説明

レオロジー変性インク及び印刷法

本発明は、明細書に上記されたずり流動化剤を含むインクジェット印刷インク、かかるインクを含むインクセット、かかるインクの製造方法、かかるインクを使用する印刷方法及びずり流動化剤をインクジェットインクに用いる使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、ずり流動化剤を含むインクジェット印刷インク、かかるインクを含むインクセット、かかるインクの製造方法、かかるインクを使用する印刷方法及びずり流動化剤をインクジェットインクに用いる使用に関する。
【0002】
発明の背景
デジタル印刷は、印刷される画像の速く且つ容易な変更が可能である。しかしながら、デジタル印刷の速度は一般にリソグラフィ印刷及びオフセット印刷プロセスなどの従来の印刷方法に遅れをとっていた。
【0003】
より速いデジタル印刷ハードウェアを製造する努力が続けられている。特に、インクジェットプリンタの速度が改良されている。インクジェットヘッドは、インクジェットプリンタの速度を向上させるために高周波数で噴射する。ジェットインクの粘度は、周波数が高くなるほど増大し、ヘッドはインクジェットプリンタによって使用されている。
【0004】
インクジェットプリンタは、従来、10センチポアズ(cP)未満の粘度を有する従来から使用されているインクを有する。例えば、多くのエプソンインクジェットヘッドは、一般に25℃で約3〜5cPの粘度を有するインクを使用している。しかしながら、新たなインクジェットヘッド、例えば、Aprion、Scitex Vision (Hewlett Packard)、Spectra、Xaar、Ricoh、Kyocera及びSeikoからのインクジェットヘッドは、25℃で7〜15cPの範囲の粘度を有するインクを使用している。新たに提案されたプリンタは、更に高い粘度を有するインクを使用する。例えば、プリントス社のヘッドは、25℃で20〜100cPの間の粘度範囲を有するインクを使用している。
【0005】
粘度の高いインクの使用は幾つかの問題点がある。増粘剤及びグリコールは、インクの粘度を増大させるために使用される。これらの高粘度のインクは、例えば、40%〜45%(質量)のグリコールを含む。高いパーセンテージのグリコールは、比較的低いパーセンテージの着色剤、例えば、顔料又は染料を要し、これは色の鮮やかさの低減された、低品質の印刷画像をもたらす。
【0006】
更に、高いパーセンテージのグリコール又は類似の増粘剤及び湿潤剤は、水のパーセンテージが高い従来からの水性インクと比較して、紙、プラスチック又はテキスタイルなどの印刷表面上で容易に乾燥しないインクをもたらす。高いパーセンテージのグリコール又は類似の薬剤は、インクが印刷された後にこれを乾燥させるための乾燥フード又は類似のハードウェアの使用を必要とし得る。
【0007】
高粘度のインクに関する更に別の問題は、粘度の高いインクがインクを印刷するために更にエネルギーを必要とすることである。更なる周波数のプリンタヘッドの噴射及び更に粘度の高いインクを印刷ヘッドに通すために追加のエネルギーが要求されるので、結果的に印刷ヘッドで相当量の熱が生じる。粘度の高いインクを使用するプリンタは、印刷ヘッドからの熱を除去する、循環水系などの冷却装置を必要とし得る。例えば、新たなプリントス社のヘッドは、25℃で10〜100cPの高粘度のインクを噴射できるが、冷却系は、ヘッドとインクの温度を下げるために印刷ヘッドに統合されなければならない。この要求は更にヘッド技術の複雑さを増大させ、またプリンタのコスト、及びプリンタの使用コストを増大させる。
【0008】
従って、本発明の課題は、少なくとも幾つかのこれらの技術水準の欠点を減じることである。特に、高速インクジェットプリンタに要求されるような高粘度のインクを提供することがインクに要求されている。所望のインクは、乾燥することが困難な高濃度の材料、例えば、グリコールを有するべきではない。所望のインクはまた、高パーセンテージの着色剤を、印刷品質の改善されたインクに使用できるようにするべきである。このインクは、他の高粘度のインクと比較した時に印刷ヘッドでの熱の生成を低減するべきである。
【0009】
これらの目的は、請求項1及び2に規定されるインクジェットインクによって達成される。本発明の更なる態様は、本願明細書及び独立項に開示されており、好ましい実施態様は本願明細書及び従属項に開示されている。
【0010】
本発明を以下に更に詳細に記載する。本願明細書に提供/開示される種々の実施態様、選択及び範囲は任意に組み合わされてよいと理解されている。更に、特殊な実施態様によって、選択された定義、実施態様又は範囲は適用されない。用語「含む」は、本発明の文脈において、「含有する」又は「からなる」の意味も含むものとすることも理解されている。
【0011】
