/または異所性石灰化促進作用を有する抗体、ならびに、硬組織および/または異所性石灰化促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マウス(433AA)、ラット(435AA)およびヒト(525AA)のMEPEのアミノ酸配列ならびにASARMペプチドの位置、ヒトASARMペプチドにおけるPHEX切断部位を示す図である。
【図2】実施例1に係る培養Obc細胞の基質石灰化抑制作用を示す図である。
【図3】実施例2に係るラット血管平滑筋細胞の石灰化抑制作用のデータを示す図である。
【図4】各種ペプチドの石灰化抑制活性および抗体による認識を示す図である。
【図5】実施例4に係るkl/klマウスおよび野生型マウスのそれぞれの大腿骨(骨端部縦断標本)ならびに頭蓋骨(頭頂骨前頭断標本)の免疫染色の様子を示す図である。
【図6】実施例5に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色の様子を示す図である。
【図7】実施例5に係るkl/klマウス胸部大動脈(横断標本)のパラフィン切片の免疫染色の様子を示す図である。
【図8】実施例6に係るALP/von Kossa染色での石灰化のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。
【0026】
(リン酸化ペプチド)
本発明の実施の形態1は、MEPEに由来するASARMペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含有し、当該アミノ酸配列における少なくとも二つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであり、かつ硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する作用を有するリン酸化ペプチドに関する。本実施の形態1に係るリン酸化ペプチドにおいて、好ましくは、当該アミノ酸配列はヒトにおけるPHEX切断部位からN末端側の3アミノ酸残基を含む。なお、好ましくは、当該リン酸化されたセリンは三つまたはそれ以上である。また、より好ましくは、当該リン酸化ペプチドは少なくとも12アミノ酸残基を有する。
【0027】
MEPEおよびASARMペプチドについての詳細は、前述した通りである(特許文献1ないし3、および、非特許文献1ないし5参照)。図1は、マウス(433AA)、ラット(435AA)およびヒト(525AA)のMEPEのアミノ酸配列ならびにASARMペプチドの位置、ヒトASARMペプチドにおけるPHEX切断部位を示す図である。図中の矢印が、ヒトASARMペプチドにおけるPHEX切断部位を示す。また、配列表においてもASARMペプチドのアミノ酸配列を示す。図1に示す、ヒト(Homo sapiens)のASARMペプチドのアミノ酸配列を配列番号1に、ラット(Rattus norvegicus)のASARMペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に、マウス(Mus musculus)のASARMペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号3に示す。
【0028】
なお、本発明において「ASARMペプチド」とは、アミノ酸配列としては、次の(a)ないし(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列で表されることが好ましい。(a)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列。(b)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列。なお、相同性に関しては、好ましくは85%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、より好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であり、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。(c)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列。
【0029】
このようなアミノ酸配列には、脊椎動物におけるMEPEのASARMペプチドのアミノ酸配列が含まれ、具体的には、魚類、両生類、爬虫類、鳥類または哺乳類等におけるMEPEのASARMペプチドのアミノ酸配列を挙げることができる。これらのうち好ましくは、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコまたはイヌ等の哺乳類におけるMEPEのASARMペプチドのアミノ酸配列である。
【0030】
ここで、本実施の形態1に係るリン酸化ペプチドは、前述のようなASARMペプチドのアミノ酸配列の全部または一部を含有していればよい。このようなリン酸化ペプチドのアミノ酸配列が少なくとも二つ以上のリン酸化セリンを有することにより、リン酸化セリンが活性部位となり、硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する効果を奏する。
