説明

ルテニウム多孔質体及びその作製方法

【課題】容易に作製して、そのまま触媒として用いることができ、使用後に効率よくルテニウムを回収することができるルテニウム多孔質体を提供する。
【解決手段】ルテニウム単体とマンガン単体の混合物を溶融して両者の単相固溶体を作製し、該単相固溶体を、硫酸、硫酸アンモニウム等のマンガンを選択的に溶解する溶液に浸漬する。或いは、更に電解を行ってもよい。これにより、該単相固溶体中からマンガンが選択的に除去され、ルテニウム多孔質体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム多孔質体及びその作製方法に関する。特に、ナノメートルサイズの細孔を有するルテニウム多孔質体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金、パラジウム、ロジウム、及びイリジウムは、例えば、炭化水素を水と二酸化炭素に、一酸化炭素を二酸化炭素に、窒素酸化物を窒素に、それぞれ酸化もしくは還元する反応の触媒として機能することが知られており、自動車排ガスを無害化する三元触媒などとして広く用いられている。
【0003】
一方、ルテニウムは、白金やパラジウムなどと同じく白金族元素であるが、塊状のルテニウム単体はほとんど触媒活性を示さない。しかし、ルテニウムをナノ粒子化すると触媒活性を示し、粒子径によって触媒機能性を変化させることができるとの報告がなされている(例えば非特許文献1)。ナノ粒子化したルテニウムは、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素にする無害化反応や、一酸化炭素と水素からメタンを合成するメタネーション反応などの触媒として機能する。
【0004】
ナノ粒子状の触媒は取り扱いが困難であることから、使用する場合には担体上に保持することが多い。例えば、特許文献1に記載のように、炭素を担体としてナノ粒子を保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-515063号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. H. Joo et al., Nano Letters, 2010, 10(7), pp. 2709-2713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ルテニウムをナノ粒子化するためには、表面安定化剤、還元剤、有機溶剤などの各種試薬を使用する必要があり、作製に手間がかかる。また、これを触媒として用いるためには多孔質担体等に担持させる工程が必要となる。そのため、ナノ粒子状のルテニウムを作製し、触媒として使用できるようにするためのプロセスが複雑になる。また、触媒使用後にルテニウムをリサイクルする場合、担体からルテニウムを分離する工程が必要であり、効率よくルテニウムを回収することが難しい。
【0008】
ナノ粒子にするとバルク体とは異なる物理的、科学的性質を持つことは一般の金属等においても知られていることであるが、ナノ粒子の形態の他にナノ細孔を有する多孔質体の形態でも同様の性質を有することも知られている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、容易に作製して、そのまま触媒として用いることができ、使用後に効率よくルテニウムを回収することができる、ルテニウム多孔質体の作製方法、及び該方法により作製したルテニウム多孔質体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るルテニウム多孔質体の作製方法は、
a) ルテニウムとマンガンとの単相固溶体を作製する単相固溶体作製工程と、
b) 前記単相固溶体をマンガンを選択的に溶解する溶液と反応させることによりルテニウム多孔質体を作製するマンガン除去工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るルテニウム多孔質体の作製方法では、ルテニウムとマンガンの単相固溶体を作製して、次に、この単相固溶体を、マンガンのみを選択的に溶解する溶液と反応させる。このとき、マンガンの溶出に伴って固溶体中のルテニウム原子が再配列し、ナノメートルサイズの細孔を有する多孔質体が形成される。このルテニウム多孔質体は、そのまま触媒として用いることができる。
【0012】
前記単相固溶体中のルテニウムの含有率は10〜45at%とすることが望ましい。
ルテニウムの含有率が10at%未満の場合、多孔質体の作製効率が悪い。さらに、単相固溶体内のルテニウムの密度が低いため、マンガン溶出時にルテニウムが溶液中に分散してしまい、再配列による多孔質体の形成が困難となる。そのため、ルテニウム多孔質体の収率が悪くなる。
一方、ルテニウムの含有率が45at%を超える場合、単相固溶体の表面近傍のマンガンは溶出するものの、内部のマンガンは溶出しにくくなり、十分なルテニウム多孔質体が形成されない。
【0013】
前記単相固溶体作製工程は、ルテニウム単体(融点2334℃)とマンガン単体(融点1519℃)をルテニウムの融点以上の温度に加熱して溶融させた後、冷却して固化させることにより行うことができる。ルテニウム及びマンガンの溶解には、例えばアーク溶解法を用いることができるが、それに限られるものではない。この際の雰囲気は、大気中でも構わない。また、溶解鋳造ではなく、メカニカルアロイング等の固相処理により単相固溶体を作製してもよい。
【0014】
