説明

リン酸化糖およびその製造方法

【課題】6位結合リン酸基を特異的に脱リン酸化するホスファターゼ、3位結合リン酸化糖アルコールの製造法、および6位結合リン酸化糖の製造法を提供すること。
【解決手段】構成糖がグルコースでα−1,4結合のみで構成され、重合度が3〜5の6位結合リン酸化糖の6位結合リン酸基を特異的に脱リン酸化するホスファターゼであって、アスペルギルス ニガーKU−8株あるいはその培養物から得られ、以下の酵素化学的性質:(1)作用至適pH:pH1.5〜3.0;(2)pH安定性;pH2〜10の範囲で安定;(3)作用至適温度;60℃;(4)温度安定性:50℃まで安定;および(5)分子量:モノマーとして約66,000ダルトン(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)を有する、ホスファターゼ。このホスファターゼを用いた3位結合リン酸化糖アルコールの製造法、および酸の存在下での加熱を含む6位結合リン酸化糖の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(産業上の利用分野)
本発明は、グルカンとリン酸がエステル結合している糖類(本発明においてリン酸化糖と略す)のグルコース残基の6位と3位に結合しているリン酸基のうち、6位のリン酸基を特異的に脱リン酸化するホスファターゼKU−8(以下本酵素と呼ぶ)、および本酵素を用いる、リン酸が結合している部位が構成グルコース分子の3位ばかりの少糖および多糖(以下、3位リン酸化糖と称する)の製法ならびにその3位リン酸化糖に関する。また、本発明はリン酸化糖のグルコース残基の6位と3位の結合リン酸基のうち、3位の結合リン酸基のみ脱リン酸化する処理、本処理を用いるリン酸が結合している部位が構成グルコース分子の6位ばかりの少糖および多糖(以下、6位リン酸化糖と称する)の製法ならびにその6位リン酸化糖に関する。さらに、本発明は3位あるいは6位リン酸化糖の還元末端が還元され糖アルコールとなったリン酸化糖アルコール(以下、3位あるいは6位リン酸化糖アルコールと称する)、3位あるいは6位リン酸化糖とタンパク質またはペプチドとの複合体であるリン酸化糖誘導体、もしくは3位あるいは6位リン酸化糖あるいはリン酸化糖誘導体とアルカリ土類金属あるいは鉄との結合体であるリン酸化糖誘導体に関する。
【0002】
これらの3位あるいは6位リン酸化糖あるいはリン酸化糖誘導体は、カルシウムなどのアルカリ土類金属または、鉄の沈殿阻害効果(以下、可溶化という)、あるいはカルシウムなどの吸収促進作用を有している。さらに、3位あるいは6位リン酸化糖は難消化性であり、低カロリーであると同時に整腸作用も期待できる。従って、本発明は、食品、飲料、飼料、あるいは肥料に含まれるまたは含有させたカルシウムなどのアルカリ土類金属、または、鉄の生体への吸収を促進させることによって、あるいは、難消化性糖を摂取することによって、ヒトや動物の健康を増進して各種の疾患を予防する原料、飲食用組成物、食品添加用組成物、医薬品用組成物あるいは飼料の原料または組成物として有用である。
【0003】
また、本発明品は食品のもつ甘みをさわやかな甘みに変えたり、塩味を増強したりする味質改善効果もあり、本効果を期待して食品へも有効に添加し得る。本発明はまた、植物へのカルシウムの吸収を促進して、植物あるいは果樹の日持ちを向上させる肥料の原料や組成物に関する。さらに、本発明品は、虫歯の予防効果を有しており、詳細には食品、飲料、飼料はもとより、練り歯磨き、マウスウオッシュ、トローチなどの口腔用組成物にも添加され得る。本発明は、種々のスケール、特にカルシウム系およびマグネシウム系スケールの発生を防止または抑制し得るスケール防止剤として使用され得る。また、この金属キレート作用およびpH緩衝作用、保湿作用を有しており、シャンプー、リンス等の洗髪用組成物はもとより化粧品、整髪用組成物としても有用である。
【0004】
尚、リン酸化糖を用いた製品において、その製造過程あるいは保存過程においてアミノカルボニル反応による褐変現象が生じることが好ましくない場合には、還元末端を還元したリン酸化糖アルコールを用いるとこれを避けることができる。
【背景技術】
【0005】
(従来の技術)
植物が貯蔵する澱粉の多くには、澱粉を構成するグルコースに一部リン酸がエステル結合している。澱粉中のリン酸含有量としては微量であるがゼロではなく、とりわけ芋類の澱粉には比較的多く、中でも馬鈴薯澱粉はリン酸基を多く含んでおり、リン酸含有量の非常に高い品種も存在している(非特許文献1)。馬鈴薯澱粉中ではこれを構成するグルコース残基にリン酸基が比較的多くエステル結合していることが知られており、その99%以上が6位あるいは3位に結合していることが知られている。(非特許文献2)。このような澱粉をアミラーゼなどの澱粉分解酵素を用いて分解する場合、澱粉構造中のリン酸基がエステル結合したグルコース残基の近傍には酵素は作用できず、この部分はリン酸化された少糖の形で未分解のまま残ることが知られている。釜阪らのリン酸化糖に関する技術(特許文献1)はこのような特性を生かし、糖質分解酵素を巧みに利用し効率的な製造法を確立したものであり、以下に要約したように食品およびその周辺用途への新しい利用技術を確立したものであった。
【0006】
食品から摂取すべき栄養素の中で、ミネラルは、生体の機能を維持するために欠くことができない。しかし、このミネラルは現在の食生活においては不足しがちで、このため健康上への影響が問題となっている。例えば、1日のカルシウムの平均摂取量は栄養所要量の600mgに達していない(厚生省、平成9年度国民栄養調査)。カルシウムは容易に無機リン酸と結合し不溶性の沈殿を形成しやすく、特にカルシウムの吸収部位である腸管内は微アルカリ性になっており、このカルシウムの不溶化が促進されるために吸収されにくいわけである。さらにカルシウムは骨や歯などに多く存在し、生体での需要が高いことも事実であり、カルシウムの不足は骨粗鬆症等の各種疾患の発症につながることもわかっている(非特許文献3)。また、同様に鉄やマグネシウムについてもその吸収率の悪さが知られており、カルシウムと同様に、摂取不足は各種疾患に関わっている(非特許文献4)。特に成長期の子供や妊婦において、摂取量の不足は問題である。さらに、今日、ダイエットや偏食の問題も大きく、嗜好食品においてもカルシウムと同様に鉄やマグネシウムの有効な生体への吸収を考慮した食品が期待され、これらのバランスのよい摂取方法の開発は重要な課題である。
【0007】
畜産業界では生産性の向上のためから、ブロイラー、豚などは、急激な成長が求められるため、骨の発育が追いつかずに脚弱、奇形などの問題が起こっている。カルシウムは特に、骨、卵殻質改善、牛乳のカルシウム強化、鰻の骨曲がり防止などの目的で補給されているが、カルシウムの利用率が悪いことが大きな問題となっている。また、真珠等の養殖においてもカルシウムの十分な補給が商品の品質を左右することが知られている。植物にとってもカルシウムは重要な要素であり、EDTA−カルシウムなどのキレートカルシウムの投与によって、細胞壁の強化あるいはエチレンガスの発生抑制等の作用による老化抑制効果および日持ち性の向上が知られている(非特許文献5)。
【0008】
カルシウムが腸管内において不溶化しないようにすことにより、腸管から効率よく吸収させることを目的として、カルシウムと化合物を形成する能力のある物質が開発され利用されている。例えば、カゼインホスホペプチド(CPP)を飲料または、食品に添加する技術(特許文献2特許文献3)、クエン酸カルシウム・リンゴ酸カルシウム複合体のカルシウム可溶化効果(特許文献4)ペクチン酸カルシウムの骨強度増強作用(特許文献5)等が知られている。これらの化合物は、一部食品にもすでに利用されている。しかし、用途によっては使用に制限があり、必ずしも満足のゆくものではない。例えば、カゼインホスホペプチドは比較的よく食品に利用されているが、乳タンパク質の酵素処理によって製造されているために大変高価であるとともに、精製度の低いものは苦みを呈しており利用が制限される問題がある。また、クエン酸カルシウム・リンゴ酸カルシウム複合体についても酸味を呈しており利用には制限が生じている。
【0009】
このような背景から、釜阪らは馬鈴薯澱粉よりリン酸化糖を調製し、食品への利用を行っている(特許文献1)。このリン酸化糖は、安価であり、無味無臭であるためにその利用範囲の広さが期待されている。また、虫歯予防効果、難消化性糖としての作用も期待されており用途の広さも注目されている。
【0010】
しかし、この画期的な素材も、3位あるいは6位リン酸化糖が混在しており、3位リン酸化糖あるいは6位リン酸化糖のみをとりだすことはできなかった。3位リン酸化糖および6位リン酸化糖はその結合安定性等の相違から、違う挙動を示すことが予想されるためそれらを分離することが望まれている。これは3位結合リン酸と6位結合リン酸の性質の差を研究するための基質を得て研究を発展させるうえでも望まれる。また、それぞれの結合型リン含量の簡便な定量方法も、開発利用に当たって望まれている。
