説明

リード線

【課題】冷陰極蛍光ランプの構成部品に適したリード線、このリード線を具えるリード線部材、電極部材、及び冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】リード線(インナーリード線14i)は、冷陰極蛍光ランプ10の電極部13に電力を供給するための線材であり、電極部13を収納するガラス管12を封止するガラス部15が溶着される。ガラス部15は、鉛フリーの軟質ガラスから構成されている。リード線は、Niを51質量%以上55質量%以下含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるFe-Ni合金から構成されている。Niを特定の範囲で含有するFe-Ni合金からなるリード線は、その変態点と、鉛フリーの軟質ガラスにおいて、その温度以下となると歪みが蓄積される臨界温度との差が大きいことで、当該臨界温度の近傍でリード線の熱膨張係数が急激に増加することが無く、リード線が過度に収縮されることを抑制する。この結果、ガラス管12のリークの発生を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプの電極部への電力供給線として利用されるリード線、このリード線を具えるリード線部材、電極部材、冷陰極蛍光ランプに関するものである。特に、冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止後、封止部分から封入ガスのリークが発生し難いリード線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イメージスキャナの原稿照射用光源や、パーソナルコンピュータの液晶モニタ、液晶テレビなどの液晶表示装置(液晶ディスプレイ)のバックライト用光源といった種々の光源として、冷陰極蛍光ランプが利用されている。冷陰極蛍光ランプ10は、代表的には、図1に示すように、内壁面に蛍光体層11を有し、希ガスと水銀とが封入されたガラス管12と、ガラス管12内に配置される一対の電極部13と、電極部13に接合されて、電極部13に電力を供給するためのリード線部材14とを具える。リード線部材14には、予めガラス部15が溶着され、このガラス部15とガラス管12の端部とを溶融することで、ガラス管12が封止される。希ガスのみをガラス管12に封入した水銀フリーの冷陰極蛍光ランプもある。
【0003】
リード線部材14は、一端に電極部13が接合されるインナーリード線14iと、インナーリード線14iの他端に接合されて、主としてガラス管12外に配置されるアウターリード線14oとを具える。アウターリード線14oの外周には半田20が塗布されて、図示しない端子が接続され、この端子及びリード線部材14を介して、電極部13に電力を供給する。
【0004】
インナーリード線14iには、ガラス管12を封止すると共に電極部13をガラス管12内に固定するためのガラス部15が溶着されるため、その構成材料には、ガラスの熱膨張係数と同程度の熱膨張係数に調整された材料が利用されている。例えば、ガラス管やガラス部が硬質ガラスからなる場合、インナーリード線の構成材料には、コバールが利用され(特許文献1参照)、軟質ガラスからなる場合、Niの含有量が50質量%程度のFe-Ni合金が利用される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-037806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、環境保全の観点から、軟質ガラスのうち、鉛を実質的に含まない鉛フリーの軟質ガラスの利用が推進されている。鉛入りの軟質ガラスの熱膨張係数は、92×10-7/℃(一例)であり、鉛フリーの軟質ガラスの熱膨張係数:91×10-7/℃(一例)とほぼ同等である。そのため、インナーリード線の構成材料には、上記鉛入りの軟質ガラスの場合に利用されていたFe-50質量%Ni合金(97×10-7/℃)を利用することができる。
【0007】
