説明

リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質のアフィニティに基づく濃縮

本発明は、少なくとも2つの規定の基を含むスペーサーへリンカーによって結合した固相担体を含む物質に関する。前記物質は、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を濃縮および/または単離するためのアフィニティ材料としての使用に適している。本発明の物質は特に、チロシン−リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を濃縮および/または単離することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離に適した新規材料に関する。その材料または物質に加えて、本発明は、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のための方法に、およびその物質を調製するための方法に関する。
【0002】
細胞中のタンパク質のリン酸化および脱リン酸化は、多数の生物学的系の機能のために決定的に重要である。タンパク質のリン酸化および脱リン酸化によって、シグナルがしばしば生物に伝達され、および、特に、多数の酵素活性が調節される。リン酸化は、したがって、生細胞におけるシグナル伝達系のための決定的に重要な要素である。
【0003】
リン酸化タンパク質に関する研究は、したがって、特に関心が持たれる。プロテオーム研究の枠組内で、細胞の本質的にすべてのリン酸化タンパク質の調査を記載するためにこの関連で、「リン酸化プロテオーム」の語が作られた。近年、一般的に非常に低濃度でしか存在しないリン酸化タンパク質を、分析に全く初めて利用可能とするために、特に、リン酸化タンパク質またはリン酸化ペプチドのためのさまざまな濃縮手順が最適化されており、分画法が改善されており、および、特に、多次元クロマトグラフィーがさらに開発されているので、リン酸化プロテオーム研究にはさらなる発展があった。
【0004】
リン酸化タンパク質の濃縮および同定にこれまで用いられている方法は、32P標識化ATPを用いた放射性標識化およびその後のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動または薄層クロマトグラフィーを通常含む。リン酸化タンパク質を同定するために、エドマン配列決定もまた実施される。
【0005】
リン酸化タンパク質のような、シグナル伝達カスケードに関与するタンパク質の検討における一般的問題は、これらのタンパク質は一般的に非常に少量しか発現されず、およびリン酸化の化学量論は一般的に相対的に低いことである。これらのタンパク質を検討しおよび、特に、同定するための従来の方法は、そのために必要なタンパク質の量は非常に大きな困難によらないと提供できないため、したがってしばしば不適当である。
【0006】
特有の感度、汎用性および速度のため、リン酸化の検討には質量分析が非常に適した方法であることが証明されている。しかし、リン酸化ペプチドによって引き起こされるイオンシグナルが、非リン酸化ペプチドの存在によって顕著に抑制されることもまたさまざまな研究によって示されている。したがって、非リン酸化タンパク質またはペプチドに対してリン酸化タンパク質またはペプチドがさらに濃縮されることが、そのようにしてリン酸化部位の検出能を改善することができるようになるためには必要である。
【0007】
リン酸化タンパク質を濃縮するための1つの従来の方法は、リン酸化タンパク質またはペプチドのアフィニティ精製のためのリン酸特異的抗体を用いる。特に抗リン酸化チロシン抗体の使用はこの関連で成功したことが証明されており、一方、リン酸化セリンまたはリン酸化スレオニンを含むタンパク質に対する抗体の使用は今のところそれほどしばしば記載されていない。抗体による濃縮の代替法は、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)の使用である。この方法は、濃縮すべきタンパク質の負に荷電したリン酸基の、クロマトグラフィー担体上に固定化された、たとえば、Fe3+またはGa3+といった正に荷電した金属イオンへのアフィニティに基づく。IMACは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)タンデム質量分析(ステンズベール(Stensballe)ら、Proteomics 1 (2001),207-222)またはマトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析(MS)およびリン酸化部位を変性するためのアルカリホスファターゼ処理(ラスカ(Raska)ら, Anal. Chem. 74 (2002), 3429-3433)と組み合わせて既に用いられている。
【0008】
これらの従来法の長所は、それによって細胞のリン酸化プロテオーム全体が単離できることである。しかし、たとえば、植物細胞中のタンパク質のリン酸化チロシン含量はリン酸化セリン(約90%)およびリン酸化スレオニン(約10%)の含量と比較して約0.05%だけであるため、特にリン酸化チロシンを含むタンパク質またはペプチドの検討には特有の問題が生じる。
【0009】
オジダ(Ojida)ら(J. Am. Chem. Soc. 124 (2002), 6256-6258)は、チロシン-リン酸化タンパク質の検討のための、リン酸化ペプチド表面と相互作用する蛍光化学センサーを記載する。その著者らは、2個の亜鉛(II)ジピコリルアミン残基を有するアントラジン誘導体がリン酸化ペプチドを選択的に結合しおよびそれによって蛍光スペクトルに変化を生じることを示すことができた。そのような蛍光化学センサーを用いて、水溶液中のリン酸化ペプチドを検出することが可能である。それに記載されたアントラジン誘導体は、リン酸化チロシンを含むペプチドに対する特有の特異性を示した。ミトオカ(Mito-oka)ら(Tetrahedron Letters 42 (2001), 7059-7062)は、類似の成分がペプチドのジヒスチジン配列モチーフと結合できることを報告している。
【0010】
生細胞におけるチロシンリン酸化は、特にシグナル伝達においておよび他の調節機構において特に重要であるため、本発明の目的は、従来の方法を超える改良でありおよびチロシン上のペプチドおよび/またはタンパク質リン酸化を濃縮および/または単離できる方法を提供することである。
【0011】
この目的は、請求項1に記載される物質によって達成される。請求項8は、該当する物質を用いる濃縮または単離法を記載する。請求項11、13および15は、この物質の使用におよび対応するアフィニティ材料に関する。請求項16は、本発明の物質を調製するための方法を請求する。従属請求項は本発明のこれらの態様のさまざまな好ましい実施形態に関する。すべての請求項の文言は参照により本説明に含まれる。
【0012】
本発明は、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料として適した物質を提供する。この物質は、リンカーを介してスペーサーへ結合した固相担体を含む。このスペーサーは、下記の一般式によって記載される少なくとも2つの基を有する:
