説明

リン酸肥料の製造方法

【課題】有機性排水から肥料効率の高いリン酸肥料を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを容器内に収納し、水蒸気の存在下で50〜150℃に0.5〜2時間程度加熱することにより、MgNH3PO4・H2Oに変換する。加熱方法は、撹拌加熱、流動加熱などの様々な方法を取ることができる。この物質はMgNH3PO4・6H2Oよりも安定しており、空気中や土壌中において容易に分解することがない。このためリン酸肥料として用いれば長期間にわたり土中に留まり、高い肥料効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水から回収したリンを含有するリン酸肥料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水などの有機性排水中にマグネシウム成分を添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の結晶を析出させることにより、有機性排水からリンとアンモニアとを除去する技術が開発されている。回収されたMAPは加熱してアンモニア吸収能を回復させ、再利用することが可能であるが、特許文献1、2に示されるように、回収されたMAPをリン酸肥料とすることも提案されている。
【0003】
ところが有機性排水から回収されたMAPは、(MgNH3PO4・6H2O)の6水塩の形態であり、空気中において徐々にアンモニアと水とを放出し、マグネシアとリン酸に分解してしまう性質を持っている。このため、MAPをリン酸肥料として畑などに散布しても長く土中に留まることができず、雨水とともにリン酸成分が流失し、またアンモニアとして大気中に放出されてしまい、高い肥料効率を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開平9−262599号公報
【特許文献2】特開2000−93160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、有機性排水から肥料効率の高いリン酸肥料を製造することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためになされた本発明のリン酸肥料の製造方法は、有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを容器内に収納し、水蒸気の存在下で50〜150℃に加熱することによりMgNH3PO4・H2Oに変換することを特徴とするものである。加熱時間は0.5〜2時間とすることが好ましい。具体的には、有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを通気性容器に収納して回転させながら、外周から加熱する方法や、有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを粒状に成形したうえ、加熱炉内で流動させつつ加熱する方法、あるいは有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを、粒状に成形したうえ、水蒸気を通して加熱する方法などを適宜採用することができる。なお、1水塩の形態のMAP自体は公知物質であるが、これまでその生成条件は解明されていなかった。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを水蒸気の存在下で0.5〜2時間程度、50〜150℃に加熱することにより、MgNH3PO4・H2Oに変換する。この1水塩の形態のMAPは6水塩に比較して極めて安定しており、空気中や土壌中において容易に分解することがない。このためリン酸肥料として用いれば長期間にわたり土中に留まり、高い肥料効果を得ることができる。また、加熱のためのエネルギー源として低温低圧の水蒸気を使用することができ、経済性にも優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明においても、従来と同様にリンとアンモニアとを含有する有機性排水にマグネシウム成分を添加し、MgNH3PO4・6H2Oの結晶を析出させる。この工程は前記の特許文献にも記載のとおり公知である。しかし本発明では、このMgNH3PO4・6H2Oを水蒸気の存在下で0.5〜2時間程度、50〜150℃に加熱することにより、MgNH3PO4・H2Oに変換する。
【0008】
なお、MgNH3PO4・6H2Oを加熱した加熱MAPはアンモニア吸収能を持つことが従来から知られているが、これはアンモニアを放出したMg(PO4)・4H2O、Mg(PO4)・3H2O、Mg(PO4)・2H2Oなどの結晶であり、MgNH3PO4・H2Oではない。また150℃より高温で加熱したり、水蒸気の非存在下で加熱すると非晶質となり、やはりMgNH3PO4・H2Oとはならない。加熱温度が50℃未満であってもMgNH3PO4・H2Oにはならない。好ましい温度範囲は80〜120℃であり、経済性の観点からより好ましい温度範囲は80〜100℃である。加熱時間は0.5〜2時間である。0.5時間未満では反応不足となり、1時間を越えてもさらに反応が進行する訳ではないので、2時間以上加熱するのは経済性の観点から好ましくない。
【0009】
