説明

ルウ用油脂及びそれを用いたルウ

【課題】植物油脂を主原料油脂とし、コレステロール摂取の懸念が少ない、ルウに良好なコク味を付与できるルウ用油脂を提供する。
【解決手段】ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するルウ用油脂。該ルウ用油脂と小麦粉とを含有するルウ、さらにスパイスを含むルウは、該ルウを使用した加工食品に良好な風味・コク味を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に使用されるルウに適したルウ用油脂及びそれを用いたルウに関する。
【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に使用されるルウは、小麦粉及び食用油脂を混合加熱した後、香辛料、調味料等を混合することで製造される。得られたルウは、更に容器に流し込み、冷却することで汎用性のある固形ルウとすることもできる。これらのルウは、カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に、とろみ、コク味、香味を付与することができるため、これらのルウを使用して製造されるカレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品は、とろみがあり、コク味や香味を有するものである。
【0003】
カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に使用されるルウには、従来、牛脂、豚脂及びこれらの硬化油、またはそれらの調合油が多く使用されて来た。牛脂や豚脂といった動物脂肪は、風味や物性の点からルウ用油脂に適したものであったが、コレステロールが多く含有されており、健康イメージが良くないものであった。
【0004】
牛脂や豚脂を原料油脂としない場合、例えば、ナタネ硬化油とパーム硬化油との混合油からなる植物油脂の硬化油での代用(特許文献1)や、パーム油起源の油脂と炭素原子数22個の飽和脂肪酸残基を持つ脂肪酸およびまたはその誘導体とをエステル交換する油脂での代用(特許文献2)、または、パーム油起源の油脂と炭素原子数18個の飽和脂肪酸残基を80%以上持つ植物性油脂の混合物をエステル交換して得られる油脂組成物での代用(特許文献3)が考案されて来た。
【0005】
しかしながら、植物油脂をルウの主原料油脂とする場合、物性面では水素添加やエステル交換という加工により改質可能であるが、牛脂や豚脂と比較して、独特のコク味に類するものが乏しかった。従って、牛脂や豚脂を使用せずに、植物油脂を主原料油脂として、かつ、ルウに適したコク味を持つルウ用油脂の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−210060号公報
【特許文献2】特開平5−1297号公報
【特許文献3】特開2001−258474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、牛脂や豚脂を使用しなくても植物油脂を主原料油脂としながら、良好なコク味を付与できるルウ用油脂を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、通常食用油脂を製造するために行う精製処理条件をよりマイルドな条件とし、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるように調製したなたね油は、ルウに使用すると好ましいコク味・風味を付与できること、及び、さらにパーム系油脂を併用することにより、より効果的に好ましいコク味・風味が発現することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の態様の1つは、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するルウ用油脂である。また、本発明の好ましい態様としては、前記なたね油が未焙煎なたね油であるルウ用油脂であり、前記なたね油が180℃以上の脱臭処理を経ないなたね油であるルウ用油脂である。
本発明のまた別の態様としては、前記ルウ用油脂と小麦粉とを含有するルウであり、該ルウが、さらにスパイスを含むルウである。さらに別の態様としては、前記ルウを使用した加工食品である。
また、本発明は態様の1つとして、小麦粉と、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するルウ用油脂とを加熱混合し、冷却固化するルウの製造方法を提供する。
また、本発明は態様の1つとして、ルウの油脂中に、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有させるルウの風味改質方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、牛脂や豚脂を主原料油脂とした場合のようなコレステロール摂取の懸念が少なく、かつ、ルウに良好なコク味を持たせるルウ用油脂及び該ルウ用油脂を使用したルウ及び該ルウを使用した加工食品を提供できる。