【0011】
一方、リン酸エステルの脱リン酸化を行うホスファターゼに関する研究自体は古くから行われている。例えば、Shimadaらの報告(非特許文献6)やZylaらの報告(非特許文献7)やZylaの報告(非特許文献8)にアスペルギルス ニガー由来の酸性ホスファターゼ(E.C.3.1.3.2)に関する内容が記載されている。また、例えばFaulkerの報告(非特許文献9)にはグルコース−1−リン酸に特異的なグルコース−1−ホスファターゼ(E.C.3.1.3.10)が報告されており、水島の報告(非特許文献10)にはグルコース−6−リン酸に作用するグルコース−6−ホスファターゼ(E.C.3.1.3.9)が報告されている。
【0012】
このように、単糖のリン酸化物のリン酸基の結合位置によって作用の異なるホスファターゼについては報告がされている。しかし、単糖以外のリン酸化糖におけるリン酸基の結合位置の違いを認識するホスファターゼについては過去全く報告はない。さらに単糖、少糖、多糖を問わず、3位結合リン酸と6位結合リン酸の結合のうちの一方のみを選択的に脱リン酸化するホスファターゼは知られていない。また、いくつかの市販されているホスファターゼ(小麦胚、牛乳、牛前立腺および大腸菌由来)においてもリン酸化糖におけるリン酸基の結合位置の違いを認識して選択的に脱リン酸化するものは見いだされていない。
【0013】
ところで、馬鈴薯澱粉中のエステル結合リン酸基の約60〜70%はグルコース残基の6位に、30〜40%は3位に、それぞれ結合しているといわれている(非特許文献11)。だが3位のみあるいは6位のみのリン酸化されたリン酸化糖を分取したという報告はこれまでなされていない。
【0014】
現在にいたるまで、このようなリン酸化少糖あるいはリン酸化多糖の中から3位あるいは6位リン酸化糖のみを分画する方法は報告されていない。ただし、リン酸化少糖については本発明者が、リン酸化少糖溶液を適当な液体クロマトグラフィー、例えばHigh−performance anion exchange chromatography(HPAEC、ダイオネックス DX−300、CarboPac PA−100カラム、ダイオネックス社製)やHPLC(ダイソーパックSP−120−5−ODS−BPカラム)などを用いてごく少量ずつ多大な時間と労力をかけて分画する方法をこのたび開発した。しかし、この方法では、大量調製は現実的には極めて困難である。
【0015】
グルコース残基の1位リン酸結合と6位リン酸結合の性質については多少たりとも研究されているが、3位リン酸結合の性質については研究が進んでいない。これはひとえに、単糖のリン酸化物のグルコース−1−リン酸およびグルコース−6−リン酸は試薬としても発売されているが、3位にリン酸が結合した糖は単糖、少糖を問わずその標品を得ることができなかったためと考えられる。その意味でも、3位のみリン酸化された糖の標品が効率よく得られることが待たれていた。また、6位リン酸結合の糖質として、グルコース−6−リン酸について、従来より研究がなされてきたが、6位のみリン酸化されたリン酸化少糖類、リン酸化多糖類についての報告はない。
【0016】
さらには前述の通り、3位あるいは6位結合型糖質の分離は困難であり、それぞれの分別定量分析法も望まれていた。
【0017】
また、虫歯と俗称される齲蝕は歯周病とともにヒトが歯を失う二大原因の一つであり、その発症に様々な因子が複雑に関わりあう多因子制の疾患である。しかし、完全なる予防方法が未だに存在しない疾患の一つでもある(非特許文献12)。また、虫歯になり難い糖類も多く開発されてきており、食品に応用されている。例えば、糖アルコール、カップリングシュガー、パラチノース等である(非特許文献13)。これらは、虫歯の原因菌に資化されず酸を生成しないことを特徴としている。しかし実際の甘味食品では味質のよさで砂糖などに及ばないため単独で使われることは少なく、結局砂糖やグルコースと併用されるため、酸が生成し、齲蝕を回避できなかった。
【特許文献1】特開平8−104696号公報
【特許文献2】特開平3−240470号公報
【特許文献3】特開平5−284939号公報
【特許文献4】特開昭56−97248号公報
【特許文献5】特開平6−7116号公報
【非特許文献1】矢木敏博ら、澱粉科学、20巻、51頁、1973年
【非特許文献2】Takeda & Hizukuri、Carbohydrate Research、102巻 321−327頁、1982年
【非特許文献3】江澤郁子、日本栄養食糧学会誌、49巻、247〜257頁、1996年
【非特許文献4】R.D.Baynes、Annu. Rev. Nutr.、10巻、133−138頁、1990年
【非特許文献5】田中ら、J.Japan.Soc.Hort.Sci.、61巻、183−190頁、1992年
【非特許文献6】Shimadaら、Biochimica et Biophysica Acta, 480巻 417−427頁、1977年
【非特許文献7】Zylaら、J.Sci.Food Agric.49巻 315頁、1989年
【非特許文献8】Zyla、World Journal of Microbiology and Biochemistry,9巻 117−119頁、1993年
【非特許文献9】Faulker、Biochem. J. 60巻 590−596頁、1995年
【非特許文献10】水島、蛋白 核酸 酵素 22巻 1524−1529頁、1977年
【非特許文献11】Hizukuriら、Starch、22巻 338−343頁、1970年
【非特許文献12】西沢俊樹、FoodStyle21、1巻、50−55頁、1997年
【非特許文献13】岡田茂孝、歯界展望、90巻、889−891頁、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、リン酸化糖のリン酸基の結合位置を認識してグルコース残基の6位に結合したリン酸基を脱リン酸化し、3位に結合したリン酸基に作用しない新規なホスファターゼを提供し、さらにリン酸化糖から本酵素を用いることによって効率よく容易に3位リン酸化糖を得る方法を提供すること、またリン酸化糖に希酸溶液を用いた加熱処理を行って効率よく容易に6位リン酸化糖を得る方法を提供することを目的とする。
【0019】
なお、本特許にいうリン酸化少糖とは、各種澱粉に対して澱粉分解酵素である液化型α−アミラーゼ(E.C.3.2.1.1)、グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3)、プルラナーゼ(E.C.3.2.1.41)等のアミラーゼを1種、あるいは2種以上作用させたのちに得られるα−14−グルカンのうち、α−14結合した2〜10個のグルコースからなり、さらに該グルカンの1つ以上のグルコース残基の6位または3位にリン酸基が少なくとも1個エステル結合している少糖のことをいう。これらのアミラーゼをさらに高濃度、長時間作用させ、分取すれば、最終的に2から5個のグルコースがα−14結合し、ひとつ以上のリン酸基が結合した少糖を得ることができる。
【0020】
また、先のリン酸化糖に糖転移酵素であるシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.19)を作用させることで、7から12個のグルコースがα−14結合し、二つ以上のリン酸基が結合した少糖および多糖を得ることができる。
【0021】
本特許にいうリン酸化多糖とは、各種澱粉およびその分解物をはじめとした、11個以上のグルコースがα−14結合あるいはα−16結合した多糖類で1個以上のリン酸基がグルコース残基の3位または6位にエステル結合したものをいう。
【0022】
そして、熱に不安定な3位リン酸化糖を除き、6位リン酸化糖単品を提供することで、食品、飲料、飼料製造工程中あるいは薬品、化粧品、口腔用組成物等の製造工程中における結合リンの安定性を向上させ、遊離無機リン酸の含量を低減させた製品の提供を目的とする。また、その逆に、糖質とリン酸の結合様式の研究用試薬などの用途に使用可能な3位リン酸化糖のみの提供も目的とする。さらに、3位あるいは6位のみのリン酸化糖の製造技術を用いて、それぞれの含量を簡便に定量分析することも目的とする。ことに、通常緩衝液としてもっともよく用いられるリン酸緩衝液中ではリン酸イオンが存在することにより、リン酸化糖からリン酸基を遊離させ生成した無機リン酸を定量するという手法はとれないが、本願においてはこの課題を克服し、リン酸化糖中のリン酸含量を測定することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