【0013】
【化1】

この式中の意味は、
X、Y: CR'、N、Sおよび/またはO;
Z: CR"2および/または(CR")2;
R'、R": H、アルキル、ハロゲン(halogenyl)および/またはO-アルキル;および
M: Mn2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Al3+および/またはGa3+
【0014】
例として、本発明の物質を図1に図式的に示す。図中のさまざまな文字は既述の意味を表す。
【0015】
この物質および、これに関連して、特にこれらの少なくとも2つの基を有するスペーサーは、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質に対する高いアフィニティを有する。この物質は、対応するペプチドおよび/またはタンパク質を高いアフィニティで結合し、およびしたがってこれらのペプチドおよび/またはタンパク質を試料から濃縮および/または単離することを可能にする。この高アフィニティ成分の固定化は、その物質をたとえば従来のカラムクロマトグラフィー材料のようなアフィニティ材料として使用することを可能にする。この物質は、したがって、試料からのリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のための、当業者に直ちに明らかであるもののような手順と共に用いることができる。本発明の物質の亜鉛複合体は特に有利であることが証明されている。
【0016】
本発明の物質は、1つ以上のチロシン残基でリン酸化されているリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質(pTyr)の濃縮または単離に特に適している。本発明の1または複数の物質は、したがって、合成pTyr受容体とも記載することができる。本発明の物質の好ましい一実施形態では、その基は2,2'-ジピコリルアミンの誘導体である。本発明の対応する物質は、チロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質に対して特に高いアフィニティを有する。
【0017】
本発明の物質の好ましい一実施形態では,スペーサーは1つ以上の芳香環を含む。これらは特に単環系、二環系および/または三環系芳香環である。スペーサーは、有利なことに、さらにラジカルも含みうるジメチル安息香酸(dimethylbenzene acid)メチルエステルである。特に好ましい一実施形態では、スペーサーのための開始化合物は下記の式によって特徴づけられる:
【0018】
【化2】

ここでの意味は
R1、R2: H、アルキル、ハロゲン、O-アルキルおよび/または単環式または二環式芳香環である。
【0019】
特に非常に好ましい実施形態では、スペーサーは2,5-、3,4-および/または3,5-ジメチル安息香酸メチルエステルまたは対応する誘導体である。
【0020】
スペーサーと固相担体との間のリンカーは、好ましくは少なくとも1つのアミド、エステル、カルバモイル、エーテルおよび/またはチオエーテル結合である。リンカーの、またはリンカー化合物の、特異的設計はもちろん担体材料の選択およびスペーサーの組成に依存する。
【0021】
本発明の物質の特に非常に好ましい一実施形態では、少なくとも2つの基を含むスペーサーは、2,5-、3,4-および/または3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸または対応する安息香酸メチルエステルである。
【0022】
固相担体は、好ましくはガラス、ケイ酸塩、金および/または少なくとも1つの有機ポリマーである。クロマトグラフィー用途に適したすべての従来の担体材料をそのために使用することが原則として一般的に可能である。有利な例は、カラムクロマトグラフィーに通常使用されるもののような、ビーズ形状のクロマトグラフィー材料である。その好ましい例は、フラクトゲル(Fractogel)またはセファロース(Sepharose)、特にセファロース4Bである。担体材料の選択は、しかし、カラムクロマトグラフィーに使用することができる材料に限定されない。逆に、本発明はまた、他のアフィニティ濃縮法に適したもののような材料も包含する。たとえば、担体は薄層クロマトグラフィーに適した材料でありうる。
【0023】
本発明は、加えて、試料からのリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のための方法を包含する。これに関連して、試料とは一般的に生物材料の試料を意味する。これは、たとえば細胞抽出物、組織抽出物などを含みうる。特に、細胞のタンパク質を、細胞培養からこの目的のために集成することが可能である。一方、適当な試料はまた、たとえば、生検材料を集成することにおよび/または臓器からの特定の組織に由来しうる。一方、植物起源の試料、細菌試料または真菌由来の試料を本発明の方法に用いることもまた可能である。試料は、これに関連して、たとえば細胞の破片を含まない細胞抽出物だけが使用されるように、以降の精製無しで用いることもできる。一方、試料はまた、さらに精製することもできる。しかし、以降の精製をしない試料を用いることが特に好ましく、なぜならこの方法では、プロテオーム研究の分野で特に興味が持たれるように、これらの試料中のすべての目的のリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を濃縮および/または詳細に検討することが可能だからである。
【0024】
本発明の方法では、まず試料を、既述の物質と接触させ、その物質と試料由来のリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質との間の相互作用が可能になるようにする。次の段階で、結合しない材料、すなわち特に非リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を、物質から除去する。これは、特に、適当な緩衝溶液で洗浄することによって行うことができる。続いて、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質、すなわち物質と相互作用しているペプチドおよび/またはタンパク質を、溶出する、すなわち物質から分離する。これもまた、適当な緩衝液条件の選択を通じておよび/または温度などを変えることによって有利に実行される。この溶出段階は必ずしも実施する必要は無い。それは、特に選択された分析方法にまたは一般的に本発明の目指す目的に応じて、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質をアフィニティ材料から分離しないことが有利でありうる。本方法および特に適当な緩衝液条件の選択を実施するための適当な手順は、当業者に明らかとなる。
【0025】
この方法を実施後の画分は今、試料由来の濃縮されたまたは単離されたリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を含む。これらのペプチドおよび/またはタンパク質は、続いて必要に応じてさらに処理しまたはさらに精製することができる。これは、たとえば本発明の方法を繰り返し実施することによって、またはそうでなければ他の精製方法によって達成できる。