しかし、本発明者らが調べたところ、Fe-50質量%Ni合金からなるインナーリード線を利用すると共に、ガラス管を鉛フリーの軟質ガラスからなるガラス部により封止すると、封止部分、特に、リード線とガラス部との隙間からリーク(ガラス管内の封入ガスの漏れ)が発生する可能性が高くなる恐れがある、との知見を得た。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、冷陰極蛍光ランプのガラス管の封止部分からのリークが発生し難いリード線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、冷陰極蛍光ランプのガラス管の封止部分からのリークが発生し難いリード線部材、電極部材、及び冷陰極蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鉛フリーの軟質ガラスからなるガラス部とFe-50質量%Ni合金からなるインナーリード線とによる上記封止部分から、リークが生じる原因を調べた。その結果、ガラスにおいて、それ以下に温度が下がると歪みが蓄積される臨界の温度(以下、臨界温度点と呼ぶ)の付近で、Fe-Ni合金からなる線材の熱膨張係数が大きく変動することが上記原因の一つと考えられる。
【0010】
ここで、ガラス管に封止される前のガラス部は、インナーリード線にガラスビーズを挿通し、インナーリード線の所定の位置で上記ガラスビーズを溶融してインナーリード線の周面に溶着することで形成される。即ち、封止前のガラス部は、インナーリード線の長手方向の一部に、その周方向に沿って円筒状に形成されている。このようなガラス部付きリード線を作製する場合、インナーリード線の構成金属の熱膨張係数αmがガラス部を構成するガラスの熱膨張係数αgよりも非常に大きいとき(αm>>αg(代表的には、αmg≧11×10-7/℃を満たす場合))、当該金属は熱伸縮量が大きいことから、リード線に形成したガラス部(加熱後冷却された状態(常温状態)にあるもの)には、その長手方向に適度な圧縮応力が付与されるものの、その径方向には、大きな引張応力が付与される。また、金属の収縮が大きいことで、インナーリード線とガラス部との界面に隙間が生じ易く、ガラス管を封止した後にリークが生じ得る。一方、上記金属の熱膨張係数αmが上記ガラスの熱膨張係数αgよりも小さいとき(αm<αg)、リード線に形成したガラス部(加熱後冷却された状態(常温状態)にあるもの)には、その径方向に大きな圧縮応力が付与されるものの、その長手方向には大きな引張応力が付与される。ガラスは、一般に圧縮応力に強いものの、引張応力に弱く、過度の引張応力が付与されると割れるため、この構成は好ましくない。他方、上記金属の熱膨張係数αmが上記ガラスの熱膨張係数αgよりも若干大きいとき(αm>αg)、リード線に形成したガラス部(加熱後冷却された状態(常温状態)にあるもの)には、その長手方向に適度な圧縮応力が付与され、その径方向には、許容範囲の引張応力が付与される。従って、インナーリード線の構成材料は、ガラスの材質を考慮して、αm>αgを満たす範囲の材質を選択することが望まれる。
【0011】
上述した鉛フリーの軟質ガラス(αg:91×10-7/℃)とFe-50質量%Ni合金(αm:97×10-7/℃)とは、αm>αgを満たす。しかし、Fe-Ni合金には、磁気変態と呼ばれる温度(変態点)が存在し、変態点付近では急激に熱膨張係数が増加する傾向にある。図2は、Fe-Ni合金において温度と熱膨張との関係を示すグラフであり、直線の傾きがFe-Ni合金の熱膨張係数を示す。図2のグラフに示すように、Fe-50質量%Ni合金(図2では「50Ni」と示す)は、変態点M50が500℃であり、熱膨張係数がこの変態点M50から急激に増加する。
【0012】
ガラス部が鉛入りの軟質ガラス(αg:92×10-7/℃)により構成されている場合、鉛入りの軟質ガラスの臨界温度点P1は、変態点M50:500℃よりも十分に小さく、臨界温度点P1と変態点M50:500℃との間の温度差が大きい。そのため、臨界温度点P1の近傍でFe-Ni合金の熱膨張係数が急激に変化しない。従って、この場合は、αm>αgを満たすことができる。
【0013】