また、本発明によれば、牛脂や豚脂を主原料油脂とした場合のようなコレステロール摂取の懸念が少なく、かつ、コク味豊かなルウの製造法及び風味改質方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のルウ用油脂は、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%含有する。ここで、ロビボンド比色計におけるY+10R値とは、5・1/4インチセル(133.4ミリセル)を使用して測定したY値と、同じく5・1/4インチセル(133.4ミリセル)を使用して測定したR値とから、Y値にR値の10倍を加えることによって導き出される値である。ロビボンド比色計におけるY値及びR値の測定は、日本油化学協会、基準油脂分析法2.2.1.1−1996のロビボンド法に準拠して行うことができる。色度が濃い(ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上である)なたね油を使用することで、ルウ及びそれを使用した加工食品に良好なコク味・風味を付与することができる。
【0012】
本発明のルウ用油脂に使用するなたね油は、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油であれば特に限定されないが、焙煎処理されたなたね種子より得られる焙煎油より、焙煎処理されないなたね種子より得られる未焙煎油であることが好ましい。焙煎油は香味に優れ好ましいものではあるが、未焙煎油を使用する方がよりマイルドで一般に受け入れられ易い風味となるので好ましい。
【0013】
本発明のルウ用油脂に使用するなたね油の態様の1つとしては、未焙煎のなたね種子より圧搾されたなたね油を脱ガム処理(リン脂質除去)したなたね油であることが好ましい。脱ガム処理としては、例えば、温度70〜80℃、水添加量約3質量%(対圧搾粗油)の条件下、必要に応じてクエン酸もしくはリン酸を添加して、遠心分離機で遠心分離することでリン脂質の除去がなされる。必要に応じて水洗い、乾燥後、再度ろ過する等方法が挙げられるが、これに限定するものではない。
【0014】
本発明のルウ用油脂に使用するなたね油のまた別の1態様としては、未焙煎のなたね種子より圧搾もしくは圧搾抽出されたなたね油を、少なくとも脱ガム、脱臭処理したなたね油であることが好ましい。脱ガム処理としては、上記と同様の方法をとることができる。
【0015】
脱臭処理は、揮発性物質等を除去することができれば、脱臭方法は特に限定されないが、例えば、油脂の精製に通常用いられる減圧水蒸気蒸留にて脱臭することが好ましい。
【0016】
減圧水蒸気蒸留の条件は、脱臭処理する油脂の臭気の強さにより適宜変更されるが、通常の食用油脂の精製における脱臭温度(200〜270℃)より低い温度、すなわち、脱臭温度が180℃以上とはならない(180℃以上の脱臭処理を経ない)ことが好ましい。例えば、20トール未満の減圧下(好ましくは2〜10トールの減圧下)、脱臭温度180℃未満で行うことが好ましく、100〜170℃で行うことがより好ましく、120〜160℃で行うことが更に好ましい。脱臭時間は、10〜120分間であることが好ましく、20〜90分間であることがより好ましい。上記脱臭条件で脱臭処理することにより、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上である、雑味・えぐ味が取れ、適度なコク味・香味が残ったなたね油が得られるので好ましい。
【0017】
脱酸、脱色処理は特に必須ではないが、脱酸、脱色処理を行うことで、脱臭後のなたね油の品質はより安定したものとなる。
【0018】
脱酸処理においては、例えば、80〜90℃程度に加温した脱ガム処理油に、油脂中の遊離脂肪酸に対して5〜40質量%過剰のアルカリ水溶液を添加攪拌し、遠心分離により、沈殿物を除去することにより、油脂中に含まれる遊離した脂肪酸を除去することができる。
【0019】
アルカリ水溶液の添加量は、油脂中に含まれる遊離した脂肪酸の量によって決定される。アルカリ水溶液は、遊離した脂肪酸を中和するために必要な量よりも5〜40質量%過剰に添加することが好ましい。アルカリ水溶液の添加量が5質量%未満であると、油脂中に遊離した脂肪酸を十分に除去することができない場合がある。一方、アルカリ水溶液の添加量が40質量%以下であると、油脂のけん化分解を抑えられ、収量の低下を抑えられる。
【0020】
脱酸処理で使用するアルカリ水溶液は、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等公知の種々のアルカリ水溶液を使用することができる。
【0021】
脱酸処理に付随する後工程として、必要に応じて油脂中に含まれる石鹸(アルカリ成分)を除去するために水洗を行う(水洗工程)。水洗工程は、アルカリ成分を除去することができれば水洗でなくてもよく、例えば、湯を使用してアルカリ成分を除去してもよい。なお、水洗工程後必要に応じて、脱酸水洗された油脂を乾燥させてもよい。