リン酸結合部位が3位と6位のものが混在しているリン酸化少糖またはリン酸化多糖に、リン酸化糖のリン酸基の結合位置を認識してグルコース残基の6位に結合したリン酸基のみ脱リン酸化する新規なホスファターゼを作用させる。あるいは、上記リン酸化少糖またはリン酸化多糖を希酸、好ましくは酢酸溶液中で加熱処理する。前者の処理によって、リン酸化少糖またはリン酸化多糖の6位に結合したリン酸基のみ切断される。後者の処理によっては3位に結合したリン酸基のみ切断される。これにより得られた3位、あるいは6位リン酸化糖を精製する手段は、デキストリンの分子量により膜透析、あるいは各種のイオン交換クロマトグラフィー(たとえば富士紡績株式会社製のキトパールによる陰イオン交換クロマトグラフィー)、電気透析装置(たとえば旭化成製のマイクロアシライザー)等を用いれば比較的容易であり、大量生産も可能である。
【0024】
3位リン酸化糖製造に使用する菌株はアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)が好適である。
【0025】
例えば、本発明は以下を提供する:
(項目1)α−1,4結合のみで構成され、重合度が2から10、望ましくは3から5で1個以上のグルコース残基の3位にリン酸基が結合しているリン酸化糖。
(項目2)リン酸基が非還元末端側から2個目のグルコース残基の3位に結合した、重合度が3ないし5である項目1のリン酸化糖。
(項目3)構成糖がグルコースでα−1,4結合およびα−1,6結合のみで構成され、重合度が2以上の少糖あるいは多糖で1個以上のグルコース残基の6位にリン酸基が結合しているリン酸化糖。
(項目4)重合度が2から10、望ましくは2から5である項目3のリン酸化糖。
(項目5)項目1から4に記載のいずれかのリン酸化糖の還元末端が還元され糖アルコールとなっていることを特徴とするリン酸化糖アルコール。
(項目6)項目1から4に記載のいずれかのリン酸化糖とタンパク質あるいはペプチドとが結合していることを特徴とする、リン酸化糖誘導体。
(項目7)項目1から4に記載のいずれかのリン酸化糖または項目5に記載のリン酸化糖アルコールあるいは項目6に記載のリン酸化糖誘導体がアルカリ土類金属または鉄と結合していることを特徴とする、リン酸化糖誘導体。
(項目8)構成糖がグルコースでα−1,4結合のみで構成され、重合度が2から10の糖でグルコース残基の6位と3位にリン酸基を有するリン酸化糖に対し、6位の結合リン酸基に選択的に作用するホスファターゼ。
(項目9)アスペルギルス ニガーあるいはその培養物から得られる、項目8に記載のホスファターゼ。
(項目10)アスペルギルス ニガーKU−8株(生工研寄託P−16248)あるいはその培養物から得られる、項目8記載のホスファターゼKU−8。
(項目11)ホスファターゼを用いることを特徴とする項目1または2のいずれかのリン酸化糖の製造法。
(項目12)構成糖がグルコースでα−1,4結合のみで構成され、重合度が2以上の少糖に項目8記載のホスファターゼのみ、あるいは糖化型α−アミラーゼあるいはネオプルラナーゼ、グルコアミラーゼを組み合わせて作用させることによって得られることを特徴とする、項目1、2のいずれかに記載のリン酸化糖の製造法。
(項目13)0.7規定以下の酢酸あるいは0.5M濃度以下の乳酸あるいはクエン酸を作用させ加熱することによって得られることを特徴とする、項目3あるいは4のいずれかに記載のリン酸化糖の製造法。
(項目14)0.7規定以下の酢酸あるいは0.5M濃度以下の乳酸あるいはクエン酸を作用させ、加熱すること、あるいはこれに糖化型α−アミラーゼあるいはネオプルラナーゼまたはグルコアミラーゼを組み合わせて作用させることを特徴とする、項目4に記載のリン酸化糖の製造法。
(項目15)項目11から14に記載のいずれかのリン酸化糖の製造法に還元末端の還元工程を併用することを特徴とするリン酸化糖アルコールの製造法。
(項目16)項目1から4のいずれかに記載のリン酸化糖に糖転移酵素を作用させることを特徴とする、リン酸化糖の製造法。
(項目17)前記糖転移酵素がシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼである、項目16に記載のリン酸化糖の製造法。
(項目18)項目1から4のいずれかに記載のリン酸化糖、または項目5に記載のリン酸化糖アルコール、あるいは項目6あるいは7に記載のリン酸化糖誘導体を含有することを特徴とする食品、飲料、味質改善剤、飼料、口腔衛生用組成物、洗浄用組成物、化粧品、整髪料、育毛剤および洗髪用組成物。
(項目19)項目11から14に記載のいずれかのリン酸化糖の製造法を単独で、あるいは2つ以上組み合せて用いることを特徴とする、リン酸化糖の結合リン酸含量の定量法。
(項目20)項目11から14に記載のいずれか1種、または2つ以上を組み合わせたリン酸化糖の製造法とアルカリホスファターゼ処理あるいは灰化分析法をそれぞれ組み合わせることを特徴とする、リン酸化糖の結合リン酸含量の定量法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
1.3位リン酸化糖製造に用いる酵素の製造
Aspergillus niger KU−8を培地に培養する。培地の栄養源は、本菌株が良好に生育して目的の酵素を順調に生産するならば特に限定するものではない。炭素源としてはグルコース、シュークロース、マルトース、コーンスターチ、デキストリンなどを挙げることができ、また、窒素源としてはポリペプトン、カゼイン、酵母エキスなどを挙げることができる。また、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンなどの無機塩類や各種ビタミン類を使用することが出来る。
【0027】
培養は振とう培養もしくは通気撹袢培養などの好気条件下で、培地をpH3〜8の範囲、好ましくはpH4〜7の範囲に調整し、培養温度は10℃〜50℃、好ましくは20℃〜40℃程度で1〜10日間、好ましくは2〜7日間程度培養する。培養後、本酵素は培養物から採取される。
【0028】
このようにして得られた培養物から菌体を回収し、破砕後、水や緩衝液などを用いて抽出を行い、固形分を除去して培養抽出液を得る。このようにして得られた培養抽出液からホスファターゼを精製し、本発明のホスファターゼを得る。培養抽出液からホスファターゼを精製するためには、例えば硫安塩析処理、フェニルセファロースカラム(ファルマシア社製)による疎水クロマトグラフィー処理、Q−セファロースあるいはソース−Qカラム(ともにファルマシア社製)によるイオン交換クロマトグラフィー処理、スーパーデックス G−200カラム(ファルマシア社製)によるゲルろ過クロマトグラフィー処理、TSKゲル スーパーQ−5PWカラム(東ソー社製)によるイオン交換クロマトグラフィー処理などのいずれかを必要に応じて組み合わせた処理を行い、必要に応じて凍結乾燥処理を行い、高純度に精製したホスファターゼを得る。
【0029】
2.ホスファターゼKU−8の作用
種々のリン酸エステルやピロリン酸およびポリリン酸を加水分解することにより脱リン酸化する。3位リン酸化糖と6位リン酸化糖が混在していれば6位リン酸化糖の6位結合リン酸基を特異的に脱リン酸化する。リン酸化少糖のみならず、グルコースの結合が一部α−16結合であるリン酸化多糖に対しても、6位結合リン酸基を特異的に脱リン酸化する性質を有すると見られる。
【0030】
3.ホスファターゼKU−8の酵素化学的諸性質
(1)作用至適pH
本酵素の作用至適pHは図1に示すようにpH1.5〜3.0である。
(2)pH安定性
本酵素を各pHで37℃、1時間処理したのちにおいても図2に示すようにpH2〜10の範囲で安定であった。
(3)作用至適温度
本酵素の作用至適温度は図3に示すように60℃である。
(4)温度安定性
図4に示す各温度での30分間処理後の残存活性より50℃まで安定であるといえる。
(5)分子量
モノマーとして約66,000ダルトンである(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)。ゲルろ過法による分子量は約260,000ダルトンのテトラマーである。
(6)酵素活性測定法
【0031】
ホスファターゼ活性は次のようにして測定される。
【0032】
それぞれ37℃に保った酵素液125μl、200mMのグリシン−塩酸緩衝溶液(pH2.0)250μlおよび20mMのグルコース−6−リン酸溶液(200mMのグリシン−塩酸緩衝溶液でpH2.0に調整する)125μlを混合し、37℃で15分間反応させる。この反応液に10規定の過塩素酸50μl、10規定の過塩素酸を4%含有する20mMのバナジン酸アンモニウム溶液150μl、3.53%のモリブデン酸アンモニウム溶液300μlを添加して撹拌し室温で30分間放置する。この溶液の420nmにおける吸光度を測定し、活性を求めた。標準物質としてリン酸一カリウムを用いた。
【0033】
ホスファターゼ活性の1単位は上記条件下で1分間に1μmolのリンを遊離させる酵素量とする。
【0034】
4.3位リン酸化糖の製造方法(1)
