説明

リークディテクタ

【課題】ヘリウムを含む複数のキャリアガスによるリーク検査を作業性良く行うことができるリークディテクタの提供。
【解決手段】ヘリウムガスと水素ガスとの混合ガスが充填された校正用標準リーク6を装着して校正動作を行うことにより、ヘリウムガスおよび水素ガスの各検出感度をいっぺんに取得することができる。取得された各検出感度は記憶部72に記憶される。そして、いずれのキャリアガスでリーク検査を行うかが操作部71により指示されると、指示されたキャリアガスが検出できるように分析管5の加速電圧が設定され、指示されたキャリアガスの検出感度を用いてリーク量が算出される。その結果、キャリアガスの異なるリーク検査を切り替えて行う場合に、リーク検査作業時間の短縮を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウムを含む複数のキャリアガスによりリーク測定が可能なリークディテクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リークディテクタでリーク検査を行う際のキャリアガスは、一般的にヘリウムガスが使用されている(例えば、特許文献1参照)。このようなヘリウムガスを用いるリークディテクタにおいても、分析管の加速電圧を変更することで、水素ガスをキャリアガスとして使用することも可能である。
【0003】
【特許文献1】特開2005−24449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、必要に応じてヘリウムガスと水素ガスとを使い分けながらリーク検査を行う場合、その都度、ヘリウム用校正リークと水素用校正リークとを接続し直して校正作業を行う必要があり、作業効率が悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、被検体からのキャリアガスを分析管に導いて検出し、キャリアガスの検出感度に基づいて被検体のリーク量を算出するリークディテクタに適用され、複数のキャリアガスに対する各々の検出感度を記憶する記憶部と、複数のキャリアガスからリーク量測定に用いるキャリアガスを選択する選択手段と、選択手段で選択されたキャリアガスに応じて、分析管のキャリアガスイオンを検出するためのパラメータを変更する変更手段と、選択手段で選択されたキャリアガスに応じて、記憶部に記憶されている複数の検出感度のいずれか一つをリーク量算出用検出感度に設定する設定手段とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のリークディテクタにおいて、複数のキャリアガスから成る混合ガスが充填され、着脱可能に設けられた校正用標準リークと、分析管の検出可能イオンを変更しつつ校正用標準リークからリークされる複数のキャリアガスを分析管でそれぞれ検出し、複数のキャリアガスの各々の検出感度を取得する検出感度取得手段とを備え、検出感度取得手段で取得された複数の検出感度を記憶部にそれぞれ記憶するようにしたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のリークディテクタにおいて、複数のキャリアガスをヘリウムガスおよび水素ガスとしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数のキャリアガスに対する各々の検出感度を記憶部に記憶し、選択手段で選択されたキャリアガスに応じて、分析管のキャリアガスイオンを検出するためのパラメータを変更し、記憶部に記憶されている複数の検出感度のいずれか一つをリーク量算出用検出感度に設定するようにしたので、キャリアガスの異なるリーク検査を切り替えて行う場合に、リーク検査作業時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明に係るリークディテクタの一実施の形態を示す図であり、リークディテクタ1の全体構成を示す。リーク検査が行われる被検体(不図示)は、リークディテクタ1のテストポート2に取り付けられる。テストポート2が設けられた配管9は、粗引きバルブV1を介して粗引きポンプ3に接続されている。粗引きポンプ3には、例えば、油回転ポンプ等が用いられる。
【0008】