【0022】
脱色処理は、油脂に吸着剤を添加することにより行う。油脂に添加する吸着剤は、適宜変更することができるが、例えば、モンモリロナイトを主成分とする白色から黄褐色の粘土鉱物である白土を酸処理した活性白土、活性炭等公知の種々の吸着剤を使用することができる。これらは単独で使用してもよいが、複数組み合わせて使用してもよい。
【0023】
吸着剤の添加量は、油脂中に含まれる着色成分量によって適宜変化させることができるが、例えば、活性白土の場合、油脂に対して0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.4質量%であることが更に好ましい。吸着剤の添加量が上記範囲であると、脱臭処理後の風味が適度なものとなり好ましい。
【0024】
油脂と吸着剤との接触条件は、油脂によって適宜変更することができるが、例えば90〜120℃で10〜40分間接触させることが好ましい。この条件で効率的に脱色処理を行うことができる。
【0025】
また、油脂と吸着剤とを接触させる際、水分の存在による吸着剤の吸着効率の低下を防止するとともに、酸素の存在による油脂の酸化を防止するために、減圧下で油脂と吸着剤とを接触させ、脱色処理を行うことが好ましい。脱色処理の終了には、フィルタープレス等によりろ過し、吸着剤を除去する。
【0026】
本発明のルウ用油脂に使用するロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油は、未焙煎のなたね種子から圧搾もしくは圧搾抽出した油脂を、上記記載の条件で、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭処理したものが、カレールウとした場合、スパイスとの調和が良いので更に好ましい。
【0027】
本発明のルウ用油脂に使用するなたね油は、ルウとした場合に良好なコク味・風味を得るために、ロビボンド比色計におけるY+10R値が50以上であることが好ましく、55以上であることが更に好ましい。Y+10R値の上限値は特に制限はないが、品質をより安定したものとするために、150以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましい。また、本発明のルウ用油脂は、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を、0.1〜10質量%含有することが好ましく、1〜8質量%含有することがより好ましく、2〜6質量%含有することが更に好ましい。
【0028】
本発明のルウ用油脂は、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油の他にパーム系油脂を50〜99.99質量%含有する。本発明でいうパーム系油脂とは、パーム油、パーム油の分別油及びそれらの加工油(硬化、エステル交換及び分別のうち1以上の処理がなされたもの)であれば何れでもよく、具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)等が例示できる。また、それらの1種以上とパーム系油脂以外の油脂との混合油のエステル交換油や硬化油の場合、原料油脂中のパーム系油脂含量に応じた量をパーム系油脂として扱う。なお、パーム核油はパーム系油脂には含まれない。
【0029】
分別油を得るための分別方法には特に制限はなく、溶剤分別、乾式分別、乳化分別の何れの方法を用いてもよい。
【0030】
硬化油は、常法に従い、例えば、原料油脂にニッケル触媒を対油0.01〜0.3質量%添加し、温度120〜200℃、水素圧0.01〜0.3MPaの条件で水素添加反応を行うことにより得ることができる。反応後は、触媒をろ過で取り除いた後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0031】
エステル交換反応は、化学的エステル交換、酵素的エステル交換のどちらでも行うことができる。
【0032】
化学的エステル交換は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメチラート等の触媒を原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、水洗にて触媒を洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0033】
酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0034】
本発明のルウ用油脂は、コク味立ちがよくなるので、パーム系油脂を60〜99.9質量%含有することが好ましく、70〜99質量%含有することがより好ましく、80〜98質量%含有することが最も好ましい。
【0035】
また、本発明のルウ用油脂は、コク味立ちがさらによくなるので、パーム系油脂のエステル交換油を30〜99.9質量%含有することが好ましく、40〜99質量%含有することがより好ましく、50〜98質量%含有することが最も好ましい。