膨潤させた馬鈴薯澱粉にα−アミラーゼ(E.C.3.2.1.1)、グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3)、プルラナーゼ(E.C.3.2.1.41)を十分に作用させた後、生じた中性糖を除去して調整したリン酸化糖溶液(以下、馬鈴薯リン酸化糖溶液と称す)に、本酵素を適当量添加して37℃で十分に反応させる。この反応によってリン酸化糖の6位結合リン酸基は脱リン酸化される。デキストリンの分子量により膜透析、あるいは電気透析で3位リン酸化糖を精製することができる。なお、これら3位リン酸化糖を製造するために用いる本酵素は必ずしも単一に精製したものである必要はなく、培養抽出液を粗酵素液として用いることも可能である。
【0035】
5.3位リン酸化糖の製造方法(2)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、本酵素を適当量添加して37℃で十分に反応させる。この反応によってリン酸化糖の6位結合リン酸基は脱リン酸化される。マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースといった中性オリゴ糖のほかに非還元末端より2個めのグルコース残基の3位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトテトラオース、リン酸化マルトペンタオースといった3位リン酸化糖が生成する。この生成した中性オリゴ糖と3位リン酸化糖を、各種のイオン交換クロマトグラフィー、例えばキトパール(富士紡績株式会社製)などの陰イオン交換樹脂を用いて、あるいは電気透析により分画することにより、上記3位リン酸化糖を製造することができる。なお、これら3位リン酸化糖を製造するために用いる本酵素は必ずしも単一に精製したものである必要はなく、培養抽出液を粗酵素液として用いることも可能である。
【0036】
6.3位リン酸化糖の製造方法(3)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、本酵素および糖化型α−アミラーゼ(E.C.3.2.1.1)を適当量添加して37℃で十分に反応させる。この反応によって、グルコースとマルトースを主体とする中性糖と、マルトトリオースの中央のグルコース残基の3位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトトリオースとが生成される。この生成した中性糖とリン酸化マルトトリオースを、各種のイオン交換クロマトグラフィー、あるいは電気透析を用いて分画することにより中央のグルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースを製造することができる。なお本酵素と糖化型α−アミラーゼを作用させる順序は問わない。また、上記のリン酸化マルトテトラオースを製造するために用いる本酵素は必ずしも単一に精製したものである必要はなく、培養抽出液を粗酵素液として用いることも可能である。
【0037】
7.3位リン酸化糖の製造方法(4)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、本酵素とネオプルラナーゼ(E.C.3.2.1.135)を適当量添加して37℃で十分に反応させる。この反応によって、グルコースとマルトースを主体とする中性糖と、マルトテトラオースの非還元末端側から2個目のグルコース残基の3位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトテトラオースとが生成する。この生成した中性糖とリン酸化マルトテトラオースを、各種のイオン交換クロマトグラフィー、あるいは電気透析を用いて分画することにより上記のリン酸化マルトテトラオースを製造することができる。なお本酵素とネオプルラナーゼを作用させる順序は問わない。また、リン酸化マルトテトラオースを製造するために用いる本酵素は必ずしも単一に精製したものである必要はなく、培養抽出液を粗酵素液として用いることも可能である。
【0038】
8.6位リン酸化糖の製造方法(1)
市販デキストリン溶液に、弱酸の溶液、望ましくは希酢酸を添加して加熱処理する。希酸の種類は酢酸には限らず、乳酸、クエン酸も好適に用いられる。ただ酸の作用が強すぎるとグルコース同士の結合も切断されてしまうので、リン酸化糖の3位結合リン酸、6位結合リン酸、グルコースのα−14結合およびα−16結合のうち、3位結合リン酸のみを切断するような弱酸の種類と濃度と反応温度と反応時間を設定するべきである。例えば0.05−0.7規定の酢酸で30分以上煮沸もしくは80−100℃で加熱することによって6位リン酸化多糖を製造することができる。乳酸、クエン酸を用いる時も、0.05Mから0.5M程度の濃度で同じく加熱処理することで、6位リン酸化多糖を製造することができる。デキストリンの分子量により膜透析、あるいは電気透析で6位リン酸化糖を精製することができる。
【0039】
9.6位リン酸化糖の製造方法(2)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、弱酸の溶液、好ましくは希酢酸を添加して加熱処理する。希酸の種類は酢酸には限らず、乳酸、クエン酸も好適に用いられる。ただ酸の作用が強すぎるとグルコース同士の結合も切断されてしまうので、リン酸化糖の3位結合リン酸、6位結合リン酸、グルコースのα−14結合およびα−16結合のうち、3位結合リン酸のみを切断するような弱酸の種類と濃度と反応温度と反応時間を設定するべきである。例えば0.1−0.7規定の酢酸で30分以上煮沸もしくは80−100℃で加熱することによってリン酸化糖の3位結合リン酸基は脱リン酸化される。乳酸、クエン酸を用いる時も、0.05Mから0.5M程度の濃度で同じく加熱処理することで、6位リン酸化糖を製造することができる。マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースといった中性オリゴ糖のほかにグルコース残基の6位にリン酸基が結合したリン酸化マルトトリオース、リン酸化マルトテトラオース、リン酸化マルトペンタオースといった6位リン酸化糖が生成する。この生成した中性オリゴ糖と6位リン酸化糖を、各種のイオン交換クロマトグラフィー、例えばキトパール(富士紡績株式会社製)などの陰イオン交換樹脂を用いて、あるいは電気透析により分画することにより、上記6位リン酸化糖を製造することができる。またグルコアミラーゼを併用することで、中性糖は全てグルコースに変化し、エタノール沈殿法や活性炭カラム等の簡便な方法でも6位リン酸化糖のみを容易に得ることができる。
【0040】
10.6位リン酸化糖の製造方法(3)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、希酸加熱処理を行う前後に糖化型α−アミラーゼ、あるいはネオプルラナーゼを適当量添加して37℃で反応させる。この反応によって、グルコースを主体とする中性糖のほかに前者では、マルトトリオースまたはマルトテトラオースのひとつのグルコース残基の6位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトテトラオースが、後者ではリン酸化マルトトリオースのみが生成する。この生成した中性糖とリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトテトラオースを、各種のイオン交換クロマトグラフィー、あるいは電気透析を用いて分画することによりグルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトテトラオースを製造することができる。なお酸加熱処理と糖化型α−アミラーゼ処理あるいはネオプルラナーゼ処理の順序は問わない。しかし、糖化型α−アミラーゼあるいはネオプルラナーゼを作用させる際には、pH等を本酵素の好適な条件に設定することが望ましい。
【0041】
11.6位リン酸化糖の製造方法(4)
馬鈴薯リン酸化糖溶液に、希酸加熱処理を行う前後に糖化型α−アミラーゼとグルコアミラーゼ、あるいはネオプルラナーゼとグルコアミラーゼを適当量添加して37℃で十分に反応させる。この反応によって、グルコースとマルトースを主体とする中性糖のほかに、前者ではマルトトリオースあるいはマルトースのひとつのグルコース残基の6位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトースが生成する。後者ではリン酸化マルトースのみが生成する。この生成した中性糖とリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトースを、各種のイオン交換クロマトグラフィー、あるいは電気透析を用いて分画することによりグルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースおよびリン酸化マルトースを製造することができる。なお酸加熱処理と糖化型α−アミラーゼとグルコアミラーゼ、あるいはネオプルラナーゼとグルコアミラーゼを作用させる順序は問わない。しかし、糖化型α−アミラーゼとグルコアミラーゼ、あるいはネオプルラナーゼとグルコアミラーゼを作用させる際には、本酵素の好適な条件に設定することが望ましい。
