説明

ルテニウム−パラジウム合金めっき物およびその製造方法

【課題】ロジウムめっき物と同等の硬度、接触抵抗、色調などの特性を有するめっき物を、ロジウムめっき物よりも経済的に提供することを目的とする。
【解決手段】基材上に、電気めっきにより形成されてなるルテニウムとパラジウムとの合金のめっき膜を有するルテニウム−パラジウム合金めっき物であって、該めっき膜がルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなることを特徴とするルテニウム−パラジウム合金めっき物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム−パラジウム合金めっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾用めっきとして広く使われているロジウムめっき膜は、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、Lab表色系立体座標において、L=72〜75、a=0.3〜0.8、b=3.0〜4.0の落ち着いた明るい色調で、高級品に使用されているが、ロジウムの価格高騰により、代替品が求められている。
ルテニウムめっきとしては、特許文献1のような例があるが、めっき物の色調はやや暗い色調であり(L=61.3〜61.7、a=0.2〜0.3、b=3.0〜3.1)、そのままではロジウムめっきの代替とはなり得ない。
ルテニウムターゲットなどを用いて得られた別の組織構造を有するルテニウム膜の場合、L=72.9、a=0.2、b=0.8で、色調は白色となり、bが低いためにぎらぎらした色調となる。
また、ロジウムめっき膜は、硬度が高く、耐摩耗性、接触抵抗特性に優れ、工業用としても用いられている。
【特許文献1】特願平4−297199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ロジウムめっき物と同等の硬度、接触抵抗、色調などの特性を有するめっき物を、ロジウムめっき物よりも経済的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行った結果、ルテニウムとパラジウムとの合金めっき物とすることにより、その組成の特定の範囲において、ロジウムめっき物と同等の硬度、接触抵抗、色調などの特性を有するめっき物を得ることができることを見出し本発明に至った。
【0005】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)基材上に、電気めっきにより形成されてなるルテニウムとパラジウムとの合金のめっき膜を有するルテニウム−パラジウム合金めっき物であって、該めっき膜がルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなることを特徴とするルテニウム−パラジウム合金めっき物。
(2)前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜が、Lab表色系立体座標において、Lが70以上、aが0.1〜1.0、bが2〜4であることを特徴とする前記(1)記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
(3)前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜表面が、鉛筆引っかき試験において硬度6Hの鉛筆で痕跡がつきにくいことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
(4)前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜の硬度が700Hv以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
(5)ルテニウム塩とパラジウム塩とを含むめっき液を用いて、基材上に、電気めっきにより、ルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなるルテニウム−パラジウム合金めっき膜を形成することを特徴とするルテニウム−パラジウム合金めっき物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、基材上に、電気めっきによりルテニウムとパラジウムとの合金のめっき膜を形成しためっき物であって、該合金めっき膜が、ルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなるルテニウム−パラジウム合金めっき膜とすることにより、ロジウムめっき物と同等の色調、耐摩耗性、接触抵抗性を有するめっき物とすることができる。
したがって、本発明のルテニウム−パラジウム合金めっき物は、価格が高騰するロジウムめっき物よりも経済的であり、ロジウムめっき物の代替品として工業用および装飾用に有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
