説明

リン/バナジウム触媒の調製

無水マレイン酸を生産するための触媒を調製する方法であり、無水ホスホン酸などの+5バナジウム化合物と場合により助触媒を、有機アルコール溶媒中で混合し、その混合物を素早く還流し、その後、バナジウム化合物を要望する程度まで還流して還元し、その混合物を冷却後に、前駆体結晶を濾過によって分離し、さらに乾燥、仮焼させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水マレイン酸の生産に特段の有用性を有する、バナジウム/リン混合酸化物触媒を生産するための改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無水マレイン酸を生産するための、バナジウムリン酸化物触媒の調製及び使用について、多くの研究がなされている。これまでこの研究領域では、研究者の努力による特許文献1及び特許文献2の、包括的な記述が参照されている。
【特許文献1】米国特許第5137860号明細書
【特許文献2】米国特許第5364824号明細書
【0003】
HCl及びシュウ酸など、腐食性や危険性を有する試薬を必要としない触媒について、調製手順を開発する努力が続けられてきた。
【0004】
例えば特許文献3の4欄、48〜64行には、従来の研究が以下のように要約されている。
【特許文献3】米国特許第4517371号明細書
【0005】
「これまでの考察をまとめると、水溶液法及び有機溶液法を含む従来の予備操作法(preoperative method)は、次の点で満足できるものではない。
(1)従来法では通常、触媒製造装置が耐食性の優れた建設材料から作製されることを必要とすること。
(2)従来法では、バナジウム成分を溶解するのに塩化水素、硝酸又はシュウ酸を使用するため、深刻な廃棄物処理の問題を有すること。
(3)従来法は、前駆体触媒を活性化するために、長時間の複雑な手順を通常必要とすること。
(4)通常、前駆体触媒の調製は複雑であり、本質的に費用がかかること。
(5)水溶液を基本として調製するため、ブタンを無水マレイン酸へ変換する活性及び触媒収率が比較的低い結果となること。」
【0006】
特許文献3(第4517371号明細書)5欄、18〜43行における記載では、以下のような方法が開示されている。
【0007】
「本発明では、バナジウム、リン及び酸素を含み、炭化水素の酸化を触媒することのできる組成物を調製している部分において、以下の方法が開示されている。
(1)リンとバナジウムとの原子比が約0.5:1〜約2:1であり、バナジウムの平均原子価が約3.9〜約4.7であるバナジウム−リン−酸素不均一系の第1触媒前駆体組成物を、液体有機媒体中で形成するのに十分な方法及び条件で、バナジウム含有化合物及びリン含有化合物を反応させる方法。
(2)前述した第1触媒前駆体組成物を、液体有機媒体から分離すること。
(3)温度30℃以上で、第1触媒前駆体組成物1重量部当たり、1重量部以上の水と接触させ、第2バナジウム−リン−酸素触媒前駆体組成物を形成する方法。
(4)第2触媒前駆体組成物を、水から分離する方法。
(5)第2触媒前駆体組成物を活性化する方法。」
【0008】
Takitaらは、非特許文献1においてVをイソブタノールに添加して10時間還流し、次いで99%HPOを添加することにより、イソブタノール中に還元状態で溶解するVの均質な溶液を調製することを開示している。イソブタノール中に、溶解させた金属アセトアセトネート(metal acetoacetonates)溶液を添加し、還流を1時間継続した。少量の水を添加し、沈殿を形成後に分離を行った。
【非特許文献1】Takitaら、「Incorporation of promoter elements into the crystal lattice of (VO)2P2O7 and its promotion effects on the oxidation of n−butane to maleic anhydride」、Applied Catalysis A:General、103巻、281〜290頁(1993年)
【0009】
我々による先の特許文献4では、有機溶媒中の無水条件下において+5バナジウム化合物を、添加したリン化合物と共に温浸し、その後に水を添加し、さらに材料を温浸して触媒前駆体を得ることが記載されている。
【特許文献4】米国特許第5922637号明細書
【0010】
我々による先の特許文献5においては、触媒を改善するために、ジメチルスルホキシドなどの添加剤が使用されている。
【特許文献5】米国特許第5885919号明細書
【0011】
特許文献6では、バナジウム化合物、グリコールなどの有機還元剤及びリン化合物のペーストを形成し、そのペーストを乾燥し、仮焼することによって、ハロゲン化水素が存在していない条件下で、触媒調製を一段階で行う手順が使用されている。
【特許文献6】米国特許第3975300号明細書
【0012】