【0042】
以上のようにリン酸化糖は馬鈴薯澱粉より調製できるが、特に原料澱粉を限定するものではない。馬鈴薯澱粉以外にも、キャッサバ澱粉、米澱粉、食用カンナ澱粉等の植物由来の結合リン含有澱粉が好適に用いられるし、化学的にリン酸化した澱粉も好適に用いることが可能である。
【0043】
本発明のリン酸化糖からは、リン酸化糖の誘導体のひとつである、タンパク質あるいはペプチドとの複合体を製造することができる。糖質のタンパク質とのメイラード反応を利用した複合体の作成は古くから行われてきた。このメイラード反応は、通常の食品調理中にも起こる反応であり、反応産物は生体への安全性がきわめて高い。その反応は、糖質の還元末端がタンパク質のアミノ基に脱水縮合することによって起こる。多糖の場合はタンパク質1分子に糖1から2分子が結合し、単糖の場合はほとんどのタンパク質のアミノ基に糖が結合することが可能である(加藤ら、Microemulsions and emulsions in Food、American Chemical Society編集、16章、213−229頁、1991年)。また、その機能として、タンパク質の熱安定性およびpH安定性の向上、乳化特性の付与、あるいは水に不溶性のタンパク質の可溶化などが報告されている(加藤ら、J. Agric.Food Chem.、39巻、1053−1056頁、1991年)。最近、グルコース−6−リン酸をタンパク質に結合させること(青木ら、Biosci.Biotech.Biochem.、58巻、1727−1728頁、1994年)により、あるいは馬鈴薯澱粉由来リン酸化オリゴ糖を結合させることによりカルシウム可溶化効果が得られること(特開平8−104696)も判った。しかし、単糖は反応性が高く、タンパク質の変性も起こりやすい欠陥があり、リン酸化オリゴ糖も3位と6位リン酸化糖の混合物であり、各純品での報告は全く行われていない。オリゴ糖の場合反応が緩やかに進み、単糖に比べタンパク質への副反応が少なく、タンパク質に有機リガンドを結合させ得る方法として優れた方法である。用いるタンパク質としては特に問わないが、安価に入手でき、食品として安全なものが望ましい。このようなタンパク質としては、例えば、卵白アルブミン、小麦タンパク質、大豆タンパク質などが挙げられる。それらを加水分解したペプチドもまた好適に用いられる。
【0044】
また、一般に糖アルコールは、原料糖をニッケルの触媒下、高温、高圧で水素添加する方法によって製造されている。実験室レベルでは、室温で1時間程度、水素化ホウ素ナトリウムと共存させることで、簡単に作成しうる。本発明のリン酸化糖も同様の常識的な処理によってリン酸化糖アルコールに変化させ得る。この反応によってリン酸エステル結合がはずれることはない。また、本発明のリン酸化糖の製造法と組み合わせることで、3位あるいは6位リン酸化糖アルコールを作成しうる。こうして得たリン酸化糖アルコールは、アミノカルボニル反応を起こさず、つまり、食品における褐変を引き起こし難いと考えられる。
【0045】
本発明のリン酸化糖により、肥料、飼料、医薬品、または食品の摂取におけるカルシウムの吸収を促進し得る。またリン酸化糖がカルシウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属や鉄、亜鉛などの微量金属元素とも化合物または錯体を形成し、それらの生体への吸収を促進することが可能となる。従って、これらのミネラル不足に起因する骨粗鬆症循環器疾患(糸川嘉則・吉田政彦偏、Mgと循環器疾患、メディカルトリビューン、1986年)などの各種疾患の予防も期待できる。さらに今日、ダイエットや偏食の問題が大きく、嗜好食品においてもカルシウムと同様に鉄およびマグネシウムの有効な生体への吸収を考慮した製品が期待される。本発明のリン酸化糖またはその誘導体は、安全であり、難消化性であり、低カロリーである。このリン酸化糖にはまた、多くのオリゴ糖に報告されているような保湿作用、ビフィズス菌増殖作用、整腸作用、脂質改善作用、血圧低下作用、および免疫賦活作用等も期待できる(日高ら、日本農芸化学雑誌、61巻、915−923頁、1987年)(酒井重男、月刊フードケミカル、4巻、81−88頁、1995年)。さらに、鉄との錯体を形成し、この錯体には抗酸化作用も期待できる。この金属キレート作用による活性酸素の生成抑制効果は、生体においては、発ガンや老化といったものを抑制する効果があることも知られている(E.Grafら、Cancer、56巻、717−718頁、1985年)(寺尾純二、栄養と健康のサイエンス、4巻、21−25頁、1996年)。また、従来、これらの目的で既に食品に用いられている糖質、フラボン類(ファイトケミカルズ分科会調査報告書、フード・フォーラム・つくば・ファイトケミカルズ分科会編、1998年)、ポリフェノール類(近藤、Lancet、344巻、1152頁、1994年)等との併用においても相乗効果が期待できる。
【0046】
さらに、本発明のリン酸化糖は齲蝕の原因であるミュータンス菌(岡橋ら、微生物、4巻、209−217頁、1988)の栄養源にならず、酸や非水溶性のグルカンを生成しない糖質である。従って、歯垢が生じず、歯の脱灰も生じない。むしろ、カルシウムとの親和性の高さを考慮に入れると歯の再石灰化も期待される(松久保ら、口腔衛生学会雑誌、46巻、442−443頁、1996年)。その上に、本リン酸化糖は緩衝作用を有し、pHの低下を防ぐ効果がある。したがって、例え、砂糖やグルコースが共存しており、ミュータンス菌等の虫歯菌による酸発酵が生じてもpHの低下を防ぎ虫歯の発生を抑制する効果がある。この効果は、齲蝕になり難い糖質との併用や、齲蝕予防効果のあるフッ素(菅原ら、口腔衛生学会雑誌、46巻、632−633頁、1996年)等との併用により相乗作用によって、さらに虫歯に有効であることが期待できる。このことにより、リン酸化糖はほとんどすべての飲食用組成物または食品添加物用組成物に使用することが可能である。この飲食用組成物とは、ヒトの食品、動物あるいは養魚貝用の飼料、ペットフードを総称する。すなわち、コーヒー、コーラ、紅茶、日本茶、烏龍茶、ジュース、加工乳、スポーツドリンク、栄養ドリンク、スープなどの液体および粉末の飲料類、パン、クッキー、クラッカー、ビスケット、ケーキ、ピザ、パイなどのベーカリー類、スパゲティー、マカロニなどのパスタ類、うどん、そば、ラーメンなどの麺類、ソース、醤油、ケチャップ、たれ、だしの素、シチューの素、カレーの素、麺類のつゆ、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料類、ガム、キャラメル、キャンデー、チョコレート等の菓子類、おかき、ポテトチップス、スナック等のスナック菓子類、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓、クリーム、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料等の乳製品、ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルト等の洋菓子類、饅頭、ういろう、もち、おはぎ、団子等の和菓子類、カレー、シチュー、ハヤシ、スープ、どんぶり等のレトルト食品もしくは缶詰め食品、ハム、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎり、等の冷凍食品および冷蔵食品、ちくわ、かまぼこ等の水産加工食品、弁当のご飯、寿司などの米飯類にも効果的に利用できる。さらに、乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、スポーツ飲料、整腸剤、風邪薬、栄養補給食品や飲料等の医薬品、練り歯磨き、マウスウオッシュ、トローチ等の口腔用組成物にも好適に添加され得る。また、pH調整作用や金属を吸着する作用等は、先の用途以外に、シャンプー、リンス等の洗髪用組成物や整髪用組成物等の化粧品にも好適に利用することができる。
【0047】
本発明のリン酸化糖は、カルシウム、鉄、マグネシウム等が含まれる飲み薬、入浴剤などの薬剤にも使用されうる。
【0048】