基材上に、電気めっきにより、めっき膜のルテニウムの濃度が35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムとなるようにルテニウム−パラジウム合金めっき膜を形成することにより、ロジウムめっき物と同等の色調特性を有するめっき物とすることができる。ルテニウム濃度が65重量%を超えると、より青みを増した色調となる。また、ルテニウム濃度が35重量%未満であると、黄色味を帯びた色調となる。
【0008】
また、めっき膜のルテニウムの濃度が35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムであり、Lab表色系立体座標において、Lが70以上、aが0.1〜1.0、bが2〜4とすることが好ましく、装飾用の白色貴金属色調としては、Lが72〜75、aが0.4〜0.8、bが2〜4がより好ましい。
Lab表色系立体座標におけるL、a、bは、ハンター(R.S.Hunter)が提案した均等色空間を示す座標軸であり、光電色彩計により測定し、求めることができる。
また、めっき膜中のルテニウム濃度およびパラジウム濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP)や原子吸光分析法にて測定することができる。
【0009】
また、本発明のルテニウム−パラジウム合金めっき膜は、ルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなる膜とすることにより、色調に加え、硬度や耐食性、接触抵抗値等もロジウム膜と同等とすることができる。ルテニウムの濃度が35重量%未満になっても、65重量%を超えても硬度や耐食性は低下する。したがって、本発明のルテニウム−パラジウムめっき物は、ロジウム地金の高騰から市場ニーズに答えるものとして、装飾用のみならず、工業用接点などへの応用が可能である。
本発明のルテニウム−パラジウムめっき膜は、表面をJIS K5400の鉛筆引っかき試験において、硬度6Hの鉛筆の芯を45度の角度でめっき膜の表面に円を3周描き、その痕跡を顕微鏡で観察した際に、痕跡がつきにくい。尚、本発明において、痕跡がつきにくいとは、3周描いた円(円の直径3mm)を金属顕微鏡25倍で観察写真化した際に、痕跡が見られない又は一部のみに薄い痕跡が見られる場合をいう。
【0010】
また、硬度としては、700Hv以上とすることができ、ルテニウムめっき膜、パラジウムめっき膜よりも硬度が高くなり、ロジウム膜の硬度800Hvに近似する。ルテニウムめっき膜やパラジウム膜では、前記鉛筆引っかき試験において、3周ともに痕跡が観察され、硬度はそれぞれ640Hv、280Hv程度である。尚、本発明において硬度は、微小硬度計を用いて測定することができ、具体的には、(株)エリオニクス製、超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて、厚さ0.5μmのめっき膜の硬度を測定した。
本発明のルテニウム−パラジウム合金めっき膜の接触抵抗は、測定の結果、ロジウム膜と同等のデータが得られている。
本発明のルテニウム−パラジウムめっき物の工業用用途としては、例えば、コネクターリードスイッチ、プローブピン等を挙げることができる。
また、装飾用用途としては、眼鏡、ネックレス、ブローチ、タイピン、カフス、時計、カメラ、コンパクト等を挙げることができる。
【0011】
本発明のルテニウム−パラジウム合金めっき膜は、電気めっきにより形成される。めっき液は、少なくともルテニウム塩、パラジウム塩を含有し、さらに伝導塩、pH緩衝剤、安定剤、応力減少剤等を含有することが好ましい。
ルテニウム塩とパラジウム塩とを含有するめっき液を用いて、電気めっきにより形成されるめっき膜は、ESCA(X線光電子分光法)により、ルテニウムとパラジウムが金属で析出しており、合金めっき膜であることが確認できる。
めっき膜中のルテニウム、パラジウムの濃度は、めっき液中のルテニウム濃度、ルテニウム濃度とパラジウム濃度比による影響が最も顕著である。これらを調整することにより、得られるめっき膜のルテニウム、パラジウムの濃度を調整することができ、所望の耐食性、色調、硬度等の特性にすることができる。
また、上記ルテニウム−パラジウムめっき液を使用してめっきする際の、pH、応力減少剤濃度、電流密度等もめっき膜のルテニウム、パラジウム濃度に影響する。
【0012】
パラジウム塩としては、パラジウムめっき液に用いる従来公知の化合物を用いることができる。例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム塩化物、ジアンミンパラジウム亜硝酸塩、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、ジアンミンパラジウム硫酸塩、ジクロロテトラアンミンパラジウム塩化物、ジアンミン蓚酸パラジウム塩、テトラアンミン蓚酸パラジウム塩等を挙げることができる。
