説明

ルチル型二酸化チタン光触媒

【課題】光触媒活性と超親水性機能に優れた二酸化チタンを、工業的生産に適している、簡単な手法で得ることが求められている。
【解決手段】チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、電圧(例えば、高電圧)を印加して陽極酸化を施すことによりあるいは高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより、光触媒活性に優れたルチル型二酸化チタンを製造することができ、さらに、該基材の表面に、電圧を印加しての陽極酸化法あるいは高電流密度条件下の陽極酸化法により作製した膜に熱処理を施すことで、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、光触媒活性を有するルチル型二酸化チタンを形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体的特性を有する金属酸化物、特には酸化チタンは、紫外線領域の特定波長の光を照射することによって優れた光触媒活性を示し、その表面において気相あるいは液相(場合によっては固相)の化学物質を酸化分解する。該光触媒作用に由来する強力な酸化反応によって該酸化チタンは、防臭、防黴、殺菌作用を発揮する。
こうした活性を有する二酸化チタンを、チタンまたはチタン合金の表面に担持せしめるための従来技術としては、蒸着法とゾルゲル法が多用されている。ゾルゲル法はディップコートやスピンコートで行う簡便な方法で、異型基材への担持が可能であるが、量産性に劣るという問題を有している。特にスピンコートでは膜の均一性が悪く平板基板にしか担持できないという短所がある。一方、蒸着法は成膜材の緻密性や均一性に優れているものの、特殊装置を用いることからコストが高く、膜厚が厚いことから剥離の可能性が高いという欠点がある。
【0003】
こうした手法に代わるものとして、陽極酸化法により光触媒活性を有する二酸化チタン薄膜を成膜する方法が提案されている。陽極酸化法による光触媒二酸化チタン薄膜の製造の報告例では、光触媒としては、アナタース型二酸化チタンのほうが、高温型結晶として知られるルチル型二酸化チタンよりその活性が高いとして、専らアナタース型二酸化チタン膜を形成することを目的としている。
こうした従来技術の中で、特開2002-113369号公報〔特許文献1〕は、結晶構造がルチ
ル型の二酸化チタンを含むことを特徴とする光触媒及びその製造法を開示するが、それは酸化チタン粉末を主とする光触媒材料を成形して光触媒体を製造する技術であり、そこではルチル型二酸化チタン粉末は水素雰囲気中熱処理を行うことにより酸素欠陥を導入してアナターゼ型二酸化チタン粉末との混合物からなる酸化チタン粉末として得られたり、ルチル型の二酸化チタン粉末のみからなる酸化チタン粉末として得られたり、さらには膜状体に酸素欠陥導入又は原子置換を施して光触媒体を得ているといったものである。
こうした中で、陽極酸化法で成膜した二酸化チタンの超親水性を報告した文献はまったく報告されていないし、陽極酸化法で光触媒活性を有するルチル型二酸化チタン薄膜を形成することについては知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2002-113369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的生産に適しており、且つ、簡単な手法で、均一で緻密なものとして、光触媒活性と超親水性機能に優れた二酸化チタンを得る技術を提供することが求められている。特には、光触媒活性と超親水性機能とに優れた二酸化チタン薄膜を成膜する技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、意外なことに、二酸化チタン光触媒体の光触媒活性および超親水性などの性能が、二酸化チタンのルチル結晶性である薄膜においても、大変優れていることを見出した。
本発明で得られるルチル構造の結晶性が向上せしめられている二酸化チタン薄膜形成材
では、紫外線照射により酸素空孔が形成され易くなっており、酸素空孔への水酸基の吸着が促進されて超親水性が改善されている。
従来からの認識と異なり、光触媒はルチル相であって、なおかつ、大変優れていることから、熱処理は条件が適切でない場合、高温で安定なルチル相が出現するなどという問題も関係がなくなり、結晶性を高める平衡熱処理を行うことを効果的に実施できる。また、本発明で作成した陽極酸化膜は、熱処理を施す以前にすでに優れた活性を示している。
以上のように、ルチル型二酸化チタン薄膜でもって、大変優れた光触媒活性および超親水性などの性能が得られるので、その陽極酸化膜に所定の熱処理を施すことで、超親水性と酸化分解性能の二つの機能を同時に満たす膜の製造が可能となる。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
本発明では、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、電圧(好ましくは高電圧)を印加して陽極酸化を施すことにより、結晶性にも優れ且つ光触媒活性にも優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供される。本発明では、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、高い電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより、結晶性に優れ且つ光触媒活性にも優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供される。また、本発明では、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に高電圧を印加して陽極酸化法により作製した膜や高電流密度条件下の陽極酸化法により作製した膜に熱処理を施すことで、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供される。