また、本発明実施に用いる酸性ホスファターゼを用いることで、6位結合リンのみを遊離することから、6位結合リン酸含量を無機リン酸の定量方法あるいは中性糖をグルコアミラーゼを用いてグルコースにまで分解してグルコースの定量分析を行うことによって、例え3位結合リンが存在しても簡便に定量分析できる。無機リン酸あるいはグルコースの定量分析法は、特に限定するものではないが、前者はバナド−モリブデン酸法(板谷、Clin.Chem.Acta、14、361−366頁、1966年)等が好適に用いられるし、後者はグルコースオキシダーゼ法(生物化学実験法1、学会出版センター、143−150頁、1990年)等が好適に用いられる。同様に、本発明のリン酸化糖の酸処理を行えば、3位結合リンのみを遊離することから、3位結合含量を無機リン酸の定量方法を用いて、あるいは中性糖をグルコアミラーゼを用いてグルコースにまで分解してグルコースの定量分析を行うことによって、例え6位結合リンが存在しても簡便に定量分析できる。また、このように遊離する無機リン量をグルコース量として定量することによって、試料溶液中にあらかじめリン酸塩が存在していたとしても容易に遊離する無機リン量を定量しうる。もちろん、リンを遊離せずに残存するリン酸化糖を液体クロマトグラフィーを用いても分析できる。
【0049】
具体的には、馬鈴薯リン酸化糖溶液に、さらに、糖化型α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ネオプルラナーゼを十分に作用させることで、マルトトリオースの中央のグルコース残基の3位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトトリオースとマルトースの非還元末端のグルコース残基の6位にリン酸基が1個結合したリン酸化マルトースの2種を含む溶液が得られる。この溶液を試料溶液Aとする。試料溶液Aに本発明の酸性ホスファターゼを適当量添加して37℃で十分に反応させて得た溶液(試料溶液Bと称す)の遊離リン酸含量を定量することでグルコース残基の6位結合リン酸含量が測定できる。あるいは、試料溶液Bにグルコアミラーゼを十分に作用させると、脱リン酸化されたマルトースにはグルコアミラーゼは作用し得るためにグルコースが生じる。この生じたグルコース含量を定量すること(遊離リン含量は、生じたグルコース含量の1/2量)で、例え溶液中にリン酸塩が存在しても生成した遊離リン酸含量を測定できる。
【0050】
また、試料溶液Aに、終濃度0.35Nになるように酢酸を添加し、100℃で8時間処理した溶液(試料溶液Cと称す)の遊離リン酸含量を定量することでグルコース残基の3位結合リン酸含量が測定できる。あるいは、試料溶液Cにグルコアミラーゼを十分に作用させると、脱リン酸化されたマルトトライオースにはグルコアミラーゼは作用し得るためにグルコースが生じる。この生じたグルコース含量を定量すること(遊離リン含量は、生じたグルコース含量の1/3量)で、例え溶液中にリン酸塩が存在しても生成した遊離リン酸含量を測定できる。以上の操作によって、馬鈴薯澱粉中の3位および6位の結合リン酸含量の両方が測定し得る。さらに、試料溶液Aを湿式あるいは乾式灰化すれば、全結合リン酸が遊離してくる。これによって、3位あるいは6位リン酸含量の一方を定量しておくだけでもう一方の含量は算出し得る。あるいは、試料溶液Aをアルカリホスファターゼ(Escherichia coli由来)を十分に作用させることでも全結合リン酸含量が定量し得る。
【0051】
これらの定量分析法を適宜組み合わせることによって、各種起源の澱粉中の3位あるいは6位リン酸化糖の存在比率も簡単に算出できるようになった。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
0.1%ポリリン酸、0.5%グルコース、0.1%イーストエキス、0.5%ポリペプトン、0.1%塩化ナトリウム、0.1%塩化カリウム、0.02%硫酸マグネシウム、0.002%硫酸第一鉄を含有する培地(pH6.5に調製する)500mlを、2000ml容の坂口フラスコにいれ、KU−8菌株を接種し、37℃で4日間振とう培養した。菌体をろ紙(アドバンテック NO.2)ろ過によって回収・集菌し、10mM酢酸緩衝液(pH4.5に調製、以下本実施例においてA緩衝液と称する)を約10倍容加えて懸濁し、超音波による破砕を行って破砕液を遠心分離(8,000rpm、30分間)にかけて培養抽出液を得た。この抽出液に対して80%飽和になるように硫酸アンモニウム(硫安)を添加し、一晩冷蔵放置した。これを遠心分離(18,000rpm、30分間)にかけて得られた上清を、80%飽和硫安を含む10mM酢酸緩衝液(pH4.5に調製、以下本実施例においてB緩衝液と称する)で平衡化したフェニルセファロースカラム(26×100mm、ファルマシア社製)による疎水クロマトグラフィーにかけて酵素を吸着させた。ついで100%B緩衝液、50%B緩衝液、0%B緩衝液(=100%A緩衝液)の順でステップワイズ溶出を行った。本酵素活性を示す画分(0%B緩衝液のところに相当する)を回収し、A緩衝液を用いて一晩透析した。得られた透析内液を、A緩衝液で平衡化したQ−セファロースあるいはソース−Qカラム(ともに10×80mm、ファルマシア社製)によるイオン交換クロマトグラフィーにかけて酵素を吸着させた。ついでA緩衝液中の塩化ナトリウム濃度を0〜300mMに直線的に増加させることによりグラジエント溶出を行った。本酵素活性を示す画分(塩化ナトリウム濃度が50〜200mMのところに相当する)をA緩衝液に対して一晩透析を行った。得られた透析内液を、A緩衝液で平衡化したTSKゲルスーパーQ−5PWカラム(8×75mm、東ソー社製)によるイオン交換クロマトグラフィーにかけて酵素を吸着させた。ついでA緩衝液中の塩化ナトリウム濃度を0〜300mMに直線的に増加させることによりグラジエント溶出を行い、本酵素の活性画分(塩化ナトリウム濃度が50〜200mMのところに相当する)を得た。この活性画分を、100mMの塩化ナトリウムを含むA緩衝液で平衡化したスーパーデックスG−200カラム(16×200mm、ファルマシア社製)によるゲルろ過クロマトグラフィーにかけて、本酵素の精製画分(180U/mg蛋白)を得た。この実施例によって精製したホスファターゼKU−8を「本酵素」と記載し、実施例2から4に用いる。この精製画分はポリアクリルアミドゲル電気泳動およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うと単一のバンドを示し、電気泳動的に単一の物質であることが示された。
【0053】
(実施例2)
1%馬鈴薯澱粉溶液に35Uのα−アミラーゼ(上田化学、Bacillus subtilis由来)を50℃で30分間作用させたのち、2Uのプルラナーゼ(林原生物化学研究所、Aerobacter aerogenes由来)と6Uのグルコアミラーゼ(東洋紡、Rhizopus sp.由来)を同時に40℃で20時間作用させた。なお以下の実施例において、各種アミラーゼ酵素の活性は1分間に1μmolのグルコシル結合を切断する活性を1Uと定義する。5分間煮沸することによって酵素反応を停止し、この溶液から陰イオン交換樹脂(キトパールBCW2501)により中性糖を除去した後、脱塩、凍結乾燥することにより重合度3〜5のリン酸化少糖の混合粉末物を得た。次いで、200mMグリシン−塩酸緩衝溶液(pH2.0)200μl、重合度3〜5のリン酸化糖混合物の3%溶液(200mMグリシン−塩酸緩衝溶液(pH2.0)で調製)200μlに、実施例1に記載の本酵素溶液200μlを添加して37℃で16時間反応させた。反応終了後、反応液をHPAECで分析した。その結果を図5に示す。HPAECによる分析は100mMの水酸化ナトリウムを基本溶液として1M酢酸ナトリウム濃度を上昇させることによって行われ得る。検出はパルスドアンペロメトリー(ダイオネックス社製)を用いて行われ得る。本酵素によりリン酸化糖の6位結合リン酸が脱リン酸される。脱リン酸により生じた反応液中のマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースといった中性糖をキトパールを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去したのち、脱塩、凍結乾燥することにより1個のグルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオースとリン酸化マルトペンタオースの混合粉末物を得た。
【0054】
(実施例3)
200mM酢酸緩衝液(pH4.5)200μl、実施例2に記載のリン酸化少糖の3%溶液(10mM酢酸緩衝液(pH4.5)で調製)200μlに、本酵素溶液100μlと30U/mlの糖化型α−アミラーゼ(ナガセ生化学、Bacillus subtilis由来)溶液100μlを添加して37℃で16時間反応させた。反応終了後、反応液を実施例1と同様にHPAECで分析した。その結果を図6に示す。本酵素によりリン酸化糖の6位結合リン酸が脱リン酸される。脱リン酸により生じた反応液中の中性糖をキトパールを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去したのち、脱塩、凍結乾燥することにより1個のグルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースの粉末物を得た。
【0055】
(実施例4)
