説明

ルチン誘導体組成物及びその製造方法並びにその用途

【課題】本発明は、ルチンの持つ、酸性・高温状態での安定性、光に対する安定性、長期保存性、安全性、色素の退色・変色防止、ビタミン類の光分解防止、酸化防止等の効果を有し、かつ、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止効果、香料の劣化防止効果、美白作用、抗老化作用を併有する(相加効果)だけでなく、特にこれらの効果が顕著に増強され(相乗効果)、水溶性、保存安定性に優れ、飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等の従来品に好適に利用できるルチン誘導体組成物を提供する。
【解決手段】酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含んでなることを特徴とするルチン誘導体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチン誘導体組成物及びその製造方法並びにその用途に関する。詳しくは、本発明は、酵素処理ルチンと藤茶抽出物を含んでなるルチン誘導体組成物及びその製造方法並びにその用途に関する。
【0002】
また、本発明は、色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の品質劣化防止方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ルチンは、高等植物や野菜・果物に広く含まれている無味、無臭のフラボノイド類の一つであり、古くからビタミンCとともに脆弱化した毛細血管を補強・改善する作用、フラボノイド類の持つ着色、酸化防止作用をはじめ、多々の機能を有する天然抽出物として関心がもたれており、医薬品、医薬品原料としての用途において実績のある物質であった。しかしながら、水にほとんど溶けず、また、エタノール、油類にも溶けないという物性が食品分野等への利用を妨げる原因となっていた。
【0004】
そこで、上記問題点を解決するために、ルチンに酵素の転移作用によりデンプン、デキストリンなどから糖を転移することで、水溶性に優れ、かつ、ルチンの持つ多機能性を有するα−グルコシルルチン(以下「αGルチン」ともいう。)が開発(特許文献1)され、市販されている。この「αGルチン」は転移(付加)したグルコース単位数の異なるα-グルコシルルチンとルチンとの混合物であり(非特許文献1)、さらに製品中のα-グルコシルルチンの純度を著しく高めることができれば、例えば医薬品、化粧品など、「αGルチン」の用途は一段と拡大され得るものと期待される。
このようなαGルチンの開発により、抗酸化、退色防止、風味劣化防止等の機能を飲食物、化粧品分野等へ利用する動きが一気に広まってきた。
【0005】
一方、藤茶(学名:Ampelopsis grossedentata(Hand.−Mazz.)W.T.Wang、またはAmpelopsis cantoniensis(Hook.et Arn.)Panch.)は、ブドウ科に属し、中国の中部〜南部および台湾にわたる広い地域で自生している多年生のつる性植物である。藤茶の葉部は飲料として利用されている他、藤茶の根部又は全草は、黄疸性肝炎、風邪、のどの痛み、急性結膜炎症等の治療のための民間薬として利用されており、安全性の高い植物である。
【0006】
なお、藤茶抽出物に含まれている有効成分の主なものは、藤茶の枝葉部に高濃度に含まれているジヒドロミリセチン(dihydromyricetin)であると考えられている。
【0007】
この藤茶の抽出物等に多く含まれるジヒドロミリセチンは、色素の退色防止効果、香料の劣化防止効果、美白作用、抗老化作用等を有することが知られているが、この、ジヒドロミリセチンも水溶性等に劣る物質であり、また、保存安定性に劣るものであったため、従来のルチン同様食品分野への応用が妨げられていた。
【0008】
最近では、藤茶抽出物を有効成分として含有する物質として、特許文献2には、色素の退色防止剤が記載され、特許文献3には、香料の劣化防止剤が開示されており、その退色防止剤、劣化防止剤中に含有してもよい酸化防止剤として酵素処理ルチンが挙げられている。
【0009】
しかしながら、これら特許文献に記載の退色防止剤、劣化防止剤は、十分な水溶性を有しておらず、さらなる水溶性を有し、色素の退色防止、香料等の劣化防止等の効果が求められ、また、特に油脂含有食品の劣化防止効果が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−27293号
【特許文献2】特開2002−65201号
【特許文献3】特開2004−18756号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「食品工業」1990年5月30日(刊)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ルチンの持つ、酸性・高温状態での安定性、光に対する安定性、長期保存性、安全性、色素の退色・変色防止、ビタミン類の光分解防止、酸化防止等の効果を有し、かつ、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止効果、香料の劣化防止効果、美白作用、抗老化作用を併有する(相加効果)だけでなく、特にこれらの効果(例:カロチノイド色素の退色防止。アントシアニンの褐変防止。乳酸飲料の良好な香りが長期間持続し、劣化臭が生じない。ビタミンCの分解防止。菓子類、バターなどの油脂含有食品の劣化防止。)が顕著に増強され(相乗効果)、水溶性、保存安定性に優れ、飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等の従来品に好適に利用できるルチン誘導体組成物を提供することを目的(課題)とする。
【0013】
また、品質劣化防止された飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等を提供することを目的(課題)とする。
さらに、本発明は、色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の何れかであって、酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を含まないものに対する効果的な品質劣化防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るルチン誘導体組成物は、酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含んでなることを特徴とする。
本発明では、前記酵素処理ルチンが、ルチンに糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体からルチンに糖(グルコース)を転移させることにより得られる、α-グルコシルルチン含有物であることが望ましい。
【0015】