【0008】
本発明は、次なるものを提供している。
〔1〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、(i)電圧(例えば、高電圧)を印
加して陽極酸化を施すあるいは(ii)高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより、光触媒活性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法。
〔2〕陽極酸化が、2.6 wt%〜14.1 wt%の濃度の硫酸水溶液中で行われるものであること
を特徴とする上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕高電流密度条件が25mA/cm2又はそれを超える高電流密度であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕陽極酸化が2分間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上記
〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の方法。
〔5〕電圧が100V又はそれを超える電圧であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔6〕陽極酸化が2.2時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上
記〔1〕、〔2〕又は〔5〕に記載の方法。
〔7〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に(i)電圧(例えば、高電圧)を印加
して陽極酸化を施すあるいは(ii)高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより作製した膜に、熱処理を施すことで、光触媒活性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法。〔8〕熱処理が、400℃〜1000℃の温度で行われることを特徴とする上記〔7〕に記載の
方法。
〔9〕熱処理が、1時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上記
〔7〕又は〔8〕に記載の方法。
〔10〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、(i)電圧(例えば、高電圧)を印
加して陽極酸化を施すか、あるいは、(ii)高電流密度条件下に陽極酸化を施し、次に得られた該基材上成膜に熱処理を施して、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法。
〔11〕高電流密度条件が25mA/cm2又はそれを超える高電流密度であることを特徴とする上記〔10〕に記載の方法。
〔12〕陽極酸化が2分間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上記
〔10〕又は〔11〕に記載の方法。
【0009】
〔13〕電圧が100V又はそれを超える電圧であることを特徴とする上記〔10〕に記載の方法。
〔14〕陽極酸化が2.2時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上
記〔10〕又は〔13〕に記載の方法。
〔15〕陽極酸化が、2.6 wt%〜14.1 wt%の濃度の硫酸水溶液中で行われるものであること
を特徴とする上記〔10〕〜〔14〕のいずれか一に記載の方法。
〔16〕熱処理が、400℃〜1000℃の温度で行われることを特徴とする上記〔10〕〜〔15〕
のいずれか一に記載の方法。
〔17〕熱処理が、1時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする上記
〔10〕〜〔16〕のいずれか一に記載の方法。
〔18〕該ルチル型二酸化チタンが、結晶性に優れ、X線回折におけるルチル110回折線の
半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有する二酸化チタン皮膜であるこ
とを特徴とする上記〔1〕〜〔17〕のいずれか一に記載の方法。
〔19〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔18〕のいずれか一に記載の方法。
〔20〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に200ppm
(0.02%)〜4000ppm (0.4%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔1〕〜〔19〕のいずれか一に記載の方法。
〔21〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に400ppm
(0.04%)〜2000ppm (0.2%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔1〕〜〔20〕のいずれか一に記載の方法。
〔22〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に600ppm
(0.06%)〜1500ppm (0.15%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔1〕〜〔21〕
のいずれか一に記載の方法。
〔23〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に800ppm
(0.08%)〜1200ppm (0.12%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔1〕〜〔22〕
のいずれか一に記載の方法。
【0010】
