説明

リン酸肥料

【課題】過リン酸石灰やリン酸苦土肥料などリン酸質肥料に鶏糞燃焼灰、生石灰などカルシウム質物質を配合して該リン酸質肥料に含まれる水溶性リン酸を水に不溶且つ2%クエン酸可溶リン酸に変化させ、土壌中のアロフェン等と結合することの無い、且つ作土層外に流亡することの無い、更には硫安などアンモニウム塩を含む肥料と混合してもアンモニアガスを発生させないリン酸肥料を提供する。
【解決手段】水溶性リン酸を含むリン酸質肥料100重量部に対してカルシウム質物質10〜250重量部を配合するクエン酸可溶なリン酸肥料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶けず且つ2%クエン酸に可溶(以下、クエン酸可溶という)なリン酸肥料に関し、更に詳細には、過リン酸石灰、リン酸苦土肥料などリン酸質肥料に鶏糞燃焼灰、生石灰などカルシウム質物質を配合してリン酸質肥料に含有の水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させ、該水溶性リン酸を土壌中で固定化すること並びに土壌中の作土層外に流亡することを軽減し、更には硫安などアンモニウム塩を含む肥料と混合してもアンモニアガスを発生させないリン酸肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
過リン酸石灰は化学肥料の中で最も歴史のある肥料であり、1840年代から第1リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2)と硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)から成る混合物のリン酸質肥料として広く使用され、また重過リン酸石灰は第1リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2)として過リン酸石灰よりリン酸含有量の豊富な肥料として使用されている。また加工リン酸肥料は該第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウムCaHPO4)、ケイ酸石灰(CaO・SiO2)、第1リン酸苦土(リン酸二水素マグネシウムMg(H2PO4)2)、第2リン酸苦土(リン酸水素マグネシウムMgHPO4)、などの化合物からなり、リン酸苦土肥料は該第1リン酸苦土、該第2リン酸苦土などからなっている。これらを原材料として成されるその他の肥料と共に、いずれの肥料も水に溶解する水溶性リン酸すなわち該第1リン酸カルシウムもしくは該第1リン酸苦土の含有量が多いことより、いずれも肥料として速効性があることは良く知られている。
一方、前記リン酸質肥料由来の水溶性リン酸は、日本列島の土壌に多い酸性土壌や火山灰起源の土壌に多いアロフェンと呼ばれる粘土鉱物に含まれる遊離のアルミナやその他遊離の酸化鉄と強固に結合して安定物質となって、次第に該水溶性リン酸のほとんどが土壌中に蓄積されてしまう。すなわち、この安定物質は水に不溶なリン酸化合物であり、このような物質に化学変化すると植物の根毛より分泌される根酸であっても、最早、該アルミナや該酸化鉄と水溶性リン酸に分解することができなくなり、植物はリン酸を肥料として吸収することが困難となる。更に、植物に吸収されないで作土層外に流亡してしまう水溶性リン酸もあり、結局は、施肥した該リン酸質肥料のわずかしか植物は利用できず、その肥効は数%であると言われている。
【0003】
その対処方法として、できるだけ多くのリン酸を肥料として植物に吸収させるために施肥頻度を上げてリン酸質肥料を追肥する方法が採用され、あるいは1回の施肥を多めに施用することなどが一般的に行われている。しかしながら、このような施肥方法はリン酸質肥料の無駄使いであり、リン酸質肥料の肥効を上げるという本質的な解決方法になっていない。