【0026】
リン酸化および好ましくは溶出したペプチドおよび/またはタンパク質を続いて分析し、および、適当な場合には同定することが特に好ましい。これは、従来の方法によって、特に1および/または2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動および/または質量分析法によって行うことができる。濃縮されたまたは単離されたリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を、質量分析法によって分析するのが特に有利である。特に好ましいのは、これに関連して、エレクトロスプレーイオン化(ESI)タンデム質量分析またはいわゆるマトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析である。これらの方法は特に、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を検討するために特に適していることが既に証明されている。本発明はまた、もちろん、当業者に明らかとなる他の分析方法を包含する。
【0027】
本発明の方法は、好ましくは、濃縮すべきリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質が1つ以上のチロシン残基で1回以上リン酸化されていることで特徴づけられる。チロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質について、および別の部位でのペプチドおよび/またはタンパク質リン酸化についての本発明の物質の特異性は、特に、図1に示すスペーサー上に位置する少なくとも2つの基の選択によって支配される。スレオニン-および/またはセリン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質とは対照的に、特にチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質は細胞におけるシグナル伝達および調節過程に関与する。それらはしたがって、特に生物学的関心が持たれる。チロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を検討するための従来の方法の問題は、特に、チロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質は、細胞中には他の部位でのペプチドおよび/またはタンパク質リン酸化と比較して例外的に低濃度でしか存在しないことである。本発明の方法によって、特異的にこれらの特に稀なリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を特に濃縮または単離し、およびそれによってそれらを検討のために利用可能にすることが今は可能である。本発明の方法は、加えて、細胞のすべてのチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の特異的濃縮または単離を通じて、特にリン酸化プロテオーム研究の目的である通り、細胞中のこれらの非常に重要な調節点の外観を提供することを可能にする。
【0028】
本発明は、加えて、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料としての本発明の物質の用途を包含する。濃縮または単離すべきペプチドおよび/またはタンパク質は、特にチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質である。本発明に記載のこの用途の他の性質に関してはまた、上記の説明を参照する。
【0029】
本発明は、加えて、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料を包含する。この点についてもまた上記の説明を参照する。このアフィニティ材料は、特に、アフィニティ材料がカラムクロマトグラフィー材料であることで特徴づけられる。このことは、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を濃縮および/または単離するための処理がそれによって、タンパク質精製からの一般的に通例の手順を用いて実施することができるという利点を有し、この特定のアフィニティ材料へ従来の手順を適用することは直接に当業者の能力内である。カラムクロマトグラフィー材料の他に、アフィニティ材料はまたもちろん、他のアフィニティ精製に適するようにも設計することができる。したがって、アフィニティ材料は、たとえば薄層クロマトグラフィーなどに適するように設計することができる。
【0030】
本発明はさらに、対応するアフィニティ材料を含むクロマトグラフィーカラムを包含する。この場合のクロマトグラフィーカラムは、本発明のアフィニティ材料を既に充填されているように設計することができる。一方、クロマトグラフィーカラムおよびアフィニティ材料が最初は別々でありおよびカラムを適当な寸法に必要に応じて充填するのもまた有利でありうる。このクロマトグラフィーカラムに関してもまた、上記の説明を参照する。
【0031】
最後に、本発明は、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料として適した物質を調製するための方法を包含する。この物質は既に上記に詳細に記載される。この物質を調製するための本発明の方法は、下記の方法段階を含み、これらの段階は例として図2および3に概説される:
a)最初に、少なくとも2つのメチルラジカルおよび少なくとも1つのメチルエステル残基を含む少なくとも1つの化合物が、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、N-ブロモアセトアミド(NBA)および/またはSO2Cl2と反応し、対応するブロモメチルおよび/またはクロロメチル化合物を与える。その化合物は、好ましくは、下記の式によって特徴づけられる化合物V1である:
【0032】
【化3】

ここで意味は:
R1、R2: H、アルキル、ハロゲン、O-アルキルおよび/または単環式または二環式芳香環である。
この化合物V1の特に好ましい代表は、ジメチル安息香酸メチルエステルである。この場合の反応産物は、ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルエステルおよび/またはビス(クロロメチル)安息香酸メチルエステルである。本発明の物質のスペーサーは、この化合物または式に記載の対応する化合物によって生成される。
b)本方法の段階a)からの反応産物を、アルカリ金属炭酸塩、重炭酸塩および/または第三級有機アミンと、および下記の式の少なくとも1つの化合物V2と反応させる:
【0033】
【化4】

ここで意味は
X、Y: CR'、N、Sおよび/またはO;
Z: CR"2および/または(CR")2;
R'、R": H、アルキル、ハロゲンおよび/またはO-アルキルである。
