説明

レ―ザダイオ―ド

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コンパクトディスク、ビデオディスク、光磁気ディスク、追記型光ディスク等に用いられる光ピックアップの光源、或いはレーザビームプリンタ、センサ、光通信素子等の光源として幅広く使用されるレーザダイオードに関する。
【0002】
【従来の技術】一般にレーザダイオード(以下、LDと略す)は、サブマウントであるシリコン基台上にレーザダイオードチップ(以下、LDチップと略す)をダイボンディングしたものを、乾燥させた不活性ガスを入れたキャンパッケージ内に封入してなるものである。キャンパッケージにはLDチップからのレーザ発光をパッケージ外部に取り出すためのガラス窓が設けられている。
【0003】ところで、上記の如きLDでは、LDチップの大きさは約250μm角で、基台は約1mm角であるのに比べ、パッケージの大きさは直径5.6〜9mm程もあるため、1つの電子部品としての占有スペースが大きく、しかもコスト高である。加えて、各種機器において光源であるLDの位置を調整する場合、パッケージの外側にパッケージよりも更に大きな調整機構のスペースを必要とする。これら大きなスペースの必要性は昨今の各種機器に求められる小型化・軽量化の動向に向いていない。
【0004】このため、LDチップをベアチップ実装で使用する要求がある。このベアチップ実装したLDとしては、ユニットタイプのものがある。従来のユニットタイプのLDの縦断面図を図5に、参考として外観斜視図を図2に示す。このユニットタイプのLD21では、アルミニウム板からなる基板(基台)2上にサブマウント3を介してLDチップ9をダイボンディングしてなるものである。LDチップ9の構成材料としてはGaAsが多用されている。又、サブマウント3にはモニタ素子7としてのホトダイオードが作製されている。
【0005】モニタ素子7は、LDチップ9の後方劈開面9bから出射するレーザ光を受光する。モニタ素子7の受光電流(モニタ電流)に基づいてAPC回路により、LDチップ9のレーザ光出力が所定の値になるように駆動電流が制御される。サブマウント3上には、LDチップ9やモニタ素子7に導通するアルミ配線5、6が形成されており、これらアルミ配線6、5はフレキシブル回路14上のリード14a、14bとワイヤW1 、W2 によって各々ワイヤボンディングされている。なお、後方劈開面9bとモニタ素子7には、アルミナ粒含有シリコン樹脂12が施されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】かかるベアチップ実装したLDでは、LDチップ9の耐湿性の対策を十分に施しておかなければ実環境の使用条件に耐えられない。そこで、耐湿性付与のためと、GaAsを用いたLDチップ9は応力に弱く、これの表面安定化(パッシベーション)を図るために、LDチップ9を含む全体が透明のシリコン樹脂13で被覆・封止されている。しかしながら、シリコン樹脂は若干の吸水性・透水性を有しており、長時間の耐湿加速試験に耐えられず、実用には難点がある。
【0007】従って、本発明の目的は、長時間にわたって優秀な耐湿性を保有するレーザダイオードを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のレーザダイオードは、基台上にサブマウントを介してレーザダイオードチップをボンディングし、このレーザダイオードチップからのレーザ光の固体導波路としてのシリコン樹脂を設け、レーザダイオードチップ及びシリコン樹脂を透明シリコン樹脂で封止してなるレーザダイオードにおいて、前記透明シリコン樹脂上にフッ素樹脂層を設けてなるものである。このレーザダイオードでは、シリコン樹脂、透明シリコン樹脂及びフッ素樹脂層の3層構造となっているため、レーザダイオードの耐湿性が長時間保持され、前記目的が達成される。
【0009】本発明のLDに用いるフッ素樹脂は、光透過性であると共に、一般に透明のシリコン樹脂に比べて吸水率・透水率が格段に低いだけでなく、接触角が小さくて揆水性に富んでいる。このため、まずLDチップ等を光透過性のシリコン樹脂で封止して、LDチップからのレーザ光の出射方向を確保した上で、更に透明シリコン樹脂上にフッ素樹脂からなる層を設ければ、十分な耐湿性をLDに付与することが可能となると共に、パッシベーションの性能向上を図れる訳である。
【0010】
【実施例】以下、本発明のレーザダイオードを実施例に基づいて説明する。図1にその一実施例の縦断面図を、図2に外観斜視図を示す。図1及び図2から分かるように本実施例のLDの構造はフッ素樹脂層以外に関しては図5に示す従来例のものと同一である。但し、図2にはシリコン樹脂やフッ素樹脂層は示していない。
【0011】基板2は、アルミニウム板の表面にニッケルメッキ及び金メッキを施したものである。基板2の前方中央部よりやや前進した位置には、サブマウント3がインジウム等の接続材料により載置固定される。サブマウント3は、シリコン製の矩形板材により基本的に構成され、その表面には二酸化シリコン皮膜4を介して、LDチップ9に電力を供給するためのアルミニウム配線5、後述するモニタ素子7の作動によりサブマウント3に生じた電流を取り出すためのアルミニウム配線6が形成される。
【0012】サブマウント3上における前方中央部には、アルミニウム配線5が延在してボンディング面を形成しており、このボンディング面上にLDチップ9が導電性ロウ材によってダイボンディングされる。この時、LDチップ9の2つの劈開面9a、9bは、それぞれサブマウント3の前後方向を向くように位置決めされる。一方、サブマウント3の表面中央部、即ちLDチップ9の後方劈開面9bと隣接する領域には、サブマウント3表面からp型不純物を拡散させてpn接合を形成したホトダイオード素子が一体に作製され、この素子がモニタ素子7として機能する。このモニタ素子7には、アルミニウム配線6が連結されている。