すなわち、前記リン酸質肥料を施肥したときに植物はその植物自体の吸収能力に応じた水溶性リン酸しか吸収できず、吸収されないで残った該水溶性リン酸は次第に土壌中でアロフェン等と安定物質である前記リン酸化合物を形成して固定化され、あるいは作土層外に流亡する。この該水溶性リン酸の固定化あるいは流亡化に対処する従来技術は存在せず、関連技術として土壌への流失量が少ないというリン酸添加混合有機肥料の処理方法にその一例がある。具体的には、家畜の糞尿にク溶性リン酸(水に溶け、且つ2%のクエン酸にも溶ける)を含むリン酸物質を添加混合する製造技術が提案され、あるいは更にこの混合物を脱水して粉状にする製造技術が提案されているが、この混合肥料あるいは粉状肥料に予めク溶性リン酸成分を添加含有させることによって施肥後の水溶性リン酸成分の流出量を少なくさせることを目的とした提案(特許文献1)であって、水溶性リン酸を化学反応によりクエン酸可溶リン酸(水に溶けず、且つ2%クエン酸に可溶なリン酸)に変化させて植物の根毛から分泌される2%クエン酸可溶リン酸に相当する根酸に可溶なリン酸肥料を生成することを目的としてはいない。
言い換えれば、従来技術による上記リン酸添加混合有機肥料を植物が一度に吸収する量には限度があり、結局、その多くの水溶性リン酸は土壌中に滞留して前記同様に土壌中の遊離のアルミナや酸化鉄と強固に結合して安定物質となって蓄積されたり、あるいは作土層外に流亡してしまう。該当する植物にできるだけ多くの水溶性リン酸を肥料として吸収させるためには、やはり施肥頻度を上げてリン酸質肥料を追肥する方法しかなく、土壌中に蓄積されるという無駄や作土層外に流亡するという無駄をなくすための本質的な解決策が必要となっているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−330143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、過リン酸石灰やリン酸苦土肥料などリン酸質肥料に鶏糞燃焼灰、生石灰などカルシウム質物質を配合して該リン酸質肥料に含まれる水溶性リン酸を水に不溶且つ2%クエン酸可溶リン酸に変化させ、土壌中のアロフェン等と結合することの無い、且つ作土層外に流亡することの無い、更には硫安などアンモニウム塩を含む肥料と混合してもアンモニアガスを発生させないリン酸肥料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、請求項1記載のクエン酸可溶なリン酸肥料は、水溶性リン酸を含むリン酸質肥料100重量部に対してカルシウム質物質10〜250重量部を配合することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載のクエン酸可溶なリン酸肥料は、水溶性リン酸を含むリン酸質肥料が過リン酸石灰、重過リン酸石灰、加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料およびこれらを原材料として成された肥料からなる群の少なくともいずれか一つを用いたものである。
【0008】
請求項3記載のクエン酸可溶なリン酸肥料は、カルシウム質物質が鶏糞燃焼灰、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいからなる群の少なくともいずれか一つを用いたものである。
【0009】
請求項4記載のクエン酸可溶なリン酸肥料は、水溶性リン酸を含むリン酸質肥料100重量部に対してカルシウム質物質10〜250重量部を配合したものにバインダーを添加して造粒することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載のクエン酸可溶なリン酸肥料は、バインダーが糖蜜発酵副産濃縮液、リグニンスルホン酸塩、コーンスチープリカー、CMC、でんぷん粉、石膏、水からなる群の少なくともいずれか一つを用いたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクエン酸可溶なリン酸肥料のうちクエン酸可溶なリン酸カルシウムは、リン酸質肥料たとえば過リン酸石灰にカルシウム質物質たとえば鶏糞燃焼灰を混合するので、リン酸質肥料含有の水溶性リン酸がカルシウム質物質含有のカルシウム分と化学反応してカルシウム分の多いクエン酸可溶リン酸カルシウムに変化し、土壌中のアロフェンとの結合を防止することができ、且つ作土層外に流亡することもない。また、本発明のクエン酸可溶なリン酸肥料のうちクエン酸可溶リン酸苦土は、リン酸質肥料たとえばリン酸苦土肥料にカルシウム質物質たとえば鶏糞燃焼灰を混合するので、リン酸質肥料含有の水溶性リン酸がカルシウム質物質含有のカルシウム分と化学反応してカルシウム分及び苦土分の多いクエン酸可溶リン酸に変化し、土壌中のアロフェンとの結合を防止することができ、且つ作土層外に流亡することもない。
