説明

リン酸基含有ポリアルキレングリコール系重合体

【課題】セメント分散性やスランプ保持性等の性能をより高いレベルで発揮することができ、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なポリアルキレングリコール系重合体、それを用いたセメント混和剤及びセメント組成物を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体であって、特定の構造を有し、該ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含むポリアルキレングリコール系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール系重合体、セメント混和剤及びセメント組成物に関する。より詳しくは、セメント混和剤を始め、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に用いられるポリアルキレングリコール系重合体や、それを用いて得られるセメント混和剤及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体(以下、ポリアルキレングリコール系重合体ともいう。)は、その鎖長や構成するアルキレンオキシドを適宜調整することによって親水性や疎水性、立体反発等の特性が付与され、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に広く用いられている。
そして近年では、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に添加されるセメント混和剤用途が検討されている。このようなセメント混和剤は、通常、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を発揮させることを目的として使用される。減水剤としては、従来、ナフタレン系等の減水剤が使用されていたが、ポリアルキレングリコール鎖がその立体反発によりセメント粒子を分散させる分散基として作用することができるため、ポリアルキレングリコール鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤が高い減水作用を発揮するものとして新たに提案され、最近では高性能AE減水剤として多くの使用実績を有するに至っている。
【0003】
従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体に関し、例えば、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルにチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解して得られる両末端又は片末端にメルカプト基を有するポリエーテル(例えば、特許文献1参照。)や、また、洗剤ビルダーに用いる生分解性水溶性重合体として、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入した変性ポリエーテル化合物に対し、モノエチレン性不飽和単量体成分をブロック又はグラフト重合させて得られる重合体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、ポリアルキレングリコール鎖と、該鎖の少なくとも一端に結合した不飽和単量体由来の構成単位とを含むポリマー単位を有する新規な重合体が、特にセメント混和剤として有用である旨が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、酸化防止剤や合成樹脂用原料等として用いられる、メルカプト脂肪酸とポリオキシアルキレン化合物とのエステルおよびその製造方法や、該エステルに(メタ)アクリル酸エステル等のビニル重合性のモノマーをラジカル重合させて得られるブロック共重合体が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−13141号公報
【特許文献2】特開平7−109487号公報
【特許文献3】特開2007−119736号公報
【特許文献4】特開2002−128889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体として様々な構成を有するものが提案されている。しかしながら、従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体では未だ、昨今要望される極めて高い性能(セメント分散性(減水性)やスランプ保持性)を充分に発揮できる程度には至っていない。したがって、セメント混和剤の用途にも好適なものとすることによって、より多くの分野に有用な化合物とするための工夫の余地があった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、セメント分散性やスランプ保持性等の性能をより高いレベルで発揮することができ、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なポリアルキレングリコール系重合体、それを用いたセメント混和剤及びセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体について種々検討したところ、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造とすると、セメント組成物等に対して少量添加するだけで高い減水性能を発揮できることを見いだした。また、ビニル系単量体成分として、リン酸基を有する単量体を必須に含むものを用いると、ポリアルキレングリコール系重合体のセメント分散性や、該重合体を含むセメント組成物のスランプ保持性が向上することを見いだした。そして、本発明の重合体を用いて得られるセメント混和剤が、際立って優れた性能(分散性、スランプ保持性等)を発揮できることを見いだし、これを含んでなるセメント組成物がセメント分野で特に有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体であって、上記重合体は、下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の残基である。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、又は、Zを表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表される構造を有し、上記ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含むことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体である。
【0010】
本発明はまた、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、下記一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基を表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下でビニル系単量体成分を重合する工程を含み、上記ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含むことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体の製造方法でもある。
【0013】
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール系重合体を含むセメント分散剤でもある。
本発明はまた、上記ポリアルキレングリコール系重合体を含むセメント混和剤でもある。
本発明はまた、上記セメント混和剤を含むセメント組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
<ポリアルキレングリコール系重合体>
本発明のポリアルキレングリコール系重合体について説明する。
以下では、本発明のポリアルキレングリコール系重合体を「ポリアルキレングリコール系重合体(i)」又は「重合体(i)」、本発明のポリアルキレングリコール系重合体が有するポリアルキレングリコール鎖が直接又は有機残基を介して結合することになるビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(上記一般式(1)中のZで表される残基を形成する重合体)を「重合体(ii)」ともいう。
【0015】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(i)において、上記重合体(ii)を形成するためのビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体(以下、単量体(A)ともいう。)を必須に含むものである。すなわち、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)は、リン酸基を有する単量体由来の構成単位を含むものである。単量体(A)を使用することにより、重合体(i)にリン酸基が導入される。
重合体(i)をセメントなどの分散剤として用いる場合、リン酸基には静電的親和力により分散質に吸着する効果と、吸着することで分散質に親水性や静電的反発力を付与し、分散質を安定に分散させる効果とがある。リン酸基は例えばカルボキシル基と比較してこのような効果が高いため、より分散性に優れたポリアルキレングリコール系重合体を得ることができる。
上記リン酸基を有する単量体(A)は、ビニル系単量体であって、リン酸基を分子内に1つ以上有する化合物、すなわち、1分子中に重合性二重結合とリン酸基とを夫々1つ以上有する化合物であればよく、1種又は2種以上を用いることができる。
上記リン酸基を有する単量体(A)の詳細については後述する。
【0016】
また、上記重合体(ii)を形成するためのビニル系単量体成分は、単量体(A)を必須とする限り、他の単量体成分を更に含んでいてもよいが、より高い分散性能を発揮することができるポリアルキレングリコール系重合体(i)を得る観点からは、後述する不飽和カルボン酸系単量体を含まないものが好ましいことがある。すなわち、上記ビニル系単量体成分がリン酸基を有する単量体を必須に含み、かつ不飽和カルボン酸系単量体を含まない形態は、本発明における好適な実施形態の1つである。
【0017】
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体(重合体(i))の構造について説明する。
上記重合体(i)は、下記一般式(1):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の残基である。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、又は、Zを表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する。
【0020】
上記一般式(1)で表される構造を有する重合体は、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体と、多分岐構造を有さない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体とを含む。
上記一般式(1)において、m=1かつp=1のとき、上記重合体(i)は、多分岐構造を有しない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体である。また、m+p≧3であるとき、上記重合体(i)は、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体である。
ここでいう多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体とは、活性水素を3個以上有する化合物の、活性水素を有する部位の少なくとも3つ以上に、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖が結合し、該活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、該重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を意味する。一方、非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体とは、このような活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした上記重合鎖を有さない構造を意味する。
なお、非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として上記重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を有さないものであれば、例えば、ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体(ii)が、ポリアルキレングリコール鎖を有する不飽和単量体を原料として用いて形成されたものである場合のように、主鎖から枝分かれした分岐構造を有するものであってもよい。
【0021】
m=1かつp=1であるとき、すなわち、上記重合体(i)が、多分岐構造を有しない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体であるとき、上記一般式(1)中のXが酸素原子であれば、上記重合体(i)は、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)に直接又は有機残基を介して結合する1つのポリアルキレングリコール鎖を有する重合体(以下、重合体(i−a)ともいう。)となる。一方、上記一般式(1)中のXが活性水素を2個以上有する化合物の残基であれば、上記重合体(i)は該活性水素を2個以上有する化合物の残基に結合する2つのポリアルキレングリコール鎖を有する重合体(以下、重合体(i−b)ともいう。)となる。
【0022】
ポリアルキレングリコール鎖を「PAG」で表すと、上記重合体(i−a)の構造は、下記一般式(a):
−Y−(PAG)−Y−Z (a)
(式中、Y、Y、Z及びQは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)のように表すことができる。
また、上記一般式(a)におけるQ−Y−が全体として水素原子を表す場合には、上記重合体(i−a)の構造は、下記一般式(b):
(PAG)−Y−Z (b)
(式中のY及びZは、上記一般式(a)におけるものと同じである。)のように表すことができる。
【0023】
また、活性水素を2個以上有する化合物の残基を「X’」で表すと、上記重合体(i−b)の構造は、下記一般式(c):
−Y−(PAG)−X’−(PAG)−Y−Z (c)
(式中、Y、Y、Z及びQは、上記一般式(1)におけるものと同じである。)のように表すことができる。
また、上記一般式(c)におけるQ−Y−が全体として水素原子を表す場合には、上記重合体(i−b)の構造は、下記一般式(d):
(PAG)−X’−(PAG)−Y−Z (d)
(式中のY及びZは、上記一般式(c)におけるものと同じである。)のように表すことができる。
【0024】
m+p≧3であるとき、上記重合体(i)は、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体(以下、重合体(i−c)ともいう。)である。この場合、上記一般式(1)におけるXは、活性水素を3個以上有する化合物の残基である。重合体(i−c)としては、例えば、下記式(A)又は(B)で表されるような、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基に、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい数のポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有するものを挙げることができる。
【0025】
【化4】