〔24〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に形成されている二酸化チタン皮膜を有する光触媒体であって、X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有することを特徴とする二酸化チタン光触媒体。
〔25〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、電圧(例えば、高電圧)を印加してあるいは高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより製造される二酸化チタン、又はそれにさらに熱処理を施されて製造されている二酸化チタンであって、X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有する二酸化チタンの薄膜を有することを特徴とする光触媒体。
〔26〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたものであることを特徴とする上記〔24〕又は〔25〕に記載の光触媒体。
〔27〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に200ppm
(0.02%)〜4000ppm (0.4%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔24〕〜〔26〕のいずれか一に記載の光触媒体。
〔28〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に400ppm
(0.04%)〜2000ppm (0.2%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔24〕〜〔27〕のいずれか一に記載の光触媒体。
〔29〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に600ppm
(0.06%)〜1500ppm (0.15%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔24〕〜〔28〕
のいずれか一に記載の光触媒体。
〔30〕該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に800ppm
(0.08%)〜1200ppm (0.12%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔24〕〜〔29〕
のいずれか一に記載の光触媒体。
〔31〕チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、高電圧を印加してあるいは高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより、X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有する二酸化チタン光触媒を製造する方法。〔32〕X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを90%以上含有する二酸化チタン光触媒で、該二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に200ppm (0.02%)〜4000ppm (0.4%)の硫黄を含有していることを特徴とする上記〔31〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、超親水性と酸化分解性能の二つの機能が同時に優れているルチル型二酸化チタンを、陽極酸化法によりチタンあるいはチタン合金上に成膜することで、光触媒活性に優れ、紫外線未照射でも超親水性を示す材料を提供することができる。このような二酸化チタンは酸化分解効果により、抗菌、消臭、浄水、防泥、大気浄化などの効果が得られると同時に、超親水性効果により、防曇の効果が得られる。
本発明の技術で得られるチタンまたはチタン合金基材の表面にルチル型二酸化チタン層を持つ材料は、優れた光触媒活性と共に優れた超親水性を持っており、脱臭、防黴、防汚性、殺菌作用等に優れた材料で、該ルチル型二酸化チタン層は基材との密着性においても非常に優れたものであって、取扱い過程での皮膜の剥離・損傷抵抗も大きいので、防黴、防汚などの効果を有する建築材、空調機器、浄水設備等に用いられる各種部材として有効に活用することができる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、陽極酸化法を用いて光触媒活性と超親水性機能に優れた二酸化チタン薄膜をチタンまたはチタン合金の基材上にコーティングする方法を提供する。
本発明は、ルチル構造の二酸化チタンが、紫外線照射により酸素空孔が形成され易くなっており、その結果酸素空孔への水酸基の吸着も促進されて、超親水性も改善されたとの知見も基礎としたものである。本発明は、微細ポアによる水滴の浸透効果を利用するものも包含される。これまで、光触媒性能はルチル相に比べアナタース相のほうが優れているとされてきたが、予想外に、陽極酸化法で光触媒活性と超親水性機能に優れた二酸化チタン薄膜をルチル結晶性の向上により効果的に得ることができるとの知見も利用している。二酸化チタンの結晶性を高めるには平衡熱処理を行うことが望ましいが、熱処理は条件が適切でない場合、従来は好ましくないとされていた、高温で安定なルチル相が出現する。しかし、本発明に従えば、陽極酸化法で形成された二酸化チタン膜を、光触媒活性と超親水性機能とに優れたなどという高活性のルチル型二酸化チタンとして得ていることから、当該条件下に作製した陽極酸化膜は、熱処理を施すのにも有利であり、陽極酸化法により作製した膜に、所定の熱処理を施すことで、超親水性と酸化分解性能の二つの機能を同時に満たしている、高機能の膜の製造が可能となるのである。
【0013】
本発明において用いられる基材は、チタン含有金属材料からなるものが挙げられ、該基材としてはチタン(純チタンを含む)またはチタン合金からなるものが包含される。チタン合金とは、チタンを含有する合金を包含するものである。当該チタン含有金属材料を電圧印加の下に陽極酸化処理することにより、基体上にルチル型二酸化チタンを含む陽極酸