一方、ガラス部が鉛フリーの軟質ガラス(αg:91×10-7/℃)により構成されている場合、鉛フリーの軟質ガラスの臨界温度点P2は、軟質ガラスの臨界温度点P1よりも50℃程度高く、変態点M50よりも若干大きい。従って、リード線の構成材料にFe-50質量%Ni合金を利用すると、臨界温度点P2と変態点M50:500℃とが近く、両者の温度差が小さい。そのため、臨界温度点P2の近くで、リード線の熱膨張係数が急激に変化して、αm>αgの関係が維持されずαm>>αgとなり、リード線が過剰に収縮する。その結果、リード線とガラス部との界面に隙間ができてリークが発生する、と考えられる。
【0014】
Fe-Ni合金の熱膨張係数及び変態点は、Niの含有量の増加に伴い増加する傾向にある。しかし、Niが多過ぎると、Fe-Ni合金の変態点以下の温度でも、鉛フリーのガラスとFe-Ni合金との熱膨張係数の差が大きくなり過ぎる、即ち、αm>>αgとなり、上述のようにリークが発生し易い。
【0015】
本発明は、上記知見に基づくものであり、鉛フリーの軟質ガラスからなるガラス部が溶着されるリード線に最適なFe-Ni合金の組成(Niの含有量)を規定することで、上記目的を達成する。
【0016】
本発明のリード線は、冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止するガラス部が溶着される線状部材であり、Niを51質量%以上55質量%以下含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする。なお、上記ガラス部は、鉛フリーの軟質ガラスからなるものとする。
【0017】
上記構成を具える本発明リード線は、特定量のNiを含有するFe-Ni合金で構成されることで、当該Fe-Ni合金の熱膨張係数αmと、ガラス部を構成する鉛フリーの軟質ガラスの熱膨張係数αgとが、当該Fe-Ni合金の変態点以下の温度範囲においてαm>αgの関係を満たす。かつ、上記特定量のNiを含有するFe-Ni合金の変態点は500℃超〜550℃であり、ガラス部を構成する鉛フリーの軟質ガラスの臨界温度点よりも高い。そのため、本発明リード線は、上記臨界温度点の近傍で熱膨張係数が急激に増加することが無く、αm>αgの関係を維持することができる。従って、本発明リード線は、過剰に収縮することが無く、ガラス部を隙間無く密着させることができる。また、ガラス部を形成後、このガラス部を加熱して冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止した場合に、当該リード線とガラス部との界面に隙間が生じ難い。従って、本発明リード線を利用することで、冷陰極蛍光ランプのリークの発生を低減することができる。また、リークが発生し難いことで、ガラス管内に封止ガスが十分に存在することができるため、本発明リード線を具える冷陰極蛍光ランプは、封止ガスのリークによる寿命の低下が抑制され、長寿命である。
【0018】
以下、本発明をより詳しく説明する。
[リード線]
<組成>
本発明リード線は、FeとNiとの二元合金から構成されており、Niの含有量を51質量%以上55質量%以下とする。Fe-50質量%Ni合金と比較して、Niの含有量が若干多いことで、上述のようにリード線の変態点を高くして、ガラス部を構成する鉛フリーの軟質ガラスの臨界温度点との差を大きくすることができる。そのため、本発明リード線は、上記臨界温度点の近傍で熱膨張係数が急激に増加することが無く、本発明リード線に隙間無くガラス部を溶着したり、ガラス管を封止したりすることができる。Niの含有量の増加に伴い、Fe-Ni合金の変態点を向上できるものの、変態点以下の温度域におけるリード線の熱膨張係数も大きくなる。特に、Niの含有量が55質量%を超えると、変態点以下の温度域において、Fe-Ni合金の熱膨張係数が鉛フリーの軟質ガラスの熱膨張係数よりも非常に大きくなり、ガラス部の径方向に過度の引張応力が付与され易くなる。従って、本発明では、Niの含有量を55質量%以下とする。Niの含有量のより好ましい範囲は、52質量%以上55質量%以下である。
【0019】
<形状>
本発明リード線は、断面形状は特に問わないが、代表的には、断面が円形状である丸線材が挙げられる。また、本発明リード線の横断面積は、電極部への電力供給に望まれる導体断面積を有し、かつ所定の強度を有するように適宜選択することができる。その他、本発明リード線の長さも適宜選択することができる。