上記により作製した単相固溶体を、次のマンガン除去工程の前に、600〜1268℃の範囲内で加熱処理しておくことが望ましい。1268℃以下とするのは、1268℃より高い温度では該当固溶体が溶融するからである。加熱時間は温度に大きく依存するが、1268℃の最高温度では1時間程度でよい。それよりも低温では、ほぼアレニウス式に従って処理時間を長くする。600℃以上としたのは、それよりも低温では処理時間が非常に長くなるからである。これにより、単相固溶体内の均質性を高め、作製するルテニウム多孔質体の細孔のサイズを小さくし、その均質性を高めることができる。この加熱処理は、表面近傍の酸化などを防ぐため、真空中あるいは不活性ガス等の非酸化性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0015】
前記マンガン除去工程で用いるマンガンのみを選択的に溶解する溶液とは、ルテニウムを溶解することなくマンガンのみを溶解する溶液のことであり、硫酸、硝酸、硫酸アンモニウム水溶液、塩酸、酢酸、塩化ナトリウム水溶液などを用いることができる。この溶液に前記単相固溶体を浸漬する等、両者を反応させることにより前記単相固溶体からマンガンのみが溶出し、ルテニウム多孔質体が得られる。このとき、適宜、溶液の種類を選択し、濃度を調整することにより、単相固溶体中のマンガンの溶出速度を変化させることができる。これによりルテニウムの再配列の速度が変化し、ルテニウム多孔質体の孔の大きさを変化させることができる。
単相固溶体と上記溶液の反応には、単に浸漬する場合だけではなく、電解処理を行う場合も含まれる。電解処理を行うことによりマンガンの溶出を促進し、ルテニウムが再配列して多孔質体を形成する速度を増加させて、ルテニウム多孔質体の孔の大きさを小さくすることができる。
【0016】
前記マンガン除去工程の後に、さらにルテニウム多孔質体を加熱する熱処理工程を加えることが望ましい。このとき、加熱温度や加熱時間を調整することにより、上記工程により作製した多孔質体内のルテニウムをさらに再配列させて、多孔質体の孔を所望の大きさに変化させることができる。
熱処理工程は、300〜2334℃の範囲内で行うことが望ましい。300℃よりも低いと十分な再配列が行われず、ルテニウムの融点である2334℃を超えるとルテニウムが溶融するためである。加熱時間はやはり温度に大きく依存し、2334℃近くでは1分程度でよいし、300℃に近い温度では100時間程度必要となる。
この熱処理工程は、真空あるいは不活性ガス等の非酸化性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。なお、酸化しない程度の低温(例えば、400℃以下)であれば、大気下でも構わない。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るルテニウム多孔質体の作製方法を用いれば、従来のルテニウムのナノ粒子化の場合のように表面安定化剤、還元剤、有機溶剤などの各種試薬を使用する必要がなく、容易にルテニウム多孔質体を作製することができる。また、従来のナノ粒子のように担体に保持させる必要がなく、そのまま触媒として用いることができる。さらに、使用後にルテニウムをリサイクルする場合、触媒を担体から分離する必要がなく、効率よくルテニウムを回収することができる。
【0018】
また、マンガン除去工程において使用する溶液の種類や濃度を変更したり、電解処理を付加したりすることにより、ルテニウム多孔質体の孔の大きさを変更することができる。また、ルテニウム多孔質体の作製後に、上記のような熱処理工程を加えることによって、孔の大きさを変化させることができる。これらにより、触媒としての機能性を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るルテニウム多孔質体作製方法の一実施例により作製した試料A〜Cの走査電子顕微鏡写真。
【図2】本発明に係るルテニウム多孔質体作製方法の一実施例により作製した試料A〜CのX線回折測定データ。
【図3】本発明に係るルテニウム多孔質体作製方法の一実施例により作製した試料Aのエネルギー分散型X線分光測定結果。
【図4】本発明に係るルテニウム多孔質体作製方法の一実施例により作製した試料Aの窒素ガス吸着による細孔分布測定結果。
【図5】本発明に係るルテニウム多孔質体作製方法の一実施例により作製した試料A'の走査電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るルテニウム多孔質体の作製方法の一実施例を説明する。
【0021】
ルテニウム単体の粉末6.299gとマンガン単体の塊2.908gを混合し、水冷銅るつぼを備えたアーク炉内に装入した。なおこの混合比は、原子数比ではルテニウム20at%、マンガン80at%である。炉内を約30 Paの真空にしたのち純度99.9%のアルゴンガスで満たすという置換操作を3回繰り返したのち、アーク放電により混合物を溶融させた。溶融体の温度はルテニウムの融点(2334℃)よりも遙かに高温であり、恐らく最高約4000℃に達したものと思われる。その後、炉内で自然冷却することにより、ルテニウムとマンガンの単相固溶体を作製した。
ここでは、混合物の溶融をアルゴンガス雰囲気下で行ったが、他の非酸化性ガス雰囲気下、真空下、あるいは大気下で加熱、溶解を行ってもよい。
また、本実施例では、5μm程度の粉体のルテニウム単体、塊のマンガン単体を用いたが、これらは粉体、顆粒、塊のいずれを用いてもよい。
【0022】
次に、作製した単相固溶体の均質性を高めるため、それをアルゴンガスに5%の水素ガスを加えた混合ガス雰囲気下において、1000℃で24時間加熱した。アルゴンガスに水素ガスを加えた混合ガスを用いたのは試料の酸化を防ぐためであるが、これは必ずしも必須ではない。
この均質化加熱も、上記ガス以外の非酸化性ガス雰囲気下或いは真空下で行ってもよいし、さらには大気下で行ってもよい。
【0023】
さらに、上記の単相固溶体作製工程で作製した単相固溶体を、ルテニウムを溶解することなくマンガンのみを溶解する溶液と反応させる。本実施例では上記方法で3個の単相固溶体を作製し、これらに対して以下の3種類の処理を行った。処理時間はいずれも24時間である。
試料A:0.1mol/Lの硫酸に浸漬し、単相固溶体に+0.7V(飽和カロメル電極基準)の電位を加えて電解