【0031】
さらに、本実施の形態1に係るリン酸化ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有し、当該配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて3番目と5番目のセリンがリン酸化されていると好ましい。当該配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて1番目と3番目と5番目のセリンがリン酸化されているとより好ましい。
【0032】
本実施の形態1に係るリン酸化ペプチドのアミノ酸配列の例を、配列表の配列番号5ないし8に示す。なお、このようなアミノ酸配列を有するリン酸化ペプチドは、容易に入手、製造または精製することができる。例えば、受託にて合成してもよいし、当該技術分野で公知であるペプチド合成法等を用いて製造しても構わない。この場合、例えば、固相合成法または液相合成法等を挙げることができる。反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーまたは再結晶等を組み合わせてリン酸化ペプチドを精製単離することができる。
【0033】
前述したように、本実施の形態1に係るリン酸化ペプチドは、硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する作用を有する。本発明において、「異所性石灰化」とは、特に「血管石灰化」を意味している。また、本発明において「硬組織」とは、生体硬組織を意味し、例えば、頭蓋および体幹の骨格を形成する骨組織、歯周組織を構成する歯槽骨およびセメント質、あるいは象牙質(これらを構成する細胞等も含む)を示す。最も好ましくは、哺乳動物の骨組織である。
【0034】
(硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤)
本発明の実施の形態2は、前述の実施の形態1に係るリン酸化ペプチドを有効成分として含む硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤に関する。有効成分として含まれるリン酸化ペプチドの詳細については、前述の実施の形態1と同様である。
【0035】
本実施の形態2に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤には、例えば、試薬、医薬品または食品(健康食品もしくはサプリメントを含む)等を挙げることができる。さらに具体的に述べると、これらの形態としては、例えば、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレットまたはカプセル剤等を挙げることができる。なお、これらの試薬、医薬品または食品等において、前述の実施の形態1のリン酸化ペプチドの有効成分としての含有量は、適宜調節することが可能である。
【0036】
また、本実施の形態2に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤の使用対象については、物質、動物もしくは生物等を挙げることができる。さらに使用方法等については、石灰化抑制剤としての効能、対象とする物質、動物もしくは生物等、および、当該対象の石灰化状態の程度を考慮したうえで、適当な使用量および使用手段を用いればよい。
【0037】
本実施の形態2に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤を用いることにより、変形性関節症または血管石灰化の病態進展阻止等の研究の手段として利用することができる。
【0038】
(抗体)
本発明の実施の形態3は、前述の実施の形態1に係るリン酸化ペプチドの活性中心(石灰化抑制活性部位)を認識する抗体に関する。すなわち、本実施の形態3に係る抗体は、石灰化抑制活性を中和する中和抗体である。なお、前述の通り、活性中心とは少なくとも二つ以上のリン酸化セリンである。当該少なくとも二つ以上のリン酸化セリンの詳細については、前述の実施の形態1と同様である。
【0039】
抗体の製造方法は、すでに当業者にとっては周知であり、本抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1983) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13、Antibodies; A Laboratory Manual, Lane, H, D.ら編, Cold Spring Harber Laboratory Press 出版 New York 1989)。なお、詳細については実施例3を参照されたい。
【0040】
本実施の形態3に係る抗体は、前述の実施の形態1のリン酸化ペプチドの石灰化抑制活性部位を認識、結合し、当該リン酸化ペプチドの作用を中和する。すなわち、本実施の形態3に係る抗体は、硬組織石灰化および/または異所性石灰化を促進する作用を有する。