分析管5は、タービン翼部4aとドラッグポンプ部4bとを備えた複合タイプのターボ分子ポンプ4により排気される。粗引きポンプ3はフォアラインバルブV2を介してターボ分子ポンプ4に接続されており、ターボ分子ポンプ4のバックポンプとしても用いられている。配管9は、テストバルブV4を介してタービン翼部4aの背圧側、すなわち、タービン翼部4aとドラッグポンプ部4bとの間に接続されている。
【0009】
配管9には校正用バルブV3およびベントバルブV5も設けられており、校正用バルブV3に校正用標準リーク6が着脱可能に接続されている。本実施の形態のリークディテクタ1は、ヘリウムガスおよび水素ガスのそれぞれを用いたリーク検査を行うことができ、校正用標準リーク6にはヘリウムガスと水素ガスとの混合ガスが充填されている。配管9内の圧力は、圧力計8により検出される。
【0010】
粗引きポンプ3,ターボ分子ポンプ4,分析管5および各バルブV1〜V5の動作は、制御部7によって制御される。制御部7には操作部71が設けられており、オペレータは、操作部71を操作することにより、校正用標準リーク6を用いた校正動作やリーク検査動作等を指示することができる。校正結果である検出感度(後述する)は記憶部72に記憶され、その校正結果に基づいてリーク検査結果を表示部73に表示する。表示部73には、リーク検査結果の表示や、動作状態の表示や、オペレータへの操作指示等が表示される。操作部71には、リーク検査用キャリアガスとしてヘリウムガスおよび水素ガスのいずれを用いるかを選択する操作ボタンが設けられている。
【0011】
図2は、分析管5の構成を示す図である。分析管5には、イオンソース11、加速スリット12、永久磁石13、アーススリット14,16、サプレッサスリット15およびイオンコレクタ17が設けられている。永久磁石13はz方向の磁場を形成する。タービン翼部4aを介して分析管5に導入されたガスは、イオンソース11のフィラメント11aから放出される熱電子によりイオン化される。これらのイオンは、加速スリット12により加速され、開口12aから磁場中に出射される。
【0012】
本実施の形態の分析管5は、加速スリット12の加速電圧を切り替えることにより、ヘリウムイオンを検出する設定状態と、水素イオン検出を検出する設定状態とを選択的に選ぶことができる。図2に示した例では、ヘリウムイオンを検出する状態に設定されている。分析管5は180°磁場偏向型分析管を構成しており、加速スリット12の開口12aから出射されたイオンは磁場によって曲げられて円軌道を描く。その円軌道の半径は各イオンの質量電荷比に応じた値となるので、種々の質量を持ったイオンは分離された別々のイオンビームを形成する。
【0013】
図2では3種類のビームA,B,Cが示されており、ビームAがヘリウムイオンビームである。半径の小さいビームBはヘリウムイオンよりも質量の小さなイオン(例えば、水素イオン)のビームであって、半径の大きいビームCはヘリウムイオンよりも質量の大きなイオン(例えば、ハイドロカーボンイオン)のビームである。
【0014】
アーススリット14は、ヘリウムイオンビームAの軌道上に形成されている。そのため、アーススリット14の開口14aを通過したヘリウムイオンのみがサプレッサスリット15およびアーススリット16を通過し、イオンコレクタ17により検出される。ヘリウムイオンビームAよりも半径が小さいビームBや半径の大きいビームCはアーススリット14により遮られ、イオンコレクタ17に入射することはない。
【0015】
《校正動作の説明》
リークディテクタ1の校正を行う場合には、校正用バルブV3に校正用標準リーク6を接続する。本実施の形態のリークディテクタ1では、ヘリウムガスおよび水素ガスの各々に対する検出感度が一度の校正作業で取得され、記憶部72に記憶されるので、例えば、リークディテクタ起動時に校正動作を行えば十分である。なお、校正用標準リーク6は、校正の度に接続しても良いし、接続したままでもかまわない。
【0016】
リークディテクタ1を起動すると、粗引きポンプ3、ターボ分子ポンプ4および分析管5が起動される。バルブV2は開状態とされ、その他のバルブV1,V3〜V5は閉状態とされる。テストポート2に蓋をした後に、操作部71を操作して校正作業を指示すると、粗引きバルブV1が開かれて配管9が粗引きポンプ3により排気される。配管9内が所定圧力となったならば、粗引きバルブV1を閉じた後にテストバルブV4および校正用バルブV3を開く。その結果、校正用標準リーク6内のヘリウム・水素混合ガスが配管9へと流出し、テストバルブV4を介してタービン翼部4aの背圧側に達する。