200mM酢酸緩衝液(pH4.5)200μl、実施例2に記載のリン酸化少糖の3%溶液(10mM酢酸緩衝液(pH4.5)で調製)200μlに、本酵素溶液100μlと30U/mlのネオプルラナーゼ(Bacillus stearothermophilus由来、Kurikiら,J.Bacteriol.173,6147−6152(1991))溶液100μlを添加して37℃で16時間反応させた。反応終了後、反応液を実施例1と同様にHPAECで分析した。その結果を図7に示す。本酵素によりリン酸化糖の6位結合リン酸が脱リン酸される。脱リン酸により生じた反応液中の中性糖をキトパールを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去したのち、脱塩、凍結乾燥することにより1個のグルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオースの粉末物を得た。
【0056】
(実施例5)
0.35規定酢酸溶液に実施例2に記載のリン酸化少糖を添加して1%溶液1mlを作成し、100℃で8時間反応させる。反応終了後、反応液を実施例1と同様にHPAECで分析した。その結果を図8に示す。この反応によりリン酸化糖の3位結合リン酸が脱リン酸される。脱リン酸により生じた反応液中の中性糖をキトパールを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去したのち、脱塩、凍結乾燥することにより1個のグルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオース、リン酸化マルトテトラオースおよびリン酸化マルトペンタオースの混合粉末物を得た。
【0057】
(実施例6)
0.35規定酢酸溶液に実施例2に示したリン酸化少糖を添加して1%溶液1mlを作成し、100℃で8時間反応させる。反応終了後、1規定の水酸化ナトリウム溶液で中和し、糖化型α−アミラーゼ溶液およびグルコアミラーゼ溶液各10μlを添加して37℃で16時間反応させる。その後、反応液を実施例1と同様にHPAECで分析した。その結果を図9に示す。この反応によりリン酸化糖の3位結合リン酸が脱リン酸される。脱リン酸により生じた反応液中の中性糖をキトパールを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去したのち、脱塩、凍結乾燥することにより1個のグルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースとリン酸化マルトースの混合粉末物を得た。
【0058】
(実施例7)
5%のショ糖溶液を対照とし、これに0.5%のリン酸化糖を添加した試料溶液1)について甘味の変化を官能検査により調べた。評価は対照を0として、試料溶液がさわやかに感じる度合いを「さわやかでない」を−2、「さわやかである」を2として−2から2までの5段階で実施した。その結果、表1の1)に示すように0.5%リン酸化糖を添加した試料溶液では12人中10人がプラスの評価を出し、ショ糖の甘味をより好適に改善する効果が認められた。
【0059】
(実施例8)
5%の食塩溶液を対照とし、これに0.5%のリン酸化糖を添加した試料溶液2)について塩味の変化を官能検査により調べた。評価は対照を0として、試料溶液の塩味の強弱を「弱い」を−2、「強い」を2とする5段階で実施した。その結果、表1の2)に示すように0.5%リン酸化糖を添加した試料溶液では12人中8人がプラスの評価を出し、塩味を増強する効果が認められた。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例9)
200mMグリシン−塩酸緩衝溶液(pH2.0)2ml、重合度3〜5のリン酸化糖混合物の3%溶液(200mMグリシン−塩酸緩衝溶液(pH2.0)で調製)2mlに、実施例1に記載の本酵素溶液2mlを添加して37℃で16時間反応させた。反応終了後、反応液のうち1mlを用いて、本酵素の作用により6位リン酸化糖から生じた無機リン酸酸量をバナド・モリブデン酸法により測定し、残り5mlを100℃で8時間処理したのち、生じた6位リン酸化糖由来の無機リン酸量を同様に定量した。その結果を表2に示す。このようにリン酸化糖のリン酸基の3位および6位の結合割合を簡便に推測できた。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例10)
実施例2から6で得たリン酸化糖1%溶液1mlに対して、20Uのシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(天野製薬製、Bacillus macerans由来)を添加し、50℃で48時間反応させた。反応溶液は50mMの酢酸緩衝液(pH5.5)で行った。そして、沸騰湯浴中で5分間処理することで反応停止した。各反応液2μlを用いて薄層クロマトグラフィー(Merck製、シリカゲルプレート)で分析した。展開溶媒は、エタノール:酢酸:脱塩水=70:2:30を用いて、室温で1回展開した。展開後、プレートを乾燥し、硫酸:メタノール=1:1溶液を噴霧し、130℃のオーブンで3分間焼成した。その結果、図10に示したようにリン酸化マルトペンタオースの基質において明らかに転移反応が確認され、分子内に複数個のリン酸基を有する3位リン酸化糖あるいは6位リン酸化糖が生成していた。
【0064】
(実施例11)
実施例3と6のリン酸化マルトトライオースの2mM溶液60μlに対して、0.01N水酸化ナトリウム溶液中に溶解させた3%の水素化ホウ素ナトリウム溶液5μlを添加した。本溶液を40℃で1時間処理した。本処理後、0.7N塩酸溶液中で100℃、4時間処理した。本酸加水分解処理溶液中の生じたソルビトール、グルコース、グルコース−6−リン酸をそれぞれ分析定量した。ソルビトール、グルコース、グルコース−6−リン酸は、それぞれMannersらの方法(Carbohydr.Res.、17巻、109−114頁、1971年)、Miwaらの方法(Clin.Chim.Acta,、37巻、538−540頁、1972年)、Hizukuriらの方法(Starch,22巻、338−343頁、1970年)で定量した。その結果、表3に示したように、分子内にもとのリン酸化マルトトライオースと等モルのソルビトールが検出され、リン酸化糖アルコールの生成が確認された。つまり、3位リン酸化マルトトライトールと6位リン酸化マルトトライトールが生成していた。
【0065】
【表3】

【0066】
A.グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトトライオース
B.グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトライオース
表の数値は1モルのリン酸化マルトトライオースから生成したモル数
【0067】
(実施例12)
カルシウム、鉄、マグネシウムとの複合体形成能力については、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いる釜阪らのリン酸化糖に関する特許願(特開平8−104696)に記載の方法に基づいて実施した。結果、実施例2から6あるいは実施例10、11で得られたリン酸化糖が、中性pH以上において、カルシウム、鉄、マグネシウムと結合することで、リン酸化糖単独時よりも高分子側に溶出され、複合体を形成していることが確認できた。
【0068】
(実施例13)
カルシウム、マグネシウムおよび鉄等の金属の可溶化効果については、カルシウムリン酸沈殿阻害効果測定方法として、釜阪らのリン酸化糖に関する特許願(特開平8−104696)に記載の方法に基づいて実施した。結果、実施例2から6あるいは実施例10,11で得られたリン酸化糖についてカルシウム、マグネシウムおよび鉄等の金属の可溶化効果があるとの結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1はpH2における本酵素活性を100%としたときの相対活性と、pHとの関係を示した図である。
【図2】図2はpH9で60分間処理した後の残存活性を100%としたときの各pHにおける相対残存活性と、pHとの関係を示した図である。用いた緩衝液;グリシン−塩酸緩衝液(○;pH1.2−3.0)、酢酸緩衝液(●;pH3.0−6.0)、MES−水酸化ナトリウム緩衝液(△;pH6.0−7.0)、トリス−塩酸緩衝液(▲;pH7.0−9.0)、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(◇;pH9.0−10.6)。
【図3】図3は60℃における本酵素活性を100%としたときの相対活性と、温度との関係を示した図である。
【図4】図4は4℃で30分間処理した後の残存活性を100%としたときの各温度における相対残存活性と、温度との関係を示した図である。