本発明のルチン誘導体組成物は、前記酵素処理ルチン中のルチン換算量が10〜85重量%であることが好ましい。
本発明のルチン誘導体組成物は、前記藤茶抽出物中にジヒドロミリセチン量が20〜98重量%含まれていることが好ましい。
【0016】
本発明のルチン誘導体組成物は、前記酵素処理ルチンと、藤茶抽出物とが、前記酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)との重量比((a)/(b))で6/4〜9/1 (但し(a)+(b)=10とする。)となる量で含まれていることが好ましい。
【0017】
なお、本発明において、酵素処理ルチン中のルチン換算量と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量は以下の実施例で示すHPLCにより測定した値を言う。
本発明のルチン誘導体組成物は、色素の退色・変色防止用であることが好ましい。
【0018】
本発明のルチン誘導体組成物は、前記色素が、カロチノイド系色素、アントシアニン系色素、フラボノイド系色素、アントラキノン系色素、ポルフィリン系色素、フィコビリン系色素、ベタシアニン系色素、ジケトン系色素およびアザフィロン系色素から選ばれる1種または2種以上の色素であることが好ましい。
【0019】
本発明のルチン誘導体組成物は、乳酸菌飲料の劣化防止用であることが好ましい。
本発明のルチン誘導体組成物は、ビタミンCの分解抑制用であることが好ましい。
本発明のルチン誘導体組成物は、前記ルチン誘導体がさらにビタミンEを含有することを特徴とする。
【0020】
本発明のルチン誘導体組成物は、油脂含有食品の劣化抑制用であることが好ましい。
本発明の飲食物、化粧品、医薬品または飼料は、前記ルチン誘導体組成物を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の品質劣化防止方法は、色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の何れかであって、酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を含まないものに、対応する不含の成分である酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を添加することにより、結果として、上記何れかの本発明のルチン誘導体組成物を含有させることを特徴とする。
【0022】
すなわち、例えば、本発明に係るルチン誘導体組成物を配合しようとする、品質劣化防止対象の油脂含有食品等に、既に酵素処理ルチンが含まれ、藤茶抽出物が含まれていない場合には、例えば、藤茶抽出物のみを配合することにより、結果として、それぞれ所定量の酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含有させるようにすればよい。
【0023】
反対に、既に藤茶抽出物が含まれ、酵素処理ルチンが含まれていないときは、酵素処理ルチンのみを配合することにより、結果として、それぞれ所定量の酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含有させるようにすればよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ルチンの持つ、酸性・高温状態での安定性、光に対する安定性、長期保存性、安全性、天然色素の退色・変色防止、ビタミン類の光分解防止、酸化防止等の効果を有し、かつ、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止効果、香料の劣化防止効果、美白作用、抗老化作用を併有し、特に、水溶性、保存安定性に優れ、飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等の従来品に好適に利用できるルチン誘導体組成物が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、ルチンの持つ色素の退色・変色防止、飲食物の劣化防止効果と、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止、飲食物の劣化防止効果とが顕著に増強され、相乗効果を有するルチン誘導体組成物を提供することができる。
【0026】
さらに本発明によれば、ルチン誘導体組成物の持つ飲食物の劣化防止効果とビタミンEの持つ飲食物の劣化防止効果とが顕著に増強され、相乗効果を有するルチン誘導体組成物が提供される。
【0027】
また、本発明によれば、品質劣化防止された飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等を提供することができる。
さらに、本発明は、色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の何れかであって、酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を含まないものに対する効果的な品質劣化防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔ルチン誘導体組成物〕
本発明に係るルチン誘導体組成物は、後述するような酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含んでなることを特徴とする。
本発明のルチン誘導体組成物は、酵素処理ルチンと、藤茶抽出物とが、酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)との重量比((a)/(b))で6/4〜9/1、好ましくは7/3〜8/2、さらに好ましくは7.5/2.5〜8/2(但し(a)+(b)=10とする。)となる量で含まれていることが望ましい。
【0029】
ルチン誘導体組成物中において、酵素処理ルチン中のルチン換算量と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量との重量比が上記範囲にあると、水に対する溶解性、保存安定性に優れた本発明のルチン誘導体組成物が得られる点で好ましい。また、色素の退色防止能、乳酸菌飲料や油含有食品の劣化防止能、ビタミン類の分解防止能などに優れ、飲食物、化粧品、医薬品および飼料等の従来品に添加して利用しやすいルチン誘導体組成物となる点で好ましい。
【0030】
また、酵素処理ルチンの持つ色素の退色防止、飲食物の劣化防止効果と、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止、飲食物の劣化防止効果が顕著に増強され、相乗効果を有する本発明のルチン誘導体組成物を提供することができるため好ましい。
【0031】
さらに、本発明によれば、品質の劣化が好適に防止された飲食物、化粧品、医薬品及び飼料等を提供することができる。
なお、本発明において、「品質劣化防止」とは、対象物の品質の低下を防ぐことを言い、具体的には、対象物の色合い、風味、呈味、香りの低下、対象物の酸化、分解、腐敗等を防ぐことを言う。
