説明

ルテニウムまたはオスミウムメタセシス触媒の合成

【課題】簡便で、安全かつコストの低いルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒の合成法を提供する。
【解決手段】次式


の化合物を式R17C≡CCR12R13R'の化合物と接触させ、次いで、式HXの化合物を加える工程を含んでなる式(X)(X1)(L)(L1)M=C(R17)(CH2CR12R13R')の化合物の合成法。合成の容易さ(典型的にはワンステップ合成)に加えて、この反応は一般に室温またはそれ以上で進行し、しかも、得られる生成物は通常、十分な合成後精製を行うことなく使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高活性ルテニウムまたはオスミウムカルベンメタセシス触媒の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
合成有機または高分子化学者にとって、炭素-炭素結合を形成する簡便な方法は極めて重要かつ価値ある手段である。特に有用であるとわかっているC-C結合形成法の1つに、遷移金属が触媒するオレフィンメタセシスがある。過去20年の鋭意研究の努力により、最近ついに、種々の官能基の存在下でメタセシス活性が高く、かつ安定な十分に明示されたルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体触媒が発見された。
【0003】
これらのルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体は、米国特許第5,312,940号明細書および同第5,342,909号明細書、ならびに米国特許出願第08/708,057号、同第08/282,827号および同第08/693,789号の各明細書に記載されており、これらはすべて参照により本明細書に組み入れる。これらの特許および出願に開示されたルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体はすべて、形式上+2の酸化状態にあり、電子数が16であり、かつ5配位結合している金属中心を持っている。これらの触媒は一般式
【化1】

(式中、Mはオスミウムまたはルテニウムであり;XおよびX1は陰イオンリガンドであり;かつ、LおよびL1は中性電子供与体であり、さらにRおよびR’は以下により詳細に記載される特定の置換基である。)で示される。
【0004】
米国特許第5,312,940号明細書および同第5,342,909号明細書は、中性電子供与体リガンドLおよびL1がトリフェニルホスフィンまたはジフェニルメチルホスフィンである特定のビニルアルキリデンルテニウムおよびオスミウム錯体を開示している。この特許に開示されたように、この触媒はひずみのあるオレフィンの開環メタセシス重合(「ROMP」)を触媒するのに有用である。米国特許出願第08/708,057号明細書および第08/282,827号明細書は、中性電子供与体リガンドLおよびL1が、少なくとも1つの第二アルキルまたはシクロアルキル置換基を有するホスフィンである特定のビニルアルキリデンルテニウムおよびオスミウム錯体を開示している。これらの第二アルキルホスフィン触媒は、これに対応するトリフェニルホスフィン触媒よりもメタセシス活性が高く、非環式オレフィンおよびひずみのない環式オレフィンが関わる種々のメタセシス反応を触媒するために使用しうる。米国特許出願第08/693,789号明細書は、それらのビニルアルキリデン対応物よりメタセシス活性が高い特定の非ビニルアルキリデン錯体を開示している。この出願に開示されている好ましい触媒はベンジリデンルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物である。
【0005】
米国特許第5,312,940号明細書および同第5,342,909号明細書により開示されたように、ビニルアルキリデン触媒は、ルテニウムまたはオスミウム化合物とシクロプロペン類またはホスホラン類との反応、および中性または陰イオンリガンド交換、を含む種々の方法によって合成されうる。これら従来法のうち、好ましい触媒製造法は、置換シクロプロペンとジハロゲン化ルテニウムまたはオスミウムとの反応を経由するものである。残念なことに、この方法はビニルアルキリデン触媒(すなわち、Rが水素であり、かつ、R1が置換ビニル基である触媒)の合成に限られ、これを使用して、第08/282,826号および第08/282,827号出願明細書に開示された第二アルキルホスフィン触媒を直接合成することはできない。これら第二アルキルホスフィン触媒の合成にはさらに、リガンド交換反応において、シクロプロペン反応から製造したトリフェニルホスフィン触媒と第二アルキルホスフィンとを反応させることが必要である。
【0006】
シクロプロペン類が容易には入手できず、また、一般にビニルアルキリデン触媒の合成に限られるということをいくらか打開するために、米国特許出願第08/693,789号明細書は、置換ジアゾアルカン類とジハロゲン化ルテニウムとの反応を経由してアルキリデン錯体触媒を合成する方法を開示している。この出願に開示された合成手段を用いて、それらと対応するビニルアルキリデン対応物よりもメタセシス活性が高い非ビニルアルキリデン錯体触媒を製造できる。シクロプロペンを主体とする方法と同様に、ジハロゲン化ルテニウムとジアゾアルカン類との反応から、第二アルキルホスフィン触媒を直接合成することはできない。これに代わって、この第二アルキルホスフィン触媒はリガンド交換により合成しなければならない。ジアゾ出発物質の使用により、合成できたルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒の範囲は非常に広がるが、大規模でのジアゾ化合物の取扱いは危険なため、この方法の商業上の有用性また実験での有用性は極めて限られたものになる。さらに、このジアゾ法では、低温(約-80℃〜-50℃)で合成を行なう必要があり、しかも、最終的な触媒の精製に多量の溶媒を使用する必要がある。シクロプロペン合成法を用いる場合と同様、この第二アルキルホスフィン触媒は、多段階のリガンド交換手段を用いて合成しなければならず、これには時間を要し、コストがかかり、また生成物収量はより低くなると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,312,940号明細書
【特許文献2】米国特許第5,342,909号明細書
【特許文献3】米国特許出願第08/708,057号明細書
【特許文献4】米国特許出願第08/282,827号明細書
【特許文献5】米国特許出願第08/693,789号明細書
【特許文献6】米国特許出願第08/282,826号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シクロプロペンおよびジアゾ合成法ではいずれも、多段階のリガンド交換手段を用いて第二アルキルホスフィン触媒を合成しなければならない。第二アルキルホスフィン触媒はトリフェニルホスフィン触媒よりもメタセシス活性が高く、従って商業利用はより広くなるので、これらの場合の多段階合成の必要性は重大な制約となろう。
【0009】
従来の方法が妥当な量のルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒を製造するのに適用されてきたが、これらの触媒の科学的および商業的用途の数は増加し続けているので、それらの可能性を十分に活用するためには、これらの化合物の簡便で、安全、かつコストの低い合成方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこの必要性に取り組み、簡便で、安全かつコストの低いルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒の合成法を提供するものである。一般に、1段階合成は、安定で、容易に入手できる出発物質を用いて提供される。このプロセスの結果、高価で精巧な装置を要さずに良好な収量が得られる。その上、ビニルおよび非ビニルアルキリデン触媒の双方が合成されうる。さらには、この方法で触媒を、合成後の精製が不要になる形態で製造することができる。
【0011】
本発明の1つの態様では、式
【化2】

(式中、Mはルテニウムまたはオスミウムであり;XおよびX1は陰イオンリガンドのいずれか、好ましくは塩化物であり;かつ、LおよびL1は中性電子供与体リガンドのいずれか、好ましくはトリシクロアルキルホスフィンであり;かつ、R1は以下に詳細に記載される種々の置換基のいずれか1つでありうる。)のルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体触媒の合成法を提供する。好ましい触媒では、R1はフェニルである。本発明のこの実施形態では、オレフィンの存在下で、式
【化3】

