説明

ルイサイト検出用電気化学式ガスセンサ、及びその作用極

【課題】ルイサイトを選択的かつリアルタイムで検出すること。
【解決手段】通気性と導電性を有する炭素繊維からなる基材12の一方の表面に金の含有層13を形成した作用極11を、前記一方の表面をガス取り入れ口21側となるように対極とともに電解液24中に配置して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルイサイトの検出に適した電気化学式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
生物に悪影響を与える程度の濃度のルイサイトを簡便に検出するために特許文献1に見られるように、サンプリングガスを受ける検知材と、検知材の光学濃度を検出する測定ヘッドとを備え、検知材が、水素イオン指示薬及び保湿剤を担体に展開して構成されている測定装置が提案されている。
これによればサンプリング時間を長くすることにより積分効果により薄い濃度のルイサイトを検出できるものの、サンプリング手段を必要とし構成が複雑化するとともに、測定完了までに時間を要するという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−62135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであってその目的とするところは、人体に影響を与えるような希薄な濃度のルイサイト、特に毒性が強いルイサイト1を選択的かつリアルタイムに検出することができる電気化学式ガスセンサを提供することである。
【0005】
また本発明の他の目的は、上記電気化学式ガスセンサに適した作用極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を達成するために本発明においては、通気性と導電性を有する炭素繊維からなる基材の一方の表面に金の含有層を形成した作用極を、前記一方の表面をガス取り入れ口側となるように対極とともに電解液中に配置するようにした。
【発明の効果】
【0007】
作用極がルイサイトに選択的に作用するため、妨害ガスの影響を可及的に少なくし、かつ通常の電気化学式ガスセンサと同等の応答速度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の電気化学式ガスセンサによるルイサイト1の校正曲線である。
【図3】金の含有量とS/N比の関係を示す線図である。
【図4】作用極の電位設定とS/N比との関係を示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
そこで以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。
図1は本発明のルイサイト電気化学式ガスセンサで、図中符号11は、本発明が特徴とする作用極であり、電解液24を収容するケース20のガス取り入れ口21に液密状態で固定されており、被測定ガスであるルイサイトの濃度に応じて対極22との間に電解電流を生じるように構成されている。なお図中符号23は参照極である。
好ましくは電解液24の漏洩を防止するためにガス取り入れ口21に撥水性と通気性を備えた隔膜14を配置するのが望ましい。
【0010】
作用極11は、例えば炭素繊維をパンチングや圧縮によりシート状に形成して構成された導電性と通気性を有する基材12と、この基材12の一方の面、つまり電解液24に接する側からガス取り入れ口21となる側への若干深部にいたるまで金(Au)の超微粒子を添着させた金の含有層13が形成されている。
【0011】
この金の含有層13は、基材12の表面から金の粒子に分散処理を施した溶液を滴下し、表面近傍に十分浸透させる段階で液分を揮散させ、十分湿潤させた後、液分を乾燥させ、さらに基材12や金の粒子に変質や損傷を与えることなく、かつ金の粒子の分散処理剤を揮散させる程度の温度で焼成することにより可及的に一方の表面側に金の微粒子を堆積させて形成されている。
このような溶液としては吸着防止及び分散促進剤としてデカンチオールを吸着させた平均粒子径4nm程度の金の粒子を有機溶媒、例えばヘキサンに拡散させたものが好適である。
【0012】
このようにして基材12に形成された金の含有層13は、電子顕微鏡により観察することにより基材12を構成する炭素繊維のそれぞれの表面に、デカンチオールが揮散して金としての活性を有する平均粒子径4nm以下の微粒子として付着していることが確認された。
【0013】
このように構成された作用極11を用いて電気化学式ガスセンサを組み上げてルイサイトのうち化学兵器として最も威力があるルイサイト1(ClCH=CHAsCl2)、つまり毒性が最も強くかつ揮発性が高い物質を、作用極11−参照極間22の電位を0.2 Vに設定して各種濃度について測定したところ図2に示すような結果となった。
【0014】
すなわち、ルイサイト1の安全基準以下の濃度である1立方メートル当り2mgのものを検出でき、また、少なくとも1立方メートル当り10mgまで高い直線性で検出できることも確認できた。
【0015】
また、所定濃度のルイサイト1を使用して金の修飾量とS/N比との関係を調査したところ図3に示すような結果となった。すなわち、基材0.1gあたり金19.0μg程度の修飾量がS/N比を確保するには好適であることがわかった。
これは、金の修飾量が基材0.1g当たり19.0μgを越えると、繊維間の隙間を閉塞するため、通気量が減少するため信号分が低下するためであると考えられる。
【0016】
なお、念のため作用極11と参照極23との間の電位とS/N比との関係を調査したところ図4に示したように0.2 Vが好適であると判明した。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によればルイサイト、特に毒性と揮発性の高いルイサイト1を高い感度とS/N比とでリアルタイムに検出することができる。
【符号の説明】
【0018】
11 作用極
12 導電性及び通気性を有する基材
13 金の含有層
20 ケース
21 ガス取り入れ口
22 対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性と導電性を有する炭素繊維からなる基材の一方の表面に金の含有層を形成した作用極を、前記一方の表面をガス取り入れ口側となるように対極とともに電解液中に配置して構成されたルイサイト検出用電気化学式ガスセンサ。
【請求項2】
通気性と導電性を有する炭素繊維からなる基材の一方の表面に金の含有層を形成したルイサイト検出用電気化学式ガスセンサ用作用極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−197260(P2010−197260A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43400(P2009−43400)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)