説明

ループパイル織編物

【課題】 ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有するループパイル織編物の提供。
【解決手段】 複合撚糸(a)(紡績糸と水溶性糸との複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆で、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の1.3〜3倍で且つ紡績糸98〜20質量及び水溶性糸2〜80質量%の複合撚糸)、複合撚糸(b)(同撚り方向の紡績糸の2本以上と水溶性糸との複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆で、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍で且つ紡績糸98〜40質量及び水溶性糸2〜60質量%の複合撚糸)、又は複合撚糸(c)(紡績糸と非ゴム弾性フィラメント糸と水溶性糸との複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆で、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍で且つ紡績糸15〜70質量%、非ゴム弾性フィラメント糸10〜60質量%及び水溶性糸5〜75質量%の複合撚糸)をパイル糸とするループパイル織編物、それからループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去したループパイル織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡績糸と水溶性糸を含む特定の複合撚糸から形成したループパイルを有するループパイル織編物、および当該ループパイル織編物からループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去してなる、ふっくらとしていて、柔らかな良好な風合を有し、しかもループパイルを形成する紡績糸からの原綿の抜けの少ないループパイル織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
タオルなどに用いられるループパイル生地は、通常、紡績糸をループパイル糸として生地を製編織することによって製造されており、ループパイル生地では一般にふっくらとした風合を有するものが望まれている。ふっくらとした風合を有するループパイル生地は、撚りの甘い紡績糸をループパイル糸として用いてループパイル生地を製編織することによって得られるが、その一方でループパイルを形成する紡績糸の撚りが甘いことに起因して、ループパイルを形成している紡績糸から原綿が抜け易く、洗濯、乾燥、使用を繰り返していくうちに、ループパイルから原綿が抜け落ちてループパイルのやせが生じて風合が低下したり、洗濯中や使用中などにループパイルから抜け落ちた原綿が他の生地などに付着するなどの不具合を起こす。
【0003】
ソフトで、ボリューム感があり、更に腰、はり感を兼ね備えるタオル地の提供を目的として、撚係数が3.0〜4.0の太番手糸と撚係数が3.0〜4.0の細番手糸を引き揃えて単糸撚方向の反対方向に加撚した綿100%の双糸をパイル糸とするタオルが知られている(特許文献1を参照)。このタオル地はパイル糸からの原綿の抜け落ちは少ないが、柔らかさ、ふっくら感の点で未だ十分に満足のゆくものではなかった。
【特許文献1】特開平8−13283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有し、しかもパイル糸を形成する紡績糸からの原綿の抜け落ちが少なく、洗濯や使用を繰り返しても、ループパイルのやせによる風合の低下、ループパイルから抜け落ちた原綿による他の生地の汚れなどを生ずることのないループパイル織編物を提供することである。
さらに、本発明は、ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有し、しかもパイル糸からの原綿の抜け落ちのないループパイル織編物を製造するための素材(原反)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、ループパイル生地を製造する際に、パイル糸として紡績糸と水溶性糸を含む特定の複合撚糸を用いる、すなわち、パイル糸として、紡績糸と水溶性糸を紡績糸の撚り方向と逆の方向に紡績糸の撚数の1.3〜3倍という特定の撚数で撚り合わせて得られる特定の複合撚糸を用いるか、撚り方向を同じくする2本以上の紡績糸と水溶性糸を紡績糸の撚数の0.3〜2倍の撚数で撚り合わせて得られる複合撚糸を用いるか、または紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸を紡績糸の撚り方向と逆の方向に紡績糸の撚数の0.3〜2倍の撚数で撚り合わせて得られる複合撚糸を用いてループパイル織編物を作製し、そのループパイル織編物におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去すると、ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有し、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちのないループパイル織編物が得られることを見出した。
【0006】
さらに、本発明者らは、パイル糸として用いる前記した3種類の複合撚糸はいずれも糸中に水溶性糸が存在するために、毛羽が少なく、さらに補強の役割を果たすことから、高速の織機や編機を使用して、糸切れなどのトラブルを発生することなく、当該複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物を高い生産性で円滑に製造できることを見出した。
また、本発明者らは、パイル糸として、紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸からなるものを用いた場合には、フィラメント糸として用いる合成繊維、半合成繊維、絹などの天然繊維などの種類を選ぶことによって、ループパイル織編物におけるループパイルの風合や触感などを調整したり、変えたりできることを見出した。
【0007】
また、本発明者らは、パイル糸として用いる前記3種類の複合撚糸における水溶性糸としては、水溶性フィラメント糸、特に水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸が取り扱い性、水溶解除去性、ループパイル織編物を製造する際の取り扱い性などの点で好ましいこと、パイル糸として用いる前記した複合撚糸では、紡績糸と水溶性糸の割合、または紡績糸と弾性を示さないフィラメント糸と水溶性糸の割合を特定の範囲にすることが好ましいことなどを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(a1)紡績糸と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(a2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆であり;
(a3)複合撚糸の撚数が、紡績糸の撚数の1.3〜3倍である;並びに、
(a4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜20質量および水溶性糸の割合が2〜80質量%である;
という上記の要件(a1)〜(a4)を備える複合撚糸(a)であることを特徴とするループパイル織編物[以下「ループパイル織編物(A0)」という]である。
【0009】
また、本発明は、
(2) 複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(b1)撚り方向を同じくする紡績糸の2本以上と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(b2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆である;
(b3)複合撚糸の撚数が、2本以上の紡績糸のそれぞれの撚数のいずれに対しても、0.3〜2倍の範囲にある;並びに、
(b4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜40質量および水溶性糸の割合が2〜60質量%である;
という上記の要件(b1)〜(b4)を備える複合撚糸(b)であることを特徴とするループパイル織編物[以下、「ループパイル織編物(B0)」という]である。
【0010】
そして、本発明は、
(3) 複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(c1)紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(c2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆である;
(c3)複合撚糸の撚数が、紡績糸の撚数の0.3〜2倍である;並びに、
(c4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が15〜70質量%、ゴム弾性を持たないフィラメント糸(以下「非ゴム弾性フィラメント糸」という)の割合が10〜60質量%および水溶性糸の割合が5〜75質量%である;
という上記の要件(c1)〜(c4)を備える複合撚糸(c)であることを特徴とするループパイル織編物[以下、「ループパイル織編物(C0)」という]である。
【0011】
さらに、本発明は、
(4) ループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)における水溶性糸が、水溶性のフィラメント糸である前記(1)〜(3)のいずれかのループパイル織編物;
(5) ループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)における水溶性糸が、水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸である前記(4)のループパイル織編物;
(6) 水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸が、エチレンに由来する構造単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られるフィラメント糸である前記した(5)のループパイル織編物;および、
(7) ループパイル織編物における上記の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)から形成されたループパイルの割合が、ループパイルを形成する当該複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去した後のループパイルの質量がループパイルの全質量に対して40質量%以上になる割合である前記(1)〜(6)のいずれかのループパイル織編物;
である。
【0012】
そして、本発明は、
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかのループパイル織編物から、ループパイルを形成する複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とするループパイル織編物である。