且つ、カルシウム分もしくは苦土分の多い本発明のクエン酸可溶リン酸は水に溶けることがなく、同時に植物の根毛から分泌される根酸(2%クエン酸溶液に相当する)に溶解するので、植物は該クエン酸可溶リン酸を必要に応じて吸収することができ、リン酸肥料の無駄がない。
カルシウム質物質の配合量を一定限度以下に制限しているので、硫安などアンモニウム塩を含む肥料と混合してもアンモニアガスが発生することがない。
更に、使用原料であるリン酸質肥料とカルシウム質物質を混合した物にバインダーを添加して造粒すると、粒子が自壊することのない強度を保持し、大量に且つ短時間で効率良くクエン酸可溶なリン酸肥料を生産することができる。粒状のクエン酸可溶なリン酸肥料であるので施肥作業時に飛散がない。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、クエン酸可溶リン酸成分が豊富で且つ飛散流亡のないリン酸肥料であり、広く利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
そこで、本発明の実施の形態を、以下図および表に基づいて説明する。
本発明のクエン酸可溶なリン酸肥料は、その原料として過リン酸石灰等リン酸質肥料に鶏糞燃焼灰等カルシウム質物質を混合配合した肥料で、更に添加剤として糖蜜発酵副産濃縮液などのバインダーを添加しながら粒状に造粒された肥料である。
以下に本発明に使用する各原料の特徴について説明し、次いで、製造されるリン酸肥料の特徴について説明する。
【0015】
先ず、原料としてのリン酸質肥料のうち過リン酸石灰および重過リン酸石灰について説明する。
過リン酸石灰および重過リン酸石灰であるリン酸質肥料は、農林水産省の定める肥料公定規格のリン酸質肥料に規定されている肥料である。
該過リン酸石灰は、粉末状に粉砕したリン鉱石Ca3(PO4)2に硫酸H2SO4を作用させて生成する。その生成物は第1リン酸カルシウムCa(H2PO4)2と硫酸カルシウムCaSO4・2H2O の混合した粉体で、水溶性リン酸が17〜18重量%含まれ、クエン酸可溶リン酸が2〜3重量%で、水に溶解する水溶性リン酸が多いことより速効性肥料として広く使用されている。
一方、重過リン酸石灰も粉末状に粉砕したリン鉱石Ca3(PO4)2を原料とし、リン酸H3PO4を作用させて生成する。その生成物は過リン酸石灰と同じ第1リン酸カルシウムCa(H2PO4)2の粉体で、水溶性リン酸が33〜34重量%含まれ、クエン酸可溶リン酸が6〜7重量%で、水に溶解する水溶性リン酸が大変多いことより、過リン酸石灰よりリン酸含有量の豊富な且つ速効性肥料として使用されている。
しかし前述の通り、該水溶性リン酸を含有する該リン酸質肥料が土壌に供給されるとそのほとんどが土壌中のアロフェン由来の遊離アルミナや遊離酸化鉄等と結合して不溶化して安定物質となって土壌に蓄積してしまい、あるいは該水溶性リン酸は作土層外に流亡する。リン酸質肥料としての効果いわゆる肥効は施肥した水溶性リン酸の数%程度にまで減退してしまう。
【0016】
更に、本発明で使用する加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料およびこれらを原材料として成された肥料であるリン酸質肥料も農林水産省の定める肥料公定規格のリン酸質肥料に規定されている肥料であり、いずれも水溶性リン酸は多く18〜52重量%含有しているので、上記同様そのほとんどが安定物質となって土壌に蓄積あるいは作土層外に流亡してしまう。
【0017】
以上に記述した各原料のリン酸成分を分析し、水溶性リン酸とクエン酸可溶リン酸の実成分量を下表1に示す。
この表によると、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料などのリン酸質肥料は水溶性リン酸を含有することを示し、本発明にとって重要な原料となっている。すなわち、本発明においてこの水溶性リン酸をクエン酸可溶いわゆる水に不溶であると同時に2%クエン酸には可溶なリン酸肥料に変化させることにある。この変化を指示する原料がカルシウム質物質で、具体的には鶏糞燃焼灰、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいなどである。
【0018】
【表1】

