説明

リードバルブの構造

【課題】リードバルブの初期応答を改善し、正方向の流体の流れに対して流路を開放しやすくする。
【解決手段】流体が流通する流路20を、一端部232が固定され他端部231が可動となっている弾性変形可能な薄板状の弁体23により閉塞するものとし、弁体23の上流に位置する流路20の内壁の少なくとも一部分201を湾曲させて当該内壁の部分201に沿って流れる流体の流速を高め、当該内壁の部分201に沿って流れた流体が弁体23の他端部231側に当たるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リードバルブの構造に関する。特に、排気ガス再循環通路における逆流を抑止する目的で用いられるリードバルブの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の車両用内燃機関には、ポンピングロスの低減やNOxの排出量の削減を企図して、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付随していることが多い。EGR装置は、排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路上に流量制御弁であるEGRバルブを設けてなり。そのEGRバルブの操作を通じて気筒から排気通路に排出された燃焼ガスの一部を吸気通路に還流せしめ、気筒に充填する吸気に混交するものである。
【0003】
EGR通路を流れるEGRガスの量は、排気通路側入口の排気圧力と吸気通路側出口の吸気圧力との差圧の大きさに依存する。少数気筒(特に、二気筒)の機関では、排気脈動及び吸気脈動がともに大きくなる傾向にある。それ故、瞬間的に吸気圧力が排気圧力を上回る時期が発生する。この時期にEGRバルブを開弁すると、吸気またはEGRガスがEGR通路を排気通路に向かって逆流するおそれがある。
【0004】
そこで、従来より、EGR通路の末端にワンウェイバルブの一種であるリードバルブを設置しておき、EGR通路における逆流を予防している(例えば、下記特許文献を参照)。
【0005】
リードバルブは、その弁体の材質や寸法、形状等に応じて感度、応答性が変わってくる。リードバルブの初期応答が悪い、即ち弁体が弁座に着座して流路を完全閉鎖している状態から、弁体が弁座から離反し流路を開け始めるまでの間に要する時間が長いと、EGRを行わない運転領域からEGRを行う運転領域へと遷移した場合にEGRバルブを開弁操作してもすぐにはEGRガスが吸気通路に流入せず、EGR制御が遅れることとなる。さすれば、失火、エミッションの悪化またはノッキングの発生を招くこととなりかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平06−040343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リードバルブの初期応答を改善することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るリードバルブの構造では、流体が流通する流路を、一端部が固定され他端部が可動となっている弾性変形可能な薄板状の弁体により閉塞するものとし、弁体の上流に位置する流路の内壁の少なくとも一部分を湾曲させて当該内壁の部分に沿って流れる流体の流速を高め、当該内壁の部分に沿って流れた流体が弁体の他端部側に当たるように構成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リードバルブの初期応答を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関の全体構成を示す図。
【図2】同実施形態におけるリードバルブの構造を示す図。
【図3】本発明の変形例の一に係るリードバルブの構造を示す図。
【図4】本発明の変形例の一に係るリードバルブの構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ11と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGRガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0012】
本実施形態における内燃機関は、二気筒の4ストローク機関であり、第一気筒1の行程と第二気筒1の行程との間には360°CA(クランク角度)の位相差が存在する。つまり、第一気筒1のピストン12と第二気筒1のピストン12とは同時に上昇し、また同時に下降する。
【0013】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0014】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0015】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0016】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路20の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路20の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路20上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0017】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0018】
入力インタフェースには、車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するアクセル開度センサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温を検出する温度センサから出力される吸気温信号d、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気圧(または、過給圧)を検出する圧力センサから出力される吸気圧信号e、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力される排気カム信号g等が入力される。エンジン回転センサは、10°CA毎にパルス信号bを発する。カム角センサは、720°CAを気筒数で割った角度、二気筒エンジンであれば360°CA毎にパルス信号gを発する。
【0019】
出力インタフェースからは、インジェクタ11に対して燃料噴射信号h、点火プラグ(のイグニッションコイル)に対して点火信号i、EGRバルブ22に対して開度操作信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l等を出力する。
【0020】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、gを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、EGR量(または、EGR率)及びEGRバルブ22の開度といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能であるので説明を割愛する。しかして、運転パラメータに対応した各種制御信号h、i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0021】