【0026】
上記式(A)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基)であり、グリセリンが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基を介して重合体(ii)とが結合した構造を模式的に示したものである。
また上記式(B)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基とが結合し、更に硫黄原子のいくつかにビニル系単量体成分由来の構造単位が結合した構造を模式的に示したものである。
【0027】
上記重合体(i−c)としてはまた、活性水素を4個以上有する化合物の残基に、3つ以上であり、かつ活性水素を4個以上有する化合物中の活性水素数未満のポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有するものも挙げることができる。
【0028】
上記一般式(1)において、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。
m=1かつp=1である場合、すなわち、上記重合体(i)が、多分岐構造を有しない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体である場合には、Xは、酸素原子、及び、活性水素を2個以上有する化合物の残基のいずれであってもよい。
一方、m+p≧3である場合、すなわち、上記重合体(i)が多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体である場合には、Xは、活性水素を3個以上有する化合物の残基であることが必要である。
【0029】
本明細書において、活性水素を有する化合物の残基とは、活性水素を有する化合物から活性水素を除いた構造を有する基を意味し、該活性水素とは、アルキレンオキシドが付加できる水素を意味する。
上記活性水素を有する化合物が、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)の製造において、上記一般式(1)中のXで表される構造部位を形成するために用いられる場合、活性水素を有する化合物の活性水素数は、Xで表される活性水素を有する化合物の残基に結合するポリアルキレングリコール鎖の数以上であればよい。すなわち、上記活性水素数は、上記一般式(1)におけるmとpとの合計値以上であればよい。
例えば、上記活性水素を有する化合物が、多分岐構造を有しない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体(i)の製造において、上記一般式(1)中のXで表される構造部位を形成するために用いられる場合、活性水素を有する化合物の活性水素数は2個であればよい。
また、上記活性水素を有する化合物が、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体(i)の製造において、上記一般式(1)中のXで表される構造部位を形成するために用いられる場合、活性水素を有する化合物の活性水素数は3個以上であることが必要である。また、後述するポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いて重合を行う際の重合性の観点から、50個以下であることが好適である。多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体(i)を製造する場合の、上記活性水素数の下限値としては、好ましくは4個であり、より好ましくは5個である。また、上限値としては、より好ましくは20個であり、更に好ましくは10個である。
【0030】
上記活性水素を2個以上有する化合物の残基としては、具体的には、例えば、多価アルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有する多価アルコール残基、多価アミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価アミン残基、多価イミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価イミン残基、多価アミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有する多価アミド残基等が好適である。中でも、多価アミン残基、ポリアルキレンイミン残基及び多価アルコール残基が好ましい。すなわち、上記活性水素を2個以上有する化合物の残基は、多価アミン残基、ポリアルキレンイミン残基及び多価アルコール残基からなる群より選択される少なくとも1種の多価化合物残基であることが好適である。
なお、活性水素を有する化合物残基の構造としては、鎖状、分岐状、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
【0031】
上記活性水素を2個以上有する化合物の残基の好ましい具体例のうち、多価アミン(ポリアミン)としては、1分子中に平均2個以上のアミノ基を有する化合物であればよく、例えば、メチルアミン等のアルキルアミン;アリルアミン等のアルキレンアミン;アニリン等の芳香族アミン;アンモニア等のモノアミン化合物の1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体が有する多価アミン残基が形成されることになる。
更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の2価以上のアミン化合物や、それらの1種又は2種以上を重合して得られるポリアミンであってもよい。このようなポリアミンは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
【0032】
また上記ポリアルキレンイミンとしては、1分子中に平均2個以上のイミノ基を有する化合物であればよく、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体が有するポリアルキレンイミン残基が形成されることになる。なお、ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子を持つ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、上記ポリアルキレングリコール系重合体が奏する性能の観点から、エチレンイミンがより好適である。
【0033】
上記多価アミン及びポリアルキレンイミンの数平均分子量としては、100〜100000が好ましく、より好ましくは300〜50000、更に好ましくは600〜10000であり、特に好ましくは800〜5000である。
【0034】
上記多価アルコールとしては、1分子中に平均2個以上の水酸基を含有する化合物であればよいが、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好適である。具体的には、例えば、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、グルコースなどの糖類、グルシット等の糖アルコール類、グルコン酸などの糖酸類等が好適である。このような化合物により、上記ポリアルキレングリコール系重合体が有する多価アルコール残基が形成されることになる。
これらの中でも、工業的な生産効率の観点から、より好ましくは、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタンである。
【0035】
上記活性水素を2個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数としては、上記活性水素を2個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。すなわち、上記活性水素を2個以上有する化合物中の活性水素原子全てにポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好適である。これによって、更に優れた分散性能を発揮し得るセメント混和剤を与えることが可能となる。
上記活性水素を2個以上有する化合物が結合する上記ポリアルキレングリコール鎖の数は、上記一般式(1)におけるmとpとの合計値に相当する。従って、mとpとの合計値が上記活性水素を2個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。
【0036】
上記一般式(1)における(AO)及び(AO)n’は、夫々炭素数2〜18のオキシアルキレン基(アルキレンオキシド、AO)から構成されるポリアルキレングリコール鎖を表す。
以下では、ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体(ii)の主鎖末端と直接結合又は有機残基を介して結合するポリアルキレングリコール鎖、すなわち、上記一般式(1)において(AO)又は(AO)n’で表されるポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(I)」ともいう。また、ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体(ii)における当該ビニル系単量体成分が、後述するように不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含む場合の、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の有するポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(II)」ともいう。なお、ポリアルキレングリコール鎖(I)及び(II)は、実質的に直鎖状であることが好適である。
重合体(i)をセメントなどの分散剤として用いる場合、ポリアルキレングリコール鎖(I)には分散質に親水性や立体的反発力を付与し、分散質を安定に分散させる効果がある。また特長的な効果として、分離抵抗性、降伏応力といった分散系のレオロジー特性に大きな影響を与える。目的に応じてポリアルキレングリコール鎖(I)の構造や導入量を調節することにより、分散性やレオロジー特性が極めて良好な、重合体(i)を得ることができる。
【0037】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)を構成するアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のオキシアルキレン基(アルキレンオキシド、AO)であればよいが、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)に求められる用途等に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、セメント混和剤成分の製造のために用いる場合には、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であることである。これにより、得られるポリアルキレングリコール系重合体(i)が充分に親水性となり、該重合体(i)に充分な水溶性及びセメント粒子の分散性能が付与されることとなる。
【0038】
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖(I)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、上記重合体(i)がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0039】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
なお、上記重合体(i)に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含まない態様が好ましい場合もある。
【0040】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよい。ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0041】
上記一般式(1)におけるn及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数、すなわち、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数を表し、1〜1000の数である。上記平均繰り返し数を1以上の数とすることにより、上記重合体(i)にポリアルキレングリコール鎖に基づく性能を充分に発揮させることが可能となる。また、上記平均繰り返し数が1000を超える場合には、上記重合体(i)を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。
nとn’との合計は、便宜上、ポリアルキレングリコール鎖(I)の直径とみなすことができる。上記重合体(i)のセメント粒子の分散性能をより充分に発揮させる観点からは、nとn’との合計が10〜1500であることが好ましい。nとn’との合計の下限値としては、より好ましくは30、更に好ましくは50、特に好ましくは100、最も好ましくは200であり、上限値としては、より好ましくは1000、更に好ましくは800、特に好ましくは600、最も好ましくは400である。
また上記重合体(i)が、ビニル系単量体成分として後述する不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)を用いて形成される場合、上記nとn’との合計は、上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数r以上であることが好ましい。すなわち、n及びn’は、n+n’≧rを満たすことが好ましい。n、n’及びrが上記関係を満たすことにより、ポリアルキレングリコール鎖(I)に起因する立体反発による効果と、ポリアルキレングリコール鎖(II)に起因する立体反発による効果とがバランスよく発揮され、その結果、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)が極めて良好なセメント分散性を発揮するものとなる。より好ましくは、n+n’≧2rを満たすことであり、更に好ましくは、n+n’≧3rであり、特に好ましくは、n+n’≧4rである。n及びn’はまた、10r≧n+n’を満たすことが好ましい。より好ましくは、8r≧n+n’を満たすことであり、更に好ましくは、6r≧n+n’である。
なお、m+p≧3である場合、すなわち、上記重合体(i)が多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体である場合においては、該重合体(i)の構造中に、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖、及び、(AO)n’で表されるポリアルキレングリコール鎖の少なくとも一方が複数種類存在することになる。この場合には、合計値が上記数値範囲内となるnとn’との組合せが少なくとも1組存在することが好ましい。
なお、上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)とは、上記重合体(i)が有するポリアルキレングリコール鎖1モル中において付加しているアルキレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0042】
上記一般式(1)においてY又はYで表される構造部位は、直接結合又は有機残基であり、YとYとは、互いに異なっていてもよく、同じであってもよい。Y及びYは、ポリアルキレングリコール鎖(I)とビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体(ii)との結合を容易にすることができる点で、有機残基であることが好ましい。上記有機残基は、分子量が1000以下の基であることが好適である。1000を超えると、該基の導入が困難になり、経済性が損なわれるおそれがある。より好ましくは500以下であり、更に好ましくは300以下である。
【0043】
上記有機残基としてはまた、硫黄原子を含むものであることが好適であり、具体的には、例えば、−S−Y−COO−、−S−Y−CO−、−S−Y−CO−NH−、−S−Y−CO−NH−CH−CH−、−S−Y−、−S−Y−O−、−S−Y−N−、−S−Y−S−等であることが好ましい。ここで、Yは、2価の有機残基であり、好ましくは、炭素数1〜18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基や、炭素数6〜11の芳香族基(フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等)等であって、例えば、水酸基、アミノ基、アセチルアミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等の置換基で一部置換されていてもよい基である。
このように上記有機残基が硫黄原子を有する場合には、該硫黄原子を介して上記重合体(ii)の主鎖末端と結合することが好適である。この場合、後述するように、本発明のポリアルキレングリコール系重合体の製造時に、硫黄原子の反応性に起因して硫黄原子を介して単量体が次々にポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に付加し、重合体(ii)の残基、すなわち一般式(1)においてZで表される部位を形成することになるため、製造に有利である。
【0044】
上記硫黄原子を含む有機残基の中でも、カルボニル基(−C(O)−)又はアミド基(−N(H)−C(O)−)を含むものが好適であり、このように上記硫黄原子を含む有機残基が、カルボニル基又はアミド基を含むこともまた、本発明の好適な形態の1つである。この場合、本発明のポリアルキレングリコール系重合体の製造が容易であり、しかも低コストで製造できるため、工業生産的に有用である。
この場合、上記有機残基とポリアルキレングリコール鎖との結合部位においては、カルボニル基(アミド基中の−CO基を含む)に含まれる炭素原子と、ポリアルキレングリコール鎖の末端酸素原子とが隣接することが好適である。すなわち、上記重合体(i)は、ポリアルキレングリコール鎖とYとがエステル結合又はアミド結合を介して結合したものであることが好ましい。
【0045】
上記一般式(1)におけるZは、ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体の残基を表す。上記ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体(重合体(ii))としては、1種の重合体であってもよいし、2種以上の重合体の混合物であってもよいが、それを形成するビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体(A)を必須に含むものである。すなわち、上記重合体(ii)は、単量体(A)由来の構成単位を含むものである。なお、上記単量体(A)由来の構成単位とは、重合反応によって単量体(A)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記単量体(A)は、ビニル系単量体であって、リン酸基を分子内に1つ以上有していればよいが、1分子中に重合性二重結合と水酸基とを有する化合物と、リン酸とのエステル化物であることが好ましい。
【0046】
上記1分子中に重合性二重結合と水酸基とを有する化合物としては、例えば、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オール等のアルケニル基を有する不飽和アルコールや、アルケニル基を有する不飽和アルコールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜300モル付加させた不飽和アルコールアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。
上記1分子中に重合性二重結合と水酸基とを有する化合物としてはまた、不飽和カルボン酸と1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とのエステル化物を挙げることができる。このようなエステル化物は、例えば、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物が有する水酸基のうち、少なくとも1個の水酸基を除く残りの水酸基と、不飽和カルボン酸とを反応させることによって得ることができる。
上記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸;これらのカルボン酸の無水物が好適である。
上記1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物としては、炭素原子数1〜30のジオール;炭素原子数1〜30のジオールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜300モル付加させたヒドロキシ(ポリ)アルキレングリコール;炭素原子数1〜30のポリオール;炭素原子数1〜30のポリオールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜300モル付加させたポリオール(ポリ)アルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0047】
上記単量体(A)としては、上述した中でも、不飽和カルボン酸と1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とのエステル化物と、リン酸とのエステル化物が好適である。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
より好ましくは、例えば、下記一般式(8):
【0048】
【化5】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基が2種以上ある場合、当該基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよい。dは、0〜2の整数である。eは、0又は1である。fは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。gは、リン酸の平均エステル価数を表し、1〜3の数である。Mは水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第四級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で示される化合物が好適である。さらに好ましくは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのリン酸エステルである。
【0049】
上記単量体(A)が、1分子中に重合性二重結合と水酸基とを有する化合物と、リン酸とのエステル化物である場合、上記一般式(8)に示すようにリン酸モノエステル型(g=1)、リン酸ジエステル型(g=2)、リン酸トリエステル型(g=3)のものが挙げられる。これらは単独で用いても混合物で用いても良い。
リン酸基含有単量体もしくはその混合物は、公知の方法で合成したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。市販品はユニケミカル社、城北化学社、共栄社化学社、アルドリッチ社などから入手可能である。
リン酸基の特長を十分に発揮するには、リン酸モノエステル型が最も好ましいが、リン酸モノ、ジ、トリエステルのうち二種以上を含むリン酸エステル混合物の方が経済性に優れる場合がある。リン酸エステル混合物を用いる場合、リン酸モノエステル型単量体の好ましい含有量としては、リン酸エステル型単量体の全量に対するモル比として、20mol%以上が好ましく、40mol%以上がより好ましく、60mol%以上がさらに好ましく、80mol%以上が最も好ましい。
またリン酸エステル混合物を用いる場合、ジエステル型単量体、トリエステル型単量体の含有量が多すぎると、重合反応中に架橋反応を生じてゲル化が生じたり、重合体の分子量調整に不具合が生じることがある。リン酸ジエステル型およびトリエステル型単量体の好ましい合計含有量としては、リン酸エステル型単量体の全量に対するモル比として、80mol%以下が好ましく、60mol%以下がより好ましく、40mol%以下がさらに好ましく、30mol%以下が最も好ましい。目的により重合体の分子量を高くしたい場合には、分子量の調節の容易さから、1mol%以上が好ましく、5mol%以上がより好ましく、10mol%以上がさらに好ましく、20mol%以上が最も好ましい。
更に、リン酸エステル混合物を用いる重合反応を水溶液中で行う場合、水溶性の低いトリリン酸エステル型単量体の含量が多すぎると、反応液に分離を生じて反応に不具合が生じることがある。トリリン酸エステル型単量体の好ましい含有量としては、リン酸エステル型単量体の全量に対するモル比として、50mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、20mol%以下がさらに好ましく、10mol%以下が最も好ましい。目的により重合体の分子量を高くしたい場合には、分子量の調節の容易さから、1mol%以上が好ましく、5mol%以上がより好ましく、10mol%以上がさらに好ましく、15mol%以上が最も好ましい。
【0050】
上記ビニル系単量体成分としてはまた、上記単量体(A)以外のビニル系単量体を更に含んでいてもよい。このようなビニル系単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸系単量体(以下、「不飽和カルボン酸系単量体(a)」、又は、単に「単量体(a)」ともいう。)が挙げられる。単量体(a)を使用することにより、重合体(i)にカルボキシル基が導入される。
重合体(i)をセメントなどの分散剤として用いる場合、カルボキシル基には静電的親和力により分散質に吸着する効果と、吸着することで分散質に親水性や静電的反発力を付与し、安定に分散させる効果とがある。カルボキシル基は例えばリン酸基と比較してこのような効果が低いが、吸着力や静電反発力を調節したい場合、これら二種を併用すると効果的である。
このように、上記ビニル系単量体成分が不飽和カルボン酸系単量体(a)を必須に含むことは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0051】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)としては、例えば、下記一般式(3):
【0052】
【化6】