【0020】
[製造方法]
本発明リード線は、代表的には、溶解→鋳造→熱間圧延→冷間伸線及び熱処理により得られる。より具体的には、成分を調整したFe-Ni合金の溶湯を所定の雰囲気(例えば、真空雰囲気や大気雰囲気)で作製し、この溶湯に真空鋳造といった鋳造を行い、鋳塊を得る。この鋳塊に熱間圧延を施し、圧延線材を得る。この圧延線材に冷間伸線と熱処理とを繰り返し行い、伸線材が得られる。伸線材に更に最終熱処理(軟化処理)を行うことが好ましい。熱処理を行うことで、伸線加工などの塑性加工により線材に導入された歪を除去することができ、歪を十分に除去することで、所望の熱膨張係数を満たす線材を得ることができる。最終熱処理は、水素雰囲気下、又は窒素雰囲気下で加熱温度:700〜1000℃、特に、800〜900℃程度で行うことが好ましい。保持時間は、1〜5分が好ましい。上記温度範囲で温度が高いほど、また、上記保持時間の範囲で時間が長いほど、リード線の組織が再結晶組織となる。熱処理条件を調整することで、全体が完全に再結晶組織であるリード線とすることができる。リード線が再結晶組織を有することは、歪が除去されていることの一つの目安となり、リード線の実質的に全体が再結晶組織から構成される場合、歪が完全に除去されていることの一つの目安となる。上記長尺な伸線材(又は軟材)を所定の長さに適宜切断することで、本発明リード線が得られる。切断した線材に更に研磨などの表面処理を行ってもよい。
【0021】
[リード線部材]
上記本発明リード線は、冷陰極蛍光ランプの構成部品に好適に利用することができる。本発明リード線を具える構成部品として、例えば、上記本発明リード線と、このリード線の一端に接合されたアウターリード線とを具える本発明リード線部材が挙げられる。本発明リード線(インナーリード線)とアウターリード線との接合には、代表的には、溶接が利用できる。アウターリード線は、例えば、Mn-Ni合金といったニッケル合金からなる線材、ジュメット線などが挙げられる。アウターリード線と半田との濡れ性を高めるために、アウターリード線の外周面にニッケルめっき層などのめっき層を具えていてもよい。
【0022】
[電極部材]
その他、本発明リード線を具える構成部品として、例えば、上記本発明リード線部材と、鉛フリーの軟質ガラスから構成され、上記リード線の外周に接合されたガラス部と、上記リード線の他端に接合された電極部とを具える本発明電極部材が挙げられる。上述のように本発明リード線は、その熱膨張係数が鉛フリーの軟質ガラスの臨界温度点の近傍で急激に増加することがないことから、上記ガラス部の形成にあたり当該リード線が過度に収縮することが実質的に無く、当該リード線とガラス部との隙間からリークが発生し難い。そのため、本発明電極部材により冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止することで、封止後、リークの発生を低減することができる。また、本発明リード線が過度に収縮することが無いことで、ガラス部に過度の引張応力が付与されることも防止できる。
【0023】
ガラス部を構成するガラスは、鉛フリーの軟質ガラスとする。具体的には、例えば、Na2O-K2O-CaO・MgO-Al2O3・B2O3-SiO2などが挙げられる。特に、熱膨張係数が92×10-7/℃〜95×10-7/℃のものが好ましい。ガラス部は、上述のように鉛フリーの軟質ガラスからなるガラスビーズを用意し、このビーズを本発明リード線に挿通して所定の位置で加熱し、溶融した後冷却することで形成することができる。なお、本発明リード線において少なくともガラス部の形成箇所には、予め酸化膜を形成しておく。酸化膜が存在することで、ガラスが溶着し易くなる。酸化膜の形成は、公知の方法を利用することができる。例えば、特許第4185539号公報に記載されるように、酸化性雰囲気で酸化膜を形成した後、非酸化性雰囲気でリード線を加熱して、酸化膜中にFeOを生成し、FeOを1体積%以上含有する酸化膜とすると、本発明リード線とガラス部を構成するガラスとの密着性を高めることができて好ましい。
【0024】