(n=1または2)の化合物を、式R1C(X)(X1)Hの化合物と接触させて、所望のルテニウムまたはオスミウムカルベン錯体触媒を得る。
【0012】
本発明のもう1つの態様では、式
【化4】

(式中、M、X、X1、LおよびL1は前記に同じであり;R12、R13およびR17は同一であっても異なっていてもよく、以下に詳細に記載される種々の置換基のいずれか1つでありうる。)のビニルアルキリデン触媒の合成法を提供する。好ましい触媒では、R12およびR13は同一であって、双方ともメチルであり、かつ、R17は水素である。本発明のこの実施形態では、式
【化5】

(n=1または2)の化合物を式
【化6】

の化合物と接触させて所望のルテニウムまたはオスミウムカルベン錯体触媒を得る。
【0013】
あるいは、アルキレンは一般式R17C≡CCR12R13R’(式中、R’はヒドロキシルである)であってもよい。この変法では、アルキレンは前記のようにジ水素錯体と反応させるが、次いでHXと反応させて、前記のビニルアルキリデン触媒を形成させる。しかしながら、この反応スキームのもう1つの変法では、R’が水素またはC1-C20アルキルであるとき、本方法では一般式(X)(X1)(L)(L1)M=C(R17)(CH2CR12R13R’)の非ビニルアルキリデン触媒が製造される。
【0014】
本発明のさらにもう1つの態様では、式
【化7】

(式中、M、X、X1、LおよびL1は前記に同じであり;R14、R15およびR16は以下に詳細に記載される種々の置換基のいずれか1つでありうる。)の化合物の合成法が提供される。本発明のこの実施形態では、式
【化8】

(n=1または2)の化合物と式
【化9】

の化合物を接触させて、所望のルテニウムまたはオスミウムカルベン錯体触媒を得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
触媒の概説
本発明の方法は、+2の酸化状態にあり、電子数が16であり、かつ5配位結合しているルテニウムまたはオスミウム金属中心を含むルテニウムまたはオスミウムカルベン錯体触媒を合成するために使用しうる。さらに具体的には、本発明の方法は、式
【化10】

(式中、
Mはオスミウムまたはルテニウムであり;
XおよびX1は独立に、陰イオンリガンドのいずれかであり;
LおよびL1は中性電子供与体リガンドのいずれかであり;
RおよびR1は各々、水素、または以下の置換基:C1-C20アルキル、C2-C20アルケニル、C2-C20アルキニル、アリール、C1-C20カルボキシレート、C1-C20アルコキシ、C2-C20アルケニルオキシ、C2-C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2-C20アルコキシカルボニル、C1-C20アルキルチオ、C1-C20アルキルスルホニルおよびC1-C20アルキルスルフィニルのうちの1つである。)を有する化合物を合成するために用いることができる。所望により置換基は、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、およびアリールから選択される1以上の基で置換されていてもよい。アリール置換基がフェニルである場合、それはさらに、ハロゲン、C-Cアルキル、またはC-Cアルコキシから選択される1以上の基で置換されていてもよい。また、R1置換基は、さらに1以上の官能基を含んでもよい。好適な官能基の例としては、限定されるものではないが、ヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンが挙げられる。
【0016】
好ましい実施形態では、R置換基は水素であり、かつ、R1置換基は以下:(1)水素;(2)C1-C20アルキル;(3)C2-C20アルケニル;(4)アリール;(5)アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、C-Cアルコキシ、およびC-Cアルコキシカルボニルからなる群より選択される1以上の基で置換されたC1-C20アルキル;ならびに(6)C-Cアルキル、アリール、ヒドロキシル、C-Cアルコキシ、アミノ、ニトロ、およびハロゲンからなる群より選択される1以上の基で置換されたアリール、のうちの1つである。さらに好ましい実施形態では、R1置換基はフェニル、または塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される基で置換されたフェニルである。最も好ましい実施形態では、R1置換基はフェニルである。
【0017】
LおよびL1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、いずれの中性電子供与体リガンドであってもよい。好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、およびチオエーテルであってよい。さらに好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、式PR3R4R5(式中、R3は第二アルキル、またはシクロアルキル基であり、R4およびR5は同一であっても異なっていてもよく、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキル、またはシクロアルキル基である。)で示されるホスフィン類である。最も好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、または-P(イソプロピル)3である。
【0018】
XおよびX1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、いずれの陰イオンリガンドであってもよい。好ましい実施形態では、XおよびX1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、水素、または以下の基:C1-C20アルキル、アリール、C-C20アルコキシド、アリールオキシド、C-C20アルキニルジケトネート、アリールジケトネート、C-C20カルボキシレート、アリールもしくはC1-C20アルキルスルホネート、C1-C20アルキルチオ、C1-C20アルキルスルホニル、またはC1-C20アルキルスルフィニルのうちの1つであってよい。各基は所望によりC-Cアルキル、ハロゲン、C-Cアルコキシで置換されていてもよいし、またはフェニル基で置換されていてもよい。このフェニル基は次いで、所望によりハロゲン、C-CアルキルまたはC-Cアルコキシで置換されてもよい。さらに好ましい実施形態では、XおよびX1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、塩化物、臭化物、ヨウ化物、水素、またはベンゾエート、C-Cカルボキシレート、C-Cアルキル、フェノキシ、C-Cアルコキシ、C-Cアルキルチオ、アリール、およびC-Cアルキルスルホネートからなる群より選択される部分であってよい。各部分は所望によりC-Cアルキルまたはフェニル基で置換されていてもよい。このフェニル基は所望によりハロゲン、C-CアルキルまたはC-Cアルコキシで置換されていてもよい。なおさらに好ましい実施形態では、XおよびX1リガンドは同一であっても異なっていてもよく、塩化物、CF3CO2、CH3O2、CFH2CO2、(CH3)3CO、(CF3)2(CH3)CO、(CF3)(CH3)2CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、またはトリフルオロメタンスルホネートであってもよい。最も好ましい実施形態では、XおよびX1は双方とも塩化物である。
【0019】
最も好ましい触媒は
【化11】