用語「液体」材料は、水及びグリコールなどの、周囲条件下で液体である任意の材料又は成分を意味する。用語「固体」材料は、顔料などの、周囲条件下で固体である任意の材料又は成分を意味する。固体材料は、顔料、分散染料又は樹脂などが「分散されて」、又はずり流動化剤などが「溶解して」存在してよい。溶解した材料は、溶液(即ち、単相)として、ミセル溶液として又はエマルション(即ち、2相)として存在してよい。
【0012】
用語「印刷ヘッド」は当該技術分野で公知であり、特にインクジェットプリンタのインクジェットヘッドを意味し、例えば、Epson、Aprion、Scitex Vision (Hewlett Packard)、Spectra、Xaar、Ricoh、Seiko、Kyocera、Konica−Minolta、Trident、Imaje、Video−Jet、Canon、Memjet、Jemtex、Hitachi、Toshiba Tecから市販されている。
【0013】
本発明の要旨
本発明は、インクジェットプリンタに有用であり且つ印刷時に液体であるインクである。インクは印刷前及び印刷直後に比較的高い粘度を有する。インクは、せん断応力及びインクジェットプリンタのヘッドによってインクに適用される他の拘束力に応じてインクジェットプリンタのヘッドを通過する時に薄くなる。インクのレオロジー挙動は、インクにかけられる誘導及び制約のために噴射プロセスの間に変化し、インクの粘度は、インクがインクジェットヘッドを通過する時に低下するため、インクの粘度はインクジェットヘッド内で著しく低下する。インクは着色剤、ずり流動化剤、及びキャリアを含む。インクは、インクの印刷を容易にするために他の材料を含んでよい。従って、広い意味で、本発明は、印刷時に液体であり且つインクジェットプリンタでの使用に適したインクであって、前記インクは着色剤、ずり流動化剤、及び印刷時に液体であるキャリアを含み、その際、前記インクは周囲温度でインクジェットプリンタの印刷ヘッドに導入する前に比較的高い粘度を有し、且つ前記インクの粘度が、前記インクの印刷の間に前記印刷ヘッドによって前記ずり流動化剤に剪断をかけることによって前記印刷ヘッドにおいて低減される、インクを提供する。
【0014】
有利な実施態様の詳細な説明
一実施態様において、インクは着色剤、キャリア、及びずり流動化剤を含むインクジェットインクである。このインクは周囲条件下で液体であってよく、且つ印刷時に液体である。本発明のインクは印刷ヘッドに入る前に比較的高い粘度を有し、その結果、粘度は、ずり流動化剤がインクジェットプリンタヘッドの通常操作によって誘発される剪断力に直面するため低下する。インクがインクジェットプリンタヘッドを出て、プリンタヘッドで受ける剪断応力がインクから解除されるので、インクの粘度は比較的高い粘度に戻る。高粘度インクの基材上での利点、例えば、低減された吸着及び像のにじみは、高いパーセンテージのグリコール又は急速に乾燥しない類似材料を必要とせずに保持される。
【0015】
更なる実施態様において、本発明は、(i)0.1〜10質量%の量で1種以上の液体又は溶解したずり流動化剤;(ii)0.9〜30質量%の量で1種以上の着色剤;40〜99質量%の量で水性キャリアを含有するインクジェットインクを提供する。成分(b)及び(c)は一緒に「ベースインク」と呼ばれてもよいが、全成分(a)、(b)及び(c)の組み合わせは「レオロジー変性インク(RMI)」と呼ばれてよい。
【0016】
本発明は更に以下に詳細に説明される。
【0017】
一実施態様において、ずり流動化剤は、液体ずり流動化剤の群から選択される。この実施態様では、キャリアに応じて、ずり流動化剤は、水相、ミセル及び/又は第2の非水相に存在する。
【0018】
更なる実施態様において、ずり流動化剤は、固体ずり流動化剤の群から選択される。この実施態様では、固体ずり流動化剤は、部分的に又は完全に、好ましくは完全に、本発明のインクに溶解する。この実施態様では、キャリアに応じて、ずり流動化剤は、水相、ミセル及び/又は第2の非水相に存在する。
【0019】
本発明のインクは1種以上の、例えば、1種の着色剤を含有する。着色剤との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した着色剤を特定し得る立場にある。本発明の文脈において、着色剤との用語は、広い意味で用いられ且つ顔料と染料の両方を含む。この用語は特にインクジェットインクに通常用いられる顔料を含む。この用語は更に、インクジェットインクにおいて通常使用される染料、例えば、反応性染料、酸性染料、分散染料及び昇華性染料を含む。従って、本発明は、固体着色剤、例えば、顔料、昇華性染料及び分散染料を含有するインクジェットインクを提供する。本発明は更に反応性染料及び酸性染料などの溶解性着色剤を含有するインクジェットインクを提供する。
【0020】
