説明

ルビジウムとストロンチウムの分離方法

【課題】複雑な構造を有する有害性化合物や特殊で高価な樹脂を必要とせずに、ごく普通の試薬を利用し、簡便な操作で、SrとRbを効率よく分離することができる方法を提供する。
【解決手段】RbとSr2+を含有し、さらに少なくとも1種のCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを含有する試料溶液に、下記の一般式(1)
Y (1)
(式中、BはNH,Na,Li,Kから選択された陽イオンを表し、YはWO2−,MoO2−から選択された陰イオンを表す。)
で表される水溶性塩を添加することにより難溶性の沈殿AYを生成させて、該沈殿AY中にSr2+を共沈させることによって捕集し、上澄み液中にRbを残存させることにより、RbとSr2+を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルビジウムとストロンチウムが混在する試料溶液から、ルビジウムとストロンチウムを分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ルビジウムは原子番号37番の元素であり、85Rb及び87Rbの2つの同位体が存在する。ストロンチウムは原子番号38番の元素であり、88Sr,87Sr,86Sr,84Srの同位体が存在する。
87Rbは、半減期4.88×1010年でβ壊変して87Srになることから、岩石の年代測定(ルビジウム−ストロンチウム年代測定法)等に用いられる。この測定法では、87Rbと87Srを分離することが必要となる。
【0003】
従来のSrとRbの分離技術としては、特殊な化合物を使用したり(特許文献1)、特殊なSr選択樹脂からなるカラムを用いて固相抽出や相抽出法によりSrを選択的に除去する方法(非特許文献1)が知られている。
しかしながら、これら従来の技術では、複雑な構造を有する有害性化合物を使用したり、特殊で高価な樹脂カラムを必要とし、操作も複雑である等の問題点があった。
【特許文献1】特開平7-246303号公報
【非特許文献1】Galler P., Limbeck A., Boulyga S.F., et al., Analytical Chemistry, 79:5023-5029 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、ごく普通の試薬を利用し、簡便な操作で、SrとRbを分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では上記課題を解決するために、つぎの1〜3の構成を採用する。
1.RbとSr2+を含有し、さらに少なくとも1種のCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを含有する試料溶液に、下記の一般式(1)
Y (1)
(式中、BはNH,Na,Li,Kから選択された陽イオンを表し、YはWO2−,MoO2−から選択された陰イオンを表す。)
で表される水溶性塩を添加することにより難溶性の沈殿AYを生成させて、該沈殿AY中にSr2+を共沈させることによって捕集し、上澄み液中にRbを残存させることを特徴とする、RbとSr2+の分離方法。
2.RbとSr2+を含有する水溶液に、下記の一般式(2)で表される水溶性塩を添加することによって、前記試料溶液を調製することを特徴とする1に記載の分離方法。
AX (2)
(式中、AはCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを表し、XはNO,Clから選択された陰イオンを表す。)
3.さらに、前記上澄み液に酸を添加することによってW4+及び/又はMo4+を沈殿させて除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の分離方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複雑な構造を有する有害性化合物や特殊で高価な樹脂を必要とせずに、ごく普通の試薬を利用し、簡便な操作で、SrとRbを効率よく分離することができる。したがって、環境学や地質学の分野におけるルビジウムとストロンチウムの定量及び同位体元素の分析、或いはSr同位体を含有する放射性廃棄物(廃液)処理等の操作の簡略化と大幅な低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の原理は、下記の反応式(3)にしたがって、水溶性の塩BY(1)及びAX(2)を用いて、RbとSr2+を含有する試料溶液から水難溶性の沈殿AYを生成させて、この沈殿AY中にSr2+を共沈させることによって捕集し、上澄み液中にRbを残存させることによりRbとSr2+を分離するものである。
Rb+Sr2++AX+BY→AY・Sr(沈殿)+Rb+B+X(3)
(式中、AはCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを表し、XはNO,Clから選択された陰イオンを表す。また、BはNH,Na,Li,Kから選択された陽イオンを表し、YはWO2−,MoO2−から選択された陰イオンを表す。)
【0008】
つぎに、本発明によりRbとSrを分離する手順の1例について、説明する。
(1)RbとSr2+を含有する試料溶液に、水溶性の塩BY(1)及びAX(2)の水溶液を添加して、沈殿AYを生成させる。試料溶液中のSr2+は、この沈殿AY中に共沈し捕集される。
(2)沈殿AYを遠心分離、濾過等により分離し、上澄み液1中にRbを残存させる。
(3)上澄み液1に酸を添加することによってW4+及び/又はMo4+を沈殿させて除去する。沈殿を除去した上澄み液2には、Ca2+,Sr2+が残存する。
上記の手順(1)において、RbとSr2+を含有する試料溶液中に金属イオンAが高い濃度で存在する場合には、水溶性の塩AX(2)を使用せずに、BY(1)の水溶液のみを添加するようにしてもよい。
また、分離されたRb及びSrは、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)等を用いる公知の方法によって、定量することができる。
【実施例】
【0009】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。以下の例では、テスト溶液及び共沈剤として、次のものを使用した。
(テスト溶液)
RbClとSrClの混合液(RbCl5 μg/g,SrCl 0.2 μg/gを含有する 2 %(重量%:以下同様)硝酸水溶液)をテスト溶液として用いた。
(共沈剤)
10gのCa(NO3)2を100gの純水中に溶解して10%のCa(NO3)2水溶液を調製した。
また、10g(NH4)2WO4及び10gのNa2WO4をそれぞれ100gのアンモニア水(アンモニア含有量25%)中に溶解して、10%の(NH4)2WO4アンモニア水溶液及び10%のNa2WO4アンモニア水溶液を調製した。
【0010】
(実施例1)
1mLのテスト溶液につき、10%のCa(NO3)2水溶液40 μL及び10%の(NH4)2WO4アンモニア水溶液2 mLを共沈剤として添加し、十分混合し沈澱を生成させた。つぎに、遠心分離により、上澄み液と沈澱を分離させた。
定法により試料調整した後、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)(Agilent 7500c;Yokogawa)を用いて上澄み液と沈澱中のRbとSrの濃度をそれぞれ測定し、Rbの回収率とSrの除去率を求めた結果を表1に示す。
【0011】
(実施例2)
上記実施例1において、10%の(NH4)2WO4アンモニア水溶液に代えて、10%のNa2WO4アンモニア水溶液2mLを用いた以外は、実施例1と同様に処理して、Rbの回収率とSrの除去率を求めた結果を表1に示す。
【0012】
(比較例1)
上記実施例1と同様なテスト溶液を、従来技術である、市販のSr選択樹脂(Sr-resin, Eichrom:湿重量0.5 g)を充填したカラムを通す(流速1 mL/min)ことによりSrを分離し、Rbの回収率とSrの除去率を求めた結果を表1に示す。この例では、Sr選択樹脂に適用するために、テスト溶液を4 Mと8 M硝酸酸性に調整したものを用いた。
【0013】
【表1】

