説明

ルテニウム−ジアミン錯体及び光学活性化合物の製造方法

【課題】製造方法が簡便で安全であり、触媒活性が強く、立体選択性に優れた不斉還元用触媒を提供する。
【解決手段】芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分にヘテロ原子を有する光学活性ジアミン配位子を有する新規なルテニウム−ジアミン錯体、その製造方法、それからなる不斉還元用触媒、並びに当該不斉還元用触媒を用いた光学活性アルコール及び光学活性アミンの選択的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なルテニウム−ジアミン錯体、並びにそれを触媒として用いた医薬品、機能性材料の合成の前駆体として重要な光学活性アルコール及び光学活性アミンの選択的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不斉還元をはじめとする多くの不斉反応が開発され、これらの反応に用いられる触媒として光学活性なホスフィン配位子をもつ不斉金属錯体を用いる不斉反応が数多く報告されている。一方、例えばルテニウム、ロジウム、イリジウムなどの遷移金属に光学活性な窒素化合物を配位させた錯体が、不斉合成反応の触媒として優れた性能を有するという報告も数多くされている。そこで、この触媒の性能を高めるためにこれまでに種々の光学活性な窒素化合物が数多く開発されてきた(非特許文献1、2、3、4など)。
その中で、M.Willsらは、ジアミン部分とルテニウム錯体に配位する芳香族化合物(arene)部位とを炭素鎖で繋いだ錯体を報告しており、これらの錯体は従来の触媒より高い活性を示すことが知られている(非特許文献5、6、7、8、9、10など)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Chem Rev. (1992) p. 1051
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 117 (1995) p. 7562
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc. 118 (1996) p. 2521
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc. 118 (1996) p. 4916
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. 127 (2005) p. 7318
【非特許文献6】J. Org. Chem. 71 (2006) p. 7035
【非特許文献7】Org. Biomol. Chem. 5 (2007) p. 1093
【非特許文献8】Org. Lett. 9 (2007) p. 4659
【非特許文献9】J. Organometallic. Chem. 693 (2008) p. 3527
【非特許文献10】Dalton. Trans. 39 (2010) p. 1395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの錯体を用いる従来の方法においては、対象とする反応又はその反応基質によって触媒活性、不斉収率が不十分等の場合があり、さらなる錯体の開発が望まれている。また、それらの錯体の合成方法も煩雑若しくは低収率であったりして、工業化する際などに問題となることが多かった。
本発明は、このような課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者らは、光学活性ジアミンを有するルテニウム錯体に配位する芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分に着目し、当該鎖状部分をヘテロ原子を有する鎖状部分とすることにより、触媒活性が高く不斉収率も良く、かつ製造法が簡便である工業的な使用に適した新規なルテニウム−ジアミン錯体が得られることを見出した。
即ち、本発明は、以下に示す一般式(1)で表されるルテニウム錯体、その製造方法、それからなる不斉還元用触媒、並びに当該不斉還元用触媒を用いた光学活性アルコール及び光学活性アミンの選択的な製造方法に関する。
【0006】
本発明は以下の内容を含むものである。
[1]次の一般式(1)、
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示し、
Xはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、水素原子、又はハロゲン原子を示す。
j及びkはそれぞれ0又は1を示すが、j+kが1になることはない。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
[2]次の一般式(2)、
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示す。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。Qはカウンターアニオンを示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
[3]次の一般式(3)、
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示す。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示し、Vはハロゲン原子を示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
【0013】
[4]前記[1]から[3]のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下で、有機化合物を還元して、還元生成物を製造する方法。
[5]前記[1]から[3]のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下、カルボニル化合物のカルボニル基を還元することを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
[6]前記[1]から[3]のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下、イミン化合物のイミノ基を還元することを特徴とする光学活性アミンの製造方法。
[7]水素供与体が、ギ酸、ギ酸アルカリ金属塩及び水酸基置換炭素のα位炭素原子に水素原子を有するアルコールの中から選ばれ
るものである前記[4]から[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]水素供与体が、水素である前記[4]から[6]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記[1]から[3]のいずれかに記載のルテニウム錯体からなる還元用触媒。
[10]還元用触媒が、不斉還元用触媒である前記[9]に記載の還元用触媒。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ルテニウムに配位する芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分にヘテロ原子を導入した新規なルテニウム−ジアミン錯体を提供するものである。本発明のルテニウム−ジアミン錯体は、非常に触媒活性が強く、カルボニル基、イミノ基又はエステル基の還元に使用することができるなど各種の水素化触媒として有用であるだけでなく、配位子が光学活性体である本発明の錯体は立体選択性に優れ高い不斉収率を与える。また、従来のarene部位とジアミン部位が炭素鎖のみで繋がった錯体は、高活性ではあるが合成法が煩雑であったり、有毒なアンモニアガスや超低温装置の使用が避けられないBirch還元を用いたり、副生するジメチルスルフィドの悪臭や一酸化炭素の有害性、また超低温装置の必要性などが工業化にあたって問題となるSwern酸化を用いなければならないこと、またいくつかの反応において低収率であるという問題があった。しかし、本発明により鎖状部分にヘテロ原子を導入することにより、適切なルテニウム−アレーンダイマーと適切なジアミンを用いることで、錯体形成をさせると同時にチオエーテル化又はエーテル化反応を行うことにより、より簡便かつ効率的にarene部位とジアミン部位を繋ぐ側鎖を持つ錯体を合成することができる。
さらに、鎖状部にヘテロ原子が導入された本発明のルテニウム錯体は、対応する鎖状部にヘテロ原子を有さず鎖状部が炭素鎖のみで構成された従来の錯体に比べて、高い触媒活性を有し、水素移動反応若しくは水素化反応により、目的物質を高い光学純度で、且つ高収率で得ることができる。特に、配位子が光学活性体となった本発明の錯体は、不斉還元用触媒として有用である。
本発明のルテニウム−ジアミン錯体を用いることにより、医薬品、機能性材料の製造原料などとして有用な光学活性アルコールや光学活性アミンを選択的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一般式(1)、(2)、及び(3)で表される本発明のルテニウム錯体は、芳香族化合物(arene)部位がルテニウム原子に配位し、芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分に酸素原子又は硫黄原子などのヘテロ原子が導入されていることを特徴とするルテニウム錯体である。
また、一般式(1)及び(2)で表されるルテニウム錯体は、ジアミン配位子の2個の窒素原子が共有結合又は配位結合でルテニウム原子に結合し、当該ジアミンと結合した芳香族化合物(arene)部位もルテニウム原子に配位する3座配位子を有し、かつ、芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分に酸素原子又は硫黄原子などのヘテロ原子が導入されていることを特徴とするものである。
一般式(1)、(2)、及び(3)における*印は、当該*印が付されている炭素原子が不斉炭素原子となる場合があることを示している。当該炭素原子が不斉炭素原子となる場合には、それらの光学活性体としてもよいし、光学活性体の混合物であってもよいし、ラセミ体(ラセミ化合物を含む)であってもよい。本発明の好ましい態様としては、これらの炭素原子が不斉炭素原子となる場合には、これらの光学活性体が挙げられる。
また、一般式(2)で表されるルテニウム錯体は、一般式(1)で表されるルテニウム錯体におけるRu−Xの結合が、Ru−Qのイオン結合となる場合のルテニウム錯体である。
一般式(3)で表されるルテニウム錯体は、ハロゲン原子Vを介した二量体(ダイマー)であり、芳香族化合物(arene)部位がルテニウム原子に配位している錯体である。一般式(3)で表されるルテニウム錯体は、一般式(1)又は(2)で表されるルテニウム錯体を製造する際の中間体として有用なだけでなく、それ自体も還元触媒としての活性を有しているルテニウム錯体である。
【0016】
本発明の一般式(1)、(2)、及び(3)において、Rで示される炭素数1〜10のアルキル基としては炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。具体的なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられる。
本発明の一般式(1)、(2)及び(3)において、Rで示される炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の前記した直鎖又は分岐のアルキル基においてフッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が1個以上置換した炭素数1〜10のアルキル基であり、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等のパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)、(2)及び(3)において、Rで示される炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、フェニル基又はナフチル基等の炭素数1〜20、好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基としては前記したようなアルキル基が挙げられ、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基としては前記したようなハロゲン化アルキル基、例えばパーフルオロアルキル基が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子又は塩素原子等が挙げられる。
−NR2021で表されるアルキルアミノ基(ここでR20、R21はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を表す。)としては、例えばN−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基もしくはN−シクロヘキシルアミノ基等のモノアルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基が挙げられる。
5員若しくは6員の環状アミノ基としては、例えばピロリジニル基、ピペリジノ基、モルホニル基等の、5員から6員で1もしくは2個の窒素原子を有する不飽和又は飽和複素環基が挙げられる。
−CO−R20で表されるアシル基(ここでR20は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基を表す。)としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、ペンタノイル基またはヘキサノイル基等が挙げられる。
−NH−CO−R20で表されるアシルアミノ基(ここでR20は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基を表す。)としては、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基またはヘキサノイルアミノ基等が挙げられる。
−OR20で表されるアルコキシ基(ここでR20は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を表す。)としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基またはシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
−COOR20で表されるアルコキシカルボニル基(ここでR20は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を表す。)としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基または2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる
−SR20で表されるアルキルチオ基(ここでR20は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を表す。)としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、t−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基またはシクロヘキシル基等が挙げられる。
−SiR202122で表されるシリル基(ここでR20、R21およびR22はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を表す。)としては、例えばトリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基またはトリフェニルシリル基等が挙げられる。
3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基としては単環、多環式または縮合環の3〜10個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の3員〜7員のシクロアルキル基が挙げられる。
このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、o−,m−及びp−トリル基、o−,m−及びp−エチルフェニル基、o−,m−及びp−イソプロピルフェニル基、o−,m−及びp−t−ブチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,5−キシリル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、o−,m−及びp−トリフルオロメチルフェニル基、o−,m−及びp−フルオロフェニル基、o−,m−及びp−クロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0018】
本発明の一般式(1)、(2)及び(3)において、R及びRで示される炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。具体的なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられる。
本発明の一般式(1)、(2)及び(3)において、R及びRで示される、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基のアルキル基としては、例えば前記したようなアルキル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。
炭素数1〜10のアルコキシ基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられ、具体的なアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基及びn−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(1)、(2)及び(3)において、R及びRで示される炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、炭素数3〜8、好ましくは炭素数5〜8の単環式、多環式、又は架橋式のシクロアルキル基が挙げられ、具体的には例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。これらのシクロアルキル基は、メチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等のアルキル基などで置換されていてもよい。
また、R及びRが一緒になって環を形成する場合、R及びRが一緒になって炭素数2から10、好ましくは3から10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基となり、隣接する炭素原子と共に4から8員、好ましくは5から8員のシクロアルカン環を形成する。好ましいシクロアルカン環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環及びシクロヘプタン環が挙げられ、これらの環は置換基としてメチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等のアルキル基などを有していてもよい。
【0020】
本発明において一般式(1)、(2)及び(3)で表されるarene部分において、R11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。アルキル基としては前記してきたアルキル基が挙げられ、具体的には例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、前記してきた直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられ、具体的なアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基及びn−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0021】
一般式(1)、(2)及び(3)で表されるarene部位とジアミン部分を連結する鎖状部分の炭素原子に置換する置換基として表される、R16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。アルキル基としては前記してきたアルキル基が挙げられ、具体的には例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、前記してきた直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられ、具体的なアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基及びn−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
好ましい−(−C(R16)R17−)n−基としては、例えば、−CH−基、−CH(CH)−基、−CO−基などが挙げられるが、これらの基に限定されるものではない。
一般式(1)、(2)及び(3)のZは、酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)である。
一般式(1)においてk及びjは、0又は1の整数であり、j+kが1になることはない。即ち、kが1であればjも1であり、kが0であればjも0である。kが1のときのYは水素原子である。
一般式(1)のjが1のときのXは、水素原子又はハロゲン原子のいずれであってもよいが、好ましいXとしてハロゲン原子が挙げられ、具体的には例えば塩素原子が好ましい。
一般式(1)、(2)及び(3)のY、並びに一般式(1)のXにおける水素原子としては、通常の水素原子だけでなく水素原子の同位体であってもよい。好ましい同位体としては重水素原子が挙げられる。
【0023】
一般式(2)におけるQはカウンターアニオンを表す。具体的なカウンターアニオンとしては、トリフルオロメタンスルホニルオキシイオン(TfO)、p−トルエンスルホニルオキシイオン(TsO)、メタンスルホニルオキシイオン(MsO)、ベンゼンスルホニルオキシイオン(BsO)などのアルキル若しくはアレーンスルホニルオキシイオン;又はBF、SbF、CFCOO、CHCOO、PF、NO、ClO、SCN、OCN、ReO、MoO、BPh、B(C、及びB(3,5−(CFなどのイオンが挙げられる。
一般式(3)におけるVで示すハロゲン原子は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかを表し、すべてのVが同じハロゲン原子であっても、また異なるハロゲン原子の組み合わせでもよい。
本発明の錯体は、例えば以下のスキーム1の方法で合成できる。
【0024】
【化4】