【図5】本酵素によるリン酸化少糖への作用を示す。図5−9の記号の説明G3;マルトトリオースG4;マルトテトラオースG5;マルトペンタオースH;グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースJ;グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオースK;グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトペンタオースL;グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオースM;グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオースN;グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトペンタオースP;グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトース
【図6】本酵素と糖化型α−アミラーゼによるリン酸化少糖類への作用を示す。
【図7】本酵素とネオプルラナーゼによるリン酸化少糖類への作用を示す。
【図8】酢酸加熱処理によるリン酸化少糖類への作用を示す。
【図9】酢酸加熱処理と糖化型α−アミラーゼおよびグルコアミラーゼによるリン酸化少糖類への作用を示す。
【図10】糖転移酵素であるシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼによるリン酸化糖への転移作用を示す。図の説明1、 グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオース2、 グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオース3、 グルコース残基の6位がリン酸化されたリン酸化マルトペンタオース4、 グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトトリオース5、 グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオース6、 グルコース残基の3位がリン酸化されたリン酸化マルトテトラオースM1、グルコース,標準マルトオリゴ等(G2−G6)、グルコース−6−リン酸、グルコース−1,6−2リン酸、各1.5%、1μlM2、結合リン酸基を1個有するリン酸化マルトトライオースからマルトペンタオースまでの混合物(PO−1)、結合リン酸基を2個有するマルトペンタオースからマルトオクタオースまでの混合物(PO−2)、各1.5%、1μl

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成糖がグルコースでα−1,4結合のみで構成され、重合度が3〜5の6位結合リン酸化糖の6位結合リン酸基を特異的に脱リン酸化するホスファターゼであって、アスペルギルス ニガーKU−8株(生工研寄託P−16248)あるいはその培養物から得られ、以下の酵素化学的性質:
(1)作用至適pH:pH1.5〜3.0;
(2)pH安定性;pH2〜10の範囲で安定;
(3)作用至適温度;60℃;
(4)温度安定性:50℃まで安定;および
(5)分子量:モノマーとして約66,000ダルトン(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
を有する、ホスファターゼ。
【請求項2】
3位結合リン酸化糖アルコールの製造法であって、3位結合リン酸化糖および6位結合リン酸化糖を含有するリン酸化糖溶液に請求項1に記載のホスファターゼを添加して反応させて、該6位結合リン酸化糖の6位結合リン酸基を選択的に脱リン酸化すること、ならびに得られた3位結合リン酸化糖の還元末端を還元して3位結合リン酸化糖アルコールを得ることを特徴とする、製造法。
【請求項3】
3位結合リン酸化糖アルコールの製造法であって、3位結合リン酸化糖および6位結合リン酸化糖を含有するリン酸化糖溶液に請求項1に記載のホスファターゼと、糖化型α−アミラーゼ、ネオプルラナーゼおよびグルコアミラーゼからなる群より選択される酵素とを組み合わせて作用させて、該6位結合リン酸化糖の6位結合リン酸基を選択的に脱リン酸化すること、ならびに得られた3位結合リン酸化糖の還元末端を還元して3位結合リン酸化糖アルコールを得ることを特徴とする、製造法。
【請求項4】
構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が3〜5であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖の製造法であって、結合リン含有澱粉にα−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびプルラナーゼを作用させた後に中性糖を除去して重合度3〜5の3位結合リン酸化糖および重合度3〜5の6位結合リン酸化糖を含むリン酸化糖混合物を得ること、該リン酸化糖混合物を0.05〜0.7規定の酢酸あるいは0.05〜0.5M濃度の乳酸もしくはクエン酸の存在下で加熱すること、イオン交換クロマトグラフィーまたは電気透析を用いて分画することにより、構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が3〜5であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖を得ることを特徴とする、製造法。
【請求項5】
構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が2〜4であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖の製造法であって、結合リン含有澱粉にα−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびプルラナーゼを作用させた後に中性糖を除去して重合度3〜5の3位結合リン酸化糖および重合度3〜5の6位結合リン酸化糖を含むリン酸化糖混合物を得ること、該リン酸化糖混合物に糖化型α−アミラーゼ、ネオプルラナーゼ、糖化型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとの組み合わせ、あるいはネオプルラナーゼとグルコアミラーゼとの組み合わせを作用させた後に、0.05〜0.7規定の酢酸あるいは0.05〜0.5M濃度の乳酸もしくはクエン酸の存在下で加熱すること、ならびにイオン交換クロマトグラフィーまたは電気透析を用いて分画することにより、構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が2〜4であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖を得ることを特徴とする、製造法。
【請求項6】
構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が2〜4であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖の製造法であって、結合リン含有澱粉にα−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびプルラナーゼを作用させた後に中性糖を除去して重合度3〜5の3位結合リン酸化糖および重合度3〜5の6位結合リン酸化糖を含むリン酸化糖混合物を得ること、該リン酸化糖混合物を0.05〜0.7規定の酢酸あるいは0.05〜0.5M濃度の乳酸もしくはクエン酸の存在下で加熱し、その後、糖化型α−アミラーゼ、ネオプルラナーゼ、糖化型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとの組み合わせ、あるいはネオプルラナーゼとグルコアミラーゼとの組み合わせを作用させること、ならびにイオン交換クロマトグラフィーまたは電気透析を用いて分画することにより、構成糖がグルコースであり、グルコース残基はα−1,4結合のみで結合されており、重合度が2〜4であり、1個のグルコース残基の6位のみにリン酸基が結合しているリン酸化糖を得ることを特徴とする、製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−72191(P2009−72191A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235655(P2008−235655)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【分割の表示】特願平10−236546の分割
【原出願日】平成10年8月7日(1998.8.7)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】