反応性染料との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した反応性染料を特定し得る立場にある。反応性染料は特にモノクロロトリアジン(MCT)及びビニルスルホン化学に基づく染料を含む。従って本発明は、本願明細書に記載されるインクジェットインクであって、着色剤がモノクロロトリアジン誘導体及びビニルスルホン誘導体からなる群から選択される反応性染料である、前記インクを提供する。反応性染料MCT化学の特定例はCibacron Yellow D−6GSである。
【化1】

【0021】
酸性染料との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した酸性染料を特定し得る立場にある。酸性染料は特にシルク、ポリアミド及び/又はウールに適した全ての酸及び金属錯体染料を含む。従って、本発明は、着色剤が酸性染料及び金属錯体染料からなる群から選択される酸性染料である、本願明細書に記載されるインクジェットインクを提供する。酸性染料の特定例は、Ciba/Hunstmann社製のErionyl 3Gである。
【化2】

【0022】
「昇華性染料」との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した昇華性染料を特定し得る立場にある。本願明細書で使用される昇華性染料は、熱をかけた時に昇華する分散染料を含む。昇華性染料は熱活性染料であり、熱をかけた時に活性化する他のインク、染料又は顔料は本発明で使用されてよい。昇華性染料は、加熱した時に昇華し、圧力は典型的には熱と一緒にかけられる。ガス化温度は、使用される特定の染料固体に依存するが、典型的には180℃〜210℃の範囲である。ガス化した昇華性染料は、ポリマー、特に、ポリエステル成分を含む母材(基材)に対して親和性を有する。昇華性染料のガス化時に、印刷された画像は、基材に対する昇華性又は熱活性染料の親和性のために、適当な基材に移されてよい。熱活性又は昇華性着色剤を使用する時に、インクの他の成分が熱活性又は昇華プロセスに干渉することは望ましくない。高濃度のグリコール、又は他の薬剤は、熱活性又は昇華に干渉し得るので、望ましくない。特に昇華性染料としては、Y54、M60、ブルー360、ブルー72、ブルー359、ブラウン27及びオレンジ25(カラーインデックスC.I.によって命名)が挙げられる。従って、本発明は、着色剤が、好ましくはY54、M60、ブルー360、ブルー72、ブルー359、ブラウン27、オレンジ25からなる群から選択される、昇華性染料である、本願明細書に記載されるインクジェットインクを提供する。昇華性染料の特定例はマゼンタテラシルレッド4BN染料である。
【化3】

【0023】
本発明のインクは1種以上の、例えば、1種のずり流動化剤を含有する。ずり流動化剤との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適したかかる薬剤を特定し得る立場にある。ずり流動化剤は、幅広い種類の「レオロジー変性剤」(RM)に属している。ずり流動化剤は、ずり流動化(又は流動化)特性を本発明の組成物に誘導する、即ち、粘度は、剪断効果が増大する時に低下し、拘束力が止まる時に通常の粘度に戻る。
【0024】
本発明の文脈において、ずり流動化剤との用語は広い意味で使用され、合成及び天然の両方のずり流動化剤を含む。一実施態様において、ずり流動化剤は、合成ポリマー、例えば、ポリアクリレート、ポリアミノアクリレート、C10−30アルキルPEG−20イタコネートコポリマー、疎水性変性エトキシル化ウレタンコポリマー、疎水性変性エチレンオキシドウレタン、ポリメタクリレート、及びトリベヘニン−PEG−20エステルからなる群から選択される。更なる実施態様において、ずり流動化剤は、天然のずり流動化剤、例えば、ポリサッカリド、ヒドロキシプロピルスターチホスフェート、及びナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩(例えば、Tamol(登録商標)NN)からなる群から選択される。ずり流動化剤は、ベースインクと組み合わせてよく、例えば、水性の反応性インクに添加されてよい。
【0025】
ずり流動化剤は、インクの周囲粘度を上昇させ、例えば、約10cPまで粘度を上昇させ得る。ずり流動化剤と共に記載されたレオロジー変性剤、並びに使用されるパーセンテージの選択は、噴射プロセスの前後のインクの見掛け粘度を決定する。例えば、5%のアクリレート/アミノアクリレート/c10−30アルキルPEG−20イタコネートコポリマーの場合、インクの見掛け粘度は約150cpであってよく、これはインクジェットヘッドを通過する間に70cPまで低下し得る。1%の同じずり流動化剤の場合、粘度は20cPから10cPまで低下する。
【0026】