特許文献7、特許文献8及び特許文献9においては、Vを還元するために、IBA(イソブチルアルコール)/ベンジルアルコールの混合物を使用することが考察されている。これらの場合にはすべて、リン酸を添加する前に5酸化バナジウムを予備還元する段階が存在している。この予備還元段階は、3〜5時間の分離還流段階である。リン酸が添加された後に開始する、2回目の還流は3〜20時間を要する。この段階においては、VPO前駆体の形成が行われる。本発明においては、予備還元段階を必要とせず、単一の還流操作で完了する。
【特許文献7】米国特許第4064070号明細書
【特許文献8】米国特許第4132670号明細書
【特許文献9】米国特許第6174833号明細書
【0013】
特許文献10では塩化物のない無水条件化で合成が行われ、最初にVを60%IBA及び40%ベンジルアルコールを含む溶媒中で還元した(2時間の還流)。その後、反応混合物を冷却し、促進剤であるアセチルアセトナトマグネシウム又はZrを添加し、さらに還流を行った。生成物は、冷溶液の濾過により回収した(留意点として、触媒の仮焼は、窒素の下で500℃/3hr行った)。
【特許文献10】米国特許第5155235号明細書
【0014】
特許文献1(米国特許第5137860号明細書)では、VをIBA中でシュウ酸によって還元し、塩化物を含まない合成の例を開示している。この特許の主眼は、空気/窒素/水蒸気により活性化された相を形成する触媒の活性化にある。
【0015】
この特許によれば、合成手順はIBA中のV、シュウ酸及びリン酸を含有する反応混合物の還流段階から構成されている。還流を16時間行った後、存在しているIBAの25%を分離回収し、続いて、IBAの残りをデカンテーションし、残留スラリーを乾燥させた。
【0016】
特許文献2(米国特許第5364824号明細書)は、特許文献1(第5137860号明細書)と類似しているが、この特許では合成の際、助触媒としてシュウ酸及びIBAと共に、Biを使用している。一晩還流した後、リン酸と共に助触媒を添加して冷却後、さらに別に還流段階を続けた。これは、RCR(reflux cool down reflux:還流冷却還流)と呼ばれた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、無水マレイン酸の形成時にC4炭化水素を酸化する際、特別の有用性を有するVPO触媒を調製するための、さらに改善された方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明においては、特にVなどの+5バナジウム化合物、イソブタノール及び/又はベンジルアルコールなどの有機溶媒、及び、100%リン酸などのリン化合物の混合物を形成することによって、触媒を調製した。ビスマス、モリブデン又はリチウム化合物などの助触媒も添加することができ、助触媒の混合物についても使用することができる。
【0019】
次に混合物を、おそらくは2時間未満で、約3時間未満のかなり短時間で還流に至らせた。還流は、バナジウム化合物の還元が完了するまでの0.5〜24時間、好ましくは3〜12時間行った。
【0020】
触媒の調製において、一般に様々な材料の使用が公知となっている。従って、Vがバナジウムの出発原料として好ましいが、当技術分野において知られている他の様々なバナジウム化合物も使用され得る。
【0021】
同様に、リン成分を供給するために使用されるリン化合物も公知となっている。オルトリン酸、ポリリン酸などの無水リン酸化合物が特に好ましく、ポリリン酸は、オルトリン酸、ピロリン酸、トリリン酸より高級な酸との混合物として入手でき、例えば115%というように、HPOの含有量を基準にした計算値で販売されている。超リン酸は、105%HPOとして販売されている同様の混合物である。リン成分は、1.0〜1.3/1のP:V原子比となる量で使用する。
【0022】
使用する有機液体媒体についても同様に公知の種類があり、バナジウム化合物の懸濁化剤、リン化合物の溶媒及び/又は希釈剤、バナジウム化合物の還元剤、及び形成された触媒前駆体の懸濁化剤として機能する。総括的な一覧表が、米国特許第4517371号明細書で提示されており、この発明の実施においては、イソブタノール及びベンジルアルコールを組み合わせたものが好ましく、混合液中に少なくともベンジルアルコールが5体積%から30体積%未満までを含むことが好ましい。
【0023】
当技術分野において、公知の種類の助触媒を公知の量で使用することができる。使用するバナジウム化合物、リン化合物及び助触媒の相対的な量は、当技術分野において公知である。
【0024】
本発明の調製手順として、例えばVのような固体のバナジウム化合物及びリン化合物は、使用する助触媒と共に無水有機溶媒媒体に添加し、混合物は還流に至るまで急速に加熱し、無水条件下で0.5〜24時間、還流条件で温浸する。この無水温浸の間、バナジウム化合物は固相に維持し、バナジウムの原子価が約3.9〜約4.4になるまで還元する。本質的に温浸は、所望の時間大気条件で、混合物を還流することによって実行するのが好ましい。無水状態を維持するために、還流する条件で温浸する間中、発生した水をDean Starkセパレータを使用することによって除去する。