【0013】
ルテニウム塩としては、ルテニウムめっき液に用いる従来公知の化合物を用いることができる。例えば、硫酸ルテニウム、塩化ルテニウム、ルテニウムのアコクロル錯体、ルテニウムの窒素・含硫黄酸錯体、ルテニウムの窒素・含スルファミン酸錯体、ルテニウムの窒素・硫酸錯体、ニトロソ塩化ルテニウム等が挙げられる。
【0014】
めっき液中のルテニウム濃度は0.5〜6.0g/L、パラシウム濃度は、0.4〜1.7g/L、が好ましい。また、めっき液中のルテニウムとパラジウムの濃度の比は、1:0.13〜1:1.70が好ましい。めっき液中のルテニウム濃度、パラジウム濃度を上記の範囲内とすることにより、めっき膜中に含有されるルテニウム、及びパラジウムの濃度が本発明の範囲となり、所望の色調などの特性が得られる。めっき液中のルテニウム濃度が高いと、めっき膜中のルテニウム濃度も高くなり、ルテニウム濃度が65重量%を超えると、青みを帯びた白い色調となる。
【0015】
伝導塩、pH緩衝剤、安定剤としては、これら伝導塩、pH緩衝剤、安定剤としての働きをする硫酸もしくは硫酸アンモニウム、硫酸アルカリ塩、塩化アンモニウム、塩化アルカリ塩、スルファミン酸もしくはスルファミン酸アンモニウムあるいはスルファミン酸アルカリ塩等が挙げられる。好ましくはスルファミン酸アンモニウムであって、濃度は、10〜100g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは20〜70g/Lである。10g/L未満では、液分解を起こしやすくなる。また、めっき膜中のルテニウム濃度が高くなる。
【0016】
応力減少剤としては、ベンゼンスルフォン酸、サッカリン、有機カルボン酸、ピリジン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。応力減少剤濃度は0.5〜3g/Lの範囲が好ましく、亀裂のない密着しためっき物が得られる。
【0017】
本発明におけるルテニウム−パラジウムめっき液の調製は、上記ルテニウム化合物、パラジウム化合物の水溶液に、所定量の他の添加剤を添加・溶解することにより容易に行うことができる。
【0018】
めっき液のpHは、あまり低pHでは安定性が低下し、又あまり高pHではめっき膜のルテニウム濃度が低下する。好ましくは5〜7で、めっき膜中に含有されるルテニウム、およびパラジウムの濃度が本発明の範囲となり、所望の硬度などの特性が得られる。このpHの調整は、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸等の無機酸及びアルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等の無機アルカリによって行うことができる。
まためっき時の液温は特に限定されず、めっき膜中のルテニウム濃度は、めっき液の温度にあまり影響されず、安定している。液温が高くなると電着速度は早くなる。しかし、あまり高温になるとめっき液の蒸発により液組成が濃縮されるので、40〜70℃が好ましい。
【0019】
電流密度はとくに限定されなく、広い範囲にてめっき膜ルテニウム含有重量%は安定している。あまり高密度ではめっきの焼けが生じる場合があり、又あまり低密度では電着速度が遅くなるので、1〜4A/dm2が好ましい。この範囲で所望の合金濃度を得、硬度、耐食性、色調等の特性が得られる。
めっき膜を形成する基材としては、黄銅板など銅および銅合金、銀および銀合金、金および金合金、錫および錫合金等の導電性基材を用いることができる。銅およびニッケル等の下地めっきを行った基材が好ましい。
めっき方法としては、陰極に被めっき物である基材を用い、陽極としては白金等の不溶性のものを用い、チタニウム上に白金めっきしたものが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
塩化ルテニウムの水溶液600mL(Ru:6.7g)にスルファミン酸アンモン67gを加え、煮沸還流反応を7時間行った後、スルファミン酸アンモンを更に110g添加し、攪拌溶解し、アンモニア水でpH6に調整した。
上記溶液にルテニウム濃度1g/Lに対してパラジウム濃度が0.85g/Lとなる量の(Pd:5.7g)の塩化パラジウムを添加し、さらに、応力減少剤を1g/Lとなる量(6.7g)を加えた後、純水で希釈し、6.66Lのめっき液を調合した。
めっき槽として耐食性および耐熱性のあるものとして塩ビ容器を使用し、石英製の電気ヒーターで所定の温度に加熱して、陽極に白金めっきチタンメッシュを配置した。めっき液の攪拌はマグネチックスターラにて行った。
ルテニウム濃度1g/L、パラジウム濃度0.85g/L、pH6.0、安定剤(スルファミン酸アンモン)濃度50g/L、応力減少剤濃度1g/L、液の攪拌は緩やかにしためっき液を60℃に保持してめっきに供した。
基材は、黄銅板を用い、電解脱脂にて表面を清浄にした後、電気ニッケル5μm厚みの下地処理を行って、陰極として、ルテニウム−パラジウム合金めっき液にセットし、電流密度2A/dm2にて20分通電した。