【0025】
スキーム1中、R、R、R、R11〜R15、R16〜R19は前述した通りの置換基を表し、Yは水素原子又は重水素原子、Zは酸素原子若しくは硫黄原子を表す。ルテニウムアレーンダイマー(a)におけるWは、ハロゲン原子又は、アルカン若しくは置換されていてもよいアレーンスルホニルオキシ基を表し、Vはハロゲン原子を表す。nは1又は2をnは1から3の整数で表わされる。
【0026】
スキーム1のように、アレーンの置換基の末端にハロゲン原子などを持つルテニウムアレーンダイマー(a)と、スルホニル基が置換している窒素原子ではないほうの窒素原子に置換した鎖状部位の末端にヒドロキシル基又はチオール基を持つジアミン(b)を、適当な塩基存在下にて反応させることにより、錯化と同時にチオエーテル化又はエーテル化反応を行うことで、アミド錯体である(c)を経由し、若しくは直接的に目的錯体であるルテニウム−ジアミン錯体(d)を合成することができる。アミド錯体である(c)を経由する場合は、(c)に対して適当な酸を加えることにより、ジアミン錯体(d)又はカチオン性ジアミン錯体(g)に変換することが可能である。
ルテニウムアレーンダイマー(a)においてWで表されるハロゲン原子又は、アルカン若しくは置換されていてもよいアレーンスルホニルオキシ基としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基などが挙げられる。また、Vで示すハロゲン原子は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかを表し、すべてのVが同じハロゲン原子であっても、また異なるハロゲン原子の組み合わせでもよい。
ジアミン(b)におけるZは、酸素原子又は硫黄原子である。またYは水素原子を表す。
【0027】
アミド錯体である(c)を合成するときに用いる塩基としてはLiOH、NaOH、KOH、KCO、CsCOなどの無機塩基;又は、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等の金属アルコキシドが挙げられる。塩基の添加量はルテニウム原子に対して2モル以上である。この場合に用いられる溶媒としては特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が好ましく、特にジクロロメタンやトルエンが好ましい。またこの反応は水をもう一つの溶媒として用いて有機溶媒との二層系の反応で行うことができ、この場合には、相関移動触媒を用いて反応を行うと良い。このとき用いられる相関移動触媒の例としては、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムブロミド、トリエチルベンジルアンモニウムヨージドなどが挙げられる。
【0028】
アミド錯体である(c)より、ジアミン錯体(d)へ変換する時に用いられる酸(X-Y)は、例えば塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などが挙げられる。
同様にアミド錯体である(c)より、カチオン性ジアミン錯体(g)変換することもできる。このときに用いられる酸(Q−H)はトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)、メタンスルホン酸(MsOH)、p−トルエンスルホン酸(TsOH)、ベンゼンスルホン酸(BsOH)さらにはHBF、HSbF、CFCOOH、CHCOOH、HPF、HNO、HClO、HSCN、HOCN、HReO、HMoOなどが挙げられる。
【0029】
この反応を行う溶媒は特に限定されないが、前記のアミド錯体(c)を合成した後単離をせず、そのまま系内で同じ溶媒の存在下で反応を行いジアミン錯体(d)又は(g)に変換することもできるし、アミド錯体(c)を単離した後、適切な別の溶媒を用いて反応を行いジアミン錯体(d)又はカチオン性ジアミン錯体(g)に変換しても良い。
ジアミン錯体(d)を直接合成するときに用いる塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの第3級有機アミン類が好ましく、特にトリエチルアミンやジイソプロピルエチルアミンが好適である。この場合の塩基の添加量はルテニウム原子に対して等モル以上である。
この場合に用いられる溶媒としては特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン性溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が好ましく、特にジクロロメタンやイソプロパノールが好ましい。
【0030】
また、本発明の錯体の合成法としては、以下のスキーム2に示すように、アレーンの置換基の末端にヒドロキシル基又はチオール基を持つルテニウムアレーンダイマー(e)と、スルホニル基が置換している窒素原子ではないほうの窒素原子に置換した鎖状部位の末端にハロゲン原子などを持つジアミン(f)を原料として用いることもできる。
【0031】
【化5】

【0032】
(スキーム2中の各記号はスキーム1と同じ意味を表す。)
このスキーム2では、スキーム1におけるヒドロキシル基又はチオール基と、ハロゲン
原子などの脱離基の位置が逆の組み合わせであるが、これらに対し適当な塩基存在下にて
反応させることにより、錯化と同時にチオエーテル化又はエーテル化反応を行うことで、
同様にアミド錯体である(c)を経由し、若しくは直接的に目的錯体であるルテニウム−ジアミン錯体(d)又はカチオン性ジアミン錯体(g)を合成することができる。アミド錯体である(c)を経由する場合は、(c)に対して適当な酸を加えることにより、(d)又は(g)に変換することが可能である。反応において使われる塩基、溶媒などは前述の通りである。
また本発明の錯体は、以下のスキーム3のような方法でも製造することができる。
【0033】
【化6】

【0034】
(I)Diels−Alder反応を用いて、1,4−シクロヘキサジエン骨格の化合物(h)を合成する。
(II)(I)で得られた化合物(h)に対してトシル化などを行い末端に脱離基を有する化合物(i)を合成する。
(III)(i)とTsDPEN(N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン)(N-(p-toluensulfonyl)-1,2-diphenylethylenediamine)とを反応させることにより、シクロヘキサジエンを有するジアミン(j)を合成する。
(IV)得られたジアミン(j)に三塩化ルテニウムを反応させ、ルテニウムダイマー(k)を経由し、目的であるモノマー錯体が得られる。
この方法により、本発明の一般式(1)及び(3)で表されるルテニウム錯体を製造することができる。
さらに、本発明の一般式(2)で表されるルテニウム錯体は、以下のスキーム4のような方法でも製造することができる。
【0035】
【化7】