【0053】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は(CHCOOMを表す。なお、−(CHCOOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよい。xは、0〜2の整数である。M及びMは、同一又は異なって、水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第四級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で示される化合物が好適である。
なお、上記ビニル系単量体成分が上記単量体(a)を含む場合、上記重合体(ii)は単量体(a)由来の構成単位を含むことになる。単量体(a)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(3)で示される単量体(a)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0054】
上記一般式(3)において、M及びMで表される金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価金属原子;アルミニウム、鉄等の三価金属原子が挙げられる。また、有機アミン塩基としては、例えば、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等が挙げられる。
【0055】
上記一般式(3)で示される不飽和カルボン酸系単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体;これらのカルボン酸の無水物又は塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、三価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)等が挙げられる。中でも、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩がより好適である。
なお、上記不飽和カルボン酸系単量体(a)は、1分子中に重合性二重結合と、カルボキシル基とを有する化合物であればよいが、上述した単量体(A)と区別するため、リン酸基を有する化合物は含まないものとする。
【0056】
上記ビニル系単量体成分としてはまた、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(以下、「不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)」、又は、単に「単量体(b)」ともいう。)を含んでいてもよい。単量体(b)を使用することにより、重合体(i)にポリアルキレングリコール鎖(II)が導入される。
重合体(i)をセメントなどの分散剤として用いる場合、重合体(ii)中のポリアルキレングリコール鎖(II)には分散質に親水性や立体的反発力を付与し、分散性を飛躍的に向上する効果がある。
【0057】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)としては、例えば、下記一般式(4):
【0058】
【化7】