【0041】
(硬組織石灰化および/または異所性石灰化促進剤)
本発明の実施の形態4は、前述の実施の形態3に係る抗体を有効成分として含む硬組織石灰化および/または異所性石灰化促進剤に関する。有効成分として含まれる抗体の詳細については、前述の実施の形態3と同様である。
【0042】
本実施の形態4に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化促進剤には、例えば、試薬、医薬品または食品(健康食品もしくはサプリメントを含む)等を挙げることができる。これらの具体的形態、含有量、使用対象、使用量および使用手段等の詳細については、前述の実施の形態2に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化抑制剤と同様である。
【0043】
このような本実施の形態4に係る硬組織石灰化および/または異所性石灰化促進剤を用いることによって、骨粗鬆症、くる病または骨軟化症等の予防、治療の研究の手段として利用することができる。
【0044】
他に定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語等は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと同様のまたは等しい方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができる。本明細書中に言及するすべての公開物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照として全体が組み入れられる。相反の場合、定義を含む本明細書が優先する。さらに、材料、方法および具体例は単に例示的なものであり、限定することを意図していない。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。また、以下に述べる実施例において、「ASARMペプチド」はリン酸化していないASARMペプチドを意味し、「p−ASARMペプチド」はリン酸化しているASARMペプチドを意味する。さらに、それぞれのペプチドのアミノ酸残基の数によって、例えば19アミノ酸残基の場合には「ASARM19ペプチド」または「p−ASARM19ペプチド」のように記す。
【0046】
(実施例1)
本実施例1では、培養成熟骨芽細胞/骨細胞(以下、Obc細胞)におけるASARMペプチドおよびp−ASARMペプチドの基質石灰化抑制作用に係る実施例について詳細に説明する。
【0047】
まず、Obc細胞および当該Obc細胞の育成、培養方法について説明する。胎生21齢胎仔ラット由来の頭蓋冠から細胞を分離し(Yoshiko Y, et al., Endocrinology 144, 4134-4143, 2003参照)、当該頭蓋冠細胞を10%FBS(ウシ胎仔血清、Fetal Bovine Serum)(HyClone)および50μg/mlアスコルビン酸を含むα−MEM(Modified Essential Medium)培地によって培養した。培養期間は10日、常法通り、37℃、湿式5%CO気相下においてインキュベータ内において培養した。当該頭蓋冠細胞が類骨様のノジュール(結節)を形成した後に、コラゲナーゼ(タイプI)処理により、ノジュールから細胞を選択的に取り出した。その後、取り出した細胞を前述と同様の条件にて培養し、Obc細胞として用いた。なお、Obc細胞としての特徴を確認するため、Ocn(osteocalcin)、Dmp−1(dentin matrix protein-1)およびSostの発現量をリアルタイムRT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法によって測定した(図示せず)。
【0048】
本実施例1においては、Obc細胞培養を10%FBS存在下または1%FBSの低血清条件において培養したものを使用した。さらに、当該細胞を、配列番号7に記載のMEPE由来p−ASARM19ペプチド(N末端側から数えて12、14および16番目のセリンをリン酸化したもの)を1、2、5および10μM含む条件、当該配列番号7に記載のMEPE由来ASARM19ペプチドを10μM含む条件、および、溶媒のみを含む条件にて培養した。なお、石灰化を誘導するため3mM β−グリセロリン酸をあわせて添加した。
【0049】
培養は試薬添加後24時間行い、PBSで洗浄し、10%中性緩衝ホルマリンで固定した後にvon Kossa染色を施した。その後、実体顕微鏡でALP(アルカリフォスファターゼ)陽性かつvon/Kossa陽性の石灰化巣の数を計測した。図2は、実施例1に係る培養Obc細胞の基質石灰化抑制作用を示す図である。数値(Mineralization foci(No./well))は陰性対照(溶媒のみを含む条件)を100として表した。「−」は溶媒のみ含む条件を示す。ASARM19は、配列番号7に記載のASARM19ペプチドを含む条件を示す。p−ASARM19は、配列番号7に記載のp−ASARM19ペプチド(N末端側から数えて12、14および16番目のセリンをリン酸化したもの)を含む条件を示す。