化膜が形成され、このルチル型二酸化チタンが光触媒活性並びに超親水性を有するものが得られるのである。別の態様では、当該チタン含有金属材料を高電流密度条件下に陽極酸化処理することにより、基体上にルチル型二酸化チタンを含む陽極酸化膜が形成され、このルチル型二酸化チタンが光触媒活性並びに超親水性を有するものが得られる。該チタン含有金属材料は、実質的に100%チタンからなる純チタンであってもよく、ここで該「実
質的に」とは、本発明の効果を損なわない程度の不純物、混合物の存在を包含する意味を有するものであってよい。純チタンとしては、例えば、JIS1種、JIS2種、JIS3種、JIS4種、ASTM G1、ASTM G2、ASTM G3、ASTM G4、AMS4902、AMS4900、AMS4901、AMS4921などが挙げられる。典型的な場合では、得られる金属材料の光触媒性能並びに超親水性能の観点から、成膜部分(表面並びにその近傍など)では基体に使用される合金全体におけるチタン含有量は80%以上であることが望ましい。
【0014】
チタンと共に合金を構成する金属は、チタンとの相溶性が良好であれば特に制限はなく、目的に応じて、様々な元素から選択されてよく、当該分野で知られたものを使用してよい。
チタン合金としては、例えば、チタン基合金が挙げられ、5族元素(5A族元素)、6族元素(6A族元素)、7族元素(7A族元素)、鉄族元素、白金族元素、11族元素(1B族元素)、14族元素(4B族元素)、3族元素(3A族元素、ランタノイド、アクチノイド、ミッシュメタルを
包含する)よりなる群から選択される元素の少なくとも1種を含有するもの、チタンとの金属間化合物を形成する元素の少なくとも1種を含有するものなどが挙げられる。
【0015】
チタン合金に配合される代表的な元素としては、5族元素では、例えば、V, Nb, Taな
ど、6族元素では、例えば、Cr, Mo, Wなど、7族元素では、例えば、Mn, Reなど、鉄族
元素では、例えば、Fe, Co, Niなど、白金族元素では、例えば、Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなど、11族元素では、例えば、Cu, Ag, Auなど、14族元素では、例えば、Si, Sn, Pbなど、3族元素では、Y, La, Ce, Nd, Sm, Tb, Er, Yb, Acなどが挙げられ、それらは単独あ
るいは複数のものをTiに対して配合されているものでよい。典型的な場合、本発明で用いる好ましいチタン合金としては、例えばMo, Nb, Ta, V, Ag, Co, Cr, Cu, Fe, Mn, Ni, Pb, Si, Wの元素の少なくとも1種を合金元素として含有するチタン合金が挙げられる。
【0016】
代表的なチタン合金としては、当該分野で知られたものを使用してよく、例えば、Ti-Nb-Sn合金、Ti-Fe-O合金、Ti-Fe-O-Si合金、Ti-Pd合金、Ti-Ni-Pd-Ru-Cr合金、Ti-Al-V合
金、Ti-Al-Sn-Zr-Mo合金、Ti-Al-Mo-V-Fe-Si-C合金、Ti-V-Cr-Sn-Al合金、Ti-Mo-Zr-Al合金、Ti-Mo-Ni合金、Ti-Ta合金、Ti-Al-Sn合金、Ti-Al-Mo-V合金、Ti-Al-Sn-Zn-Mo-Si-C-Ta合金、Ti-Al-Nb-Ta合金、Ti-Al-V-Sn合金、Ti-Al-Sn-Zr-Cr-Mo合金、Ti-V-Fe-Al合金、Ti-V-Cr-Al合金、Ti-V-Sn-Al-Nb合金、Ti-Al-Nb合金、Ti-Al-V-S合金などが挙げられる。
例えば、Ti-5Al-2.5Sn合金、Ti-6Al-4V合金、Ti-15Mo-5Zr-3Al合金等の如きチタン合金を使用することができる。
【0017】
本発明技術では、チタンまたはチタン合金からなる金属基材は、予め、板状や箔等あるいは目的とする使用形態に適合した所望の形状(チタン又はチタン合金メッキされたものも包含する)に加工したのち、陽極酸化処理される。金属基材の形状は、特に限定されるものではなく、板状、棒状、円柱状、網状、繊維状、多孔質状(スポンジ状)、粉体や繊維を圧縮加工してなる成形体、塊状物等を用いることもできる。所望の形状に成形加工したものは、通常、表面洗浄を施された後、酸化処理に付される。該基材は、陽極酸化処理を行う前に、熱処理等の前処理を施してあってもよい。本陽極酸化処理では、均一で緻密な処理が可能で、複雑な形状でも簡単に処理しうるし、光触媒活性を有する層の強度に優れる。
【0018】
本発明技術では、基材の陽極酸化は、酸性溶液中で行われる。代表的な酸性溶液として
は、希硫酸水溶液などの希薄鉱酸水溶液が挙げられる。希硫酸水溶液における硫酸の濃度としては、所要の結果が得られるものを選択でき、例えば、2.1〜15.8重量%(wt%)、ある
いは、2.6〜14.9重量%(wt%)、より好ましくは2.6〜14.1重量%あるいは3.5〜14.4重量%で
行なうのがよく、さらに好ましくは7.9〜14.4重量%、もっと好ましくは8.8〜14.1重量%で行なうのがよい。別の態様では、希硫酸水溶液における硫酸の濃度としては、8.8〜12.3
重量%(wt%)、あるいは、8.8〜11.4重量%(wt%)、より好ましくは9.7〜11.4重量%で行なう
のがよく、さらに好ましくは約10.5重量%で行なうのがよい。
【0019】
陽極酸化の際の極間の電圧は、例えば、50〜500V、より好ましくは100〜500V、さらに
好ましくは150〜500Vの電位で行なうのがよく、さらには、好ましくは160〜500V、もっと好ましくは210〜450Vの電位で行なうのがよい。ある場合には、該陽極酸化処理は、100〜400V、より好ましくは150〜400Vの電位で行なうのがよく、別の態様では、100〜350V、もっと好ましくは150〜300Vの電位で行なうものであってよい。該陽極酸化処理は、200〜400V、より好ましくは220〜350Vの電位で行なうことがよい場合もあり、さらには、好まし
くは240〜375V、もっと好ましくは240〜300Vの電位で行なうものであってよい。
本陽極酸化処理は、1〜100時間、好ましくは1〜48時間、さらに好ましくは1〜12時