たとえば、ジメチル安息香酸メチルエステルが本方法の段階a)で用いられている場合、この方法段階の反応産物はビス[(V2)メチル]安息香酸メチルエステルである。V2の特に好ましい代表は、たとえば2,2'-ジピコリルアミンである。
c)段階b)からの反応産物を、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩および/または水酸化第四級アンモニウムと反応させ、対応する酸を与える。たとえば、ジメチル安息香酸メチルエステルが最初に用いられた場合、この場合の結果はビス[(V2)メチル]安息香酸である。異なる化合物V1は、もちろん、異なる反応産物を結果として生じる。
d)さらなる段階として、適当な場合には、本方法の段階c)からの反応産物を以降で固定化することが意図される固相担体材料の活性化がある。担体の活性化が必要かどうかは、選択した特定の材料に依存する。担体の活性化または担体の準備を行う時間は、もちろん、ここで述べる系列とは関連しない。
e)本方法の段階c)からの反応産物を、少なくとも1つのカルボジイミド、ウラニウムおよび/またはホスホニウム塩を用いて、適当な場合に活性化された担体と反応させ、本方法の段階c)からの反応産物、すなわちたとえばビス[(V2)メチル]安息香酸が担体上に固定化されるようにする。担体および反応産物のこの結合はリンカーを介して行われ、たとえばアミド、エステル、カルバモイル、エーテルおよび/またはチオエーテル結合でありうる。
f)最後に、本方法の段階e)からの固定化産物に、Mn2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Al3+および/またはGa3+または対応する塩の水溶液で処理することによって金属を担持させる。これに関連して、Zn2+またはCo2+が特に優先される。本方法の段階f)での金属の担持はまた、適当な場合には、反応系列中の別の時間に実施することができる。
【0034】
本発明の他の性質は、図および実施例と組み合わせた付属の請求項から明らかである。さまざまな性質は、さらにそれぞれをそのままでまたは互いに組み合わせて実施しうる。
【実施例】
【0035】
A.アフィニティ材料の調製
1. 2,5-、3,4-および3,5-ジ(ブロモメチル)安息香酸メチルエステルの合成
19.6gの2,5-、3,4-または3,5-ジメチル安息香酸メチルエステル、47gのNBS、および0.5gの過酸化ベンゾイルを、120mlの四塩化炭素に溶解し、および反応を還流下で12時間実施した。冷却後、反応混合物をろ過し、および溶媒を減圧下で蒸発によって除去した。結果として得られたジブロモ誘導体はn-ヘキサンから再結晶によって精製され、融点71℃の2,5-ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルエステルの収量21.2g、融点74℃の3,4-ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルエステルの収量22.2g、および融点78℃の3,5-ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルエステルの収量25.3gを結果として生じた。
【0036】
2.2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸メチルエステルの合成
(1.3g、8mmol)を含むDMF(8ml)の溶液を、2,5-、3,4-または3,5-ビス(ブロモメチル)安息香酸メチルエステル(2.24g、8mmol)、2,2'-ジピコリルアミン(3.5g、17.2mmol)およびK2CO3(4.42g、3.2mmol)を含む20mlの無水DMF(フッ化ジメチル)の溶液に、1時間にわたって80℃にて滴下して加えた。60分間60℃にてかくはん後、反応混合物を1N HClを用いて希釈し、および酢酸エチルを用いて2回洗浄した。水層を4N NaOHを用いてアルカリ性にし、およびジエチルエーテルを用いて2回抽出した。合わせた有機層を水およびアルカリで2回洗浄し、次いでNa2SO4で乾燥した。減圧下で溶媒を除去後、残渣をエタノールから結晶化し、および融点98℃の2,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸メチルエステルの収量3.3g、融点102℃の3,4-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸メチルエステルの収量3.5g、および融点111℃の3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸メチルエステルの収量4.2gを結果として生じた。
【0037】
3. 2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2’-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸の合成
3.0gの2,5-、3,4-または3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸メチルエステルを含む50mlの80%MeOHを、1.10gのBa(OH)2と混合し、および窒素下還流によって2時間処理した。さらに0.6gのBa(OH)2を加え、および還流をさらに2時間実施した。反応混合物が冷却した後、50%H2SO4をBa(OH)2と等モル量で加えた。結果として生じた沈澱を遠心分離によって除去し、および残りの溶液を蒸発乾固した。ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸が油状の残渣として得られ、それをさらに精製無しで以降に用いた。
【0038】
4. 担体材料の活性化
4.1 1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを用いたセファロース(Sepharose)4Bの活性化
吸引乾燥した50mlのセファロース(Sepharose)4B材料を、50mlの0.6M NaOHおよび50mlの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルが入った250mlコニカルびんへ移した。懸濁液を室温にて12時間振とうした。セファロース(Sepharose)4B材料を2lの脱イオン水で洗浄し、および直ちに次の反応段階に使用した。
【0039】
4.2 アミノ-1,4-ブタンジオールエーテル-セファロース(Sepharose)4Bの合成
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルで活性化しおよび吸引乾燥した10mlのセファロース(Sepharose)4Bを、50mlの2.0M NH4OH溶液が入った250mlコニカルびんへ移した。懸濁液を室温にて12時間振とうした。セファロース(Sepharose)4Bを1lの脱イオン水で洗浄し、および直ちに次の反応段階に用いた。
【0040】
4.3 アミノ-フラクトゲル(Fractogel)の合成
10gのエポキシ-フラクトゲル(Fractogel)材料を、50mlの2.0M NH4OH溶液が入った250mlコニカルびんへ移した。懸濁液を室温にて12時間振とうした。フラクトゲル(Fractogel)材料を1lの脱イオン水で洗浄し、および直ちに次の反応段階に用いた。