さらに、本発明は、
(9) 上記の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)を熱処理した後に、当該熱処理後の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)をパイル糸として用いてループパイル織編物を作製し、そのループパイル織編物からループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去することを特徴とするループパイル織編物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)をパイル糸として用いて製造した本発明のループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)を水(熱水、温水、冷水)で処理して、ループパイルを形成している前記複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去して得られる、本発明のループパイル織編物は、ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有し、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちがなく、高い品質を有している。
本発明でパイル糸として用いている複合撚糸(a)〜(c)は、紡績糸と共に水溶性糸が存在するか、または紡績糸と共に水溶性糸および非ゴム弾性フィラメントが存在するために、毛羽が少なく、さらに水溶性糸および非ゴム弾性フィラメント糸が補強の役割を果たすことから、本発明による場合は、高速の織機や編機を使用して、糸切れなどのトラブルを発生することなく、当該複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)を高い生産性で円滑に製造することができる。
【0014】
また、パイル糸として、紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸からなる複合撚糸(c)を用いる本発明の態様による場合は、フィラメント糸として用いる合成繊維、半合成繊維、絹などの天然繊維などの種類を選ぶことによって、ループパイル織編物におけるループパイルの風合や触感などを調整したり、変化を持たせることができる。
更に、本発明において、ループパイルを形成する複合撚糸(a)〜(c)として、水溶性糸が水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸からなるものを用いた場合には、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数よりも高くて複合撚糸に強くトルクが発生していても、複合撚糸を熱処理して固定することでトルクを減ずることができ、それによって当該複合撚糸をループパイルとするループパイル織編物を良好な工程性で円滑に製造することができる。
ループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる本発明のループパイル織編物は、その優れた風合を活かして、タオル地、タオル類、衣類用途、寝装寝具などの用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のループパイル織編物(A0)[ループパイルを形成している複合撚糸(a)中の水溶性糸を水で溶解除去する前のループパイル織編物]では、ループパイルを形成している糸(パイル糸)の少なくとも一部が、上記の要件(a1)〜要件(a4)を備える複合撚糸(a)からなっている。
すなわち、本発明のループパイル織編物(A0)におけるループパイルの少なくとも一部を形成する複合撚糸(a)では、複合撚糸(a)の撚り方向(紡績糸と水溶性糸の2種類の糸を撚り合わせる際の撚り方向)(以下複合撚糸の撚りを「上撚」ということがある)が、複合撚糸(a)を構成する紡績糸の撚り方向(以下紡績糸の撚りを「下撚」ということがある)と逆になっていて、複合撚糸(a)(単位:回/m)が、紡績糸の撚数(単位:回/m)の1.3〜3倍である[上記の要件(a1)]ことが必要である。
【0016】
ここで、本発明でいう「紡績糸の撚数」とは、紡績糸を製造するに当たって最後にかけられた撚りの撚数をいう。例えば、紡績糸が単糸である場合は単糸を製造するために紡績時にかけられた撚数をいい、双糸の場合は双糸を製造するために2本の糸を撚り合わせたときの撚数をいい、3本以上の合撚糸の場合は合撚糸を製造するために3本以上の糸を撚り合わせたときの撚数をいう。
また、本明細書でいう「複合撚糸の撚数」(上撚の撚数)とは、紡績糸と水溶性糸を撚り合わせたときの撚数、または紡績糸と非ゴム弾性フィラメント糸と水溶性糸を撚り合わせたときの撚数をいい、実際には撚糸工程時の設定撚数に準じた値となる。
【0017】
撚糸のトルクの低減、風合の向上などの点から、上撚の撚り方向と下撚の撚り方向とを逆にすることは従来からも行われているが、従来は、その際の上撚の撚数は下撚の撚数の1.0倍以下であって、上撚の撚数の方が下撚の撚数と同じか又はそれよりも少ないのが一般的である。
それに対して、本発明のループパイル織編物(A0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(a)では、上撚の撚数[複合撚糸(a)の撚数]の方を、下撚の撚数(紡績糸の撚数)を1.3〜3という特定の範囲にしている点で、上撚の撚数の方が下撚の撚数と同じであるかまたはそれよりも少ない従来技術と大きく相違する。
本発明のループパイル織編物(A0)では、そのループパイルを形成する複合撚糸(a)の上撚の撚数が下撚の撚数の1.3〜3倍であることにより、ループパイル織編物(A0)を水で処理してループパイルを形成している複合撚糸(a)中の水溶性糸を溶解除去したときに、水溶性糸が溶解除去された箇所に空隙が形成されてループパイルがふっくらとした、柔らかい風合になると共に、ループパイルを形成している残存紡績糸に実撚が残っているため、ループパイルを形成している紡績糸からの原綿の抜け落ちが防止される。
【0018】
ループパイルを形成している複合撚糸(a)における上撚の撚数が下撚の撚数の0.8倍未満であると、複合撚糸(a)を製造するための合撚時に紡績糸の解撚が不十分であり、さらには水溶性糸の加撚も不十分であるため、そのような複合撚糸をパイル糸として用いて作製したループパイル織編物からループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくら感や柔らかさに優れるループパイル織編物が得られない。また、ループパイルを形成する複合撚糸(a)における上撚の撚数が下撚の撚数の0.8倍以上1.3倍未満の場合は、複合撚糸(a)を製造する際の紡績糸の解撚は行われるものの、複合撚糸自体の撚りが不十分になるため、ループパイル織編物を作製する際の製編織性に劣るようになり、しかも製編織して得られたループパイル織編物におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去した後に残留する紡績糸よりなるループパイルの撚りが不足し、ループパイルからの原綿の抜けが大きくなり、ループパイル織編物の風合の低下、抜けた原綿による他の布や箇所の汚れの発生などを生じる。
一方、ループパイルを形成する複合撚糸(a)における上撚の撚数が下撚の撚数の3倍を超えると、上撚をかける際の撚糸工程(複合撚糸を製造するための合撚工程)で糸切れなどのトラブルを生じて、複合撚糸の生産性の低下、得られた複合撚糸の強度低下、複合撚糸を用いての織編時の工程不良などを招き、更には複合撚糸のトルクが強くなり過ぎて、紡績糸と水溶性糸との合撚工程やループパイル織編物を製造する際の製編織工程での工程不良、生産性の低下などが生ずる。
本発明のループパイル織編物(A0)のループパイルを形成している複合撚糸(a)では、上撚の撚数が下撚の撚数の1.4〜3倍であることが好ましく、1.5〜2倍であることがより好ましい。
【0019】
パイル糸として用いる複合撚糸(a)の撚数が、紡績糸の撚数の1.3〜3倍と高いことによって、複合撚糸(a)は、フリーな状態(非緊張状態)にすると、自己撚りを生じてループパイル織編物(A0)の作製時にパイル糸として使用しにくくなることがある。そのような場合には、複合撚糸(a)に熱処理を施して糸形状を固定しておくことで、ループパイル織編物(A)を作製する際の自己撚りを防止して、ループパイル織編物(A0)を円滑に製造することができる。
【0020】
特に、複合撚糸(a)における水溶性糸として、水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸を用いた場合には、複合撚糸(a)の熱処理による糸形状の固定を円滑に行うことができ、複合撚糸(a)の撚数が紡績糸の撚数の2〜3倍と高くても、複合撚糸(a)に熱処理を施すことで糸形状を固定化して、ループパイル織編物(A0)を円滑に作製することができる。
その際の水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸としては、後に詳述するように、エチレンに由来する構造単位(以下「エチレン単位」という)の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られる繊維からなる水溶性糸が特に好ましく用いられる。
【0021】
ループパイル織編物(A0)のループパイルを形成している複合撚糸(a)は、複合撚糸(a)の質量に基づいて、紡績糸を98〜20質量%および水溶性糸を2〜80質量%の割合で含む。複合撚糸(a)は、紡績糸を95〜30質量%および水溶性糸を5〜70質量%の割合で含むことが好ましく、紡績糸を90〜50質量%および水溶性糸を10〜50質量%の割合で含むことがより好ましい。
複合撚糸(a)における紡績糸および水溶性糸の割合を前記範囲にすることによって、糸強力、撚の安定性などに優れる複合撚糸(a)を得ることができ、またループパイル織編物(A0)を製造する際の製編織性にも優れる。しかも、ループパイル織編物(A0)を水(温水、熱水)で処理して、ループパイルを形成している複合撚糸(a)中の水溶性糸を水で溶解除去する際に、水溶性糸の除去が良好に行われて、ふくらみがあって、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物を得ることができる[以下、ループパイル織編物(A0)を水(冷水、温水、熱水)で処理してループパイルを形成している複合撚糸(a)中の水溶性糸を溶解除去して得られるループパイル織編物を「ループパイル織編物(A1)」ということがある]。
【0022】
パイル糸として用いる複合撚糸(a)における水溶性糸の割合が上記範囲よりも少ないと(紡績糸の割合が上記範囲よりも多いと)、そのような複合撚糸から形成されたループパイルを有するループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去しても、ふっくらとしていて、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られにくくなる。一方、パイル糸として用いる複合撚糸(a)における水溶性糸の割合が上記範囲よりも多いと(紡績糸の割合が上記範囲よりも少ないと)、ループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後のループパイルが、やせたものとなって、やはりふっくらみのないものとなり、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちが多くなり易い。