【0036】
またスキーム4のようにカチオン性ジアミン錯体(g)は、Xがハロゲン原子であるようなジアミン錯体(d)より、M−Qで表される金属塩を反応させることで得ることも可能である。M−Qにおける金属Mとしては、例えば、銀(Ag)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)などが挙げられる。Qとしては、トリフルオロメタンスルホニルオキシ(TfO)、p−トルエンスルホニルオキシ(TsO)、メタンスルホニルオキシ(MsO)、ベンゼンスルホニルオキシ(BsO)などのアルカンスルホニルオキシ又はアレーンスルホニルオキシが挙げられ、さらにBF、SbF、CFCOO、CHCOO、PF、NO、ClO、SCN、OCN、ReO、MoO、BPh、B(C、B(3,5−(CFなどが挙げられる。
M−Qで表される金属塩の例としては、AgOTf、AgOTs、AgOMs、AgOBs、AgBF、AgSbF、CFCOOAg、CHCOOAg、AgPF、AgNO、AgClO、AgSCN、AgOCN、AgReO、AgMoO、NaOTf、NaBF、NaSbF、CFCOONa、CHCOONa、NaPF、NaNO、NaClO、NaSCN、KOTf、KBF、KSbF、CFCOOK、CHCOOK、KPF、KNO、KClO、KSCN、KBPh、KB(C、KB(3,5−(CF、LiOTf、LiBF、LiSbF、CFCOOLi、CHCOOLi、LiPF、LiNO、LiClO、LiSCN、LiBPh、LiB(C、LiB(3,5−(CFなどが挙げられる。
【0037】
カチオン性ジアミン錯体(g)を合成するときに用いる、金属塩M−Qの等量はルテニウム原子に対して等モル以上である。この場合に用いられる溶媒としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル等が挙げられ、これらの中でもメタノールが好ましい。
このように、鎖状部分にヘテロ原子が導入された本発明のルテニウム錯体は、適切なルテニウム−アレーンダイマーと適切なジアミンを用いることで、錯体形成をさせると同時にチオエーテル化又はエーテル化反応を進行させ、arene部位とジアミン部位を繋ぐ側鎖を持つ錯体を合成することができ、この反応では理論上、ルテニウム−アレーンダイマーをルテニウム換算でジアミンに対して等モル量反応させることで錯体を調製することができるため非常に効率的である。また、この合成法で用いる反応はいずれも常温から加熱条件下で行う反応であるため、超低温装置を用いる必要性も無く、有害なガスなども発生しないため、工業化スケールで合成するにあたって非常に簡便で安全であり、かつ好都合な合成方法である。
【0038】
Xがハロゲン原子である場合の本発明のルテニウム錯体は、水素供与体と接触させることにより容易にXが水素原子の錯体に変換することができる。
ここで、水素供与体としては、水素化ホウ素化合物等の金属水素化物やギ酸又はその塩、イソプロパノール等の水素移動型還元反応において、水素供与体として一般的に用いられるようなものを用いることができ、その使用量としては、ヒドリド換算で触媒に対して等モル量以上であればよい。また水素ガスも水素供与体として用いることができる。
また、塩基性条件とするために用いる塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミンなどの第3級有機アミン類;LiOH、NaOH、KOH、KCOなどの無機塩基;又は、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等の金属アルコキシドが挙げられる。
また、本発明のルテニウム錯体におけるXのハロゲン原子から水素原子への変換は、不斉還元反応に供する前に予め行っておいても良いし、不斉還元反応系中で行っても良い。
本発明のルテニウム錯体の調製は、通常、120℃以下、好ましくは100℃以下で行われる。
【0039】
不斉還元反応は、アミド錯体(c)、ジアミン錯体(d)、カチオン性ジアミン錯体(g)又はルテニウム二量体(k)を単離したものを触媒として用いて反応を行っても良いし、錯体調製の反応液をそのまま用いることで錯体を単離せずに反応を行っても良い(in situ法)。
反応終了後は反応液の濃縮又は貧溶媒の添加等の一般的な晶析手法により、目的とするルテニウム錯体を分離することができる。また、上記の調製において、ハロゲン化水素塩が副生する場合には、必要に応じて水洗の操作を行っても良い。
【0040】
本発明の不斉還元反応は、カルボニル化合物又はイミン類に水素供与体の共存下、一般式(1)で表されるルテニウム錯体を反応させることにより行われる。該水素供与体としては、ギ酸又はその塩、水酸基が置換している炭素原子のα位に水素原子を有するアルコールであるイソプロパノール等の水素移動型還元反応に一般的に用いられるようなものであれば特に限定されない。また、水素供与体としては水素ガスも用いることができる。また、不斉還元反応は塩基存在下で実施されることが好ましい。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)などの第3級有機アミン類やLiOH、NaOH、KOH、KCOなどの無機塩基が挙げられる。好適な塩基はトリエチルアミンである。塩基は、ルテニウム錯体に対して過剰量、例えばモル比で1〜100000倍の量が用いられる。トリエチルアミンを使用する場合は触媒に対して、1〜10000倍用いるのが好ましい。
上記水素供与体と塩基との組み合わせの中で、水素供与体がギ酸の場合にはアミンを塩基として用いるのが好ましく、この場合、ギ酸とアミンは別々に反応系に添加しても良いが、あらかじめギ酸とアミンの共沸混合物を調製して用いてもよい。好ましいギ酸とアミンの共沸混合物としては、例えば、ギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物などが挙げられる。
反応は通常、水素供与体が液体であればそれを反応溶媒として利用できるが、原料を溶解させるために、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、塩化メチレン等の非水素供与性溶媒を単独又は混合して助溶媒として使用することも可能である。ギ酸塩を用いる時などは、ギ酸塩を溶解させるため水を助溶媒として有機溶媒と併せて用い二層系で反応を行うこともできる。この場合、反応を加速させるため相関移動触媒を併せて用いても良い。また、水素ガスを用いる場合はメタノール、エタノール、イソプロパノール、トルフルオロエタノール、ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール溶媒が好ましい。
【0041】
触媒であるルテニウム錯体の使用量は、ルテニウム金属原子(C)に対する基質(カルボニル化合物又はイミン類)(S)のモル比(S/C)が10〜1000000、好ましくは100〜15000の範囲から選ばれる。
カルボニル化合物又はイミン類に対する水素供与体の量としては、通常等モル量以上用いられ、このうち水素供与体がギ酸又はその塩である場合には、1.5倍モル量以上が好ましく、また、20倍モル量以下、好ましくは10倍モル量以下の範囲で用いられる。一方、水素供与体がイソプロパノール等の場合には、反応平衡の観点から基質に対して大過剰量用いられ、通常1000モル倍以下の範囲で用いられる。
反応温度は−20〜100℃、好ましくは0〜70℃の範囲から選ばれる。
反応圧力は特に限定されず、通常0.05〜0.2MPa、好ましくは常圧のもとで行われる。
また、水素ガスを用いる場合は通常5MPa以下である。
反応時間は触媒比によって異なるが1〜100時間、通常は2〜50時間である。
反応後は、蒸留、抽出、クロマトグラフィー、再結晶などの一般的操作により、生成した光学活性体を分離、精製することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例等における錯体の同定及び純度決定に用いたNMRスペクトルは、バリアンテクノロジージャパンリミテッド製Mercury Plus 300 4N型装置、又はBruker BioSpin Avance III 500 Systemで測定した。また、GC分析は、Chirasil-DEX CB(0.25mm×25m, 0.25μm)(バリアン社製)、InertCapPure-WAX(0.25mm×30m, 0.25μm)(ジーエルサイエンス社製)を、HPLC分析はCHIRALCEL OJ-H(0.46mm×25cm)(ダイセル社製)を用いて測定した。
なお、実施例中の記号は以下の意味を表す。
MsDPEN:N−メタンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
TsDPEN:N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
o−TFTsDPEN:N−(2−トリフルオロトルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
TIPPsDPEN:N−(2,4,6−トリイソプロピルベンゼンンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
MESsDPEN:N−(2,4,6−トリメチルベンゼンンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、
TsCYDN:N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、
MIBK:メチルイソブチルケトン、
dppe:ジフェニルホスフィノエタン、
DIPEA:ジイソプロピルエチルアミン、

ただし、錯体中でのジアミンは、ジアミンの1個又は2個の水素原子が脱離したものを表す。
S/Cは、基質モル数/触媒モル数の値を表す。
【0043】
[実施例1]
N−[(1R,2R)−1,2−ジフェニル−2−(2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エチルアミノ)エチル]−4−メチルベンゼンスルホンアミド(N-((1R,2R)-1,2-diphenyl-2-(2-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)ethylamino)ethyl)-4-methylbenzenesulfonamide)の製造
次に示す反応により目的の化合物(B)を製造した。
【0044】
【化8】

【0045】
50mlシュレンク管に、(R,R)−TsDPEN 5.0g(13.65mmol)と、アルキルブロマイド(A)2.85g(2.07ml)(13.65mmol)とをDMSO 10mlに混合し、60℃で29時間反応させた。その後、反応混合物にジクロロメタン50mlと飽和NaHCO水溶液50mlを入れ攪拌した後、有機層を分液し50mlの飽和NaHCO水溶液でさらに2回洗浄した。ジクロロメタンを回収し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的である化合物(B)を4.94g(72%収率)得た。
【0046】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.43-1.80(m, 6H), 2.32(s, 3H), 2.42-2.70(m, 2H), 3.40-3.55(m, 2H),
3.70-3.85(m, 2H) ,3.77(d, 1H), 4.30(m, 1H), 4.45 (d, 1H), 6.93-7.38(m, 14H)
【0047】
[実施例2]
N−[(1R,2R)−2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル]−4−メチルベンゼンスルホンアミド(N-((1R,2R)-2-(2-hydroxyethylamino)-1,2-diphenylethyl)-4-methylbenzenesulfonamide)の製造
次に示す反応により目的のジアミン(C)を製造した。
【0048】
【化9】

【0049】
前記実施例1で得られた化合物(B)5.69gにエタノール135ml、及び1M HCl水溶液34.5mlを加え40℃で2時間反応させた。その後、反応混合物にNaHCOを3.45g加え、溶液を中和した後、水75mlとジエチルエーテル150mlを加え分液した。その後水50mlを加えエバポレーターでエーテルを除去することで、白色の結晶が析出した。氷冷した後、ろ過し、ろ物を水で洗浄後、減圧下、70℃にて乾燥することにより目的のジアミン(C)を4.33g(92%収率)得た。
【0050】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
2.31(s, 3H), 2.50-2.62(m, 2H), 3.58-3.75(m, 2H), 3.79(d, 1H),
4.40(d, 1H), 6.82-7.41(m, 14H)
【0051】
[実施例3]
N−[(1S,2S)−1,2−ジフェニル−2−(2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エチルアミノ)エチル]−メタンスルホンアミド(N-((1S,2S)-1,2-diphenyl-2-(2-(tetrahydro-2H-pyran-2-yloxy)ethylamino)ethyl)methanesulfonamide)の製造
次に示す反応により目的の化合物(D)を製造した。
【0052】
【化10】

【0053】
50mlシュレンク管に、(S,S)−MsDPEN 7.0g(24.1mmol)と、アルキルブロマイド(A)5.04g(3.64ml、24.1mmol)とを、DMSO17.6mlに混合し、60℃で30時間反応させた。その後、反応混合物にジクロロメタン50mlと飽和NaHCO水溶液50mlを入れ、攪拌した後、有機層を分液して50mlの飽和NaHCO水溶液でさらに2回洗浄した。ジクロロメタンを回収し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的である化合物(D)を5.06g(50%収率)得た。
【0054】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.42-1.90(m, 6H), 2.20(d, 3H), 2.50-2.75(m, 2H), 3.40-3.50(m, 2H),
3.70-3.83(m, 2H), 3.90 (d, 1H) , 4.45 (m, 1H), 4.50(d, 1H), 7.10-7.30(m, 10H)
【0055】
[実施例4]
N−[(1S,2S)−2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル]−メタンスルホンアミド(N-((1S,2S)-2-(2-hydroxyethylamino)-1,2-diphenylethyl)methanesulfonamide)の製造
次に示す反応により目的のジアミン(E)を製造した。
【0056】
【化11】

【0057】
前記実施例3で得られた化合物(D)5.06gにエタノール142ml、及び1M HCl水溶液38.7mlを加え、40℃で2時間反応させた。その後、反応混合物にNaHCOを3.63g加え溶液を中和した後、水147mlとジエチルエーテル200mlを加え分液した。エーテルで水層を2回抽出し得られたエーテル層を合わせ、NaSOにて乾燥させた後、エバポレーターで濃縮することにより、目的のジアミン(E)を3.62g(90%収率)得た。
【0058】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
2.40(s, 3H), 2.50-2.72(m, 2H), 3.60-3.75(m, 2H), 3.93(d, 1H),
4.57(d, 1H), 7.10-7.24(m, 10H)
【0059】
[実施例5]
(4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メタノール((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methanol)の製造
次に示す反応により目的の化合物(F)を製造した。
【0060】
【化12】

【0061】
500mL四つ口フラスコ内に、CoBr 1.73g(7.93mmol)、ZnI 8.4g(26.3mmol)、dppe 3.47g(8.8mmol)、ジクロロメタン370mlを仕込んだ後、窒素置換を行い、30℃で30分攪拌した。その後、イソプレン78ml(53.1g,780mmol)、プロパルギルアルコール41ml(39.3g,701mmol)、及びBuNBH 2.2g(8.53mmol)を投入し、30℃で7時間反応させ、その後ジクロロメタン溶液を回収し、160℃にて減圧蒸留し、目的のジエン混合物(F)を27.7g(32%収率)得た。この混合物中の目的のジエンのガスクロマトグラフィー(GC)による純度は約98%であった。
【0062】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.67(s, 3H), 2.55-2.70(m, 4H), 4.02 (s, 2H), 5.44(m, 1H), 5.68(m, 1H)
【0063】
[実施例6]
[RuCl(1−(ブロモメチル)−4−メチルベンゼン)]([RuCl(1-(bromomethyl)-4-methylbenzene)])の製造
次に示す反応により目的の錯体化合物(G)を製造した。
【0064】
【化13】