電極部は、純Niの他、特許第4185539号公報などに記載されるニッケル合金、Fe,Fe合金,W,Moなどからなり、有底筒状のカップ状や柱状のものが挙げられる。電極部と本発明リード線との接合には、代表的には、溶接が利用できる。
【0025】
[冷陰極蛍光ランプ]
上記本発明電極部材を具える本発明冷陰極蛍光ランプは、封入ガスが充填されたガラス管と、このガラス管の内壁に形成された蛍光体層と、上記電極部材とを具える。そして、この冷陰極蛍光ランプは、上記ガラス管内に上記電極部材の電極部が挿入されており、上記ガラス部を介して、上記電極部が当該ガラス管に固定されていると共に、上記ガラス管が封止されている。本発明冷陰極蛍光ランプは、本発明リード線を具えることで、当該リード線とガラス部との間に隙間が生じ難く、ガラス管の封止後にガラス管からの封入ガスが上記隙間から漏れ出ることを低減できる、或いは実質的に漏れ出ることがない。従って、本発明冷陰極蛍光ランプは、封入ガスのリークによる寿命の低下を抑制することができ、長期に亘り使用することができると期待される。
【0026】
蛍光体層は、例えば、ハロリン酸塩蛍光体からなるものが挙げられる。封入ガスは、例えば、希ガス及び水銀、又は水銀が挙げられる。ガラス管は、ガラス部を構成する鉛フリーの軟質ガラスと同材質の軟質ガラスでも、異なる材質(組成)の軟質ガラスからなるものでもよく、当該鉛フリーの軟質ガラスと熱膨張係数が近いものが好ましい。ガラス管の形状は、円筒状であって、I字状のものが代表的であり、その他、L字状やT字状、U字状などが挙げられる。このようなガラス管内に少なくとも一つの電極部を配置し、上記ガラス管の端部と上記ガラス部とを溶融することでガラス管を封止する。電極部を具えるガラス管として代表的には、I字状のガラス管内の両端側にそれぞれ、電極部が配置された形態、即ち、一対の電極部を有する形態が挙げられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明リード線、リード線部材、電極部材を利用することで、鉛フリーの軟質ガラスからなるガラス部により冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止した後、ガラス管のリークの発生を低減することができる。本発明冷陰極蛍光ランプは、ガラス管内の封入ガスがリークし難い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、冷陰極蛍光ランプの概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、Fe-Ni合金において、温度と熱膨張との関係を模式的に示すグラフである。
【図3】図3は、リーク状態の測定方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
冷陰極蛍光ランプに利用されるインナーリード線を想定して、Fe-Ni合金からなる線材(リード線)を複数作製し、更に、各線材の外周に鉛フリーの軟質ガラスからなるガラス部を溶着した試料No.1,2,100を用意し、各試料No.1,2,100のリーク状態を調べた。
【0030】
リード線は、以下のように作製した。通常の真空溶解炉を用いて、表1に示す量のNiを含有するFe-Ni合金の溶湯を作製し、溶湯温度を適宜調整して真空鋳造により鋳塊を得た。溶湯の原料には、純Ni(99.0質量%以上Ni)、純Fe(99.0質量%以上Fe)を用いた。原料には、市販品を利用することができる。得られた鋳塊に熱間圧延を施し、圧延線材を得た。この圧延線材に冷間伸線及び熱処理を組み合わせて施し、得られた線材に最終熱処理(軟化処理 温度:800℃×3分、水素雰囲気)を施して、線径0.8mmφの軟材を得た。各組成の軟材を適宜な長さに切断して、バレル研磨、化学研磨などの表面処理を行った。このようにして得られた線材をリード線とする。得られた各リード線の組成をICP発光分光分析装置を用いて調べたところ、Niの含有量は表1に示す量と同様であり、残部は、Fe及び不可避不純物であった。組成の分析は、ICP発光分光分析法の他、原子吸光光度法などでも行える。また、上記軟材をFIB(集束イオンビーム加工観察装置)により断面加工した後、走査イオン顕微鏡(SIM)により調べたところ、軟材は再結晶組織を有していた。