【0050】
ALP陽性かつvon/Kossa陽性となる石灰化巣の数が少ないほど、石灰化を抑制する作用が強い。従って、図2に示すように、ASARM19ペプチドとp−ASARM19ペプチドとを比較すると、p−ASARM19ペプチドにのみ用量依存的な石灰化抑制作用が確認された。なお、ALPは骨芽細胞のマーカーであるが、ASARM19ペプチドとp−ASARM19ペプチドはいずれもALP陽性のノジューの数、さらにはALPを含む骨芽細胞の分子マーカーの遺伝子発現レベルに影響しなかった(図示せず)。
【0051】
(実施例2)
本実施例2では、ラット血管平滑筋細胞におけるASARM19ペプチドおよびp−ASARM19ペプチドの石灰化抑制作用(カルシウム量測定)に係る実施例について詳細に説明する。
【0052】
ラット大動脈平滑筋細胞を、15%のFBS DMEM(Dulbecco's Moodified Eagle's Medium)において、実施例1において述べた方法と同様の方法においてインキュベータ内にて培養した。当該細胞がコンフルエンスになった後、1%FBSの低血清条件とし、リン酸水素ナトリウム2mMを付加して培養を継続した。低血清条件で培養を始めた2日後、配列番号7に記載のp−ASARM19ペプチド(N末端側から数えて12、14および16番目のセリンをリン酸化したもの)10μMを含む条件、当該配列番号7に記載のASARM19ペプチド10μMを含む条件、および、溶媒のみを含む条件にて、さらに1週間培養した。
【0053】
培地は2ないし3日おきに新鮮培地と交換した。培養終了後、細胞はPBSで洗浄し、一晩0.6N塩酸処理した。当該上澄みのカルシウム量を、カルシウムC−テストワコー(和光純薬工業)を用いて測定した。図3は、実施例2に係るラット血管平滑筋細胞の石灰化抑制作用のデータを示す図である。数値(Mineralization)は陰性対照(溶媒のみを含む条件)を100として表した。「−」は溶媒のみ含む条件を示す。ASARM19は配列番号7に記載のASARM19ペプチドを含む条件を示す。p−ASARM19は配列番号7に記載のp−ASARM19ペプチド(N末端側から数えて12、14および16番目のセリンをリン酸化したもの)を含む条件を示す。
【0054】
図3に示すように、ASARM19ペプチドを添加しても石灰化の程度(カルシウム量)はほとんど変化はないが、p−ASARM19ペプチドを添加すると石灰化の程度(カルシウム量)が大きく抑制されるということが解明された。
【0055】
このように、配列番号7に記載のASARM19ペプチドおよびp−ASARM19ペプチドだけでなく、様々な配列のMEPE由来ASARMペプチド、および、様々な箇所のアミノ酸残基がリン酸化したMEPE由来p−ASARMペプチドについて、同様の実験を行った。図4は、各種ペプチドの石灰化抑制活性および抗体による認識を示す図である。
【0056】
図4において、「アミノ酸配列」はMEPE由来ASARMペプチドまたはp−ASARMペプチドの配列である。なお、「」はリン酸化したセリンを表している。「AA数」は当該アミノ酸配列のアミノ酸残基数である。「純度」は合成し、使用した当該ペプチドの純度を示す。「石灰化抑制活性」は、当該アミノ酸配列のペプチドを用い前述と同様の実験を行い、石灰化が抑制されたか否かを示す。「有効濃度」は当該石灰化抑制活性が作用するにあたり、必要とする濃度(μM)を示す。「抗p−ASARMペプチド抗体の認識」は、後述する実施例3ないし6にて述べるが、抗p−ASARM19ペプチド抗体(配列番号7に記載のp−ASARM19ペプチドのN末端側から数えて12、14および16番目のセリンをリン酸化したペプチドを抗原としたポリクローナル抗体)に認識されるか否かを示している。なお、表中の「−」は、テストした最大濃度(20μM)でも石灰化を抑制しなかったため、有効濃度を表示していない。
【0057】
図4に示すように、まず、MEPE由来のASARMペプチドにおいて、配列のセリンがリン酸化されていない場合は石灰化抑制活性を有さないということが解った。さらに、セリンがリン酸化されたp−ASARMペプチドであっても、少なくとも二つ以上のセリン(特に好ましくは三つ以上のセリン)がリン酸化されていなければ、石灰化抑制活性を持たないということが明らかとなった。このように、配列番号4のアミノ酸配列のN末端側から数えて1番目、3番目および5番目のセリンがリン酸化はMEPE由来p−ASARMペプチドの石灰化抑制活性に必須である。また、図4に示す種々のアミノ酸配列から、MEPE由来p−ASARMペプチドはPHEX切断部位からN末端側の3アミノ酸残基も石灰化抑制活性に関与することは明らかである。また、マウス、ラットにおいて、当該PHEX切断部は当該位置に存在しないものの、両者の配列とヒトとの高い相同性から(図1参照)、セリンのリン酸化に加え、図4の12または15アミノ酸残基からなるペプチドのN末端側3から6アミノ酸残基を含む配列も活性に寄与することは明白である。
【0058】
(実施例3)
本実施例3では、抗体作製、精製および抗体吸収試験に係る実施例について詳細に説明する。