【0036】
本発明のルウ用油脂は、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有する他に、その他の食用油脂を含有しても良い。その他食用油脂を含有する場合、100質量%からロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油とその他食用油脂との合計含量(質量%)を減じた値が、パーム系油脂含量の上限となる。また、その他の食用油脂は、植物油脂であることが好ましい。植物油脂としては、従来食用に供される大豆油、上記ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油以外のなたね油、綿実油、ヒマワリ種子油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、イリッペ脂、サル脂、シア脂、パーム核油、ヤシ油等、並びに、これらに、硬化、分別、エステル交換(油脂と脂肪酸または脂肪酸エステルとのエステル交換も含む)等の加工を加えた加工油脂の中から1種あるいは2種以上を選択して使用できる。
【0037】
本発明のルウ用油脂は、コレステロール摂取を低減するという点において、植物油脂のみを原料油脂とすることが好ましいが、植物油脂以外の油脂としては、風味の調整等の必要に応じて動物油脂を少量使用することができる。特に、乳脂肪が好ましく、乳脂肪を使用する場合、0.1〜10質量%含有することが好ましく、0.1〜5質量%含有することがより好ましい。また、ルウ用油脂中のコレステロール含量としては、ルウ用油脂100g中、20mg未満であることが好ましく、10mg未満であることがより好ましく、5mg未満であることが最も好ましい。
【0038】
本発明のルウ用油脂に含まれる油脂の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましく、0〜2質量%であることが最も好ましい。トランス脂肪酸含量が前記範囲であると、心疾患リスクがあるとされるトランス脂肪酸摂取を低く抑えられるだけでなく、ルウに使用した場合、風味がくどくならないので好ましい。
【0039】
本発明のルウ用油脂は、カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に用いられるルウの油脂として好適に用いることができる。また、本発明のルウ用油脂に、油脂以外の油に溶解する成分を含有させてもよい。レシチン等の乳化剤、トコフェロール等の酸化防止剤、カロテン等の着色料などを油脂に分散、溶解させてルウを製造することもできる。油脂以外の成分を含有させる場合は、油脂に対して3質量%以下とすることが、風味の点で好ましい。
【0040】
本発明のルウは、本発明のルウ用油脂と小麦粉とを含有することを特徴とする。ルウとは、小麦粉及び油脂を加熱混合し、必要に応じて、ここにカレー粉等のスパイス、食塩、糖類、調味料等の副原料を添加混合したものである。本発明のルウは、固形状の固形ルウや可塑性のあるルウ、或は、流動状のペーストルウや液状ルウ、いずれの形態でもよい。また、含水物であっても良く、乳化形態は、油中水型、水中油型及び二重乳化型のいずれでも構わない。本発明のルウは、カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に用いることができる。
【0041】
本発明のルウは、ルウの油脂中にロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するように製造する。本発明のルウの油脂中に含有されるロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油の含量は、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましく、2〜6質量%であることが最も好ましい。また、本発明のルウの油脂中に含有されるパーム系油脂の含量は、60〜99.9質量%であることが好ましく、70〜99質量%含であることがより好ましく、80〜98質量%であることが最も好ましい。ルウの油脂中のロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油とパーム系油脂の含量を前記範囲とすることにより、ルウの風味(コク味)を効果的に改質できる。
【0042】
本発明のルウの油脂中に含まれるロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油とパーム系油脂の含量を前記範囲に調整するために、本発明のルウは、本発明のルウ用油脂を5〜75質量%含有することが好ましく、20〜60質量%含有することがより好ましく、30〜50質量%含有することが最も好ましい。また、本発明のルウの油脂中に占める本発明のルウ用油脂の含量は、80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0043】