および
【化12】

(式中、Cyはシクロヘキシルまたはシクロペンチルであり、Meはメチルである。)である。
【0020】
前記触媒は、ヒドロキシル、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンを包含する種々の官能基の存在下で安定である。従って、以下に記載する反応の出発物質および生成物は、触媒の活性を損なわない上記1以上の官能基を含みうる。さらにこの触媒は、水性溶媒、有機溶媒またはプロトン性溶媒、例えば、芳香族炭化水素類、塩素化炭化水素類、エーテル類、脂肪族炭化水素類、アルコール類、水、またはそれらの混合物の存在下で安定である。従って、以下に記載する反応は、触媒生成物の活性を損なうことなく、これらの溶媒の1種以上の中で行うことができる。
【0021】
一般合成スキーム
本発明は、従来の方法に伴う問題の多くを排除する前記ルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒を合成するための新たな経路に関する。特に断らない限り、触媒の置換基は前記の定義に同じである。
【0022】
発明者らは、ルテニウムおよびオスミウムカルベン触媒が、容易に入手でき、かつ安定なカルベンおよび金属ソースを用い、1段階合成で合成しうることを見出した。以下に詳細に記載されるように、本発明の方法により、不安定な出発物質を使用することなく、しかも、室温以上で行いうる反応を用いて、ルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体化合物の合成が可能となる。またこの方法により、陰イオン性および中性の電子供与体リガンドが変更され、また、カルベン炭素の置換基が変更された触媒の製造が可能となる。本発明の方法では、一般に、90%を上回る収率でカルベン錯体が得られ、得られた触媒は合成後さらに精製することなく使用し得るほど純度が高い。背景の節に記載したように、これら本発明の態様はすべて、既存の方法に優る重要な利点を有している。
【0023】
発明者らは、ルテニウムまたはオスミウム二水素錯体および単純な有機化合物が関わる触媒を合成しうる3つの経路を発見した。二水素錯体の2つの一般形態は、M(H)2(H2)nL1LとM(H)X(H2)nL1L(式中、M、X、LおよびL1は前記定義に同じであり、かつ、nは1または2である)である。第1の二水素種の解離は容易であるので、シングル二水素(n=1)とビス(二水素)(n=2)錯体は本質的に交換可能である。一般に、錯体の固体形態ではビス(二水素)錯体が優勢であり、溶液ではシングル(二水素)錯体が優勢である。
【0024】
第1の経路では、二水素錯体はM(H)2(H2)nL1Lであり、有機化合物は触媒のX、X1およびR1置換基を有する炭素原子を含む置換アルカンである。第2の経路では、二水素錯体はM(H)(X)(H2)nL1Lであり、有機化合物は置換アルキンである。第3の経路では、二水素錯体はM(H)(X)(H2)nL1Lであり、有機化合物はアルケン(オレフィン)である。
【0025】
明瞭かつ容易に提示するため、具体的な反応条件および手順を最後の実験手順の節にまとめてある。
【0026】
アルカン経路
本発明のこの実施形態は下記の反応スキーム1で要約できる。
反応スキーム1
【化13】

この実施形態は、オレフィンの存在下で、式
【化14】

の化合物を式R1C(X)(X1)Hの化合物と接触させる工程を含んでなる、式
【化15】

の化合物を合成する方法を含む。M、R1、X、X1、LおよびL1は触媒の節で定義した通りであり、かつ、nは1または2のいずれかである。
【0027】
アルカン法の好ましい実施形態では、Mはルテニウムであり;LおよびL1リガンドは各々、式PR3R4R5(式中、R3は第二アルキルまたはシクロアルキル基であり;かつ、R4およびR5は各々、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキルまたはシクロアルキル基である)のホスフィンであり;XおよびX1リガンドは各々、塩化物、臭化物、ヨウ化物、CF3CO2、CH3CO2、CFH2CO2、(CH3)3CO、(CF3)2(CH3)CO、(CF3)(CH3)2CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、およびトリフルオロメタンスルホネートといったハロゲン、ベンゾエート、C1-C5カルボキシレート、C1-C5アルキル、C1-C5アルコキシ、C1-C5アルキルチオ、アリール、またはC1-C5アルキルスルホネートであり;R1は水素または置換もしくは非置換C1-C20アルキルまたはアリール(ここで、置換基はアリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、C1-C5アルキル、C1-C5アルコキシ、およびC-C5アルコキシカルボニルからなる群より選択される)であり;かつ、オレフィンはメタセシス反応を容易には受けないか、またはメタセシスの際に同種を再生するものである。
【0028】
特に好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、または-P(イソプロピル)3であり;XおよびX1リガンドは各々ハロゲンであり;R1置換基は置換または非置換芳香族炭化水素(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、オレフィンはシクロヘキセンまたはスチレンである。
【0029】
最も好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3または-P(シクロペンチル)3のいずれかであり;XおよびX1リガンドは各々塩化物であり;R1置換基は置換または非置換フェニル(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、オレフィンはシクロヘキセンである。
【0030】
前記のように、この合成経路に使用するために選択されるオレフィンは容易にメタセシスを受けないものであることが好ましい。エチレンなどのメタセシス活性を有するオレフィンを用いる場合、オレフィンと生成物である触媒の間のメタセシス反応の可能性があるため、期待される生成物は高収率では生じない。例えば、エチレンの存在下で、Ru(H)2(H2)2(PCy3)2をPhCHCl2またはCl2CHCO2Meのいずれかと反応させる場合、期待されるベンジリデンおよびエステルカルベンの代わりに、メチリデン錯体が形成する。中間物質のカルベンプロトン共鳴(それぞれδ=20.59および20.15)と同時にスチレンおよびメチルメタクリレートの形成を観察したところ、これは、ベンジリデンおよびエステルカルベンの生成を伴う、後続のエチレンのメタセシス反応によるものであることが確認された。
【0031】
しかしながら、シクロヘキセンなどの活性の低いオレフィンを用いる場合、この後続のメタセシス反応は実質的になくなる。例えば、シクロヘキセンの存在下で、Ru(H)2(H2)2(PCy3)2をPhCHCl2、Cl2CHCO2MeまたはCH2Cl2のいずれかと反応させる場合、これに対応するカルベンが高収率で生じる。これらの反応を、内部標準として酸化トリフェニルホスフィンを用いて31P NMRによりモニターした場合、このNMR実験より、これらの変換は実質的に定量的であることがわかった。
【0032】
アルキン経路
本発明のこの実施形態の1つの変法は、下記の反応スキーム2で要約できる。
反応スキーム2
【化16】