【0017】
校正用標準リーク6のヘリウムガスリーク量はQHeCALと表し、水素ガスリーク量はQH2CALと表すことにする。なお、このリーク量QHeCAL,QH2CALは記憶部72に予め記憶されている。本実施の形態のヘリウムリークディテクタ1は逆拡散測定法によりキャリアガスを検出するものであり、タービン翼部4aを上流側へと逆拡散したキャリアガスを分析管5で検出してリーク量を算出している。
【0018】
制御部7は、ヘリウムイオンおよび水素イオンが検出できるように、分析管5の加速スリット12の加速電圧を所定の範囲で連続的に変化させる。加速スリット12の加速電圧を変更すると開口12aから出射されるイオンの速度が変化するので、イオンビームA,B,Cの軌道半径も変化する。ヘリウムイオンビームAがアーススリット14の開口14aに入射するヘリウムイオン検出状態よりも加速電圧を高くすると、各イオンビームA,B,Cの軌道半径は大きくなり、質量のより小さな水素イオンビームBが開口14aに入射するようになる。すなわち、加速電圧が水素イオンビームを検出する値となったときに、水素イオンがイオンコレクタ17により検出されることになる。
【0019】
図3は、加速電圧を連続的に変化させたときに得られるイオン強度を模式的に示したものである。実線で示した曲線L1は校正用バルブV3を開いたときに得られるデータを示し、破線で示した曲線L2は校正用バルブV3を閉じたときに得られるデータ(バックグラウンド値)を示す。図3の縦軸はイオン強度を表し、横軸は分子量を表している。なお、加速電圧を低い方から高い方へと変化させると、曲線L1,L2の右側から左側へと順にデータが得られる。
【0020】
各曲線L1,L2の差分を取ることにより、分子量4の位置にヘリウムイオンのピーク値PHeが得られ、分子量2の位置に水素イオンのピーク値PH2が得られる。これらのピーク値PHe,PH2と記憶部72に記憶されているリーク量QHeCAL,QH2CALとに基づいて、次式(1)、(2)によりヘリウムガスおよび水素ガスの検出感度(最小検出可能リーク量)Q(He)min,Q(H2)minが制御部7において算出される。算出された検出感度Q(He)min,Q(H2)minは、記憶部72に記憶される。
Q(He)min=QHeCAL/PHe …(1)
Q(H2)min=QH2CAL/PH2 …(2)
【0021】
《リーク検査の説明》
キャリアガスとしてヘリウムガスまたは水素ガスを用いてリーク検査を行う場合には、操作部71を操作してリークディテクタ1の状態を使用するキャリアガスに設定する。例えば、キャリアガスとして水素ガスを設定すると、加速電圧は水素イオン検出電圧VH2に、検出感度は水素ガス用のQ(H2)minにそれぞれ設定される。このように設定されると、分析管5は水素イオンを検出する状態となり、図3の分子量2の位置のイオン強度だけが検出される。水素ガスを用いたリーク検査によりイオン強度Pが得られた場合、リーク量はQ(H2)min×Pで算出され、この値が表示部73に表示される。
【0022】
一方、キャリアガスとしてヘリウムガスを設定すると、加速電圧はヘリウムイオン検出電圧VHeに設定され、検出感度もヘリウムガス用のQ(He)minに設定される。そのため、図3の分子量4の位置のイオン強度だけが検出されることになる。このときのイオン強度がP’である場合、ヘリウムガスリーク量はQ(He)min×P’で算出される。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態のリークディテクタ1では、混合ガスの校正用標準リーク6を用いた校正により、ヘリウムガスの検出感度Q(He)minと水素ガスの検出感度Q(H2)minが同時に得られ、それらの検出感度Q(He)min,Q(H2)minは記憶部72に記憶される。そして、操作部71を操作してヘリウムガス検査状態に設定すると、分析管5の加速電圧がヘリウムイオン検出電圧に設定されるとともに、検出感度がQ(He)minに設定される。逆に、操作部71を操作して水素ガス検査状態に設定すると、分析管5の加速電圧が水素イオン検出電圧に設定されるとともに、検出感度がQ(H2)minに設定される。
【0024】