【0059】
まず、抗原用ペプチドの作製のため、配列番号7に記載のp−ASARM19ペプチドのC末端側から数えて4、6および8番目のセリンがリン酸化し、さらにN末端にシステインが付いたペプチドを使用した。当該ペプチドとサイログロブリンとの結合物を、EMCS(N−(6−Maleidocaproyloxy)−succinimide)法により作製した。すなわち、当該ペプチドを蒸留水に溶解した抗原用ペプチド、0.01Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解したサイログロブリン、および、ジメチルホルムアミドで溶解したEMCSを混合し、抗原用ペプチド−EMCS−サイログロブリン複合体を作製した。この結合物の溶液を、PBSを用いて透析し、結合物として10mg/mlになるよう濃度を調整した。このようにして得られた当該ペプチドとサイログロブリンとの結合物を免疫用抗原とした。
【0060】
免疫用抗原として作製したペプチドとサイログロブリンとの結合物と、フロイント完全アジュバントとを等量混合し、エマルジョンを作製し、これをウサギに免疫した。免疫1週間後に、抗原100μgとフロイント完全アジュバントとを等量混合して再度作製したエマルジョンを、ウサギに追加免疫し、以降同様の操作を各週の間隔において3回行った。その後、免疫原に対する力価上昇を、抗原ペプチドを固相化したELISA法で確認した後(図示せず)、全採血を行い1,500rpmで15分間の遠心により、抗血清を分離した。さらに、抗原ペプチドを結合させたアフィニティーカラム(チオールセファロース担体を使用)を用いて抗原特異精製を行い、抗p−ASARM19ペプチドポリクローナル抗体を得た。
【0061】
抗p−ASARM19ペプチド抗体の特異性確認には、一般的な吸収法を用いて行った。まず、抗体希釈バッファーである1%のBSAを含むPBSへ、抗体溶液とp−ASARM19ペプチド溶液を、抗体:p−ASARM19ペプチド=1mol:20molとなるよう添加した。次に、4℃にて一晩転倒混和し充分に反応させた。このように吸収処理を終えたものを陰性対照とし、前述の精製した抗p−ASARM19ペプチドポリクローナル抗体と併せて、後述する実施例4ないし6の免疫染色等に利用した。
【0062】
なお、このように作製した抗p−ASARM19ペプチドポリクローナル抗体の特性は、SDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングにおいても確認した。すなわち、リン酸化していないASARM19ペプチドには標識は反応せず、p−ASARM19ペプチドのみに特異性を持つものであった(図示せず)。
【0063】
(実施例4)
本実施例4では、抗p−ASARM19ペプチド抗体を用いたin vivoにおける主要な骨組織の部位別(大腿骨骨端の皮膚骨および海綿骨ならびに頭蓋骨)の免疫染色に係る実施例について詳細に説明する。
【0064】
まず、本実施例4における免疫染色にて使用する標本の作製について説明する。本実施例4では、Klotho変異マウス(以下、kl/klマウス、6週齢雄)(日本クレア)および同齢の野生型雄マウスを用い、実験を行った。kl/klマウスおよび野生型マウスから採取した当該骨全体を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、10%EDTA PBSを用いて脱灰した後、常法に従って5μmのパラフィン切片を作製した。
【0065】
その後、室温にて1時間、Protein Block(DAKO)を用いてブロッキングを行い、次いで洗浄を行った。一次抗体としては、実施例3において述べた、抗p−ASARM19ペプチド抗体(希釈倍率×1,000)、または抗原吸収済抗p−ASARM19ペプチド抗体(希釈倍率×1,000)を用い、4℃で16時間置いた。次に、Cy2/3標識二次抗体(Jackson Immunoresearch Lab.、希釈倍率×400)を用い、室温で1時間置いた。その後、蛍光顕微鏡を用いてそれぞれを観察した。
【0066】
図5は、実施例4に係るkl/klマウスおよび野生型マウスのそれぞれの大腿骨(骨端部縦断標本)ならびに頭蓋骨(頭頂骨前頭断標本)の免疫染色の様子を示す図である。図は実施したそれぞれのマウスのうちの代表例を示す。ここで、kl/klマウスにおいては、骨、歯に異常が見られ、通常の野生型マウスと比較して硬組織の石灰化を含む骨の障害が知られている(非特許文献7参照)。なお、図5は抗原吸収済ではない、抗p−ASARM19ペプチド抗体の場合を示す。図5に示すように、骨細胞の障害を含む多様な骨病変を示すkl/klマウス(kl/kl)では、本実施例4に係る免疫染色の実験において、野生型マウス(WT)と比較して当該抗p−ASARM19ペプチド抗体に認識されるp−ASARM19ペプチドが骨芽細胞、とりわけ骨細胞に多く分布していることが観察された。一方、抗原吸収済抗p−ASARM19ペプチド抗体では、このような陽性反応は認められなかったことから(図示せず)、実施例2にて述べたASARMのリン酸化とkl/klマウスにおける骨の障害と関連することが示された。