【0059】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基が2種以上ある場合、当該基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよい。yは、0〜2の整数である。zは、0又は1である。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される化合物が好適である。
なお、上記ビニル系単量体成分が上記単量体(b)を含む場合、上記重合体(ii)は単量体(b)由来の構成単位を含むことになる。単量体(b)由来の構成単位とは、重合反応によって一般式(4)で示される単量体(b)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0060】
上記一般式(4)において、Rで表される末端基のうち、炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記Rで表される末端基としては、セメント混和剤用途に用いる場合には、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好適であり、具体的には、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0061】
また上記一般式(4)において、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖(II)の好ましい構造については、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)について述べたのと同様である。
【0062】
上記一般式(4)におけるr、すなわち、上記ポリアルキレングリコール鎖(II)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数は、1〜300の数であるが、300を超えると、製造上の不具合が生じるおそれがあり、また、ポリアルキレングリコール系重合体(i)をセメント混和剤として使用した際にセメント組成物の粘性が高くなって作業性が充分とはならないおそれがある。製造上の観点から、rは300以下が適当であり、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは75以下、最も好ましくは50以下である。また、セメント粒子を強く分散させる観点から、rは4以上であることが好ましい。より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは25以上である。
【0063】
上記一般式(4)で示される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)の具体例としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル系単量体が挙げられる。
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよい。
上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する単量体であればよく、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、中でも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ヒドロキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好適であり、メトキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが最も好適である。
【0064】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適である。重合時の反応性と経済性の観点から、好ましくは(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物である。
【0065】
なお、上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)は、1分子中に重合性二重結合と、ポリアルキレングリコール鎖とを有する化合物であればよいが、上述した単量体(A)と区別するため、リン酸基を有する化合物は含まないものとする。
【0066】
上記重合体(ii)を得るために使用されるビニル系単量体成分はまた、上述したリン酸基を有する単量体(A)、不飽和カルボン酸系単量体(a)及び不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)以外のその他の共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。
この場合、上記重合体(ii)は、更に上記単量体(c)由来の構成単位を含むことになるが、上記単量体(c)由来の構成単位とは、重合反応によって単量体(c)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0067】
上記重合体(ii)における上記リン酸基を有する単量体(A)の好ましい含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよいが、上記不飽和カルボン酸系単量体(a)、上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)の有無によって異なる。これは重合体(i)を分散剤として使用する際、分散質に対する吸着力や分散力が、各単量体の有無や量比、および、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)との量比によって異なることによると考えられる。以下に単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)およびポリアルキレングリコール鎖(I)の好ましい含有量を例示するが、質量比の計算においては、単量体(A)および単量体(a)の質量は、対応するナトリウム塩のものとした。また、単量体成分の合計量は質量比およびモル比共に、それぞれ100質量%および100モル%とし、ポリアルキレングリコール鎖(I)はこの合計量に含まれないものとする。
【0068】
ビニル系単量体成分が単量体(A)および単量体(c)からなる場合、単量体(A)の特長を十分に発揮するための含有量は、ポリアルキレングリコール鎖(I)100質量%に対する質量比として、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が最も好ましい。
またポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するために、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が最も好ましい。
単量体(c)の特長を十分に発揮するための含有量は、ポリアルキレングリコール鎖(I)100質量%に対する重量比として、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上が最も好ましい。また30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
【0069】
ビニル系単量体成分が単量体(A)、単量体(a)および単量体(c)からなる場合、単量体(A)の特長を十分に発揮するための含有量は、ポリアルキレングリコール鎖(I)100質量%に対する質量比として、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が最も好ましい。
またポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するために、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が最も好ましい。
単量体(a)の特長を十分に発揮するための含有量は、ポリアルキレングリコール鎖(I)100質量%に対する質量比として、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が最も好ましい。
またポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するために、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が最も好ましい。
単量体(c)の特長を十分に発揮するための含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上が最も好ましい。また30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
【0070】
ビニル系単量体成分が単量体(A)、単量体(b)および単量体(c)からなる場合、単量体(A)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体成分100モル%に対するモル比として、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。
単量体(b)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体100モル%に対するモル比として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、40モル%以上が最も好ましい。
単量体(c)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体成分100モル%に対するモル比として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、5モル%以上が最も好ましい。また30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下が最も好ましい。
ポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するための含有量は、全ビニル系単量体成分100質量%に対する質量比として、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が最も好ましい。また50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が最も好ましい。
【0071】
ビニル系単量体成分が単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)からなる場合、単量体(A)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体成分100モル%に対するモル比として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が最も好ましい。また95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましく、80モル%以下が最も好ましい。
単量体(a)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体成分100モル%に対するモル比として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が最も好ましい。また95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましく、80モル%以下が最も好ましい。
単量体(b)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体成分100モル%に対するモル比として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましく、20モル%以上が最も好ましい。また80モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらにより好ましく、30モル%以下が最も好ましい。
単量体(c)の特長を十分に発揮するための含有量は、全単量体100モル%に対するモル比として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、5モル%以上が最も好ましい。また30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下が最も好ましい。
ポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するための含有量は、全ビニル系単量体成分100質量%に対する質量比として、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が最も好ましい。また50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が最も好ましい。
【0072】
上記一般式(1)におけるQは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、又は、Z(ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の残基)を表す。
本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)が有する、Qで表される構造部位の全てが、Zで表されるビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)の残基である場合には、該重合体(i)が有するポリアルキレングリコール鎖(上記一般式(1)において(AO)又は(AO)n’で表されるポリアルキレングリコール鎖)の全てが重合体(ii)に結合していることになる(例えば、上記式(A)参照。)。
一方、上記重合体(i)が有する、Qで表される構造部位のうち少なくとも1つが、Zで表されるビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)の残基以外の構造部位である場合には、該重合体(i)が有するポリアルキレングリコール鎖(上記一般式(1)において(AO)又は(AO)n’で表されるポリアルキレングリコール鎖)のうち少なくとも1つは重合体(ii)に結合していないことになる(例えば、上記式(B)参照。)。
このように、本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)は、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)に結合しないポリアルキレングリコール鎖を有していてもよい。
【0073】
上記活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基としては、Xで表される構造部位に関して活性水素を2個以上有する化合物の残基として上述したもののほか、活性水素を1個有する化合物の残基も挙げることができる。活性水素を1個有する化合物の残基としては、1価のアルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有するアルコール残基、1価のアミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有するアミン残基、1価のイミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有するイミン残基、1価のアミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有するアミド残基等が好適である。
Zで表される、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の残基については上述したとおりである。
【0074】
上述したように、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体(i)は、活性水素を3個以上有する化合物の、活性水素を有する部位の少なくとも3つ以上に、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖が結合し、該活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、該重合鎖が放射線状に枝分かれした多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体(重合体(i−a))と、そのような活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした上記重合鎖を有さない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体(重合体(i−b)及び(i−c))とを含み得る。中でも、ポリアルキレングリコール系重合体(i)は、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体であることが好ましい。この多分岐構造に起因する立体反発と、上記リン酸基を有する単量体(A)のセメント粒子への吸着機能との相乗効果により、上記重合体(i)のセメント粒子を分散させる性能が飛躍的に向上するからである。
このように、上記重合体(i)が多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体であること、すなわち、上記一般式(1)において、m+p≧3であり、かつXが活性水素を3個以上有する化合物の残基であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0075】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体としては、その取り扱い性やセメント混和剤用途に使用した場合のセメント組成物の保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が100万以下であることが好適である。より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、更により好ましくは20万以下、特に好ましくは15万以下である。また、セメント混和剤用途に用いる場合、ある程度セメント粒子に吸着した方が性能を発揮しやすく、Mwが大きいほど吸着力が大きくなるという観点から、Mwは1000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは1万以上であり、更により好ましくは2万以上であり、特に好ましくは3万以上である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、数平均分子量(Mn)が50万以下であることが好適である。より好ましくは25万以下、更に好ましくは15万以下、更により好ましくは10万以下、特に好ましくは75000以下である。Mnはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは2500以上であり、更に好ましくは5000以上であり、更により好ましくは10000以上であり、特に好ましくは15000以上である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、ピークトップ分子量(Mp)が100万以下であることが好適である。より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、特に好ましくは20万以下である。Mpはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは10000以上であり、特に好ましくは2万以上である。
なお、重合体の重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量は、後述するゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により求めることができる。
【0076】
<ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法>
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の製造方法について説明する。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤及び/又はポリアルキレングリコール鎖を有する高分子連鎖移動剤の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させることによって、製造することができる。上記高分子開始剤及び/又は高分子連鎖移動剤を使用することによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体にポリアルキレングリコール鎖が導入されることとなる。
【0077】
まず、ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させることによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法について説明する。
ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法としては、後述するポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子アゾ開始剤を用いることで、該高分子アゾ開始剤中のアゾ基が熱で分解し、ラジカルが発生して、そこからビニル系単量体成分の重合が開始される、という機構により製造する方法が挙げられる。
【0078】
まず、上記重合体(i−a)、すなわち、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)に結合する1つのポリアルキレングリコール鎖を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0079】
下記一般式(e):
−[Y―N=N−Y−(PAG)]− (e)
で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法、
下記一般式(f):
(PAG)−Y−N=N−Y−(PAG) (f)
で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法等。上記一般式(e)〜(f)における「PAG」はポリアルキレングリコール鎖を表し、「Y」は直接又は有機残基を表す。
なお、これら(e)〜(f)の高分子アゾ開始剤において、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)が重合体の構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖(PAG)は、末端(上記Yと結合している末端の反対側に位置する末端)に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基が直接又は有機残基を介して結合した構造を有することになる。
上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(5):
【0080】
【化8】