【0023】
ループパイル織編物(A0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(a)は、撚糸機のクリル本数の制限、品質管理の点から、紡績糸が1本および水溶性糸が1〜3本であることが好ましく、紡績糸が1本および水溶性糸が1〜2本であることがより好ましく、紡績糸1本および水溶性糸1本を撚り合わせて複合撚糸を形成することが更に好ましい。
【0024】
本発明のループパイル織編物(A0)では、複合撚糸(a)から形成されたループパイルの割合は、ループパイルを形成する当該複合撚糸(a)中の水溶性糸を水で溶解除去した後の複合撚糸(a)由来のループパイル(残存した紡績糸からなるループパイル)の質量が、ループパイルの全質量に対して40質量%以上、更には50質量%以上、特に80〜100質量%になるような割合であることが好ましい。
ループパイル織編物(A0)において、ループパイルを形成するパイル糸に占める複合撚糸(a)の割合が少ないと、ループパイル織編物(A0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくらとしていて、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られにくくなる。
【0025】
本発明のループパイル織編物(B0)[ループパイルを形成している複合撚糸(b)中の水溶性糸を水で溶解除去する前のループパイル織編物]では、ループパイルを形成している糸(パイル糸)の少なくとも一部が、上記の要件(b1)〜要件(b4)を備える複合撚糸(b)からなっている。
すなわち、ループパイル織編物(B0)のループパイルを形成する複合撚糸(b)は紡績糸2本以上と水溶性糸から構成されていて、複合撚糸(b)を構成する2本以上の紡績糸の撚り方向が同じであり、且つ複合撚糸(b)の撚り方向が該2本以上の紡績糸の撚り方向と逆になっている。
2本以上の紡績糸の撚り方向が同じであることにより、該2本以上の紡績糸と水溶性糸を紡績糸の撚り方向と逆の方向に撚り合わせた複合撚糸(b)では、全ての紡績糸が部分的にまたは完全に解撚されて元の紡績糸よりも長くなった状態になっているため、ループパイル織編物(B0)を水(冷水、温水、熱水)で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去したときに、ふっくらとして、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られる[以下、ループパイル織編物(B0)を水(温水、熱水)で処理してループパイルを形成している複合撚糸(b)中の水溶性糸を溶解除去して得られるループパイル織編物を「ループパイル織編物(B1)」ということがある]。
【0026】
それに対して、2本以上の紡績糸と水溶性糸を合撚してなる複合撚糸をループパイル織編物におけるパイル糸として用いる場合であっても、複合撚糸における2本以上の紡績糸の撚り方向が互いに異なる場合(例えばS撚の紡績糸1本とZ撚の紡績糸1本の合計2本の紡績糸を用いた場合、S撚の紡績糸1本とZ撚の紡績糸2本の合計3本の紡績糸を用いる場合、S撚の紡績糸2本とZ撚の紡績糸1本の合計3本の紡績糸を用いる場合など)には、複合撚糸を製造するための紡績糸と水溶性糸の撚り合わせ(上撚り)をS方向またはZ方向のいずれにしても、2本以上の紡績糸のうちの1部の紡績糸(上撚りと逆の撚り方向を有する紡績糸)は解撚するが、残りの紡績糸(上撚りと同じ撚り方向を有する紡績糸)では上撚りをかける前よりも同じ方向に撚りが強くかかった状態になる。そのため、そのような複合撚糸をパイル糸として用いてループパイル織編物を作製して該織編物におけるループパイル中から水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくらとしたボリュームのあるループパイルが形成されず、得られるループパイル織編物の風合が不良になる。
【0027】
さらに、本発明のループパイル織編物(B0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(b)では、複合撚糸(b)の撚数(上撚りの撚数)が、2本以上の紡績糸のそれぞれの撚数のいずれに対しても、0.3〜2倍の範囲にあることが必要であり、0.3〜1.75倍の範囲にあることが好ましく、0.35倍以上で1.3倍未満の範囲にあることがより好ましい。
例えば、600回/m(Z撚)の紡績糸2本と水溶性糸を撚り合わせて(上撚りして)複合撚糸(b)を製造する場合は、該2本の紡績糸と水溶性糸を600回/m×(0.3〜2倍)=180〜1200回/mの撚数でS方向に撚り合わせて複合撚糸(b)にする。
また、例えば、500回/m(S撚)の紡績糸Dおよび800回/m(S撚)の紡績糸Eという撚数の異なる2本の紡績糸を水溶性糸とZ方向に撚り合わせて(上撚りして)複合撚糸(b)を製造する場合は、500回/m×(0.3〜2倍)=150〜1000回/mと、800回/m×(0.3〜2倍)=240〜1600回/mの共通した数値範囲である240〜1000回/mの範囲のZ撚をかけて複合撚糸(b)にする。
【0028】
ループパイル織編物(B0)におけるループパイルを形成している複合撚糸(b)では、2本以上の紡績糸と水溶性糸を紡績糸の撚り方向と逆の方向に且つ紡績糸の撚数の0.3〜2倍の範囲の撚数で撚り合わせたことにより、複合撚糸(b)を製造するための合撚時(上撚を行った際)に、複合撚糸(b)の形態安定性(撚りの安定性)を保ちながら、上撚が紡績糸の撚り(下撚)を解撚する方向に働き、その上撚の際に、紡績糸の糸長が長くなり、一方で水溶性糸は加撚されて糸長が短くなるため、紡績糸の撚が0からさらに加撚されるようになっても、紡績糸の糸長>水溶性糸の糸長の関係が保たれた状態で撚糸される。それによって複合撚糸(b)をパイル糸として用いてループパイル織編物(B0)を作製する際の製編織を良好に行うことができ、しかも製編織により得られたループパイル織編物(B0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(b)中の水溶性糸を水で溶解除去したときに、ふっくらとしていて、柔らかなループパイルが形成されて、風合が良好になる。その上、水溶性糸を溶解除去した後の個々のループパイルは2本の紡績糸から形成されているための、ループパイルからの原綿の抜け落ちが少ない。
【0029】
複合撚糸(b)における上撚の撚数が下撚の撚数(紡績糸の撚数)の0.3倍未満であると、複合撚糸(b)を製造するための合撚時に紡績糸の解撚が不十分であり、さらには水溶性糸の加撚も不十分であるため、複合撚糸(b)を製造する際の撚糸工程が安定せず、得られた複合撚糸(b)に斑が生ずる。しかも、そのような複合撚糸をパイル糸として用いてループパイル織編物を製造し、そのループパイルを形成している複合撚糸(b)中の水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくらとして、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られない。一方、複合撚糸(b)における上撚の撚数が下撚の撚数(紡績糸の撚数)の2倍を超えると、上撚をかける際の撚糸工程(複合撚糸を製造するための合撚工程)で糸切れなどのトラブルを生じて、複合撚糸の生産性の低下、得られた複合撚糸の強度低下、複合撚糸を用いての織編時の工程不良などを招き易くなり、また撚糸効率が低くなり、複合撚糸を製造する際の生産性が低下する。
【0030】
複合撚糸(b)の撚数(上撚の数)が、2本以上の紡績糸のそれぞれの撚数(下撚の数)の1倍以上、すなわち1〜2倍のときに、複合撚糸(b)をフリーな状態(非緊張状態)にした際に自己撚りを生じてループパイル織編物(B0)の作製時にパイル糸として使用しにくくなることがあるが、その場合には複合撚糸(b)に熱処理を施して糸形状を固定しておくことで、ループパイル織編物(B0)を作製する際の自己撚りを防止して、ループパイル織編物(B0)を円滑に製造することができる。
【0031】
特に、複合撚糸(b)における水溶性糸として、水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸を用いた場合には、複合撚糸(b)の熱処理による糸形状の固定を円滑に行うことができ、複合撚糸(b)の撚数が高い場合(例えば紡績糸の撚数の2倍に近い場合)であっても、複合撚糸(b)に熱処理を施すことで糸形状を固定して、ループパイル織編物(B0)を円滑に製造することができる。
その際の水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸としては、エチレン単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られる繊維からなる水溶性糸が特に好ましく用いられる。
【0032】
ループパイル織編物(B0)のループパイルを形成している複合撚糸(b)は、複合撚糸(b)の質量に基づいて、紡績糸を98〜40質量%および水溶性糸を2〜60質量%の割合で含む。複合撚糸(b)は、紡績糸を95〜50質量%および水溶性糸を5〜50質量%の割合で含むことが好ましく、紡績糸を90〜60質量%および水溶性糸を10〜40質量%の割合で含むことがより好ましい。
複合撚糸(b)における紡績糸および水溶性糸の割合を前記範囲にすることによって、製編織性、糸強力、撚の安定性などが良好になる。しかも、複合撚糸(b)をパイル糸として用いてループパイル織編物(B0)を製造し、当該ループパイル織編物のループパイルを形成している複合撚糸(b)中水溶性糸を水で溶解除去する際に、水溶性糸の除去が良好に行われて、ふくらみがあって、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物(B1)を得ることができる。
【0033】
パイル糸として用いる複合撚糸(b)における水溶性糸の割合が上記範囲よりも少ないと(紡績糸の割合が上記範囲よりも多いと)、そのような複合撚糸(b)から形成されたループパイルを有するループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去しても、ふっくらとしていて、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られにくくなる。一方、パイル糸として用いる複合撚糸(b)における水溶性糸の割合が上記範囲よりも多いと(紡績糸の割合が上記範囲よりも少ないと)、ループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後のループパイルが、やせたものとなって、やはりふっくらとしなくなる、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちが多くなり易い。
【0034】