この実施形態は、式
【化17】

の化合物を式
【化18】

の化合物と接触させる工程を含んでなる、式
【化19】

の化合物を合成する方法を含む(式中、M、X、X1、LおよびL1は前記の触媒の節での定義に同じ)。
【0033】
あるいは、アルキンは一般式R17C≡CCR12R13R’(式中、R’はヒドロキシである)であってもよい。この変法では、前記のようにアルキンを二水素錯体と反応させるが、次いでHXと反応させて前記の触媒を形成する。しかしながら、この反応スキームのもう1つの変法では、R’が水素またはC1-C20アルキルであるとき、この方法により一般式(X)(X1)(L)(L1)M=C(R17)(CH2CR12R13R’)の触媒が得られる。
【0034】
いずれかの変法において、残存変数はnであって、これは1または2のいずれかであり;R17は水素、アリールまたはC1-C18アルキルであり;かつ、R12およびR13は各々、水素、または以下の置換基:C1-C18アルキル、C-C18アルケニル、C-C18アルキニル、アリール、C1-C18カルボキシレート、C1-C18アルコキシ、C-C18アルケニルオキシ、C-C18アルキニルオキシ、アリールオキシ、C-C18アルコキシカルボニル、C1-C18アルキルチオ、C1-C18アルキルスルホニル、およびC1-C18アルキルスルフィニルのうちの1つであり;ここで、置換基はC1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、およびアリールから選択される1以上の基で置換されていてもよい。置換アリール基がフェニルである場合、ハロゲン、C1-Cアルキル、またはC1-Cアルコキシから選択される1以上の基でさらに置換されてもよい。また、R12およびR13置換基は、さらにヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンから選択される1以上の官能基を含んでもよい。
【0035】
アルキン法の好ましい実施形態では、Mはルテニウムであり;LおよびL1リガンドは各々、式PR3R4R5(式中、R3は第二アルキルまたはシクロアルキル基であり;かつ、R4およびR5は各々、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキルまたはシクロアルキル基である)のホスフィンであり;XおよびX1リガンドは各々、塩化物、臭化物、ヨウ化物、CF3CO2、CH3CO2、CFH2CO2、(CH3)3CO、(CF3)2(CH3)CO、(CF3)(CH3)2CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、およびトリフルオロメタンスルホネートといったハロゲン、ベンゾエート、C1-Cカルボキシレート、C1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、C1-Cアルキルチオ、アリール、またはC1-Cアルキルスルホネートであり;R12およびR13は各々、置換または非置換C1-C18アルキルまたはアリール(ここで、置換基は、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、C1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、およびC-Cアルコキシカルボニルからなる群より選択される)であり;かつ、R17は水素またはメチルである。
【0036】
特に好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、または-P(イソプロピル)3であり;XおよびX1リガンドは各々ハロゲンであり;R12およびR13は各々、置換または非置換芳香族炭化水素(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、R17は水素である。
【0037】
最も好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3または-P(シクロペンチル)3のいずれかであり;XおよびX1リガンドは各々塩化物であり;R12およびR13は各々、置換または非置換フェニル(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、R17は水素である。
【0038】
本発明のこの実施形態は、実質的にワンポット合成で、前記のルテニウムおよびオスミウムビニルアルキリデン触媒を合成するための極めて有効な方法である。金属錯体を単離する必要がないので、それをin situで生成し、次いで置換アルキンと反応させて所望の生成物を形成することができる。
【0039】
合成の容易さに加え、この実施形態ではまた高い生成物収率が得られる。例えば、ヒドリドクロリド錯体Ru(H)(Cl)(H2)(PCy3)2は、塩化メチレン中で市販の3-クロロ-3-メチル-1-ブチンと急速に反応して、95.2%の単離収率で、カルベン錯体Ru(Cl)2(PCy3)2(=CH-CH=Me2)を生じる。この反応を1H NMRによりモニターしたところ、反応は-30℃でさえ10分内に完了することが見出された。この温度で内部標準に対して積分すると、収率はおよそ99.5%であることが判明した。
【0040】
他のアルキン類、特にプロパルギルハロゲン化物との反応も同様に反応することが判明した。微量のルテニウム(IV)錯体Ru(H)2(Cl)2(PCy3)2が副生成物として生じたが、対応するアルキン類から実質的に定量的な収率で、ルテニウムカルベンRu(Cl)2(PCy3)2(=CH-CH=(CH2)5)およびRu(Cl)2(PCy3)2(=CH-CH=CHPh)が生じた。興味深いことに、アルキンの立体的な嵩高さが小さくなると、副生成物の量が増加した。例えば、モノメチル置換HC≡CCH(CH3)Clはカルベン生成物Ru(Cl)2(PCy3)2(=CH-CH=Me)と副生成物Ru(H)2(Cl)2(PCy3)2を8:1の比率で生じ、HC≡CCH2Clはカルベン生成物Ru(Cl)2(PCy3)2(=CH-CH=CH2)と副生成物を0.8:1の比率で生じた。
【0041】
また、Xの変更は生じる副生成物の量に影響を及ぼした。例えば、ジメチル置換臭化プロパルギルHC≡CC(Me)2Brは、期待される混合ハロゲンカルベンRuClBr(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)対混合ハロゲンRu(IV)種RuClBr(H)2(PCy3)2の比率が30:1を示し、これは対応する塩化物HC≡CC(Me)2Clで見られる200:1よりも大きい比率とは本質的に異なる。結果として、プロパルギル第三ハロゲン化物、特にプロパルギル第三塩化物が最も好ましい。
【0042】
さらに、溶媒をジクロロメタンからベンゼンまたはトルエンに変えると、Ru(IV)に対するカルベンの比率は劇的に向上しうる。溶媒の交換によって、HC≡CCH(CH3)ClおよびHC≡CCH2Clの生成物と副生成物の比率が8:1および0.8:1から各々30:1および37:1へ向上した。
【0043】
LおよびL1基がトリアリールホスフィンである場合、反応スキーム2は、出発錯体において二水素種を第三ホスフィンリガンドと置き換えることにより改良すればよい。得られるヒドリド錯体は、出発二水素種に応じて、M(H)(Cl)(H2)LL1L2またはM(H)(Cl)LL1L2の形態であると考えられる。他のすべての点では、M、X、X1、R12、R13およびR17は前記に同じである。反応スキーム2Aはこの実施形態の1つの変法を示している。
反応スキーム2A
【化20】

【0044】
アルケン経路
本発明のこの実施形態は、下記の反応スキーム3で要約することができる。
反応スキーム3
【化21】

この実施形態は式
【化22】

の化合物を合成する方法を含む。
【0045】
この方法は式
【化23】

の化合物を式
【化24】

の化合物と接触させる工程を含んでなる{式中、M、X、X1、LおよびL1は触媒の節での定義に同じであり;nは1または2のいずれかであり;かつ、R14、R15およびR16は各々、水素、または以下の置換基:C1-C19アルキル、C-C19アルケニル、C-C19アルキニル、アリール、C1-C19カルボキシレート、C1-C19アルコキシ、C-C19アルケニルオキシ、C-C19アルキニルオキシ、アリールオキシ、C-C19アルコキシカルボニル、C1-C19アルキルチオ、C1-C19アルキルスルホニル、およびC1-C19アルキルスルフィニルのうちの1つであり;ここで、置換基はC1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、およびアリールから選択される1以上の基で置換されていてもよい}。置換アリール基がフェニルである場合、それはハロゲン、C1-Cアルキル、またはC1-Cアルコキシから選択される1以上の基でさらに置換されてもよい。また、R14、R15およびR16置換基は、さらにヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンから選択される1以上の官能基を含んでもよい。
【0046】
アルケン法の好ましい実施形態では、Mはルテニウムであり;LおよびL1リガンドは各々、式PR3R4R5(式中、R3は第二アルキルまたはシクロアルキル基であり;かつ、R4およびR5は各々、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキルまたはシクロアルキル基である)のホスフィンであり;XおよびX1リガンドは各々、塩化物、臭化物、ヨウ化物、CF3CO2、CH3CO2、CFH2CO2、(CH3)3CO、(CF3)2(CH3)CO、(CF3)(CH3)2CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、およびトリフルオロメタンスルホネートといったハロゲン、ベンゾエート、C1-Cカルボキシレート、C1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、C1-Cアルキルチオ、アリール、またはC1-Cアルキルスルホネートであり;R14およびR15は各々、置換または非置換C1-C18アルキルまたはアリール(ここで、置換基は、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、C1-Cアルキル、C1-Cアルコキシ、およびC-Cアルコキシカルボニルからなる群より選択される)であり;かつ、R16は水素である。
【0047】
特に好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、または-P(イソプロピル)3であり;XおよびX1リガンドは各々ハロゲンであり;R14およびR15は各々、置換または非置換芳香族炭化水素(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、R16は水素である。
【0048】
最も好ましい実施形態では、LおよびL1リガンドは各々、-P(シクロヘキシル)3または-P(シクロペンチル)3のいずれかであり;XおよびX1リガンドは各々塩化物であり;R14およびR15は各々、置換または非置換フェニル(ここで、置換基は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、-NO2、-NMe2、メトキシ、およびメチルからなる群より選択される)であり;かつ、R16は水素である。
【0049】
LおよびL1基がトリアリールホスフィンである場合、反応スキーム3は、出発錯体の二水素種を第三ホスフィンリガンドと置き換えることにより改変すればよい。得られるヒドリド錯体は、出発二水素種に応じて、M(H)(Cl)(H2)LL1L2またはM(H)(Cl)LL1L2の形態であると考えられる。他のすべての点では、M、X、X1、R14、R15およびR16は前記に同じである。反応スキーム3Aはこの実施形態の1つの変法を示している。
反応スキーム3A
【化25】