EGR装置2のEGR通路20には、図2に示すようなリードバルブを設置している。リードバルブは、ワンウェイバルブの一種であり、EGR通路20経由で吸気通路3側から排気通路側4に向けて吸気またはEGRガスが逆流することを抑止するものである。
【0022】
リードバルブの弁体23は、カーボンまたは金属等を素材とする弾性変形可能な薄板体であり、その一端部232が固定された固定端、他端部231が弾性変形を通じてフラップ動作可能な可動端となっている。弁体23は、EGR通路20の開放端、即ち吸気通路に接続するEGR通路20の出口に設定した弁座24に当接してEGR通路20を閉鎖し(図中実線で示す)、以て吸気通路3からEGR通路20への吸気またはEGRガスの流入を阻む。
【0023】
EGR通路20を吸気通路3側に向かって流れるEGRガスは、弁体23に当たり、この弁体23を押圧して弾性変形させ弁座24から離反させる(図中鎖線で示す)。結果、EGR通路20と吸気通路3とが連通し、EGRガスが吸気通路3に流入する。弁体23は、ちょうど板ばねのような作用を営む。弁体23の上流側圧力即ちEGR通路20内圧力と、弁体23の下流側圧力即ち吸気通路3内圧力との差圧が小さい、または後者が前者を上回る場合には、弁体23は弁座24に着座する。
【0024】
その上で、本実施形態では、図2に示しているように、EGR通路20の開放端近傍の部位201を湾曲させている。EGR通路20の開放端近傍部位の内壁のうち、弁体23の一端部232寄りにある部分202と、弁体23の他端部231寄りにある部分201とを比較した場合、後者201の曲率半径の方が前者202の曲率半径よりも大きい。従って、後者201に沿って流れるガスの流速は比較的高くなり、逆に前者202に沿って流れるガスの流速は比較的低くなる。本実施形態では、後者202に沿って流れるガスが弁体23の他端部231に直に当たるよう、弁体23をEGR通路20に対して位置づけている。
【0025】
本実施形態におけるリードバルブの構造では、流体(EGRガス)が流通する流路(EGR通路20)を、一端部232が固定され他端部231が可動となっている弾性変形可能な薄板状の弁体23により閉塞するものとし、弁体23の上流に位置する流路20の内壁の少なくとも一部分201を湾曲させて当該内壁の部分201に沿って流れる流体の流速を高め、当該内壁の部分201に沿って流れた流体が弁体23の他端部231側に当たるように構成している。
【0026】
本実施形態によれば、流速を高めた流体によって弁体23を押圧し、弁座24から離反させて流路20の開放端(EGR通路20の出口)を開通せしめることができる。従って、リードバルブの初期応答性能が向上する。例えば、EGRを行わない低負荷または高負荷運転領域から、EGRを行う中負荷運転領域へと遷移する場合において、閉止していたEGRバルブ22を開弁操作することで速やかにリードバルブも開弁し、EGRガスを吸気通路3に導き入れることが可能となる。ひいては、EGR制御の遅れが小さくなり、失火、エミッションの悪化またはノッキングの発生のおそれを低減することができる。
【0027】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、弁座24に着座している状態の弁座24の形状は平板状であった。これに対し、図3に示すように、弁体23を弁座24に着座している状態で弁体23が非平板形状をなしている態様をとることができる。
【0028】
図3に示した変形例における弁体23は、流路20の開放端から流体が流出する方向に沿って凹んだ、換言すれば下流方に向けて膨出した形状をなしている。このような形状により、流路20を流れる流体が弁体23に当たる面積がより大きくなり、リードバルブとしての感度がより高まる。図3に示した例とは逆に、弁体23を、流路20の上流方に向けて(流路20内に入り込むように)膨出した形状に成形しても構わない。
【0029】
加えて、当該変形例では、弁体23と弁座24とが線接触するようにして、両者の当たりの面積を縮小している。弁体23と弁座24とが線接触することは、チャタリング音の低減に寄与する。
【0030】
また、図4は、本発明に係るリードバルブ構造の別の変形例である。図4に示した変形例において、流体が流出する流路20は、当該流路20の開放端(出口)となる開口に対して所定角度αを以て交差するように延伸しており、開放端近傍にて湾曲して開放端の開口縁に対し略直交するように接続している。角度αは、例えば約60°である。
【0031】
弁体23は、その一端部232が固定された固定端、他端部231が弾性変形を通じてフラップ動作可能な可動端となっている。弁体23の一端部232は、湾曲する流路20の内周寄りに位置づけられる。そして、弁体23の他端部231は、同流路20の外周寄りに位置づけられる。弁体23の他端部231にはビード233を設けており、このビード233を介して弁体23と弁座24とが線接触するようにしてある。
【0032】
流路20を流通する流体の流れは、湾曲している当該流路20の外周側に偏ることから、流体の圧力中心もまた開放端の中心軸から寸法βだけ外周側にオフセットする。これにより、弁体23における、流体の圧力中心が当たる箇所と、固定された一端側との距離γが大きくなり、回転モーメントが増大して開弁動作の応答性が向上する。
【0033】
図4に示した変形例では、湾曲する流路20の内周側の内壁に、(内周側の内壁が滑らかに連続した曲面とならないように)凹凸または段差203を形成している。これにより、流路20の内周側の内壁に沿って流れる流体に剥離が発生し、その流速が落ちる。他方、凹凸または段差203にて発生した剥離流体のベアリング効果のため、流路20の外周側の内壁に沿って流れる流体の流速がより一層増すので、開弁動作の応答性がさらに向上する。
【0034】
EGR装置は、高圧ループEGR装置には限定されない。コンプレッサ51の上流側とタービン52(さらには、触媒41)の下流側とをEGR通路を介して連通し、低温低圧のEGRガスを還流せしめる低圧ループEGR装置において、そのEGR通路に本発明に係るリードバルブを設置することも考えられる。
【0035】
本発明に係るリードバルブの適用対象が、EGR通路に限られないことは言うまでもない。
【0036】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両に搭載される内燃機関に付随するEGR装置等に実装して利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
20…流路(EGR通路)
201…流路の内壁の湾曲部分
23…弁体
231…弁体の他端部
232…弁体の一端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路を、一端部が固定され他端部が可動となっている弾性変形可能な薄板状の弁体により閉塞するものとし、
弁体の上流に位置する流路の内壁の少なくとも一部分を湾曲させて当該内壁の部分に沿って流れる流体の流速を高め、当該内壁の部分に沿って流れた流体が弁体の他端部側に当たるように構成したリードバルブの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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