複合撚糸(b)を構成する紡績糸の本数(糸本数)は、2本以上であることが必要であり、撚糸機のクリル本数の制限、品質管理などの点から、2本または3本であることが好ましい。複合撚糸(b)は、2本以上の紡績糸を用いて形成されていることにより、紡績糸の撚り方向と逆の方向の複合撚糸を製造する際の撚数(上撚りの数)を紡績糸の0.3〜2倍という値に保ちながら、製編織時の取り扱い性や強力などに優れる複合撚糸(b)を、高い撚糸効率で生産性良く製造することができる。しかも、複合撚糸(b)をパイル糸として用いて作製したループパイル織編物(B0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られるループパイル織編物(B1)において、前記2本以上の紡績糸が合撚した状態になりながら解撚されているために、ループパイルからの原綿の抜け落ちを防止することができる。
複合撚糸(b)では、水溶性糸の本数は1〜3本、特に1〜2本であることが撚糸機のクリル本数を減らせる点で、また複合撚糸(b)をパイル糸として用いて作製したループパイル織編物(B0)におけるループパイル中の水溶性糸の溶解除去の容易性などの点から好ましい。
【0035】
ループパイルを形成している糸(パイル糸)の少なくとも一部が複合撚糸(b)からなっている本発明のループパイル織編物(B0)では、複合撚糸(b)から形成されたループパイルの割合は、ループパイルを形成する当該複合撚糸(b)中の水溶性糸を水で溶解除去した後の複合撚糸(b)由来のループパイル(残存した紡績糸からなるループパイル)の質量が、ループパイルの全質量に対して40質量%以上、更には50質量%以上、特に80〜100質量%になるような割合であることが好ましい。
ループパイル織編物(B0)において、ループパイルを形成するパイル糸に占める複合撚糸(b)の割合が少ないと、ループパイル織編物(B0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくらとしていて、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られにくくなる。
【0036】
本発明のループパイル織編物(C0)[ループパイルを形成している複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去する前のループパイル織編物]では、ループパイルを形成している糸(パイル糸)の少なくとも一部が、上記の要件(c1)〜要件(c4)を備える複合撚糸(c)からなっている。
すなわち、本発明のループパイル織編物(C0)におけるループパイルの少なくとも一部を形成する複合撚糸(c)では、複合撚糸(c)の撚り方向(紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸の3種類を撚り合わせた際の撚り方向)(上撚の方向)が、複合撚糸(b)を構成する紡績糸の撚り方向(下撚の方向)と逆になっている。
複合撚糸(c)の撚り方向(上撚の撚り方向)が紡績糸の撚り方向(下撚の撚り方向)と逆になっていることにより、複合撚糸(c)を製造するために上撚を行った際に、上撚が紡績糸の撚り(下撚)を多少解撚する方向に働き、前記解撚により紡績糸の糸長が多少長くなり、糸長が長くなった紡績糸が非ゴム弾性フィラメント糸や水溶性糸を覆った状態で撚糸が行われる。
【0037】
ループパイル織編物(C0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(c)では、複合撚糸の撚数(上撚の撚数)が紡績糸の撚数(下撚の撚数)の0.3〜2倍であり、0.4〜1.8倍であることが好ましく、0.5〜1.75倍であることがより好ましい。
上撚の撚数が下撚の撚数の0.3倍未満であると、撚の安定性が乏しくなり、得られる複合撚糸(c)に斑が発生して、強力などのバラツキ、毛羽抑え不足、紡績糸による非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸への覆い不足などにより、複合撚糸(c)をパイル糸として用いてループパイル織編物を製造する際の製編織性が劣るものとなり易い。しかも、複合撚糸(c)を製造するための撚糸工程時に紡績糸の撚(下撚)の解撚が不十分になり、それに伴ってループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を溶解除去した際に、ふっくらとして、柔らかな、風合の良好なループパイル織編物が得られにくくなる。
一方、複合撚糸(c)において、上撚の撚数が下撚の2倍を超えると、複合撚糸(c)を製造する際の撚糸工程で糸切れなどのトラブルを生じて、複合撚糸が得られなくなったり、複合撚糸の生産性の低下、得られる複合撚糸の強度低下、複合撚糸をパイル糸として用いてループパイル織編物を製造する際の工程不良などを生じ、それに伴う織編物の生産性の低下などが生じ易くなる。
【0038】
複合撚糸(c)の撚数(上撚の数)が、紡績糸の撚数(下撚の数)の1倍以上、すなわち1〜2倍のときに、複合撚糸(c)をフリーな状態(非緊張状態)にしたときに自己撚りを生じてループパイル織編物(C0)の作製時にパイル糸として使用しにくくなることがあるが、その場合には複合撚糸(c)に熱処理を施して糸形状を固定しておくことで、ループパイル織編物(C0)を作製する際の自己撚りを防止して、ループパイル織編物(C0)を円滑に製造することができる。
【0039】
特に、複合撚糸(c)における水溶性糸として、水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸を用いた場合には、複合撚糸(c)の熱処理による糸形状の固定を円滑に行うことができ、複合撚糸(c)の撚数が紡績糸の撚数の1〜2倍と高くても、複合撚糸(c)に熱処理を施すことで糸形状を固定化して、ループパイル織編物(C0)を円滑に作製することができる。
その際の水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる水溶性糸としては、エチレン単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られる繊維からなる水溶性糸が特に好ましく用いられる。
【0040】
ループパイル織編物(C0)のループパイルを形成している複合撚糸(c)は、複合撚糸(c)の質量に基づいて、紡績糸を15〜70質量%、非ゴム弾性フィラメント糸を10〜60質量%および水溶性糸を5〜75質量%の割合で含む。複合撚糸(c)は、複合撚糸(c)の質量に基づいて、紡績糸を30〜70質量%、非ゴム弾性フィラメント糸を10〜40質量%および水溶性糸を5〜50質量%の割合で含むであること好ましい。
複合撚糸(c)を構成する3種類の糸の割合が前記範囲であることにより、糸強力に優れ、ループパイル織編物(C0)を製造する際の取り扱い性に優れる。しかも、ループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去したときに、ふっくらとし、柔らかで、風合に優れ、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちのないループパイル織編物(C1)が得られる。
【0041】
複合撚糸(c)において、水溶性糸の割合が多くなり過ぎて、紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸の割合が少なくなり過ぎると、複合撚糸(c)をパイル糸として用いてループパイル織編物(C0)を作製し、そのループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去したときに、ループパイルがやせた、ふっくらみのないものとなり、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちが生じ易くなる。
また、複合撚糸(c)において、水溶性糸の割合が少な過ぎると、ループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られるループパイル織編物(C1)では、ループパイルは柔らかさのないものとなり、風合が低下し易い。
さらに、複合撚糸(c)における水溶性糸の割合が適当な範囲であっても、紡績糸の割合が多すぎ、その一方で非ゴム弾性フィラメント糸の割合が少なすぎると、ループパイルにおける原綿の抜け落ち、パイルの強度不足などが生ずることがある。
パイル糸として複合撚糸(c)を用いて得られるループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られるループパイル織編物(C1)は、ループパイルが紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸から形成されていることにより、ループパイルが1本の紡績糸から形成されているループパイル織編物に比べて、ループパイルからの原綿の抜け落ちがより少なくなり、しかもループパイルに変化を持たせることができる。
【0042】
複合撚糸(c)を構成する紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸の本数(糸本数)としては、撚糸機のクリル本数の制限、品質管理の点から、紡績糸が1〜3本、非ゴム弾性フィラメント糸が1〜3本、水溶性糸が1〜3本であることが好ましく、紡績糸が1〜2本、非ゴム弾性フィラメント糸が1〜2本、水溶性糸が1〜2本であることがより好ましく、紡績糸1本、非ゴム弾性フィラメント糸1本および水溶性糸1本を撚り合わせて複合撚糸を形成することが更に好ましい。
【0043】
ループパイルを形成している糸(パイル糸)の少なくとも一部が複合撚糸(c)からなっている本発明のループパイル織編物(C0)では、複合撚糸(c)から形成されたループパイルの割合は、ループパイルを形成する当該複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去した後の複合撚糸(c)由来のループパイル(残存した紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸からなるループパイル)の質量が、ループパイルの全質量に対して40質量%以上、更には50質量%以上、特に80〜100質量%になるような割合であることが好ましい。
ループパイル織編物(C0)において、ループパイルを形成するパイル糸に占める複合撚糸(c)の割合が少ないと、ループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去しても、ふっくらとしていて、柔らかな、風合に優れるループパイル織編物が得られにくくなる。
【0044】
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)のループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する紡績糸は、水(熱水、温水、冷水)に溶解しない繊維から形成された紡績糸であればいずれでもよく、例えば、木綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、水(熱水)不溶性のポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維などの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維などから選ばれる1種の繊維からなる単独紡績糸、前記した繊維の2種以上からなる混紡紡績糸のいずれであってもよい。複合撚糸およびそれを用いて製造する織編物の用途などに応じて、適当な紡績糸を選択して使用すればよい。そのうちでも、ループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られるループパイル織編物(A1)、ループパイル織編物(B1)およびループパイル織編物(C1)をタオル地として用いる場合は、複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する紡績糸が綿よりなる紡績糸であることが好ましい。