【0031】
得られた各組成のリード線を加熱し、各リード線の外周面に酸化膜を形成した。酸化膜の形成は、特許第4185539号公報に記載されるように、酸化性工程と非酸化性工程との二段階に亘って行った。
【0032】
上記酸化膜を形成した各リード線に、ガラスビーズを挿通した。ガラスビーズは、鉛フリーの軟質ガラス(日本電気硝子株式会社製 PS-94 熱膨張係数:93×10-7/℃)からなる中空の円筒状体であり、中央部に貫通孔を有する。貫通孔は、リード線の線径(0.8mmφ)よりも若干大きく、リード線の外周面と挿通したガラスビーズの内周面との間に若干の隙間を有する。上記ガラスビーズを配置したリード線を電気炉に配置し、窒素雰囲気中で加熱温度:800〜900℃、加熱時間:2〜30分で加熱して、ガラスビーズを変形させて、その内周面を酸化膜に付着させた。更に、上記電気炉中に水素ガスを混入して、(窒素+水素)雰囲気とし(水素割合:10〜20体積%)、この還元性雰囲気中で加熱温度:800〜900℃、加熱時間:2〜30分で加熱して、変形したガラスビーズからなるガラス部と酸化膜とを密着させる。この加熱により、酸化膜の一部がガラス部に拡散される。上記工程により得られたガラス部付きリード線を試料No.1,2,100とする。
【0033】
得られた各試料No.1,2,100を、図3に示すようにガラス管を想定したガラスチューブ110(ガラス部を構成するガラスと同材質からなるもの)に挿通し、ガラス部15とガラスチューブ110の一端部とを加熱して(加熱温度:800〜900℃)、ガラスチューブ110の一端部にガラス部15を封着させた。このガラスチューブ110に封着させた各試料No.1,2,100を市販のヘリウムリークディテクター(以下、HLDと呼ぶ)に配置してリーク状態を調べた。
【0034】
HLD100は、図3に示すように一端側が開口した有底の筒状体101と、筒状体101の開口部に設けられて、試料Sを配置する配置部102と、筒状体101の他端側(底部)に配置される検出器103と、筒状体101に設けられた分岐部101bに配置されて、筒状体101内を真空引きする真空ポンプ104とを具える。配置部102は、ガラスチューブ110が載置されるフランジ部102fと、ガラスチューブ110とフランジ部102fとの間を気密に保持するためのシール部材102sと、シール部材102sを押えると共に、ガラスチューブ110を支持する支持部材102hとを具える。
【0035】
上記ガラス部15を封着したガラスチューブ110の端面をHLD100のフランジ部102fに当接させて配置し、リード線(インナーリード線14i)の一部を筒状体101に挿入する。次に、ガラスチューブ110の外周にシール部材102sを配置し、更に支持部材102hを配置する。この配置により、HLD100の筒状体101内は、開口部がガラスチューブ110に封着された試料Sのガラス部15により塞がれて気密に保持される。この状態で真空ポンプ104を駆動して、筒状体101を所定の真空度にする。そして、所定の真空状態にある筒状体101に対して、ガラスチューブ110内にHe(ヘリウム)ガスを流入する。このとき、試料Sのリード線とガラス部15との間に隙間があれば、Heガスが筒状体101内に漏れて、検出器103がHeを感知する。また、真空度が高くなるほど、HLD100が配置される環境の圧力(大気圧)と筒状体101内の圧力との差が大きくなるため、Heガスが筒状体101内に漏れ易い状態となる。
【0036】
上記HLD100を利用して、リーク発生率を調べた。その結果を表1に示す。筒状体101内を表1に示す各真空度にした状態で、-65℃〜+150℃の熱サイクルを5回実施した後、検出器103がHeを感知した試料の個数を調べた。ここでは、各真空度に対して、各組成の試料を20個用意して、それぞれHeの感知状態を調べ、用意した20個中にHeを感知した試料の個数をリーク発生率とした。
【0037】