【0081】
(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R10は、同一又は異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0082】
上記一般式(5)におけるRの置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基については、上述したAOと同様である。nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0083】
上記一般式(5)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤のうち、AOがオキシエチレン基である繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が特に好適であり、その具体例としては、和光純薬工業株式会社から市販されている高分子アゾ開始剤VPEシリーズ、例えば、VPE−0201(数平均分子量約1.5〜3万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約2,000、m=45)、VPE−0401(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約4,000、m=90)、VPE−0601(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約6,000、m=135)等が挙げられる。
【0084】
上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(6):
【0085】
【化9】

【0086】
(式中、R11は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。R12は、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R13は、同一又は異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0087】
上記一般式(6)におけるR11の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0088】
上記一般式(6)で表される高分子アゾ開始剤は、例えば、アゾ基の両末端にカルボキシル基を有するアゾ開始剤(V−501など、和光純薬工業社製)と、ポリアルキレングリコールとをエステル化することにより得ることができる。エステル化の方法としては、加熱工程を行うとアゾ開始剤が分解するので、加熱工程を含まない製法が必要である。そのような製法としては、(1)アゾ開始剤に塩化チオニルを反応させて酸塩化物を合成した後、ポリアルキレングリコールを反応させて高分子アゾ開始剤を得る方法;(2)アゾ開始剤とポリアルキレングリコールとを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および必要に応じて4−ジメチルアミノピリジンを用いて、脱水縮合することにより高分子アゾ開始剤を得る方法;等が挙げられる。
【0089】
次に、上記重合体(i−b)、すなわち、活性水素を2個以上有する化合物の残基に結合する2つのポリアルキレングリコール鎖を有するポリアルキレングリコール系重合体、及び、上記重合体(i−c)、すなわち、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法としては、下記一般式(7):
【0090】
【化10】