このような方法を実施するためには、例えば図1に示される装置を用いることができる。この装置は、外側容器1と内側容器2とからなり、内側容器2は例えば金属フィルタ素材等から成る通気性容器としておく。その内側容器2に有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを収納し、モータ3により回転させる。外側容器1にはヒータ4が設けられており、その内部を80〜120℃程度に加熱する。また外側容器1にはガスの流入口5と排出口6とドレン排出口7が設けられており、流入口5から水蒸気及びパージガスNを導入し、回転軸8を通じて内側容器2内に供給する。
【0010】
内側容器2に収納されたMgNH3PO4・6H2Oは水蒸気の存在下に加熱され、再生ガス(NH3+H2O+N)は排出口6から、またドレンはドレン排出口7から放出される。このようにして0.5〜2時間の加熱処理を行えば、MgNH3PO4・H2Oが得られる。得られたMgNH3PO4・H2Oは安定性に優れ、空気中や土壌中において容易に分解することがないから、リン酸肥料として高い肥料効果を発揮する。この実施形態では加熱源としてヒータ4を用いたが、利用価値の低い100℃付近の低圧蒸気を加熱源として用いることもでき、経済的に反応を進行させることができる。
【0011】
図2は別の実施形態を示し、有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを底部に空気分散板9と空気室10を備えた容器11内に収納し、80〜120℃の水蒸気を含んだ空気を空気分散板9から上向きに噴出させ、MgNH3PO4・6H2Oを流動させる。容器11の上部から内部のガスを抜き取り、サイクロン12で気体と固体とを分離し、固体は容器11の下部に戻す。このようにして0.5〜2時間の加熱処理を行えば、MgNH3PO4・H2Oを得ることができる。
【0012】
このほか、図3に示すように有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを予め造粒しておき、造粒体13を容器14の内部に充填し、水蒸気を通して加熱する方法を取ることもできる。このように造粒しておけば相互間に流路を確保できるので、図1や図2のようにMgNH3PO4・6H2Oを回転させたり流動させたりする必要はない。また粒状のリン酸肥料を得ることができるので、後の処理に手数を要しない。
【0013】
上記したように、様々な方法によりMgNH3PO4・6H2OをMgNH3PO4・H2Oに変換することができ、肥料効率の高いリン酸肥料を製造することができる。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0014】
有機性排水から回収されたMAPの結晶構造をXRDにより解析したところ、図4のとおりであり、MgNH3PO4・6H2Oであることが確認された。また、そのかさ密度は0.4〜0.45g/cm3であった。このMgNH3PO4・6H2Oを図1に示した金属フィルタ素材等から成る通気性の内側容器に入れ、回転モータによって10rpmの回転速度で回転させた。またその外周から電気ヒータで加熱し、MgNH3PO4・6H2Oを105℃に加熱した。内側容器の内部には窒素と水蒸気との混合ガスを供給し、水蒸気の存在下で50分間の加熱を行った。その後、内側容器の内部から取り出した物質の結晶構造をXRDにより解析したところ、図5のとおりであり、MgNH3PO4・H2Oに変換されたことを確認できた。
【0015】
これに対して、比較のために内側容器の内部に窒素ガスを供給し、水蒸気の非存在下で50分間の加熱を行ったところ、得られた物質は図6に示される非晶質MAPとなり、リン酸肥料を得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態の説明図である。
【図2】第2の実施形態の説明図である。
【図3】第3の実施形態の説明図である。
【図4】実施例におけるMgNH3PO4・6H2OのXRDチャートである。
【図5】実施例におけるMgNH3PO4・1H2OのXRDチャートである。
【図6】非晶質MAPのXRDチャートである。
【符号の説明】
【0017】
1 外側容器
2 内側容器
3 モータ
4 ヒータ
5 流入口
6 排出口
7 ドレン排出口
8 回転軸
9 空気分散板
10 空気室
11 容器
12 サイクロン
13 造粒体
14 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを容器内に収納し、水蒸気の存在下で50〜150℃に加熱することによりMgNH3PO4・H2Oに変換することを特徴とするリン酸肥料の製造方法。
【請求項2】
加熱時間を0.5〜2時間とすることを特徴とする請求項1記載のリン酸肥料の製造方法。
【請求項3】
有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを通気性容器に収納して回転させながら、外周から加熱することを特徴とする請求項1記載のリン酸肥料の製造方法。
【請求項4】
有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを、加熱炉内で流動させつつ加熱することを特徴とする請求項1記載のリン酸肥料の製造方法。
【請求項5】
有機性排水から回収されたMgNH3PO4・6H2Oを、粒状に成形したうえ、水蒸気を通して加熱することを特徴とする請求項1記載のリン酸肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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