本発明のインクは水性キャリアを含有する。水性キャリア(又は水性ベースキャリア)との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した水性キャリアを特定し得る立場にある。水性キャリアは、水に加えて、湿潤剤、殺生剤、界面活性剤、粘度増加剤、錯化剤及び/又は更なる添加剤を含有し得る。これらの成分は当業者に公知である。ある化合物は上記の群の2つ以上に含まれ得ることも公知であり、例えば、湿潤剤は粘度増加特性も有し得る。
【0027】
水としては特に精製水及び脱イオン水が挙げられる。
【0028】
「湿潤剤」との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した湿潤剤を特定し得る立場にある。湿潤剤としては特にポリオール(例えば、グリセリン、グリコール及びその誘導体)及びラクタムが挙げられる。湿潤剤は、インクがプリンタの環境下で乾燥及び/又はクラスト形成することを防ぐために添加されてよい。従って、本発明は、水性キャリアが、好ましくは1,2−プロピレングリコール及びイプシロン−カプロラクタムからなる群から選択される、1種以上の湿潤剤を含む、本願明細書に記載されるインクジェットインクを提供する。
【0029】
「殺生剤」との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した殺生剤を特定し得る立場にある。殺生剤としては特にイソチアゾリノン誘導体、例えば、MIT;CMIT;BIT;OIT;DCOIT、例えば、Proxel GXLが挙げられる。
【0030】
「界面活性剤」との用語は当該技術分野で公知であり、これは特に表面張力を低下させる及び/又は分散特性を向上させる化合物を含む。当業者は、インクジェットインクに適した界面活性剤を特定し得る立場にある。この用語はカチオン性、アニオン性、非イオン性及び両性イオン性の界面活性剤を含み、特に、Surfynol PSA 336などの低い蒸気圧を有するものを含む。
【0031】
「粘度増加剤」との用語は当該技術分野で公知であり、これは特に粘度を増加させる化合物を含む:当業者は、インクジェットインクに適した粘度増加剤を特定し得る立場にある。この用語はグリコール及びその誘導体、例えば、(ポリ)−エチレングリコール及び(ポリ)−プロピレングリコール;例えば、1,2プロピレングリコールを含む。
【0032】
「錯化剤」との用語は当該技術分野で公知であり、特に金属イオンに対してキレート効果を有する化合物が含まれる。錯化剤として、特にホスホネート、EDTA及びNTA、例えば、水の金属イオン封鎖剤として40%のtrilon Mが挙げられる。
【0033】
「添加剤」との用語は当該技術分野で公知であり、当業者は、インクジェットインクに適した、上記の添加剤に加えて、更なる添加剤を特定し得る立場にある。かかる添加剤は、とりわけ、本発明のインク並びに使用される着色剤の意図する用途に応じて選択され、分散剤及び色止め剤が挙げられる。分散剤は、本発明のインク中の固体着色剤などの固体粒子を分散又は安定化するために使用されてよい。好適な分散剤は当該技術分野で公知であり、合成ポリマー、例えば、アクリルポリマー(例えば、Cibaから入手可能なDispex A40)半合成ポリマー、例えば、スルホン化リグニンが挙げられる。色止め剤は、基材上への色の固定を改善するために使用されてよい。好適な色止め剤は当該技術分野で公知であり、ポリマー/樹脂、例えば、分散剤中のポリウレタン、分散剤中のポリウレタンアクリレート、分散剤中のポリアクリレート、脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0034】
本願明細書で特定された種々の化合物は互いに相溶性でなければならないことが理解されている。従って、これらの成分は、安定したインクジェットインクを形成するように互いに反応してはならない。特に、この種類の使用される着色剤は、ずり流動化剤及び/又は湿潤剤及び/又は界面活性剤と干渉してはならない、又は有意に干渉してはならない。更に、ずり流動化剤を溶解するために選択されるキャリアは、最終インク配合物中に存在する他の成分と相溶性でなければならない。かかる選択は、当該技術分野の専門家の技術範囲内である。
【0035】