【0091】
(式中、Xは、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。R14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。qは、2〜50の整数である。)で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法が好適である。
【0092】
上記一般式(7)において、Xで表される活性水素を2個以上有する化合物の残基は、上記一般式(1)のXについて説明した残基と同様である。Yで表される有機残基は、上記一般式(1)のY及びYについて説明した有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、上記一般式(1)のAOと同様である。kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、上記一般式(1)のnと同様である。
【0093】
上記一般式(7)におけるR14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表すが、例えば、炭素数1〜4の炭化水素基等が好適である。より好ましくは、メチル基である。
また、qは、活性水素を2個以上有する化合物の残基に結合するポリアルキレングリコール鎖の数を表し、2〜50の整数である。q=2である高分子アゾ開始剤を用いることで、上記非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体を製造することができる。また、Xが活性水素を3個以上有する化合物の残基であり、かつq≧3である高分子アゾ開始剤を用いた場合に、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造することができる。qの好ましい範囲は、上記一般式(1)におけるmとpとの合計値について述べたのと同様である。
【0094】
上記重合反応においては、上記一般式(5)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(6)で表される高分子アゾ開始剤以外に、通常使用されるラジカル重合開始剤を併用してもよい。通常使用されるラジカル重合開始剤としては、既知のあらゆるラジカル重合開始剤が使用可能である。
【0095】
次に、ポリアルキレングリコール鎖を有する高分子連鎖移動剤の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させることによって、本発明のポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法について説明する。
このような製造方法としては、例えば、下記一般式(2):
【0096】
【化11】

【0097】
(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基を表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下でビニル系単量体成分を重合する工程を含み、該ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含む製造方法を採用することが好ましい。
【0098】
上記ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法において、ポリアルキレングリコール鎖含有化合物としては、上記一般式(2)で表される構造を有するものであればよい。
上記一般式(2)におけるX、AO、n、n’、Y、Y、m及びpは、上記一般式(1)におけるものと同様である。また、Qで表される構造部位については、上記一般式(1)におけるQについて説明した基のうち、ビニル系単量体成分由来の構造単位を含む重合体の残基Z以外の基と同様である。
【0099】
上記一般式(2)において、Y又はYで表される有機残基としては、上述したように硫黄原子を含む基であることが好ましいが、この場合は、硫黄原子と上記一般式(2)の末端に存在する水素原子とが結合した形態であることが好適である。すなわち、上記一般式(2)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物は、メルカプト基(チオール基、SH基)を有する化合物であることが好適である(以下、このような化合物を「ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物」ともいう。)。これにより、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して重合を行うことが可能となり、より効率的かつ簡便に、しかも低コストで本発明のポリアルキレングリコール系重合体を製造することができることとなる。
【0100】
上記製造方法において、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いた場合には、そのメルカプト基から熱や光、放射線等によって発生したラジカル若しくは必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、メルカプト基に連鎖移動するか、又は、メルカプト基同士が結合してジスルフィド結合を形成していた場合にはそのジスルフィド結合を開裂させる。そして、該硫黄原子(S)を介して単量体が次々にポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に付加してビニル系単量体成分由来の構成単位(重合体(ii)の部位)を形成し、よって本発明のポリアルキレングリコール系重合体が効率的に得られることになる。
【0101】
上記製造方法によって、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−a)、すなわち、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体(ii)に結合する1つのポリアルキレングリコール鎖を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、(ポリ)アルキレングリコールと、カルボキシル基を有するチオール化合物(以下、単に「チオール化合物」ともいう。)とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
上記脱水縮合工程において、カルボキシル基を有するチオール化合物とは、1分子中にカルボキシル基(カルボン酸基)とメルカプト基とを有するメルカプトカルボン酸基含有化合物であればよい。
このようなメルカプトカルボン酸基含有化合物としては、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等が挙げられる。中でも、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸が好適である。
【0102】
本発明においては、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことになる。
例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下で重合反応を行った場合には、上述したように末端の硫黄原子(S)を介して単量体が次々にポリアルキレングリコール鎖含有化合物に付加して上記重合体(ii)が形成され、よって、本発明の重合体(i)が主成分として生成することになるが、上記重合体(ii)の構造が2以上繰り返されている形態や、単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)のうち1以上の単量体に由来する構成単位を有する重合体が副次的に生成することもある。
【0103】
ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の使用量が少なすぎると、上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物に起因する効果が充分に発揮できないおそれがあり、多すぎると、ビニル系単量体成分由来の性能が充分に発揮されないおそれがある。
上記重合反応において、上記一般式(5)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(6)で表される高分子アゾ開始剤の使用量、又は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物(好ましくはポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物)の使用量と、上記ビニル系単量体成分の単量体(A)、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量との関係は、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)の特長を十分に発揮するための好ましい含有量について上述したものと同様である。
【0104】
上記重合反応は、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
上記溶液重合のうち、水溶液重合では、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが、重合後に不溶成分を除去する必要がないので好適である。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0105】
また低級アルコール類、芳香族若しくは脂肪族炭化水素類、エステル類又はケトン類を溶媒とする溶液重合や塊状重合では、ラジカル重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等のアゾ系開始剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、両親媒性のラジカル重合開始剤を用いることが、重合後に不溶成分を除去する必要がないので好適であり、両親媒性アゾ系開始剤が最も好適である。なお、この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。
更に水と低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤、又は、上記ラジカル重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して用いることができる。
【0106】
上記重合反応にはまた、通常の連鎖移動剤を併用してもよい。使用可能な連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩等の親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0107】
上記連鎖移動剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよいし、更に、例えば、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。
上記連鎖移動剤の使用量は、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の態様や量に応じて適宜設定すればよいが、ビニル系単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.25モル以上、更に好ましくは0.5モル以上であり、また、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、更に好ましくは10モル以下である。
【0108】
上記重合反応において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、重合温度としては、0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0109】
また上記ビニル系単量体成分の反応容器への投入方法は特に限定されるものではなく、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法のいずれであってもよい。なお、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また、目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0110】
上記の重合反応により得られる反応生成物には、ポリアルキレングリコール系重合体の他、上述した副生成物としての種々の重合体を含むことがあるため、必要に応じて、個々の重合体を単離する工程に付してもよいが、通常、作業効率や製造コスト等の観点から、個々の重合体を単離することなく、各種用途に使用してもよい。
【0111】
上記製造方法(ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含む製造方法)によって、上記重合体(i−b)、すなわち、活性水素を2個以上有する化合物の残基に結合する2つのポリアルキレングリコール鎖を有するポリアルキレングリコール系重合体、及び、上記重合体(i−c)、すなわち、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
このような製造方法において、上記活性水素を有する化合物としては、上述したように、アルコール、アミン、イミン、アミド化合物等が好ましく、中でも、アミン、(ポリ)アルキレンイミン及びアルコールが好適である。これらについては、上述したとおりである。
上記アルキレンオキシドもまた、上述したとおりである。
また上記活性水素を有する化合物と、アルキレンオキシドとの反応モル比としては、上述したポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数の好適範囲になるよう、適宜設定することが好ましい。
【0112】
上記製造方法においては、このようにして得られる活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させることにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得ることができる。この脱水縮合工程については、上述したとおりである。
また、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−b)及び(i−c)を得ることができる。上記ビニル系単量体成分の重合反応については、上述したとおりである。
【0113】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体(i)は、例えば、接着剤、シーリング剤、各種重合体への柔軟性付与成分、セメント混和剤、洗剤ビルダー等の種々の用途に好適に用いることができ、中でも、上述したように極めて高度のセメント分散性能及びスランプ保持性能を発揮できることから、セメント混和剤用途に用いることが好適である。このように、上記ポリアルキレングリコール系重合体を含むセメント混和剤もまた、本発明の1つである。
上記セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような上記セメント混和剤を含んでなるセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0114】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0115】
本発明のセメント混和剤としては、高減水率領域においても流動性、保持性及び作業性をバランスよく高性能で発揮でき、優れた作業性を有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等にも有効に使用することが可能であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0116】
上記セメント混和剤としてはまた、他の公知のセメント添加剤と組み合わせて用いることもできる。中でも、消泡剤や、AE剤を併用することが特に好ましい。
【発明の効果】
【0117】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体は、上述の構成よりなり、極めて優れた分散性能及びスランプ保持性能を発揮できることから、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0118】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「重量部」をそれぞれ意味するものとする。また、「wt%」は「質量%」を意味するものとする。
まず、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物やその重合体及び比較用重合体の分析方法として、液体クロマトグラフィー(LC)分析条件・解析条件、及び、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析条件・解析条件について説明する。また、これらの固形分を求める測定法についても説明する。
【0119】
<LC分析法>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:Waters社製 Atlantis dC18 ガードカラム+カラム(粒径5μm、内径4.6mm×250mm×2本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整したもの
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
試料液注入量:100μL(試料濃度1〜2質量%の溶離液溶液)
【0120】
<LC解析条件:原料アルコール(付加物)の消費率及び平均SH導入数>
原料成分であるアルコール(付加物)の消費率は、以下のようにして概算した。
LC分析により、メルカプト基が全く導入されなかったもの(未反応原料)、メルカプト基が1つ導入されたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(「PAGチオール化合物」ともいう。)、・・・、メルカプト基が(m+p)個導入されたPAGチオール化合物のピークが分離される。これらのRI(示差屈折率計)面積比(%)をS、S、・・・Sm+pとし、原料成分のアルコールの消費率は、以下の式(1)により概算した。
【0121】
【数1】