【0067】
(実施例5)
本実施例5では、抗p−ASARM19ペプチド抗体を用いた血管のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色および免疫染色に係る実施例について詳細に説明する。
【0068】
マウスは、実施例4にて述べたkl/klマウスを使用した。生後6週間目(42日目)において、kl/klマウスの胸部大動脈のサンプリングを行った。kl/klマウスの胸部大動脈は、4%パラフォルムアルデヒド/PBSにおいて4℃で16時間置き、次いで洗浄を行った。その後、常法において、kl/klマウスの胸部大動脈の12μmのパラフィン切片を作製し、当該パラフィン切片に、アリザリンレッド/トルイジンブルー染色を行った。染色方法は、採取した大動脈を4%パラフォルムアルデヒドによって固定し、水洗後、0.5%水酸化カリウムに浸透させた。その後、同溶液に20μg/mlアリザリンレッドとなるよう溶解し、染色した。トルイジンブルーは対比染色であり、染色方法はアリザリンレッドと同様である。
【0069】
図6は、実施例5に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色の様子を示す図である。図は、実施したkl/klマウス胸部大動脈のうちの代表例を示す。図6に示すように、kl/klマウスの胸部大動脈は、アリザリンレッドによって染色される血管石灰化層が見られる。
【0070】
本発明者らは、前述の実施例4にて確認したkl/kl硬組織における抗p−ASARM19抗体の陽性反応を、血管石灰化層で確認するため、当該kl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片についても抗p−ASARM19ペプチド抗体を用いた免疫染色の実験を行った。実験方法については、前述の実施例4と同様である。
【0071】
図7は、実施例5に係るkl/klマウス胸部大動脈(横断標本)のパラフィン切片の免疫染色の様子を示す図である。なお、図7は、図6に示すkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片と同様の血管石灰化層の部分を示している。また、右に示す図は、左の血管石灰化層の部分の拡大図である。図7に示すように、血管石灰化層の一部の領域において実施例4にて述べたように抗p−ASARM19ペプチド抗体による陽性反応が観察された。この結果から、リン酸化ASARMは、硬組織のみならず、血管石灰化とも関連することが示された。
【0072】
(実施例6)
本実施例6では、培養骨形成モデルでの抗p−ASARM19ペプチド抗体の中和活性のALP/von Kossa染色における測定に係る実施例について詳細に説明する。
【0073】
本発明者らは、抗p−ASARM19ペプチド抗体の石灰化抑制の中和活性の指標を調査した。実験方法は、実施例1にて前述した方法とほぼ同様の方法において実施した。1%FBSの低血清条件で培養して得たObc細胞に対し、抗p−ASARM19ペプチド抗体、陰性対照の正常IgGまたは溶媒のみを添加した。2時間後、p−ASARM19ペプチドを3μMまたは溶媒のみを添加し、その36時間後にALP/von Kossa染色を施した。その後、実体顕微鏡下でALP陽性かつvon/Kossa陽性の石灰化巣の数を計測した。数値は陰性対照(溶媒のみ)を100として表した。
【0074】
図8は、実施例6に係るALP/von Kossa染色での石灰化のデータを示す図である。図8において、「NC」は溶媒のみの場合、「−」はp−ASARM19ペプチドのみを3μM添加したものを示す。また、「Normal IgG」および「Anti-p-ASARM」は、それぞれ陰性対照の正常IgG(1μg/ml)および抗p−ASARM19ペプチド抗体(1μg)を、p−ASARM19ペプチド(3μM)と併用したものを示す。図8に示すように、溶媒のみの場合と比較して、p−ASARM19ペプチドを添加するとやはり石灰化が抑制されていた。抗p−ASARM19ペプチド抗体を添加すると、正常IgGを添加した場合と比較して、p−ASARM19ペプチドによる石灰化抑制活性が中和される(抑制作用が弱くなる)ことも確認された。
【0075】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0076】
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報および特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、MEPE由来のASARMペプチドの石灰化抑制活性部位は、当該ASARMペプチドのアミノ酸配列における少なくとも二つ(特に好ましくは三つ)以上のリン酸化されたセリンであることを発見した。また、このような石灰化抑制活性部位を有するリン酸化ペプチドは、少なくともヒトにおけるPHEX切断部位のN末端側3つのアミノ酸残基を含む12アミノ酸残基の鎖長を必要とすること、硬組織石灰化抑制作用だけでなく異所性石灰化抑制作用(特に、血管石灰化抑制作用)を有することも発見した。さらには、このような石灰化抑制活性部位を認識、結合する抗体は、硬組織石灰化促進作用および異所性石灰化促進作用(特に、血管石灰化促進作用)を有することも発見した。