本発明のインクの各成分(a)〜(c)の量は広い範囲で変化し且つ当業者によって決定されてよい。有利には、ずり流動化剤の量は0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、特に好ましくは1〜3質量%の範囲内であってよい。有利には、着色剤の量は0.9〜30質量%、好ましくは2〜25質量%、特に好ましくは3〜20質量%の範囲内であってよい。有利には、水の量は30〜99質量%、好ましくは35〜90質量%、特に好ましくは38〜75質量%の範囲内であってよい。有利には、湿潤剤の量は0〜30質量%、好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは10〜20質量%の範囲内であってよい。有利には、殺生剤の量は0〜1質量%、好ましくは0.25〜0.5質量%の範囲内であってよい。有利には、界面活性剤の量は0〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の範囲内であってよい。有利には、粘度増加剤の量は、15cP未満の粘度を有するインクの場合、0〜45質量%の範囲、5cP未満の粘度を有するインクの場合、0〜20質量%の範囲であってよい。有利には、錯化剤の量は、0〜5質量%の範囲、好ましくは0.1質量%であってよい。有利には、更なる添加剤の量は0〜8質量%、好ましくは3〜8質量%、特に好ましくは3〜5質量%の範囲であってよい。
【0036】
好ましい実施態様では、ずり流動化剤は、5質量%未満のインク配合物を含む。これは25℃で粘度3〜5cPを有するインクジェットインク用の幾つかのインクジェットインク配合物で使用されるグリコールが、40〜45質量%から通常の20〜25質量%に大幅に減少することである。ずり流動化剤のパーセンテージが低い場合、比較的高いパーセンテージの染料固体を本発明のインク中で使用することが可能であり、更には、高いパーセンテージの水を水性インク中で使用してよい。
【0037】
更に好ましい実施態様では、本発明は、約5質量%のずり流動化剤、約5質量%の着色剤、約20質量%の粘度増加剤(例えば、グリコール)、約70質量%の水を含む、本願明細書に開示されたインクジェットインクを提供する。かかるインクは10cPの粘度を有する。ずり流動化剤を含有していない、従来のインクジェットインクは、0質量%のずり流動化剤、約5質量%の着色剤、約450質量%の粘度増加剤(例えば、グリコール)、約50質量%の水を含む。かかる従来のインクも10cPの粘度を有する。以上のように、粘度増加剤の量は有意に減少するが、水の量は増加する。これは例えば、「本発明のインクジェットインク中の着色剤の量を有意に増加させる可能性」を提供する。
【0038】
更なる実施態様では、本発明は、(a)好ましくは0.1〜10質量%の量で1種以上のずり流動化剤;(b)好ましくは0.9〜30質量%の量で1種以上の着色剤;(c)好ましくは40〜99質量%の量でキャリアを含有するインクジェットインクであって、それによって前記インクは、着色剤を除いて、固体材料を含有しない前記インクを提供する。この実施態様によれば、ベースインクは固体材料を含有していない、即ち、ベースインクの全成分が単一相(溶液)又は2相(エマルション)を形成する。着色剤は、上記のとおり、可溶性又は不溶性のいずれかであってよい。最初の場合、本発明のインクは固体材料を含まないが、後者の場合、着色剤は固体材料である。
【0039】
本実施例のインクはインクジェットプリンタに供給される。インクがインクジェットヘッドに入る時、インクは、ピエゾプリンタを用いて、インクジェットヘッド及びインクジェットプリンタのノズルを通して押出される。インクがピエゾプリンタによってインクジェットヘッドから押出される時のインクへの圧力によって、一般にインクに、特にずり流動化剤に剪断応力が導入される。剪断応力が導入される時、ずり流動化剤の粘度は低下し、この非ニュートン液体のレオロジー挙動のために、もはや増粘剤として作用しない。従って、インクの粘度は、インクがインクジェットプリンタのヘッドを通過する時に低下する。インクの粘度は、例として、インクがノズルを通過する時に10cPから5cPまで低下し得る。インクがノズルを出て、インクにかかる剪断応力が解除される時、インクは比較的高い粘度に戻る。
【0040】
インクは、印刷前及び印刷後に特定の粘度を有することが意図されており、更にインクがインクジェットプリンタのプリントヘッドを通り、該インクが剪断応力を受けるか又は他の拘束力が剪断効果を含み得る時に別の粘度を有することが意図されている。印刷前の特定の粘度は、着色剤、キャリア(湿潤剤、殺生剤、界面活性剤を含む)、更に重要には、特定のずり流動化剤及びずり流動化剤の量に応じる。
【0041】
本発明のインクは乾燥特性が改善されており、湿潤剤又は共溶剤(例えば、グリコール)ではなく、水が蒸発されることで更に環境に優しい。高い染料パーセンテージによって更に鮮やかな色の画像が可能である。同時に、粘度が印刷時に低下するので、ピエゾプリンタによってインクを印刷するために使用されるエネルギー量が減少し、これは印刷プロセスの副生物である熱を削減する。
【0042】
更なる実施態様では、本発明は改善された粘度特性を有するインクを更に提供する。印刷前(@0s−1の剪断速度)に本発明のインクは25℃で5〜100cPの粘度に調整されてよい。有利には、インクは25℃で10〜15cP以上の粘度を有する。インクがインクジェットヘッドを通過して剪断応力を受ける時に、インクは5〜7cP以上の粘度を有するべきである。インクがプリンタヘッドを通った後に、インクはもはや剪断応力を受けないので周囲粘度に戻る。有利な実施態様では、本発明は、0s−1の剪断速度にて10〜100cPの粘度及び200〜400s−1の剪断速度にて5〜20cPの粘度を有する本願明細書に記載されたインクを提供する。