【0041】
5. 固定化
5.1 2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2’-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース(Sepharose)4Bの合成
10mlのアミノ-1,4-ブタンジオールエーテル-セファロース(Sepharose)を、ブフナー漏斗中で、50mlの20%、40%、60%、80%および100%DMFで順次に洗浄した。アミノ-1,4-ブタンジオールエーテル-セファロース(Sepharose)ビーズを、それぞれ250mgの2,5-、3,4-または3,5-ビス[(2,2-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸を含むDMFに再懸濁した。20mgのイミダゾール,100μlのピリジンおよび500μlのジイソプロピルカルボジイミドをこの懸濁液に加えた。懸濁液を室温にて24時間振とうし、およびさらに200μlのジイソプロピルカルボジイミドを加えた。12時間後、ビーズをろ過によって得て、および下記の順序でそれぞれ50mlを用いて洗浄した:100%、80%、60%、40%、20%DMFおよび500mlの水。ビーズを次いで20mlの5%NaHCO3に再懸濁し、および100μlの無水酢酸を加えた。懸濁液を37℃にて60分間振とうし、および次いで50mlの水、50mlの10%酢酸、および500mlの水で洗浄した。最後に、ビーズを30%EtOHで洗浄し、および冷蔵庫に保存した。
【0042】
5.2 2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-フラクトゲル(Fractogel)の合成
合成は、セファロース(Sepharose)4Bの代わりのアミノ-フラクトゲル(Fractogel)の使用以外は、5.1に従って行った。
【0043】
6. 2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース(Sepharose)4Bまたはフラクトゲル(Fractogel)のZn2+またはCo2+の担持
2,5-、3,4-および3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース(Sepharose)4Bまたは?フラクトゲル(Fractogel)を充填したカラムを、5倍容量の水で洗浄した。続いて、3倍容量の0.2M ZnSO4またはCoCl2水溶液、および次いで再び5倍容量の水での処理を行った。下記の平衡化を、対応するタンパク質試料調製に用いた適当な緩衝液を用いて行った。
【0044】
B. チロシン-リン酸化タンパク質の濃縮
実験手順I
1. ラット肝臓からのチロシンリン酸化を有するタンパク質の単離
下記のアフィニティ材料を本実施例で用いた:
材料種類1:
2,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース(Sepharose)4B (25BiPy-セファロース4B)
材料種類2:
3,4-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース4B(34BiPy-セファロース4B)
材料種類3:
3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-セファロース4B(35BiPy-セファロース4B)
材料種類4:
3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸-フラクトゲル(Fractogel)(35BiPy-フラクトゲル))
【0045】
【表1】

【0046】
2. 試料調製およびpTyrタンパク質の単離
2.1 緩衝液:
1.溶解緩衝液:50mM NaMOPS、25mM NaCl、pH7.2、0.5% ツィタージェント(Zwittergent)3-10、0.5% CHAPS、5mM NaF、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mM過バナジン酸ナトリウム、コンプリートミニプロテアーゼ阻害因子混合物(complete mini protease inhibitor cocktail)(EDTA非含有)1錠/緩衝液10ml。
2. 洗浄緩衝液:50mM NaMOPS、25mM NaCl、pH7.2、0.1% ツィタージェント3-10、0.1% CHAPS、5mM NaF、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mM過バナジン酸ナトリウム。
3.溶出緩衝液1:50mM NaMOPS、100mM NaCl、50mMフェニルリン酸(緩衝液10ml当たり127mgのフェニルリン酸二ナトリウム二水和物)、pH7.2、0.1%ツィタージェント3-10、0.1% CHAPS、5mM NaF、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mM過バナジン酸ナトリウム。
4.溶出緩衝液2:50mM NaMOPS、100mM NaCl、pH7.2、0.1%ツィタージェント3-10、0.1% CHAPS、5mM NaF、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mM過バナジン酸ナトリウム、50mM、Na4EDTA。
【0047】
2.2 手順
1.ラット肝臓組織1gを、15mlの溶解緩衝液を用いてホモジナイズした。懸濁液を、ソーバル(Sorvall)SS34ローターで18000rpmにて30分間遠心分離した。上清を使用しおよび沈澱を廃棄した。上清を1.5ml試料に分割した。
2.試料(1.5ml)を、0.5mlのZn2+-BiPyおよびCo2+-BiPyビーズを充填した活性化および平衡化したカラムに通した。
3.カラムを3.0mlの洗浄緩衝液で洗浄し、および最初の溶出を溶出緩衝液1(600μl)で、および次いで溶出緩衝液2(600μl)で溶出した。
【0048】
3. Zn2+-BiPyおよびCO2+-BiPyビーズから溶出したタンパク質のドットブロット分析
3.1 緩衝液:
1. TBS(トリス緩衝生理食塩水):10mMトリス-HCl pH7.4、170mM NaCl、3.4mM KCl.
2. TBS/ツィーン:0.1%ツィーン20を含むTBS
3. BCIP/NBT(リン酸ブロモクロロインドリル/ニトロブルーテトラゾリウム):NBTおよびBCIPストック溶液は冷蔵庫で数週間保存した。ストック溶液は、0.5gのNBTを10mlの70%ジメチルホルムアミドに溶解して調製した。BCIPストック溶液は、0.33gのBCIP二ナトリウム塩を10mlのDMFにガラス容器中で溶解して調製した。
4. APB(アルカリホスファターゼ緩衝液):100mM NaCl、5mM MgCl2、100mM トリス-HCl pH9.5
5.APB/ツィーン:0.1%ツィーン20を含むAPB
【0049】
3.2 手順