アルケン経路反応は他の2つの方法ほど効率的でないことがわかっているので、非ビニルアルキリデン触媒を合成する場合には、一般にアルカン経路が好ましい方法となる。例えば、Ru(H)(Cl)(H2)(PCy3)2を塩化ビニルと反応させると期待されるカルベンRu(Cl)2(H2)(PCy3)2(=CHCH3)、メチリデン錯体Ru(Cl)2(PCy3)2(=CH)、およびルテニウム(IV)副生成物Ru(H)2(Cl)2(PCy3)2が得られる。このメチリデン錯体は、意図したカルベン生成物と塩化ビニルの間の後続の交差メタセシス反応の結果として得られるものである(またその結果、1-クロロプロペンも形成する)。しかしながら、全カルベン生成物を考慮に入れた場合でも、カルベンとRu(IV)副生成物との比率は2.1:1程度である。アルキン経路とは異なり、アルケンのβ-炭素(β-付加を抑制)の立体的な嵩高さが増しても、カルベン収率は向上しなかった。
【0050】
Ru(X)2(L)2(=CHR1)の別の合成法
この方法では、二水素複合体の代わりにRu(1,5-シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)(以下、「Ru(COD)(COT)」という)を用いて一般式Ru(X)2(L)2(=CHR1){式中、
Rは触媒の節での前記定義に同じであり;
Xはハロゲンであり;及び、
Lは式PR3R4R5(式中、R3は第二アルキル又はシクロアルキル基であり;並びに、R4及びR5は各々、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキル又はシクロアルキル基から選択される)のホスフィンである}で示される触媒を合成する。
【0051】
好ましい実施形態では、Xは塩化物であり、並びに、LはP(シクロヘキシル)3、P(シクロペンチル)3、及びP(イソプロピル)3である。
【0052】
室温にて適切な溶媒中、ホスフィン、Lの存在下でR1CHX2をRu(COD)(COT)の溶液に添加し、生成物Ru(X)2(L)2(=CHR1)を生成させる。適切は溶媒の実例としては、限定されるものではないが、トルエン、ベンゼンおよびジクロロメタンが挙げられる。
【0053】
一般的な反応メカニズムには2つの工程:二ハロゲン化アルキルのRu(0)種の酸化的付加、それに次ぐα-ハロゲン化物の脱離が含まれる。この方法の実例は、反応スキーム4に示されており、これによりRuCl2(PCy3)2(=CHPh)が50%の生成物収率で得られる。
反応スキーム4
【化26】