【0043】
全てのインクジェットプリンタにおいて、インクは、うまくドット噴出するために噴射の間インクに圧力がかかるプリントヘッドのノズルを通過しなければならない。本発明のインクはかかるプロセスに適合するため、全てのインクジェットヘッド、例えば、ピエゾ、連続流動バイナリ、連続流多層偏向型、バルブジェット、ジェット及び熱又はバブルジェットインクジェットヘッドで使用することができる。本発明は、デスクトップインクジェットプリンタなどの、大きなキャリッジ幅又は小さなキャリッジ幅を有するインクジェットプリンタと一緒に使用することができる。本発明は、反応性、酸性、分散性、昇華性、金属錯体の染料、及び直接染料などの広範の着色剤顔料及び染料と一緒に使用することができる。本発明は、印刷時に液体であり、印刷のために溶解するワックス熱又はワックスベースインクも含む、インクジェットインクと一緒に使用することができる。有利な実施態様では、本発明は、プリントヘッドを有するインクジェットプリンタ、例えば、Epson、Seiko、Xaar、Spectra、Ricoh、Aprion、Printos、Kyocera、Konica−Minolta、Memjet、Imaje、Jemtex、Video−Jetにおける本願明細書に記載されるインクの使用を提供する。
【0044】
本願明細書に記載されるずり流動化剤を使用することによって、湿潤剤(グリコール及び湿潤剤)の総量を、従来のインクジェットインク中40〜45質量%と比較して、本発明のインクジェットインク中20〜25%まで減らすことが可能である。
【0045】
更に、本願明細書に記載されるずり流動化剤を使用することによって、従来のインクジェットインクと比較した時に、乾燥時間を減らすことが可能である。理論により拘束されないが、これは基材と接触した時の高い粘度に関連していると考えられる。
【0046】
更に、本願明細書に記載されるずり流動化剤を使用することによって、従来のインクジェットインクと比べて顔料の量が増加するので、印刷の品質を向上させることが可能である。
【0047】
更なる実施態様では、本発明は、少なくとも3種のブレンド可能なインクを含むインクセットであって、その際、前記セット中の1種以上の、好ましくは全てのインクが本願明細書に記載されるインクを含む、前記インクセットを提供する。有利な実施態様では、本発明は、本願明細書に記載されるセットを提供し、その際、前記ブレンド可能なインクは、(i)イエローインク、シアンインク、マゼンタインク、任意にブラックインク、任意にホワイトインク;又は(ii)イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、オレンジ及びブルー;又は(iii)CMYKオレンジ、ブルー、バイオレット及びグリーンインク;又は(iv)CMYKオレンジ、レッド、ブルー及びグリーンインクを含む。
【0048】
更なる実施態様では、本発明は、(i)印刷基材及び(ii)該基材の表面上に本願明細書に記載された印刷インクを含む、印刷物を提供する。好適な基材は、当該技術分野で公知であり、紙、厚紙、プラスチック、金属及びテキスタイルを含む。印刷物は、印刷インクを、文字、数字、又はシンボルの形で;又はコーティングとして含有してよい。
【0049】
反応性染料インクは、セルロース系繊維に適しており;酸性染料インクはシルク、ポリアミド及びウール繊維に適しており;昇華性染料インク及び分散染料インクは、主要成分としてポリエステルを有する表面に適合し;顔料インクは全種類の繊維/物質に適している。従って本発明は(a)(i)セルロース繊維を含む印刷基材及び(ii)1種以上の反応性染料を含む本願明細書に記載された印刷インクを含む印刷物;又は(b)(i)シルク、ポリアミド及び/又はウール繊維を含む印刷基材及び(ii)1種以上の酸性染料を含む本願明細書に記載された印刷インクを含む印刷物;又は(c)(i)主要成分又は単独成分としてポリエステルを含む印刷基材及び(ii)1種以上の昇華性染料を含む本願明細書に記載された印刷インクを含む印刷物;又は(d)(i)主要成分又は単独成分としてポリエステルを含む印刷基材及び(ii)1種以上の分散染料を含む本願明細書に記載された印刷インクを含む印刷物;又は(e)(i)紙、厚紙、プラスチック、金属及びテキスタイルを含む印刷基材及び(ii)1種以上の顔料を含む本願明細書に記載された印刷インクを含む印刷物を提供する。
【0050】