【0045】
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する紡績糸は、単糸、双糸または3本以上の合撚糸のいずれであってもよい。
紡績糸の撚数は特に制限されないが、撚数をT(単位:回/2.54cm)、綿番手をS(単位:番手)とすると、K=T/√Sで表される撚係数Kが2〜4の紡績糸が、紡績糸の品質安定性、複合撚糸製造時の生産性、紡績糸の入手容易性などの点から好ましく用いられる。
紡績糸が双糸または3本以上の合撚糸である場合は、それらの紡績糸を製造した際の最後の撚りの撚方向が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚方向と逆方向になっていること、また該最後の撚りの撚数(本発明でいう紡績糸の撚数;双糸または合撚糸を製造した際の撚数)が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚数の0.3〜0.9倍であることが、撚糸の生産性、糸のハンドリング性、風合、紡績糸の入手容易性などの点から好ましい。
また、紡績糸の番手としては、綿番手5番〜200番のものが、複合撚糸を製造する際の工程性、紡績糸の入手の容易性、市場の要求などの点から好ましく用いられる。
【0046】
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)のループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸としては、大気圧下で、水の沸騰温度(約100℃)までの温度で水(熱水)に溶解する糸、そのうちでも水溶性糸自体を単独で温度80℃以上の水に浸漬して30分放置したときに、浸漬前の水溶性糸の質量に対して、85質量%以上、特に95質量%以上が前記水に溶解する水溶性糸が、ループパイル織編物におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去する際の除去の容易性、取扱性などの点から好ましく用いられる。複合撚糸中の水溶性糸の水溶解性が低いと、ループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去する際に、水溶性糸の除去が不十分となり、ふっくらとしていて、柔らかさに優れる、風合の良好なループパイル織編物が得られなくなる。
【0047】
水溶性糸を構成する繊維としては、前記した水溶解性を水溶性糸に与える繊維であればいずれも使用でき、例えば、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維、水可溶性ポリアミド繊維などを挙げることができる。そのうちでも、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維が、繊維強力、水(熱水)への高い溶解性、生分解性、入手容易性などの点から好ましく用いられる。
特に、ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)のループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸としては、エチレン単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られる繊維からなる糸が好ましく用いられる。前記特定のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の繊維からなる糸を用いて製造した複合撚糸(a)、(b)および(c)は、取り扱い性に優れ、当該複合撚糸をパイル糸として用いて製造したループパイル織編物(A0)、(B0)および(C0)を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去する際に、水溶性糸の溶解除去をより容易に且つ円滑に行うことができ、しかも複合撚糸(a)、(b)および(c)の原糸である水溶性糸自体の製造が容易である。
【0048】
複合撚糸の撚数(上撚の撚数)が紡績糸の撚数の1.3〜3倍である複合撚糸(a)、複合撚糸の撚数(上撚の撚数)が紡績糸の撚数の0.3〜2倍である複合撚糸(b)および複合撚糸(c)において、複合撚糸の撚数が高いもの、特に複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の2倍に近いもの[複合撚糸(a)〜(c)]や、2倍を超えるもの[複合撚糸(a)]では、糸にトルクがかかっていてフリー(非緊張状態)にすると自己撚りを起こし、ループパイル織編物を製造する際の取り扱い性に劣ることがあるが、その場合には複合撚糸に熱処理を施して糸を固定化してトルクを減じた後にパイル糸として用いてループパイル織編物を製造することが望ましい。その際の熱処理条件としては、60〜90℃の熱風または加熱水蒸気を用い、10〜60分間ほど処理する方法が好ましい。より好ましくは、加熱水蒸気を用いて、70〜85℃で15〜40分間処理する方法である。熱処理に当たっては、前記のように加熱水蒸気などによる方法が好ましく採用されるが、その際に水溶性糸が、従来の水溶性ポリビニルアルコール繊維のように重合度1500〜2500のポリビニルアルコール繊維からなっていると、ループパイル織編物のループパイル部分にスポット的に付着した水蒸気の液滴によってポリビニルアルコール繊維は一旦溶解するが、加熱処理後にループパイル織編物部分の温度が下がると再固化し、この再固化したものは、加熱処理後の水によるポリビニルアルコール繊維の溶解処理の際に極めて溶解しにくく、ループパイル織編物部分などにスポット的に未溶解ポリビニルアルコールが残存することとなり、ふっくらとしていて柔らかなループパイルを形成しにくくなることがある。
【0049】
それに対して、複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸として、エチレン単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られる繊維からなる糸を用いた場合には、水溶解性が極めて高く、しかも熱処理用の加熱水蒸気からの液滴によって一旦溶解した後に再固化しても、その再固化物は、熱処理後の水による溶解処理時に良好に溶解除去されて、ループパイル部分などに残存することがないので、ループパイル部分の風合を損ねることがない。
その理由は明確ではないが、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を構成してエチレン−ビニルアルコール系共重合体の重合度が200〜500と低いために、重合度が一般に1500〜2500のポリビニルアルコールよりなる従来の水溶性ポリビニルアルコール繊維に比べて水溶解性が高く、しかも重合体鎖中にエチレン単位を有していることによりビニルアルコール単位中の水酸基間の結合や反応などが低減して、繊維の水に対する溶解性の低下が防止されることによるものと推測される。
【0050】
水溶性糸としてエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維からなる糸を用いる場合に、繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体の重合度の200未満であると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の糸曳き性が低く、繊維化することが困難になり易い。一方、繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体の重合度が500を超えると、溶融粘度が高くなり過ぎて溶融紡糸によってエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を製造しにくくなり、しかも水溶解性が低下するため、紡績糸とエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維の糸からなる複合撚糸(a)〜(c)を製造し、それらの複合撚糸をパイル糸として用いるループパイル織編物を作製した後にループパイル織編物中のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を水で溶解除去したときに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維が完全に溶解除去されにくくなって、ふっくらとして、柔らかな、良好な風合を有するループパイル織編物が得られにくくなる。
繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体の重合度は、250〜450であることがより好ましい。
ここで、本明細書における「エチレン−ビニルアルコール系共重合体の重合度」および「ポリビニルアルコールの重合度」は、いずれも、JIS K 6726によって求められる、重合体を再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から、下記の数式(I)により求められる重合度(P)をいう。

P=([η]×103/8.29)(1/0.62) (I)
【0051】
また、複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸としてエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維からなる糸を用いる場合に、繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン単位の含有割合が5モル%未満であると、溶融紡糸によってエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を製造することが困難になり、一方エチレン単位の含有割合が15モル%を超えると水溶性が低下し、複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)をパイル糸として用いてループパイル織編物を作製した後にループパイル中のエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維を水で溶解除去したときに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維が完全に溶解除去されにくくなって、ふっくらとして、柔らかな、良好な風合を有するループパイル織編物が得られにくくなる。
繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン単位の含有割合は、7〜12モル%であることがより好ましい。
【0052】