【0014】
表1にみられるように、本発明の方法によりRbとSrを簡単な工程で効率よく分離することができた。本発明の方法では、強酸性条件が必要となるSr選択性樹脂を用いた従来の方法よりもよい分離性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の分離方法を用いることにより、環境学や地質学の分野におけるルビジウムとストロンチウムの定量及び同位体元素の分析、或いはSr同位体を含有する放射性廃棄物(廃液)処理等の操作の簡略化と大幅な低コスト化が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RbとSr2+を含有し、さらに少なくとも1種のCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを含有する試料溶液に、下記の一般式(1)
Y (1)
(式中、BはNH,Na,Li,Kから選択された陽イオンを表し、YはWO2−,MoO2−から選択された陰イオンを表す。)
で表される水溶性塩を添加することにより難溶性の沈殿AYを生成させて、該沈殿AY中にSr2+を共沈させることによって捕集し、上澄み液中にRbを残存させることを特徴とする、RbとSr2+の分離方法。
【請求項2】
RbとSr2+を含有する水溶液に、下記の一般式(2)で表される水溶性塩を添加することによって、前記試料溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
AX (2)
(式中、AはCa2+、Ba2+から選択された金属イオンを表し、XはNO,Clから選択された陰イオンを表す。)
【請求項3】
さらに、前記上澄み液に酸を添加することによってW4+及び/又はMo4+を沈殿させて除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の分離方法。

【公開番号】特開2009−256700(P2009−256700A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104286(P2008−104286)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】