更なる実施態様では、本発明は本願明細書の記載によるインクの製造方法を提供する。前記方法は、(i)出発材料(即ち、本願明細書で定義される成分a)、b)及びc))を混合する工程及び(ii)こうして得られた生成物を圧力下で濾過する工程を含む。これらの成分を標準ミキサー又は高速分散機を用いて混合してよいことが判明した。本発明のインクが、1ミクロン未満、例えば、0.5〜1ミクロンの孔を有するフィルタを用いて容易に濾過されることが更に判明した。これは驚くことである。なぜなら、多量の湿潤剤が配合された高粘度の現行のインクが、非常に細かいフィルタ、例えば、0.5〜1ミクロンを通過する濾過プロセスにおいて大きな問題に直面するからである。工程(ii)に適したフィルタとしては、ポリプロピレンフィルタ又は繊維型のフィルタが挙げられる。
【0051】
更なる実施態様では、本発明は、本願明細書に開示された印刷物の製造方法(「印刷方法」)であって、(i)基材及び本願明細書に開示されたインクをインクジェットプリンタに提供する工程及び(ii)前記プリンタを使用して前記基材上に印刷する工程を含む、前記製造方法を提供する。これらの方法は、それ自体公知であるが、未だ本発明の特定のインクに適用されていない。本発明のインクは公知の装置に適合するが、印刷プロセスの改善(例えば、印刷速度の上昇及び/又は品質の改善)ができることが利点であると考えられる。1種以上の昇華性染料を含む本発明のインクを使用する場合、印刷工程(ii)は直接及び間接印刷を含む。間接印刷の場合、昇華性染料インクは、転写用材料(例えば、紙)に印刷され、次いでこれが時間及び温度条件(例えば、180〜210℃で30〜45秒及び相転写の間に必要な圧力)を制御することによって基材(例えば、ポリエステル)に転写される。直接印刷の場合、昇華性染料インクは、転写用材料を使用しないで;任意に圧力及び/又は蒸気などの固定方法を適用することによって基材(例えば、ポリエステル)に直接印刷される。一実施態様では、インクを昇華させて繊維に浸透するために、トランスファープレスが160〜190℃の温度で45〜60秒間圧力下で使用される。更なる実施態様では、インクを昇華させて繊維に浸透するために、160℃で120〜18秒間、蒸気が用いられる。当業者は、適切な印刷パラメータを、簡単な連続試験によって決定し得る。
【0052】
更なる実施態様では、本発明は、インクジェット印刷のための、本願明細書に定義されるインク又はインクセットの使用(又は使用方法)を提供する。結果的に、本発明は更にインクジェットプリンタカートリッジ内に含有される本願明細書に開示されるインクも提供する。
【0053】
更なる実施態様では、本発明は、本願明細書に定義されるずり流動化剤を、インク、特に本願明細書に開示されるインクジェットインクに用いる使用(又は使用方法)を提供する。特に、本発明は、本願明細書に定義されるずり流動化剤をインク、特に本願明細書に定義される昇華性染料の群から選択される着色剤及び水性キャリアを含有するインクジェットインクに用いる使用を提供する。驚くことに、本願明細書に開示されたずり流動化剤が特に昇華性染料を含有するインクに適していることが判明した。理論により拘束されないが、これはインク中で使用される比較的少量の湿潤剤及び多量の水に関連していると考えられる。
【0054】
本発明を更に説明するために、以下の例が提供される。これらの実施例は本発明の範囲を制限することを意図せずに提供されている。
【0055】
次のインクジェットインクは、下表に示した出発材料を最初に組み合わせ、通常のミキサー又は高速分散機を用いて混合することによって、明確な製造プロトコルの後に提供される。第2工程では、最初に得られた材料を、圧力下で0.5〜5ミクロンの微細なフィルタで濾過する。最終的なインクは均質で、安定であり且つ明確な物理的及び化学的仕様;特に25℃での粘度、25℃での表面張力、スペクトロメータによって規定される染料/顔料の量及びpH値を有する。更に、剪断効果が適用される時の粘度の低下を調べるために特別な研究室制御もまた一定温度(25℃)の下で実施される。
【表1】

【表2】

【0056】
結果:上記の実施例によるインクは容易に製造して濾過することができる。それらは10mPasの初期粘度を示し且つSpectra head S−Class SL128、Galaxy又はQ−Classを使用するインクジェット印刷に適していることが見出された。優れた印刷速度、印刷品質がこれらの実施例に見られ;選択されるRMの品質は、噴射プロセスの間の粘度が25℃の初期粘度10cPから噴射条件下の6cPまで確実に低下するように調整された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットインクであって、
a)0.1〜10質量%の量の1種以上の液体又は溶解したずり流動化剤;
b)0.9〜30質量%の量の1種以上の着色剤;
c)40〜99質量%の量の水性キャリア
を含む、前記インクジェットインク。
【請求項2】