【0122】
またPAGチオール化合物中の平均SH導入数は、以下の式(2)により概算した。
【0123】
【数2】

【0124】
<GPC分析法>
ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体や比較用重合体の重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量は、以下の測定条件により測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsSWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整したもの
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した。
流量:1mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG、PAGチオール化合物は試料濃度0.4質量%、重合体は試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
【0125】
<GPC解析条件1(PAGチオール化合物(単量体)の分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析した。多量体や不純物が目的ピークに一部重なって測定された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定した。
単量体純分量及び多量化物量の計算;
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
単量体純分量=(PAGチオール化合物面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
多量化物量=(多量化物ピーク面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
【0126】
<GPC解析条件2(重合体の分析)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、重合体溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、重合体を検出・解析した。ただし、単量体や単量体成分由来の不純物のピークが重合体ピークに一部重なって測定された場合、それらと重合体の重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を測定した。重合体部とそれ以外が完全に重なり分離できない場合はまとめて計算した。
重合体純分の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+単量体や不純物のピーク面積)
【0127】
<固形分の測定法(PAGチオール化合物及び重合体の分析)>
サンプル約0.5gをアルミ皿に量り採り、水約1gで希釈して均一に広げた。窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥させ、デシケーター中で放冷した後、乾燥後質量を量った。乾燥前後の質量差により固形分(不揮発分)濃度を計算した。
PAGチオール化合物や重合体の水溶液の濃度としては、特に断りがない限り、上記の手順で測定した固形分を用いた。
【0128】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(PAGチオール化合物)>
製造例1
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、エチレンオキシドの付加モル数100のポリアルキレングリコール(PEG−100、日本触媒社製、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA、和光純薬工業社製、80.34g)、p−トルエンスルホン酸一水和物(PTS・1HO、和光純薬工業社製、31.61g)、フェノチアジン(PTZ、和光純薬工業社製、0.7902g)、シクロへキサン(CyH、79.02g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、40.0時間加温還流して反応終了とした。
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(21.05g)に水(1507.51g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(1))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、PEG−100の消費率100.0%、PEG−100一分子に対する平均SH導入数は1.95個であった。ここから分子量を4532とした。またGPC分析結果は、単量体量94.2%、残りが多量体であった。
【0129】
製造例2
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、ソルビトール1モルにエチレンオキシドを450モル付加したポリアルキレングリコール鎖含有ヘキサオール(SB−450、日本触媒社製、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA、52.53g)、p−トルエンスルホン酸一水和物(PTS・1HO、31.05g)、フェノチアジン(PTZ、0.7763g)、シクロへキサン(CyH、77.63g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、42.0時間加温還流して反応終了とした。
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(20.68g)に水(1487.45g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(2))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、SB−450の消費率100%、SB−450一分子に対する平均SH導入数は5.05個であった。ここから分子量を20450とした。またGPC分析結果は、単量体量84.2%、残りが多量体であった。
【0130】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール重合体(重合体実施例1〜10、重合体比較例1〜3)>
以下の実施例では、リン酸基を有する単量体(A)として、共栄社化学社製ライトエステルP−1M<リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルとリン酸トリ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物>を使用した。分析結果より、モノエステル(Mw:210.12)、ジエステル(Mw:322.25)、トリエステル(Mw:434.37)のモル組成比はそれぞれ60、30、10(mol%)であったため、平均分子量を266.18として計算を行った。
【0131】
<重合体実施例8>
単量体溶液としてメタクリル酸(MAA、1.30g)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ME23E、平均エチレンオキシド付加数23モル:新中村化学工業社製 NKエステルM230G、50.50g)、製造例1で得たPAGチオール化合物(1)(4.17g、ただし固形分換算)、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルとリン酸トリ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物(共栄社化学社製 ライトエステルP−1M)(4.02g)にイオン交換水を加えて合計100gにした溶液を調製した。
開始剤溶液として、2,2’-azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬工業社製 V−50、0.041g)にイオン交換水を加えて合計50gにした溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器にイオン交換水100gを仕込み、300rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃まで加温した。
続いて上記の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応容器中に滴下した。滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却して、目的重合体(重合体8)の水溶液を得た。
GPC分析の結果、重合体はMw=38600、Mp=38300、Mn=23200であった。また重合体純分は95.5%であった。
【0132】
<重合体実施例1〜4、9、10>
重合体実施例8において原料化合物や使用量を表1及び2に記載のように変更した他は、重合体実施例8と同様にして合成を行い、目的重合体(重合体1〜4、9、10)の水溶液を得た。
得られた重合体のGPC分析結果を表2に示す。
【0133】
<重合体実施例5>
単量体溶液として、アクリル酸(AA、0.85g)、イオン交換水(6.15g)の溶液を調製した。
開始剤溶液として、2,2’-azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬工業社製 V−50、0.0641g)にイオン交換水を加えて合計37.5gにした溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器にリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルとリン酸トリ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物(共栄社化学社製 ライトエステルP−1M)(3.15g)、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(MB−E50、平均エチレンオキシド付加数50モル、54.12g)、製造例1で得たPAGチオール化合物(1)(4.38g、ただし固形分換算)、イオン交換水(143.85g)を仕込み、300rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃に加温した。
続いて上記の単量体溶液を1時間、開始剤溶液を2時間かけて反応容器中に滴下した。
滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpHを6.0に調整し、目的重合体(重合体5)の水溶液を得た。
GPC分析の結果、重合体はMw=18700、Mp=22100、Mn=10800で
あった。また重合体純分は29.6%であった。
【0134】
<重合体実施例6、7>
重合体実施例5において原料化合物や使用量を表1及び2に記載のように変更した他は、重合体実施例5と同様にして合成を行い、目的重合体(重合体6、7)の水溶液を得た。
得られた重合体のGPC分析結果を表2に示す。
【0135】
<重合体比較例1>
重合体実施例8において、原料化合物や反応条件等を表1及び2に記載のように変更した。ここではリン酸基を有する単量体(A)を使用せず、代わりに等モル量のカルボン酸系単量体(a)を使用した。他は、重合体実施例8と同様にして合成を行い、目的重合体(比較重合体1)の水溶液を得た。
得られた重合体のGPC分析結果を表2に示す。
【0136】
<重合体比較例2、3>
それぞれ重合体実施例9、10において、リン酸基を有する単量体(A)を使用せず、代わりにモル当量のカルボン酸系単量体(a)を用いた他は、重合体実施例9、10と同様にして合成を行い、それぞれ目的重合体(比較重合体2、3)の水溶液を得た。
得られた重合体のGPC分析結果を表2に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
【表2】