間行うものであってよく、さらには1.5〜5時間あるいは1.5〜3時間行うものであってよい。
【0020】
別の態様としては、電圧を上げる代わりに電流密度を高めることができる。電流密度は電流値と試料表面積で算出される。本陽極酸化の際の電流密度としては、所要の結果が得られるものを選択でき、例えば、少なくとも25mA/cm2以上であればよいが、好適に、30mA/cm2以上としてもよいし、さらに50mA/cm2以上でも好ましい結果が得られ、70mA/cm2以上が望ましい場合もあり、100mA/cm2以上としてもよい。高い電流密度を採用できる場合に
は、化成電圧を、例えば、100〜500Vとすることができるし、さらに、120〜500Vとしてもよく、また150〜500Vの電位で行なってよいし、さらには、好ましくは180〜500V、もっと好ましくは200〜450Vの電位で行なってもよい。本態様では、該陽極酸化処理は、1分間
〜100時間、好ましくは2分間〜48時間、さらに好ましくは3分間〜12時間行うものであ
ってよく、さらには9分間〜5時間あるいは10分間〜3時間行うものであってよいし、さらには20分間〜3時間行うものであってよい。
【0021】
陽極酸化は、通常、室温で行われる。陽極酸化処理は、直流、交直重畳、又はパルス波を印加して行ってよい。又は、サイリスタ方式による直流電源を用いて、単相半波、三相半波、六相半波を印加して行うことも可能である。
本陽極酸化処理によれば、微細で均一な表面酸化が可能なため、複雑な形状の金属材料も、均一で、且つ、すぐれた光触媒機能や超親水性能を持つものに簡単に加工することができる。酸化電圧をコントロールすることにより、形成される陽極酸化膜の膜厚を様々に制御することもできる。また、酸化時の電流密度をコントロールすることにより、形成される陽極酸化膜の膜厚を様々に制御することもできる。本陽極酸化処理は、非常に簡便な方法であり、且つ、大面積を有する表面への成膜が容易であり、便利である。しかも、複雑な形状の基板に対しても成膜が可能であり、工業的に有用な方法である。
【0022】
典型的な態様では、陽極酸化処理は、次のようにされる。まず、所望の形状に成形され、前処理を施されたチタン含有金属材料からなる成形体(例えば、板状をなす基材)は、アノードに接続され、カソードには純チタン板が接続される。セル中には、適当な電解質を含有する水溶液(本態様においては8.8wt%硫酸水溶液)が満たされ、前記成形体と純チタン板が浸漬されている。電圧計、電流計を観察して、直流電流を調整しながら、直流電力供給装置により電力を供給して、電圧約210V〜500V程度(電流密度が少なくとも25mA/cm2以上の場合では電圧約120V〜500V程度)で、陽極酸化処理を行う。すなわち、得られた金属材料成形体を、陽極酸化処理装置のアノードに取り付けて、8.8wt%硫酸水溶液中で、
電圧210V〜500Vで陽極酸化処理(あるいは少なくとも25mA/cm2以上の電流密度条件下で陽極酸化処理)を行って、金属材料、特にそこに含まれるチタンを酸化し、表面にルチル型二酸化チタン膜(陽極酸化膜)を形成させるものである。本陽極酸化された基材は、通常、十分に水洗される。また、該基材は、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒で洗浄されてもよい。
【0023】
また、本発明技術では、該陽極酸化後に行なわれる熱処理は、酸化性雰囲気中300〜1000℃、より好ましくは300〜1000℃、さらにより好ましくは400〜600℃の温度範囲で行なうことが望ましい。該温度域における好ましい保持時間は30分間〜10時間程度であるが、好ましくは、熱処理が300℃程度で行われる場合、3〜10時間程度で、熱処理が450℃程度で
行われる場合、1〜5時間程度である。酸化性雰囲気は、特に限定されないが、典型的には酸素が存在する雰囲気であり、通常は大気雰囲気が挙げられる。本熱処理で、金属材料基体の表面に形成された陽極酸化膜を固定化し、強度、密着性を向上させ、且つ、光触媒特性や超親水性の特性を向上させるることができる。本発明によると、基材の種類や形状、陽極酸化条件および熱処理条件を適宜変更することによって、種々の特徴を有する超親水性を有する光触媒材料を製造することが可能である。
【0024】
本発明方法の代表的な態様では、上記したようなチタンまたはチタン合金からなる基材は、約7.9wt%〜約14.1wt%までの濃度の硫酸水溶液中で、その表面に約100V〜約500Vまで
の電圧を約2.5時間〜約10時間の間印加して陽極酸化を施し、次に得られた該基材上成膜
に約400℃〜約600℃までの温度で、約1時間〜約20時間の間熱処理を施して、結晶性に優
れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供される。
また、本発明の別の代表的な態様では、上記したようなチタンまたはチタン合金からなる基材は、約8.8wt%〜約14.1wt%までの濃度の硫酸水溶液中で、その表面に約200V〜約500Vまでの高電圧を約0.25時間〜約5時間の間印加して陽極酸化を施し、次に得られた該基材上成膜に約400℃〜約600℃までの温度で、約1時間〜約20時間の間熱処理を施して、結晶
性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供される。
【0025】
本発明の典型的な態様の一つでは、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、高電圧を印加して陽極酸化法により作製した膜に熱処理を施すことで、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法において、電圧が100V又はそれを超える電圧であり、陽極酸化が2.5時間又はそれを超える期間行われるものであり、そして、陽極酸化が、8.8wt%又はそれ以上から14.1wt%までの濃度の硫酸水溶液中で行われ、熱処理が、400℃又はそ
れ以上の温度から1000℃までの温度で、1時間又はそれを超える期間行われるものである
ものである。
【0026】