前記ずり流動化剤が、疎水性変性エトキシル化ウレタンコポリマー、疎水性変性エチレンオキシドウレタン、ポリメタクリレート、トリベヘニン−PEG−20エステル及びヒドロキシプロピルスターチホスフェートからなる群から選択される、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記着色剤が(i)不溶性顔料、昇華性染料及び分散染料からなる群から及び/又は(ii)溶解性反応性染料及び酸性染料からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記水性キャリアが、水に加えて湿潤剤、分散剤、殺生剤、界面活性剤、錯化剤及び更なる添加剤からなる群から選択される1種以上の薬剤を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
0s−1の剪断速度にて10〜100cPの粘度及び200〜400s−1の剪断速度にて5〜20cPの粘度を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記インクがインクジェットプリンタカートリッジ内に含有される、請求項1から5までのいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
少なくとも3種のブレンド可能なインクを含むインクセットであって、前記インクセット中の各インクが請求項1から6までのいずれか1項に記載のインクを含む、前記インクセット。
【請求項8】
前記ブレンド可能なインクが
a)イエローインク、シアンインク、マゼンタインク、任意にブラックインク、任意にホワイトインク;又は
b)イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)、オレンジ及びブルー;又は
c)CMYKオレンジ、レッド、ブルー、及びグリーンインク、又はCMYKオレンジ、ブルー、バイオレット及びグリーンインク
を含む、請求項7に記載のインクセット。
【請求項9】
a)印刷基材
b)前記基材の表面上に請求項1から5までのいずれか1項に記載の印刷インク
を含む印刷物。
【請求項10】
前記基材が、紙、厚紙、プラスチック、金属及びテキスタイルからなる群から選択される、請求項9に記載の印刷物。
【請求項11】
前記印刷インクが、文字、数字、又はシンボルの形で;又はコーティングとして印刷される、請求項9又は10に記載の印刷物。
【請求項12】
a)成分a)、b)及びc)を、例えば、高速分散機のミキサーを用いて混合する工程及び
b)こうして得られた生成物を圧力下で濾過する工程
を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載のインクの製造方法。
【請求項13】
工程b)が、こうして得られた生成物を圧力下で1μm未満、好ましくは0.5〜1μmの孔を有するフィルタで濾過する工程を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載のインクの製造方法。
【請求項14】
基材及び請求項1から5までのいずれか1項に記載のインクをインクジェットプリンタに提供し、前記インクを前記プリンタの使用によって前記基材上に印刷する工程を含む、請求項9から11までのいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項15】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のインク又は請求項7又は8に記載のインクセットのインクジェット印刷のための使用。
【請求項16】
疎水性変性エトキシル化ウレタンコポリマー、疎水性変性エチレンオキシドウレタン、ポリメタクリレート、トリベヘニン−PEG−20エステル及びヒドロキシプロピルスターチホスフェートからなる群から選択されるずり流動化剤をインクジェットインクに用いる使用。
【請求項17】
前記インクが、昇華性染料の群から選択される着色剤及び水性キャリアを含有するインクジェットインクである、請求項16に記載の使用。

【公表番号】特表2013−515826(P2013−515826A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546298(P2012−546298)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/CH2010/000327
【国際公開番号】WO2011/079402
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512171308)ソーグラス ユーロップ ソシエテ・アノニム (1)
【氏名又は名称原語表記】Sawgrass Europe SA
【住所又は居所原語表記】Gempenstrasse 6, CH−4133 Pratteln, Switzerland
【Fターム(参考)】