1.ニトロセルロース膜上のスポットの位置を、軟質耐水鉛筆で印した。ニトロセルロース膜を水で湿らせ、および清潔なティッシュ上でほぼ完全に乾燥させた。
2.試料を印の位置に配置し、1μgのタンパク質を各スポットに置いた。
3.十分なクエンチング緩衝液(5%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むTBS/ツィーン)をプラスチック皿へ、皿の底が完全に覆われるように入れた。ニトロセルロースブロットを、フィルターが均一に湿るように、クエンチング緩衝液の表面に注意深く置いた。フィルターを次いでクエンチング緩衝液に沈めた。インキュベートを動揺または振とうを加えながら少なくとも2時間行った。溶液を除去し、および一次抗体(pTyr102抗体の1:1000希釈、セル・シグナリング・テクノロジー社(Cell Signaling Technology)、品番9416)を含む4%BSA含有TBS/ツィーン緩衝液溶液を加えた。インキュベートを4℃にて16時間、振とう機上で連続的な動揺を与えながら行った。
4.抗体溶液を流し去った。ブロットを乾燥させないように、ブロットを50mlのTBS/ツィーンで各回5分間、4回洗浄した。この洗浄溶液を再び流し去り、および二次抗体を含む溶液をブロット上に入れた。
5.二次抗体(1:5000希釈のAP-結合抗マウスIgG完全分子、シグマ社(Sigma)93160を含むクエンチング緩衝液)とのインキュベートを、動揺しながら4℃にて3時間実施した。
6.この抗体溶液を流し去り、およびブロットを50mlのTBS/ツィーンで各回5分間、4回洗浄した。
7. BCIP/NBT作業用溶液を、66mlのNBTストック溶液を10mlのAPB/ツィーンへ加えてよく混合し、および33mlのBCIPストック溶液を加えて調製し、ニトロセルロースブロットをBCIP/NBT作業用溶液中に入れた。
8.発色した後、水および1%酢酸で洗浄することによって反応を停止した
【0050】
図4はドットブロットスクリーニングの結果を示す。図中でドット1は試料1を示し、ドット2は試料2を示し、ドット3は試料3を示す、など。
【0051】
4.Zn2+-BiPyおよびCo2+-BiPy材料から溶出したタンパク質のウェスタンブロット分析
4.1 ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)をLaemmli法によって実施した。各例で20μgのタンパク質を11%PAGEの各レーンに負荷した。
【0052】
4.2 緩衝液
ドットブロットスクリーニング用と同一の緩衝液を用いた。
【0053】
4.3 手順
1.電気ブロッティングを、ニトロセルロース膜を取扱説明書に従って用いて、バイオラッド社(BioRad)のセミドライ電気ブロッティング装置を用いて実施した。
2.十分なクエンチング緩衝液(5%BSAを含むTBS/ツィーン)をプラスチック皿へ、皿の底が完全に覆われるように入れた。ニトロセルロースブロットを、フィルターが均一に湿るように、クエンチング緩衝液の表面に注意深く置いた。フィルターを次いでクエンチング緩衝液に沈めた。インキュベートを動揺または振とうを加えながら少なくとも2時間行った。溶液を除去し、および一次抗体(pTyr102抗体の1:1000希釈、セル・シグナリング・テクノロジー社(Cell Signaling Technology)、品番9416)を含む4%BSA含有TBS/ツィーン緩衝液溶液を加えた。インキュベートを4℃にて16時間、振とう機上で連続的な動揺を与えながら行った。
3.抗体溶液を流し去った。ブロットを乾燥させないように、ブロットを50mlのTBS/ツィーンで各回5分間、4回洗浄した。この洗浄溶液を再び流し去り、および二次抗体を含む溶液をブロット上に入れた。
4.二次抗体(1:5000希釈のAP-結合抗マウスIgG完全分子、シグマ社(Sigma)93160を含むクエンチング緩衝液)とのインキュベートを、動揺しながら4℃にて3時間実施した。
5.この抗体溶液を流し去り、およびブロットを50mlのTBS/ツィーンで各回5分間、4回洗浄した。
6.BCIP/NBT作業用溶液を、66mlのNBTストック溶液を10mlのAPB/ツィーンへ加えてよく混合し、および33mlのBCIPストック溶液を加えて調製し、ニトロセルロースブロットをBCIP/NBT作業用溶液中に入れた。
【0054】
ウェスタンブロット分析の結果を図5に示す。図中でレーン1は完全細胞抽出物を示し、レーン2は試料1(溶出1)を示し、レーン3は試料3(溶出1)を示し、およびレーン4は試料5(溶出1)を示す。
【0055】
実験手順II
5. ラット脳および肺線維芽細胞由来のpTyrタンパク質の濃縮
5.1 緩衝液:
1.「Zn」溶解緩衝液:10mMイミダゾールHCl、40mM Na MES、2μM Zn(SO4)2、0.5%ツィタージェント(Zwittergent)3-10、0.5%CHAPS、5mM NaF、1mM Na3VO4、0.2mM過バナジン酸Na、1×PIC、pH5.5
2.洗浄緩衝液:10mMイミダゾールHCl、40mM Na MES、100mM NaCl、2μM Zn(SO4)2、0.1%ツィタージェント3-10、0.1%CHAPS、5mM NaF、1mM Na3VO4、0.2mM過バナジン酸Na、pH5.5
3.溶出緩衝液1:50mM NaMES、50mMフェニルリン酸Na、100mM NaCl、0.1% ツィタージェント3-10、0.1% CHAPS、5mM NaF、1mM Na3VO4、0.2mM過バナジン酸Na、pH5.5
4.溶出緩衝液2:50mM Na MES、50mM Na2EDTA、100mM NaCl、0.1%ツィタージェント3-10、0.1%CHAPS、5mM NaF、1mM Na3VO4、0.2mM過バナジン酸Na
【0056】
5.2 手順
バイオラッド社(BioRad)のミニ遠心分離カラム(品番732-6008)を、本発明のアフィニティ材料(ビーズ)の50%懸濁液600μlを用いて充填した。これは各例で300μlの沈降したビーズに相当する。一方、固定化ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸をメタ異性体として(ビーズA)および固定化ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸をパラ異性体として(ビーズB)用いた(図6も参照)。カラムをそれぞれ、1mlの水で4回洗浄した。ビーズをそれぞれ、1mlの200mM Zn(SO4)2で4回活性化した。続いて、1mlの洗浄緩衝液で4回洗浄した。ラット脳由来またはラット肺線維芽細胞由来のタンパク質抽出物5〜6mgを、タンパク質試料としてカラムに負荷した。素通り画分を回収し、および再度負荷した。素通り画分を再び回収した。カラムを1mlの洗浄緩衝液で4回洗浄した。最初の溶出は、当初、フェニルリン酸を含む緩衝液を用いて競合段階として実施した。次の溶出は、高厳密性で、EDTAを用いて実施した。結合したタンパク質の1回目初の溶出については、カラムを400μlの溶出緩衝液1を用いて3回溶出した。2回目の溶出については、カラムを400μlの溶出緩衝液2を用いて3回溶出した。すべての溶出液を回収した。溶出液は、バイオマックス(Biomax)K5(ミリポア社(Millipore))を用いて、終容量約40〜50μlへ濃縮した。