本発明の典型的な態様の別の一つでは、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、高電圧を印加して陽極酸化法により作製した膜に熱処理を施すことで、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法において、高電圧が200V〜250Vであり、陽極酸化が0.5〜5時間の期間行われるものであり、そして、陽極酸化が、8.8wt%〜14.1wt%までの濃
度の硫酸水溶液中で行われ、熱処理が、350℃〜500℃の温度で、1時間〜6時間の間行われるものであるものである。本発明の態様のさらに別の一つでは、上記の条件に加えて、25mA/cm2及びそれを超える電流下に行われるものである。本発明の典型的な態様の別の一つでは、上記の条件に加えて、40mA/cm2又はそれを超える電流下に行われるものである。さらに、本発明の典型的な態様の別の一つでは、上記の条件に加えて、40mA/cm2〜100mA/cm2の電流下に行われるものである。
【0027】
さらに、本発明の別の代表的な態様では、上記チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、約7.9wt%〜約14.4wt%の濃度の硫酸水溶液中で、電流密度少なくとも25mA/cm2
上の電流密度条件下、例えば、30mA/cm2以上の電流密度条件下(50mA/cm2以上の電流密度
条件下あるいは70mA/cm2以上の電流密度条件下であってもよいし、100mA/cm2以上の電流
密度条件下でもよい)、約120V〜約500Vまでの電圧を約2分間〜約5時間の間印加して陽極酸化を施し、次に得られた該基材上成膜に約400℃〜約600℃までの温度で、約1時間〜約20時間の間熱処理を施して、結晶性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法が提供
される。
【0028】
本発明は、本明細書で開示の方法で得られ且つ基体上にルチル型二酸化チタン被膜を有し、さらに、特定の優れた光触媒活性並びに超親水性を有する材料を提供する。当該材料は、図1〜3に示されたデータをその材料の特性値として有するルチル型二酸化チタン被膜をもつ基材である。当該材料の特性値としては、光触媒能試験で得られるMB分解率(MB degradation rate)及び/又は超親水性性能試験で得られる接触角などであってよい。本
発明で得られる上記結晶性に優れたルチル型二酸化チタンとは、薄膜X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを少なくとも60%以上、好ましくは少なくとも70%以上、更に好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、もっと好ましくは少なくとも95%以上含有するものである。典型的な場合、本発明で得られる当該基体上の上記ルチル型二酸化チタンとは、薄膜X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを90%以上含有する二酸化チタン皮膜である。一つの代表例では、本発明で得られる当該基体上の上記ルチル型二酸化チタンとは、薄膜X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを95%以上含有する二酸化チタン薄膜である。
【0029】
さらに、本発明で基材上に形成せしめられたルチル型二酸化チタン物質は、可視光応答性を有しており、優れている。該ルチル型二酸化チタン被膜物質は、二酸化チタン中に硫黄(S)がドープされたものであることが見出されている。これまで二酸化チタン形成物にSを添加する試みは様々試されているが、実際に、本発明で得られる製品のように優れた可視光応答性は達成されておらず、本発明のもののように、二酸化チタン中にSがドープさ
れたものとは考え難いものである。本発明で基材上に形成せしめられたルチル型二酸化チタン被膜物質の幾つかの例の分析から、膜厚は約7μmで、二酸化チタン中のS濃度は、1441ppm(0.144%)までは確実にドープされていることが見出されている。こうしたことから、二酸化チタン中のS濃度の上限としては4000ppm (0.4%)程度であり、一方、S濃度の下限としては250ppm (0.025%)以下であり、例えば、200ppm (0.02%)程度であると考えられる。
一つの典型的な態様では、本発明で基材上に形成せしめられたルチル型二酸化チタン被膜物質は、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に400ppm (0.04%)〜2000ppm (0.2%)の硫黄を含有しているもので、ある場合には、二酸化チタン中に600ppm (0.06%)〜1500ppm (0.15%)の硫黄を含有しているもので、好ましくは、二酸化チタン中に800ppm (0.08%)
〜1200ppm (0.12%)の硫黄を含有しているものである。
【0030】
本発明の方法で得られた光触媒活性を有しかつ優れた超親水性を有するルチル型二酸化チタン薄膜を有する材は、脱臭、防黴、防汚性、殺菌作用等を示し、防黴、防汚などの効果を有する建築材、空調機器、浄水設備等に用いられる各種部材として有効に活用することができる。
本発明の金属材料の使用方法としては、金属タイルや、内装材としてそのまま使用するほか、本発明の構造を有する金属材料の薄板を作製し、既存の建築材料であるセラミックス、モルタル、硝子、鉄板、アルミ板等に接合して、複合材料として使用することもできる。このように、既存材料の上に接合して用いる方法によれば、光触媒活性を有する金属材料の使用量の低減が可能となり、優れた防臭、殺菌機能等の光触媒活性を有する種々の複合材料を安価に提供できる。
本発明の方法で得られた光触媒活性を有しかつ優れた超親水性を有するルチル型二酸化チタン薄膜を有する材は、水浄化に使用できる。、当該ルチル型二酸化チタン薄膜によりクリーンな光エネルギーを利用して、水中の希薄な有機物の除去をするといった浄化法を
可能とする。
【0031】