試料B:0.1mol/Lの硫酸に浸漬
試料C:0.1mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液に浸漬
【0024】
上記の処理により得られた多孔質体の走査電子顕微鏡写真を図1(a)〜(c)に示す。図1(a)が試料A、図1(b)が試料B、図1(c)が試料Cである。これらの写真から、いずれの処理を行った試料でも多孔質体が形成されていることが分かる。特に、試料Aや試料Cでは、5nm以下の孔径やリガメント径を有する多孔質体が形成されていることが分かる。
【0025】
図1(a)〜(c)を比較すると、反応させる溶液の種類や電解処理の有無によって細孔の大きさが変化することが分かる。これは、それらの条件によってマンガンの溶出速度、及び、それに伴うルテニウム原子の再配列速度、すなわち多孔質体の形成速度が異なることによる。この点を考慮すれば、溶液の種類の選択や、電解処理の有無以外に、反応させる溶液の濃度を変化させても細孔の大きさを変化させることができる。
【0026】
上記の工程により作製した多孔質体の特性を調べるため、種々の測定を行った。まず、試料A〜CのX線回折測定の結果を図2に示す。図2の上段は、ルテニウム単体から得られるX線回折のピーク位置及び強度の標準データである。試料A〜Cの全てについて、ルテニウム単体から得られる回折ピークと同じ回折角及び強度で回折ピークが検出された。多孔質体を構成するルテニウムが酸化した場合、ルテニウム酸化物の回折ピークが図2に示す角度よりも低角側に現れるが、そのようなピークは検出されなかった。従って、試料A〜Cはいずれもルテニウム単体により構成され、その酸化物を含まない多孔質体であるといえる。
【0027】
次いで、ルテニウム多孔質体の含有元素を詳細に確認するため、試料Aのエネルギー分散型X線分光測定を行った。その結果を図3に示す。
図3の測定結果から、試料Aの多孔質体に含まれるマンガンの含有率は5〜10at%程度であると推定される。従って、単相固溶体作製時の材料に80at%の含有率で含まれていたマンガンは、上記マンガン除去工程においてほぼ除去されたといえる。
【0028】
さらに、試料の細孔分布を調べるため、試料Aについて窒素ガス吸着による細孔分布測定を行った。その結果を図4に示す。この結果から、試料Aは径の大きさが1〜20nmである細孔を有しており、細孔の径の平均が3.2nmであることが分かる。
【0029】
単相固溶体作製工程とマンガン除去工程を行って得た試料Aを、さらに1000℃で2時間加熱する処理を行い、試料A'を作製した。試料A'の走査電子顕微鏡写真を図5に示す。試料Aの平均孔径は3.2nmであったが、図5に示す試料A'の細孔径は500nm〜1000nmにまで大きくなっている。これは、ルテニウム多孔質体内のルテニウム原子が、加熱処理によりさらに再配列したことによると考えられる。従って、単相固溶体作製工程とマンガン除去工程の後に、さらに温度や時間を適宜調整して加熱処理を行えば、ルテニウム多孔質体を所望の大きさの細孔を有するものに再構成させることができる。
【0030】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変形や修正を行うことが可能である。上記実施例では、ルテニウム単体とマンガン単体を、ルテニウムの含有率が20at%となるように混合して単相固溶体を作製したが、ルテニウムの含有率は前記範囲内であれば任意である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ルテニウムとマンガンとの単相固溶体を作製する単相固溶体作製工程と、
b) 該単相固溶体をマンガンを選択的に溶解する溶液と反応させることによりルテニウム多孔質体を作製するマンガン除去工程と、
を有することを特徴とするルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項2】
前記単相固溶体中のルテニウム含有率が10〜45at%であることを特徴とする、請求項1に記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項3】
前記単相固溶体作製工程において、ルテニウムとマンガンの混合物をルテニウムの融点以上に加熱することを特徴とする、請求項1又は2に記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項4】
前記溶液が、硫酸、硝酸、硫酸アンモニウム水溶液、塩酸、酢酸、塩化ナトリウム水溶液のうちのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項5】
前記単相固溶体作製工程の後、前記マンガン除去工程の前に、単相固溶体を600〜1268℃に加熱する均質化処理を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項6】
前記マンガン除去工程において電解処理を行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項7】
前記マンガン除去工程の後に、ルテニウム多孔質体を300〜2334℃に加熱することにより細孔の大きさを変化させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のルテニウム多孔質体の作製方法。
【請求項8】
細孔の径が1〜1000nm、リガメント径が1〜1000nmであるルテニウム多孔質体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162423(P2012−162423A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24576(P2011−24576)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】