しかしながら、この合成経路は2つの潜在的な制限があることを示している。第1には、良好な収率が報告されているが、Ru(COD)(COT)は合成が困難及び時間がかかるということであり、第2には、X=Cl及びL=PCy3であるとき、PCy3CHClR1+Cl-などのホスホニウム塩の形成が、いくつかのカルベン触媒のためのこの経路の実行可能性を潜在的に制限するかもしれないということである。
【0054】
例えば、RuCl2(PCy3)2(=CHPh)およびRuCl2(PCy3)2(=CH2)はこの方法で合成してもよいが、副反応としてホスホニウム塩[Cy3PCHClCHCO2Me]+Cl-が形成するために、RuCl2(PCy3)2(=CHCO2Me)は、Cl2CHCO2Meを用いては合成できない。
【0055】
RuCl2(PCy3)2(=CHPh)の別の合成法:
この別経路は、前記に記載したアルカン経路の変法であり、反応で用いるオレフィンとカルベン生成物の間で起こりうるメタセシス反応を利用するものである。まず、RuCl2(PCy3)2(=CHCO2Me)をオレフィン、スチレン存在下で、前記記載のアルカン反応を応用して、Ru(H)2(H2)2(PCy3)とCl2CHCO2Meとの反応により形成させる。形成したカルベンRuCl2(PCy3)2(PCy3)(=CHCO2Me)は引き続くスチレンとのメタセシス反応を受け、最終生成物RuCl2(PCy3)2(=CHPh)を生成する。
【実施例】
【0056】
実験方法
Ru(H)2(H2)2(PCy3)2の合成
一般に、明示しない限り、使用溶媒はすべて使用に先立って脱気する。
【0057】
[RuCl2(COD)]x(6.0 g、21.43 mmol)、PCy3(12.0 g、42.86 mmol)、および水酸化ナトリウム(7.2 g)を500 mLのフィッシャー・ポーターボトル(Fisher-Porter bottle)へ入れた。[RuCl2(COD)]xは、RuClとCODとの反応から生成された重合複合体である。脱気した第二ブチルアルコール(250 mL)を加え、次いでこの懸濁液をH2(2atm)下で加圧し、90℃で加熱した。この系はH2の取り込みを指標として、数回再加圧した。この反応混合液を一晩攪拌した。この系をH2圧下で室温まで冷却した。淡黄色の結晶性沈殿物を得た。以下の操作はすべて、H2圧下で行った。得られた混合液に水(30 mL)を加え、この混合液をガラスフリットフィルターで濾過した。濾過物を水(各30 mL)で2回、及びメタノールで(2回、各20mL)で洗浄した。この固体をH2気流下で乾燥させた。11.8 g(83%収率)の淡黄色の結晶性化合物を得た。この生成物のNMRスペクトルは、Ru(H)2(H2)2(PCy3)2に関して文献で従前に報告されたものと同一であった。
【0058】
RuCl2(PCy3)2(=CHPh)の合成
ペンタン(40 mL)中のRu(H)2(H2)2(PCy3)2(1.0 g、1.50 mmol)の懸濁液へ、シクロヘキセン(1.5 mL、14.80 mmol)を加えた。2分後、黄色の溶液を得て、15分後、淡黄色の沈殿が生成した。この反応混合液を一時間攪拌した。揮発成分は真空下で除去した。この固体にペンタンを加えた。PhCHCl2(0.4 mL、3.11 mmol)の添加により赤色の溶液が生じ、これを45分間攪拌した。溶媒を蒸発させ、次いで残渣を冷メタノール(各10mLで3回)で洗浄した。0.75 g(61%収率)の紫色の固体が得られ、そのNMRスペクトルは、化合物RuCl2(PCy3)2(=CHPh)と同一であった。
【0059】
RuCl2(PCy3)2(=CH2)およびRuCl2(PCy3)2(=CHCO2Me)の合成
ジハロ化合物として、各々Cl2CH2およびCl2CHCO2Meを添加したこと以外は、前記と類似の方法でRuCl2(PCy3)2(=CH2)及びRuCl2(PCy3)2(=CHCO2Me)を製造した。RuCl2(PCy3)2(=CH2)の合成の場合、NMRにより観察されるように反応がより遅いため、Cl2CH2の添加後、反応混合液を一晩攪拌した。
【0060】
RuCl2(PCy3)2(=CHCO2Me)に関する選択分光分析データ:H NMR (300 MHz, C6D6: δ20.15 (s, Ru=CH), 3.53 (s, CO2CH3); 13C NMR (125.71, CD2Cl2, -30℃) δ276.37 (t, J(P,C)=5.1 Hz, Ru=CH), 178.69 (s, CO2Me), 50.84 (s, COCH3); 31P (161.9, MHz, C6D6)δ38.66 (s, PCy3), IR (Nujol) ν 1721 cm-1 (C=O-(エステル))。
【0061】
Ru(H)2(H2)2(PCy3)2+スチレン+α,α-ジクロロトルエン
スチレン(0.2 mL、1.7 mmol)をトルエン(20 mL)中のRu(H)2(H2)2(PCy3)2(0.54 g; 0.77 mmol)溶液に加えた。15分後、得られた深赤色の溶液にα,α-ジクロロトルエン(0.1 mL)を加えた。この反応混合液を45分間攪拌した。溶媒を留去し、残渣をメタノール及びアセトンで洗浄して紫色の固体を単離し、NMRによりRu(=CHPh)Cl2(PCy3)2であることを確認した。収率25%。
【0062】
オレフィンがシクロヘキセンである場合のアルカン反応中間生成物の単離および有用性:Ru(シクロヘキセン)2(H2)(PCy3)2
シクロヘキセン(5 mL)をRu(H2)(H2)2(PCy3)2(1.1 g; 1.65 mmol)へ添加した。赤色溶液の形成が認められ、直ちに淡黄色の固体が沈殿した。ペンタンを加え(20 mL)、この懸濁液を2時間攪拌した。固体を濾過により単離した。収率: 81%。C6D6中での1H : -5. (br s, 2H, H2), 1.2-2.0 (m, 66H, PCy3), 3.0 (s, 1H, CHolefin), 20.1 ppm; 31P{1H} 59 ppm (s)。
【0063】
この中間生成物へのR1CHX1Xの添加
Ru(シクロヘキセン)2(H2)(PCy3)2はルテニウム触媒RuX1X(PCy3)2(R1)を生ずる。結果として、アルカン反応経路では、特異的な中間生成物Ru(シクロヘキセン)2(H2)(PCy3)2、又は任意の一般型Ru(オレフィン)2(H2)(PCy3)2の中間生成物をRu(H)2(H2)2(PCy3)2及びオレフィンに置き替えてもよい。
【0064】
例えば、Ru(=CHPh) Cl2(PCy3)は、α,α-ジクロロトルエン(5 μL)をC6D6(0.5 mL)中のRu(シクロヘキセン)2(H2)(Cy3P)2溶液(20mg; 2.68×10-2 mmol)へ添加することより合成される。この溶液は深赤色に変化し、1H及び31P(1H) NMRスペクトルにより、Ru(=CHPh)Cl2(PCy3)2への定量的変換が示された。同様に、Ru(=CHCOOMe)Cl2(PCy3)2は、メチルジクロロアセテート(5 μL)をC6D6(0.5 mL)中のRu(シクロヘキセン)2(H2)(PCy3)2溶液(20mg; 2.68× 10-2 mmol)へ添加することより合成した。この溶液は紫色に変化し、1Hおよび31P NMRスペクトルは、Ru(=CHCOOMe)Cl2(PCy3)2への定量的変換を示した。C6D6中での1H: 1.2-2.7 (m, 66H, PCY3), 3.5(s, 3H, COOCH3), 20.1 ppm (s, CHカルベンユニット); C6D6 中での1P{1H} 38 ppm (s, PCy3)。
【0065】
Ru(H)(Cl)(H2)2(PCy3)2の合成
[RuCl2(COD)]x(4.00 g、14.28 mmol)及びトリシクロヘキシルホスフィン(Stremから 97%の8.46 g, 29.26 mmol)を圧力計を装備した500ml高圧系へ入れた。この系に200 mLの脱気した第二ブタノールおよびトリエチルアミン(1.99 mL、14.28 mmol)を加えた。次いでこの系を真空下に置き、水素でパージした。パージ後この装置を1.5atmの水素で加圧して、密封し、さらに80℃まで、計20時間加熱した。圧力が大気圧以下に落ちたら、この系を冷却し、最初の数時間約20-30分ごとに再加圧した。
【0066】
また、Ru(H)(Cl)(H2)2(PCy3)2の生成は、適切なサイズの、厚壁テフロン(登録商標)栓シュトラウスフラスコで行うことも可能である。反応規模およびフラスコのサイズにより、数時間後、この系を水素ガスで再加圧する。別法として、この反応は、大気圧にて水素ガスをバブリングさせることにより行うことができる。
【0067】
空気中で不安定な橙色の固体の単離を、確実に完全に沈殿するように、この系を室温まで冷却し、多量(200 mL)の脱気したメタノールを添加することによって行った。この固体を濾過し、メタノールで洗浄し(3x, 50 mL)、次いで真空中で乾燥させて9.26 g、93%のRu(H)(Cl)(H2)2(PCy3)2を得た。
【0068】
RuCl2(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)の合成
方法A アルキン経路:
Ru(H)(Cl)(H2)(PCy3)2(1.00 g、1.43 mmol)を不活性雰囲気下で、-30℃まで冷却したジクロロメタン30 mLに溶解し、3-クロロ-3-メチル-1-ブチン(170 μL、1.5 mmol)を加えた。この溶液は直ちに暗赤紫色へ変わり、15分間攪拌して冷却槽からフラスコを取り出し、粘性のある油状物質を濃縮する。脱泡したメタノール(20 mL)を加えて紫色の固体を沈殿させ、次いでこれをメタノール(3x, 10 mL)で洗浄、乾燥して1.09 gすなわち約95.2%収率のカルベンを得る。