更に、繊維を形成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位のケン化度は90〜99.99モル%、特に97〜99.9モル%であることが、水に対する溶解性が高く、紡糸安定性に優れるなどの点から好ましい。
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸として好ましく用いられるエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維は、溶融紡糸により円滑に且つ簡単に製造することができ、かかる点、一般的に湿式紡糸または乾式紡糸により製造される従来の水溶性ポリビニルアルコール繊維と相違している。
【0053】
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸は、水溶性である限りは、フィラメント糸であってもまたは紡績糸であってもいずれでもよい。そのうちでも、水溶性のフィラメント糸を用いることが好ましく、水溶性のフィラメント糸を用いた場合には、複合撚糸における水溶性糸の混率が低い場合にも、ループパイル織編物を水で処理してループパイル中の水溶性糸を溶解除去する際に水溶性糸の除去が速やかに且つ良好に行われるようになる、複合撚糸の糸強力が高くなる、細い番手の紡績糸が使用し易くなる、低混率で使用できコストを低減できるなどのメリットがある。
【0054】
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を構成する水溶性糸の太さは、15〜200dtex、特に25〜100dtexであることが、紡績糸との撚り合わせの容易性、または紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸との撚り合わせの容易性、複合撚糸の強力、紡績毛羽の低減、ループパイル織編物のループパイル中の水溶性糸の溶解除去の容易性、水溶性糸の生産性などの点から好ましい。
【0055】
本発明において、ループパイル織編物のループパイルから除去するための糸として、アルカリや酸に溶解または分解する糸ではなくて水に溶解する糸(水溶性糸)を使用した理由としては、ループパイル中の水溶性糸を除去するためにアルカリや酸で処理した場合は、ループパイルを形成している紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸の変質や分解、ループパイル織編物の基布(生地)を形成している糸の変質や分解などを生ずる恐れがあるが、水で処理した場合には、ループパイル織編物のループパイルを形成している紡績糸や非ゴム弾性フィラメント糸、基布(生地)を形成している糸の変質や分解などを生ずる恐れがないことが挙げられる。本発明では、ループパイルを形成する複合撚糸を構成する除去用糸(ループパイルから除去する糸)として、アルカリや酸により溶解または分解する糸ではなくて、水に溶解する水溶性糸を使用していることにより、パイル糸として用いる複合撚糸を構成する紡績糸として広範囲の種々の紡績糸を使用することができ、さらにループパイル織編物の基布(生地)を形成する糸として広範囲の種々の糸を使用することができ、それによってループパイル織編物の種類、特性などを色々なものにすることができる。
【0056】
また、ループパイル織編物(C0)におけるループパイルを形成する複合撚糸(c)を構成する非ゴム弾性フィラメント糸としては、水(冷水、温水、熱水)に溶解せず且つゴム弾性を持たないフィラメント(長繊維)からなる糸であればいずれでもよく、例えば、ポリエステルフィラメント、ポリアミドフィラメント、ポリプロピレンフィラメント、アクリルフィラメント、水(熱水)不溶性のポリビニルアルコール系フィラメント、ポリ塩化ビニリデンフィラメントなどの合成繊維フィラメント、アセテートなどの半合成繊維フィラメント、レーヨン、キュプラなどの再生繊維フィラメント、絹などの天然繊維フィラメントから選ばれる1種または2種以上のフィラメント(長繊維)からなっていればよい。非ゴム弾性フィラメント糸は、1種類のフィラメントからなる単独フィラメント糸であってもよいし、前記したフィラメントの2種以上からなる混合フィラメント糸であってもよい。ループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去した後のループパイル織編物の用途などに応じて適当な非ゴム弾性フィラメント糸を選択して使用すればよい。
【0057】
複合撚糸(c)を構成する非ゴム弾性フィラメント糸は、捲縮を有していてもまたは非捲縮であってもいずれでもよいが、捲縮を有していない方が、製編織時にループパイルを円滑に形成できるので好ましい。
捲縮糸を用いる場合は、ループパイル織編物(C0)の製編織の段階までは捲縮しておらず、ループパイル織編物(C0)を製造した後の熱処理や、ループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を溶解除去するための熱水処理時など捲縮を発現する潜在捲縮性の非ゴム弾性フィラメント糸を用いることが好ましい。
潜在捲縮性の非ゴム弾性フィラメント糸としては、従来から知られている加熱によって捲縮を発現する非ゴム弾性フィラメント糸のいずれもが使用でき、代表例としては融点の異なる2種類以上の熱可塑性重合体をサイドバイサイド型で複合させた複合繊維、紡糸条件を選ぶことによって繊維の断面に斑を生じさせた繊維などを挙げることができる。
【0058】
複合撚糸(c)を構成する非ゴム弾性フィラメント糸の全体の太さ(総繊度)は特に制限されないが、紡績糸および水溶性糸との複合のし易さ、複合撚糸の取り扱い性、複合撚糸の強度、複合撚糸を用いて作製するループパイル織編物の品質などの点から、非ゴム弾性フィラメント糸の総繊度は一般には30〜600デシテックスであることが好ましく、56〜330デシテックスであることがより好ましい。
複合撚糸(c)を構成する非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの太さ(単繊維繊度)は特に制限されないが、ループパイル織編物(C0)を製造する際の複合撚糸(c)の取り扱い性、強度、得られるループパイル織編物の品質などの点から、非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの単繊維繊度は、0.3〜11デシテックスであることが好ましく、0.5〜3.3デシテックスであることがより好ましい。非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの単繊維繊度が小さい場合は、一般に水溶性糸を水で溶解除去した後のループパイル部分に柔軟性や繊細な風合が付与され、一方各フィラメントの単繊維繊度が大きい場合は、一般に水溶性糸を水で溶解除去した後のループパイル部分に張り腰感、ドライ感などが付与される。
【0059】
複合撚糸(c)を構成する非ゴム弾性フィラメント糸は、1本の非ゴム弾性フィラメントからなる非ゴム弾性モノフィラメント糸であってもよいし、または複数の非ゴム弾性フィラメントからなる非ゴム弾性マルチフィラメント糸であってもよい。そのうちでも、得られるループパイル編織物の品質、製編織時などにおける取り扱い性、複合撚糸の強力、撚糸の工程通過性、入手のしやすさなどの点から、非ゴム弾性フィラメント糸は1〜300本、特に6〜150本のフィラメントが集合した非ゴム弾性マルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0060】
パイル糸として用いる複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)を製造するための撚糸機の種類は特に制限されず、例えば、ダブルツイスター、リングツイスター、アップツイスターなどの従来汎用の撚糸機を使用することができる。
【0061】
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)におけるパイル長は特に制限されないが、1〜10mm程度であることが好ましく、2.5〜8mm程度であることがより好ましい。
本明細書でいう「パイル長」は、基布に形成されているループパイルの根元からループパイルの先端までの高さをいう。
また、ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)におけるパイル密度も特に制限されないが、ループパイルが形成されている基布面1cm2当たり、ループパイルを10〜100個、特に20〜80個程度の数で有していることが好ましい。
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)は、基布の片面のみにループパイルを有していてもよいし、基布の両面にループパイルを有していてもよい。
【0062】
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)における基布(地)は、各種のループパイル織編物において従来から採用されている基布のいずれでもよい。前記したループパイル織編物の基布(地)は、綿、麻、ウールなどの天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、それらの組み合せなどのいずれでもよい。
また、ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)の基布(地)は、織布または編布のいずれであってもよい。
ループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる本発明のループパイル織編物(A1)、ループパイル織編物(B1)およびループパイル織編物(C1)を各種のタオルやタオル地などとして用いる場合は、複合撚糸を構成する紡績糸が綿紡績糸である複合撚糸(a)、複合撚糸(b)または複合撚糸(c)をパイル糸として用い、綿糸を縦糸および横糸として用いて基布を製織してループパイル織編物を製造することによって、吸湿性および吸水性に優れるループパイル織編物を得ることができる。
【0063】
ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)の製法は特に制限されず、複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)を、パイル糸の少なくとも一部として用いて、ループパイル織編物の製造に従来から採用されているのと同様の方法で製造することができる。
例えば、タオル織機、ラッセル機、シンカーパイル丸編機などを使用してループパイルを有する生地を直接製編織してもよいし、ダブル丸編機で複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)を用いて生地を製編し、その後の加工で複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去することで、ループパイルを有する生地にしてもよい。
【0064】