【0032】
本発明のルチン誘導体組成物中にはさらに、ビタミンEが含まれていることが好ましい。
この場合、ビタミンEは、ルチン誘導体組成物100重量部に対し、20〜300重量部、好ましくは、50〜150重量部の量で用いることが望ましい。
【0033】
ルチン誘導体組成物中にビタミンEが上記量で含まれていると、ルチン誘導体組成物の持つ飲食物の劣化防止効果がより高まり、特に、油脂含有食品の劣化防止に対して優れた作用を示すため好ましい。
【0034】
また、クリーム等の化粧品の色や物性を損なうことなくフラボノイドを含有する化粧品が得られるため好ましい。
さらに、ルチン誘導体組成物の持つ飲食物の劣化防止効果とビタミンEの持つ飲食物の劣化防止効果が顕著に増強され、相乗効果を有するルチン誘導体組成物を提供することができるため好ましい。
【0035】
<酵素処理ルチン>
本発明における酵素処理ルチンとは、ルチンに、糖供与体としての澱粉あるいはその部分加水分解物(例:デキストリン、マルトース)を加えてなる組成物に、アミラーゼ、グリコシダーゼ、トランスグリコシダーゼなどのグルコース残基転移酵素を作用させて澱粉あるいはその部分分解物からルチンに糖(グルコース)を転移(付加)させることにより得られる、α-グルコシルルチンを含有する組成物(α-グルコシルルチン含有物)のことを言う。
ここで、α-グルコシルルチンとは、以下の一般式(1)で表わされ
【0036】
【化1】

(但し、式(1)中、Gはグルコース残基、Rはラムノース残基、G'はα-位のグルコース残基(以下「付加糖」とも言う。)、nは1〜数十の整数を表わす。)、α-位のグルコース残基数(n)が1〜数十の範囲、平均ではnが4〜5程度のα-グルコシルルチンの混合物である。
【0037】
このようなα-グルコシルルチンの製造方法としては、従来より公知の種々の方法を採用することができる。具体的には、例えば特公昭54ー32073号公報あるいは特公昭58ー54799号公報記載の方法を採用することができる。
【0038】
なお、上記のようにして得られた酵素処理ルチンには、通常、α-グルコシル化ルチンと共に、未反応のルチンあるいはルチンの分解物であるケルセチン等が少量含まれている。
【0039】
本願発明で用いられる酵素処理ルチンは、α-位グルコース残基数(上記式(1)のn、以下「付加糖数」とも言う。)にはこだわらない。付加糖数が例えば、平均4〜5程度のものでも、1のモノグルコシルルチンでも良い。また、ルチンからラムノース残基(上記式(1)のR)が外れた構造を有するイソケルシトリンを含んでも良い。
【0040】
本願発明で用いられる酵素処理ルチンとしては、ルチンが酵素処理されたものであればいずれでもかまわないが、本発明では、酵素処理ルチン中のルチン換算量が10〜85重量%、好ましくは40〜85重量%、さらに好ましくは70〜85重量%であれば任意に使用できる。
【0041】
酵素処理ルチン中のルチン換算量が上記範囲にあると、ルチンの持つ、酸性・高温状態での安定性、光に対する安定性、長期保存性、安全性、天然色素の退色・変色防止、ビタミン類の光分解防止、メイラード反応の抑制、酸化防止、香気保持等の効果を有したまま水や含水アルコールに対する溶解度が向上するため好ましい。また、藤茶抽出物と共存させることにより、藤茶抽出物の水への溶解度を高める作用も有するため好ましい。
【0042】
このような酵素処理ルチンとしては特に制限されないが、具体的には、東洋精糖(株)製:(商品名「αGルチンPS」、ルチン換算量80〜82重量%)、(商品名「αGルチンP」、ルチン換算量40〜46重量%)が挙げられる。
【0043】
<藤茶抽出物>
本発明における藤茶抽出物とは、抽出原料として使用する藤茶(学名:Ampelopsis grossedentata(Hand.−Mazz.)W.T.Wang、またはAmpelopsis cantoniensis(Hook.et Arn.)Panch.)から抽出されたものである。
【0044】
なお、藤茶抽出物に含まれている色素の退色防止、油脂含有食品等の劣化防止効果を示す有効成分の主なものは、藤茶の枝葉部に高濃度に含まれているジヒドロミリセチン(dihydromyricetin)であると考えられている。
【0045】
この藤茶抽出物は、ジヒドロミリセチン量(b)として、ルチン誘導体組成物中に含まれている酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)との重量比((a)/(b))が6/4〜9/1、好ましくは7/3〜8/2、さらに好ましくは7.5/2.5〜8/2となる量で含まれていることが望ましい。また、ジヒドロミリセチンが藤茶抽出物中に20〜98重量%、好ましくは50〜98重量%、さらに好ましくは80〜98重量%含まれていることが望ましい。
【0046】
本発明において、藤茶抽出物がルチン誘導体組成物中に上記量で含まれ、ジヒドロミリセチンが藤茶抽出物中に上記量で含まれていると、水溶性に優れ、かつ、藤茶抽出物の有する色素の退色防止効果、香料の劣化防止効果等の効果を十分に有するルチン誘導体組成物が得られる点で好ましい。また、ルチンの持つ色素の退色防止、飲食物の劣化防止効果と、藤茶抽出物の持つ色素の退色防止、飲食物の劣化防止効果が顕著に増強され、相乗効果を有するルチン誘導体組成物を提供することができるため好ましい。さらに、そのままでも色素の退色防止用、退色防止剤、香料の劣化防止用、劣化防止剤として利用可能であるため好ましい。
【0047】
本発明で用いられる藤茶抽出物は、藤茶から抽出したものであればいずれでもかまわないが、藤茶を抽出原料とし、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法により得ることができる。
【0048】
抽出原料としては、藤茶の全草、枝部、葉部、枝葉部などを使用することができるが、枝葉部を使用することが好ましく、これらを乾燥、細切、圧搾、あるいは発酵等、適宜処理を施した後、低温もしくは室温〜加温下で溶媒により抽出する方法を挙げることができる。得られた抽出液は、濾過又はイオン交換樹脂等を用い、吸着、脱色等の精製をして、溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状として用いることもできる。必要ならば、効果に影響のない範囲で更に、脱臭、脱色等の精製処理をしても良い。
【0049】
抽出溶媒としては、例えば水、低級1価アルコール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級アルキルエステル(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上を用いることができる。
【0050】
≪ビタミンE≫
本発明のルチン誘導体組成物はさらにビタミンEが配合されていることが好ましい。
ビタミンE(Vitamin E)は、脂溶性ビタミンの一種であり、小麦ハイ芽油不ケン化物より有効成分が単離される。小麦ハイ芽油不ケン化物にアロファン酸を作用させると3種のアロファン酸エステルが単離され、そのうち有効な2種が、α‐トコフェロールおよびβ―トコフェロールである。トコフェロールはこの他にもγ、σ型が存在する。