このように、校正により得られる検出感度Q(He)min,Q(H2)minを記憶部72に記憶させておき、操作部7の切り替えに応じて検出感度および加速電圧を切り替えるようにしたことにより、ヘリウムガスによるリーク検査と水素ガスによるリーク検査との切り替えを容易かつ速やかに行うことができ、リーク検査作業時間の短縮を図ることができる。
【0025】
また、ヘリウムガスと水素ガスとの混合ガスが充填された校正用標準リーク6を備え、校正作業時に加速電圧を所定範囲内で連続変化させるようにしたので、1回の校正動作でヘリウムガスおよび水素ガスの検出感度を取得することができる。校正するガス毎に標準リークを交換して、各々の校正作業を行う必要があった従来のリークディテクタに比べ、校正作業時間の短縮を図ることができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態では、ヘリウムガスのリーク量に加えて水素ガスのリーク量を検査できるリークディテクタについて説明したが、水素ガス以外のガスをキャリアガスに用いるような構成でも良い。さらに、3種類以上のキャリアガスについてリーク量を検査する構成についても、本発明を同様に適用することができる。また、上述した分析管5は180°磁場偏向型の分析管であったが、他の形式の分析管であっても検出イオンを変更できるものであれば同様に適用できる。
【0027】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、操作部71は選択手段を、加速電圧はキャリアガスイオンを検出するためのパラメータを、制御部7は変更手段,設定手段および検出感度取得手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るリークディテクタの一実施の形態を示す図である。
【図2】分析管5の構成を示す図である。
【図3】加速電圧を連続的に変化させたときに得られるイオン強度を示す模式的図である。
【符号の説明】
【0029】
1:リークディテクタ、2:テストポート、3:粗引きポンプ、4:ターボ分子ポンプ、5:分析管、6:校正用標準リーク、7:制御部、9:配管、12:加速スリット、71:操作部、72:記憶部、73:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体からのキャリアガスを分析管に導いて検出し、前記キャリアガスの検出感度に基づいて前記被検体のリーク量を算出するリークディテクタにおいて、
複数のキャリアガスに対する各々の検出感度を記憶する記憶部と、
前記複数のキャリアガスからリーク量測定に用いるキャリアガスを選択する選択手段と、
前記選択手段で選択されたキャリアガスに応じて、前記分析管のキャリアガスイオンを検出するためのパラメータを変更する変更手段と、
前記選択手段で選択されたキャリアガスに応じて、前記記憶部に記憶されている複数の検出感度のいずれか一つをリーク量算出用検出感度に設定する設定手段とを備えたことを特徴とするリークディテクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のリークディテクタにおいて、
前記複数のキャリアガスから成る混合ガスが充填され、着脱可能に設けられた校正用標準リークと、
前記分析管の検出可能イオンを変更しつつ前記校正用標準リークからリークされる前記複数のキャリアガスを前記分析管でそれぞれ検出し、前記複数のキャリアガスの各々の検出感度を取得する検出感度取得手段とを備え、
前記検出感度取得手段で取得された複数の検出感度を前記記憶部にそれぞれ記憶することを特徴とするリークディテクタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリークディテクタにおいて、
前記複数のキャリアガスをヘリウムガスおよび水素ガスとしたことを特徴とするリークディテクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−164462(P2008−164462A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354875(P2006−354875)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】