【0139】
表1及び2における略称は以下のとおりである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
P−1M:リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルとリン酸トリ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物
ME23E:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均エチレンオキシド付加数23モル)
MB−E50:3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(平均エチレンオキシド付加数50モル)
PAG−SH:PAGチオール化合物
P100S2:PAGチオール化合物(1)
S450S6:PAGチオール化合物(2)
V−50:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩
なお、表2においては、PAGチオール化合物の配合割合を外割で考慮しているため合計は100%になっていない。
【0140】
<セメント分散性能の評価方法:モルタル試験>
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=550/1350/220(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:本発明重合体又は比較重合体、及び、消泡剤のイオン交換水溶液
である。
Wとして、表3−1〜3−3に示した添加量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA−404(ポゾリス物産製)を有姿で重合体固形分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一な溶液とした。表3−1〜3−3において重合体の添加量は、セメント質量に対する重合体固形分の質量%で表されている。
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。S投入終了後、2速で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に60秒間2速で混練を行い、モルタルを調製した。
【0141】
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフローテーブル(JIS R5201−1997に記載)に置かれたフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補い、フローコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を0打フロー値とした。0打フロー値を測定後、直ちに15秒間に15回の落下運動を与え、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を15打フロー値とした。モルタル調製直後(初期)における15打フロー値を表3−1〜3−3に示す。
なお、15打フロー値は、数値が大きいほど、分散性能が優れている。
【0142】
<モルタル空気量の測定法>
モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。結果を表3−1〜3−3に示す。
【0143】
<モルタル実施例1−1〜1−4、モルタル比較例1>
リン酸基を有する単量体(A)、PAG(ポリアルキレングリコール)系単量体(b)及びPAGブロック鎖(I)(ポリアルキレングリコール鎖(I))からなる重合体(i)である重合体1〜4を用いて、モルタル試験により性能評価を行なった。比較例として、プレーン(重合体を添加しない)モルタル試験を行なった。結果を表3−1に示す。
重合体を添加しないモルタル比較例1の15打フロー値が143mmであるのに対し、重合体1〜4を各0.18wt%/セメント添加したモルタル実施例1−1〜1−4では、15打フロー値が172〜202mmと高い値を示した。このことより、リン酸基を有する単量体(A)、PAG系単量体(b)及びPAGブロック鎖(I)からなる重合体(i)がセメント分散性を有することが明確である。
【0144】
【表3−1】

【0145】
<モルタル実施例2−1〜2−3、モルタル比較例2>
リン酸基を有する単量体(A)、カルボン酸系単量体(a)、PAG系単量体(b)及びPAGブロック鎖(I)からなる重合体(i)である重合体実施例5〜7を用いて、モルタル試験により性能評価を行なった。比較例として、プレーン(重合体を添加しない)モルタル試験を行なった。結果を表3−2に示す。
重合体を添加しないモルタル比較例2の15打フロー値が142mmであるのに対し、重合体5〜7を各0.22wt%/セメント添加したモルタル実施例2−1〜2−3では、15打フロー値が154〜157mmと高い値を示した。このことより、リン酸基を有する単量体(A)、カルボン酸系単量体(a)、PAG系単量体(b)及びPAGブロック鎖(I)からなる重合体(i)がセメント分散性を有することが明確である。
【0146】
【表3−2】

【0147】
<モルタル実施例3−1〜3−3、モルタル比較例3−1〜3−4>
リン酸基を有する単量体(A)、カルボン酸系単量体(a)、PAG系単量体(b)及びPAGブロック鎖(I)からなる重合体(i)である重合体実施例8〜10を用いて、モルタル試験により性能評価を行なった。比較例として、単量体(A)を有しない比較重合体1〜3用いた試験を行なった。また比較例として、プレーン(重合体を添加しない)モルタル試験を行なった。結果を表3−3に示す。
比較重合体1のカルボン酸系単量体(a)のうち、モル量で半分をリン酸基を有する単量体(A)に置換したものが重合体8に相当する。重合体8を用いたモルタル実施例3−1の15打フロー値は155mmであり、重合体を添加しないモルタル比較例3−4の15打フロー値144mmよりも高いことから、重合体8はセメント分散性を有することが明確である。さらにモルタル実施例3−1の15打フロー値は、同一添加量の比較重合体1を用いた、モルタル比較例3−1の15打フロー値135mmよりも高いことから、単量体(A)を用いた重合体(i)が、単量体(A)を用いない重合体よりも高いセメント分散性を有することが明確である。
同様に、比較重合体2、3のカルボン酸系単量体(a)のうち、モル量で半分をリン酸基を有する単量体(A)に置換したものが、それぞれ重合体9、10に相当する。重合体9、10を用いたモルタル実施例3−1、2の15打フロー値は、重合体を添加しないモルタル比較例3−4よりも著しく高い値を示し、重合体9、10はセメント分散性を有することが明確である。さらに、それぞれ対応する比較重合体2、3を用いたモルタル比較例3−2、3−3の15打フロー値よりも、同一添加量で著しく高い値を示すことから、単量体(A)を用いた重合体(i)が、単量体(A)を用いない重合体よりも高いセメント分散性を有することが明確である。
【0148】
【表3−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体であって、
該重合体は、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の残基である。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、又は、Zを表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表される構造を有し、
該ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項2】
前記ビニル系単量体成分は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を必須に含む
ことを特徴とする請求項1に記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項3】
前記ビニル系単量体成分は、不飽和カルボン酸系単量体を必須に含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項4】
前記ビニル系単量体成分は、不飽和カルボン酸系単量体を含まない
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項5】
ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と直接又は有機残基を介して結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、下記一般式(2):
【化2】

(式中、Xは、酸素原子、又は、活性水素を2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n及びn’は、夫々同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。Y及びYは、夫々同一又は異なって、直接結合又は有機残基を表す。Qは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基を表す。m及びpは、1〜50の整数である。)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下でビニル系単量体成分を重合する工程を含み、
該ビニル系単量体成分は、リン酸基を有する単量体を必須に含む
ことを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法によって得られることを特徴とするポリアルキレングリコール系重合体。
【請求項7】
請求項1〜4、6のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント分散剤。
【請求項8】
請求項1〜4、6のいずれかに記載のポリアルキレングリコール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項9】
請求項8に記載のセメント混和剤を含む
ことを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2012−232872(P2012−232872A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102316(P2011−102316)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】