【0019】
次に、このカルシウム質物質のうち鶏糞燃焼灰について更に説明する。
該鶏糞燃焼灰は鶏糞を900〜1000℃で燃焼させて製造される特殊肥料で、該鶏糞燃焼灰に含有するカルシウム分が水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させ得る材料となっている。この鶏糞燃焼灰の成分分析表を下記表2に示す。
前記過リン酸石灰や重過リン酸石灰などは水溶性リン酸を多く含有するために、土壌中のアロフェン由来の金属酸化物と安定物質となるリン酸化合物を形成してしまい、植物が必要とする水溶性リン酸を必要なときに供給することができない。そこで、このリン酸化合物を形成させない方法として鶏糞燃焼灰中の酸化カルシウムが前記リン酸質肥料の水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させることに着目し、更に該クエン酸可溶リン酸は土壌中のアルミナや酸化鉄など金属酸化物に反応することなく、最終的には該クエン酸可溶リン酸は文字通り植物が分泌する根酸にのみ溶解してリン酸肥料として吸収できることに着想した。従って過剰な水溶性リン酸を植物に供給する必要がない。
【0020】
【表2】

【0021】
次いで、原料である鶏糞燃焼灰以外の他のカルシウム質物質について説明する。他のカルシウム質物質は生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいで、前記リン酸質肥料の水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させて土壌中の金属酸化物と安定物質に変化することを阻止する材料となっている。
該カルシウム質物質について説明を加えると、生石灰CaOは石灰石を900℃以上に加熱すると二酸化炭素を放出して生成されるカルシウム質物質で、消石灰Ca(OH)2は該生石灰を水と反応させて生成され、炭酸カルシウムCaCO3は石灰石を粉砕して得られるカルシウム質物質である。更に、製銑鉱さいCaO・SiO2は銑鉄を製錬する際に発生する鉱さいで、カルシウム分をCaOとして39〜50%含むカルシウム質物質となっている。
これらのカルシウム質物質も、それぞれCaO、Ca(OH)2、CaCO3、CaO・SiO2なる化学式で示されるように、前記鶏糞燃焼灰中のカルシウム分CaOと同様に前記リン酸質肥料の水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させる物質として好適である。
【0022】
ここで、配合原料の水溶性リン酸である過リン酸石灰あるいは重過リン酸石灰に鶏糞燃焼灰あるいは生石灰を、更には製銑鉱さいを配合混合してクエン酸可溶リン酸に化学変化させるときのメカニズムの一例として、その反応式を下記化1に示す。
【0023】
【化1】

該反応式は水溶性リン酸である第1リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウム)が鶏糞燃焼灰あるいは生石灰の主成分である酸化カルシウムと化学反応の結果、第2リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム)いわゆる水に不溶且つ2%クエン酸可溶リン酸が生成されることを示している。すなわち、該化学反応は10%程度の水の存在下で、第1リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウム)と酸化カルシウムは共に水に溶解してイオン化が起こり、水に不溶な第2リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム)が形成される。このリン酸水素カルシウム由来のリン酸水素イオンの電離度がリン酸二水素カルシウム由来のリン酸二水素イオンの電離度より小さいことから、該リン酸水素イオンは水に溶解し難い化学物質であるが、2%クエン酸には溶解するものと推察される。すなわち、水には溶けないで2%クエン酸溶液には溶け得る、いわゆる水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸が形成される。このクエン酸可溶リン酸の生成と同時に生成される水分は最終工程で乾燥されて蒸発することを示している。
【0024】
次いで、加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料に含有する水溶性リン酸も該過リン酸石灰あるいは該重過リン酸石灰と同様に、その主な成分である第1リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウム)、第1リン酸苦土(リン酸二水素マグネシウム)に前記カルシウム質物質である生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいを配合混合してクエン酸可溶リン酸に化学変化させることができ、そのうち第1リン酸苦土に関わる反応式を下記化2に示す。
【0025】
【化2】