【0025】
温浸の間に使用する有機溶媒の量は、バナジウム成分が主として固相内に維持されるように、Vの添加量1gにつき溶媒15ml未満とした。
【0026】
特許文献11に記載されているように、触媒前駆体は、好都合にも次式によって表される。VPO前駆体は、VOHPO.0.5HOとして同定されたが、過剰なリンの存在下においては金属助触媒の正確な構造が明らかでないため、上記の表現が有用である。
【特許文献11】米国特許第6107234号明細書
【0027】
【化1】

(Mは元素の周期表のIA、IB、IIA、IIIB、IVA、IVB、VA、VB、VIA、VIB、及びVIIIA族の元素又はそれらの混合物から選択された少なくとも1種の助触媒元素であり、aは約0.3以上、mは約0〜約0.3、pは約0〜約0.3の数であり、いずれのyも、存在しているすべての元素の原子価の必要条件を満たすのに必要な酸素の量に一致している。)
【0028】
温浸が終了した後に溶媒を取り除き、次いで濾過により前駆体固形物を回収して、固形物触媒前駆体を濃縮することは有用である。回収された固形物は、例えばイソブタノールのような有機溶媒での洗浄が有効であり、オーブンで100〜180℃の温度範囲において1〜24時間乾燥して、最終的に前駆体から有機物の除去を行った。低温、長時間の乾燥でも、除去が行える。さらにオーブンの温度を下げるためには、減圧することも可能である。乾燥した触媒前駆体は、組成物の触媒特性を改善し揮発性材料を除去するのに十分な時間、通常は1〜15時間、約200〜300℃の範囲の温度で仮焼する。
【0029】
触媒前駆体は、仮焼後に特許文献11(米国特許第6107234号明細書)に示されているような公知の手順により活性化させる。350〜550℃で約1〜10時間活性化させた後、無水マレイン酸の生産において使用できる触媒が形成された。最終的に、ペレットに固定した状態で触媒が使用される場合は、乾燥及び仮焼後の触媒前駆体をペレットに成形した後に活性化するか、乾燥及び仮焼後の前駆体を先に活性化した後にペレットに成形することもできる。
【0030】
活性化については、最初に触媒前駆体を、空気、水蒸気、不活性ガス、又は混合物の雰囲気下において、300℃以下で通常1〜24時間加熱する。
【0031】
この後、上述されたように酸素分子、水蒸気及び場合により不活性ガスを含有する雰囲気を供給し、1分当たり約0.5℃〜15℃の速度で温度を上昇させ、触媒前駆体から水和水を消失させるのに有効な温度、例えば350℃〜550℃、好ましくは400℃〜450℃にする。
【0032】
バナジウムを約+4.0〜約+4.5の酸化状態へ変換し、前駆体を次式の活性触媒へ変換するために、前駆体は酸素及び水蒸気を含有する雰囲気下で、温度を維持調整した。この段階においては、酸素が1体積%から約15体積%まで、好ましくは2体積%以上、さらに好ましくは3〜8体積%の雰囲気化であることが必要不可欠である。この工程の間は、発熱を最小限にすることが重要である。
【0033】
【化2】

(M、m、p及びyは上記で定義されている)
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下の実施例は、本発明を説明するものである。
(実施例1)
機械的攪拌機、ガス導入管、サーモウェル(thermowell)、凝縮器及び加熱マントルを装備した12リットルの丸底フラスコに、無水イソブタノール7260ml、ベンジルアルコール806ml、28重量%のBiを含有するビスマス溶液(OMG社により供給され、触媒コード320として販売されている、ミネラルスピリットに溶解した2−エチルヘキサン酸のビスマス塩)66.896g、V815.1gを投入した。反応混合物中に、100%リン酸を約1207.8g、撹拌しながらゆっくりと添加した。
【0035】
反応混合物は、90分以内に還流に至るよう調節し、還流を一晩続けた。その後、反応混合物を冷却し、真空濾過によって濾過した。次に、生成物のケーキを、オーブン内にて110℃で10時間、最終的には150℃で16時間乾燥した。乾燥ケーキを粉砕し、220℃で3時間仮焼した後、260℃でさらに3時間仮焼した。仮焼した粉末を、黒鉛4%と混合し、内径1/16インチの中心穴を有する3/16インチ×3/16インチの錠剤に成形した。ペレット形状の触媒は、特許文献11(米国特許第6107234号明細書)に記載の手順により、4.5%の酸素、50%の水蒸気、残りは窒素の雰囲気下で、オーブン内にて約425℃で6時間活性化させた。オーブンを冷却し、温度が約250℃以下になったとき、水蒸気を除去した。その後、9体積%の酸素とそれ以外は窒素から成る乾燥ガスの下で、触媒を室温まで冷却した。
【0036】