【0051】
ビタミンEは、医薬品、食品、飼料などに、疾病の治療、栄養の補給、酸化防止剤として広く利用されている。
本発明のビタミンEとしては、特に制限されないが、ミックストコフェロール(α、β、γ、σ型のトコフェロールが混在したもの)、ある一つの型のトコフェロールのみでもかまわない。これらは天然の植物から抽出した精製品でも未精製品中に含まれたものでもよく、合成品でも良い。また、油脂、デキストリン等により希釈された製剤として使用しても良い。市販品としては理研ビタミン(株)製の(商品名:「理研オイルスーパー80」、トコフェロール64%含有)、などが例示できる。
【0052】
本発明において、ビタミンEは、ルチン誘導体組成物100重量部に対し、1.0〜1000重量部、好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは20〜100重量部の量で用いることが望ましい。
【0053】
ビタミンEが本発明のルチン誘導体組成物中に上記範囲で含まれると、ビタミンEの持つ飲食物の劣化防止効果がより高まり、特に、後述するような油脂含有食品の劣化防止に対して優れた作用・効果を示すため好ましい。
【0054】
また、ルチン誘導体組成物の持つ飲食物の劣化防止効果とビタミンEの持つ飲食物の劣化防止効果が顕著に増強され、相乗効果を有するルチン誘導体組成物を提供することができるため好ましい。
さらに、ビタミンEは酸化防止剤としても用いることができる。このような、ビタミンEとしてはdl−α−トコフェロール等が挙げられる。
【0055】
<その他の成分>
本発明のルチン誘導体組成物中にさらに必要に応じて、酸化防止剤等任意の助剤を混合してもよい。
酸化防止剤としては、例えばL−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸、カフェ酸、クロロゲン酸、亜硫酸ナトリウム、カテキン、エラグ酸、カンゾウ油性抽出物、クエルセチン、フェルラ酸、ブドウ種子抽出物、ローズマリー抽出物、ルチン、クローブ抽出物、ヤマモモ抽出物などが挙げられる。助剤としては、例えばアラニン等のアミノ酸類、クエン酸等の有機酸及びその塩類、リン酸及びその塩類、重合リン酸塩類、グリセリン脂肪酸エステル、フィチン酸などが挙げられる。
【0056】
また、アラビアガム、デキストリン、ブドウ糖、乳糖、界面活性剤、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等を配合することも、藤茶抽出物の溶解促進等による取り扱い性の向上に有効である。
【0057】
[本発明に係るルチン誘導体組成物の用途および品質劣化防止方法の適用対象]
本発明に係るルチン誘導体組成物は、以下に詳述するように、色素の退色・変色防止、ビタミン類の光分解防止、酸化防止等の用途に使用でき、香料の劣化防止、美白用、老化防止用、乳酸飲料の良好な香りの長期間持続用及び劣化防止用、ビタミンC類の分解防止用、菓子類、バターなどの油脂含有食品の劣化防止用、などとして好適に用いられる。
退色防止の対象となる色素としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0058】
≪色素≫
本発明における色素は、天然色素、合成色素等いずれでもかまわないが、例えば、カロチノイド系色素、フラボノイド系色素、アントシアニン系色素、アントラキノン系色素、ベタシアニン系色素、ジケトン系色素、アザフィロン系色素及びポルフィリン系色素から選ばれる天然物を起源とする色素が好適に挙げられ、これらの1種又は2種以上が組合わさったものでもよい。
【0059】
また、天然系色素を含む植物体、動物体、微生物体又はその加工品、搾汁液、水若しくは有機溶剤による抽出液又は上記搾汁液、抽出液の精製加工品でもよい。
カロチノイド系色素は、ニンジン、カボチャ、トマト、卵黄、バター等の植物、動物、微生物界を通じて広く分布する黄〜赤色を呈する色素である。例えばα−カロチン、β−カロチン、γ−カロチン、カプサンチン、カプソルビン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、ロドキサンチン、リコピン、クリプトキサンチン、クロセチン、クロシン、ビキシン、ノルビキシン等の化合物、アナトー色素、トウガラシ色素、エビ色素、オキアミ色素、オレンジ色素、カニ色素、イモ、デュナリエラ、ニンジン又はパーム油から抽出した抽出カロチン色素、トマト色素、パプリカ色素、ファフィア色素、ヘマトコッカス色素、マリーゴールド色素、クチナシ黄色色素又はその他動物、植物若しくは微生物由来のカロチノイド色素などが挙げられる。
【0060】
フラボノイド系色素は、植物の葉をはじめ、根、茎、花、果実、種子などに存在する化合物の総称であり、更に、フラボン、フラボノール、カルコン、オーロン、アントシアニンなどに分類される。例えばカキ色素、カロブ色素、カンゾウ色素、シタン色素、スオウ色素、ベニバナ赤色色素、ベニバナ黄色色素、コウリャン色素、タマネギ色素、カカオ色素、タマリンド色素などが挙げられる。
【0061】
アントシアニン系色素は、フラボノイド系色素に含まれる1つのグループとして広く植物界に分布し、赤〜青色を呈する色素である。例えばナス色素(ナスニン)、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グースベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スイムブルーベリー色素、ストローベリー色素、ダークスイートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素などが挙げられる。
【0062】
ベタシアニン(ベタレイン)系色素は、アカザ科ビートの赤い根より、抽出して得られる赤色を呈する色素であり、色素主成分はベタニンとイソベタニンである。例えばベタニン色素、バセライン色素、アマランチン色素、ゴンフレニン色素などが挙げられる。ベタニン色素はアカザ科植物又は赤ビートから作られ、バセライン色素はツルムラサキから作られ、アマランチン色素はハゲイトウから作られる。
【0063】
アントラキノン(キノン)系色素は、高等植物、菌類、昆虫などに存在するキノン化合物に含まれ、赤〜橙黄色を呈する色素であり、合成色素であるタール色素以上に光や熱に安定であること、タンパク質に対する染着性に優れているという特徴を有する。例えば、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、アカネ色素などが挙げられる。
【0064】
ジケトン系色素としては、例えばショウガ科ウコンの根茎の乾燥品より抽出して得られる黄色を呈するウコン色素などが挙げられる。
アザフィロン系色素は、子のう菌類ベニコウジカビの菌体より含水エタノール又は含水プロピレングリコールで抽出して得られる赤色を呈する色素であり、色素主成分はモナスコルブリン、アンカフラビンなどである。例えばベニコウジ色素、ベニコウジ黄色色素などが挙げられる。