該反応式は水溶性リン酸である第1リン酸苦土(リン酸二水素マグネシウム)が生石灰、消石灰、炭酸カルシウムあるいは製銑鉱さいと化学反応の結果、前記同様に10%程度の水分下でイオン化して第2リン酸苦土(リン酸水素マグネシウム)と第2リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム)いわゆるクエン酸可溶リン酸を生成することを示している。該クエン酸可溶リン酸の生成と同時に生成される水分や炭酸ガスは乾燥工程にて蒸発または発散することを示している。
【0026】
最後に、添加剤のバインダーについて説明する。
以上のリン酸質肥料およびカルシウム質物質から成る原料のほかに、本発明ではこの両原料の密着度合いを高め、且つ該両原料によって形成される造粒物が容易に崩れない程度の強度を持つために適切なバインダーを用いることもできる。
バインダーとして使用する材料は、製糖産業の副産物ならびに廃糖蜜を発酵工業にて利用した後に産出される糖蜜発酵副産濃縮液、リグニンスルホン酸塩、コーンスチープリカー、CMC、でんぷん粉、石膏などを選定し、水に溶解させて使用した。更には水だけでもバインダーとして選定できた。
その使用量は、本発明で使用するリン酸質肥料とカルシウム質物質の化学反応を阻害することなく、且つ粒子径1〜10mmに造粒して自重で壊れない強度に保持できるように該水溶性結合剤を適量使用するものとし、具体的にはリン酸質肥料100重量部に対して糖蜜発酵副産濃縮液の場合4重量部とした。
【0027】
以上に記述した各原料の特徴を踏まえ、本発明である前記リン酸質肥料と前記カルシウム質物質を混合し、該リン酸質肥料が含有する水溶性リン酸をクエン酸可溶リン酸に変化させて成るリン酸肥料の製造工程を図1に示す。
この製造工程図に示す通り、原料であるリン酸質肥料の粉体とカルシウム質物質の粉体、並びにバインダーを混合し、外径1〜10mm程度の粒状にパン式造粒機にて造粒して自重では壊れない強度を発現させるものである。
この造粒工程は、リン酸質肥料の水溶性リン酸とカルシウム質物質のカルシウム分がバインダー中の水を介して溶解密着してイオン化し、クエン酸可溶リン酸を徐々に生成する工程となっている。この化学反応は水溶性リン酸とカルシウム分が水を介してイオン化し、粒状に固く密着することによって可能となり、自重では壊れない強度を発現させるものとなる。水溶性リン酸とカルシウム質物質のそれぞれが粉状で混合状態にあっても粒子同士が水分などで密着しないと化学反応は起こり難く、クエン酸可溶リン酸を形成することはできない。
【0028】
前記製造工程図に従って製造されたリン酸肥料すなわち水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料の生成量について表3および表4にて説明する。
表3は、原料として過リン酸石灰と鶏糞燃焼灰とバインダーを使用し、その配合量の合計を各配合試料共に100重量部としてその配合割合によって過リン酸石灰の水溶性リン酸がクエン酸可溶リン酸カルシウムに変化する量を示したものである。この表の右端には、過リン酸石灰100重量部に対する鶏糞燃焼灰の配合量を付設した。
この表3によると、水溶性リン酸の重量%が反応前後で明確な差として現れていることより過リン酸石灰の水溶性リン酸が鶏糞燃焼灰によってクエン酸可溶リン酸カルシウムに変化していることを示している。
また、各個別の配合では、例えば過リン酸石灰を28.8重量部使用し、鶏糞燃焼灰を67.2重量部使用した場合、反応前にあった5.1重量%の水溶性リン酸が反応後に0.1重量%と減少していることより、該水溶性リン酸のほぼ全量がクエン酸可溶リン酸に変わることを示している。一方、過リン酸石灰を86.4重量部使用し、鶏糞燃焼灰を9.6重量部使用した場合、反応前にあった15.3重量%の水溶性リン酸が反応後に7.7重量%と減少していることより、該水溶性リン酸の約1/2量がクエン酸可溶リン酸に変わったことを示し、該水溶性リン酸の残りの約1/2量は酸化カルシウム不足のためクエン酸可溶リン酸に変わることができないことを示している。
次いで、配合限度量に関しては、過リン酸石灰100重量部に対する鶏糞燃焼灰の配合量は10〜250重量部が限度で、250重量部を超えるとカルシウム分が増加してアンモニウム塩を含む肥料に強塩基が加わることによって化学反応を起こし、アンモニア基が遊離してアンモニアガスが発生する。鶏糞燃焼灰が10重量部未満では過リン酸石灰の水溶性リン酸がクエン酸可溶リン酸に変わる量が少なく、未反応な水溶性リン酸が多量に残留することを示し、鶏糞燃焼灰が配合されない場合は水溶性リン酸の量に反応前後で変化はないことを示している。従って鶏糞燃焼灰の配合量は10〜250重量部で、そのうち10〜150重量部が最も望ましい。
【0029】
【表3】

【0030】
更に、表4は原料として重過リン酸石灰に鶏糞燃焼灰とバインダーを配合し、その配合量の合計を各配合試料共に100重量部としてその配合割合によって重過リン酸石灰の水溶性リン酸がどのようにクエン酸可溶リン酸に変化するかを示したものである。前記過リン酸石灰の場合と同様に、この表の右端には重過リン酸石灰100重量部に対する鶏糞燃焼灰の配合量を付設した。重過リン酸石灰に対する鶏糞燃焼灰の配合限度量を確認するために必要な指標とした。
この表4によると、水溶性リン酸の重量%が反応前後で明確な差として現れていることより重過リン酸石灰の水溶性リン酸が鶏糞燃焼灰によってクエン酸可溶リン酸カルシウムに変化していることを示している。
また、個別の配合では、例えば重過リン酸石灰を28.8重量部使用し、鶏糞燃焼灰を67.2重量部使用した場合、反応前にあった9.8重量%の水溶性リン酸が反応後に1.9重量%と減少していることより、該水溶性リン酸のほぼ全量がクエン酸可溶リン酸に変わることを示している。一方、重過リン酸石灰を86.4重量部使用し、鶏糞燃焼灰を9.6重量部使用した場合、反応前にあった29.4重量%の水溶性リン酸が反応後に21.8重量%と減少していることより、該水溶性リン酸の約1/3量が該クエン酸可溶リン酸に変わったことを示し、該水溶性リン酸の残りの約2/3量は酸化カルシウム不足のため該クエン酸可溶リン酸に変わることができないことを示している。
次いで、配合限度量に関しては、重過リン酸石灰100重量部に対する鶏糞燃焼灰の配合量は10〜250重量部が限度で、250重量部を超えるとカルシウム分が増加してアンモニウム塩を含む肥料に強塩基が加わることにより化学反応を起こし、アンモニア基が遊離してアンモニアガスが発生する。10重量部未満ではクエン酸可溶リン酸に変わる量が少なく、未反応な水溶性リン酸が多量に残留することを示し、鶏糞燃焼灰が配合されない場合は水溶性リン酸の量に反応前後で変化はないことを示している。従って鶏糞燃焼灰の配合量は10〜250重量部で、そのうち10〜233重量部が最も望ましい。
【0031】
【表4】