外径1インチ、長さ5フィートのステンレス鋼の反応器管内において、3.5フィートの触媒を充填して性能試験を実施した。触媒評価用の供給原料として、空気中の濃度を制御したブタンを使用した。触媒活性は、表1の実施例1に示す。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、合成に用いた全アルコール混合物におけるベンジルアルコールの濃度を2倍に増加させた場合の効果を説明する。使用した全アルコールの体積を同一に維持しながら、ベンジルアルコールの量を1613mlに増加させたことを除いては、全般的に実施例1と同様の合成手順を行った。この触媒の性能は、表1の実施例2に示す。
【0038】
(実施例3−比較例1)
本実施例では、リン酸を添加する前の予備還元段階の効果を説明する。
【0039】
リン酸を除くすべての試薬を添加し、反応混合物を還流したことを除いて、全般にわたって実施例1と同様の合成を行った。Vを還元するために、還流は4時間継続した。その後、リン酸を反応スラリー中にゆっくりと添加し、還流を一晩続けた。残りの段階は、実施例1に記載の通りである。この触媒の性能は、表1の実施例3に示す。
【0040】
(実施例4)
本実施例では、モリブデン助触媒を添加した効果を説明する。
モリブデンHex−Cem(この物質は2−エチルヘキサン酸のモリブデンの塩であり、15重量%のモリブデンを含有している。この材料は、OMG社から、触媒コード00962として得た。)43.0gを、還流する前に室温で添加し、このモリブデン助触媒の供給を除いては、実施例1と同様の合成を行った。この触媒の性能は、表1の実施例4に示す。
【0041】
(実施例5)
Mo/Vの同一原子比を0.0075に維持し、モリブデン前駆体の源がホスホモリブデンであることを除いて、実施例4と同様の合成を行った。触媒活性は、表2の実施例5に示す。
【0042】
(実施例6)
助触媒としてのLiの効果を、本実施例において調べた。
還流前に反応混合物に、無水酢酸リチウム9.14gを添加したことを除いて、全般にわたり実施例1と同様の合成を行った。触媒活性は、表2の実施例6に示す。
【0043】
(実施例7−比較例2)
この比較例の目的は、湿式の最終合成段階を比較することである。
触媒の形状が実施例1と同様であることを除いて、特許文献12の実施例12の手順を繰り返した。この触媒活性は、表2の実施例7に記載する。
【特許文献12】米国特許第5506187号明細書
【0044】
(実施例8−比較例3)
この比較例の目的は、DMSO(dimethyl sulfoxide:ジメチルスルホキシド)を用いた合成における湿式の最終合成段階を比較することである。
【0045】
以下の変更を除いて、実施例1と同様の合成を行った。リン酸を添加する前に、室温でアルコールと共にDMSO約70gを添加した。一晩還流した後、反応混合物を室温まで冷却し、撹拌しながら30%過酸化水素80mlを添加した。30分間撹拌した後に反応混合物を濾過し、残りの手順は実施例1と同様に行った。触媒活性は、表2の実施例8に記載する。過酸化水素を添加した結果、通常は生成物と結合して生じる硫黄化合物の悪臭が消失した。
【0046】
(実施例9)
この実施例では、初期反応混合物の無水条件を低下させる一因となる97%リン酸を、100%リン酸の代わりに使用した効果を調べた。
【0047】
反応混合物におけるP/V比を同一に維持しながら、97%リン酸を使用したことを除いて、全般にわたり実施例1と同様の合成を行った。この触媒活性は、表3の実施例9に記載する。
【0048】
(実施例10)
反応混合物において、アルコールの全使用量を基準として2重量%の水を添加することによって、初期反応混合物中で、無水条件を低下させた効果を評価した。
【0049】
100%リン酸を添加する前に、脱イオン水133gを室温で添加したことを除いて、全般にわたり実施例1の合成を繰り返した。この触媒活性は、表3の実施例10に記載する。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
実施例1及び3(比較例1)を比較することにより、予備還元段階を必要とする方法に対して本合成方法が明らかに有利であることが示された。同一試験条件における、ほぼ同一の塩浴温度によって、両方の触媒は類似の活性を示したが、予備還元段階を有する触媒については、選択性及び収率がより低いことが観測された。
【0054】
また、実施例1における触媒は、実施例7(比較例2)における手順によって調製した触媒よりも、高い性能を示した。実施例1の触媒は、408℃に対して368℃という遙かに低い温度であるが、より高い収率、選択性及び活性であることが示された。
【0055】
実施例8(比較例3)における触媒、は良好な性能を示している。但し、DMSOを用いて合成するために生じた悪臭を放つ物質を消し去るために過酸化水素を使用する必要がない分、実施例1において説明された本触媒の調製手順が有利である。
【0056】
さらに、濾過前の蒸留段階をなくすことによって、アルコールによる洗浄段階も省略することができる。従って本方法は、商業生産におけるコストの利点を増すことになり、合成方法のさらなる単純化を成し遂げたものである。
【0057】