【0065】
前記実施例5で得られたジエン(F)4.75g(38.2mmol)と三塩化ルテニウム・三水和物2.0g(7.65mmol)、及びNaHCO 0.643g(7.65mmol)を2−メトキシエタノール40mlと水4mlに溶解させ、130℃にて1.5時間反応させた。その後エバポレーターで溶媒を留去した残渣に、濃臭化水素酸水溶液52mlと濃硫酸4mlを加え100℃で4時間撹拌した。反応後の溶液にジクロロメタンと水、2−メトキシエタノールを加えて攪拌、静置した後に析出した結晶をろ過することにより目的錯体(G)を1.9g(79%収率)得た。
【0066】
H−NMR(DMSO−d,300MHz)δ:
2.23(s, 3H), 4.40(s, 2H), 5.84(d, 2H), 6.15(d, 2H)
【0067】
[実施例7]
RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
次に示す反応により目的の錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を製造した。
【0068】
【化14】

【0069】
前記実施例6で得られたアレーンダイマー(G)1.6g(2.24mmol)と、実施例2で製造したジアミン(C)1.53g(3.73mmol)、トリエチルベンジルアンモニウムヨージド(EtBnNI)1.19g(3.73mmol)、ジクロロメタン52.8ml、及び水52.8mlを混合し、35℃で攪拌したところにKOH1.78g(26.9mmol)を加えて3時間反応させた。有機層が紫色の溶液になった。静置後、水層を除去し、水50mlを加えて攪拌した後、静置して分液を行った。この分液操作を3回行ったのち、0.1M HCl水溶液を65ml加え30分攪拌した。その後、NaHCOを0.034g加え溶液を中和した後、静置し、ジクロロメタン層のみを取り出し乾固させた。これをシリカゲルカラム(溶離液:CHCl/MeOH=20/1)にて精製することにより、目的錯体であるRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を1.1g(45%収率)得た(液体クロマトグラフィー(HPLC)による純度は約95%であった)。
【0070】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
2.25(s,3H), 2.52(s,3H), 3.13(m,1H), 3.60(m,1H), 3.80-4.00(m,4H),
4.48(d,J=15.0Hz,1H), 4.52(brs,1H), 4.95(d,J=15.0 Hz, 1H),
5.45(d,J=5.2Hz,1H), 5.75(d,J = 6.2 Hz,1H), 6.05(d,J=5.2 Hz,1H),
6.60 (d,J=6.9 Hz,2H), 6.65-6.70(m,4H) , 6.88(d,J = 8.0 Hz,2H),
7.08-7.18(m,4H), 7.23(d,J=8.0 Hz,2H)
HRMS(ESI):
3133RuSとして、
計算値:[M−Cl] 615.1258
実測値: 615.1258
【0071】
[実施例8]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=2000)
50mlシュレンク内に、前記実施例7で製造した錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)6.5mg(0.01mmol)、アセトフェノン2.32ml(2.40g,20mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物10mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率97.5%で96.3%eeの(R)−1−フェニルエタノール((R)-1-phenylethanol)が生成していた。
【0072】
[実施例9]
RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)の製造
次に示す反応により目的の錯体RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を製造した。
【0073】
【化15】

【0074】
実施例6で製造したアレーンダイマー(G)1.7g(2.38mmol)と、実施例4で製造したジアミン(E)1.325g(3.96mmol)、トリエチルベンジルアンモニウムヨージド(EtBnNI)1.26g(3.96mmol)、ジクロロメタン56ml、及び水56mlを混合し、35℃で攪拌しながらKOH1.78g(26.9mmol)を加えて3時間反応させた。有機層が紫色の溶液になった。静置後、水層を除去し、水50mlを加えて攪拌した後、静置して分液を行った。この分液操作を3回行ったのち、0.1M HCl水溶液を68ml加え30分攪拌した。その後、NaHCOを1.88g加え溶液を中和した後、静置し、ジクロロメタン層のみを取り出し乾固させた。これをシリカゲルカラム(溶離液:CHCl/MeOH=20/1)にて精製することにより、目的錯体である錯体RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を0.98g(43%収率)得た(HPLCでの純度は約95%であった)。
【0075】
H−NMR (CDCl,300MHz) δ:
2.42((s, 3H(CH of Ms)), (s, 3H(CH of tolyl)), 3.17-3.25(m, 1H),
3.32-3.40 (m, 1H), 4.00(d, 1H), 3.90-4.02(m, 2H), 4.10(d, 1H),
4.20-4.30(br, 1H), 4.62-4.75(br, 2H), 5.50(d, J=6.0Hz, 1H), 5.63(br, 1H),
5.75(br, 1H), 5.88(d, J=6.0Hz, 1H), 6.84-6.88(m, 2H),
6.98-7.03(m, 2H), 7.10-7.20(m, 6H)
HRMS(ESI):
2629RuSとして、
計算値:[M−Cl] 539.0942
実測値: 539.0946
【0076】
[実施例10]
RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=5000)
50mlシュレンク内に、前記実施例9で製造したRuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)2.2mg(0.0039mmol)、アセトフェノン2.24ml(2.31g,19.3mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物9.7mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率95.6%で94.7%eeの(S)−1−フェニルエタノール((S)-1-phenylethanol)が生成していた。
【0077】
[実施例11]
Ru((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造と、それを用いたアセトフェノンの水素移動反応(in situ法)
次に示す反応により錯体Ru((R,R)−O−HT−Tsdpen)を製造し、その場でそれを用いてアセトフェノンの水素移動反応(in situ法)を行った。
【0078】
【化16】

【0079】
実施例6で製造したアレーンダイマー(G)18.0mg(0.025mmol)と、実施例2で製造したジアミン(C)17.2mg(0.042mmol)、トリエチルベンジルアンモニウムヨージド(EtBnNI)13.4mg(0.042mmol)、ジクロロメタン0.6ml、及び水0.6mlを混合し、35℃で攪拌しながらKOH0.02g(0.3mmol)を加えて6時間反応させた。有機層が紫色の溶液になった。反応液を静置し、有機層から触媒比がS/C=2000となるように、36μlの反応液を抜き取り15mlシュレンク管に加え、アセトフェノン0.58ml(0.6g,5.0mmol)とギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率96.5%で96.2%eeの(R)−1−フェニルエタノール((R)-1-phenylethanol)が生成していた。
【0080】
[実施例12]
N−[(1R,2R)−2−(2−メルカプトエチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル]−4−メチルベンゼンスルホンアミド(N-((1R,2R)-2-(2-mercaptoethylamino)-1,2-diphenylethyl)-4-methylbenzenesulfonamide)の製造
次に示す反応により目的のメルカプトジアミン(H)を製造した。
【0081】
【化17】

【0082】
50mlガラス製オートクレーブ管に、(R,R)−TsDPEN5.0g(13.6mmol)と、エチレンスルフィド0.758g(0.75ml)(13.6mmol)、及びトルエン25mlを混合し、120℃で48時間反応させた。その後、トルエンを回収し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的であるメルカプトジアミン(H)を3.2g(55%収率)得た。
【0083】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
0.58(br, 2H), 1.94(s, 3H), 2.10-2.33(m, 4H), 3.53(d, 1H), 4.59(d, 1H),
6.36(br, 1H), 6.69(d, 2H), 6.79(m, 8H), 6.93-7.00(m, 8H), 7.64(d, 2H)
【0084】
[実施例13]
錯体RuCl((R,R)−S−HT−Tsdpen)の製造
次に示す反応により目的の錯体RuCl((R,R)−S−HT−Tsdpen)を製造した。
【0085】
【化18】

【0086】
実施例6で製造したアレーンダイマー(G)0.1g(0.234mmol)と、実施例12で製造したメルカプトジアミン(H)0.1g(0.14mmol)、DIPEA(Hunig's Base)0.121g(163μl、0.936mmol)、及びジクロロメタン2mlを混合し、45℃で反応させた。その後、水を加えて攪拌した後に静置し、水層を抜き出す操作を3回行い、有機層を乾固することにより目的の錯体であるRuCl((R,R)−S−HT−Tsdpen)を含む固体状の混合物を得た。
HRMS(ESI):
3133RuSとして、
計算値:[M−Cl] 631.1028
実測値: 631.1012
【0087】
[実施例14]
錯体RuCl((R,R)−S−HT−Tsdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応
アセトフェノンの水素移動反応を、S/C=600でギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物中、60℃で行った。16時間反応させた後GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率67.0%で77.9%eeの(R)−1−フェニルエタノール((R)-1-phenylethanol)が生成していた。
【0088】
[実施例15]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いたプロピオフェノンを基質とする不斉水素移動反応
15mlシュレンク内に、RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.3mg(0.005mmol)、プロピオフェノン0.67ml(0.67g,5.0mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ転化率99.7%で93.7%eeの(R)−1−フェニルプロパン−1−オール((R)- 1-phenylpropan-1-ol)が生成していた。
【0089】
[実施例16]
錯体RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を用いたプロピオフェノンを基質とする不斉水素移動反応
15mlシュレンク内に、RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)2.9mg(0.005mmol)、プロピオフェノン0.67ml(0.67g,5.0mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ転化率95.9%で92.1%eeの(S)−1−フェニルプロパン−1−オール((S)- 1-phenylpropan-1-ol)が生成していた。
【0090】
[参考例1]
公知の錯体RuCl((R,R)−Tsdpen)(mesitylene)を用いたプロピオフェノンを基質とする不斉水素移動反応
15mlシュレンク内に、RuCl((R,R)−Tsdpen)(mesitylene)6.2mg(0.01mmol)、プロピオフェノン0.67ml(0.67g,5.0mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて24時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ転化率52.3%で93.0%eeの(R)−1−フェニルプロパン−1−オール((R)- 1-phenylpropan-1-ol)が生成していた。
【0091】
[実施例17]
実施例15と同様にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)、又は実施例10と同様にRuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を用いて次の表1及び2に示すケトン類(1)〜(14)の不斉水素移動反応をそれぞれ行った。反応は、表に示す触媒比(S/C)、温度で、ギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物を水素源として基質が2mol/Lとなる量を用いて行い、所定の時間においてGCによる反応液の分析を行うことにより転化率と光学純度を決定した。
また、比較として参考例1と同様に公知の錯体であるRuCl((R,R)−Tsdpen)(mesitylene)を用いた反応結果も併せて各表の右欄に併記する。なお、これ以降に示す表中において、conv.は基質ケトンの転化率を表し、selc.は目的物への選択率を表し、%eeは光学純度を表し、S/Cは基質ケトンのモル数/触媒モル数の値を表す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
表1及び2の左欄は基質のケトン類を示し、その右の欄は本発明の錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いた場合の結果を示し、その右の欄は本発明の錯体RuCl((S,S)−O−HT−Msdpen)を用いた場合の結果を示し、最も右の欄は比較例として公知の錯体であるRuCl((R,R)−Tsdpen)(mesitylene)を用いた場合の結果を示す。
【0095】
このように、鎖状部にヘテロ原子が導入された本発明のルテニウム錯体は、非常に高い活性と選択性を示し、これまでの水素化触媒などでは効率的に還元できなかったケトン(9)〜(12)のような環状ケトンを還元して光学活性環状アルコールを製造したり、ケトン(7)のような水酸基を有するケトンを還元して光学活性ジオールを製造することができる。また、同様に塩基に不安定なためこれまでの水素化触媒などでは還元することが困難であった、ケトン(14)のようなハロゲン置換基を有するケトン(特にα位にハロゲン置換基を有するケトン)を水素化してハロゲン置換基を有する光学活性アルコールを製造することもでき、本発明記載のルテニウム錯体は極めて有用である。
【0096】
[実施例18]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いたベンジル(ジフェニルエタンジオン)を基質とする不斉水素移動反応(S/C=2000)
次の反応式によりベンジルを不斉還元した。
【0097】
【化19】