【0065】
ポルフィリン系色素としては、例えばアカザ科ホウレンソウ、アブラナ科カブ、イラクサ科イラクサ、クロレラ科クロレラ、クワ科クワ、シナノキ科タイワンツナリ、セリ科ニンジン、マメ科ムラサキウマゴヤ、ムラサキ科コンフリー、ユレモ科スピルリナ、又はその他同属植物より抽出して得られる緑色を呈する色素であり、色素主成分はクロロフィルである。
【0066】
なお、上記以外にも、糖類、デンプン加水分解物、糖蜜などの食用炭水化物を熱処理して得られる褐色、赤褐色を呈する色素であるカラメル、アカネ科のクチナシの果実の抽出液に含まれる青色を呈する色素であるクチナシ青色素等の天然系色素、合成染料、合成顔料等の合成色素の退色を防止することができる。
【0067】
色素の退色・変色防止用、退色・変色防止剤として使用する場合、本発明に係るルチン誘導体組成物の使用量は、対象色素の種類などによって異なり、一概に規定することはできないが、色素成分100重量部に対して0.01〜500重量部、好ましくは、1.0〜100重量部用いれば十分な色素の退色防止効果が得られる。
【0068】
≪乳酸菌飲料≫
本発明における乳酸菌飲料とは、乳などを乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は、主要原料とした飲料(但し、ここでは、ルチン誘導体組成物を不含のものをいう。)のことを言い、「カルピス」(カルピス(株)製)、「ヤクルト」((株)ヤクルト製)等が挙げられる。
【0069】
乳酸菌飲料の劣化防止用、劣化防止剤として使用するルチン誘導体組成物の使用量は、対象乳酸菌飲料の種類などによって異なり、一概に規定することはできないが、ルチン誘導体組成物不含の乳酸菌飲料に対して0.001〜0.50重量%、好ましくは、0.002〜0.05重量%の量で用いることが望ましい。
【0070】
ルチン誘導体組成物不含の乳酸菌飲料に対し、ルチン誘導体組成物を上記の量で用いると、乳酸菌飲料の持つ風味、呈味等を維持したまま、乳酸菌飲料の香り等の劣化を防止することができるため好ましい。
【0071】
≪ビタミンC類≫
ビタミンC類の代表例であるビタミンC(Vitamin C)は、水溶性ビタミンの1種であり、L−アスコルビン酸とも呼ばれ、本発明におけるビタミンC類としては、ビタミンCまたはその塩、またはその他の各種誘導体を用いることができ、市販されているものを特に限定されることなく使用することができる。ビタミンCの誘導体としては、グルコシル化アスコルビン酸、リン酸化アスコルビン酸などが挙げられる。アスコルビン酸には、酸化型および還元型があるが、そのいずれも用い得る。
【0072】
なお、本発明のルチン誘導体をビタミンC類の分解抑制用として用いる場合にはL−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のビタミンC類をルチン誘導体組成物に添加しない。
【0073】
ビタミンC類の分解抑制用、分解抑制剤として使用するルチン誘導体組成物の使用量は、対象ビタミンC類の種類などによって異なり、一概に規定することはできないが、ビタミンC類100重量部に対して1.0〜1000重量部、好ましくは、20.0〜200重量部の量で用いることが望ましい。
ビタミンC類に対し、ルチン誘導体組成物を上記の量で用いると、ビタミンC類の熱や光による分解を効率よく抑制することができるため好ましい。
【0074】
≪油脂含有食品≫
本発明における油脂含有食品は、油脂を含む食品であればいずれでもかまわないが、食品用油脂類、乳、乳製品類、ソース類、パン類、パイ類、ケーキ類、菓子類、ルウ類、調味液類、氷菓類、麺類、加工食品、米飯類、ジャム類、缶詰類及び飲料類などの油脂含有食品を言う。
【0075】
油脂含有食品(但し、ここでは、ルチン誘導体組成物を不含のものをいう。)の劣化抑制用、劣化抑制剤として使用する場合、本発明のルチン誘導体組成物の使用量は、対象油脂含有食品の種類などによって異なり、一概に規定することはできないが、ルチン誘導体組成物不含の油脂含有食品に対して0.001〜20重量%、好ましくは、0.01〜2.0重量%の量で用いることが望ましい。
【0076】
ルチン誘導体組成物不含の油脂含有食品に対し、本発明のルチン誘導体組成物を上記の量で用いると、ルチン誘導体組成物不含の油脂含有食品の熱や光による劣化を効率よく抑制することができるため好ましい。
【0077】
≪飲食物≫
本発明の飲食物としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、特に限定されるものではないが、例えば、発酵食品、パン類、漬物、乾物、練り製品、粉類、缶詰、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品(即席麺、ドライ・フーズ、粉末飲料等)、乳製品(加工乳、脱脂粉乳等)等の加工食品;菓子類等の嗜好食品;油脂類、甘味料、調味料、香辛料等の調理・調味用材料;サプリメント等の健康食品(機能性食品);特別用途食品(病者用食品、高齢者用食品、育児用食品);特定保健用食品;ゲル化剤や膨張剤等の加工材料;保存食;非常食;宇宙食;
水、清涼飲料水、アルコール飲料、茶、コーヒー等の飲料等が挙げられる。
【0078】
また、特に、高甘味度甘味料を含む飲食物としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、特に限定されるものではないが、例えば、ステビア、酵素処理ステビア、羅漢果、甘草(グリチルリチン)、甘茶、ソーマチン、モネリン、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムK、サッカリン、ネオテーム、アリテーム等を含む飲食物が挙げられる。
【0079】
さらに、糖アルコールを含む飲食物としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、特に限定されるものではないが、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、還元パラチノース、還元水あめ、キシリトール、エリスリトール等を含む飲食物が挙げられる。
【0080】
その他、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、異性化糖などの単糖類や、ショ糖、麦芽糖、乳糖、パラチノース、トレハロースなどの二糖類、マルトトリオース、カップリングシュガー、ネオシュガー、イソマルトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖などのオリゴ糖を含む飲食物が挙げられる。
【0081】
≪化粧品≫
本発明の化粧品としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、特に限定されるものではないが、例えば、パウダー、乳液、リキッド、クリーム状のファンデーション、日焼け止め、スキンローション、クリーム類、口紅、芳香剤等の化粧品などが挙げられる。
【0082】
≪医薬品≫