本発明の方法で得られたルチル型二酸化チタン薄膜を有する材は、工場プラント用建築資材を含めた各種建築材料やその他の機器、医療用材料などを含めた材料、例えば、建築物の内,外装材、調理用器具、食器類、衛生機器、空調機器、その他下水管等の土木用材料、道路の遮音壁、冷蔵庫などの食品保管庫用材料などに使用できる。本発明で得られる材料の有する光触媒作用を利用し、自浄、空気清浄化、殺菌作用をもった資材が提供できる。本発明の方法で得られたルチル型二酸化チタンに太陽光や照明器具などからの紫外線を照射すると、光エネルギーが化学エネルギーに変換されて、有機物などを分解する光触媒作用を発揮し、オフィス、住宅室内で発生する代表的アレルゲンであるホルムアルデヒドの分解除去の他にも、抗菌、消臭及び防汚効果が得られる。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0032】
〔二酸化チタン膜の形成〕
10mm×20mmのTi圧延板の表面に鏡面研磨を施し、それを陽極試料とし、(1)0.9 wt%硫
酸水溶液、(2)1.8 wt%硫酸水溶液、(3)3.5 wt%硫酸水溶液、(4)8.8 wt%硫酸水溶液、(5)10.5 wt%硫酸水溶液、又は(6)14.1 wt%硫酸水溶液のいずれかの濃度の硫酸水溶液中
に浸漬した。電流を100mAとして、化成電圧を(a)210V、又は(b)220Vとして、30分の陽極
酸化処理を施した。陽極酸化処理は室温で行った。陽極酸化後はメタノールにて洗浄後乾燥させたものを未熱処理材サンプルとする。この基材を450℃において、5時間の大気酸
化を施したものを熱処理材サンプルとする。
【0033】
〔光触媒能試験〕
25ppmメチレンブルー水溶液を満たした石英製セルにサンプルを浸漬し、所定の時間(
1、2、6、21時間)、365nmの紫外線を照射した。一定時間照射後に石英セルからメチ
レンブルー水溶液を採取し、分光光度計にて664nmのメチレンブルー吸光度変化から、メ
チレンブルー分解率を算出した。得られた結果を、図1に示す。図1中、四角印は未熱処理材サンプルで、丸印は熱処理材サンプルを示し、黒丸印及び黒四角印は、ルチル型二酸化チタンが観察され、白抜き丸印及び白抜き四角印は、アナタース型二酸化チタンが観察されたことを示す。
この結果から、陽極酸化法で成膜されたルチル型二酸化チタン薄膜形成体では、メチレンブルーの分解率が高いことがわかる。また熱処理を施すことで、メチレンブルー分解率が向上することがわかる。
【0034】
〔超親水性性能試験〕
サンプルに365nmの紫外線を0.2 mW/cm2の強度で、所定の時間(0.5、1、1.5、2、2.5、3時間)照射した。一定時間照射後に1.0μLの蒸留水を滴下し、θ/2法にて接触角を測定した。得られた結果を図2に示す。図2中、白抜き印は未熱処理材サンプルで、黒塗り印は熱処理材サンプルを示す。丸印及びひし形印は、ルチル型二酸化チタンが観察され、四角印、順三角印及び逆三角印は、アナタース型二酸化チタンが観察されたものを示す。
この結果から、陽極酸化法で成膜されたルチル型二酸化チタン薄膜形成体では、接触角は低下し、紫外線未照射でも超親水性に優れていることがわかる。また熱処理を施すことで、超親水性が改善せしめられることがわかる。
【0035】
〔薄膜X線回折分析〕
サンプルの薄膜の結晶構造を薄膜X線回折により測定した。X線回折のチャートを図3に示す。
この結果から、1.8 wt%硫酸水溶液といった濃度のところまでは、アナタース型二酸化チタンが主体で、ルチル型の110のピークが僅かに認められる程度であるが、3.5 wt%硫
酸水溶液といった濃度のところからは、ルチル型二酸化チタンの形成が明確に認められるようになり、10.5 wt%硫酸水溶液といった濃度となると、ルチル型二酸化チタンが明ら
かに主体となることが見出された。
かくして、意外なことに、従来、光触媒活性が劣るとされていたルチル型二酸化チタンにより、大変に優れた光触媒性能を得ることができた。また、該ルチル型二酸化チタン薄膜形成体は、超親水性にも大変優れていることが認められた。
【0036】
本発明で基材上に形成せしめられたルチル型二酸化チタン物質は、可視光応答性を有しており、優れている。光触媒性能を評価するメチレンブルーの脱色試験において、365nm,
400nm, 440nm, 500nm及び530nmの波長の光を照射して可視光応答性を評価した。結果を
図4に示す。可視光は短波長側では360nm〜400nmまで、そして長波長側では760nm〜830nmまでといわれており、それらより短い波長では紫外光、そしてそれらより長い波長のものは赤外光とよばれている。本発明のもの(図4では、10.5%硫酸水溶液中で得られたルチ
ル型二酸化チタンをrutileで示してある)は、可視光領域の比較的広い領域でも、優れた光触媒活性を示した。
図3に示してある、3.5%硫酸水溶液、10.5%硫酸水溶液、そして14.1%硫酸水溶液中で得られたルチル型二酸化チタンはいずれも可視光応答性を有しているが、0.9%硫酸水溶液を使用の二酸化チタンではほとんど可視光活性はなかった。
本ルチル型二酸化チタン薄膜物質は、二酸化チタン中に硫黄(S)がドープされたもので
あることが見出されている。すなわち、Sドープの確認は、X線光電子分光法やオージェ
電子分光法などの分析装置で確認できる。ドープされたSの定量化は、燃焼法により気化
したガスの質量分析を行い決定したところ、本発明で基材上に形成せしめられたルチル型二酸化チタン薄膜物質では、膜厚は約7μmで、二酸化チタン中のS濃度は、1441ppm(0.144%)までは確実にドープされていることが見出された。
【0037】
本発明の陽極酸化法で得られるものは、金属板の表面に二酸化チタン光触媒をコートしたり、化学蒸着や物理蒸着して付けたり、溶射して付けたりしたものに比べて、チタンの金属板の表面を酸化して二酸化チタンにしたもので、基材がチタンで二酸化チタンに連続的に変化しているため、密着性に優れ、素材から剥がれにくく、酸やアルカリに強く、超親水性で、耐食性や耐久性に優れている。
本発明の陽極酸化法と同様にして、1.2M H2SO4水溶液や1.6M H2SO4水溶液中で陽極酸化を施してチタン基材上に二酸化チタンを形成させたものと、ドライコーティングで二酸化チタンを作製したものとを使用して、光触媒性能を評価するメチレンブルーの脱色試験において、脱色試験を繰り返しおこない、その脱色性能の変化を評価した。