複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)をパイル糸の少なくとも一部として用いて製造したループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、ループパイル織編物(A0)〜(C0)を染色する工程の前および前記ループパイル織編物(A0)〜(C0)に樹脂を付着する工程の前に行うのがよい。染色工程や樹脂付着工程中またはこれらの工程の後にループパイルを形成している複合撚糸中の水溶性糸の水溶解処理を行うと、染色工程や樹脂付着工程に支障を与え易くなり、しかも水溶性糸の溶解除去が充分に行われにくくなる。ループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)におけるループパイル中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、通常、最初の段階で行うことが、次に続く生産工程の円滑性、ループパイル織編物の品質の点から好ましい。
【0065】
ループパイルを形成している複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去する際の水の温度は、水溶性糸を構成する水溶性繊維の種類や水に対する溶解度、糸の形態や太さなどに応じて調節できる。
ループパイルを形成している複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する際の水の温度は、水溶性糸を構成する水溶性繊維の種類や水に対する溶解度、糸の形態や太さなどに応じて調節できる。
水溶性糸がエチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維や水溶性ポリビニルアルコール系繊維から形成されている場合は、通常、温度80℃以上、特に90℃以上の水を用いて処理を行うと、ループパイルを形成している複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および複合撚糸(c)中の水溶性糸を短い時間で速やかに溶解除去することができる。
【0066】
ループパイル織編物(A0)、(B0)、(C0)において、ループパイルを形成している複合撚糸(a)、(b)および(c)中の水溶性糸を水で溶解除去して得られるループパイル織編物(A1)、(B1)および(C1)は、いずれも、ループパイル部分がふっくらとしていて、柔らかくて、良好な風合を有し、しかもループパイルを形成している紡績糸からの原綿の抜け落ちが少ないので、それらの特性を活かして、タオル地、タオル類、衣類用途、寝装寝具などに有効に使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
以下の各例において、最終的に得られたループパイル生地(ループパイル編地)の風合および原綿の抜け落ち(ループパイルを形成している紡績糸からの原綿の抜け落ち)の度合は次のようにして評価した。
【0068】
[ループパイル生地の風合]
各例(対照例1〜2、実施例1〜5、比較例1および参考例1)で最終的に得られたループパイル生地を手で触れて、以下の対照例1のループパイル生地の風合および対照例2のループパイル生地の風合をベースにして、以下の表1に示す評価基準にしたがってループパイル生地の風合を評価した。
【0069】
【表1】

【0070】
[ループパイル生地からの原綿の抜け落ち]
(i) 以下の各例(対照例1〜2、実施例1〜5、比較例1および参考例1)で最終的に得られたループパイル生地から試験片(サイズ:経×緯=30cm×30cm)を採取し、その試験片を家庭用洗濯機(松下電器産業株式会社製「NA−V80」)に投入した後、洗剤なしで、“おまかせ”コースで1回処理した後、洗濯機から取り出した。
(ii) 上記(i)で洗濯機から取り出した試験片を、室温風乾で24時間乾燥した後、粘着テープ(積水化学工業株式会社製「再生PET布テープ:No.601S」)(幅×長さ=5cm×5cm)を、試験片のループパイル面に3N/25cm2の圧力下に押圧して接着させた後、手で粘着テープを試験片から剥がし、その接着−剥離操作を、試験片の同じ場所に対して合計で3回繰り返し、そのときに粘着テープに付着した原綿の量を目視により観察した。
(iii) 上記(ii)の結果を、同じ試験を行った対照例1の結果および対照例2の結果をベースにして以下の表2に示す評価基準にしたがって判定して、各例で最終的に得られたループパイル生地のループパイルを構成する紡績糸からの原綿の抜け落ち度合を評価した。
【0071】
【表2】

【0072】
《対照例1》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)1本と、水溶性糸[ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸、56dtex、80℃の水に溶解(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)]1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が550回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の0.92倍)。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
【0073】
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸をパイル糸として用い、ポリエステルマルチフィラメント糸(167dtex)を基布用の糸(地糸)として用いて、シンカーパイル丸編機(株式会社福原精機製作所製「PLII」)[16ゲージ口径61cm(24インチ)、シンカー長2.8mm]を使用して製編を行って、生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
【0074】
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地は、上記の表1に示すように、ループパイル部分が極めてふっくらとしていて、柔らかくて、極めて良好な風合を有していた。
(6) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地から試験片を採取して、上記した方法で、家庭用洗濯機での洗濯後に原綿の抜け落ち度合(ループパイルを構成している紡績糸からの原綿の抜け落ち度合)を調べたところ、上記の表2に示すように、原綿の抜け落ちが極めて多かった。
【0075】
《対照例2》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)をパイル糸として用い、対照例1で使用したのと同じポリエステルマルチフィラメント糸(167dtex)を地糸として用いて、対照例1で使用したのと同じシンカーパイル丸編機を使用して製編を行って、生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(2) 上記(1)で得られた乾燥後のループパイル編地は、上記の表1に示すように、ループパイル部分がふっくらとしておらず、硬くて、極めて不良な風合であった。
(3) 上記(1)で得られたループパイル編地から試験片を採取して、上記した方法で、家庭用洗濯機での洗濯後に原綿の抜け落ち度合(ループパイルを構成している紡績糸からの原綿の抜け落ち度合)を調べたところ、上記の表2に示すように、原綿の抜け落ちが極めて少なかった。
【0076】
《実施例1》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)1本と、対照例1で使用したのと同じ水溶性糸[ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸、56dtex、80℃の水に溶解(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)]1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の1.67倍)。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸をパイル糸として用いた以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は4点であり、ふっくらとしていて、柔らかで、良好な風合を有していた。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は4点であり、原綿の抜け落ちが少なかった。
【0077】
《実施例2》
(1) エチレン単位を10モル%の割合で含有する重合度300およびケン化度98.4モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体を240℃で溶融紡糸した後、170℃で2.0倍に延伸して、エチレン−ビニルアルコール共重合体マルチフィラメント糸(56dtex)(80℃の水に溶解)を製造し、この糸を水溶性糸として用いた。
(2) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)1本と、上記(1)で製造した水溶性糸1本を、撚糸機(村田機械製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が1800回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の3.00倍)。その後、得られた複合撚糸を、真空セット機(ニッカム製「真空スチームセッター」)を使用して、水蒸気(80℃)で30分間熱処理した後、真空セット機から取り出した。
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
【0078】
(4) 上記(3)で得られた複合撚糸をパイル糸として用いた以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(5) 上記(4)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(6) 上記(5)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は4点であり、ふっくらとしていて、柔らかで、良好な風合を有していた。
また、上記(5)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は5点であり、原綿の抜け落ちが極めて少なかった。
【0079】
《実施例3》
(1) 撚数が800回/m(Z撚)の木綿100%の40番手の紡績糸(都築紡績社製「TS40単糸」)2本と、対照例1で使用したのと同じ水溶性糸[ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸、56dtex、80℃の水に溶解(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)]1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が700回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の0.88倍)。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸84質量%および水溶性糸16質量%からなっていた。