本発明の医薬品としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、特に限定されないが、例えば、各種医薬品、医薬部外品、例えば錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ、うがい薬、歯磨き、口中清涼剤、口臭防止剤、ドリンク剤、漢方石鹸、洗剤、シャンプー、リンス、頭髪剤、育毛剤等が挙げられる。
【0083】
≪飼料≫
本発明の飼料としては、前記ルチン誘導体組成物を含む限り、各種キャットフード、ドッグフード、観賞魚の餌、養殖魚の餌などが挙げられる。
【0084】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明の好適態様についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
<酵素処理ルチン中のルチン換算量、藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量の測定方法>
酵素処理ルチンを100mg精秤後、水約100mlを加えて溶解後、さらに水を加え正確に200mLに定容し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野製薬(株)製)を2.9U加え、55℃で1時間反応後加熱によりグルコアミラーゼを失活させ、その後ろ過したものを「ルチン試料溶液」とする。
【0086】
また、藤茶抽出物を100mg精秤後、60%エタノール約100mlを用い、60〜70℃で加温溶解する。冷却後60%エタノールで正確に200mLに定容したものを「藤茶抽出物試料溶液」とする。
【0087】
別途、標準ルチン(関東化学(株)製)を135℃で2時間乾燥し、5〜40mgを精秤後、小量(約30ml)の熱メタノールで溶解し、HPLC移動相で200mLに定容したものを「ルチン標準溶液」とする。また、別途標準ジヒドロミリセチン(自社精製品:純度95%)を1〜10mg精秤後、95%エタノールにて溶解し、前記同様HPLC移動相で100mLに定容し、「ジヒドロミリセチン標準液」とする。
【0088】
上記のように調製した試料溶液および各標準溶液につき、下記条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析を行い、下記計算式によりルチン換算量、ジヒドロミリセチン量を求める。
【0089】
(HPLC条件)
検出器:Waters996 PDA(日本ウォーターズ株式会社製);
ポンプ:HITACHI L−6300 Intelligent Pump(株式会社日立製作所製);
カラムオーブン:HITACHI L−5025 Column Oven(株式会社日立製作所製);
測定波長:254nm(ルチン測定時)、290nm(ジヒドロミリセチン測定時);
カラム:CAPCELL PAK C18(ODS)(資生堂株式会社製);
カラム温度:40℃;
移動相:HPLC用蒸留水/アセトニトリル/リン酸=800/200/1;
流速:0.5mL/min;
(計算式)
・ルチン換算量(%)=(試料溶液のモノグルコシルルチンピーク面積+試料溶液のルチンピーク面積+試料溶液中のイソケルシトリン面積)/標準ルチンのピーク面積×標準ルチン濃度/試料溶液の固形分濃度×100
・ジヒドロミリセチン量(%)=試料溶液のジヒドロミリセチンピーク面積 /標準ジヒドロミリセチンのピーク面積×標準ジヒドロミリセチン濃度/試料溶液の固形分濃度×100
【0090】
<ルチン誘導体組成物中のルチン換算量およびジヒドロミリセチン量の測定方法>
ルチン誘導体組成物を100mg精秤後、水を加えて精確に200mLに定容し、さらにグルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野製薬(株)製)を2.3U加え、55℃で1時間反応後加熱によりグルコアミラーゼを失活させ、その後ろ過したものを「試料溶液」とする。
【0091】
別途、標準ルチン(関東化学(株)製)を135℃で2時間乾燥し、5〜40mgを精秤後、小量(約30ml)の熱メタノールで溶解し、HPLC移動相で200mLに定容したものを「ルチン標準溶液」とする。
【0092】
別途、標準ジヒドロミリセチン(自社精製品:純度95%)を1〜10mg精秤後、95%エタノールにて溶解させ、前記同様HPLC移動相で100mLに定容し、「ジヒドロミリセチン標準液」とする。
【0093】
上記のように調製した試料溶液および標準溶液につき、上記条件で高速液体クロマトグラフィーにて分析を行い、上記計算式によりルチン換算量、ジヒドロミリセチン量を求める。
【0094】
[調製例1]
<藤茶抽出物の製造法>
藤茶乾燥葉100gに水2,000mlを加え、80〜90℃で1時間抽出した後、ガーゼ及び3μmのフィルター(No.2 、アドバンテック社製)でろ過して抽出液(b1)を得た。ろ過残査を同様に処理し(すなわち、ろ過残渣に、水2,000mlを加え、80〜90℃で1時間抽出した後、ガーゼ及び3μmのフィルターでろ過し、得られた抽出液(b2)を上記の抽出液(b1)と合わせて200mlの多孔性樹脂(HP-20、三菱化成社製)に通液し、さらに1,000mlの水で該樹脂を洗浄した後、樹脂中に残存している吸着成分を80%エタノール600mlで溶出させた。
得られた溶出液を減圧下で脱アルコール、濃縮、乾燥して藤茶抽出物(X)を得た。藤茶抽出物(X)は、ジヒドロミリセチンを80重量%含有していた。
【0095】
[実施例1]
<ルチン誘導体組成物の製造法1>
ルチン誘導体として酵素処理ルチン(商品名「αGルチンPS」、東洋精糖(株)製、ルチン換算量80重量%)160gと、調製例1で得られた藤茶抽出物(X)(ジヒドロミリセチン80重量%)40gを採取し、60%含水エタノール800mLを加え、60〜70℃で攪拌し溶解させた。次に減圧下でアルコールを除去した後さらに濃縮し、精密ろ過を行い、乾燥・粉砕してルチン誘導体組成物187gの粉末を得た(以下、「本発明品」と言う。)。
【0096】
[実施例2]
<ルチン誘導体組成物の製造法2>
酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)との重量比{(a)/(b)}が5/5〜9/1となるよう酵素処理ルチン(商品名「αGルチンPS」、東洋精糖(株)製、ルチン換算量80%)と、調製例1で得られた藤茶抽出物(X)を配合した以外は実施例1と同様の方法にて得られた粉末をそれぞれルチン誘導体組成物A,B,C,D,Eとした。
【0097】
なお、この場合、酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)との重量比{(a)/(b)(W/W%)}が8/2となるよう酵素処理ルチンと藤茶抽出物を配合して得られたルチン誘導体組成物Eは実施例1に記載の本発明品と同じものである。
【0098】
イオン交換水100重量%に対し、各ルチン誘導体組成物A〜Eを固形分が30%となるようにイオン交換水に加え加熱溶解し、60℃で1日放置した後の状態を目視観察した。