【0057】
6. 画分の分析
BCA測定(ピアス社(Pierce))を実施し、すべての画分中のタンパク質を測定した。
【0058】
6.1 SDS-PAGE
バイオラッド・プロテアンIIミニゲルシステム(BioRad Protean II minigel system)(バイオラッド社(BioRad)、ミュンヘン)を使用して標準SDS-PAGE不連続Laemmliゲルを実施した。4%濃縮ゲル付きの12%分離ゲルをすべての実験に用いた。
【0059】
6.2 ウェスタンブロット
溶出液1の、および溶出液2の、タンパク質抽出物の試料(試料当たり15μg)を12%ポリアクリルアミドゲル(バイオラッド・ミニ)で分画し、およびPVDF膜(バイオラッド社)にブロットした。
【0060】
膜をTBS、0.1%ツィーン、5%BSAを用いて2時間ブロッキングし、次いでブロッキング緩衝液で1:1000希釈した一次抗体(抗pTyrモノクローナル抗体4G10、アップステート社(Upstate))と一夜インキュベートした。ブロットを次いでTBS/ツィーンで3回洗浄し、および続いて1:1000希釈した二次抗体(抗マウス、アルカリホスファターゼと結合、シグマ社(Sigma))と1時間インキュベートした。ブロットをTNS/ツィーンで3回洗浄し、およびNBT/BCIP基質(ロシュ社(Roche))を用いて発色した。
【0061】
7. 結果
結果は、対応するアフィニティ材料によるpTyrタンパク質の濃縮を証明する。ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸の固定化亜鉛複合体(図6)をこれに用いた。
【0062】
図7は、図6に示すアフィニティ材料AおよびB(ビーズAおよびB)を用いて濃縮されたpTyrタンパク質のウェスタンブロット分析を示す。ブロットAおよびB:ラット脳由来タンパク質抽出物(CE)のウェスタンブロット分析、溶出液1(E1)および溶出液2(E2)はそれぞれの場合で抗pTyrアフィニティ材料AおよびB。染色は抗pTyr抗体4G10(アップステート社(Upstate))を用いて行った。各レーンに15μgのタンパク質を負荷した。
【0063】
図7からのブロットCは、ラット肺に由来する刺激された(EGF、ET1)線維芽細胞の、抗体P-Tyr102で染色されたウェスタンブロット分析を示す。アフィニティ材料Aをこれに使用した。レーン1:EGFで刺激された細胞の完全なプロテオーム、レーン2および3:刺激していない細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム;レーン4:ET1(エンドセリン)で刺激された細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム、溶出液1;レーン5:EGFで刺激された細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム、溶出液1;レーン5:EGFで刺激された細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム、溶出液1;レーン6:ET1で刺激された細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム、溶出液2;レーン7:EGFで刺激された細胞の濃縮されたpTyrプロテオーム、溶出液2。これらの結果は、pTyrアフィニティ精製および検出のために現在最も広く用いられている抗体(4G10)が、本発明の材料と比較すれば、一部のpTyrタンパク質を認識しないことを示す。
【0064】
図8は、本発明のアフィニティ材料Aを用いて濃縮された、ラット肺由来のET1で刺激された線維芽細胞のpTyrプロテオームの、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真を示す。タンパク質のパターンは銀染色した2次元ゲル上で明瞭であり、および多数のチロシン-リン酸化タンパク質が以降の質量分析によって同定された。これらの質量分析は、たとえば、酵母由来cdc48(gi|6678559)との類似性を有するバロシン含有タンパク質、ATPアーゼ、特にH+輸送2セクターATPアーゼ(gi|92350)、ATPアーゼ合成酵素のベータ鎖(gi|114562)、アクチニンアルファ4(gi|11230802)などといったさまざまなチロシン-リン酸化タンパク質の濃縮を証明する。加えて、以前は未知であったチロシン-リン酸化タンパク質もまた同定された。
【0065】
pTyrタンパク質濃縮のウェスタンブロット分析は、本発明のアフィニティ材料がさまざまな材料からチロシン-リン酸化タンパク質を相当な程度へ濃縮することを明らかに示した。肺線維芽細胞の、たとえば、どちらの物質もチロシンリン酸化を誘導することが知られているエンドセリンまたはEGFを用いた刺激後に、そのような濃縮を特に明らかに示すことが可能であった。加えて、示した実験は、現在用いられているpTyr特異的抗体はpTyrプロテオームの一部の画分だけに対応することを明らかにした。従来の免疫学的方法と比較した本発明のアフィニティ材料の長所は、したがって、特にリン酸化チロシン残基に対する配列非依存性アフィニティに由来し、完全なpTyrプロテオームにより良好に対応することを可能にしている。さらに、本発明のアフィニティ材料は、たとえば緩衝液条件に関して、より高い再現性およびより良好な柔軟性を確実にしている。さらに、分析を相当に速やかに実施することができ、およびそのような分析のコストは、従来の方法についてよりも低い。最後に、本発明のアフィニティ材料は、高処理量処理に特に有利に適している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の物質の図式的説明。
【図2】反応系列a)からc)の図式的説明。
【図3】段階e)からf)の図式的反応系列。
【図4】Zn2+-BiPyおよびCo2+-BiPyビーズから溶出されたタンパク質のドットブロット。ドット1:試料1;ドット2:試料2;ドット3:試料3;ドット4:試料4;ドット5:試料5;ドット6:試料6;ドット7:試料7;ドット8:試料8;ドット9:試料9;ドット10:試料10。
【図5】Zn2+-BiPyおよびCo2+-BiPyビーズから溶出されたタンパク質のウェスタンブロット。レーン1:総細胞抽出物;レーン2:試料1(溶出1);レーン3:試料3(溶出1);レーン4:試料5(溶出1)。
【図6】本発明の物質の好ましい実施形態の描写。A,BおよびCは、固定化ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸のメタ、パラ、およびオルト異性体を示す。
【図7】アフィニティ材料AおよびBを用いて濃縮されたpTyrタンパク質のウェスタンブロット分析。試料分布は実施例中で説明される。
【図8】ラット肺のエンドセリンで刺激された線維芽細胞の濃縮されたpTyrプロテオームの2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して下記の式の少なくとも2つの基を有するスペーサーへ結合した固相担体を含む物質
【化1】

ここで意味は