【0098】
50mlシュレンク内に、RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.5mg(0.005mmol)、ベンジル2.1g,10mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物5ml、DMF10mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて5時間反応させた。GC及びHPLCにより反応液の分析を行ったところ、転化率90.0%で((S,S)体:(R,R)体:meso体=88.1:0.9:11.0)のヒドロベンゾイン(hydrobenzoin)が生成していた。このときの(S,S)体と(R,R)体のエナンチオマー過剰率は98.0%eeである。
【0099】
[実施例19]
(E)−N−(3,4−ジヒドロナフタレン−1(2H)−イリデン)−1−フェニルメタナミン (E)-N-(3,4-dihydronaphthalen-1(2H)-ylidene)-1-phenylmethanamineの不斉水素移動型反応
50mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を3.3mg(0.005mmol)(S/C=300)と標記のイミン0.35g(1.5mmol)、ジクロロメタン3ml、ギ酸−トリエチルアミン(5:2)共沸混合物 0.75mlを混合し30℃で24時間反応させた。GC分析にて収率、光学純度の測定を行った結果、目的のアミンである光学活性N−ベンジル−1−(1,2,3,4−テトラヒドロナフチル)アミンを収率70.0%、光学純度70%eeで得た。
【0100】
[実施例20]
4−クロマノンの不斉水素化
50mlオートクレーブにRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.3mg(0.005mmol,S/C=1000)を加え、窒素置換した。続いて、4−クロマノン0.74g(5.0mmol)、メタノール4.4mlを加え、水素を3.0MPaまで加圧後、60℃で18時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率98.6%、光学純度99.1%eeで(R)−4−クロマノールを得た。
【0101】
[実施例21]
α−テトラロンの不斉水素化
50mlオートクレーブにRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.3mg(0.005mmol,S/C=1000)を加え、窒素置換した。続いて、α−テトラロン0.73g(5.0mmol)、メタノール4.4mlを加え、水素を3.0MPaまで加圧後、60℃で20時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率52.0%、光学純度99.3%eeで(R)−1−テトラロールを得た。
【0102】
[実施例22]
1−インダノンの不斉水素化
50mlオートクレーブにRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.3mg(0.005mmol,S/C=1000)を加え、窒素置換した。続いて、1−インダノン0.66g(5.0mmol)、メタノール4.4mlを加え、水素を3.0MPaまで加圧後、60℃で20時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率58.6%、光学純度97.8%eeで(R)−1−インダノールを得た。
【0103】
[実施例23]
RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いた安息香酸メチルの水素化
50mlオートクレーブにRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)13.5mg(0.020mmol,S/C=50)を加え、窒素置換した。続いて、テトラヒドロフラン1.8ml、安息香酸メチル0.14g(1.0mmol)、カリウムtert-ブトキシドの1.0Mテトラヒドロフラン溶液0.2ml(0.20mmol)を加え、水素を5.0MPaまで加圧後、60℃で15時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率90.4%、選択率78.9%でベンジルアルコールを得た。
【0104】
[参考例2]
今回新たに見出した、ルテニウムに配位する芳香族化合物(arene)部位とジアミン部分を連結する鎖状部分にヘテロ原子を導入した新規なルテニウム−ジアミン錯体におけるヘテロ原子の効果を調べるため、ヘテロ原子を有さず、鎖状部分が全て炭素原子である次のような錯体を別途合成して、その活性を比較することにした。
【0105】
【化20】

【0106】
前記した非特許文献5(J. Am. Chem. Soc. 127 (2005) p. 7318)に示されている製造方法を参考にして製造した。なお、この新たに製造した錯体を以降、RuCl(p−Tol−C−teth−Tsdpen)と表記する。
【0107】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.82-2.04 (m, 2H), 2.04-2.31 (m, 5H), 2.26(s, 3H), 2.53(s, 3H),
2.89-2.71(m, 2H), 3.10-3.16(m, 1H), 3.47-3.56(m, 1H),
3.80(dd, J=11.1, 12.1Hz, 1H), 3.99(d, J=11.1Hz, 1H), 4.77(m, 1H),
5.32(d, J=5.5Hz, 2H), 5.38(d, J=6.3Hz, 2H), 5.55(d, J=6.3Hz, 1H),
6.20(d, J=5.5Hz, 1H), 6.61(d, J=7.2Hz, 1H), 6.59-6.62 (m, 2H),
6.71-6.81 (m, 4H), 6.83-6.91 (m, 3H), 7.03-7.12 (m, 3H), 7.18(d, J=8.4Hz, 2H);
HRMS(ESI):
3235SRuとして、
計算値:[M−Cl] 613.1457
実測値: 613.1473
【0108】
[実施例24]
側鎖部分にヘテロ原子を持つ錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)と、側鎖部分が炭素原子のみで構成されている参考例2で製造された錯体RuCl(p−Tol−C4−teth−Tsdpen)の活性を調べるため、次の表で示すような触媒比においてアセトフェノンの水素移動反応を行った。反応は、次の表3に示す触媒比、60℃で、ギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物を水素源として基質が2mol/Lとなる量を用いて行い、所定の時間においてGCによる反応液の分析を行うことにより転化率と光学純度を決定した。
結果を次の表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
このように、側鎖部分にヘテロ原子を持つ錯体RuCl(O−HT−Tsdpen)と側鎖部分が炭素原子のみで構成されている錯体RuCl(p−Tol−C−teth−Tsdpen)の錯体は、アセトフェノンの還元反応において、ともに従来の水素移動型錯体に比べて高い活性を示し、S/C=5000まででの反応では両錯体とも同様な良好な結果を与えた。しかし、S/C=10000まで触媒比を高くしたところ、本発明のRuCl(O−HT−Tsdpen)錯体では反応はほぼ完結したが、RuCl(p−Tol−C−teth−Tsdpen)錯体では転化率が40%台に止まり、触媒の失活により反応が停止してしまった。さらにS/C=15000にしたところ、本発明のRuCl(O−HT−Tsdpen)錯体では反応は同様にほぼ完結したが、RuCl(p−Tol−C−teth−Tsdpen)錯体では反応がほとんど進行しなかった。このことより、アレーン上の骨格やアレーンとジアミン部位を繋ぐ側鎖の長さが同じであり、側鎖の元素が酸素原子と炭素原子で異なるこれら2つの錯体を比べることにより、側鎖の原子に酸素原子を有する本発明の錯体RuCl(O−HT−Tsdpen)のほうが微量で触媒活性が極めて高いことが分かった。
【0111】
[実施例25]
RuBF((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.52g(0.8mmol,1eq)とAgBF0.187g(0.96mmol,1.2eq)、ジクロロメタン15ml、メタノール15mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRuBF((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.55g(98%収率)で得た。
【0112】
H−NMR(CDOD,300MHz)δ:
2.12(s,3H), 2.46(s,3H), 3.35-3.60(m,4H), 3.60-3.80(m,1H), 3.95-4.10(m,3H),
4.70-4.80(m,1H), 5.84(d,1H), 5.89(d,1H), 5.99(d,1H), 6.20(d,1H),
6.46-7.50(m,14H)
HRMS(ESI):
3133BFRuSとして、
計算値:[M−BF 615.1250
実測値: 615.1271
【0113】
[実施例26]
Ru(OTf)((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.52g(0.8mmol,1eq)とAgOTf0.247g(0.96mmol,1.2eq)、ジクロロメタン15ml、メタノール15mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRuOTf((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.59g(96%収率)で得た。
【0114】
H−NMR(CDOD,300MHz)δ:
2.13(s,3H), 2.47(s,3H), 3.35-3.60(m,4H), 3.60-3.80(m,1H), 3.95-4.10(m,3H),
4.70-4.80(m,1H), 5.84(d, 1H), 5.89(d,1H), 5.99(d,1H), 6.20(d,1H),
6.46-7.50(m,14H)
HRMS(ESI):
3233RuSとして、
計算値:positive側 [M−TfO] 615.1250
negative側 [TfO] 148.9526
実測値:positive側 [M−TfO] 615.1258
negative側 [TfO] 148.9521
【0115】
[実施例27]
Ru(SbF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.52g(0.8mmol,1eq)とAgSbF0.330g(0.96mmol,1.2eq)、ジクロロメタン15ml、メタノール15mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRuSbF((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.65g(95%収率)で得た。
【0116】
H−NMR(CDOD,300MHz)δ:
2.16(s,3H), 2.42(s,3H), 3.30-3.60(m,4H), 3.60-3.80(m,1H), 4.00-4.15(m,3H),
4.70-4.80(m,1H), 5.83(d, 1H), 5.91(d,1H), 5.97(d,1H), 6.19(d,1H),
6.48-7.25(m,14H)
HRMS(ESI):
3133RuSSbとして、
計算値:[M−SbF 615.1250
実測値: 615.1251
【0117】
[実施例28]
Ru(CFCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.52g(0.8mmol,1eq)とCFCOOAg0.212g(0.96mmol,1.2eq)、ジクロロメタン15ml、メタノール15mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRu(CFCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.58g(99%収率)で得た。
HRMS(ESI):
3333RuSとして、
計算値:[M−CFCOO] 615.1250
実測値: 615.1243
【0118】
[実施例29]
Ru(CHCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.52g(0.8mmol,1eq)とCHCOOAg0.16g(0.96mmol,1.2eq)、ジクロロメタン15ml、メタノール15mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRu(CHCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.50g(92%収率)で得た。
【0119】
H−NMR(d−DMSO,300MHz)δ:
1.89(s,3H), 2.18(s,3H), 2.26(s,3H), 3.00-4.00(m,4H), 3.85(d,1H), 4.03(t,1H),
4.62(d,1H), 4.85(d,1H), 4.03(t,1H), 5.53(m,2H), 5.97(m,2H),
6.48-7.60(m,14H), 10.07(m,1H),
HRMS(ESI):
3336RuSとして、
計算値:[M−CHCOO] 615.1250
実測値: 615.1240
【0120】
[実施例30]
Ru(B(C)((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
150mlシュレンク管にRuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)0.40g(0.61mmol,1eq)とLiB(C 0.5g(0.74mmol,1.2eq)、ジクロロメタン11ml、メタノール11mlを混合し室温にて1時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を乾固させることにより目的錯体であるRu(B(C)((R,R)−O−HT−Tsdpenを0.74g(93%収率)で得た。
【0121】
H−NMR(CDOD,300MHz)δ:
2.15(s,3H), 2.39(s,3H), 3.10-3.23(m,2H), 3.40-3.58(m,2H), 3.70-4.00(m,2H),
3.90(t,1H), 4.15(d,1H), 4.62(m,1H), 5.60-5.95(m,4H),6.52-7.25(m,14H)
19F−NMR(CDOD)δ:
-168.8, -164.9, -133.0
HRMS(ESI):
5533BF20RuSとして、
計算値:positive側 [M−B(C 615.1250
negative側 [B(C 678.9776
実測値:positive側 [M−B(C 615.1254
negative側 [B(C 678.9774
【0122】
[実施例31]
錯体Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
15mlシュレンク内に、前記実施例25で製造した錯体Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)3.5mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml(0.6g,5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて5時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率96.5%で96.2%eeの(R)−1−フェニルエタノール((R)-1-phenylethanol)が生成していた。
【0123】
[実施例32]
錯体Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いた2−メチルキノリンを基質とする不斉水素化反応
100mlオートクレーブ内に、Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)17.5mg(0.025mmol)を加え窒素置換した。続いて、2−メチルキノリン0.34ml(0.36g,2.5mmol)、HFIP(ヘキサフルオロ−2−プロパノール)1.4mlを加え水素を5.0MPaまで加圧後、40℃で19時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率93.8%、光学純度86%eeで還元体である1,2,3,4−テトラヒドロキナルジンが生成していた。
【0124】
[実施例33]
【0125】
【化21】