得られた各組成のリード線の熱膨張係数を測定した。その結果を表1に示す。熱膨張係数は、市販の測定器により30℃〜600℃の温度域について測定した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、Niの含有量が51質量%以上55質量%以下であるFe-Ni合金からなるリード線を利用した場合、リークが生じ難いことが分かる。このような結果となったのは、ガラス部の臨界温度点とリード線の変態点との温度差が大きくなったことで、当該臨界温度点の近傍でリード線の熱膨張係数が急激に増加せず、リード線が過度に収縮することが無かったため、と考えられる。
【0040】
上記の結果から、Niの含有量が51質量%以上55質量%以下であるFe-Ni合金からなるリード線や、このリード線を具えるリード線部材、電極部材は、冷陰極蛍光ランプの構成部品に好適に利用することができると期待される。また、得られた冷陰極蛍光ランプは、ガラス管の封止部分からのリークが生じ難く、ガラス管内に十分に封入ガスが存在できることで、長期に亘り使用可能であると期待される。
【0041】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、リード線を構成するFe-Ni合金の組成(Ni含有量)、大きさ(直径)などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明リード線、リード線部材、電極部材は、ガラス管を封止するガラス部が鉛フリーの軟質ガラスからなる冷陰極蛍光ランプの構成部品に好適に利用することができる。本発明冷陰極蛍光ランプは、例えば、液晶ディスプレイのバックライト用光源、小型ディスプレイのフロントライト用光源、複写機やスキャナなどの原稿照射用光源、複写機のイレイサー用光源といった種々の電気機器の光源として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 冷陰極蛍光ランプ 11 蛍光体層 12 ガラス管 13 電極部
14 リード線部材 14i インナーリード線 14o アウターリード線
15 ガラス部 20 半田
100 ヘリウムリークディテクター(HLD) 101 筒状体 101b 分岐部
102 配置部 102f フランジ部 102s シール部材 102h 支持部材
103 検知器 104 真空ポンプ 110 ガラスチューブ S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極蛍光ランプのガラス管を封止するガラス部が溶着されるリード線であって、
前記ガラス部が鉛フリーの軟質ガラスからなるものであり、
前記リード線は、Niを51質量%以上55質量%以下含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とするリード線。
【請求項2】
前記リード線は、再結晶組織を含むことを特徴とする請求項1に記載のリード線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリード線と、
前記リード線の一端に接合されたアウターリード線とを具えることを特徴とするリード線部材。
【請求項4】
請求項3に記載のリード線部材と、
鉛フリーの軟質ガラスから構成され、前記リード線の外周に接合されたガラス部と、
前記リード線の他端に接合された電極部とを具えることを特徴とする電極部材。
【請求項5】
封入ガスが充填されたガラス管と、
前記ガラス管の内壁に形成された蛍光体層と、
請求項4に記載の電極部材とを具え、
前記ガラス管内に前記電極部材の電極部が挿入されており、前記ガラス部を介して、前記電極部が前記ガラス管に固定されていると共に、前記ガラス管が封止されていることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−96390(P2011−96390A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246593(P2009−246593)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591200623)住電ファインコンダクタ株式会社 (21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】