本発明のルウには、小麦粉が用いられる。小麦粉の配合量は特に制限されることはないが、本発明のルウ中における小麦粉の含量は、5〜75質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましく、30〜50質量%であることが最も好ましい。使用する小麦粉の種類は特に制限されず、強力粉、薄力粉、焙煎小麦粉等を使用することができる。
【0044】
本発明のルウには、油脂及び小麦粉以外の成分として、通常、ルウに配合される成分を適量使用することができる。具体的には、デンプン類、スパイス(カレー粉等)、食塩、砂糖、乳化剤、糖類、調味料、増粘安定剤、乳製品(牛乳、チーズ、粉乳、生クリーム等)、甘味料、酸味料、着色料、酸化防止剤、蛋白、pH調整剤、果実、果汁、はちみつ、着香料、水等を使用することができる。
【0045】
本発明のルウは、本発明のルウ用油脂のコク味を効果的に引き出すことができるので、スパイス(香辛料及び香草類)を含むことが好ましい。スパイスとしては、コショウ、パセリ、カルダモン、ターメリック、ジンジャー、ガーリック、キャラウェー、マスタード、パプリカ、アジョワン、アニス、サボリ、バジル、オレガノ、セージ、タイム、トウガラシ、ローズマリー、ゴマ、ナツメグ、メース、ローレル、シナモン、桂皮、山椒、陳皮、クミン、クローブ、オールスパイス、コリアンダー、フェンネル、花椒等を例示することができる。また、それらを適宜混合した、七味、ガラムマサラ、カレー粉等を例示できる。
スパイスはルウ中に、1〜20質量%含まれることが好ましく、5〜15質量%含まれることがより好ましい。
【0046】
本発明のルウの製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法で製造することができる。例えば、加熱溶解した油脂に小麦粉を加えて混合し、110〜120℃で撹拌しながら加熱焙煎した後、ここにカレー粉等のスパイス、食塩、糖類、調味料等の副材料を添加して、混合することで製造することができる。さらに、得られたルウを型に入れて、風冷等の冷却方法によって、0〜25℃で5〜120分間冷却し、固化させることにより、固形ルウとすることができる。
【0047】
本発明の加工食品は、本発明のルウを使用して製造されることを特徴とする。本発明の加工食品としては、カレーソース(単にカレーと呼ばれることもある)、シチュー、ハヤシソース(ハヤシ、デミグラスソースと呼ばれることもある)、ホワイトソース、ベシャメルソース等が挙げられる。
【0048】
本発明の加工食品の製造方法は、特に限定されるものではなく、本発明のルウ(カレールウ、シチュールウ、ハヤシルウ、ホワイトルウ等)、野菜、肉等を用いて、従来公知の方法で製造することができる。本発明の加工食品は、レトルト食品(インスタント食品、即席食品と呼ばれることもある)として好適に使用することができる。
【0049】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油、精製なたね油、植物油脂1〜3及びラードを表1〜2に示した配合で混合し、実施例1〜5の油脂及び比較例1〜5の油脂を得た。ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油、精製なたね油、植物油脂1〜3及びラードの調製は以下のように行った。調製したなたね油の色度Y値及びR値の測定は、ロビボンド比色計(ティントメーター社製、TINTOMETER MODEL F)で133.4ミリセル(=5・1/4インチセル)を用いて測定した。
(なたね油の調製)
〔ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油〕
未焙煎のなたね種子から圧搾抽出されたなたね粗油を、常法に従って、脱ガム、脱酸処理した後、活性白土を対油0.3質量%添加して、減圧下90〜110℃で20分間攪拌した後、ろ過により活性白土を除去して脱色(処理)油を得た。得られた脱色油を、5〜6トールの減圧下、140℃で60分水蒸気蒸留(脱臭処理)を行い、トランス脂肪酸含量が0.2質量%、ロビボンド比色計におけるY+10R値が64であるなたね油を得た。
〔精製なたね油〕
上記なたね粗油を、常法に従って、脱ガム、脱酸処理した後、活性白土を対油0.7質量%添加して、減圧下90〜110℃で20分間攪拌した後、ろ過により活性白土を除去して脱色(処理)油を得た。得られた脱色油を、5〜6トールの減圧下、255℃で60分水蒸気蒸留(脱臭処理)を行い、トランス脂肪酸含量が1.4質量%、ロビボンド比色計におけるY+10R値が10であるなたね油を得た。
(植物油脂の調製)
〔植物油脂1〕
パームステアリン(ヨウ素価32)30部とパーム油(ヨウ素価52)70部とを混合し、常法に従って、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換した後、中和、脱色、脱臭の精製処理を行い、トランス脂肪酸含量が0.2質量%である植物油脂1を得た。
〔植物油脂2〕