【0126】
実施例32と同様にして、触媒としてRu(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)、Ru(OTf)((R,R)−O−HT−Tsdpen)、Ru(SbF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)、Ru(CFCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpen)、Ru(CHCOO)((R,R)−O−HT−Tsdpen)又はRu(B(C)((R,R)−O−HT−Tsdpen)をそれぞれ用いて、溶媒としてHFIP又はメタノールをそれぞれ用い、19時間において2−メチルキノリンを基質とする不斉水素化反応を行った。結果を次の表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
[実施例34]
錯体Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)を用いた2−メチルキノキサリンを基質とする不斉水素化反応
100mlオートクレーブ内に、Ru(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)17.5mg(0.025mmol)加え窒素置換した。続いて、2−メチルキノキサリン0.32ml(0.36g,2.5mmol)、HFIP(ヘキサフルオロ−2−プロパノール)1.4mlを加え水素を5.0MPaまで加圧後、50℃で20時間攪拌した。反応液をGC分析した結果、転化率68.5%、光学純度48%eeで還元体である2−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノキサリンが生成していた。
【0129】
[実施例35]
【0130】
【化22】

【0131】
実施例34と同様にして、触媒としてRu(BF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)、Ru(OTf)((R,R)−O−HT−Tsdpen)又はRu(SbF)((R,R)−O−HT−Tsdpen)をそれぞれ用いて、HFIP溶媒下、20時間において2−メチルキノキサリンを基質とする不斉水素化反応を行った。結果を次の表5に示す。
【0132】
【表5】

【0133】
[実施例36]
2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エタノール及び2−((5−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エタノール(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethanol及び2-((5-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethanol)の製造
【0134】
【化23】

【0135】
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン7.74g(0.019mol)、臭化コバルト4.05g(0.019mol)、ヨウ化亜鉛11.82g(0.037mol)、亜鉛2.42g(0.037mol)をTHF460mlに溶解し、70℃で15分攪拌した。室温まで冷却し、イソプレン74.89g(1.10mol)を加えた後、水浴下、アルキンアルコール92.70g(0.93mol)をゆっくりと滴下した。35℃で1時間攪拌した後、溶媒を減圧留去し得られた残渣にトルエン460ml、水460mlを加えた(攪拌10分、静置10分)。窒素雰囲気下、セライトろ過後、得られた溶液を分液した。溶媒を減圧留去し得られた粗生成物をクライゼン蒸留(101〜113℃/3torr)で精製することにより106.6gのジエンアルコールを無色油状物質として得た。収率68.5%(1,4type/1,5type=91/9)。
【0136】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.68 (s, 3H) , 2.31 (brs, 1H), 2.64 (brs, 4H), 3.48 - 3.52 (m, 2H),
3.70 - 3.75 (m, 2H), 3.93 (s, 2H), 5.43 - 5.45 (m, 1H), 5.70 - 5.71 (m, 1H);
HRMS(ESI):
1016として、
計算値:[M+H] 167.1430
実測値: 167.1432
【0137】
[実施例37]
2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチル 4−メチルベンゼンスルホナート及び2−((5−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチル 4−メチルベンゼンスルホナート(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethyl 4-methylbenzenesulfonate及び2-((5-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethyl 4-methylbenzenesulfonate)の製造
【0138】
【化24】

【0139】
実施例36で得られたジエンアルコール100.00g(0.59mol)、トリエチルアミン90.29g(0.89mol)、1−メチルイミダゾール73.20g(0.89mol)、をトルエン400mlに溶解した。氷浴下、p−トルエンスルホニルクロリド130.33g(0.68mol)のトルエン溶液(400ml)をゆっくりと滴下した後、室温で1時間攪拌した。水を加え分液し、得られた有機層を15%硫酸、水、飽和重曹水の順に洗浄した。溶媒を減圧留去し、目的とするトシレート188.01gを無色油状物質として得た。収率98.1%(1,4type/1,5type=91/9)。
【0140】
H−NMR(CDCl,300 MHz)δ:
1.67 (s, 3H), 2.44 (s, 3H), 2.58 (brs, 4H), 3.58 - 3.55 (m, 2H), 3.84 (s, 2H),
4.18 - 4.14 (m, 2H), 5.41 - 5.40 (m, 1H), 5.64 - 5.63 (m, 1H),
7.33 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.80 (d, J = 8.3 Hz, 1H);
HRMS(ESI):
1722Sとして、
計算値:[M+H] 323.1312
実測値: 323.1325
【0141】
[実施例38]
4−メチル−N−((1R,2R)−2−(2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)ベンゼンスルホンアミド塩酸塩、及び4−メチル−N−((1R,2R)−2−(2−((5−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)ベンゼンスルホンアミド塩酸塩(4-methyl-N-((1R,2R)-2-(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethylamino)-1,2-diphenylethyl)benzenesulfonamide hydrochloride及び4-methyl-N-((1R,2R)-2-(2-((5-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethylamino)-1,2-diphenylethyl)benzenesulfonamide hydrochloride)の製造
【0142】
【化25】

【0143】
実施例37で得られたトシレート2.2g(6.9mmol)をトルエン10mlに溶解し、DIPEA0.90g(6.9mmol)、(R,R)−TsDPEN2.53g(6.9mmol)を加え、135℃で27時間攪拌した。水を加えて分液し、得られた有機層を水洗後、20%塩酸を加えた。室温にて1時間攪拌後、氷冷下にて析出した結晶をろ取し、目的とする表題化合物のジアミン塩酸塩3.14gを白色固体として得た。収率82.3%。
【0144】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.43-1.80(m, 6H), 2.32(s, 3H), 2.42-2.70(m, 2H), 3.40-3.55(m, 2H),
3.70-3.85(m, 2H) ,3.77(d, 1H), 4.30(m, 1H), 4.45 (d, 1H), 6.93-7.38(m, 14H);
HRMS(ESI):
3137Sとして、
計算値:[M−Cl] 517.2519
実測値: 517.2523
【0145】
[実施例39]
RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)の製造
【0146】
【化26】

【0147】
実施例38で製造したジアミン塩酸塩25.15g(45.20mmol)、を3−メトキシプロパノール375ml、水75mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物10.74g(41.09mmol)、炭酸水素ナトリウム3.45g(41.09mmol)を加え、120℃で45分攪拌した。3−メトキシプロパノールを回収後、MIBK425ml、トリエチルアミン16.63g(164.4mmol)を加え、60℃で1時間攪拌した。0.3M塩酸で洗浄後、ヘプタンを加えて晶析を行った。析出した結晶をろ取し、表題化合物のルテニウムモノマー22.26gを得た。収率83.3%。
【0148】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:
2.26 (s, 3H), 2.52 (s, 3H), 3.14 - 3.10 (m, 1H), 3.60 - 3.56 (m, 1H),
3.98 - 3.91 (m, 4H), 4.58 - 4.45 (m, 2H), 4.96 - 4.92 (m, 1H),
5.46 (brd, J = 3.6 Hz, 1H), 5.62 (d, J = 6.3 Hz, 1H),
5.75 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 6.05 (brd, J = 3.6 Hz, 1H),
6.60 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 6.75 - 6.69 (m, 4H),7.21 (d, J = 8.0 Hz, 2H),
6.84 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.17 - 7.08 (m, 4H);
HRMS(ESI):
3134ClNRuSとして、
計算値:[M+H] 651.1057
実測値: 651.1008
【0149】
[実施例40]
RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)−dimerの製造
【0150】
【化27】

【0151】
実施例38で製造したジアミン塩酸塩0.50g(0.904mmol)、を2−メトキシプロパノール7.5ml、水1.5mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物0.23g(0.86mmol)、炭酸水素ナトリウム0.072g(0.86mmol)を加え、120℃で90分攪拌した。2−メトキシプロパノールを回収後、ジエチルエーテル15mlを加え、析出した結晶をろ取することにより、目的とするRu錯体0.60gを得た。収率96.5%。
【0152】
H−NMR(DMSO−d,300MHz)δ:
2.10-2.15 (m, 3H), 2.20 (s, 3H), 2.70-3.00 (m, 2H), 3.60-3.90 (m, 2H),
4.35 - 4.42 (m, 2H), 4.70 (m,1H), 4.85 (m, 1H), 5.75-6.10 (m, 4H),
6.88-7.35 (m, 14H), 8.90 (brd, 1H), 8.95-9.15 (m, 2H), 10.00 (brd, 1H);
【0153】
[実施例41]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)−dimerを用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
50mlシュレンク内に、前記実施例40で製造した錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tsdpen)−dimer3.6mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml(0.60g,5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて5時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率97.5%で96.2%eeの(R)−1−フェニルエタノールが生成していた。
【0154】
[実施例42]
N−((1R,2R)−2−(2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)−2−(トリフルオロメチル)ベンゼンスルホンアミド塩酸塩(N-((1R,2R)-2-(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethylamino)-1,2-diphenylethyl)-2-(trifluoromethyl)benzenesulfonamide hydrochloride)の製造
【0155】
【化28】

【0156】
実施例37で得られたトシレート8.07g(26.1mmol)をトルエン31.6mlに溶解し、DIPEA3.38g(26.2mmol)、(R,R)−o−TFTsDPEN10.00g(23.8mmol)、ヨウ化カリウム4.34g(26.2mmol)を加え、135℃で6時間攪拌した。反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製する事により、ジアミンJを10.1g得た。収率74.5%その後、ジアミンJ10.1g(17.7mmol)に対して、ジクロロメタン110ml、HClメタノール溶液(1N)65.3mlを加えて、0.5時間攪拌した後、溶媒を除去することにより目的とするジアミン塩酸塩Kを11.1g得た。収率93.9%。
【0157】
H−NMR(DMSO−d,300MHz)δ:
1.62(m, 3H), 2.60(s, 3H), 2.78-3.12(m, 2H), 3.52-3.70(m, 2H), 3.86(s, 2H) ,
4.75(m, 1H), 4.92(m, 1H), 5.40(m, 1H), 5.68(m, 1H), 6.75-7.35(m, 10H),
7.40(t, 1H), 7.50(t, 1H), 7.60(d, 1H), 7.75(d, 1H), 8.90(m, 1H),
8.98(brd, 1H), 9.92(brd, 1H);
19F−NMR(DMSO−d)δ:
-57.16
HRMS(ESI):
3133S・HClとして、
計算値:[M−Cl] 571.2237
実測値: 571.2244
【0158】
[実施例43]
RuCl((R,R)−O−HT−o−TFTsdpen)の製造
【0159】
【化29】