結果を図5に示す。上記試験の結果、ドライコーティングで作製した二酸化チタン(reference)は、試験回数の増加と共に、性能は劣化することが観察された。一方、陽極酸化
材では、その劣化は殆んどないものであった。また、ドライコーティング材(reference)
は繰り返し回数の増加と共に剥離が進行するが、陽極酸化材では、剥離は起こらない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の結晶性に優れたルチル型二酸化チタンは、超親水性及び光触媒性能に優れていることから、脱臭、防黴、防汚性、殺菌作用等を示すものとして有用で、医療用材料、建築土木材、空調機器、浄水設備等に用いられる各種部材として使用される。特に、本発明のルチル型二酸化チタン薄膜を有する基材は、水浄化に使用でき、クリーンな光エネルギ
ーを利用して、水中の希薄な有機物の除去をするのに有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】陽極酸化法で成膜された二酸化チタン薄膜形成体サンプルのメチレンブルー分解率の電解浴の硫酸濃度依存性を示す。
【図2】陽極酸化法で成膜された二酸化チタン薄膜形成体サンプルの接触角の紫外線照射時間依存性を示す。
【図3】陽極酸化法で成膜された二酸化チタン薄膜形成体サンプルの薄膜X線回折プロファイルを示す。
【図4】陽極酸化法で成膜された二酸化チタン薄膜形成体サンプルのメチレンブルー分解率について、その可視光応答性を示す。
【図5】陽極酸化法(1.2M H2SO4や1.6M H2SO4)で形成された二酸化チタンとドライコーティングで作製した二酸化チタン(reference)とを光触媒性能を評価するメチレンブルーの脱色試験において、脱色試験を繰り返しおこない、その脱色性能の変化を評価した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、(i)電圧を印加して陽極酸化を施すある
いは(ii)高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより、光触媒活性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法。
【請求項2】
陽極酸化が、2.6 wt%〜14.1wt%の濃度の硫酸水溶液中で行われるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高電流密度条件が25mA/cm2又はそれを超える高電流密度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
陽極酸化が2分間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする請求項1〜
3のいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
電圧が100V又はそれを超える電圧であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
陽極酸化が2.2時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする請求項1
、2又は5に記載の方法。
【請求項7】
チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に(i)電圧を印加して陽極酸化を施すあるい
は(ii)高電流密度条件下に陽極酸化を施すことにより作製した膜に、熱処理を施すことで、光触媒活性に優れたルチル型二酸化チタンを製造する方法。
【請求項8】
熱処理が、400℃〜1000℃の温度で行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱処理が、1時間又はそれを超える期間行われるものであることを特徴とする請求項7又
は8に記載の方法。
【請求項10】
該ルチル型二酸化チタンが、結晶性に優れ、X線回折におけるルチル110回折線の半価幅
が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有する二酸化チタン皮膜であることを特
徴とする請求項1〜9のいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一に記載の方法。
【請求項12】
該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に200ppm (0.02%)〜4000ppm (0.4%)の硫黄を含有していることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一に記載の方法。
【請求項13】
チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に形成されている二酸化チタン皮膜を有する光触媒体であって、X線回折におけるルチル110回折線の半価幅が0.4未満のルチル型二酸化チタンを60%以上含有することを特徴とする二酸化チタン光触媒体。
【請求項14】
該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされた陽極酸化薄膜であることを特徴とする請求項13に記載の光触媒体。
【請求項15】
該ルチル型二酸化チタンは、硫黄がドープされたもので、二酸化チタン中に200ppm (0.02%)〜4000ppm (0.4%)の硫黄を含有していることを特徴とする請求項13又は14に記載の光触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−29838(P2010−29838A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327669(P2008−327669)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】