実施例9より、反応混合物における条件は、実施例1における100%リン酸と較べて、97%リン酸を使用した場合に生じるような、無水状態が低下した場合に、良好な収率及び選択性が得られることが分かる。しかし、約80%の変換を得るために15℃塩浴温度が高かったことから、触媒活性の低さが示された。また、全アルコールの重量を基準として、2重量%の水を含有させ、無水条件を低下させた実施例10における触媒は、より高温の塩浴温度が必要であり、活性の低さが示された。また、収率もいくらか低かった。従って、高い収率及び活性を有する触媒を生産するためには無水条件が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム/リン混合酸化物触媒の調製法であり、
有機アルコール溶媒中で、+5バナジウム化合物及び無水リン酸の混合物、場合により助触媒化合物、から構成される混合物を形成する段階、
混合物を3時間未満、還流するために加熱する段階、
0.5〜24時間還流する段階、
還流した混合物を冷却する段階、
冷却された混合物から次式で示される触媒前駆体粒子を濾過によって回収する段階、
回収された粒子を触媒として使用するために乾燥、仮焼する段階、を含む方法。
【化1】

(式中、Mは元素の周期表のIA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVA、IVB、VA、VB、VIA、VIB、及びVIIIA族からの元素又はそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種の助触媒元素であり、aは0.3以上、mは0〜0.3、pは0〜0.3であり、yは存在するすべての元素の原子価が必要条件を満たすのに必要である酸素の量と一致している)
【請求項2】
+5バナジウム化合物がVである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機アルコール溶媒が30体積%までのベンジルアルコールを含むイソブタノールである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
有機アルコール溶媒が15体積%までのベンジルアルコールを含むイソブタノールである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
混合物がビスマス助触媒を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
混合物がモリブデン助触媒を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
混合物が亜鉛助触媒を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
混合物が、アルカリ金属助触媒を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
回収された触媒前駆体粒子を、100〜180℃で1〜24時間乾燥させる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
乾燥させた触媒前駆体粒子を、200〜300℃で1〜15時間仮焼させる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
空気、水蒸気、不活性ガス、及びそれらの混合物からなる群から選択された雰囲気中で、約300℃未満において触媒前駆体を加熱すること、触媒前駆体をこの温度に維持すること、酸素分子、水蒸気、及び場合により不活性ガスを含有する雰囲気を供給すること、触媒前駆体から水和水が消失する温度まで、0.5℃/分〜15℃/分の速度で温度を上昇させること、温度を350℃以上550℃未満に調節すること、1体積%以上の酸素からなる酸素分子/水蒸気を含有する雰囲気中で、バナジウムが+4.0〜+4.5の酸化状態となり、触媒前駆体が次式で示される活性触媒へ変換するまでの間、温度を維持調整することを含む請求項1に記載の方法。
【化2】

(式中、M、m、p及びyは請求項1において定義されたものである。)

【公表番号】特表2007−534458(P2007−534458A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532819(P2006−532819)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014123
【国際公開番号】WO2004/103557
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(506156023)エスディー リーツェンツ フェアベルツングス ゲセルシャフト エムベーハー ウント ツェーオー. カーゲー (2)
【出願人】(505403337)
【出願人】(307006745)
【出願人】(307006756)
【出願人】(307006767)
【Fターム(参考)】