【0069】
選択NMRデータ(CD2Cl2):1H: δ19.26 (d, RuCH, JHH=11.7 Hz), 7.81 (d, RuCHCH, JHH=11.7 Hz); 31P:δ36.4 (s, RuPCy3); 13C:δ288.4 (t, RuCH, JCP=9.6 Hz), 146.9 (s), 133.5 (s)。
【0070】
NMRによる研究により、-30℃においてこの反応が非常に明瞭であり(カルベン種以外なし)、約99%まで進行することが示されている。室温ではこの反応は明瞭さが劣るだけでなく(すなわち、推定および未確認の他のカルベン種が少量生じる)、収率も98%までしか進行しない。従って、この化合物の生成のためには低温を使用すれば、わずかながら単離が容易になり、純粋な生成物の収率も高くなる。しかしながら、in situで使用するためのこのカルベンの生成は、室温で、ほとんどまたは全く明白な影響なく行うことができる。
【0071】
本明細書の説明の部分に記載された、Ru (H)(Cl)(H2)(PCy3)2を用いる他のあらゆる反応は、0.5 mLのCD2Cl2中20 mgの規模で行う以外は同様の方法で行った。市販されていないアルキン類は以下のPreparative Acetylenic Chemistry, L. Brandsma, Elsevier Science Publishers B. V. (Amsterdam, 1988); H. Wernerら, Chem. Ber. 122: 2097-2107 (1989); 及びK. Hirakiら, J. Chem. Soci., Dalton Trans, 873-877頁 (1985)の方法で製造し、これらはすべて参照により本明細書に組み入れる。
【0072】
方法B アルキン経路のトリアリールホスフィン変法
0.24 mLの3-クロロ-3-メチル-1-ブチンを、塩化メチレン(20 mL)中の-30℃のRu(H)(Cl)(PPh3)3溶液(2.0 g, 1.99 mmoles)に加えた。この反応混合液を0℃で1.5時間攪拌した。減圧下で容量を1 mLまで減じた後、20 mLのペンタンを加えた。得られた褐色固体を濾過により単離し、1 mLの塩化メチレンに再溶解し、次いでペンタン各10 mLで2回洗浄して目的の生成物1.5グラム(90%収率)を得た。
【0073】
方法C in situにおけるRu(H)(Cl)(H2)2(PCy3)2の生成
[RuCl2(COD)]x(0.500 g、1.78 mmol) 及びトリシクロヘキシルホスフィン(1.050 g、3.75 mmol)を250 mLの、厚壁テフロン栓シュトラウスフラスコに入れた。この系に、20 mLの脱気した第二ブタノールを加える。次いでこの系を真空下に置き、水素でパージして、密封し、さらに80℃まで加熱した。4時間後、この系を室温まで冷却し、水素で再加圧し、さらに16時間80℃で攪拌する。その後この系を室温まで冷却し、1容量のトルエンを加える。得られた溶液を-30℃まで冷却し、2-メチル-1-ブテン-3-イン(254 mL、2.66 mmol)を加える。1時間攪拌した後、この溶液を半分まで濃縮し、50 mLの脱泡したメタノールを加え、紫色の固体を得、前記のように単離して0.590 g、41%のRuCl2(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)を得る。
【0074】
RuCl2(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)の合成-ワンポット法
[RuCl2(COD)]x(0.500 g、1.79 mmol)及びトリシクロヘキシルホスフィン(1.000 g、3.58 mmol)を圧力計を装備した500 mLの高圧系に入れた。この系に25 mLの脱気した第二ブタノールおよびトリエチルアミン(0.250 mL、1.79 mol)を加えた。水素でパージした後、この系を1.5atmの水素で加圧して、必要に応じ再加圧しながら、80℃まで計20時間加熱する。わずかに褐色の溶液とともに、Ru(H)(H2)2Cl(PCy3)2であることがわかっている橙色の沈殿が認められる。この装置を室温まで、次いで0℃まで冷却し、この時点でアルゴンでパージした。3-クロロ-3-メチル-1-ブチン(0.600mL、5.3mmol)を加える。1時間かかって、橙色の沈殿は赤紫色に変化し、この反応物を氷浴から取り出し、さらに一時間攪拌する。脱気したメタノール(25 mL)を加え、紫色の固体を沈殿させ、次いでこれをメタノール(3x10 mL)で洗浄、乾燥し、1.35 g、94.5%のカルベンを得る。
【0075】
選択NMRデータ(CD2Cl2):1H:δ19.26 (d, RuCH, JHH=11.7 Hz, 1H), 7.81 (d, RuCHCH, JHH=11.7 Hz, 1H); 31P:δ36.4 (s, RuPCy3); 13C:δ288.4 (t, RuCH, JCP=9.6 Hz), 146.9 (s), 133.5 (s)。
【0076】
RuCl2(PiPr3)2Cl2Ru(=CH-CH=CMe2)の合成-ワンポット法
この方法は、トリシクロヘキシルホスフィンの代わりにトリイソプロピルホスフィン(0.573 g、3.58 mmol)を用いる以外は、RuCl2(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)の合成のワンポット法と同じである。この場合、中間生成物Ru(H)(H2)2Cl(PiPr3)2は可溶性であり、赤褐色の溶液が得られ、次いでこれを冷却し、これに3-クロロ-3-メチル-1-ブチンを加える。この反応はかなり激しく、直ちにガスを発生し、深紫色の沈殿が認められる。30分間攪拌した後、この固体を前記のように単離して1.85 g、92.5%のカルベンを得る。選択NMRデータ(CD2Cl2):1H:δ19.38 (d, RuCH, JHH=11 Hz, 1H), 7.95 (d, RuCHCH, JHH=11 Hz, 1H), 2.80 (m, PCH(CH3)2, 6H), 1.54 および 1.26 (s, RuCHCHC(CH3)2, 3H each), 1.23 (dd, P PCH(CH3)2, 36H); 31P:δ45.8 (s, RuPCy3)。
【0077】
in situで生成した触媒を用いたポリジシクロペンタジエンの合成
Ru2Cl2(PCy3)2(=CH-CH=CMe2)(以下にこの実施例ではルテニウムカルベン触媒という)のin situでの生成は、18 mg(0.025 mmol)のRu(H)(Cl)(H2)2(PCy3)2を、アルゴン下で約0.5-1.0mLのジクロロメタンに溶解させることにより達成される。この溶液を-30℃まで冷却し、この時点で3-クロロ-3-メチル-1-ブチン(3.5 mL、0.030 mmol)を加える。この溶液は直ちに赤紫色に変化し、これを15分間攪拌した後、溶媒を除去すると暗色の油状物質が得られる。固体を所望するのであれば、この溶液を濃縮し、少量(<1 mL)の脱気メタノールを加えて紫色の固体を得ることができ、これを真空中で乾燥させる(濾過なし)。
【0078】
以下で得られる溶液を40℃の油浴中で1時間、さらに100℃のオーブンで少なくとも1時間おいて重合を行う。
方法A:
in situで生成したルテニウムカルベン触媒を25 mLのDCPDに溶解し、ビーカーへ注ぐ。
方法B:
in situで生成したルテニウムカルベン触媒を、40 mgのトリフェニルホスフィンを含む5 mLのDCPDに溶解し、アルゴン下で攪拌する。4時間後、この溶液はかなり粘性を有するようになり、ビーカー中の20 mLのDCPDに加える。
方法C:
in situで生成したルテニウムカルベン触媒を、40 mgのトリフェニルホスフィンを含む1 mLのDCPDに溶解し、アルゴン下で攪拌する。17時間後、この溶液は粘液性の、柔らかいゼラチン様の粘稠度を有し、これを4 mLのDCPDに溶解した後、ビーカー中の20 mLのDCPDに加える。
【0079】
Ru(COD)(COT)+2PCy3+α,α-ジクロロトルエン
15 mLのトルエン中のRu(COD)(COT)(0.11 g; 0.33 mmol)及びPCy3(0.19 g; 0.67 mmol)溶液にα,α-ジクロロトルエン(50 mL; 0.39 mmol)を加えた。この反応混合液を室温で2日間攪拌した。得られた深褐色溶液を蒸発させ、残渣をアセトンおよびエタノール(各5 mLで2回)で洗浄して紫色の固体を単離した。この生成物のNMRスペクトルは、化合物Ru(=CHPh)Cl2(PCy3)2と同一であった。収率50%。
【0080】
Ru(H)2(H2)(PCy3)2+スチレン+Cl2CHCO2Me
スチレン(5 mL)をペンタン(50 mL)中のRu(H)2(H2)2(PCy3)2(3.0 g、4.50 mmol)の懸濁液に加えた。直後に得られる赤色の溶液を1時間攪拌し、次いでCl2CHCO2Me(0.9 mL、8.7 mmol)を加えた。反応混合液を45分間攪拌した。溶媒を留去し、残渣をアセトンおよびエタノール(各20 mLで2回)で洗浄した。紫色の固体(2.0g, 54%収率)を単離し、そのNMRデータはRuCl2(PCy3)2(=CHPh)のものと同一であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(X)(X1)(L)(L1)M=C(R17)(CH2CR12R13R')の化合物の合成法であって
、次式
【化1】