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸をパイル糸として用いた以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は4点であり、ふっくらとしていて、柔らかで、良好な風合を有していた。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は5点であり、原綿の抜け落ちが極めて少なかった。
【0080】
《実施例4》
(1) 撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)1本と、捲縮を有しないポリエステルマルチフィラメント糸(84dtex、株式会社クラレ製「クラベラ糸」)1本と、対照例1で使用したのと同じ水溶性糸[ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸、56dtex、80℃の水に溶解(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)]1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の1.67倍)。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸68質量%、ポリエステルマルチフィラメント糸19質量%および水溶性糸13質量%からなっていた。
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸をパイル糸として用いた以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は4点であり、ふっくらとしていて、柔らかで、良好な風合を有していた。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は4点であり、原綿の抜け落ちが極めて少なかった。
【0081】
《実施例5》
(1) 実施例1の(1)で製造したのと同じ複合撚糸と、撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)を本数比1:1の割合でパイル糸として用い、それ以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2、ループパイルを形成する糸のうち、複合撚糸の割合=53質量%)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は3点であった。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は4点であり、原綿の抜け落ちが少なかった。
【0082】
《比較例1》
(1) 撚数が1500回/m(Z撚)の木綿100%の120番手の紡績糸[Royal Textile Mills Ltd.(インド)製「Royal 120」]1本と、対照例1で使用したのと同じ水溶性糸4本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)に供給して、撚数(上撚)が2500回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造した(複合撚糸の撚数=紡績糸の撚数の約1.67倍)。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸と水溶性糸の2種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、該複合撚糸は紡績糸18質量%および水溶性糸82質量%からなっていた。
(3) 上記(1)で得られた複合撚糸をパイル糸として用いた以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は2点であり、ふっくら感が足りずと、風合が不良であった。なお、この比較例1で得られたループパイル生地は、ループパイルを形成する糸(紡績糸)が少なく、やせた、貧弱な外観を有していた。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は4点であり、原綿の抜け落ちは少なかった。
【0083】
《参考例1》
(1) 実施例1の(1)で製造したのと同じ複合撚糸と、撚数が600回/m(Z撚)の木綿100%の20番手の紡績糸(都築紡績社製「TS20単糸」)を本数比1:2の割合でパイル糸として用い、それ以外は、対照例1の(3)と同様にして生地の一方の表面側にループパイルを有するループパイル編地(生機)を製造した(ループパイル長=2.8mm、ループパイルの密度=40個/cm2、ループパイルを形成する糸のうち、複合撚糸の割合=35質量%)。
(4) 上記(3)で得られたループパイル編地(生機)を、90℃の熱水中に30分間浸漬して(浴比=1:10)、ループパイル編地のループパイル中の水溶性糸を溶解除去した後、ループパイル編地を熱水中から取り出して、80℃で1回水洗し、150℃で乾燥した。
(5) 上記(4)で得られた乾燥後のループパイル編地の風合を上記した方法で評価したところ、評点は2点であった。
また、上記(4)で得られたループパイル編地におけるループパイルからの原綿の抜け落ち度合を上記した方法で調べたところは、評点は5点であり、原綿の抜け落ちが極めて少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
上記した特定の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)をパイル糸として用いて製造した本発明のループパイル織編物(A0)、ループパイル織編物(B0)およびループパイル織編物(C0)を水(熱水、温水、冷水)で処理して、ループパイルを形成している前記複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去して得られる、本発明のループパイル織編物(A1)、(B1)および(C1)は、ふっくらとしていて、柔らかな、良好な風合を有し、しかもループパイルからの原綿の抜け落ちがなく、高い品質を有しているので、そのような特性を活かして、タオル地、タオル類、衣類用途、寝装寝具なの用途に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(a1)紡績糸と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(a2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆であり;
(a3)複合撚糸の撚数が、紡績糸の撚数の1.3〜3倍である;並びに、
(a4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜20質量および水溶性糸の割合が2〜80質量%である;
という上記の要件(a1)〜(a4)を備える複合撚糸(a)であることを特徴とするループパイル織編物。
【請求項2】
複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(b1)撚り方向を同じくする紡績糸の2本以上と水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(b2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆である;
(b3)複合撚糸の撚数が、2本以上の紡績糸のそれぞれの撚数のいずれに対しても、0.3〜2倍の範囲にある;並びに、
(b4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が98〜40質量および水溶性糸の割合が2〜60質量%である;
という上記の要件(b1)〜(b4)を備える複合撚糸(b)であることを特徴とするループパイル織編物。
【請求項3】
複合撚糸よりなるループパイルを有するループパイル織編物であって、ループパイルを形成する前記複合撚糸が、
(c1)紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸である;
(c2)複合撚糸の撚り方向が、紡績糸の撚り方向と逆である;
(c3)複合撚糸の撚数が、紡績糸の撚数の0.3〜2倍である;並びに、
(c4)複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が15〜70質量%、ゴム弾性を持たないフィラメント糸の割合が10〜60質量%および水溶性糸の割合が5〜75質量%である;
という上記の要件(c1)〜(c4)を備える複合撚糸(c)であることを特徴とするループパイル織編物。
【請求項4】
ループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)における水溶性糸が、水溶性のフィラメント糸である請求項1〜3のいずれか1項に記載のループパイル織編物。
【請求項5】
ループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)における水溶性糸が、水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸である請求項4に記載のループパイル織編物。
【請求項6】
水溶性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体よりなるフィラメント糸が、エチレンに由来する構造単位の含有割合が5〜15モル%である重合度200〜500のエチレン−ビニルアルコール系共重合体を溶融紡糸して得られるフィラメント糸である請求項5に記載のループパイル織編物。
【請求項7】
ループパイル織編物における上記の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)から形成されたループパイルの割合が、ループパイルを形成する当該複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去した後のループパイルの質量がループパイルの全質量に対して40質量%以上になる割合である請求項1〜6のいずれか1項に記載のループパイル織編物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のループパイル織編物から、ループパイルを形成する複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とするループパイル織編物。
【請求項9】
上記の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)、複合撚糸(c)を熱処理した後に、当該熱処理後の複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)をパイル糸として用いてループパイル織編物を作製し、そのループパイル織編物からループパイルを形成する複合撚糸(a)、複合撚糸(b)および/または複合撚糸(c)中の水溶性糸を水で溶解除去することを特徴とするループパイル織編物の製造方法。

【公開番号】特開2008−25055(P2008−25055A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199017(P2006−199017)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【出願人】(504101005)浅野撚糸株式会社 (10)
【Fターム(参考)】