結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

ルチン誘導体組成物において、酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)に対して藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)の重量比{(b)/(a)}が4/6以上(但し(a)+(b)=10とする。)となる量で配合されるとルチン誘導体組成物の水への溶解性に劣ることがわかった。以降、ルチン誘導体組成物Dを本発明品として試験に供した。
【0100】
[実施例3]
<溶解性>
本発明品(実施例2で得られたルチン誘導体組成物D)と調製例1で得られた藤茶抽出物(X)との溶解性を比較した。
【0101】
試験管に本発明品と藤茶抽出物(X)をそれぞれ溶液中のジヒドロミリセチンの濃度が0.50、1.0、2.0%となるようにイオン交換水と混合し、90℃の湯浴で加温、撹拌を行い、目視にて溶解性を確認した。放冷後、室温下で20時間放置後し、再び溶解性を確認した。
【0102】
結果を表2に示す。
なお、表2中において、「総固形分」とは、溶液中のジヒドロミリセチンの濃度が0.50、1.0、2.0%となるようにイオン交換水と本発明品または藤茶抽出物(X)を混合した際に用いた本発明品または藤茶抽出物(X)の固形分のことを言う。
【0103】
【表2】

本発明品は、溶液中のジヒドロミリセチンの濃度が高くても水への溶解が可能であった。また、藤茶抽出物は、藤茶抽出物のまま水に溶解させるよりもルチン誘導体組成物として溶解させることで溶解性の向上が認められた。これは、酵素処理ルチンの水への溶解性がルチン誘導体組成物の水への溶解性に寄与しているといえる。
【0104】
[実施例4]
<カロチノイド系色素の退色防止>
パプリカ色素(三菱化学フーズ社製、極大吸収482nm)0.1g、マリ−ゴールド色素(富士フレーバー社製、極大吸収458nm)0.4gをpH3.0の緩衝液500mlに溶解した(以下、「色素溶液」という。)。
【0105】
次いで本発明品を40、80ppmの濃度となるように調整した。
比較対照に色素溶液のみの無添加区および本発明品のそれぞれの濃度に対応した等モル量の藤茶抽出物または酵素処理ルチン(αGルチンPS)を色素溶液に添加した藤茶抽出物添加区または酵素処理ルチン添加区を作製した。各試験液は日光を照射し色素の退色を目視にて確認した後に分光光度計にて色素の吸光度を測定した。値は冷蔵保存をした未照射無添加区の色素の極大吸収を100%として試験液中の色素の残存率(%)を求めた。
【0106】
結果を表3に示す。
色素残存率(%)=照射添加区の吸光度/未照射無添加区の吸光度×100
【0107】
【表3】

ルチン誘導体組成物はカロチノイド系色素であるパプリカ色素とマリーゴールド色素の退色防止に対して、酵素処理ルチンあるいは藤茶抽出物単独よりも優れていることがわかった。また、ルチン誘導体組成物はパプリカ色素、マリーゴールド色素の退色防止に対して酵素処理ルチン、藤茶抽出物の相加効果ではなく、それらの相乗効果が認められた。
【0108】
[実施例5]
<アントシアン系色素の褐変防止>
ナスを長方形に切り、20mLクエン酸緩衝液(pH3.2)とともにガラス瓶に詰めた。さらに、以下表4に示す濃度で塩化鉄、本発明品を加えた。試験Aは、塩化鉄、本発明品ともに無添加、試験Bは、塩化鉄のみ80ppm加え、試験Cは、塩化鉄を80ppm、本発明品を150ppm加えたものである。これを20℃、暗所で2週間保存し、ナス皮の色調と付け汁の色調を目視評価した。
結果を表4に示す。
【0109】
【表4】

ルチン誘導体組成物の添加により、ナス皮だけでなく中身と漬け汁も鮮やかな紫色を呈することが認められた。ルチン誘導体組成物は、水溶液中で不安定化するアントシアン系色素(ナスニン)を、鉄イオン存在下で安定化することが分かった。
【0110】
[実施例6]
<乳酸飲料の劣化防止>
市販の乳酸菌飲料(「カルピス」、カルピス(株)製)に本発明品を加え、本発明品を40、80ppmの濃度となるように調整した。比較対照には乳酸菌飲料のみの無添加区、および、本発明品のそれぞれの濃度に対応した藤茶抽出物または酵素処理ルチン(αGルチンPS)を乳酸菌飲料に添加した藤茶抽出物添加区または酵素処理ルチン添加区を作製した。各試験液は日光を10時間照射(照射区)した後、官能検査に供した。官能検査はパネル6名による乳酸菌飲料に何も添加しない(無添加区)を10時間冷蔵保存した時の乳酸菌飲料の香り、劣化臭、好みを4.00とした時を基準に評点法によって行った。
結果を表5に示す。
【0111】
【表5】

ルチン誘導体組成物は乳酸菌飲料の劣化に対して、それらの構成成分である藤茶抽出物あるいは酵素処理ルチン単独よりも優れていることがわかった。また、ルチン誘導体組成物は乳酸菌飲料の香り、劣化臭に対して酵素処理ルチン、藤茶抽出物の相加効果ではなく、それらの相乗効果が認められた。
【0112】
[実施例7]
<ビタミンCの分解防止>
ビタミンCおよび本発明品を各0.2%濃度になるようにpH6.0の緩衝液で調整し、40℃・暗所、冷蔵・1500lxの条件で保存した。ここで、冷蔵・1500lxの条件とは、蛍光灯(FL15 EX-NTT、三菱オスラム社製)で照射しながら3〜5℃の冷蔵庫内で保存した状態をいう。2、4日後のビタミンC濃度の変化をビタミンC定量用キット((株)シマ研究所製)を用い、分光光度計(日本分光(株)製、V550)にて測定し、スタート時の濃度を100として残存率(%)を求めた。対照として、ビタミンC 0.2%のみの試験液(無添加区)を調製し比較した。
結果を表6に示す。
【0113】
【表6】

ルチン誘導体組成物をビタミンCに添加することにより、温度と光によるビタミンCの分解を抑制することが確認できた。
【0114】
[実施例9]
<クッキーの酸化防止>
薄力粉:120g、べーキングパウダー:小さじ1/2、砂糖:60g、ラード:60g、卵:1/2ヶ、水:少量、ア−モンドパウダ−:小さじ1、黒ゴマ:適量に、本発明品0.06gとミックストコフェロールを0.03g加えて180〜190℃で15分間焼いてクッキーを製造した。このクッキーをビニール袋に入れ密封した後、60℃・暗所に保存して経時的に1,2,3週間後のPOV(過酸化物価)を食品衛生検査指針に記載の(試験方法:過酸価物価(クロロホルム法))に基づいて測定した。
【0115】
なお、上記クッキーの製造において、本発明品とミックストコフェロールを添加しないクッキー(無添加区)、及び本発明品のみを添加しない試験区(ミックストコフェロール添加区)も準備し、同様に保存してPOVを比較した。
結果を表7に示す。
【0116】
【表7】

ミックストコフェロールあるいは本発明品+ミックストコフェロールをクッキーに添加することにより、無添加区に比較してクッキーのPOVの上昇を抑制することができた。特に本発明品+ミックストコフェロールをクッキーに添加すると最もクッキーのPOVの上昇を抑制できた。
【0117】
[実施例10]