【0078】
そこで、本発明によれば、硬組織および/または異所性石灰化抑制作用を有するリン酸化ペプチド、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤、硬組織および/または異所性石灰化促進作用を有する抗体、ならびに、硬組織および/または異所性石灰化促進剤が提供される。これらは、変形性関節症、動脈硬化症等を含む血管石灰化、骨粗鬆症、くる病または骨軟化症等の予防、治療の手段として利用することが可能である。特に、これらの疾患のうち、動脈硬化症等を伴う血管石灰化の予防、治療の手段についてはあまり多く開発されていない為、本発明を用いることにより新規で有用な医薬品の開発に繋がるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEPEに由来するASARMペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含有し、前記アミノ酸配列における少なくとも二つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであり、かつ硬組織石灰化および/または異所性石灰化を抑制する作用を有することを特徴とする、リン酸化ペプチド。
【請求項2】
前記アミノ酸配列は、ヒトにおけるPHEX切断部位からN末端側の3アミノ酸残基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸配列における少なくとも三つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたセリンであることを特徴とする、請求項1または2に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項4】
前記リン酸化ペプチドは、少なくとも12アミノ酸残基を有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項5】
前記ASARMペプチドは、以下(a)ないし(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列で表されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチド。
(a)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列。
(b)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
(c)配列番号1ないし3のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列。
【請求項6】
前記アミノ酸配列は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有し、前記配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて3番目と5番目のセリンがリン酸化されていることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項7】
さらに、前記配列番号4に記載のアミノ酸配列のN末端側から数えて1番目のセリンがリン酸化されていることを特徴とする、請求項6に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項8】
前記リン酸化ペプチドは、配列番号5ないし8のいずれかに記載のアミノ酸配列で表されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチド。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチドを有効成分として含むことを特徴とする、硬組織および/または異所性石灰化抑制剤。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のリン酸化ペプチドの活性中心である、前記リン酸化されたセリンを認識することを特徴とする、抗体。
【請求項11】
請求項10に記載の抗体を有効成分とすることを特徴とする、硬組織および/または異所性石灰化促進剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−14566(P2013−14566A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150487(P2011−150487)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(502310416)株式会社ラフィーネインターナショナル (8)
【出願人】(399032282)株式会社 免疫生物研究所 (14)
【Fターム(参考)】