パーム油85部とナタネ油15部とを混合し、常法に従って、ニッケル触媒を用いて水素添加した後、脱色、脱臭の精製処理を行い、トランス脂肪酸含量が17.3質量%である植物油脂2を得た。
〔植物油脂3〕
パーム油30部とナタネ油70部とを混合し、常法に従って、ニッケル触媒を用いて水素添加した後、脱色、脱臭の精製処理を行い、トランス脂肪酸含量が37.5質量%である植物油脂3を得た。
(ラードの調製)
市販の精製ラード(トランス脂肪酸含量0.9質量%、コレステロール含量100mg/100g)を購入して使用した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
(カレーソースの評価)
カレールウ用の油脂として、実施例1〜5の油脂、比較例1〜5の油脂を使用し、以下の方法により、カレールウ及びカレーソースを調製した。
各油脂100g及び小麦粉100gを、加熱攪拌鍋に入れ、かき混ぜながら120℃に達するまで加熱した。次に各油脂及び小麦粉の混合物を、攪拌混合しながら品温を約110℃まで下げ、カレー粉30g、食塩28g、調味料26g、砂糖17gを順次添加し、さらに攪拌混合することでカレールウを調製した。更にカレールウを攪拌しながら品温60℃まで冷却した後、ポリプロピレン製の型に流し込み、冷蔵庫で冷却することで固形カレールウを調製した。カレーソース中のカレールウ含量が15質量%となるように、固形カレールウをお湯に溶かすことで実施例6〜10のカレーソース及び比較例6〜10のカレーソースを得た。
コク味を以下の基準で点数化し、パネル6名の評点の平均値を算出することにより、得られたカレーソースの評価を行った。結果を表3〜4に示す。
評価基準
コク味が感じられ、くどさや雑味が無い 4点
コク味が感じられるがややくどさや雑味が感じられる 3点
コク味が弱い、または、くどい 2点
コク味が感じられない 1点
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
(ホワイトソースの評価)
ホワイトソース用の油脂として、実施例3の油脂及び比較例1の油脂を使用し、以下の方法により、ホワイトルウ及びホワイトソースを調製した。
各油脂100g及び小麦粉100gを、加熱攪拌鍋に入れ、かき混ぜながら120℃に達するまで加熱した。次に各油脂及び小麦粉の混合物を、攪拌混合しながら品温を約80℃まで下げ、全脂粉乳(乳脂肪25質量%)30g、食塩18g、調味料36g、砂糖17gを順次添加し、さらに攪拌混合することでホワイトルウを調製した。更にホワイトルウを攪拌しながら品温60℃まで冷却した後、ポリプロピレン製の型に流し込み、冷蔵庫で冷却することで固形ホワイトルウを調製した。
ホワイトルウ80部、水500部及び牛乳100部を混合し、加熱してルウを溶かすことで実施例11(実施例3の油脂を使用)及び比較例11(比較例1の油脂を使用)のホワイトソースを得た。
ホワイトソースのコク味をカレーソースと同様に評価したところ、実施例11の評価の平均点は3.5、比較例11の評価の平均点は1.5であった。実施例11のホワイトソースはコク味とともにやや雑味が感じられ、カレーソースと比べ好みに個人差があった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、牛脂や豚脂を使用しなくても植物油脂を主原料油脂としてルウに適したコク味を持つルウ用油脂を提供することができる。そして、該油脂を使用したコレステロール摂取の懸念が少ないルウ及び加工食品の提供が可能となり、健全で豊かな食生活に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するルウ用油脂。
【請求項2】
前記なたね油が未焙煎なたね油である請求項1に記載のルウ用油脂。
【請求項3】
前記なたね油が180℃以上の脱臭処理を経ないなたね油である請求項1または2に記載のルウ用油脂。
【請求項4】
請求項1〜3何れか1項に記載のルウ用油脂と小麦粉とを含有するルウ。
【請求項5】
請求項4に記載のルウが、さらにスパイスを含むルウ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のルウを使用した加工食品。
【請求項7】
小麦粉と、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量%及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有するルウ用油脂とを加熱混合し、冷却固化するルウの製造方法。
【請求項8】
ルウの油脂中に、ロビボンド比色計におけるY+10R値が40以上であるなたね油を0.01〜15質量及びパーム系油脂を50〜99.99質量%含有させるルウの風味改質方法。

【公開番号】特開2012−249589(P2012−249589A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125422(P2011−125422)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】