【0013】アルミニウム配線6、5は、基板2上に接続するフレキシブル回路14上の対応するリード14a、14bにワイヤW1 、W2 によって各々ワイヤボンディングされている。又、LDチップ9の負極は、サブマウント3上の二酸化シリコン皮膜4を一部除去して内部導通させたパッド8に、ワイヤW4 でワイヤボンディングすることにより基板2に電気的に接続される。更に基板2は、フレキシブル回路14のリード14cとワイヤW3 によりワイヤボンディングされる。LDチップ9の前方の基板2上には、ガラス又はプラスチックよりなる透明板11が配置される。
【0014】ここで、LDチップ9の後方劈開面9bとモニタ素子7にアルミナ粒含有シリコン樹脂12を塗布し、恒温槽でキュアを行う。これにより、シリコン樹脂12は後方劈開面9bとモニタ素子7を結ぶ固体導波路12aを構成する。即ち、後方劈開面9bからのレーザ光は固体導波路12a内に散乱して閉じ込められ、モニタ素子7に取り入れられる。
【0015】次に、LDチップ9を含む全体に透明のシリコン樹脂13を塗布し、同様にキュアを行う。シリコン樹脂13で全体が封止された後に、有機溶剤に溶解させたフッ素樹脂をシリコン樹脂13上に塗布し、乾燥・固化させてフッ素樹脂層15とする。このフッ素樹脂層15により、高度の耐湿性とパッシベーションの性能向上がもたらされる。
【0016】本実施例のLD1では、前方劈開面9aから発したレーザ光は、シリコン樹脂13、透明板11を透過して、透明板11の平坦な前面11aより前方に出射する。透明板11を設けることは、出射光の方向・波面を一定に保つ必要がある場合に有効である。なお、透明板11に光反射防止のためのARコートを施しておくと一層好ましい。
【0017】又、後方劈開面9bより出射したレーザ光は、固体導波路12a中を進行し、シリコン樹脂12中のアルミナ粒により散乱されてモニタ素子7に受光される。図3に別実施例を示す。この実施例は、LDチップ9の前方劈開面9aの前方に透明体を設けていない構造のもので、劈開面9aの前方にシリコン樹脂13が拡張され、更にフッ素樹脂層15がシリコン樹脂13を覆う。これ以外の構造は図1に示すものと同一である。当実施例では、劈開面9aからのレーザ光はシリコン樹脂13、フッ素樹脂層15を透過して出射する。
【0018】本発明のLDが従来のLDに比較して如何に耐湿性に秀でているかということを明確にするために、耐湿性の試験結果をグラフで示す図4を参照して説明する。図4は、実施例及び従来例の各LDにおける封止樹脂(実施例ではフッ素樹脂層、従来例ではシリコン樹脂)の吸湿率(%)と時間(hours)との関係を示すものである。但し、耐湿性試験は温度85℃、相対湿度85%の条件下で行い、時間経過に伴って、厚さ1mmのシリコン樹脂上に設けた厚さ数10μmのフッ素樹脂層(実施例)からと、厚さ1mmのシリコン樹脂(従来例)から、それぞれ内部のLDチップまで水が到達する程度を吸湿率(%)で示した。
【0019】この図4から明らかなように、水がLDチップに到達した時の吸湿率Xにおける時間が、従来例では約2000時間であるのに対し、実施例では約10000時間であり、耐湿性が5倍以上に向上したことが理解される。
【0020】
【発明の効果】本発明のレーザダイオードは、以上説明したようにシリコン樹脂(固体導波路)+透明シリコン樹脂+フッ素樹脂層の3層構造としてあるから、透明シリコン樹脂でLDチップからの出射レーザ光の進路を確保すると共に、パッシベーションを図り、更にフッ素樹脂層により一層長時間にわたって耐湿性が維持され、パッシベーション性能も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のLDの一実施例を示す中央縦断面図である。
【図2】図1に示すLDの外観斜視図である。
【図3】本発明のLDの別実施例を示す中央縦断面図である。
【図4】本発明と従来との各LDにおける時間と封止樹脂の吸湿率との関係を示すグラフである。
【図5】従来のLD例を示す中央縦断面図である。
【符号の説明】
1 LD
2 基板
3 サブマウント
9 LDチップ
13 シリコン樹脂
15 フッ素樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】基台上にサブマウントを介してレーザダイオードチップをボンディングし、このレーザダイオードチップからのレーザ光の固体導波路としてのシリコン樹脂を設け、レーザダイオードチップ及びシリコン樹脂を透明シリコン樹脂で封止してなるレーザダイオードにおいて、前記透明シリコン樹脂上にフッ素樹脂層を設けてなることを特徴とするレーザダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2542747号
【登録日】平成8年(1996)7月25日
【発行日】平成8年(1996)10月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−37653
【出願日】平成3年(1991)3月5日
【公開番号】特開平4−276679
【公開日】平成4年(1992)10月1日
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【参考文献】
【文献】特開平2−209785(JP,A)
【文献】特開昭60−84845(JP,A)
【文献】実開昭60−125755(JP,U)