【0032】
以上の前記リン酸質肥料と前記カルシウム質物質を混合して前記リン酸肥料を形成する組み合わせは、該リン酸質肥料として加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料および該リン酸質肥料を原材料として生成された肥料であり、該カルシウム質物質として生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいであって、前記同様に使用が可能である。
【0033】
次いで、以上の水溶性リン酸を含むリン酸質肥料とカルシウム質物質の混合物にバインダーを配合した粒状のリン酸肥料に関わる作用効果について、以下に説明する。
本発明のリン酸肥料は水溶性リン酸を含むリン酸質肥料にカルシウム質物質を混合して製造された肥料であるので、該水溶性リン酸はクエン酸可溶リン酸に変化したものとなっている。該クエン酸可溶リン酸に変化した肥料となったので、土壌中において遊離アルミナや遊離酸化鉄と反応することはなく、該クエン酸可溶リン酸であるので作土層外に流亡することはない。更に、該クエン酸可溶リン酸は、植物より分泌される2%クエン酸に相当する根酸に徐々に溶解されるので、新たにリン酸質肥料を追肥、供給することはない。
また、本発明の該リン酸肥料は、バインダーと共に造粒され、その粒子が固化されて一定強度を保っているので、施肥作業時に飛散や流亡がない。
【実施例】
【0034】
上記配合結果に基づき、リン酸質肥料である過リン酸石灰、重過リン酸石灰、加工リン酸肥料およびリン酸苦土肥料を各々100重量部とし、配合するカルシウム質物質として鶏糞燃焼灰、生石灰、消石灰、炭酸カルシウムおよび製銑鉱さいを各々250重量部として混合して混合粉体とし、その各混合粉体にバインダー4重量部を加えて造粒し、本発明のリン酸肥料を製造した。その結果、配合前の水溶性リン酸量と造粒後の水溶性リン酸量を比較した場合、造粒後の水溶性リン酸量が減少したことが確認でき、造粒後にはクエン酸可溶リン酸が形成されていることを確認することができた。又、アンモニアガスが発生することもなかった。以上の結果を下表5〜下表8に示す。

【0035】

【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性リン酸を含むリン酸質肥料100重量部に対してカルシウム質物質10〜250重量部を配合することを特徴とする水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料。
【請求項2】
水溶性リン酸を含むリン酸質肥料が、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、加工リン酸肥料、リン酸苦土肥料およびこれらを原材料として成された肥料からなる群の少なくともいずれか一つを用いた請求項1に記載の水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料。
【請求項3】
カルシウム質物質が、鶏糞燃焼灰、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、製銑鉱さいからなる群の少なくともいずれか一つを用いた請求項1又は2に記載の水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料。
【請求項4】
水溶性リン酸を含むリン酸質肥料100重量部に対してカルシウム質物質10〜250重量部を配合したものにバインダーを添加して造粒することを特徴とする水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料。
【請求項5】
バインダーが、糖蜜発酵副産濃縮液、リグニンスルホン酸塩、コーンスチープリカー、CMC、でんぷん粉、石膏、水からなる群の少なくともいずれか一つを用いた請求項4に記載の水に不溶且つ2%クエン酸可溶なリン酸肥料。


【図1】
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【公開番号】特開2010−189238(P2010−189238A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37390(P2009−37390)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(504133383)株式会社古田産業 (4)
【Fターム(参考)】