得られためっき膜中のルテニウム含有量、めっき物外観光沢、めっき膜の色調、析出膜厚、硬度、6Hの鉛筆での傷の状態を測定および観察した結果を表1に示す。
【0021】
実施例2〜4
実施例1において、ルテニウムの量を変え、めっき液中のルテニウム濃度、パラジウム濃度を表1に記載の量にした以外は実施例1と同様にめっき液を調整し、めっきを行い、めっき膜を評価した。結果を表1に示す。
また、実施例2で得られためっき膜のFE−SEMによる表面観察(20,000倍)結果を図1に示す。緻密な結晶が均一に析出し、光沢のある平滑な表面と共に、クラックのないめっき膜が得られていることが分かる。
さらに、上記めっき膜をESCA(X線光電子分光法)によって解析した結果を図2に示す。結合エネルギーに示されるピークから、金属の状態を解析することができる。結合エネルギーから解析すると、ルテニウムとパラジウムが金属で析出していることが確認できた。
また、実施例2で得られためっき膜について、接触抵抗を測定した。ケイエス部品研究所製、接触抵抗測定プロセス MS880−IIを用いて、測定プローブ:Au、測定電流:10mA、測定荷重:60gで測定した結果、実施例2で得られたルテニウム−パラジウム合金めっき膜の接触抵抗は、14.9mΩであった。ロジウムめっき膜についても同様に接触抵抗を測定したところ、16.7mΩであった。
また、ロジウムめっき膜と実施例2で得られたルテニウム−パラジウムめっき膜の接触抵抗を比較した結果を図3に示す。接触抵抗の測定は、Au製プローブピンの先端をめっき面に接触させ順次荷重を加え又は荷重を減じて、定電流負荷時の抵抗推移を求めた。0〜60gに負荷を増やした場合を加重ライン、60gから0gに負荷を減じた時の抵抗推移を除重ラインとしている。図3において、グラフは2本の線に見えるが、それぞれが2本ずつ重なっており、下の線(抵抗が低い方の線)は、ルテニウム−パラジウム合金めっき膜の加重ライン、除重ラインが重なったものであり、上の線は、ロジウムめっき膜の加重ライン、除重ラインが重なったものである。
【0022】
比較例1〜4
実施例1において、ルテニウムの量を変え、めっき液中のルテニウム濃度、パラジウム濃度を表1に記載の量にした以外は実施例1と同様にめっき液を調整し、めっきを行い、めっき膜を評価した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例2で得られためっき膜のFE−SEMによる表面写真である。
【図2】実施例2で得られためっき膜のESCA(X線光電子分光法)によって解析した結果である。
【図3】実施例2で得られためっき膜とロジウムめっき膜の接触抵抗測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、電気めっきにより形成されてなるルテニウムとパラジウムとの合金のめっき膜を有するルテニウム−パラジウム合金めっき物であって、該めっき膜がルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなることを特徴とするルテニウム−パラジウム合金めっき物。
【請求項2】
前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜が、Lab表色系立体座標において、Lが70以上、aが0.1〜1.0、bが2〜4であることを特徴とする請求項1記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
【請求項3】
前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜表面が、鉛筆引っかき試験において硬度6Hの鉛筆で痕跡がつきにくいことを特徴とする請求項1または2に記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
【請求項4】
前記ルテニウム−パラジウム合金めっき膜の硬度が700Hv以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のルテニウム−パラジウム合金めっき物。
【請求項5】
ルテニウム塩とパラジウム塩とを含むめっき液を用いて、基材上に、電気めっきにより、ルテニウムが35重量%以上、65重量%以下、残部がパラジウムからなるルテニウム−パラジウム合金めっき膜を形成することを特徴とするルテニウム−パラジウム合金めっき物の製造方法。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−209436(P2009−209436A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55993(P2008−55993)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(597157716)日鉱商事株式会社 (5)
【Fターム(参考)】