の化合物を式R17C≡CCR12R13R'の化合物と接触させ、次いで、式HXの化合物を加える工程を含んでなる方法。
{式中、
nは1または2であり;
Mはオスミウムまたはルテニウムであり;
R'は水素またはC1-C20アルキルであり;
R12およびR13はそれぞれ独立して、水素、置換された置換基、および置換されてない置換基(ここで、置換基は、C1-C18アルキル、C2-C18アルケニル、C2-C18アルキニル、アリール、C1-C18カルボキシレート、C1-C18アルコキシ、C2-C18アルケニルオキシ、C2-C18アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2-C18アルコキシカルボニル、C1-C18アルキルチオ、C1-C18アルキルスルホニル、およびC1-C18アルキルスルフィニルからなる群より選択される)からなる群より選択され;
R17は水素、アリール、およびC1-C18アルキルからなる群より選択され;
XおよびX1は独立して、陰イオンリガンドから選択され;そして
LおよびL1は独立して、中性電子供与体から選択される}
【請求項2】
次式
【化2】

の化合物の合成法であって、次式
【化3】

の化合物を次式
【化4】

の化合物と接触させる工程を含んでなる方法。
{式中、
nは1または2であり;
Mはオスミウムまたはルテニウムであり;
R14、R15およびR16はそれぞれ独立して、水素、置換された置換基、および置換されてない置換基(ここで、置換基は、C1-C19アルキル、C2-C19アルケニル、C2-C19アルキニル、アリール、C1-C19カルボキシレート、C1-C19アルコキシ、C2-C19アルケニルオキシ、C2-C19アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2-C19アルコキシカルボニル、C1-C19アルキルチオ、C1-C19アルキルスルホニル、およびC1-C19アルキルスルフィニルからなる群より選択される)からなる群より選択され;
XおよびX1は独立して、陰イオンリガンドから選択され;そして
LおよびL1は独立して、中性電子供与体から選択される}
【請求項3】
Mがルテニウムである請求項2記載の方法。
【請求項4】
R14、R15およびR16がそれぞれ独立して、水素、非置換C1-C19アルキル、置換C1-C19アルキル、非置換C2-C19アルケニル、置換C2-C19アルケニル、非置換アリール、および置換アリールからなる群より選択される請求項2記載の方法。
【請求項5】
R14またはR15置換基の置換が、非置換C1-C5アルキル、置換C1-C5アルキル、非置換C1-C5アルコキシ、置換C1-C5アルコキシ、非置換アリール、および置換アリールからなる群より選択される請求項2記載の方法。
【請求項6】
R14またはR15が、ヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基を含む請求項2記載の方法。
【請求項7】
XおよびX1リガンドが独立して、水素、ハロゲン、置換された置換基、および置換されてない置換基(ここで、置換基は、C1-C20アルキル、アリール、C1-C20アルコキシド、アリールオキシド、C3-C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C1-C20カルボキシレート、アリールまたはC1-C20アルキルスルホネート、C1-C20アルキルチオ、C1-C20アルキルスルホニル、およびC1-C20アルキルスルフィニルからなる群より選択される)からなる群より選択される請求項2記載の方法。
【請求項8】
置換基の置換がハロゲン、C1-C5アルキル、C1-C5アルコキシ、およびフェニルからなる群より選択される請求項7記載の方法。
【請求項9】
XおよびX1が独立して、塩化物、CF3CO2、CH3O2、CFH2CO2、(CH3)3CO、(CF3)2(CH3)CO、(CF3)(CH3)2CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、およびトリフルオロメタンスルホネートからなる群より選択される請求項7記載の方法。
【請求項10】
XおよびX1が双方とも塩化物である請求項9記載の方法。
【請求項11】
LおよびL1がそれぞれ、式PR3R4R5{式中、
R3は第二アルキルまたはシクロアルキル基であり、そして
R4およびR5は独立して、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキルおよびシクロアルキル基からなる群より選択される}で示されるホスフィンである請求項2記載の方法。
【請求項12】
LおよびL1が独立して、-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、および-P(イソプロピル)3からなる群より選択される請求項11記載の方法。
【請求項13】
次式
【化5】

の化合物の合成法であって、次式
【化6】

の化合物を次式
【化7】

の化合物と接触させる工程を含んでなる方法。
{式中、
Mはオスミウムまたはルテニウムであり;
R14、R15およびR16はそれぞれ独立して、水素、置換された置換基、および置換されてない置換基(ここで、置換基は、C1-C19アルキル、C2-C19アルケニル、C2-C19アルキニル、アリール、C1-C19カルボキシレート、C1-C19アルコキシ、C2-C19アルケニルオキシ、C2-C19アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2-C19アルコキシカルボニル、C1-C19アルキルチオ、C1-C19アルキルスルホニル、およびC1-C19アルキルスルフィニルからなる群より選択される)からなる群より選択され;
XおよびX1は独立して、陰イオンリガンドから選択され;そして
L、L1およびL2は独立して、トリアリールホスフィンから選択される}
【請求項14】
Mがルテニウムであり;
R14、R15およびR16がそれぞれ独立して、水素、非置換C1-C19アルキル、置換C1-C19アルキル、非置換C2-C19アルケニル、置換C2-C19アルケニル、非置換アリール、および置換アリールからなる群より選択され;
XおよびX1が双方とも塩化物であり;そして
L、L1およびL2がトリフェニルホスフィンである請求項13記載の方法。
【請求項15】
次式
【化8】

{式中、nは1または2であり;Mはオスミウムまたはルテニウムであり;XおよびX1は独立して、陰イオンリガンドから選択され;そして、LおよびL1は独立して、中性電子供与体から選択される}
で示される化合物の製造方法であって、
NaOHおよびH2の存在下で、[MXX1(COD)]mとLおよびL1とを反応させることを含んでなる方法。
【請求項16】
次式
【化9】

{式中、nは1または2であり;Mはオスミウムまたはルテニウムであり;X1は陰イオンリガンドであり;そして、LおよびL1は独立して、中性電子供与体から選択される}
で示される化合物の製造法であって、
H2の存在下で、[M(X1)2(COD)]mとLおよびL1とを反応させることを含んでなる方法。
【請求項17】
式Ru(X)2(L)2(=CHR1)の化合物の合成法であって、
溶媒中、Lの存在下で、R1CHX2とRu(COD)(COT)とを反応させることを含んでなる方法
{式中、
R1は水素、非置換C1-C20アルキル、置換C1-C20アルキル、非置換C2-C20アルケニル、置換C2-C20アルケニル、非置換アリール、および置換アリールからなる群より選択され;
Xはハロゲンであり;そして、
Lは式PR3R4R5(ここで、R3は第二アルキルまたはシクロアルキル基であり、そして、R4およびR5は独立して、アリール、C1-C10第一アルキル、第二アルキル、またはシクロアルキル基から選択される)}
【請求項18】
R1がヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群より選択される官能基を含む請求項17記載の方法。
【請求項19】
Xが塩化物であり;
LがP(シクロヘキシル)3、P(シクロペンチル)3、およびP(イソプロピル)3からなる群より選択され;そして、
溶媒がトルエンである請求項17記載の方法。
【請求項20】
R1がフェニルである請求項17記載の方法。

【公開番号】特開2011−46729(P2011−46729A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235626(P2010−235626)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【分割の表示】特願2007−260396(P2007−260396)の分割
【原出願日】平成9年11月10日(1997.11.10)
【出願人】(301059570)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (14)
【Fターム(参考)】