X、Y: CR'、N、Sおよび/またはO;
Z: CR"2および/または(CR")2;
R'、R": H、アルキル、ハロゲンおよび/またはO-アルキル;
M: Mn2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Al3+および/またはGa3+
【請求項2】
基が2,2'-ジピコリルアミノを基礎として作られる基であることで特徴づけられる、請求項1で請求される物質。
【請求項3】
スペーサーが1つ以上の芳香環、特に単環式、二環式および/または三環式芳香環を含む点で特徴づけられる、請求項1または請求項2で請求される物質。
【請求項4】
スペーサーが2,5-、3,4-および/または3,5-ジメチル安息香酸メチルエステルを基礎として作られる点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかで請求される物質。
【請求項5】
リンカーが少なくとも1つのアミド、エステル、カルバモイル、エーテルおよび/またはチオエーテル結合を含む点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかで請求される物質。
【請求項6】
少なくとも2つの基を有するスペーサーが2,5-、3,4-および/または3,5-ビス[(2,2'-ジピコリルアミノ)メチル]安息香酸を基礎として作られる点で特徴づけられる、前記請求項のいずれかで請求される物質。
【請求項7】
固相担体がガラス、ケイ酸塩、金および/または少なくとも1つの有機ポリマー、特にセファロース(Sepharose)および/またはフラクトゲル(Fractogel)であることで特徴づけられる、前記請求項のいずれかで請求される物質。
【請求項8】
-試料を前記請求項のいずれかで請求される物質と接触させ、その物質と試料中のリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質との間に相互作用を生成、
-相互作用しない材料を除去、
-適当な場合にリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を溶出、
-適当な場合にリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質を分析
:の方法段階を含む、試料からのリン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のための方法。
【請求項9】
分析が質量分析法を用いて行われる点で特徴づけられる、請求項8で請求される方法。
【請求項10】
リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質がチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質であることで特徴づけられる、請求項8または請求項9で請求される方法。
【請求項11】
リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料としての、請求項1から7のいずれかで請求される物質の使用。
【請求項12】
リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質がチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質であることで特徴づけられる、請求項11で請求される使用。
【請求項13】
請求項1から7のいずれかで請求される少なくとも1つの物質を含む、リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の、特にチロシン-リン酸化ペプチドおよび/またはタンパク質の、濃縮および/または単離のためのアフィニティ材料。
【請求項14】
アフィニティ材料がカラムクロマトグラフィー材料であることで特徴づけられる、請求項13で請求されるアフィニティ材料。
【請求項15】
請求項13または請求項14で請求されるアフィニティ材料を含むクロマトグラフィーカラム。
【請求項16】
a)少なくとも1つの、下記の式の化合物V1を、
【化2】

ここで意味は
R1、R2:H、アルキル、ハロゲン、O-アルキルおよび/または単環式または二環式芳香環、
N-ブロモスクシンイミド(NBS)、N-ブロモアセトアミド(NBA)および/またはSO2Cl2と反応;
b)段階a)からの反応産物を、少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩、重炭酸塩および/または第三級有機アミンを用いて、少なくとも1つの、下記の式の化合物V2と反応
【化3】


ここで意味は
X、Y:CR'、N、Sおよび/またはO;
Z:CR"2および/または(CR")2;
R'、R":H、アルキル、ハロゲンおよび/またはO-アルキル;
c)段階b)からの反応産物を、少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩および/または水酸化第四級アンモニウムと反応;
d)適当な場合に固相担体を活性化;
e)段階c)からの反応産物を、少なくとも1つのカルボジイミド、ウラニウムおよび/またはホスホニウム塩を用いて、適当な場合に活性化された担体と反応させ、アミド、エステル、カルバモイル、エーテルおよび/またはチオエーテル結合を介して担体上に固定化された反応産物を与える;
f)段階e)からの反応産物に、少なくとも1つの金属を、Mn2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Al3+および/またはGa3+の水溶液を用いた処理によって担持させる
:方法段階を含む、請求項1から7のいずれかで請求される物質を調製するための方法。
【請求項17】
化合物V1がジメチル安息香酸メチルエステルであることで特徴づけられる、請求項16で請求される方法。
【請求項18】
化合物V2が2,2'-ジピコリルアミンであることで特徴づけられる、請求項16または請求項17で請求される方法。
【請求項19】
固相担体がガラス、ケイ酸塩、金および/または少なくとも1つの有機ポリマー、特にセファロース(Sepharose)および/またはフラクトゲル(Fractogel)であることで特徴づけられる、請求項16から18のいずれかで請求される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−500943(P2008−500943A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505274(P2006−505274)
【出願日】平成16年4月27日(2004.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004405
【国際公開番号】WO2004/099233
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(504385384)プロテオジス アクチェンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】