【0160】
実施例42で製造したジアミン塩酸塩5.0g(8.25mmol)、を3−メトキシプロパノール66ml、水22mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物1.79g(6.86mmol)、炭酸水素ナトリウム0.58g(6.86mmol)を加え、120℃で2時間攪拌した。3−メトキシプロパノールを50ml回収後、MIBK75ml、トリエチルアミン2.78g(27.45mmol)を加え、60℃で1時間攪拌した。0.3M塩酸を加え分液し、得られた有機層を2回水洗した。溶媒を約60ml回収して、ヘプタン85mlを加え晶析を行った。析出した結晶をろ取し、目的とするRu錯体4.60gを得た。収率95.2%。
【0161】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
2.50 (s, 3H), 3.15 - 3.20 (m, 1H), 3.70 - 3.82 (m, 2H), 4.00 (m, 2H),
4.15 (m, 1H), 4.40 (m, 1H), 4.80 (m, 1H), 5.10 (d, 1H), 5.45 (d, 1H),
5.62 (d, 1H), 5.70 (d, 1H), 6.38 (d, 1H), 6.50-7.50(m, 14H);
19F−NMR(DMSO−d)δ:
-58.45
HRMS(ESI):
3130ClNRuSとして、
計算値:[M+H] 705.7034
実測値: 705.0758
【0162】
[実施例44]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−o−TFTsdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
50mlシュレンク内に、前記実施例43で製造した錯体RuCl((R,R)−O−HT−o−TFTsdpen)3.5mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml0.60g(5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて5時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率98.9%で97.5%eeの(R)−1−フェニルエタノールが生成していた。
【0163】
[実施例45]
2,4,6−トリイソプロピル−N−((1S,2S)−2−(2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)ベンゼンスルホンアミド(2,4,6-triisopropyl-N-((1S,2S)-2-(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)etheylamino)-1,2-diphenylethy)benzenesulfonamide)の製造
【0164】
【化30】

【0165】
前記実施例37で得られたトシレート6.03g(18.82mmol)をトルエン25mlに溶解し、DIPEA2.43g(18.82mmol)、(S,S)−TIPPsDPEN9.00g(18.80mmol)を加え、135℃で13時間攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/酢酸エチル=20/1→15/1)で精製することにより表題化合物10.53gを無色油状物質として得た。収率89.0%。
【0166】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.06(d, J = 6.9Hz, 3H), 1.21(d, J = 6.9Hz, 3H), 1.87(brs, 1H), 1.68(s, 3H),
2.60(brs, 4H), 2.71-2.48(m, 2H), 3.52-3.34(m, 2H), 3.55(d, J = 8.9Hz, 1H),
3.77(s, 2H), 3.95(septet, J = 6.7Hz, 3H), 4.40(d, J = 8.9Hz,1H),
5.44(m, 1H), 5.64(m, 1H),6.52(brs, 1H), 6.74-7.28(m, 12H);
HRMS(ESI):
3953Sとして、
計算値:[M+H] 629.3771
実測値: 629.3771
【0167】
[実施例46]
RuCl((S,S)−O−HT−TIPPsdpen)の製造
【0168】
【化31】

【0169】
前記実施例45で得られたスルホンアミド2.02g(3.21mmol)をメタノール8mlに溶解した。氷冷下で1M塩酸のメタノール溶液0.67g(6.42mmol)を加え、室温にて20分間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し得られた残渣を3−メトキシプロパノール30ml、水18mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物0.72g(2.75mmol)を加え、120℃で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣にIPA35ml、トリエチルアミン0.72g(7.15mmol)を加え、60℃で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=97/3→20/1)で精製することにより目的とするRu錯体1.28gを得た。収率52.3%。
【0170】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:
1.0-1.2 (m, 18H), 1.70(m, 1H), 2.41(s, 3H), 2.60(m, 1H), 3.05(m, 1H),
3.35(m, 1H),3.68(m, 1H), 3.75(t, 1H), 3.85(m, 2H), 4.18(d, 1H),
4.25(d, 1H), 4.85(brs, 1H), 5.02(d, 1H), 5.30(d, 1H), 5.48(d, 1H),
5.63(d, 1H), 6.35(d, 1H), 6.40-6.70(m, 10H), 6.90-7.05(m, 3H);
HRMS(ESI):
3950SClRuとして、
計算値:[M+H] 763.2269
実測値: 763.2257
【0171】
[実施例47]
錯体RuCl((S,S)−O−HT−TIPPsdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
50mlシュレンク内に、前記実施例46で製造した錯体RuCl((S,S)−O−HT−TIPPsDPEN)2.8mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml(0.60g,5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて10時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率38.5%で95.8%eeの(S)−1−フェニルエタノールが生成していた。
【0172】
[実施例48]
4−(4、5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)ブタン−1−オールの製造
【0173】
【化32】

【0174】
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン800mg(2.00mmol)、臭化コバルト437mg(2.00mmol)、ヨウ化亜鉛1.28g(4.00mmol)、亜鉛260mg(4.00mmol)をTHF40mLに溶解し、70℃で15分攪拌した。室温まで冷却し、2,3−ジメチル―1,3−ブタジエン9.86g(120mmol)を加えた後、水浴下、5−ヘキシン−1−オール9.8g(100mmol)をゆっくりと滴下した。35℃で1時間攪拌した後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製することにより表題化合物のアルコール11.5gを無色油状物質として得た。収率63.4%。
【0175】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.28(bs, 1H), 1.79-1.46(m, 4H), 1.63(s, 6H), 1.98-2.11(m, 3H),
2.48-2.61(m, 2H), 3.63 -3.67(m, 2H), 5.41-5.56(m, 1H);
【0176】
[実施例49]
4−(4、5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)ブチル 4−メチルベンゼンスルホナートの製造
【0177】
【化33】

【0178】
4−(4、5−ジメチルシクロ−1,4−ジエン)ブタン―1−オール11.0g(61.0mmol)、トリエチルアミン7.40g(73.08mmol)、1−メチルイミダゾール6.0g(73.0mmol)をトルエン55mLに溶解した。氷浴下、p−トルエンスルホニルクロリド13.9g(73.1mmol)のトルエン溶液40mlをゆっくりと滴下した後、室温で1時間攪拌した。水道水を加えて分液し、得られた有機層を2M塩酸及び水道水で洗浄した。溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=20/1→4/1)で精製することにより表題化合物のトシレート16.3gを得た。収率80%。
【0179】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.60-1.41(m, 2H), 1.67(s, 6H), 1.79-1.74(m, 3H), 1.89-2.05(m, 3H),
2.45(s, 3H ), 2.53 (brs, 2H), 4.00-4.05(m, 2H), 5.28-5.40(m, 1H),
7.33-7.36(d, 2H ), 7.77-7.80(d, 2H );
【0180】
[実施例50]
N−((1R,2R)−2−(2−((4,5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)メタンスルホンアミド(N-((1R,2R)-2-(2-((4,5-dimethylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethylamino)-1,2-diphenylethyl)methanesulfonamide)の製造
【0181】
【化34】

【0182】
実施例49で得られたトシレート8.00g(23.78mmol)をトルエン35mlに溶解し、DIPEA3.07g(23.78mmol)、(R,R)−MsDPEN6.90g(23.78mmol)を加え、135℃で12.5時間攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製することにより表題化合物9.83gを無色固体として得た。収率90.9%
【0183】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
1.65(s, 3H), 1.68(s, 3H), 1.89-1.75(m, 1H), 2.33(s, 3H),
2.46-2.54(m, 3H), 2.60-2.71(m, 3H), 3.35-3.48(m, 2H), 3.77(s, 2H),
3.81(d, J=7.8Hz, 1H), 4.47(d, J=7.8Hz,1H), 5.60(m, 1H),
6.21(brs, 1H), 7.10-7.27(m, 10H);
HRMS(ESI):
2635Sとして、
計算値:[M+H] 455.2363
実測値: 455.2358
【0184】
[実施例51]
RuCl((R,R)−xyl−O−HT−Msdpen)の製造
【0185】
【化35】

【0186】
実施例50で得られたジアミン化合物2.00g(4.40mmol)をジクロロメタン8mlに溶解した。氷冷下で1M塩酸のメタノール溶液0.92g(8.80mmol)を加え、室温にて20分間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し得られた残渣を3−メトキシプロパノール30ml、水18mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物0.97g(3.71mmol)を加え、120℃で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣にIPA35ml、トリエチルアミン0.80g(7.87mmol)を加え、60℃で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=97/3→20/1)で精製することにより目的とするRu錯体1.48gを得た。収率57.2%。
【0187】
H−NMR(CDCl,300MHz)δ:
2.27 (s, 3H), 2.30 (s, 3H), 2.39 (s, 3H), 3.15-3.35 (m, 2H),
3.75-3.85 (m, 2H), 4.00-4.10 (m, 2H), 3.95-4.05 (brs, 1H), 4.42 (d, 1H),
4.85 (d, 1H), 5.50 (d, 1H), 5.76 (s, 1H), 5.85 (d, 1H), 6.82-7.22 (m, 10H);
HRMS(ESI):
2632SClRuとして、
計算値:[M+H] 589.0860
実測値: 589.0863
【0188】
[実施例52]
錯体RuCl((R,R)−xyl−O−HT−Msdpen)を用いたアセトフェノンを基質とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
50mlシュレンク内に、前記実施例51で製造した錯体RuCl((R,R)−xyl−O−HT−Msdpen)2.8mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml(0.60g,5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて10時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率95.4%で95.9%eeの(R)−1−フェニルエタノールが生成していた。
【0189】
[実施例53]
4−メチル−N−((1R,2R)−2−(2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)シクロヘキシル)ベンゼンスルホンアミド塩酸塩(4-methyl-N-((1R,2R)-2-(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)ethylamino)cyclohexyl)benzenesulfonamide hydrochloride)の製造
【0190】
【化36】