<油脂含有食品(バター)の劣化防止>
市販バター(「北海道バター」、森永乳業(株)製)200gを湯煎で溶解し30gずつ分割した後、下記表8に示す試験区となるように所定量の本発明品、ビタミンE、酵素処理ルチンを加え、日光下で7時間放置し(日光下)官能検査に供した。官能検査はパネル6名により、バターのみ(無添加)を冷暗所(4℃)で7時間放置した場合を基準(「0」)とし評点法で行った。なお、基準値より評点が劣る場合は、マイナス(−)を付した。また、バターの劣化防止試験において、オフフレーバーとは、通常バターにはあってはならないフレーバーのことを言う。
結果を表8に示す。
【0118】
【表8】

ルチン誘導体組成物、酵素処理ルチン、ビタミンEいずれかの添加によりバターの劣化を抑制することを確認した。特にルチン誘導体組成物のバターの劣化防止効果が最も高く、中でもオフフレーバーの発生抑制に対する効果が高かった。
【0119】
[実施例11]
<油脂含有食品(チョコレート)の劣化防止>
市販チョコレート(「ミルクチョコレート」、明治製菓(株)製)325gを湯煎で溶解した後、ホイップクリーム(「ホイップ植物性脂肪」、MEGMILK社製)200mlを同様に加熱してチョコレートに加え混合した。これを保温状態(温度:60℃)で30gずつに分割し、下記表9に示す試験区となるように所定量の本発明品、ビタミンEを加え日光下で6時間放置した後、官能検査に供した。官能検査はパネル6名により、チョコレートとホイップクリームの混合物のみ(無添加)を冷暗所(4℃)で6時間放置した場合を基準(「0」)とし評点法で行った。なお、基準値より評点が劣る場合は、マイナス(−)を付した。また、チョコレートの劣化防止試験において、オフフレーバーとは、通常チョコレートにはあってはならないフレーバーのことを言う。
結果を表9に示す。
【0120】
【表9】

ルチン誘導体組成物またはビタミンEの添加により、オフフレーバー発生を僅かに抑制することがわかった。さらに、ルチン誘導体組成物とビタミンEを併用するとチョコレートの香り劣化とオフフレーバーの発生抑制に高い効果を示し、特にオフフレーバーの発生抑制に対して顕著な効果を示した。これより、本発明品とビタミンEとの併用は、チョコレートの劣化防止に対し、ルチン誘導体組成物、ビタミンEの相加効果ではなく、それらの相乗効果を有することを確認した。
【0121】
[実施例12]
<化粧用クリーム>
下記の組成によりクリームを調製した。以下の数値は、配合量(質量%)を表す。調製方法は、まず、イオン交換水にプロピレングリコール、苛性カリおよびエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩を加えて溶解し、70℃に保った(水相)。次にその他の成分を混合して加熱溶解して70℃に保ち(油相)、水相に油相を徐々に加えて70℃で予備乳化を行い、ホモミキサーにて均一に乳化した後、よくかき混ぜながら30℃まで冷却した。
【0122】
《組成》
ステアリン酸;6.0、ステアリルアルコール;3.0、イソプロピルミリステート;18.0、グリセリンモノステアリン酸エステル;3.0、プロピレングリコール;10.0、苛性カリ;0.2、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩;0.01、酢酸トコフェロール;0.1、ブチルパラペン;適量、香料;適量、イオン交換水;適量、本発明品;0.05。
ルチン誘導体組成物は、化粧用クリームの白色および物性を損なうことなくフラボノイドを含有するクリームに利用することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理ルチンと藤茶抽出物とを含んでなることを特徴とするルチン誘導体組成物。
【請求項2】
前記酵素処理ルチンが、ルチンに糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体からルチンに糖(グルコース)を転移させることにより得られる、α-グルコシルルチン含有物であることを特徴とする請求項1に記載のルチン誘導体組成物。
【請求項3】
前記酵素処理ルチン中のルチン換算量が10〜85重量%であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項4】
前記藤茶抽出物中にジヒドロミリセチン量が20〜98重量%含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項5】
前記酵素処理ルチンと、藤茶抽出物とが、前記酵素処理ルチン中のルチン換算量(a)と藤茶抽出物中のジヒドロミリセチン量(b)との重量比((a)/(b))で6/4〜9/1(但し(a)+(b)=10とする。)となる量で含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項6】
色素の退色・変色防止用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項7】
前記色素が、カロチノイド系色素、アントシアニン系色素、フラボノイド系色素、アントラキノン系色素、ポルフィリン系色素、ベタシアニン系色素、ジケトン系色素およびアザフィロン系色素から選ばれる1種または2種以上の色素であることを特徴とする請求項6に記載のルチン誘導体組成物。
【請求項8】
乳酸菌飲料の劣化防止用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項9】
ビタミンC類の分解抑制用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項10】
前記ルチン誘導体組成物がさらにビタミンEを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項11】
油脂含有食品の劣化抑制用であることを特徴とする請求項1〜5、10のいずれかに記載のルチン誘導体組成物。
【請求項12】
請求項1〜5、10のいずれかに記載のルチン誘導体組成物を含むことを特徴とする飲食物、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項13】
色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の何れかであって、酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を含まないものに、
対応する不含の成分である酵素処理ルチン及び/又は藤茶抽出物を添加することを特徴とする、色素、乳酸菌飲料、ビタミンC類、油脂含有食品、飲食物、化粧品、医薬品、飼料の品質劣化防止方法。

【公開番号】特開2010−209240(P2010−209240A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57912(P2009−57912)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【Fターム(参考)】