【0191】
実施例37で得られたトシレート5.06g(16.4mmol)をトルエン26mlに溶解し、DIPEA2.12g(16.4mmol)、(R,R)−TsCYDN4.00g(14.9mmol)、ヨウ化カリウム2.72g(16.4mmol)を加え、135℃で20時間攪拌した。反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製する事により、ジアミンLを2.92g得た。収率46.9%。その後、ジアミンL2.8g(6.69mmol)に対して、ジクロロメタン42ml、HClメタノール溶液(1N)24.6mlを加えて、0.5時間攪拌した後、溶媒を除去することにより目的とするジアミン塩酸塩Mを2.9g得た。収率94.7%。
【0192】
H−NMR(DMSO−d,300MHz)δ:
0.95-1.30(m, 4H), 1.50(m, 2H), 1.63(s, 3H), 2.10(m, 2H), 2.40(s, 3H),
2.60(m, 2H), 2.95(brd, 1H), 3.18(m, 2H), 3.60(m, 2H), 3.90(s, 2H),
5.40(m, 1H), 5.70(m, 1H), 7.40(d, 1H), 7.75(d, 1H), 8.15(d, 1H),
8.23(brd, 1H), 9.10(brd, 1H)
HRMS(ESI):
2334Sとして、
計算値:[M−Cl] 419.2363
実測値: 419.2365
【0193】
[実施例54]
RuCl((R,R)−O−HT−Tscydn)の製造
【0194】
【化37】

【0195】
実施例53で製造したジアミン塩酸塩0.5g(1.1mmol)を3−メトキシプロパノール15ml、水3mlに溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物0.25g(0.96mmol)、炭酸水素ナトリウム0.08g(0.96mmol)を加え、120℃で1時間攪拌した。3−メトキシプロパノールを12ml回収後、MIBK13ml、トリエチルアミン0.39g(3.82mmol)を加え、60℃で1時間攪拌した。0.3M塩酸を加え分液し、得られた有機層を2回水洗した。溶媒を約10ml回収して、ヘプタン15mlを加え晶析を行った。析出した結晶をろ取し、目的とするRu錯体0.24gを得た。収率45.5%。
【0196】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:
0.65-1.05 (m, 4H), 1.90 (m, 1H), 1.15 (m, 1H), 2.08 (m, 1H), 2.70 (m, 1H),
2.75 (s, 1H), 2.77 (s, 1H), 2.60 (m, 1H), 3.60-3.70 (m, 2H), 3.80 (m, 1H),
4.00 (m, 1H), 4.25 (m, 1H), 4.35 (d, 1H), 4.92 (d, 1H), 5.25 (d, 1H),
5.50 (d, 1H), 5.67 (d, 1H),5.83 (d, 1H), 7.20 (d, 1H), 7.80 (d, 1H);
HRMS(ESI):
2331RuSとして、
計算値:[M−Cl] 517.1093
実測値: 517.1101
【0197】
[実施例55]
錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tscydn)を用いたアセトフェノンを基質
とする不斉水素移動反応(S/C=1000)
50mlシュレンク内に、前記実施例54で製造した錯体RuCl((R,R)−O−HT−Tscydn)2.8mg(0.005mmol)、アセトフェノン0.58ml(0.60g,5mmol)、及びギ酸トリエチルアミン(5:2)共沸混合物2.5mlを混合して窒素で置換した後、60℃にて10時間反応させた。GCにより反応液の分析を行ったところ、転化率73.7%で95.5%eeの(R)−1−フェニルエタノールが生成していた。
【0198】
[実施例56]
2,4,6−トリメチル−N−((1R,2R)−2−(2−((4−メチルシクロヘキサ−1,4−ジエニル)メトキシ)エチルアミノ)−1,2−ジフェニルエチル)ベンゼンスルホンアミド(2,4,6-trimethyl-N-((1R,2R)-2-(2-((4-methylcyclohexa-1,4-dienyl)methoxy)etheylamino)-1,2-diphenylethy)benzenesulfonamide)の製造
【0199】
【化38】

【0200】
実施例37で得られたトシレート1.0g(3.0mmol)をトルエン5mlに溶解し、DIPEA0.39g(3.0mmol)、(R,R)−MESsDPEN1.3g(3.3mmol)を加え、120℃で8時間攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/酢酸エチル=4/1)で精製することにより表題化合物0.71gを無色油状物質として得た。収率44.7%。
【0201】
[実施例57]
RuCl((R,R)−O−HT−MESsDPEN)の製造
【0202】
【化39】

【0203】
実施例56で得られたスルホンアミド0.67g(1.2mmol)をメタノール5mlに溶解した。氷冷下で1M塩酸のメタノール溶液0.25g(2.4mmol)を加え、室温にて20分間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し得られた残渣を2−メトキシエタノール20ml、水2ml、炭酸水素ナトリウム0.09g(1.2mmol)に溶解した。三塩化ルテニウム・三水和物0.36g(1.35mmol)を加え、120℃で3時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣にエタノール40ml、トリエチルアミン0.5g(4.94mmol)を加え、80℃で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1)で精製することにより目的とするRu錯体0.13gを得た。収率16.0%。
【0204】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ:
1.95 (s, 3H), 2.45(s, 6H), 2.46(s, 3H), 3.05(m, 1H), 3.70(m, 1H),
3.80(d, 1H), 3.85(m, 2H), 3.95(d, 1H), 4.25(d, 1H), 4.75(m, 1H),
5.00(d, 1H), 5.40(d, 1H), 5.50(d, 1H), 5.60(d, 1H), 6.30(s, 2H),
6.53(d, 1H), 6.40-7.00(m, 10H);
HRMS(ESI):
3337ClNRuSとして、
計算値:[M+H] 679.1335
実測値: 679.1327
【0205】
[実施例58]
Ru((R,R)−O−HT−TsDPEN)の製造
【0206】
【化40】

【0207】
RuCl((R,R)−O−HT−TsDPEN)140mg(0.215mmol)と水酸化カリウム84mg(1.28mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)の懸濁液に水(1mL)を添加して、室温にて20分間撹拌した。その後、有機溶液を3回水洗(10mL×3)し、得られた有機層を減圧蒸溜し目的物を紫色固体として得た。収率95%(125mg)。
【0208】
H−NMR(CDCl)δ:
7.48 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.40 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.30-6.85 (m, 8H),
6.98 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.15 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 5.55 (d, J = 6.0 Hz, 1H),
5.45 (dd, J = 6.3, 6.0 Hz, 2H), 4.95 (d, J = 14.4 Hz, 1H),
4.35 (d, J = 14.4 Hz, 1H), 4.13 (s, 1H), 3.55-3.42 (m, 2H), 3.36-3.28 (m, 1H),
3.35 (s, 1H), 3.08-3.00 (m, 1H), 2.60 (s, 3H), 2.32 (s, 3H);
HRMS(ESI):
3133Sとして
計算値:[M+H] 615.1250
実測値: 615.1231
【0209】
[実施例59]
RuH((R,R)−O−HT−TsDPEN)の製造
【0210】
【化41】

【0211】
RuCl((R,R)−O−HT−TsDPEN)140mg(0.215mmol)と水酸化カリウム84mg(1.28mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)の懸濁液に水(1mL)を添加して、室温にて20分間撹拌した。その後、有機溶液を3回水洗(10mL×3)し、得られた有機層を他のシュレンクへ分離し、ギ酸(2mL)を加え、室温にて5分撹拌した。その後、有機溶液を3回水洗(10mL×3)し、得られた有機層を減圧蒸留し目的物を淡褐色固体として得た。収率90%(120mg)。
【0212】
H−NMR(300MHz、CDCl)δ:
7.50-6.60 (m, 14H), 6.30 (d, J = 4.5 Hz, 1H), 6.05 (m, 2H), 5.45 (m, 1H),
4.85 (d, J = 13.5 Hz, 1H), 4.78 (d, J = 4.5 Hz, 1H), 4.25-3.90 (m, 4H),
3.85 (d, J = 13.5 Hz, 1H), 3.20-3.15 (m, 1H), 2.80-2.70 (m, 1H), 2.22 (s, 3H),
2.20 (s, 1H), -5.10 (s, 1H);
HRMS(ESI):
3133Sとして
計算値:[M+H] 615.1250
実測値: 615.1243
【0213】
[実施例60]
Ru(BF)((R,R)−O−HT−TsDPEN)の製造
【0214】
【化42】

【0215】
RuCl((R,R)−O−HT−TsDPEN)140mg(0.215mmol)と水酸化カリウム84mg(1.28mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)の懸濁液に水(1mL)を添加して、室温にて20分間撹拌した。その後、有機溶液を3回水洗(10mL×3)し、得られた有機層を他のシュレンクへ分離し、42%HBF水溶液(0.5mL)を加え、室温にて5分間撹拌した。その後、有機溶液を3回水洗し(10mL×3)、得られた有機層を減圧蒸留し目的物を褐色固体として得た。収率90%(136mg)。
【0216】
H−NMR(CDOD、300MHz)δ:
2.12(s, 3H), 2.46(s, 3H), 3.35-3.60(m, 4H), 3.60-3.80(m, 1H),
3.95-4.10(m, 3H), 4.70-4.80(m, 1H), 5.84(d, 1H), 5.89(d, 1H), 5.99(d, 1H),
6.20(d, 1H), 6.46-7.50(m, 14H)
HRMS(ESI):
3133BFRuSとして
計算値:[M−BF 615.1250
実測値: 615.1271
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明は、簡便で安全に製造することができる新規なルテニウム錯体を提供するもので
あり、本発明のルテニウム錯体は、非常に触媒活性が強く、各種の水素化触媒として有用
であるだけでなく、立体選択性に優れ高い不斉収率を与える不斉還元用触媒として有用で
あり、産業化学分野において有用なルテニウム錯体を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示し、
Xはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、水素原子、又はハロゲン原子を示す。
j及びkはそれぞれ0又は1を示すが、j+kが1になることはない。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
【請求項2】
次の一般式(2)
【化2】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示す。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示す。Qはカウンターアニオンを示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
【請求項3】
次の一般式(3)
【化3】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、
は、炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;10−カンフォリル基;1個又は2個の炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基;又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、アミノ基、アルキルアミノ基(−NR2021)、5員若しくは6員の環状アミノ基、アシルアミノ基(−NH−CO−R20)、水酸基、アルコキシ基(−OR20)、アシル基(−CO−R20)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR20)、フェノキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基(−SR20)、シリル基(−SiR202122)、若しくはニトロ基(−NO)で置換されていてもよいアリール基を示す。
20、R21、及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基を示す。
Yは水素原子を示す。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子;炭素数1〜10のアルキル基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基;若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基を示すか、又はR及びRが一緒になって環を形成してもよい。
11、R12、R13、R14、R15はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示す。
16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を示すか、R16とR17とこれらが置換している炭素原子、及び/又はR18とR19とこれらが置換している炭素原子とでカルボニル基を形成してもよい。
Zは酸素原子又は硫黄原子を示し、Vはハロゲン原子を示す。
は1又は2を、nは1から3の整数を示す。)
で表わされるルテニウム錯体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下で、有機化合物を還元して、還元生成物を製造する方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下、カルボニル化合物のカルボニル基を還元することを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のルテニウム錯体及び水素供与体の存在下、イミン化合物のイミノ基を還元することを特徴とする光学活性アミンの製造方法。
【請求項7】
水素供与体が、ギ酸、ギ酸アルカリ金属塩及び水酸基置換炭素のα位炭素原子に水素原子を有するアルコールの中から選ばれるものである請求項4から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
水素供与体が、水素である請求項4から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載のルテニウム錯体からなる還元用触媒。
【請求項10】
還元用触媒が、不斉還元用触媒である請求項9に記載の触媒。

【公開番号】特開2012−67071(P2012−67071A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142543(P2011−142543)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】